戦姫絶唱シンフォギア Evolution's Symphony   作:セグウェイノイズ

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初投稿です
毎週か隔週更新を目指して頑張ります

【2025/10追記】
全文書き直しました。上の文章は戒めとして残しています
流れは以前と変わっていませんが、細かい変更内容は活動報告に書いておきます


EPISODE00-1(25/11改稿)

 その異形の蹂躙に対し、人類に許されているのは“逃走”の二文字だけだ。

 

 市街地。

 所狭しとひしめく大小さまざまな建造物が、奇妙な調和を見せるコンクリートジャングル。

 忙しなく歩道を行き交う人々、道路を埋め尽くす車両群。木々がざわめき、鳥が飛び立つ。

 その光景は雑多、しかして普遍的だ。

 だがこの場において、その“普遍”は通用しない。

 

 立ち上がる黒煙。肌を焦がす爆炎。

 瓦礫と化した、かつて建造物だったもの。視界を覆う粉塵に、焦げた臭いが肺を刺す。

 逃げ惑う人々。つんざく悲鳴。

 そして、特異災害。

 

 人々が背を向けた方向に、突如“それ”は現れた。

 赤、青、緑。極彩色にその身を染めた、形容しがたい雑音(ノイズ)たち。

 それが通った後に生命の痕跡は存在しない。人間のみを襲い、触れたもの皆炭素へと変換する災害に対して、人類はあまりに無力というほかない。

 走る。ひたすら走る。人の身でノイズに抗う術など存在しない。敵う人間も、無論。

 

 逃げる男性の背に向かって伸びる触手。触れれば最後、死あるのみ。

 その速度は男性の足よりはるかに早く、あえなく触手は追いつき────直前、突き出された“槍”によって穿たれた。

 

 ノイズに敵う人間も、無論いない。

 彼女たちを除いては。

 

 戦場に響く音楽こそ、彼女たちが現れた合図だ。

 

 

 

「さぁって、と! それじゃあおっ始めようか、翼」

 

「うん。征こう奏」

 

 

 

 

 ノイズの行く手に立ち塞がるは、それぞれの得物を携えた二人の戦士。

 身の丈ほどの槍を担ぐ朱の鎧を纏った少女、【天羽奏(あもうかなで)】。

 両の手で長刀を構える青い鎧を纏った少女、【風鳴翼(かざなりつばさ)】。

 正眼の構えで太刀を握り、ノイズを見据えながら返す翼。その生真面目さに僅かに頬を緩ませ────瞬間、奏は踏み込む。

 

 

 

「一番槍、行くぞォッ!」

 

 

 

 槍を片手に疾走する奏。次々と襲い来るノイズの突進を躱し、飛び越し、槍で薙ぐ。一切の速度を落とさず懐まで接近するその姿は、さながら獲物を前にした獣だ。

 ノイズの本丸への接近。それはすなわち、四方から襲い来るノイズを対処しなければならないということ。

 鞘走りすぎたのか────否、そんなことはあり得ない。

 疾走の勢いのまま、奏は右手に握る槍を路面に叩きつけた。

 

 鳴り響く破砕音に捲れる地面。破片が飛び散り、衝撃にさらされた周囲のノイズは一斉に宙に投げ出される。

 その格好の隙を、風鳴翼が見逃すはずもなく。

 

 

 

━━━━━━━━━━蒼ノ一閃━━━━━━━━━━

 

 

 

 奏の頭上を蒼雷が迸る。進行上に浮かんだノイズの全てが胴体────らしき場所────を軸に両断され、瞬く間に崩壊を起こした。

 地面に半ば埋まった槍を引き抜いたと同時、奏の隣に翼が降り立つ。

 彼女が携えるのは大剣だ。太刀を大剣へと変形させ、蒼雷を帯びた斬撃を抜き放つ彼女の十八番、【蒼ノ一閃】。灰の山を残して、青い軌跡が直線上のノイズを斬り捨てていく。

 

