戦姫絶唱シンフォギア Evolution's Symphony   作:セグウェイノイズ

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きりしら乱入の部分書くのに70日くらいかかりました

ナシタパートは響→惣一→惣一→響、クリス視点になります


EPISODE03「戦場に竜巻くスパーブソング」

「……で、ついにその男は伝説の白包丁の使い手に覚醒したのよ!」

 

「えぇ……」

 

「まあ……」

 

「異議あーり!」

 

「はいマスター!」

 

「そいつはちょっと話が出来すぎだろ~。知り合いが偶然白包丁? とかの使い手なんて」

 

「分かってないなあマスター! 一見すると普通の優しそうなおじいさん……だがしかしッ!

 その正体は伝説の料理人ッ! みたいな展開が美味しいのよ!」

 

「おいマスターッ! んだよこのブラックホールはッ! ちゃんと淹れやがれってんだッ!」

 

「相変わらず手厳しいなァクリスちゃんは! 今回は結構自信作……まじィ!」

 

 

 

 今日のナシタは開店以来初と言ってもいいほどに盛況だった。

 ちなみに店の中には6人しかいない。これで盛況とはなんとも悲しい話である。

 クリスもすっかり打ち解けたようで、初対面の頃の狂犬のような視線がなくなってホッとしたなどと惣一は供述していた。後ろはともかく、狂犬の部分などクリスに聞かれたらまたひと悶着ありそうだ。

 

 出されたオレンジジュースを飲みながら、響は考える。

 あれ以来、"それ"について考えることが多くなったと思う。誰かに聞いてもらいたいとも思ったが、響自身この胸に引っかかるものが何なのか自分でもよく分かっていない。

 分からない以上、無闇に誰かに話すことではないのかもしれない……。

 

 

 

「……き、……響!」

 

「はえっ!? み、未来ッ!? どうしたのッ!?」

 

「どうしたのって……ここのところずっとそうじゃない。少しくらいは心配させて」

 

「やだなぁ未来は! わたしが落ち込んでるなんて……」

 

「ほら」

 

 

 

 突然声と共に誰かに揺さぶられ、思考の波から飛び出る。

 声をかけていたのは未来だった。聞けば、どうやら沈んだ顔をしていたらしい。そんなに顔に出やすいとは新発見だ。

 未来の謀略────響が勝手にボロを出しただけだが────に嵌り響は今落ち込んでいる、と判明した。

 

 先に動いたのは未来だ。

 響が顔を逸らす前に両肩に手を置き、逃げられない状況を作りだす。困ったような表情でこちらを見つめてくる。その碧色の瞳を見ていると、今抱える悩みを全て掃きだしてしまいそうで────。

 

 

 

「失礼します」

 

「やっと来たな翼ちゃん。それに……オペのあおいちゃんもご同伴か。珍しい組み合わせだな」

 

「すみません石動さん。現在仮設本部が潜航中でして……。浮上までの間、ここをお借りします」

 

「お邪魔ってかお客様なんだからそんな遠慮いらねえよ。ぜひナシタ特製コーヒーを……ん? どうした響ちゃん?」

 

「うッううん! なんでもないよッ!?」

 

 

 

 翼とあおいが入ってきた。

 未来はというと、何事もなかったかのように荷物をまとめ「あまり遅くならないでね」とだけ言い残し、創世たちと共に足早に去ってしまった。

 

 

 

 

 

〈ライブ会場でのマリア・カデンツァヴナ・イヴの宣戦布告から一週間……。

 未だ動きを見せない彼女らの狙いは何なのか〉

 

 

 

 あの事件から早くも一週間が経過した。

 国土の割譲などという要求、当然諸国が受け入れるはずもなかった。その点で言えば"フィーネ"がノイズを用いて各国へ攻め込む口実ができたとも見なせるのだが、一向にそんな気配はない。

 

 

 

「相手は複数人。それも、内三名が()()()()()()()()でした」

 

「スタークも向こうの側に居やがった。ってことはローグも同じだろうな」

 

「次いつ攻めてくるのか分かれば、対応のしようもあるけど……」

 

 

 

 向こう側の戦力についてもまとめなければならない。

 そのために響たちはあの日のことを思い浮かべた。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「Imyuteus amenohabakiri tron」

 

 

 

