戦姫絶唱シンフォギア Evolution's Symphony   作:セグウェイノイズ

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蓮と賢人くんの馴れ初めがとうとう語られそうなので初投稿です
7000文字くらい削ったらダイジェスト感が出ました


EPISODE05「終末のレボリューション」

 浜崎病院。

 海辺にある廃病院だ。開院当初は破格の医療費が理由で入院希望患者が後を絶たない状態であったが、度重なる医療ミスと院長の凶行により、ほどなくして閉鎖となった経緯がある。

 さまざまな理由で未だ取り壊されていないこの病院に、戦姫たちは訪れていた。

 

 慎次からの情報を元に割り出したこの施設。組織の伏魔殿である可能性は極めて高い。その証拠に、

 

 

 

「挨拶無用のガトリングッ!」

 

 

 

━━━━BILLION MAIDEN━━━━

 

 

 

 アームドギアをガトリング型に変形。挨拶代わりに鉛玉を見舞わせる。

 

 この通りだ。突入するや否や、召喚されたノイズが行く手を阻んでいた。

 室内戦闘において、重火器を撃ち放ちノイズを攻撃するクリスは不利になる。だからこそ、響と翼がクリスのカバーに回るという作戦だったが、果たしてその策は成功したようだ。

 それでも、手っ取り早くミサイルで片付けられないということで少々もどかしくはあるのだが。

 

 ノイズを蜂の巣にしていくと同時に、新たな個体が湧いて出る。流石に数が多い。

 こういうときに、弦十郎に見せられたアクション映画から学んだ戦法を試したくなる。が、今は二人の援護に回るべきだろう。

 

 

 

「目障りだッ!」

 

「翼さん、やっぱりこのノイズは……!」

 

「ああ、間違いなく制御されている!」

 

 

 

 撃っても、斬っても、殴っても。

 一向にノイズの数は減らない。やはりソロモンの杖で制御されているものだ。いや、それはいい。よくはないが。

 問題は、恐らく他の二人も感じているであろう違和感にある。

 どれだけ倒しても、否、倒したつもりであっても、先ほどから攻撃したノイズが()()してきているのだ。

 

 翼が放った蒼ノ一閃の進行上にいるノイズが一匹たりとも消滅していないのがその証左といえるだろうか。

 両断されたノイズ。だが瞬きの間に傷口が癒着し何事もなかったかのように装者に襲いかかっている。

 一度ならいい。だがそれが何度も続けば次第に苛立ちが勝ってくる。優勢なのはこちらのはず。けれど消耗しているのは向こうではない。

 

 

 

「何でこんなに手間取るんだッ!?」

 

()()()()()()()()()()()……!?」

 

 

 

 翼の握る大剣が初期状態の刀に戻る、いや、戻されたというべきか。

 ギアの出力の低下、即ち、()()()()()()()

 融合症例である響はあまり不調を感じてはいないようだが、第一種適合者である翼とクリスに関しては大問題だ。そもそもよほどのことがなければ第一種適合者の適合係数が低下するなどあり得ないことなのだが……。

 

 次第にアームドギアの重量が増してくる、いや、力が入らなくなっている。

 それでも二度三度と攻撃をくり返し、なんとかノイズを掃討する。

 

 

 

「二人とも、気を付けてッ!」

 

 

 

 最初に気付いたのは響だった。

 荒い息をつくクリスに襲い掛かる”何か”。弾丸のように突き進むそれを響が横から殴り飛ばし、事なきを得たが、”何か”は健在だ。

 

 

 

「どう見てもノイズじゃない……よな」

 

「奴らの保有する生物兵器という可能性もあるが」

 

 

 

 仄かに光るラインのおかげで、なんとかその全体像が分かる。辛うじて四肢のようなものはついているものの、巨大な頭部の存在でどうしようもなくそれが”異形”であると思い知らされる。