 そこからの趨勢は、言うまでもなく圧倒的だった。

 豪快、それでいて精緻な奏の槍捌きと、精密ながら大胆な翼の剣術。一羽の鳥の如くお互いの隙を補完し織り成す連携攻撃は、ノイズを反撃の暇を与えることなく翻弄していく。

 

 

 

「おっと、大将のお出ましかッ!」

 

 

 

 そう吼え、奏は視線を上に向ける。

 他のノイズとは一線を画すその巨体。道路を破砕しながら爬行し蠢くその姿は、巨大な芋虫を彷彿とさせる。

 周囲に増援の気配はない、ならばあれが最後の一体。そう判断した奏は獰猛に笑い、助走もそこそこに地面を砕き跳躍する。

 

 

 

「あッ……奏ッ!?」

 

「無駄にでっかい図体しやがって! コイツでとっととくたばっちまいなッ!!」

 

 

 

 未だノイズはこちらを認識していない。その一瞬が命取りだ。頭上に掲げた槍、その穂先が激しく回転し始める。

 強風、猛風、そして暴風。巻き取った風は竜巻へと成長し、奏は槍を荒れ狂う風ごと一気呵成に振り下ろした。

 

 

 

━━━━━━━━LAST∞METEOR━━━━━━━━

 

 

 

 地面に叩きつけられた竜巻は、地面を抉りながらノイズに向かって猛進する。

 激突。【LAST∞METEOR】はその巨体を持ち上げ、空中へと押し上げていく。竜巻はやがてノイズを貫通し────それでも槍は唸りを止めない。

 

 不意にノイズの姿が膨れ上がった。

 回転数がさらに上がり、より多くの風を取り込んだ竜巻は、当然勢力を増す。ならば、開けた風穴だけで収まらないのもまた道理だ。

 大気を引き裂く破裂音と共に巨体が灰燼へと還るまで、そう時間がかかるものではなかった。

 

 

 

「一丁上がりだ!」

 

「もう……奏ったら」

 

 

 

 雲一つない晴天の下、ビルの屋上で胸を張り快哉を叫ぶ奏。

 そんな彼女の姿を、髪につく灰を払いながら翼は見上げる。

 

 “ツヴァイウィング”の任務────今回も無事、完了だ。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ノイズによる人的被害は最小限に抑えられた。よくやったな、二人とも」

 

「ああ! 次も任せてくれ」

 

 

 

 無数の情報機器に囲まれた空間で、会話を交わす少女二人に大男。

 ここはノイズから人類を守護する最後の砦、【特異災害対策機動部二課】本部、その司令室だ。高低差のある近未来的な室内では、多数の職員たちが仮想キーボードを叩いている。

 そんな司令室の中心に設けられた談話スペースに、彼女たちは向かい合って座っていた。

 

 少女たち────天羽奏と風鳴翼に対面する者が一人。

 袖をまくったワインレッドのシャツから垣間見える、巌の如き屈強な肉体。燃え上がるような赤髪を湛えた彼こそが、組織を纏め上げる二課司令官である【風鳴弦十郎(かざなりげんじゅうろう)】だ。

 数時間前に発生した戦闘の報告を受け、磊落な笑みを浮かべる弦十郎。親指を立てた手を突き出し、自身ありげに返す奏だったが、隣に座る翼の表情は硬かった。

 

 

 

「しかし、ゼロという訳にはいきませんでした。……防人として口惜しい限りです」

 

「うむ。その点については我々も同意見だ。相手は“災害”、後手に回らざるを得ない以上、如何ともし難い所だが……」

 

「ちょっと! もう反省会?」

 

「了子くん」

 

 

 

 翼だけでなく、弦十郎も腕を組み表情を硬くし始める。

 先ほどまでの朗らかな空気とは一転、急転直下に暗くなり始めた場に奏は頭を掻き口を開こうとしたとき、軽快なヒールの音が全員の視線を横へ集めた。

 現れた女性、【櫻井了子(さくらいりょうこ)】────白衣と眼鏡がトレードマーク、できる女と評判だ────が、二人を隔てるテーブルの上に積み上げられたファイルを置いた。大きな音を立たせながらの登場に、一瞬で硬質な空気が霧散する。