 瞬時に鎧を着装する。脚部スラスターを稼動させ、空中でわずかに姿勢制御。ノイズが密集していない部分に着地し、同時にバネのようにノイズに向かって飛び出した。

 

 

 

「一つ目の太刀。稲光より、最速なる風の如くッ!」

 

 

 

━━━━蒼ノ一閃━━━━

 

 

 

 風のように戦場を駆けながら、アームドギアを大剣に変化させる。蒼雷を帯びた大剣を薙ぎ、蒼ノ一閃により進行上のノイズを両断。

 だが、翼の開けた隙間は瞬く間に塞がれていく。いくらなんでも呼び出しすぎではないか。

 もちろん、その程度で遅れを取る翼ではないのだが。

 

 

 

━━━━逆羅刹━━━━

 

 

 

 続き、二つ目の太刀。

 反撃とばかりに飛びかかるノイズの動きを見切る。当然追撃を試みるノイズであったが、それは叶わない。なぜか。

 向かって来るノイズの悉くが斬り刻まれたからに他ならない。

 脚部ブレードを用いての回転斬撃、逆羅刹。この瞬間、あらゆる雑念を切り捨てノイズの殲滅に専心するその心こそ、正しく林の如し。

 

 翼は気づいていないが、既に中継は遮断されている。慎次がギリギリのところで何とかしてくれたのだ。

「シンフォギア装者であることが知られ、アーティスト活動が出来なくなってしまうなど風鳴翼のマネージャーとして許せる筈がない」

というのが慎次の言だ。

 

 大量に呼び出されたノイズであるが、その数は無限ではない。急ぎ、そして着実に数を減らしていき────ついに決戦場(ステージ)へと舞い戻った。

 

 

 

「再出演が許されるなんてね。貴女にもそのお仲間にも、素直に賞賛をしておきましょうか」

 

「いざ……推して参るッ!」

 

 

 

 その言葉を皮切りに、第二ラウンドの火蓋は落とされる。

 踏み込むと同時にマリアに向かって振るわれた剛剣は、果たしてマリアを傷つけることはなかった。

 太刀とマリアとを阻む鋼鉄の障壁。彼女が自由自在に操っているマントが攻撃の威力を完全に削いだのだ。

 二合目も結果は同じだった。続き三撃目を放とうとする翼だが、その直前半ば反射的に刀を引く。

 

 翼の右肩に添えられた刀の刃とかち合ったのは、針のように鋭角化されたマントだ。

 ギア着装前の攻防でも幾度か見せていた攻撃。正面から相対しているとその攻撃の多彩さに舌を巻き、そして────何よりも、その性質が"()"であることが嫌でも思い知らされる。

 

 

 

「このガングニールは本物ッ……!?」

 

(ようや)くお墨を付けて貰った。そうよ、これが私のガングニール! 何物をも貫き通す、無双の一振りッ!」

 

 

 

 マントを翻すと、マリアの全身が包まれる。防御と同時に硬質化されたマントで攻撃を繰り出す。

 翼に迫る黒い竜巻。まともに食らえば痛手は必至、この戦場においてはその一瞬が命取りになる。

 この距離では回避は困難。ならば手段は一つしかない。

 

 甲高い音が鳴り響く。

 翼は「迎撃」という手段を選択した。迎撃とはいうものの、あの速度で迫るマリアがアームドギアを巨大化させるほどの猶予を与えてくれるはずもなく、止む無く通常状態のアームドギアで応戦した。

 刀からぎゃりぎゃりと耳障りな音色を鳴らしながらも耐える。だがそれもどれだけ保つか。受け流そうにもマリアが許すはずもないだろう。

 状況は圧倒的に不利。このままでは確実に競り負けてしまうが、

 

 

 

「……だからとてッ、私が引き下がる道理など存在()りはしないッ!」

 

 

 

 そう、例え万策尽きたとしても、1万と1つ目の策を編み出し行動する。それが人類守護の使命を果たす防人の務めだ。迫る百鬼夜行(黒い斬撃)を恐れるのは、ただ己が未熟であることの証左である。

 何より、会場の外には無辜の観客たちが。どうして引き下がることなどできよう。今翼がやらねば誰がやるというのか。

 だから今はただ、耐える。耐えて耐えて耐えて────。

 

 

 

 

 

「なッ!? まだ65%も足りてないッ!?」

 

 

 

 

 

 その時は唐突にやってきた。

 即座に刀を引き、完全に油断していたマリアの体勢を崩すことに成功。急ぎ後退し、大腿部の鎧から二振りの(つるぎ)を展開、柄を連結。

 

 

 

「────私を相手に気を取られるとはッ!」

 

 

 

 合体し薙刀と化した二振りの剣を風車のように回転させ、脚部のスラスターに増幅したフォニックゲインを全て回す。

 流星の如き速度で猛進する翼。印を結び、火遁の術を用いて刀身に焔を纏わせる。

 これこそ、千載一遇の好機。どこの誰が逃せようか────!