 そもそも響の一撃をまともに食らってなお姿を保っていられるノイズなど存在するものか。目の前の異形は()()()()()()()()

 地の底から響くような唸り声を上げる異形。今にもこちらに飛びかかってくるというその刹那、突如その異形は首を横に向けた。

 

 地面を砕きながらその異形は突進し、暗闇へと消えていった。

 何が何だか分からない。いきなり現れたかと思えばいきなり消えていく。その奇怪さに唖然としていると────。

 

 

 

「ふむ。やはり以前ほどの積極性がありませんね。理由は果たして……」

 

『気が乗らなかったんじゃねェか? そういう事もあるだろ』

 

 

 

 奥から声が響いた。

 コツコツと足音は反響し、そしてそれは次第に近づいてきている。男の声だ。それも二人。片方の声には嫌というほど聞き覚えがある。

 

 突如奥に明かりが灯った。先ほどの声の主がランタンに火を付けたのだ。

 ランタンを持っているのは案の定というべきか、ブラッドスターク。そこまではいい。だが問題は、炎に照らされ明らかとなった()()()()の方にあった。

 

 

 

()()()()()ッ!?」

 

 

 

 岩国基地にて、ソロモンの杖と共に行方知れずとなっているはずの男、ウェルが件の杖を片手にそこにいた。つまりは、”そういう事”なのか。

 

 

 

「こうも早く見つかるとは、意外に聡いじゃないですか」

 

『よう。意外に早い再会になったが……。それだけアイツらの警備がザルだったって事かねェ』

 

 

 

 こんなときでも普段の調子を崩さないスタークが、腹立たしいことこの上ない。

 

 

 

「そんな、博士は岩国基地が襲われたときに……」

 

「……つまり、ノイズの襲撃は全部」

 

 

 

 理解が追いつかない、という様子の響を置いて、事態は刻一刻と変化している。杖を奴が強奪したというのなら、岩国基地やライブ会場でノイズを呼び出したのも彼ということになる。

 

 

 

「明かしてしまえば単純な仕掛けです。あの時既にアタッシュケースの中にソロモンの杖はなく、コートの内側にて隠し持っていたのですよ」

 

『確かに簡単だなァ!』

 

 

 

 本当に簡単な仕掛けだった。スタークは手を叩いて大笑いしている。

 

 

 

「バビロニアの宝物庫よりノイズを呼び出し制御する事を可能にするなど、この杖をおいて他にありません」

 

 

 

 杖が発光し、通路に再びノイズが蠢きだす。

 

 

 

「そしてこの杖の所有者は、今や自分こそがふさわしいッ! ────そう思いませんか?」

 

「思うかよッ!」

 

 

 

 侵攻を始めるノイズに対し、怒りのままにMEGA DETH PARTYを放つクリス。

 半ばクリスの意思で追尾するそれは、いつものように全弾ノイズに向かって炸裂する────はずだった。

 異変はすぐに感じ取れた。ミサイルを発射したと同時に違和感が全身を襲う。それはすぐに全身を駆け巡る衝撃、激痛へと転化。あまりに急な事態に足に力が入らず、ミサイルの狙いが逸れてしまった。

 

 幸い、爆炎によりノイズは掃討されたようだ。しかしミサイルの一部が天井を貫通し、室内だというのに夜空が見える。瓦礫もあって装者の機動性を大幅に削いでしまったのは、間違いなく自分(クリス)の責任だ。

 

 

 

「雪音ッ!?」

 

「クソッ、何でこっちがズタボロなんだよ……!」

 

 

 

 翼に肩を貸してもらいながらなんとか立ち上がる。それでもまだダメージが抜けきらない。

 通信機越しに《適合係数の低下》《ギアのバックファイア》という言葉が聞こえてくる。

 適合係数の低下とはにわかに信じがたい事実だが……。明らかに下手人であろうウェルを睨む。今にも射殺さんとばかりに向けられたクリスの視線を、彼は肩をすくめるだけで黙殺した。