 

 

 

「んもう、せっかくいい流れだったんだから! そういうのは後にしましょ、後に」

 

「そうだぞ二人とも。ノイズ共は皆殺(みなごろ)せたんだ、大事なのは忘れないこと……だろ? ダンナ」

 

「奏……」

 

「お前にそう言われてしまってはこちらの立つ瀬がないな。だが、お言葉に甘えて次に進ませてもらうとしようか」

 

 

 

 奏も了子に便乗し追撃をしかける。

 その甲斐あってか、弦十郎も口角を上げ、翼も幾ばくかマシな顔になったようだ。目線で謝意を伝える弦十郎に奏もまた笑みで返す。

 我ながらいいチームだと思う。奏はソファに座り直し、弦十郎の言葉を待つ。

 空気はすでに、いつもの二課へと戻っていた。

 

 

 

「さて……。目下の議題は【Project:N】の進捗状況についてだ。了子くん、報告を頼む」

 

「全く問題ナッシング! 現状のペースだと、設備全体のメンテナンスを何回かしてもお釣りがくるレベルよ。二人の歌に満員の観客の力が合わさったなら、実験の成功はガッチガチってとこかしら?」

 

「だったら後は、あたしたちがみんなを盛り上げられるかどうかってことか。臨むところじゃないか!」

 

「ツヴァイウィングの名に懸けて、務めは必ず果たして見せます」

 

「フッ、頼もしいな」

 

「相変わらず翼ちゃんはマジメねえ」

 

 

 

 天羽奏と風鳴翼によるアーティストユニット、【ツヴァイウィング】による大規模なライブが迫っている。

そのライブの裏で実施される実験が“Project:N”だ。

 その結果によって人類の未来が左右するといっても過言ではない。準備は入念すぎるほど良いと言うが、現状作業は順調に進んでいるようだ。

 

 ライブの盛り上がりが実験の結果に直結する。

 奏は拳を手のひらに打ち付け、翼は正面を見据え任務遂行を宣言する。

 そんな翼の様子が可笑しいのか、了子は笑いながらファイルの山から一冊を抜き出し、ページを開き翼の元まで滑らせた。

 

 

 

「二人の適合係数もどんどん上がってってるんだから、そう心配することじゃないわ」

 

「あたしもかッ!? ホントかよ了子さん!」

 

「ホントもホント! ちゃーんと上がってるわよ~? はいこれエビデンス」

 

「おおッ、なんか数字が上がってる!」

 

「でしょ~?」

 

 

 

 奏と了子のやりとりもそこそこに、ブリーフィングが再開する。

 

 

 

「……で、次はライブ当日の流れかしら。……って、もうこんな時間じゃない!」

 

 

 

 再開してしばらく後、ちらりと見た腕時計に驚く了子。

 モニターに表示される時刻を見ると、液晶には大きく“0:50”の表示が。気づけば随分と長い間本部で過ごしていたらしい。

 よりによって明日────すでに今日だが────は平日、つまり登校日。重い気分が奏を襲う。

 

 

 

「事後処理の後で開始が遅かったからな。急ぐ話でもない、続きは次回に持ち越すとしようか」

 

「こういう日って大体寝坊するんだよなぁ。そん時は頼むよ翼!」

 

「……えっ? ああ、うん。いつもの事だしね」

 

「いつもって、そんな毎日でもないだろ。……そうだよな?」

 

「どうして自信なさげなの?」

 

 

 

 どこか上の空な翼だが、一つ咳払いをするといつもの調子に戻っていた。

 そんな様子を奏に見つめられつつ、翼は弦十郎に尋ねる。

 

 

 

「それより、お二人はまだこちらに?」

 

「ええ。上への説明とか、安全性の証明とか? ま、いろいろ打ち合わせをね」

 

「お役所仕事との小難しいあれこれは俺たち大人の仕事だ。これくらいは恰好つけさせて貰わんと示しがつかんからな」

 

「はえー……さっすが弦十郎のダンナ。痺れるねぇ」

 

 

 