 

 

 

「幾千、幾万、幾億の命、全てを握り締め振り翳すッ!!」 

 

 

 

━━━━風輪火斬━━━━

 

 

 

 黒き槍を打ち破るは、目覚めし蒼き無双の一振り。あらゆる障害を斬り払う焔の一撃、《風輪火斬(ふうりんかざん)》。

 あらゆる不浄を清める焔を纏う、断破の一閃。半ば自動で機能した黒いマントにより、意識を刈り取るまでには至らなかったようだが、これで場は大きくこちらに傾いた。

 

 

 

「話はベッドで聞かせて貰うッ!」

 

 

 

 急ターン。未だ仰け反ったままのマリアを捉え、続く斬撃を叩き込むべく、再び速度を上げ彼女に向かって突貫し────。

 

 

 

 

 

━━━━α式・百輪廻━━━━

 

 

 

 

 

 ────その攻撃は、空から飛来した無数の"何か"によって阻まれた。

 追撃を中止し、薙刀を旋回させながら攻撃を防ぐ翼。幸い、一発ごとの威力はそう大きいものではないようだ。

 これなら強引にでも突っ切ることも不可能ではない。"何か"────恐らく斬撃武器だ────が飛来した方向を一瞥。そこには確かに何者かの姿があった。

 

 その姿を視認した途端、こちらに叩き込まれる弾幕の数が増加した。よほど姿を捉えられたのが気に食わなかったようだ。

 そう、姿()()()()()。だからこそ、襲撃者の変化に気づけたのかもしれない。

 

 

 

「行くデスッ!」

 

 

 

━━━━切・呪リeッTぉ━━━━

 

 

 

 突如、襲撃者が()()()()。完全な強襲だったということもあり、マリアに意識を向ける余裕はない。

 長物が振るわれる。一体何を仕掛けてくるのか────。

 

 警戒のレベルを引き上げるのと、両側からの衝撃を感じたのはほぼ同時だった。

 衝撃と鋭い痛みにより眼を見開く。翼の眼が僅かに捉えたのは、闇に紛れて回転する2つの刃。奴は闇に乗じて挟撃を仕掛けたのだ。

 

 なんとか受け身を取ることに成功するが、ダメージが大きい。戦闘不能というほどではないがこの状況では少々痛い。

 それでも立ち上がらねばなるまいと、顔を上げる翼だが、

 

 

 

「危機一髪」

 

「まさに間一髪だったデスよ」

 

 

 

 眼前には、体勢を立て直しこちらを見下ろしてくるマリア。そしてその()()に控える、緋翠の少女が二人。

 つまり、襲撃者は────。

 

 

 

「装者が……()()ッ!?

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「響ちゃん達と同じ力を持った子が三人か。そりゃまた一大事だな」

 

「もー! 惣一おじさん、もっと真面目に考えてよー」

 

 

 

 話を聞きながら、()()()の報告と齟齬がないか確認する惣一(エボルト)。今のところ大した問題はない。せいぜい修飾語の多寡程度だ。

 適当に相槌を打っていると響に叱られた。適当にしているのに気づかれたようだ。もしここに美空がいたのなら、間違いなく刻まれているだろう。

 

 

 

「仕方ないでしょうが! 俺何にも分かんねえし」

 

「それはそうだけど……」

 

「そもそもなんだよ火遁の術って。何で誰も驚かねえんだよ」

 

「知らなかったの? 緒川さんに教えてもらったんだって」

 

「緒川に? へえ……。……!? 緒川にィ!?」

 

 

 

 それらしく言い返してみると、更なる事実が惣一を襲った。

 どうやら慎次は忍者らしい。本当に驚かされる。美空も以前「忍者になった」などと言っていたが、もしかすると彼女も火遁の術を扱えたのかもしれない。コーヒー豆を燃やされなくてよかった。

