戦姫絶唱シンフォギア Evolution's Symphony 作:セグウェイノイズ
おもしろかったです
今回から2期編が始まりますが、スタークがやられる以外で一番焦る章になります。
それ以外はあまり変化がないので、フィーネ回にしようと思います
あとライブシーンがクッソ雑です(唐突)
あの日の出来事は、まるで昨日のことのように思い出せる。
「俺と万丈は────最高のコンビなんだよ!!」
「さあ……実験を始めようか」
「「勝利の法則は決まった!」」
【Ready Go! ボルテックアタック!!】
【Ready Go! フィーバーフロー!!】
「この俺が滅びるだとォッ!? そんなことがあってたまるか! 人間どもがあああああああッ!!」
一瞬の硬直が命取りだったってのは惜しい話だ。まさか万丈の奴があそこまで抵抗するなんて、普通じゃ考えつかねえだろ?
まあ、結局それで
だが、それには続きがある。そうでなきゃ今ここに居ないからな。
本来なら細胞一つ残さず消滅し、存在に必要なエネルギー全てを新世界創造に使われることになっていたんだろう。
事実、あの時空の狭間で俺は消滅を待つのみとなっていた。直前で液状化しようとしても上手くいかなかったんで、わざわざグリスの技で凍結した遺伝子を回収した俺の判断を呪ったのも、今じゃ笑い話だ。
人間の感情が芽生えてからはどこか頭の片隅で”人間たちに負けるかも知れない”なんて思ってたのも事実。だが、そこで諦める訳にもいかない。
最後の力を振り絞り、俺はその場からの離脱を試みた。
【Ready Go! ブラックホールブレイク!】
エボルトリガーの力をもってすれば、存在が不安定な時空の狭間なんてものをブラックホールで呑み込むことは容易い。
そう考えてブラックホールを生成したんだが……。
「何だとォッ!?」
イカした音声とは裏腹に、何度レバーを回してもブラックホールは生成されなかった。
パンドラタワーでの戦いで、ローグ────氷室幻徳は死に際にハザードレベルが人間の限界値を超えていた。奴の攻撃でトリガーだけでなくドライバーまで大破していたんだろう、ってのが俺の見解だ。
当然、当時はそんなこと考えもしなかったけどな。
何度もレバーを回している内にドライバーから火花が散り、トリガーもろとも石化を始めた。
正直、あの時は終わったと思ったよ。
「馬鹿なぁぁぁッ!? 滅んでたまるかァァァァァァ」
直後、視界が黒く塗りつぶされると共に俺は消滅した。
"あの世界"じゃ、な。
捨てる神あれば拾う神あり。どうやら、神は俺を見放さなかったようだ。
「アァァァァァァァァッ…………ん?」
目が覚めたらどこかの遺跡のような場所にいた。新世界かとも思ったが、俺が知っている地球にこんな遺跡はない。
強いて言うなら、パンドラタワー頂上のモニュメントにどこか似ている気がする程度だった。
近くに落ちていたエボルドライバーとトリガーの様子を確かめると、見事に大破。いや、正確にはまたいつかのように石化していやがった。
まったくやってられなくなる。
幸いだったのは、その場に戦兎の奴が新世界創造に使った《パンドラボックス》もあったことだ。あれはブラッド星の宝だから、そう簡単に消滅するほどヤワじゃない。
その中にトランスチームガンやら何やら、色々入れっぱなしにしてたままだったんで、変身ができなくなった訳じゃなかったのも僥倖だ。まあ、ボトル一本持ってなかったんだが。
……と、こんな風に俺の異世界生活がスタートした。
まあその間に、アヌンナキとかいう神同士の戦いを偶然目撃して震えたり、再びパンドラタワーを建てようと思ったら妙な格好をした爺さんに封印されたりと散々だったが、それはまた別の話だ。
◆◆◆
「これで移送任務は完了となります。ご苦労様でした」
「ありがとうございます」
無事に────とはいかなかったが、これで任務は完了した。
今響たちがいるのは山口県、岩国の航空基地。米軍所有のこの基地までソロモンの杖を護送することが、今回の任務内容だった。