 

 

 

「私はソロモンの杖に相応しい英雄の器ではない。貴女はそう言いました。

 ですが────()()を見た後でも尚そう言えるかは、甚だ疑問です」

 

 

 

 それどころか、唄うような口調で、自慢の玩具を見せびらかす子供のように。”英雄の器”などという要らぬ修飾をしながら彼は”ソレ”を白衣の内から取り出した。

 

 ”ソレ”はクリスの、そして装者や二課職員たちの眼を見開かせるには十分な威力を持っていた。その武装には嫌というほど見覚えがあるのだから。

 

 

 

「その武装は……まさかッ!?」

 

【バット!】

 

 

 

 返答の代わりに”ソレ”を────コウモリの装飾があしらわれた()()()()()を、拳銃型の武装()()()()()()()()()に装填した。

 重低音が室内に鳴り響く。

 

 

 

「では、答え合わせと行きましょうか」

 

【ミストマッチ!】

 

「……お前が」

 

 

 

 夜の闇よりも黒い蒸気がウェルの身体を覆う。激しいスパークが闇を照らし、彼の”身”が”変わった”ことを指し示した。

 

 

 

「お前がッ! アイツの正体かッ!!」

 

【バット……バッ・バット……】

 

 

 

 黄色いバイザーが妖しく光る。コウモリの意匠を持つ鎧の姿が明らかになっていく。

 

 

 

『正解! そう言う事だ』

 

〈────ナイトローグだとォッ!?〉

 

【ファイヤー!】

 

 

 

 蒸気が爆ぜる。

 火花を散らしながら拡散した蒸気を鎧の内に吸収し、拡散する波動と共に《彼》は現れた。

 

 

 

「……では、名乗らせて頂きましょう。私はドクターウェル。

 

 そしてまたの名をッ! ナイトローグッ!!

 

 

 

 前回の接敵と比べ声も明瞭になり、仰々しいポーズと共に名乗りを上げるウェル────否、《ナイトローグ》。

 目の前に広がるのは、今まで二課やフィーネの前に度々現れ、こちらの妨害をしてきたコウモリ男、ナイトローグの正体がウェル博士であるという事実。

 

 

 

『俺とコイツで、《ファウスト》って組織を運営してる。ビジネスパートナーってのが近いか? とりあえず、以後お見知りおきを……ってな』

 

 

 

 マスクから突き出たブレードをなぞりながら自己紹介を始めたスターク。あまりにも情報が多すぎる。

 襲撃してきた謎の生物。生存していたウェル。ソロモンの杖の行方。ナイトローグの正体。そして、恐らくルナアタック事件の際にも暗躍していたと思われる組織、ファウスト。

 

 

 

「さあ、自己紹介も終わったので、そろそろお暇しましょう」

 

 

 

 そういうや否や、スチームガンからボトルを引き抜いたナイトローグの鎧が霧散しウェルの姿へと戻った。訳が分からない。

 

 

 

「戻っちゃうんですかッ!?」

 

「何がしてえんだよ……」

 

『わざわざ()()を見せつけるためだけに来たんだよ、コイツは』

 

 

 

 踵を返し、ソロモンの杖を天井に空いた穴に向けるウェル。

 

 

 

「では引き上げましょうか。彼女達のアジトも知られた事ですし」

 

 

 

 呼び出したのは通常のノイズではないようだ。気球のように上半分が膨れ上がり、下半分の鋭い爪ががっちりと闇に紛れた"何か"の入ったケースを掴んでいる。

 ノイズはそれを掴んだまま空へと浮上していく。あの生物が野に解き放たれてはどんな危害が及ぶか知れたものではない。今すぐにでもノイズを殲滅、ケースの確保をしたい所ではあるが、まだバックファイアのダメージが抜けきっていないのだ。

 

 

 

『じゃ、俺はこれで失礼するぜ。お前はどうする?』

 