 密かに自分の辞書の”忍者”の定義を更新する。

 

 

 

「そ、それより、まだ続きがあるんだろ?」

 

 

 

 頷く翼。まあ、襲撃を受けた本人がここにいるのだ。襲われて終わりという訳がないだろう。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 形勢は一気に逆転した。

 三対一。その上こちらは体勢を崩し、立て直そうにも目の前の三人が見逃すはずもないだろう。まさに万事休す。

 

 

 

「調と切歌に救われなくても、貴女程度で後れを取る私ではないんだけどね」

 

 

 

 マリアは腰に手を当てながら翼を見下していた。その口角はわずかに上がり、勝利を確信しているようだ。左右のシンフォギア装者もそれぞれの得物を構え、こちらの反撃に備えている。

 その割にはどうも隙が多い気もするが。────まあ、今考えるべきなのはそこではない。

 翼の表情に笑みが戻ったのを怪訝に思っているのだろう。わずかながら眉を顰めるマリア。理由が理解らないのならば教えてやろうか。

 

 

 

「……貴様みたいなのはそうやって」

 

「?」

 

()()()()()()()()だから勝機を見逃すッ!」

 

「────()かッ!?」

 

 

 

 流石と言うべきだろうか。挑発かと思い顔をしかめたのも束の間、即座に言葉の意味を理解した彼女は腕を振り、左右の二人に指示を出した。

 本人はその場にとどまり、上、すなわち()を睨む。

 

 

 

「おおおおおォォォォォッ!!」

 

 

 

 けたたましい金属音が鳴り響く。次いで、爆風。()()()の放った拳を硬化したマントで受けるマリア。予想以上の衝撃だったのだろう、表情が歪んでいる。

 反動で再び空を跳ぶ響。翼の姿を確認すると同時にバーニアを点火させ、翼を抱えながらステージを飛び降りた。

 流れるような一連の動作。弦十郎に支給された戦術マニュアルの成果を如実に表している。

 

 クリスがいないことにふと気づく。前を警戒しつつ響に尋ねると、急襲してきたスタークと交戦中らしい。今もなお戦闘は続いている。助太刀に向かえないことは歯がゆいが、今は目の前のことに集中すべきだろう。

 三体二。数だけで言えば未だ向こうに分がある。

 

 

 

 

「やめようよこんな戦い! 今日出会ったばかりのわたしたちが争う理由なんてないよ!」

 

「そんな綺麗事を……」

 

「綺麗事を言う奴のことなんか、信じられるものかデス!」

 

 

 

 いつの間にかマリアの側に戻っていた二人が響を詰る。

 

 

 

「そんな……話せばわかり合えるよ。戦う必要なんか……」

 

「偽善者」

 

 

 

 偽善者。

 なお説得を続ける響だったが、その一言を耳にした瞬間、動きが止まる。ほんの一瞬であったが、完全に警戒をする様子もなくなった。

 翼からしてもその様子には少し疑問はある。だが今、動きが止まっていい状況ではない。

 

 

 

「この世界には、あなたのような偽善者が多すぎるッ!」

 

 

 

 そう叫ぶと、黒髪の少女の頭部────いわゆるツインテールに結った髪だ────に装着された武装が展開。内部から大量の何かが響めがけて飛来する。

 この距離なら分かる、()()()()()()()()。それも丸鋸というタイプのものだろうか。数こそ多いものの、響であれば問題なく防げる攻撃だが……。

 

 響に丸鋸が直撃する直前、蒼ノ一閃を発動。横からまとめて攻撃を粉砕する。

 

 

 

「翼さん!?」

 

「何をしている立花! 気持ちを乱すなッ!」

 

「……はッ、はい!」

 

 

 

 頷いてみせたものの、完全に信用はできない。今でさえ、回避も防御も間に合わない位置に攻撃が迫るまでまるで反応する素振りがなかった。

 やけに動揺している気はするが、ここは戦場。少しの油断が命取りとなるのだ。

 

 横から不意打ちを仕掛けてきた金髪の少女の一撃を弾く。

 なるほど、あの長物は”鎌”だ。扱いが難しく、力任せのように思われたその一撃だが、打ち合ってみるとなかなかどうして堂に入っている。

 

 

 

「その子にかまけて私を忘れたかッ!」

 

「マリア! いっしょにやるデスよ!」

 

 

 

