戦姫絶唱シンフォギア Evolution's Symphony   作:セグウェイノイズ

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話が進まない代わりに文量を短くしてみました
投稿間隔を早めにしたい


EPISODE04「揺れる秋桜、悩めよラ・ピュセル」

「……と、過去の事件を想起してはみたが、連中の狙いがまるで見えて来やしない」

 

 

 

 二課仮設本部。現在ナシタと通信中のこの場所だが、通信先と同じく武装組織フィーネの目的がなかなか読めず、思うように議論が進まない。

 

 

 

「傍目には、派手なパフォーマンスで自分たちの存在を知らしめたくらいです。おかげで、我々二課も即応できたんですが」

 

「事を企む輩には似つかわしく無いやり方だ。案外、狙いはその辺りかもな」

 

 

 

 歌姫マリアが派手に宣戦布告を仕掛けたのはあくまで囮。本命はその裏で行われている”何か”である。即興で考えたにしてはいい線を言っていると思う。

 しかし、流石に情報が少なすぎる。

 こういう時は彼女の考えを訊いてみようと思いつき、今も会話を聞いているであろう彼女に話しかけた。

 

 

 

「了子くん、君の見解は?」

 

 

 

 数秒の間をおいて、ため息と共にスピーカーから声が響く。

 

 

 

〈……私と同じ名を持つ組織、程度の感想しか湧かないわね。”フィーネ”なんて名前、今じゃ探せばいくらでも見つかるでしょう〉

 

「では言い方を変えよう。マリア・カデンツァヴナ・イヴが鎧ったもう一振りのガングニール、そして新たに現れた二人の装者が用いた聖遺物については?」

 

「聖遺物をギアペンダントに加工できる人間なんて、そう見つかるはずありませんからね」

 

〈答える義理はないわ〉

 

「やれやれ……」

 

 

 

 その後もいくらか尋ねてみるも、それきり反応はない。

 だが、マリアたちが用いた聖遺物について尋ねたときに限り、「答える義理はない」とフィーネは零した。なら、何かしらの形で答えとなるようなものを持っている、ということだろうか。

 いずれにせよ、沈黙を始めた彼女にもう一度訪ねることはできないのだが。

 

 朔也が呆れたような様子で尋ねてくる。

 

 

 

「司令。彼女、本当に協力してくれるんですか? もう3ヶ月経ちますよ」

 

「これに関しては我々は気長に待つしかないだろうな。まあ、じきに協力してくれるさ」

 

「何か案でもあるんですか?」

 

「勘だ」

 

 

 

 こういう時の俺の勘はよく当たる、などと軽口を叩いていると、モニターに「SOUND ONLY」と表示された。慎次からの通信だ。

 長い間収穫がなかったようだが、ついに当たりを見つけたのか。

 

 

 

〈風鳴司令〉

 

「緒川か。そっちはどうなってる?」

 

〈ライブ会場付近に乗り捨てられていたトレーラーの入手経路から遡っているのですが……〉

 

〈この野郎ッ! グアッ〉

 

〈辿り着いたとある土建屋さんの出納帳に、架空の企業から大型医療機器や医薬品、計測機器などが大量発注された痕跡を発見しまして〉

 

〈こいつ、忍法を使うぞ!〉

 

〈身体が動かないッ!〉

 

 

 

 ”土建屋さん”の悲鳴をバックに淡々と報告を続ける慎次。なるほど、確かにそれは大収穫だ。

 連中の尻尾は一度掴めばなかなかどうして掴みやすいのかもしれない。

 重要なのは”医療機器”という単語だろう。

 

 

 

「医療機器が?」

 

〈日付はほぼ二ヶ月前になります。こちらの方々は資金洗浄に体よく使っていたようですが……。

 この記録、気になりませんか?〉

 

 

 

 声だけでも慎次が笑みを浮かべているであろうことが分かる。

 ようやく掴んだ奴らの手がかり。追いかけないという選択肢はない。

 口角を吊り上げる。

 

 

 

「追いかけてみる価値はありそうだな」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 黒いガングニール。緋刃シュルシャガナに翠刃イガリマ。

 かつて自分が製作したシンフォギアが現れた。本来ならすでにこの身は滅している。無様にも生き永らえている影響だろうか。

 