「身軽になった事だし、もう少しデータを取りたい所ですが……ん?」

 

 

 

 だが、ここでウェルの捕縛くらいならばできる。響に肩を貸してもらいながらも、クロスボウを彼に向け威嚇する。

 

 

 

「わざわざ鎧を脱いだお前を逃がす馬鹿がどこにいるってんだ?」

 

「おやおや」

 

『おいおい、捕まっちまってるじゃねェか!』

 

「お前もだ。逃げられるとでも思ったか?」

 

 

 

 ゆっくりと両手を上げ降参の仕草を見せるウェル。だがその声色は余裕に溢れており、スタークも笑い混じりに彼を茶化している。依然油断ならない状況だ。

 

 

 

 

「特にお前には訊きたい事が山ほどある」

 

『何度も言わせるなよ。思うって言ったろ? ホラ、早くしないとネフィリムがどこかに行っちまうぜ』

 

「ネフィリム……? ッ!?」

 

 

 

 あの異形の名は”ネフィリム”というらしい。

 気付いた時にはスタークの姿はなく、その場にウェルだけが残される。

 どうしたものかと決めあぐねている時────外に向かって飛び出す、翼の姿が目に入った。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 またしてもスタークに逃げられてしまった。いずれはあの黒い蒸気をなんとかしなければならないだろう。

 スタークは消え失せ、ウェルはクリスが対応してくれている。なら、翼がやるべきことは一つ。

 

 

 

〈進行経路出ましたッ! このまま直進すると、洋上に出ます!〉

 

 

 

 海に出られては追跡が困難になる。適合係数が低下している現状だが、天羽々斬の機動性ならば十分に対処が可能なはずだ。

 考えている時間はないと、翼は瓦礫の山を足場にし穴から外に駆け上がった。

 

 

 

「立花! 雪音を頼むッ!」

 

 

 

 コンバーターから音楽が奏でられる。

 翼自身の心象を音にした戦歌(いくさうた)、低下したフォニックゲインも少しは増幅するはずだ。

 

 

 

〈この先は海上ッ!〉

 

 

 

 施設の屋上のアスファルトを蹴り出し、脚部のスラスターを展開し加速。ギアのバックファイアに襲われる瀬戸際の出力でノイズを追跡する。

 しかし間に合わない。病院から海までの距離が近すぎるのだ。例え海目掛けて跳躍したとしても、あと少し足場がなければ刃は届かない。

 

 

 

〈そのまま飛べ翼ァッ!!〉

 

 

 

 そんな時に耳元から聞こえてきた、弦十郎の指令。

 飛べ、とは海に飛び込めということか。一瞬疑念が頭をよぎるも、すぐにその真意を理解する。ならば問題はない。

 

 

 

「目覚めよ、蒼き破邪なる無双────」

 

 

 

 地面と海面のちょうど境目。少しでも足を踏み外せば海中へと転落してしまうというギリギリの場所を踏みしめ、全力で跳躍した。

 だがやはり距離がある。スラスターを使い滑空を試みるも、今の出力ではそれも焼け石に水だ。そのまま慣性に従い翼の身体は弧を描きながら海へと落ちていき────。

 

 

 

 

 

〈────仮設本部、急速浮上ッ!〉

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()

 海中から轟音と共に飛び出してきたのは、中型の潜水艦。これこそが特異災害対策機動部二課の新たな人類守護の最後の砦、《移動式仮設本部》だ。

 仮設本部の先端を足場とし、跳ぶ。高さも十分、適合係数の低下した今であっても、この条件ならば問題なくノイズを両断できる。

 

 あの異形を外に出してはならない。幾千、幾万、幾億もの生命を守護る使命を帯びた剣が、あれを野ざらしにしておけようか。

 大剣へと変形させたアームドギアを握り締め、振りかざす。

 狙うは正中、太刀筋は見えた。

 