 続く急襲。大剣を薙ぎ黒い攻撃の軌道を逸らす。地面に着弾したマリアのマントだが、それで終わらないのは学習済みだ。

 地面を抉りながら突き進むマント()をかわすと、それを読んでいたかのように金髪の少女の鎌が振り下ろされる。幸運にも鎌の攻撃は単調で、軌道を逸らすことで処理する。

 それでも防戦一方なのは疑いようがない。気づけば黒髪の少女と戦っていた響と合流し、背中合わせのような形になってしまう。つまり、挟み込まれた。

 

 

 

 

「わたしはただ、困ってるみんなを助けたいだけで……!」

 

「それこそが偽善ッ!」

 

 

 

 なおも説得を続けようとする響。それが響の長所であるとは思っているが、相手は聞く耳を持っていない。それどころか響が口を開くたびにその顔が憤怒に歪んでいく。

 マリアと金髪の少女への警戒を強めながら、響を嗜めようとするも、先に動いたのは黒髪の少女。どうやら今の響の言葉で沸点を越えてしまったようだ。

 

 

 

「痛みを知らないあなたに、誰かのためなんて言ってほしくないッ!」

 

 

 

 頭部のユニットから展開した一対の巨大な円鋸を力任せに投擲する。

 

 

 

━━━━γ式・卍火車━━━━

 

 

 

「立花ッ!」

 

 

 

 声を上げるも、響の反応が追いついていない。視界から外してしまうことになるが、フォローに回らなければと、大剣を盾のように構えようとして────。

 

 

 

「……なッ!?」

 

「雪音ッ!?」「クリスちゃんッ!?」

 

「「「スタークッ!?」」」

 

 

 

 雪音クリスとブラッドスタークが、黒煙と共に現れた。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「急に出てきた煙からクリスちゃんが出てきたぁ? 世界は(ひれ)ェな」

 

 

 

 わざとらしく驚く。普段から若干大げさにしているため不審に思われることはなかった。

 ここから先は惣一も知っていることだ。話半分に聞くくらいでいいだろう。

 

 

 

「一体何があった、雪音?」

 

「何がって……何ベンも話しただろ。スタークの野郎がいつもの煙幕を使いやがったから追いかけた。

 で、煙を抜けたらライブ会場だったって」

 

「でも、戦闘場所だった森林からライブ会場までは数十キロあるはずよ。それを一瞬でなんて……」

 

「聞けば、雪音とスタークの戦闘は途中より観測が不可能になっていたとか」

 

「スタークさんと二人で大丈夫だったの?」

 

「馬鹿、大丈夫じゃなかったら今頃ここにいねぇよ」

 

 

 

 トランスチームガンのあのシステムについてはぜひとも二課に解き明かしてもらいたいものだ。葛城先生(葛城忍)や内海を始末する前に聞いておけばよかった、と少し後悔する。

 尤も、フィーネ────櫻井了子が()()()()今、望み薄ではあるが。

 

 意識を戻す。今度はクリスが話す番のようだ。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 視界が晴れると、そこは件のライブ会場。隣を見ればブラッドスタークが、そして前を見れば響と翼が。

 一体何が起こったのか。それを考える前に、後ろから聞こえた金属音で我に返る。

 

 

 

『危ねえじゃねェか。技はもっと狙って使ってくれよ』

 

「自分から突っ込んできたくせに」

 

 

 

 地面に転がるのは刃の付いた円盤。斬撃武器だろうか。よく見れば奥には装者らしき何者かが不満げな様子でこちら────の隣のスタークを────を睨んでいる。

 あの様子を見ると、あの円盤は響たちに向けた攻撃だったのだろう。それをスタークが蹴り飛ばした。

 

 スタークは慣れた様子で装者の元に近づき、大仰に肩をすくめてみせた。

 

 

 

『細かい事は気にするなって。いろいろと育たなくなるぞ』

 

「うるさい! とっとと終わらせるデスよ、調ッ!」

 

 

 

 どこからかもう一人装者が現れた。ノイズ混じりの通信で装者がどうのと言っていたのはこのことだったのか。

 

 ……それにしても、だ。

 つい数秒前まで鉛を撃ち合っていた相手をこうも簡単に視界から外すとは、なんと言うか。

 気付けば、スタークたちに向けてクロスボウを乱射していた。当然全て迎撃されたが。

 

 

 

「あたしを無視すんじゃねぇッ! まだ決着はついちゃいないんだよ!」

 