ソロモンの杖が収められたケースを軍官に手渡すあおい。一通りの挨拶を済ませた後、手を叩きながらこちらに近づいてくる人影が一つある。白衣の男、ウェル博士だ。
「確かめさせて頂きましたよ。皆さんが、”ルナアタックの英雄”と呼ばれる事が伊達ではないとね」
「英雄ッ!? わたしたちが!?」
思わず声が上ずってしまう。
響にしてみれは、月の欠片を迎え撃ったのは”為すべきことを為した”程度の認識だ。ただ未来や惣一たちを守護るために突貫したのだが、結果的にそれが多くの命を救うこととなった。
時折委細を知る職員たちに礼を言われることもあったが、こうして外部の人間に真っ向から”英雄”などと言われたのは初めての経験だ。
「いやあ~普段あまり褒められたことがないので、もっと遠慮なく誉めてください! むしろ褒めちぎってくだ……」
「このバカ! そういう所が誉められないんだよ!」
途中でクリスに叩かれた。そろそろ脳細胞が全滅した頃だと思う。
傍から見れば漫才にしか見えないのか、ウェルはそれをみて穏やかに笑っている。米国政府で多くの功績を上げてきた生化学者である彼だが、礼儀正しい上にこれをユーモアのある芸だと思っているらしい。
非常にとっつきやすい人物だがこれは漫才ではない。
「世界がこんな状況だからこそ、人類は英雄を求めている。そう────」
────誰からも信仰される、偉大なる英雄の姿をッ!!
天を仰ぎ、叫ぶ。
その顔はこの位置からでは計り知ることができないが、眼鏡のレンズが太陽光を反射してとても眩しい。溢れる知性の表れなのだろうか。
まさかそこまで褒め称えられるとは思わず、びっくりするほど有頂天な響。「それほどでも」などと言いつつも口角が上がるのを我慢できない。
クリスを見る。流石の彼女でも、これほど褒められれば赤面の一つや二つしているだろうと思っての行動だ。
「…………」
「? どうしたのクリスちゃん?」
予想と反して、無反応だった。しかしいつもより表情が険しく見える。
双眸は真っすぐウェルに向けられているが、響でも分かる。その瞳に浮かんでいるのは”困惑”の二文字。
まるで信じられないものを見たような。
「……なあ。アンタ、前にどっかで会った事ないか?」
「えっ、クリスちゃんとウェル博士って知り合いだったのッ!?」
思わぬ交友関係に目を丸くする。やはり惣一が以前言っていたように、なかなかどうして世界というのは狭かった。
対面から任務が完了するまでいくらか時間はあったはずだが、ここに来て気付くということはそれほど親しい仲ではなかったのかもしれない。
「さて、私は初対面のつもりだったのですが……。もしどこかでお会いしたことがあったのなら、申し訳ありません」
「……いや、あたしもそんな気がしただけだ。悪いな」
若干不自然な所はあったものの、クリスの勘違いだったということでこの話は終結した。
「皆さんが送り届けて下さったこの完全聖遺物は、必ず役立てて見せますよ」
「ふつつかなソロモンの杖ですが、よろしくお願いします!」
「頼んだからな」
一礼した後、ウェルに見送られながら基地を後にする。
任務は終了、後は自由時間だ。そして今日はここにはいないもう一人の仲間の
「無事に任務も完了だ! そしたら……」
「翼さんのライブ直行!」
早速駅に向かって走り出す二人。
現時刻は午後1時、そして翼のライブの開演は午後7時から。急いで向かえば、なんとか間に合う距離のはずだ。
と、突然あおいに引き止められる。ウェルと別れてから弦十郎に報告をしていた彼女だが、なにか火急の用でもあるのだろうか。
事が終わればすぐに駆け出せるように足踏みしながら用件を聞く響。
しかしあおいの表情は柔らかい。急を要するものではないのかと思うも、万が一ということもある。
「どうしたんですかッ!?」
「二人が頑張ってくれたから、司令が東京までヘリを出してくれるみたいよ」
「マジっすか!?」
最高だ。ヘリなら余裕を持って会場へ向かうことができる。
クリスも拳を手に当て笑っている。相当嬉しいのだろう。
そうと決まれば早速、と合流地点の場所を尋ねる響だったが、
「……マジっすかああ!?」