 一閃。

 あらゆる魔を断ち破るその斬撃は、瞬く間にノイズを炭素へと散らせる。

 当然支えを失い、落下していくネフィリムの入ったケース。あとはこれを回収すればいいのだが。

 

 

 

「いざ尋常に、我が剣の火に消え────ッ!?」

 

 

 

 そう簡単にいかないのが現実だ。

 ケースに指先が触れたというその刹那、翼の膝に走る鋭い痛み。体勢を崩し、そのまま海へと墜落する。

 海に飛び込むこの刹那、翼の瞳に映ったのは見覚えのある得物だった。先の戦いの終盤に満を持して開帳されたアームドギア。

 そして、かつて奏が扱っていたものでもあるその槍の柄に"彼女"は立っていた。その手には翼が確保したつもりだったケースが握られている。

 

 

 

「アイツはッ!?」

 

 

 

 太陽が昇る。

 地上で彼女の姿を見たクリスも目を見開いた。

 浮遊するその槍を足場に、輝く朝日を背に立つ彼女の名は────。

 

 

 

「時間通りですよ、フィーネ」

 

「…………フィーネ?」

 

「終わりを意味する者、我々の組織の象徴であり、彼女の二つ名でもある」

 

「フィーネって……え、えっ? あの人が?」

 

 

 

 こちらの動揺を誘おうという作戦なのか。

 言っている意味が分からない。彼女が、マリア・カデンツァヴナ・イヴが再誕したフィーネだと彼は嘯く。反射する眼鏡の光のせいでその瞳に映る感情は計り知れないが、とにかく彼はそう言った。

 

 響の頭の中は「?」で埋め尽くされていることだろう。当然だ。それに構わず、ウェルは声高らかに叫ぶ。

 

 

 

「そうッ! 新たに目覚めし、再誕したフィーネですよッ!!」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 海上に浮かぶ二課仮設本部内、司令室にて。

 現在司令室は過去最大の異様な雰囲気に包まれていた。

 

 

 

「フィーネ……だと?」

 

 

 

 いつもの彼なら大声で「フィーネだとォッ!?」とでも叫んでいそうな弦十郎。だが、その反応は芳しくない。正確に言えば困惑している。

 オペレーターとしての使命感か、いち早く我に返ったのはあおいだった。

 

 

 

「えっと……。つまり、異端技術を使うことから、フィーネの名を組織になぞらえた訳ではなく……」

 

「蘇ったフィーネそのものが、組織を統括している……という筋書きでしょうか?」

 

 

 

 纏めるとそうなるだろう。

 こちらの陣営にフィーネ本人がいる以上、彼女らの言の信憑性はゼロに等しい。この分では、過去の声明ももう一度洗い直す必要があるかもしれない。

 

 

 

「なぜ彼女の名を騙るのかの考察については後回しだ。とにかく今は……」

 

 

 

 その時、背後の扉が開かれた。

 

 

 

「了子くんッ!」

 

「…………」

 

 

 

 司令室に入ってきたのは、渦中の女。

 腕を組み、目を細めマリアの映されたモニターを睨んでいるその表情から、彼女が不機嫌であることは火を見るよりも明らかだ。

 全身から放たれる暴風のような威圧感。金髪紫眼の美女にして、超先史文明期の巫女。

 フィーネがそこに立っていた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「いや、だって……了子さんは今……」

 

「リインカーネーション……。遺伝子にフィーネの刻印を持つ者を魂の器とし、永遠の刹那に存在し続ける輪廻転生システムです。貴女達も直接聞いたことがあるでしょう?」

 

「どうしてこんなことを……?」

 

「さて、それは自分も知りたい所ですね」

 

 

 

 お互いの認識のズレに気付かぬまま、話は進んでいった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 マリアたちにとって、ネフィリムを死守できたのはまさに僥倖だ。ただ、

 

 

 

「この盤面、次の一手を決めあぐねるわね」

 