『勝負はお預けだって言っただろ? 俺としちゃもう少し遊んでも良かったが……。

 残念ながら、優先順位ってものが世の中にはあるからな』

 

 

 

 指を振りながら逆に窘められる。今度はミサイルを見舞ってやろうとも考えたが、ユニットを展開する直前、背筋に冷たいものが奔る。

 響や翼がこのような気配を発するはずがない。ならば誰が。考えなくとも一人しかいない。この戦闘が始まったきっかけとなった()()をクリスは見ていない。

 響に抱き抱えられ、なんとか窮地を脱する。

 

 

 

「……悪りぃ、トンでた」

 

「あら。一人くらいは戦闘不能に(リタイア)させておこうと思ったけど……上手くはいかなかったみたいね」

 

 

 

 響に礼を言いながら、正面を睨む。

 マリア・カデンツァヴナ・イヴ。米国の歌姫であり、今は敵だ。それもスタークと結託し何かを為そうとしている。

 翼と打ち合っていた彼女だが、スタークが指を振った途端一直線に彼の元へ動いた。そういった合図だったのだろう。彼女の通った後の地面は削れ、響に助けられていなければどうなっていたか、と慄く。

 

 

 

「クリスちゃん、どうしてここに……」

 

「話は後だ。……アレを見ろ」

 

 

 

 合流した翼が呟く。地面が緑に輝いたかと思えば、地揺れが装者たちを襲う。

 この緑色の輝きを、彼女はよく知っている。忘れてはならない過去の過ち────すなわち。

 

 

 

「なにあのでっかいイボイボ!?」

 

「増殖分裂タイプ……」

 

「こんなの使うなんて聞いてないデスよ!?」

 

「……マム」

 

 

 

 図らずもマリアたちの会話が答えを教えてくれた。

 ノイズだ。マリアたちの背後にそびえ立つ、蠢く肉塊。通常サイズのものでさえ形容しがたいノイズだが、あれは特に異質という他ない。

 

 

 

『我らがマムからのご伝達だ。”今は退け”だとよ、御三方』

 

「……了解。従いましょう、二人とも」

 

 

 

 マリアが両腕を掲げると、前腕部に装着された鎧がパージされる。二つの鎧が合体、変形し、身の丈の数倍はある巨大な槍が現れた。

 あれがマリアのアームドギア。横の翼が目を見開いたのを見る限り、今まであの武器は温存していたのだろう。

 槍の穂先がこちらに向けられ、穂先が展開される。収束されていく光に身構えるクリスたち。

 彼女はその光を────()()()()()()()()()()()()

 

 

 

━━━━HORIZON†SPEAR━━━━

 

 

 

 穂先から撃ち出された紫の光槍は、発生したノイズを貫いて、ソラに消える。当然ノイズは爆発を起こし、破片を撒き散らしながら炭素へと還るのみ。一体何がしたかったのか。

 視界の端で動く人影が4つ。間違いなくマリアたちだ。なるほど、今のパフォーマンスはノイズに注意を引きつけるのが目的だったのだろう。

 

 しかし、そう簡単に逃げられてはたまったものではない。せめて手傷でも負わせよう。そう考える前に、襲撃者一行の姿が黒煙に包まれる。

 

 

 

『じゃあな。次に会う時までに、もっと力を付けておいてくれ。期待してるぜ』

 

「ここで撤退だとッ!?」

 

「せっかく温まってきたところで尻尾を巻くのかよ……!?」

 

 

 

 神経を逆撫でさせるスタークの声が会場中に響く。相変わらずどうやってかは知らないが、あの銃の力で撤退されたようだ。

 これでひとまずは戦闘終了、急ぎ仮設本部へ戻り今回の件について対策を練らなくては────と、そうも言っていられないらしい。

 

 

 

「ッ、ノイズがッ!?」

 

 

 

 マリアの一撃を受けて崩壊したはずのノイズが、未だ健在なのだ。それどころか、飛び散った破片が蠢き、また新たな個体へと成長している。

 こちらに飛来した破片を翼が両断すると、二つに分かれたノイズが出来上がった。

 

 

 

「装者の一人が言っていたな。こいつの特性は、増殖分裂」

 

「放っておいたら際限ないって訳かよ……!」

 

〈皆さん、聞こえますかッ!?〉

 

 

 