「マジだな!」
直後、耳をつんざくほどの轟音に襲われる。
その音は戦場にて幾度となく聞いたことのある、何かが爆ぜる音、つまり爆発。
炎上する岩国基地。何より目を引いたのが、基地の前に現れた
なんと間が悪いことか。
しかしこのままでは基地内にいる人間が死亡してしまうと、考えるより先に身体が動く二人。
例え連戦であっても、臆する訳にはいかない。無事な人々はなんとしても
◆◆◆
時刻はソロモンの杖を乗せた列車が岩国基地に着いて間もない頃まで遡る。
午前11時、ライブ会場にて。
ふと、ポケットから振動を感じる。
とうとう時は満ちたのだと確信し通話を始める女性、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。
耳に当てた途端に相手は会話を始めた。
『こちらの準備は完了。サクリストSが到着し次第、始められる手筈です』
「ぐずぐずしている時間はない訳ね」
目下のライブ会場を見つめる。
これから、マリアが敵に回す者たちのことを考える。各国政府か、もしくは世界か。
それでも目的遂行のため、世界救済のため、止まれない。
立ち上がって胸を張る。これは正しい行いなのだ。例え、この身を嘘の鎧で覆っていたとしても。
「OKマム────世界最後のステージの幕を上げましょう」
決して狼狽えない。それを証明すべく、彼女は戦場に向かう。
無論、血飛沫
ならば彼女にとって今一番重要な戦場とはどこなのか。両手の得物、
「ケータリングッ!!」
剣のように構えた菜箸を巧みに操り、大皿に盛りつけられた料理を回収していく。もちろん周囲の目も気にして。
今回のライブの運営会社がケータリングサービスを招致していると知ったときには内心舞い上がったマリア。ナスターシャの事務仕事を手伝っている彼女は知っている。我々の組織は明らかに火の車ということを。
なにせ調や切歌にとっての普通の食事が、ひどい時にはもやし炒めで「おいしい」「おいしいデス」と心から喜んでいたほど。見ているこちらが泣きそうになってくる光景だった。
そのため米国でもライブ会場には必ずケータリングサービスを頼ませていた。持ち帰った料理を二人の前に置くと、ぽろぽろと涙を零しながらマリアに手を合わせながら「神様仏様マリア様」などと言ってきた時には本気で危機感を覚えたものだ。
「────さあ、始めましょうか。勝ちへの定石は見えているッ!」
だから今回もマリアは本気だ。戦闘訓練での槍さばきの応用で、目にも止まらぬ速度でタッパーに料理を詰めていく。汁が混じらないように小分けの仕切りを付けているのが自慢である。
育ち盛りの調と切歌には美味しい料理というお土産を持って帰らなければならないし、特に線の細い調にはもっとタンパク質などの栄養をとらさなければならない。もやし以外の野菜を食べたがらない切歌のためにも酢豚のような肉と食べられるような料理を持って帰らなければならないし、ナスターシャは病床に伏しているというのに食事となると肉しか食べないため肉料理は少し多めに取らなければならない。時たま食事に参加するウェルは自身が持ってきた料理には手を付けず、極彩色のグミとレーションしか口にしない。今回から行動を共にするというのだから彼用の食事も持って帰らなければならないし……。
「……ハッ!?」
気付けば30分が経過していた。
流れる汗を拭いながらようやく自分の分の料理を取る。少し多い気がするが、料理が豪華な方が力が湧いてくる。
これから始まる人類救済のための計画への決起のために少しでも多くとタッパーに入れていると、あっという間に6箱満タンになってしまった。もう少し詰め込みたいところだったが。
マリア・カデンツァヴナ・イヴ、21歳。アイドルをやっていてよかったと感じた瞬間であった。
◆◆◆
『はい、すでに事態は収拾。ですが、行方不明者の中にウェル博士の名前があります。
そしてソロモンの杖も、また』
「そうか……。分かった。急ぎこちらに帰投してくれ」
『分かりました』
通信を終える。