 普段こそムードメーカーといった雰囲気の了子に、豪放磊落を体現したような弦十郎。

 だがその実、彼らが細やかな心配りを怠っていないことを奏は知っている。

 

 

 

(……ホント、流石だよ)

 

 

 

 彼ら銃後の面々が憂いを取り払ってくれるからこそ、前線に立つ彼女たちは迷わず突き進めるのだ。

 まさに質実剛健。“大人”というのは彼らのような人間のことを言うのだろうと、奏は軽口を叩きつつ実感させられる。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「にしても、すっごい力の入り用だよな。実験施設の真上に新しくライブ会場まで作っちまうんだから」

 

 

 

 直線状の通路内で、帰路に着きながらとりとめのない会話を続ける奏と翼。

 しかし職業病というべきか、いつしか話題は単独ライブ、ひいてはそれに付随する実験計画に移っていた。

 手を頭の後ろで組みながら奏が話題を振ると、翼はちらりとこちらを一瞥してから静かに口を開いた。

 

 

 

「それだけ銃後の方々も期待してくれてるんだから、猶更失敗なんてできない。奏、頑張ろうね」

 

「ああ。歌も槍も万全に仕上げとかないと」

 

「…………」

 

 

 

 無言で頷き、会話が途切れる。

 それくらいで気まずくなるほど浅い縁ではない二人だが、今回はどうも様子が違うようだ。平静を装っている風の翼、しかしわずかに制服の袖を握りこんでいる。

 それを見逃す奏ではなかった。

 

 

 

「あいったぁっ!?」

 

 

 

 ばんッ! と音が鳴る。

 背中を叩かれる、突如そんな蛮行を受けた翼は大声を上げ歩みを止めた。直後下手人に詰め寄り壁まで追い詰めるが、まあ当然の行動だろう。

 ずいと顔を近づけながら、眉を吊り上げ怒りを表現する彼女に、奏は小さな目論見の成功を確信する。

 

 

 

「ちょっと奏、急に何するのよッ!?」

 

「いやあ、うちの相棒があんまり固くなってるもんだからさ。ついね」

 

「つい、って……」

 

 

 

 明らかに不満そうだ。だが思う所があったのか勢いが弱まる。

 その隙に壁際からするりと抜け出した奏は翼の両肩に手を置き、距離を詰めてもたれかかった。

 

 

 

「気合い入れるのはいいけどさ、固くなっちまったら逆効果だっていつも言ってるじゃないか。

 歌女としての仕事は楽しく! って、約束しただろ?」

 

 

 

 僅かに身じろぎしていた翼だが、とうとう動きが止まった。

 “効いた”ことを確認した奏は、翼から離れ笑いかける。だが、当の彼女は目を細め腕を組みながらこちらを見つめていた。

 あれ?

 丸く収まる流れではなかったか……目算が外れ、思わず首を傾げる。

 そんな様子に翼はため息を一つ吐き、

 

 

 

「だからって、背中を叩くのはやりすぎ」

 

「悪かったよ。まあ、いい気つけにはなっただろ?」

 

「もう……」

 

 

 

 額を手で押さえ、また息を吐く翼。だが、その表情が緩んでいるのは気のせいではないだろう。

 

 

 

「でもありがとう、ちょっと気分が軽くなったかも」

 

「うん、やっぱ翼はそっちの顔の方が似合ってるよ」

 

 

 

 口角をわずかに上げ、こちらに微笑してみせる彼女にやはり問題なかったと満足する。

 物のついでだ、もう少し可愛がってもいいだろうと、奏は翼の頭に手を置いた。

 

 

 

「可愛い奴だなホントに!」

「わっ……!?」

 

 

 

 そのままわしゃわしゃと髪をかき乱してみせると、また翼の眉が吊り上がった。

 青筋立てて大声を上げる翼から逃れるため、奏は速度を上げて走り出す。

 追いかける翼の様子はすっかり元に戻っていた。

 

 これが二人の日常。戦士たちの束の間の休息。

 この先もずっと続いていくのだろう。

 

 

 

 ────そう思っていた。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 太陽が空の真上に位置し、地面全体を照り付ける真昼間。