 

 

「行方知れずとなったソロモンの杖に、姿を消したウェルキンゲトリクス……。それに、突如姿を現した()()()()()()()()()()

 

 

 

 片手でキーボードを打ちながら、もう片方の手で書類を眺める。

 四枚の紙の束。自身のコンピューターの奥底に眠っていたファイルの内容だ。そこには四人の少女の写真と文章が印刷されている。

 

 

 

「最早無用となった遺産が今になって……」

 

 

 

 一人は亜麻色の髪をした、四人の中で最年長の少女。名前は、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。

 一人は日本から運ばれてきた黒髪の少女。組織に付けられた名前は、月読調。

 一人は詳細不明。恐らく西欧系と思しき金髪の少女。付けられた名前は、暁切歌。

 

 そして、もう一人。

 マリアと似た顔立ちをした、彼女の妹。名前は、《セレナ・カデンツァヴナ・イヴ》。

 以前の襲撃に現れなかった人物でもある。理由は明らかだが、何故か気になるのだ。研究者であるこの身が勘で動くのもどうかと思うが。

 まあ、()()()()人物に現在(いま)などありはしないのだから杞憂に他ならないだろう。

 

 息を吐き、彼女は書類を紙の山に投げ込んだ。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

でねッ! 信じられないのは、それをごはんにザバーッっとかけちゃったわけデスよッ! 絶対におかしいじゃないデスかッ! そしたらデスよ……」

 

「…………」

 

 

 

 武装組織フィーネが拠点としているある建物。

 施設内のシャワールームにて、調と切歌は楽しいひとときを過ごしていた。

 正確には、ここ数日ずっと黙っている調を元気づけようと一方的に切歌がまくし立てている。

 

 今日も駄目だったようだ。俯き、温水を浴びている調の様子を窺う切歌。

 壁に当てられたその手を見ると、握った拳が震えている。表情も、怒りが抑えきれない、といった様子だ。

 切歌としても、大親友がそんな様子だと気持ちも沈むというものだ。原因は分かっているので、意を決して踏み込んでみることにした。

 

 

 

「またアイツのこと、デスか?」

 

「……なんにも背負ってないアイツが、人類を救った英雄だなんて。わたしは認めたくない」

 

 

 

 感情を押し殺すように聞こえたその言葉は、切歌にも痛いほど理解できる。

 ドン、と音が聞こえる。声を荒げる代わりに、力の限り壁を叩いたのだ。

 

 

 

「困っている人たちを助けるというのなら、どうしてッ……!」

 

 

 

 切歌にその疑問への答えは持ち合わせていない。だから、こうすることしかできない。

 わずかに赤くなった調の手を握る。暖かく、柔らかい感触だ。

 

 

 

「切ちゃん」

 

「調」

 

 

 

 ふと、隣のシャワーから湯が流れる音が聞こえる。

 はっと横を見ると、マリアがいた。今の調の独白も聞いていたのかもしれない。

 

 

 

「それでも私達は、私達の正義とよろしくやっていくしかない。迷って振り返ったりする時間なんて……もう、残されていないのだから」

 

「マリア……」

 

 

 

 やはり聞いていたようだ。

 あくまで凛とした口調で放たれたマリアの言だが、気のせいだろうか、それにはどこか暖かさのようなものも感じられた。

 今難しい立場にいるマリアだが、彼女なりに励まそうとしてくれているのかもしれない。

 

 黙ってマリアを眺めていると、耳をつんざく警報が鳴り出した。

 三人は顔を見合わせると、すぐに駆け出した。

 

 

 

 

 

 通路を駆けていると、突然角から人が飛び出してきた。

 慌ててブレーキをかけるも、すぐにぶつかればよかったと後悔する。

 

 

 

『おや、お三方。一体どうしたんです、そんなに慌てて?』

 

「ナイトローグ」

 

 

 

 隣の調が苦虫を噛み潰したような表情で名前を呼ぶ。

 黒い鎧に黄色いバイザー。その雰囲気と立ち振る舞いがどこかウェルを思わせる怪人物────ナイトローグ。

 どうしてファウストの人間というものはこうも自分たちと合わないのか。切歌たちだけでなく、マリアやナスターシャもそう思っているはずだ。

 