先の護送中に起きたノイズ襲撃事件。ソロモンの杖がこちらの手の中にある以上、”災害”であるノイズを意図的に召喚・制御することなど不可能だとは考えているが、明らかにその動きは何者かの指示によるものだった。
「今回の襲撃……やはり何者かの手引きによるものなんでしょうか」
「……。君はどう思う?」
中央のモニターに向かって話しかける弦十郎。
間を置かずモニターから返答の音声が再生される。
『さあ? 私には関係のない事ね』
「まだ機嫌直ってないんですか? いい大人なんだから……」
『あらぁ? 何か言ったかしら、藤尭君?』
「ヒィッ!? いきなり声変えるのやめてくださいよ!?」
声の主はフィーネ。かつては敵対していたが紆余曲折あり、今は二課に身を置き日夜ノイズの危機に立ち向かっている女性だ。
本人のやる気がゼロに等しいのが玉に瑕なのだが。
例の歓迎パーティー以来彼女はほとんど姿を見せない。
ノイズの出現頻度の分析など了子に扮していた頃からやらなければならなかった業務に関しては、彼女のプライドが許さないのか、必ず完璧以上に済ませてくれている。
それでもかつての────彼女が元いた先史文明期について、そして特に詳しく聞きたい動機については何一つ口を開こうとしない。
する気などないが、仮に拷問紛いの尋問をしたところでそれは変わらないだろう。
だから、その時が来るまで彼は待つことにした。
「ソロモンの杖以外にノイズを召喚できるような聖遺物に覚えはないか?」
『関係ないと言ったばかりだけれど……まあいいわ。少なくとも私の知る限り、そのような聖遺物は確認されていない。
もしそんなものがあれば、わざわざサムと対等な取引なぞしなかった』
「そうか……」
小さくため息を吐きながらも、つまらなそうではあるが答えてくれた。
その証言が真実なら、フィーネですら知り得ない新たな聖遺物が存在することになる。
あるいは、とモニターに映ったウェルの抱えているソロモンの杖を一瞥。それ以降はライブ会場にて待機している慎次にノイズ襲撃の件を報告すべく、視線を戻した。
◆◆◆
『…………』
弦十郎は通話は切られたと思っているようだが、実際はまだ切ってはいない。
切ろうとした直前、視線がある一点で止まったというのが正しい。
恐らくモニターに映るソロモンの杖を見つめているのだろう弦十郎。しかしフィーネの視線はそこにはない。
杖を抱える銀髪の男性。薄っぺらい笑みを浮かべる顔を彼女は知っている。
男性────ウェル博士をしばし見つめるフィーネ。弦十郎たちに報告しようとスピーカーの音量を上げかけるも、これは自分には関係のないこと。
つい今しがた自らがそう言ったではないかと思い出し、通話を切った。
◆◆◆
風鳴翼とマリア・カデンツァヴナ・イヴが開催し、世界各地でも中継されている《QUEEN OF MUSIC》。
メインイベントである二人の共演の前に、各自が数曲ずつ歌唱するという手筈となっていた。
まずは翼の《FLIGHT FEATHERS》が。そしてマリアの《Dark Oblivion》が会場を盛り上げ、いよいよ二人の歌姫の共演というタイミングで、突如慎次の元に連絡が入ってきた。
「慎次です」
マネージャー用のものではなく、二課のエージェント用のものからだ。つまり、相手は弦十郎で間違いない。
即座に通信機を取り出し、通話を始める。
内容は岩国基地でのノイズ襲撃の件だった。護送中と別れ際にノイズが出現したという。すでに事態は収束ようだが、被害は小さくなかったようだ。
念のため、翼もそこに向かわせたほうがいいのかもしれない。
「状況は分かりました。翼さんの耳にも入れておきます」
『無用だ。ノイズの襲撃とくれば、今日のステージを放り出しかねん』
思わず苦笑する。確かに、彼女であれば事を知った途端人類守護のためだと言い迷わず出撃するに違いない。
しかし迷わないのはそのときだけで、後になって歌女としてファンの前で歌いたかった気持ちと、防人として剣が鈍ってはならないと恥じる気持ちとで頭を抱えるであろうことは理解っている。
「では、そちらにお任せします」