 突如、慎次の声が聞こえた。どうやら音響室を通して近くのスピーカーから呼びかけているようだ。

 慎次の言葉は次のようなものだった。

 

 会場の外には、避難が完了したばかりの観客達が居る。

 

 つまり、ここで攻めあぐねていると、そう遠くない内に増殖したノイズが会場から溢れ出す。そうなった場合の被害はとても想像したいものではない。

 なら早急に対処せねばならないが、下手に攻撃を加えると増殖速度がさらに上がってしまう。

 

 

 

「どうすりゃいいんだよ!?」

 

 

 

 必要なのは一撃で、かつ広範囲に渡って攻撃できる殲滅力。だがそんな大規模な攻撃、エクスドライブでもないのにできるはずがない。

 そうしている間にもノイズは分裂をくり返し、ますます手に負えなくなっている。焦りだけが先行し、いい案など浮かぶのか。

 

 

 

「……絶唱。そうだッ、絶唱です!」

 

 

 

 そんな状態を吹き飛ばしたのは、ずっと後ろで唸っていた響だった。

 

 

 

「絶唱って……まさか、お前!?」

 

「今日まで培ったわたしたちのチームワークと、()()()()()()()()()()があればッ!」

 

 

 

 絶唱。響は今にも飛び跳ねそうな勢いでそう言った。

 今ここで言う絶唱とは、歌えば強大な力と引き換えにバックファイアに襲われるという、あのことではない。

 独奏(ソロ)ではなく、三重奏(トリオ)の絶唱だ。

 

 

 

「アレはまだ未完成なんだぞ!?」

 

「増殖力を上回る破壊力にて一気殲滅か。立花らしいが、理には適っている」

 

「アンタまで!? 本気かよ……」

 

 

 

 当然、それについてのリスクを考えれば易々と取っていい手段ではない。

 しかし響と翼はやる気だ。不敵に笑う二人に対しため息をつくクリス。内心は外見ほど呆れてはいないのだが、まあそこは大した問題ではない。

 

 横並びになり、手を繋ぐ。

 大きく息を吸い、中央の響が叫ぶ。

 

 

 

「行きます! ────S2CA・トライバーストッ!」

 

 

 

 静寂がその場を包む。

 増殖するノイズなど端役に過ぎない。たとえステージの上でなくとも、今主役は彼女らなのだ。

 

 

 

「「「────Gatrandis babel ziggurat edenal」」」

 

 

 

 終焉(おわり)の歌を歌い上げる。

 

 

 

「「「Emustolronzen fine el zizzl────」」」

 

 

 

 否、此れより始まるは終焉に非ず。

 静寂は一転。まず起こったのは爆風、いや、そう錯覚を起こすほどの膨大なフォニックゲインの奔流だった。

 

 

 

「スパーブソングッ!」

 

「コンビネーションアーツッ!!」

 

 

 

 膨張を始める熱量を持ったフォニックゲイン。それを調()()()()のに必死なのか、握られる手の力が強まっている。

 

 

 

「耐えろ、立花ッ!」

 

「もう少しだ!」

 

 

 

 《S2CA・トライバースト》。

 響を中心として複数のシンフォギア装者が同時に絶唱を歌うことで、「手を繋ぎ、束ねる」特性を持つ彼女のガングニールを用いて調律し、一つのハーモニーを形成するコンビネーション。

 成功さえすれば、広範囲のノイズを一撃で屠りせしめる、まさに決戦戦術だ。

 

 しかし発動には複数人の絶唱が必要で、そう訓練回数は多くない。その上、フォニックゲインの調律過程において翼・クリスは介入できない。

 つまり、絶唱三人分の負荷が全て調律者である響ただ一人に集中する。

 こうしている間も、響は膨大な負荷をその身に受けているのだ。絶叫するのも道理である。

 

 一瞬か、永遠か。

 ただ響を信じて”その時”を待つ。拡大する虹色のフォニックゲインが増殖分裂ノイズの本体に到達し、その熱量によりノイズの外皮を蒸発させる。

 機は今しかない。

 

 

「今だッ!」

 

「────セット、ハーモニクスッ!!」

 

 

 

 調律が完了し、両腕の鎧を合体させ、右側に集める響。

 巨大な篭手へと化した鎧をさらに展開。右腕を引き絞る。膨張を続けるフォニックゲインを全て収束させ、ノイズを見据える。

 腕部ユニットのタービンの回転が火花を上げるほどに高まったその時、

 