 

 

「どうしたもこうしたもないでしょう。警報が聞こえなかったのかしら?」

 

『ああ、その件ですか。それでしたらご心配なく。既にスタークが対処してくれていますから』

 

「早く行こう切ちゃん、マリア。こんな奴と話しても時間の無駄」

 

「調の言う通りデス! さっさとマムのところへ行くデスよ!」

 

「……そうね。悪いけどそこをどいてくれるかしら、ローグ」

 

 

 

 ローグは大げさに肩をすくめ、その場を後にした。黒煙に包まれると同時に姿を消す彼のいた場所を一瞥した後、三人は再びナスターシャの元へ急いだ。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 モニターには、暴れる《ネフィリム》の姿が映し出されている。

 隔壁はすでに下ろした。あとは()()を与えるだけだ。すでにスタークが向かってくれている以上、じきに収まるだろう。

 あの異形こそ、ネフィリム。

 伝承にも描かれている、共食いすら厭わぬ飢餓浄土。自立型完全聖遺物だ。

 

 ちょうどスタークが到着した。餌を投げつけている。

 一心不乱に餌を食らうその光景を見ていると、本当に我々の手でアレを扱えるのか。そんな疑問が浮かび上がってくるものだ。

 

 表情には出さずとも、感じ取るものでもあったのか。後ろに控える白衣の男が、ずいと前に出て来る。

 

 

 

「人の身に過ぎた、先史文明期の遺産……とかなんとか思わないでくださいよ」

 

「ドクターウェル……」

 

 

 

 相変わらず芝居がかった仕草と、やけに優し気な口調で闇から現れたウェルがナスターシャの肩に手を置いてきた。

 

 

 

「例え人の身に過ぎていても、英雄たる者の身の丈に合っていれば、それでいいじゃないですか」

 

「マムッ!」

 

 

 

 勢いよく部屋に入ってくる少女たち。

 三人ともすでに寝巻き(パジャマ)姿になっている。少し髪が濡れていることから、入浴中に警報を聞いたのだろう。嬉しくはあるが警報はすぐに止まったので、手を煩わせてしまったか、と自省する。

 

 

 

「次の花は未だ蕾故、大切に扱いたいものです」

 

「心配してくれたのね。でも大丈夫、ネフィリムが少し暴れただけ。隔壁を下ろして食事を与えているから、じきに収まるはず。

 それに、ブラッドスタークも向かってくれています」

 

 

 

 ウェルの言葉を聞き流し説明していると、ドン、という音と共にわずかに部屋が揺れる。まだ暴れているらしい。

 本当に大丈夫なのか、とでも言いたげな目線を送ってくるマリアを制す。

 

 

 

「対応措置は済んでいるので大丈夫です」

 

「それよりも、そろそろ視察の時間では?」

 

 

 

 またウェルが割って入って来た。しかし今度の割り込みはそう無視できるようなものではない。今日のメインイベントと言っても過言ではないことだ。

 ”アレ”の視察に向かわねばならない。決して今日でなくては、という訳ではないが、宣戦布告から一週間が経った今なら、少しは警戒も緩んでいるだろう。

 そのような企てであったが、

 

 

 

「フロンティアは計画遂行のもう一つの要……。起動に先立って、その視察を怠る訳にはいきませんが」

 

「こちらの心配は無用。留守番がてらに、ネフィリムの食糧調達の算段でもしておきますよ」

 

 

 

 そういった理由でウェルに視線を送った訳ではない。心配なのはこの男だ。底が見えない、というか、何を考えているのか分からない。

 人類救済という目的だけは本心のようだが、それ以外は計りかねる。ニッコリと優し気な笑みを浮かべながら言う彼に、念のために調と切歌を護衛に付けようと提案する。

 簡単にあしらわれてしまった。近いうちに特機部二の捜査が入りそうな今、なぜこうも余裕でいられるのだろう。彼のことだ、それに気づいていないということもないはずだが。  

 

 

 

「……分かりました。予定時刻には帰還します。後はお願いします」

 

 

 