つまるところ、今慎次が取るべき最適解は「翼にライブを思い切り楽しんでもらう」。これしかない。
通話を終え、眼鏡を外す。早速ステージ裏で待機中の翼を探そうとする慎次だが、当の彼女はすぐに見つかった。
「司令からは一体何を?」
振り返ると、翼が慎次の通信機を覗き込んでいた。背伸びをしているがギリギリ見えてはいないようだ。
普段の慎次であればこの程度の隠形はすぐに見破ることができるのだが、場所が場所なのもあり油断してしまったようだ。帰ったら修行しなければならない。
首を傾け不思議そうな顔で自らを見つめる翼を前にして、どう言い訳をすればいいか思考する。
その間およそ0.1秒。死地に赴くエージェントとしてはあまりにも大きな隙だった。
「今日のステージを全うして欲しいと……」
我ながら無難な返答ができたと思ったが、なぜか翼はため息を一つ吐くのみ。明らかに嘘だとバレている。
目を細めながら胸ポケットに収めていた眼鏡をコンコンとつつき始める翼。眼鏡がどうかしたのか。
「眼鏡を外したという事は、マネージャーモードの緒川さんではないという事です。自分の癖くらい覚えておかないと、敵に足元を掬われ……」
「本番そろそろでーす。お願いしまーす!」
「はい! 今行きます!……あっ」
どうやら無意識な癖が慎次にはあるらしい。緊急事態には関わらないような癖ではあるが、一挙一投足を気にしなければならないのが当面の課題だ。
しかし翼にノイズ襲撃の件を伝える訳にもいかない。どうしたものかと頭を捻るが、ライブスタッフからの声で翼が反応してしまったのを聞いた。
自分でも無意識に反応してしまっていたらしい。口に手を当て「してやられた」とでも言いたげな表情になっている。そんなつもりは全くなかったのだが。
とはいえ、これはまたとないチャンスだ。
「傷ついた人の心を癒すのも、風鳴翼の大切な務めです。頑張ってください!」
「……不承不承ながら、了承しましょう。詳しい事は後で聞かせて貰います」
事件のことを翼の耳に入れさせないよう放った言の葉。しかしそれは本心だ。決してでまかせではない。
それが伝わったのか、再び大きなため息を吐いた後渋々ながらも了承してくれた。
ソロモンの杖護送中、護送後に起きたノイズ襲撃。行方不明となったソロモンの杖。このまま何事もなければいいのだが────。
◆◆◆
ステージ上でマリア・カデンツァヴナ・イヴが歌唱を終えた直後。
周囲に人はおらず、それでいてステージから近い。いわゆる特等席にて彼女たちは一心不乱にサイリウムを振っていた。
「おおッ! さっすがマリア・カデンツァヴナ・イヴ! 生の迫力は違うねぇ~ッ!」
「全米チャートに登場してまだ数か月なのに、この貫禄はナイスです!」
サイリウムを指の間に挟み、計6本のそれを振り回す弓美。詩織もこういった場は新鮮なのか、ステージだけでなくライブ会場を隅々まで見回している。
「今度の学祭の参考になればと思ったけど、さすがに真似できないわ」
そう、未来たちの通うリディアンには、毎年秋に《秋桜祭》と呼ばれている一大イベントがある。つまり文化祭だ。
各クラスごとに出し物を企画し、自分達で準備、運営するこのイベント。それに向けて演出の面などでいいアイデアが浮かぶかもしれない────そんな期待も持って今回のライブに招待された訳だが、流石は日本とアメリカの誇るトップアーティスト。そう簡単に真似できるようなものではなかった。
「まだビッキーから連絡こないの? メインイベントが始まっちゃうよ」
「うん……」
未来は気が入っていないようで、ライブ開場から30秒おきに時計を確認している。もったいない。
どうやら重要な任務があるようで、なんとか翼とマリアの共演予定時刻までには間に合うという話だったらしいが、一向に現れる気配を見せない。
「今夜限りのスペシャルユニットを見逃すなんて」
「期待を裏切らないわねー、あの子ったら! マスターも来ればよかったのに」
翼は響や未来たちだけでなく、惣一にも招待チケットを渡していた。
しかし彼はというと、