 

 

 ケースを上に放り投げる。手筈通りネフィリムは回収され、ステルスの効果範囲内へと入る。

 これで一先ずは安心だ。計画の遂行に支障はない。向こうで捕らえられているウェルの救出も算段はついている。

 

 ────重心を右に傾ける。

 マリアの顔のすぐ右。数瞬前まで半身があったその場所を、一筋の閃光が通り抜けた。

 斬撃だ。()()があの程度でやられるはずはないと踏んではいたが、こうも早く復帰してくるとは。気づけば、彼女が────風鳴翼が頭上に迫っていた。

 

 

 

「甘く見ないで貰おうかッ!」

 

「甘くなど見ていないッ!」

 

 

 

━━━━蒼ノ一閃━━━━

 

 

 

 大剣から繰り出される二つ目の太刀、蒼雷を纏った斬撃が飛んでくる。マントを硬質化させ回転することでそれを防ぎ、その勢いのまま翼を吹き飛ばした。

 二課の本部に激突した彼女に追撃を加えるべく、マリアも甲板上に着地する。この隙を逃しはしない。彼女の威風に答えるように、ガングニールに力が宿る。

 

 

 

「このッ! 胸に宿った、信念の火はッ!」

 

 

 

 誰も消すこと能わぬ永劫の炎が、胸の内で燃え盛る。例えこの身をその熱で焼きつくそうとも、この信念のためにならば────それだけの覚悟を胸に抱いて、彼女は戦場に立っている。

 上段、上段、上段。三合打ち合うも、決定打にはなり得なかった。しかし翼の体勢を崩すことには成功する。

 

 

 

「おおおッ!」

 

「闇に惑う夜には、歌を灯そうか……」

 

 

 

 革命を起こす以上、自らが矢面に立ち先導する覚悟はある。巨大な悪を独奏(つらぬ)くために、彼女は走り続ける。

 無理矢理体勢を立て直し、刃をこちらに向けてくる翼。だが手数が足りない。こちらの得物は二振りだ。マントを用いて翼の進路の妨害をする。それでも向かってくるのなら力を宿したこの烈槍で払えばいい。

 

 

 

「絶対に譲れないッ! 夢が吠え叫ぶよ、正義のために悪を貫けッ!!」

 

 

 

 アームドギア(無双の一振り)とマントを用いた突貫攻撃。甲板に螺旋状の傷を残し、翼に避けられようとも()を潰す。

 数度攻撃を繰り返すも、全て避けられる。だが翼も分かっているはずだ。避け続ければ潜水艦の潜航機能に支障があると。

 

 

 

━━━━逆羅刹━━━━

 

 

 

 案の定勝負を急いできた。脚部ブレードによる奇襲で槍を弾かれたのは誤算だったが、この程度で勝てたとは向こうも思っていないだろう。

 

 

 

「勝機ッ!」

 

「ふざけるなッ!」

 

 

 

 即座にアームドギアを中段に構え、マリアの胴体目掛けて斬撃を放つ翼。しかしそれが何だというのか。

 胸の覚悟を構える。マリアは翼を迎え撃つため、甲板を蹴り腕を引き絞る。

 激突は一瞬。この瞬間はこちらにとっても勝機でもあるのだ。

 

 

 

「誇りと契れッ!!」

 

 

 

 今にも交錯せんと唸る剣と槍。やがて得物たちはぶつかり合い────。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 遥か遠方。

 二課にもナスターシャにも検知できない距離の埠頭にて。()()はスタークからの指令を待っていた。

 既にその銃剣の照準は黒い槍兵、マリア・カデンツァヴナ・イヴに合わせてある。

 

 ガングニールと天羽々斬が幾度かの接触を果たそうとしている。その刹那、マスクの下に取り付けられた通信機から短く指令が伝えられた。

 

 

 

〈始めてくれ〉

 

『了解、狙撃を実行します。全てはファウストのために』

 