 

 

「ぶちかませェッ!」

 

 

 

 そう叫ぶのと、響が飛び出すのは同時だった。

 響の眼前には、身の丈の数倍はあろうというノイズ。それだけでなく、ライブ会場全体にまき散らされ、増殖を繰り返しているものもある。

 だがそれがなんだと言うのか。

 ()()。それで事足りる。

 

 裂帛の叫びと共に拳を打ち込む。

 下から打ち上げられる形となったノイズはわずかに浮き上がる。だがこれで終わりではない。甲高い音を立てながらタービンが稼働し、引き伸ばされたハンマーパーツが一気呵成に叩き込まれる。

 

 

 

「これが私たちのッ!!」

 

 

 

 その日、ライブ会場から避難していた民間人全員が、ライブ会場から立ち昇る()()()()()を見たという。

 臨界に達した絶唱三人分のフォニックゲインを受けたノイズが無事でいられるはずがない。夜空を切り裂く虹色の竜巻は、その場のノイズを殲滅してみせたのだ。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

偶然暇だったんで俺もテレビつけてたけど、裏じゃそんなことがあったのか……」

 

「現在緒川さんが捜索に当たっていますが、まだ報告はありません」

 

 

 

 やけに偶然の部分を強調するなと思いながら、氷で薄くなったオレンジジュースを飲み干す。

 あのライブ会場の事件以降感じる、心の靄。いくら考えても、そこから抜け出すことができない。未来や惣一に吐き出したいと何度か思ったが、それで解決できることなのかが分からない。

 そして何より、”────────”のが怖いのだ。

 

 

 

「どうしたのだ、立花、雪音? やけに静かだが……古傷でも痛むのか?」

 

「ん? ああいや、何でもねえよ。話は聞いてるから心配すんな」

 

「そうそう! 今日の晩ごはんなにかなーって……あはは」

 

「……ならいいが」

 

 

 

 翼に勘付かれるほどに顔に出ていたのか。ということは惣一も気づいているはずだが……。と彼の方を見ると、目を閉じて肩をすくめていた。やはり気付かれていたようだ。

 もう一度あの日のことを思い返して、響は調という少女に言われた”あの言葉”について悩んでいるのだ、と気づいた。まだあの言葉が頭の中をぐるぐると回っている。

 

 

 

 翼に勘付かれていた。どうやらクリス(自分)は思ったより顔に出てしまうタイプらしい。あおいがリディアンの学祭の話をしているが、とても混ざろうと思える気分ではない。あれから1週間が経つが、まだスタークが森で放ったあの言葉が忘れられない。

 

 

 

 

 

「そんな綺麗事をッ……!」

 

────わたしはただ、困ってるみんなを助けたいだけで……!

 

「それこそが偽善! 痛みを知らないあなたに、誰かのためなんて言ってほしくないッ!」

 

 

 

 

 

『皮肉なモンだ。ほんの数か月前まで、お前は()()()()だった。

 それが今は正義の味方! まさに華麗な転身、って奴か?』

 

────何を言ってやがる?

 

『日和って人にはけしかけてなかったみたいだが、《あの杖》を何かを害するために使ったのは確かだろ? まァ、ノイズを呼び出せる杖なんてそれ以外の使い道もねえか』

 

────黙れ

 

『力で戦争を叩き潰すなんて言ってたお前が、今人類を最も殺してる兵器を使ってたのは見ててなかなか面白かったが……それに気付いてなかった訳ないだろ?』

 

────黙れ黙れ黙れ! 黙りやがれェェェッ!!

 

 

 

 

 

────わたしのしてることって、偽善なのかな……? 胸が痛くなることだって、知ってるのに……

 

────そうだ。ソロモンの杖を好き勝手使ってたあたしに、こんな場所は……眩しすぎるのかもな

 

 

 

 

 

 一度は晴れ渡った空に、再び暗雲が立ち込める。

 雲が払われる日は、未だ久遠の果てにある。

 




ちょっとした補足
 エボルトがクリスのことをビルド本編以上に煽り倒してるのは「これくらい煽ったほうがクリスは伸びるやろ」とエボルトが思ったからです
 今後はクリスちゃん曇らせ隊にエボルトも加わります

次回「揺れる秋桜、悩めよラ・ピュセル」
明らかに無理やりだけどゆるして
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