「石動さんは仕方ないですよ。真剣な様子で『外せない用事がある』っておっしゃってましたから」
似ていないものまねをしながら言う詩織。
彼女のいう通り惣一は今回不参加だ。大事な用があるとかなんとか言っていたが、未来の考える限り"大事な用事"は一つしかない。
「多分バイトだと思うよ」
「期待を裏切らないのは惣一さんも同じか」
その後も世間話を続けている内に、突然視界が黒く染まった。
一瞬驚く一同だが、ここはライブ会場。歌姫を招いて行うイベントなど一つしかない。
そもそも未来たちはそのためにここまで来たのだ。
会場の暗転、そして無数の光が前方のステージに浴びせられる。万雷の喝采と共に始まる空前絶後のメインイベント。
しかし未だ響からの連絡はない。何かノイズ絡みの事件に巻き込まれているのかもしれない、そう考えるのが自然だろう。
一抹の不安を抱いたまま、
◆◆◆
「見せて貰うわよ。戦場に冴える、抜き身の貴女をッ!」
剣に見立てたマイクスタンドを突き立てる。
挑発めいたマリアの言葉に、望むところだ、と笑みで返す翼。
この曲のコンセプトは"炎"、"決闘"だ。共に歌の力を信じるもの同士、今はただ全力で歌を届けるのみ。
この日のために作られたデュエット曲、『不死鳥のフランメ』を紡いでいき、観客のボルテージも最高潮に達する。
「「────Ignition」」
背後で不死鳥が燃え盛る。正面に向かって伸びるランウェイの両端から炎が爆ぜ、その中を突き進む翼とマリア。
マイクスタンドを交差させ、赤い羽根が舞う。
「ありがとう皆! 私はいつもみんなから、たくさんの勇気を分けてもらっている!
だから今日は、私の歌を聞いてくれる人たちに、少しでも勇気を与えられたらと思っているッ!!」
「私の歌を全部、世界中にくれてあげるッ! 振り返らない、全力疾走だ!
ついてこれる奴だけついてこいッ!!」
歌唱を終え、歓声に包まれるライブ会場。
自身たっぷりといった様子で観客に叫ぶマリア。流石と言わざるを得ない。
ライブ開始の数時間前、翼の楽屋にマリアが乗り込んできたことがあったのだが、その堂々とした振る舞いに、なるほど米国を席巻するはずだと感嘆を禁じ得なかった。
「今日のライブに参加できた事を感謝している。そしてこの大舞台に日本のトップアーティスト、風鳴翼とユニットを組み歌えた事を」
「私も、素晴らしいアーティストに巡り逢えた事を光栄に思っている」
「私達が世界に伝えていかなきゃね。歌には力があるって」
「ああ。それは、世界を変えていける力だ」
歌女としてこれ以上の喜びはない。
あれだけの圧倒的な歌唱技術を間近で体感したのだ。あのひと時だけは翼も"共演"ではなく"競演"のモードで歌ってしまったが、それに彼女は当たり前のように応えてくれた。
握手する。楽屋に来たときも同じことを思ったが、やはり彼女とはいい友人になれそうな気がする。
「……そして、もう一つ」
「?」
空気が変わった。
踵を返し、コツコツと歩いていくマリア。まだ次の曲である《Angelic Remnant》を歌う時間ではないが……と、明らかにそんな雰囲気ではない。
これはそう、例えるなら────戦場の真っ只中にいるような。
距離を取ったマリアが衣装を翻らせる。どうやら観客たちにはそれがパフォーマンスの一環のように映ったのか一際大きな歓声があげられる。
舞台裏に視線を走らせると、彼らスタッフたちもアドリブの一種として容認しているようだ。つまり、この異様な感覚を味わっているのは翼しかいない。
「狼狽えるな……」
ふと、そんな呟きが聞こえた。
先ほどまでの自信に溢れたものとは違う、心細さが感じられる呟きが妙に引っかかる。
しかしその正体が何なのか掴む前に、
「ノイズ……だとッ!?」
顕れる極彩色。
当然、阿鼻叫喚に覆われるライブ会場。
世界中で暴威を振るう特異災害、ノイズ。それが突如出現したことには戦慄を覚える。だが、今はそれ以上に不可解な点が一つあることに気づかない翼ではなかった。
ノイズが動かない。
ノイズは本能的に人間を襲う習性があることが分かっている。それ以外にほとんど情報がないというのもあるが、逆に言えばその習性だけは絶対だ。