 

 

 迷わず左手に握られた銃剣の銃爪を引く。

 未だ経験の浅い身だ。失敗しても問題ないとスタークは言ってくれたが、それでは身寄りのない自分を拾ってくれた彼に顔向けできない。

 だが、左半身に装着された()()()()の性能により、少しのブレもなく狙撃を行える。

 放たれた紫弾はまっすぐに飛んでいき、そして────。

 

 

 

【ファンキーショット! ギアリモコン!】

 

 

 

 無事に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 先の攻防を制したのは翼だった。だが、

 

 

 

「何だ、今の攻撃は……?」

 

「何、今の横槍はッ!?」

 

 

 

 アームドギアが交錯する刹那、二人の間に割って入ったのは紫の光弾。その光弾はマリアも予想外だったらしく、共に一瞬硬直してしまった。

 光弾は正確にマリアのアームドギアの柄に着弾し、弾き飛ばした。つまり輩は初めからマリアの方を狙っていたということだ。

 結果だけ見れば二課の味方、となるのかもしれないが、一概にそうも言っていられない。

 ふと、脳裏に一瞬よぎるスタークの姿。彼の持つライフルなら、超長距離狙撃も可能なのでは────だが、ともあれ今は眼前の彼女に集中するべきだ。

 

 

 

「少しずつだがギアの出力が上がっている……行けるか?」

 

 

 

 案の定というべきか、適合係数の低下は一時的なもののようだ。ギアを重く感じない。これならマリアを甲板外へ弾き飛ばすことも可能だろう。

 対してマリアはどうだ。

 すでにその息は上がっている。大きく肩を上下させながら、頬を伝う汗を拭うその姿に酷く既視感を覚える翼。

 時間と共に下がる適合係数。著しく低下する身体能力。この様子は────。

 

 耳に手を当て、何者かと通信しているマリア。その表情に余裕はない。やがて、()()となる語句が彼女の口から放たれた。

 

 

 

 

()()()ではここまでなのッ!?」

 

「時限式……。やはり、奏と同じLiNKERをッ!?」

 

 

 

 結論に辿り着いた直後、上から叩き付けられるような暴風が浴びせられる。

 目を細めながらも空を見上げる翼。けれどそこには()()()()。確かに”そこ”から風は起こっているのだが。

 考える暇もなく、新たな超常が目に入る。突然甲板から足が離れ、浮遊しだしたマリアに自身の目を疑う。ガングニールにそんな機能はないはずだ。

 何かに掴まりながら上昇する姿。自身も追いかけようと甲板を蹴った途端、()()は姿を現した。

 

 

 

「決着は預けるわ、風鳴翼ッ!」

 

「超常のステルス性能ッ……我々の知り得ぬ異端技術かッ!?」

 

 

 

 突如輪郭を現した、巨大な鉄塊。

 上から叩き付けられる暴風は回転するプロペラによるものだった。大型ヘリの側面から伸びる梯子に足をかけ、声高らかに叫ぶマリアだったが、その表情は余裕からは縁遠い。

 大型ヘリは埠頭へと移動し、そこでいつの間にか現れ響たちと戦っていた二人の装者とウェルを回収。瞬く間に再び透過機能を発揮。クリスの銃撃の甲斐もなく、辺りは静寂に包まれた。

 

 

 

「マリア・カデンツァヴナ・イヴ……。何故自身をフィーネだと嘯く? そうまでして為すべき事でもあるというのか……?」

 

 

 

 太陽はすでに水平線から離れ、明け方とは言えない位置にまで昇っている。

 謎を残しながらも今回の戦闘は幕を閉じた。確かにマリアに手傷こそ負わせられたが、あれは正体不明の狙撃によるものが大きい。

 とはいえ、ウェルには逃げられネフィリムの入ったケースは奪取された。

 今回の結果は、完膚なきまでの”敗北”だ。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 全てが終わったとき、時刻は午前7時30分。どうあがいても遅刻は免れない。