 運よく翼が起こしに来る前に起きられたので、ツイていると上機嫌な午前を過ごせた。放課後の予定は昨日の続きでブリーフィングがあるだけだ。

 購買で買ったパンを袋に下げ、軽い足取りで屋上へと向かっていたその時、背後から声が届けられた。

 

 

 

「あ、あのッ!」

 

「ん?」

 

 

 

 振り向いた先に立っていたのは、制服を着た一人の少女だった。

 見覚えはない。だが制服のデザインを見る限り、うちの学校の中等部……だろうか? 膝に手を置き、息も絶え絶えという様子で肩を上下させる少女には、正体への疑問より心配が勝ってしまう。

 やがて息を整えた少女は、奏との距離を詰めはきはきと話しだした。

 

 

 

「天羽奏先輩、ですよね!? わたしずっと、ツヴァイウィングの大ファンなんですッ!」

 

「へーっ、あたしらの? 嬉しいこと言ってくれるねえ!」

 

「わたし、中等部の【石動美空(いするぎみそら)】っていいます」

 

 

 

 自己紹介も間もなく、美空と自らを名乗った少女は忙しない動きで鞄に手を突っ込んだ。

 ごそごそと鞄の中身をかき回している美空。やがて目当ての物を見つけると、それを引っ張り出して奏に突き出してきた。

 小さな小包だ。オレンジ色の袋に青色のリボンが結ばれている。袋の端に貼られた謎の────泣き顔のウサギが描かれている────ステッカーが目を引く。

 

 

 

「その、これ! 受け取ってくださいッ!」

 

「これ、って……もしかしてプレゼントか?」

 

「はいッ! 翼さんと一緒に開けてくださいね! 絶対ですよッ!」

 

「お、おう……って、足速っ!?」

 

「失礼しましたーッ!」

 

 

 

 探していたのは自分たちへのプレゼントだったようだ。

 確かに受け取り、一言感謝を告げようとし顔を上げると、見えたのは走り去る彼女の背中。みるみる小さくなっていく彼女に一瞬呆気にとられるも、奏は大きく手を振り美空を見送った。

 

 

 

「プレゼントありがとな! またライブにも来てくれよーッ!」

 

 

 

 きゃーッ、と黄色い悲鳴が廊下に反響して間もなく、彼女の姿は見えなくなった。

 変わっているが、いいヤツなのだろう。ツヴァイウィングのイメージカラーを象った小包を右手に、美空を見送りながら奏はそう思った。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 嵐のように現れた美空を見送った後、翼と合流し本部へと向かう。

 高校2年生の奏に対し、翼は中学3年生だ。通う学校こそ同じだが中等部、高等部と分かれている以上、日中合流する時間は少ない。

 故に、半日ぶりに奏を見た翼が不審がるのも不思議なことではなかった。

 

 

 

「どうしたの奏、なんだかそわそわしてるけど」

 

「いやァ、実はさ……」

 

 

 

 と、日中起きた出来事を話す奏。

 

 

 

「……で、今緒川さんに預けてる。決まりだし、一応さ」

 

「ふーん。それで、早く開けたくて気が気じゃないってこと?」

 

「だってそうだろ? 後輩からもらったプレゼントだし、あんなこと言ってたし……あーッ、気になる!」

 

 

 

 頭を抱え天井を仰ぐ奏を見て、翼は苦笑している。

 その後、美空から手渡されたプレゼントはツヴァイウィングのマネージャーである【緒川慎次(おがわしんじ)】に預けた。プレゼントは彼が一度確認してから二人の元に届けられるという決まりになっているのだ。

 まあ、道理は理解できる。万が一危険物が入っていた場合が考えられる以上仕方のないことだろう。

 

 だが、気になる。気になって仕方ない。

 いつもこうなのだ。学校の友人からのプレゼントも慎次による確認を挟まなければいけない以上、その場で開けたくても開けられない。こういう時、奏はいつも生殺しの状態に陥っている。

 珍しく翼も興味を示しているようで、プレゼントについての話題が続く。

 

 

 