 話は終わった。マリアに車いすを押してもらいながら部屋を後にする。

 すぐ後ろでは調と切歌が楽し気に────切歌の方が一方的に話しかけているだけだが────会話している。

 

 

 

 

 ────そのさらに後ろ。モニター室にて、無表情でネフィリムの映ったモニターを眺めるウェルの姿は、誰も見ることはなかった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 一寸先は闇、とでもいうのだろうか。どうも使い方が違う気がするが、ともかく辺りは闇に包まれている。淡い光を放つのは檻の中の怪物のみ。

 そんなわずかな光源しかないその小部屋に、彼はいた。

 

 檻を撫でる。指が檻に触れる度に、中の怪物が暴れ出す。舌と涎を垂らしながら飛び跳ねるその様子は、餌を待ちわびている飼い犬に酷似していた。

 

 

 

『流石完全聖遺物、ってとこか? 人間とはガスの効き目が違うのかもな』

 

 

 

 どこからともなく取り出した短剣の切っ先を怪物────ネフィリムに向ける。ネフィリムの高ぶりは最高潮に達し、今にも檻を破らんとするほどの勢いだ。

 

 

 

『どうどうネフィリム。焦らなくてもガスは逃げやしねェよ』

 

 

 

 そう笑いながら、短剣に取り付けられたパルプを回す。

 引き金を引くと同時に、ネフィリムの身体が消える。いや、煙に包まれたのだ。彼はこの行動を幾度となく繰り返している。

 一体これに何の意味があるのか。

 このやり取りを知る者は、彼自身を除いて誰も居ない。

 

 

 

【デビルスチーム!】

 

 

 

 悪魔の煙を告げる音声が、部屋に響き渡った。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 時刻は午後4時。今日は夜に二課職員として集まらねばならないが、それまでは自由時間だ。

 今日は響たちのクラスで、来たる《秋桜祭》の出し物の準備をしていた。

 

 

 

「はー疲れた! 学祭の準備って大変なんだね」

 

「あれ? ビッキーって秋桜祭見に行ったことないの?」

 

「うん。そんなに有名なの?」

 

 

 

 創世が意外そうな様子で尋ねてきた。見ると、他の三人も目を丸くしている。どう説明すべきか迷っている創世を見てか、詩織が説明をしてくれた。

 

 

 

「毎年リディアンが開催する一大イベントです。校庭や教室で模擬店を開いたりするのは他とあまり変わりませんが、その規模が他とは一線を画すのが特徴ですね」

 

「何といっても目玉はカラオケ大会よッ! 優勝すれば生徒会権限の範疇で、一つだけ願いを叶えてもらえるの!」

 

「確か……去年は文芸部の予算が増えたんだったかな」

 

「うえッ!? 未来も知ってたの!?」

 

 

 

 そうだったのか。今までそんな話がなかったのは、あまりにリディアン生の中で有名だったから、ということか。

 話を聞いていると、にわかに待ち遠しさが増してきた。

 それより、響と得られる情報がそう変わらない未来まで知っていたとは驚きだ。ピアノを専攻しているので、春あたりにそこで知ったのかもしれない。

 

 

 

「だって、とっくに知ってると思ってたもの」

 

「あはは。ビッキーらしいね」

 

 

 

 もっとアンテナを伸ばさなければならないかも、と考えていると、突然弓美が大声を上げた。

 

 

 

「そうだ! マスターも誘ってみる? 秋桜祭に」

 

「板場さん、ナイスアイデアです! 早速お伺いしましょう!」

 

 

 

 手を叩きながら詩織も同意する。確かに日ごろから世話になっている人だ。招待するのが筋だというものだ。

 ただ、一つ気がかりがある。

 

 

 

「大丈夫かな? 惣一おじさん、最近忙しそうにしてるけど」

 

「臨時休業してる日も多いもんね」

 

「ヒナも聞いてないの?」

 

「うん。新しくバイトを始めたってことくらいで」

 

 

 

 そうなのだ。ここのところ、惣一はよく店を不在がちにしている。

 理由を尋ねても立てた指を口にあて、決まっていると思い込んだような様子で「大人の秘密だ」などとほざいている。

 昨日ブリーフィングの場として使わせてくれたのも、その日偶然ナシタが開いていたからだ。

 