 まあ、それはいい。というより、この時点の響にそんな発想はなかった。とにかくクリスが不調から回復した喜びと、ほんの少しの胸のザラつきでそこまで考えが及ばなかったのだ。

 

 そんなこんなで今は放課後。

 事情を知るクラスメイトや教師以外からは、いつもの人助けが原因だと思われていた。

 授業が終わったと同時に未来に断りを入れ、教室を出る。途中で翼とクリスと合流し、屋上で待機していたヘリコプターに乗り込み仮設本部へと向かった。

 昼休みにあった弦十郎からの連絡では、なにやら「重大発表」があるらしい。

 

 

 

「なんだろうね重大発表って」

 

「さあな。奴らの動向でも掴めてるといいんだが……」

 

「緒川さんはご存じでないのですか?」

 

「ええ、まあある程度は。僕から聞くより、()()から直接聞いた方が理解しやすいと思います。僕も司令から聞いた時、面食らってしまいましたから」

 

「「「?」」」

 

 

 

 海上に到着し、本部へと入る。ようやく慣れてきた仮設本部の通路を通り、司令室へと辿り着く。

 そこにはいつも通りの光景があった。

 

 忙しなく動き回る朔也やあおいたちオペレーター。銃後を守る彼らには頭が上がらない。

 そんなオペレーターたちに指示を飛ばし、自身もモニターに表示される情報を精査している司令の弦十郎。よくあれだけの人数に的確に指示を出せるものだ、とずっと思っている。

 そして、弦十郎のデスクの隣で、右手は目にも止まらぬ速度で仮想キーボードを叩き、左手に持つタブレットに映る書類に目を通しているフィーネ。

 

 いつもと違うところと言えば、フィーネの姿があることくらいだろう。

 

 

 

「えーッ、了子さんがいるーッ!?」

 

「フィーネッ!? なんで司令室に……」

 

「黙りなさい。貴女達にとって時間は有限でしょう。口を開く暇があるのなら……」

 

「まあまあ了子くん」

 

 

 

 あまりに溶け込みすぎて、一瞬脳が誤作動を起こした。

 フィーネがいる。それは明らかな異常だった。それに、その表情からは最後に会ったときのような気だるさは感じられない。視線こそタブレットに向けられているものの、その雰囲気は別物だ。

 ということは、つまり。とうとうやる気を出してくれたのか。

 期待を込めた眼差しで弦十郎を見ると、彼は大きく頷いた。

 

 

 

「これについては、彼女から伝えて貰おう」

 

 

 

 目でフィーネに合図を送ると、彼女はようやく視線をこちらに向けた。かつての覇気が戻って来たかのようだ。

 彼女は身構えるクリスを一瞥し、

 

 

 

「……私は一刻も早く、転生した私を騙るあのたくらんけ共を始末せねばならない」

 

「……それは、つまり」

 

「始末たぁ穏やかじゃねえな。つまりなんだってんだよ?」

 

「今回の件に関して私とアナタ達の目的はある程度一致した。だから、私もそれなりに助力してあげると言っているの」

 

 

 

 およそ華の女子高生が出してはならないような、そんな叫び声が潜水艦内にこだました。

 

 




ウェルについての補足
・前回モニターを見てウェルに意味深なカットが入りましたが、エボルトが本当は何をしてるかは知りません。
 そんなスタークと自分を信頼していいんですかね?とか思ってる程度です
・スタークはFIS陣営にローグの正体がバレなければいいと思ってるので特に焦ってません。
 予定外のところでFIS陣営が見てる中で蒸血されると37話冒頭みたいにやってくれたなァァァッ!ってなります



展開が原作と変わらなかったので新キャラ出したろ!って思って出してAXZ編くらいのプロットがぶっ飛びました
(新キャラといってもオリキャラでも実質オリキャラでも)ないです。
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