「でもちょっと興味あるかも。二人揃ってから、って言ってたんだよね?」

 

「そうなんだよ────」

 

 

 

 続きかけた────その瞬間。

 耳をつんざく警報音が、赤く染まった照明を伴い二人の耳朶を叩きつけた。

 毛が逆立つ感覚に襲われ、顔を見合わせる。

 警報。つまり非常事態。

 

 

 

「奏ッ!」

 

「ああッ!」

 

 

 

 すなわち、戦いの合図。

 日常が終わりを告げ、思考を戦士のそれへと切り替えた二人は言葉短く、赤光が伸ばす影を踏みしめながら司令室へ駆け出した。

 

 

 

「悪い待たせたッ!」

 

「状況を教えてくださいッ」

 

 

 

 開口一番、司令室に滑り込むなり鋭く叫ぶ奏と翼。

 すでに警報は収まり、本部は白光を取り戻していた。だがその雰囲気は硬く鋭い。下層では了子が何やら指示を飛ばしており、到着した情報を忙しなく、しかし体系立てて中央に構える弦十郎へ届けている。

 

 

 

「第5地区、森林区域にてノイズ発生! 現在一課が近隣住民への避難誘導、並びにノイズへの攻撃を開始していますッ!」

 

「よし。聞こえていたなお前達!」

 

 

 

 二人に呼応したオペレーターから、簡潔に状況の説明を受ける。

 直後声を上げた弦十郎に、自然と背筋が伸びる奏。振り返りこちらに身体を向ける弦十郎、その双眸には一切の迷いがなかった。

 

 

 

「出撃だッ! 現着後、速やかにノイズの殲滅! 一課並びに民間人の救助も怠るなッ!」

 

「「了解ッ!」」

 

 

 

 任務開始だ。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 冬の陽が落ちるのは早い。

 出撃からそう経過していないにも関わらず、すでに夜空が飛行するヘリを包んでいた。

 真下に広がるのは漆黒の森林。野生の小動物程度しか存在しない、静寂が広がる広大な緑地だ────平時であれば、という枕がつくが。

 

 

 

「ノイズ共ッ……!」

 

 

 

 黒い森林に、まだらのように広がる赤。立ち上る焦熱がここまで伝わってくるのを錯覚する。そして炎に紛れて蠢動する、ただの山火事には似つかわしくない極彩色の光。

 その正体を奏が知らぬはずもない。

 

 倒すべき、憎むべき“敵”に猛る心。しかし吹き込む風の冷たさと、足から伝わる激しい振動。そして隣に並び立つ片翼の存在が平静を保たせてくれる。

 照り返す炎に目を細め、開いた扉から眼下の光景を網膜と記憶に焼き付けながら、奏は弦十郎の言葉を待つ。

 

 

 

〈一課による避難誘導、並びに退却は完了したとの報せだッ! 再三だが、救助と殲滅の優先順位を間違えるなよ!〉

 

「分かってるって! 昔のあたしとは違うってとこ、嫌ってほど見せてやるよッ」

 

「降下ポイントに到着しました」

 

〈バイタル、適合係数共に問題なし。それじゃあ二人とも! ツヴァイウィングの歌声────しっかり聴かせてやりなさい!〉

 

「応ッ!」

 

 

 

 叫ぶと同時、奏は迷わず前へ、宙へとその身を投げ出した。

 吹き付ける風が全身を叩く。爆風がすべての音に覆い被さり、次第に炎熱を帯びてくる。

 

 地面が近づく。この高度からの自由落下、即死は免れないだろう。

  そんな自ら引き起こした命の危機を前にして、奏は静かに目を閉じる。

 風が、炎が、全ての音が遠ざかる。

 

 訪れる完全なる静寂。

 その真っ只中で、奏は首にかけた水晶のペンダント。それを握り締め────歌った。

 

 

 

「Croitzal ronzell gungnir zizzl」

 

 

 

 それはただ一節の歌。

 瞬間────戦場に流れ出した音楽が、戦場の全てを塗り潰す。

 

 

 

「きっとッ! どこまでも行ける、見えない翼に気付けばッ」

 