 一体何をしているのだろう。

 そんなことを考えているうちに、いつのまにかふらわーに入っていた。どうやらお好み焼きを食べて帰ろうということになったらしい。

 任務に備えて、まずは体力をつけよう。

 おいしいお好み焼きを食べているうちに、そんな疑問は霧散していった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 久方ぶりに、凪いだ心で放課後を過ごしている。

 そう翼は感じていた。久しぶりに秋桜祭の準備を手伝うことができたのだ。凪いだ、といっても少しは心が躍ってしまう。

 一番の理由は明白なのだが────。

 曲がり角を曲がったところで、飛び出してきた誰かとぶつかった。衝撃で材料が宙を舞う。

 

 

 

「脇見しつつ廊下を駆け抜けるとは、あまり関心できないな……」

 

「いいところにッ!」

 

「ん? 雪音か」

 

 

 

 飛び出してきたのはクリスだった。思った通り、リディアンの制服もなかなか似合っている。

 よく見ると、額から汗が流れている。その表情も、どちらかというと戦場にいるときのそれに近いようだ。一体何があったのか。

 

 

 

「何をそんなに慌てている?」

 

「奴らに……奴らに追われてるんだ。もうすぐそこにまで……!」

 

「何ッ!?」

 

 

 

 ”奴ら”とは、武装組織フィーネのことに違いない。急ぎ片膝ながら臨戦態勢を整え、素早く周囲を見回す。

 だが、いたって平和な光景しか目に映らない。部活に励む生徒や、ベンチに座って話し込んでいる生徒。とても組織の刺客がいるとは思えないが……。

 

 

 

「……特に不審な輩は見当たらないようだが」

 

「そうか……上手く撒けたみたいだな」

 

「奴らとは一体?」

 

「なんやかんやと理由を付けて、あたしを学校行事に巻き込もうと一生懸命なクラスの連中だ」

 

 

 

 そういうことか。なんとも可愛い後輩だ。クリスのクラスメイトには近々感謝の意を告げにいかなければならない。

 遠くでクリスを呼ぶ声が聞こえる。こちらを見ることなく、向こうへ行ってしまった。

 

 

 

「フィーネを名乗る武装集団が現れたんだ、あたしらにそんな暇は……って、そっちこそ何やってんだ」

 

「見ての通り、雪音が巻き込まれかけている学校行事の準備だ」

 

 

 

 散らばったビニールテープなどの材料を拾いながら答える。

 翼がそんなことをしているとは思わなかったのか、あっけにとられたような表情で見上げてくるクリス。

 ……いいことを思いついた。

 

 

 

「それでは、雪音にも手伝ってもらおうかな」

 

「何でだッ!?」

 

「戻った所でどうせ巻き込まれるのだ、ならば少しくらい付き合うのもいいだろう?」

 

「なッ……」

 

 

 

 言い返すことができないようだ。これ幸いとクリスの手を引き、教室まで連れて行くことにした。

 

 

 

 

 

 紙で花を作る。

 開催まであと三日ということもあり、残っているのは細かい作業だけだ。クリスはなんだかんだ言いながらも手伝ってくれている。

 夕陽が差し込む。校舎が移転し、教室の位置が変わってからは恒例のことだった。翼個人としては、今の廃校を元にした新校舎の方が好みだ。

 

 黙々と作業を続ける。

 沈黙が続く中、それをどう思ったのかクリスが話しかけてきた。

 

 

 

「……なあ。アンタ、マスターのことどう思う?」

 

「マスター……。石動殿の事か?」

 

「ああ」

 

 

 

 惣一の話になった。

 彼について知っているのは、性格の他には数年前に響が出会った恩人らしい、ということくらいだろうか。

 お調子者を演じてはいるが、あくまでそれは響たちに妙な緊張を与えないようにするためだろうと翼は考えている。コーヒーの味が酷いこと以外は尊敬できる人物だと思うが。

 

 それを告げると、クリスは興味を失くしたのか窓の外を眺めだした。

 

 

 

「何か思う所でもあるようだな」

 

「まあな。でも、アンタが何も感じてないんならあたしの杞憂だって分かった」

 

「……なるほどな。そういう意図であるのなら、私も答え方を変えよう」

 