しかし今はどうだ。なぜ動かないのか、考えられる可能性は一つある。
もしや"敵"は現在護送中の"アレ"を使って────。
「狼狽えるなッ!!」
瞬間、轟く雷鳴。
いや、雷鳴ではない。
◆◆◆
会場外、人気のない高架下。そこに停車する、一台のバンにて。
ノイズの出現を確認。即ち、全ての始まり。
「遅かりし……。ですが、ようやく計画を始められます」
その光景を見届けた彼女の隻眼に、鋭い光が灯る。
ここからはもう引き返せない。最速で計画を成就させるためには、1分1秒も無駄にできようか。
「それでは、手筈通りにお願いします」
『はいよ』
くぐもった声が響く。
室内の機器の光を反射し、鈍く輝く赤色の鎧。彼の右手には、ヘリコプターのようなレリーフの彫られたボトルが握られていて────。
◆◆◆
時を同じくして、ステージ上。
マイクスタンドを剣のように突きつける翼に、彼女を見つめたまま動じないマリア。言葉はなく、動きもない。まさに一触即発。
沈黙を先に破ったのは果たしてどちらだったのか。
「そうね、そろそろ頃合いかしら」
マイクスタンドの切っ先から喉元までの距離が狭まるのも気にせず、マリアはステージの中央へと歩みを進める。
マイクを握る。拡大された音声を観客に、いや、カメラを通してこの状況を見守っている全世界に向けて届けるつもりだ。
息を吸う音が拾われる。これから彼女が発するのは、明らかに穏やかでないものだろう。ノイズを操ってまで一体何をしたいのか。
「私達はノイズを操る力を以てして、この星の全ての国家に要求する」
「世界を敵に回しての口上だとッ!?」
マリアから飛び出た言葉が異常であることくらい、誰もが理解できただろう。
この世全ての国家への要求。つまり、世界への敵対宣言。
それが示すものは一つ。
「これではまるで……」
「……宣戦布告ッ!?」
方や目の前で、方やステージ裏で。異なる場所にいれども、同じ考えに行き着く翼と慎次。
彼らだけではない。恐らくこの放送を見る全ての人類が、行き着く先は同じはず。
この時代に宣戦布告など、蟻のように潰されるのがせいぜいだ。それを彼女はさも当然のように、堂々とやってのけた。
「そして」
マイクスタンドを上へ放り投げる。この膠着状態の中で唯一動く物体だが、世界の目は彼女に釘付けだ。逆に注目を集める、つまり、これもパフォーマンスの一部ということ。
そして、というマリアの言葉に続くように。
会場に、
「────Granzizel bilfen gungnir zizzl」
その歌は、
◆◆◆
ノイズの反応を検知して以降、休む間もなく動き回っていた特異災害対策機動部二課。
その動きが、今止まった。
モニターに表示される波形。学会において《アウフヴァッヘン波形》と呼ばれるそれは、該当する聖遺物によって波形の形状が異なる。
急ぎ過去に確認された波形と照合を始めるあおい。データベースに保存されている波形パターンが少ないこともあってか、すぐに結果が表示された。
「この波形パターン……まさかこれはッ!?」
思わず漏れ出る朔也の声。
照合された波形パターンは、彼らがかつて似たような状況で確認した聖遺物のものだった。即ち。
「ガングニール、だとッ……!?」
◆◆◆
マリアが鎧うシンフォギア。色こそ違うが、その外見は、明らかに
漆黒のマントを纏っていること以外はかつての片翼、奏のそれと全く同じだった。
戦慄に硬直する翼を後目に、マリアは落下するマイクスタンドを掴み、地面に突き立てる。そして彼女は、高らかに宣言する。
「私は、私達はフィーネ。そう────終わりの名を持つ者だッ!!」
祭典は狂宴へと変貌した。
新たなステージの幕が上がり────、
くつくつと、蛇の笑う声がする。
ガングニールの少女(21)さんG編において最初で最後のギャグパート
これ以降はメンタル粉微塵にされるからね、仕方ないね
エボルト回想に出てきた妙な恰好をした爺さんは通りすがりのすごいOTONAです
名前はついてるけど今後出番は多分ありません