 

 

 閃光一瞬。奏は“戦士”の鎧を、【シンフォギア】を纏っていた。

 腕部の武装を分離、合体。顕現した愛用の大槍は、歌のボルテージが上がるにつれて燐光を帯びていく。

 ピカピカとよく光る的だ。奏は携えた得物を逆手に持ち替え、ノイズに向かって引き絞る。

 引いて、引いて、引いて────今。

 

 

 

「止まらずに━━━━Sing out with usッ!!」

 

 

 

 全身を躍動させ、絞った槍を解き放つ。

 大気を穿ちながら突き進む槍は、まさしく一条の流星。地面に刺されば周囲のノイズなどたやすく消し飛ばせるだろう。

 それが”一条でなかった”としたら、戦況が一気に傾くのは必定だ。

 

 

 

━━━━━━━STARDUST∞FOTON━━━━━━━

 

 

 

 分裂した無数の槍が、星屑のように煌めき降り注ぐ。

 ノイズが集まっている開けた場所に範囲を絞り、撃ち出された【STARDUST∞FOTON】はその思惑通り、無策にも屯していたノイズを尽く穿ち抜いた。

 

 

 

「……っと、こんなもんか」

 

〈敵性反応全て消失。お疲れ様でした〉

 

 

 

 盛大に開戦の狼煙を上げてから数分。

 元より徒党という概念を持たないノイズ。勝ち目が皆無であるというのに、本能のまま奏と翼、人間に襲い掛かってきた。とはいえ残党、二人の敵ではない。

 STARDUST∞FOTONが起こした轟音の残響が消え失せないうちに、視界に映るノイズを殲滅せしめた。

 

 未だ炎は燃え広がっている。戦闘の余波でわずかに勢いを弱めたものの、それも時間の問題だろう。

 間もなく消防が到着する手はずとなっている。あとはヘリに乗り込み、本部に向かうだけだ。周囲を炎で囲まれないうちに離脱するべく、奏と翼は歩き始めた。

 

 

 

〈ご苦労だった二人共。ランデブーポイントに向かい、撤収して────〉

 

「……司令?」

 

 

 

 弦十郎の労いの言葉。退却するよう指示を受ける、その最中。

 一瞬の雑音。

 それを最後に通信が途絶。周囲の木々が爆ぜる小さな音も聞き取れてしまうほど、いつしか辺りは静まり返っていた。

 

 通信の不具合とは珍しいこともあったものだと、翼と顔を見合わせる。あまりの静寂に、どこかから見られているような感覚にすら陥り、「怖い怖い」と冗談めかして身震いしてみせる奏。

 とはいえランデブーポイントは頭に入っているのだ、地点へ赴けば問題なく帰投できるだろう。

 

 

 

「通信が切れるなんて、珍しいことも……」

 

 

 

 そんな楽観的な想定は、二人の耳に届いた異音が容易く葬り去った。

 パン、と響く乾いた音。一拍、二拍。断続的に鳴らされるその音は拍手であると、直観的に理解できた。

 舞台役者を讃えるように続くそれ。その異常を受け、奏の裡で警鐘が鳴らされる。

 

 

 

「────そこかッ!!」

 

 

 

 耳を澄ますこと数秒、身体を捻り、真後ろの茂みに向かって槍を投擲。

 地面を破砕しながら突き刺さった大槍、それを機に拍手が止み、再び森に静寂が戻る。

 

 

 

 

 

『怖いねェ! そんなに警戒しなくたっていいだろ?』

 

 

 

 

 

 が、それも一瞬。

 代わりに発せられたのは男の声。二人の視線は、茂みの奥から滲む”何か”に射止められていた。

 

 

 

『俺はただ、お前たちの歌声に感動してただけなんだがね』

 

 

 

 滲んできたのは、赤。

 炎ではない。血のように赤く、そして黒い何かが気だるげに歩いてくる。

 

 燃える森の中、奏は、翼は、ツヴァイウィングは────嗤う蛇に遭遇した。




二回目の戦闘シーンの辺りで力尽きました
また今度書き直したい

【追記】
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