「尊敬してるんじゃないのかよ?」

 

 

 

 合点がいった。

 要するにクリスは惣一に対し何か違和感を抱いていると言いたいのだろう。

 そういうことなら話は別だ。

 確かに惣一は尊敬できる大人ではあるし、そのことについて翼は何も疑っていない。だが────。

 

 

 

「言いようのない感覚、とでも言うのかな。ほんの僅かではあるが、心の端で何か引っかかるものは私も感じている」

 

「……そうか。あたしは、初めてマスターと会ったとき身構えかけちまったんだ。

 あの人とは初対面のはずだってのに、なんでかな」

 

「ふむ……」

 

 

 

 クリスも同じようなことを考えているらしい。

 身構えた件については、翼も疑問に思っていた。惣一とクリスが対面したときにクリスの身体が一瞬跳ねた気がしたのだ。

 

 それに翼も。惣一と未来が外部協力者となり、翼と対面したときのことだ。響と未来、それに惣一と二課本部で出会った際、なぜか翼は惣一と初めて会った気がしなかった。

 それどころか、なぜか一瞬戦場で刀を握っているときの感覚に襲われた。即ち接敵しているような感覚になった、ということだ。

 もしかすると、何か武術でもやっているのかもしれない。その溢れんばかりの闘気が自然と二人を反応させてしまっているのではないか────そう伝えると、なぜかクリスに呆れられてしまった。

 話は終わったようだ。

 

 仕方ない、と今度は翼が話を振った。

 

 

 

「まだこの生活に馴染めないのか?」

 

「まるで馴染んでない奴に言われたかないね」

 

「確かにそうだ。しかしだな……」

 

 

 

 痛いところをついてくる。だが、それとこれとは話が別だ。せっかく気にかけてくれているクラスメイトたちがいるのだ、そんなことを続けようとした途端、後ろの扉が勢いよく開かれた。

 

 

 

「あっ、翼さんいたいた! 材料取りにいったまま戻ってこないからみんな探してたんだよ?」

 

「でも心配して損した~。いつの間にかかわいい下級生連れ込んでるし」

 

「皆、先に帰ったとばかり……」

 

「だって翼さん、学祭の準備が遅れてるの自分のせいだと思ってるし」

 

「だから私たちで手伝おうって」

 

「私を手伝って?」

 

 

 

 クラスメイトたちだ。

 彼女たちも翼と同じような材料を抱えている。数回に分けて持って行こうと思っていたものだった。

 手伝ってくれる、というか、材料を取りに行っただけのようだ。

 

 

 

「なんだ、人気者じゃねえか」

 

 

 

 窓を眺めながら呟くクリス。仲間だと思っていたのだろう。

 クラスメイトたちが四角く合わせた机の残りの椅子に座ってくる。クリスに興味津々らしい。

 

 

 

「でも昔はちょっと近寄り難かったのも事実かな」

 

「そうな……んスか?」

 

「そうそう。孤高の歌姫って言えば聞こえはいいけどね」

 

「初めはなんか、私たちの知らない世界の住人みたいだった。そりゃあ芸能人でトップアーティストだもん」

 

「でもね。思いかけて話しかけてみたら、私たちと同じなんだってよく分かったんだ」

 

 

 

 本人がいる前でそんなことを言われてははにかんでしまう。

 だが、直にそれを聞けてよかったのかも知れない。

 

 

 

「ちぇっ、上手くやってらぁ」

 

「面目ない、気に障ったか?」

 

 

 

 さてね、と言いながらも、花作りを再開している。

 

 

 

 

「……だけどあたしも、もうちょっとだけ頑張ってみようかな」

 

「……そうか」

 

 

 

 ちらちらとこちらの様子を窺いながら、消え入るような大きさで呟くクリス。

 クラスメイトたちと顔を見合わせ、その様子を微笑ましく思う。

 準備は順調に進んだ。後はクリスも友と上手くやれればよいのだが……。

 

 だが、それも杞憂だろう。数時間後の任務の前に、実にいいひとときを過ごせた。この日常を守護ろう。その想いを再確認できた一日だった。

 

 




次回「終焉(終わり)が告げるルナティックドーン」
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