戦姫絶唱シンフォギア Evolution's Symphony 作:セグウェイノイズ
後書きに惣一についての補足があります 長いです
「では、自らをフィーネと名乗ったテロ組織は、米国政府に所属していた科学者達によって構成されていると?」
〈正しくは、”米国連邦聖遺物研究機関《F.I.S》の一部職員が統率を離れ、暴走した集団”ってェ事らしい〉
響たちが到着する少し前のこと。
弦十郎は斯波田からの報告を受けていた。いつも仕事が早いので、随分助かっている。
斯波田から送られてきた資料は武装組織のメンバーの一覧だった。その中には、つい数時間前に生存が発覚したウェル博士の名前もある。だが、想定より随分と数が少ない。
F.I.Sという機関からの職員はわずか2名。それに、装者3名と雇われたらしいスタークを加えても総勢6名。少数精鋭と言えば聞こえはいいが、とんだ零細組織があったものだ。
〈こいつァ飽くまで噂だがよ。F.I.Sってのァ、日本政府の情報開示以前より存在しているとの事だ。どっかに、連中が組織にフィーネの名を冠せる道理があるのかもしれん〉
蕎麦をすすりながら考察を続ける斯波田。秘書が替え玉を持ってきた。
〈テロ組織には似つかわしくないこれまでの行動も、存外周到に仕組まれているのかもしれんな。その辺どう思うよ? フィーネさんよォ〉
箸がモニター越しに、弦十郎の隣にいるフィーネに向けられる。
彼女は斯波田の方を一切見ようとせずに、
「ご想像にお任せするわ。どうせあの子達にも同じ話をするのだもの、時間の無駄よ」
〈かァ~ッ、時間の無駄と来たか! まァ確かに道理だな。じゃ、後で報告書でも纏めといてくれや〉
時間の無駄と言い放ったフィーネを笑い飛ばした。こういう所を弦十郎は尊敬している。通信が切れる直前、再び秘書が蕎麦の替え玉を持って来たのが見えた。何杯すする気なのか。
通信が切れるとほぼ同時に、司令室の扉が開いた。響たちが到着したようだ。
案の定フィーネの姿に驚いている。ここ3ヶ月、機嫌が悪いか覇気の抜けた顔しか見せなかった彼女が明らかにやる気を見せているのも大きいだろう。
◆◆◆
「という訳で、本日を以て了子くんが本格的に我々に協力してくれる事になったッ!」
「やったー! 了子さん、またよろしくお願いしますねッ!」
それはとても嬉しい。戦力的にも、精神的にもだ。
未だ響は彼女の信頼を得られていない。だがこうして指揮の現場に現れてくれるということは、それだけ距離を縮められる機会が増えるということだ。
「早速だが了子くん、武装組織フィーネに所属する装者達について説明してくれ」
「その呼び方はやめなさい」
フィーネの強い要望で、以降マリアたちの組織の呼称は彼女等が元々所属していた組織の名である《F.I.S》となった。了子呼びについては何も言わなかったあたり、多少は信用されているのかもしれない。
「あの偶像……マリア・カデンツァヴナ・イヴの着装するガングニールは正真正銘の本物。照合すれば、トリリオンレベルで波形が一致するわ。
二課の目を盗んで私が米国に流したモノなのだから」
「じゃあやっぱり、もう一つガングニールがあったってことなんですね」
「残りの二つの聖遺物は、シュルシャガナにイガリマ。共に古代メソポタミアの戦神ザババの振るう二振りの剣の欠片」
「それも君が製作したのか?」
「ええ。何か問題があるかしら」
「大ありだろう」
翼とクリスは不服そうだが、響はかつての調子が戻ってきたようで嬉しく思う。その元の調子が問題だとも思うのだが。
「それに、映像を見た限りだけれど……。先の戦闘で奴らが見せた、超常ステルス性能を持ったエアキャリア。あれは恐らく”
「シェンショウジン?」
彼女が最初に説明したガングニールのこと以外、全く頭に入ってこない。響の脳内はカタカナが飛び交っている。
作戦の説明などはすんなりと入ってくるのだが。
「神獣鏡は、過去に皆神山の遺跡調査の際に入手した聖遺物。貴方達には伝えていなかったもの、当然知らないでしょうね」
「皆神山だと……?」
鏡に起因する特性が多いらしい神獣鏡。その中の一つである「ウィザードリィステルス」により、ステルス性能を発揮していたようだ。
ふと翼の方を見ると、彼女は虚を突かれたような表情を見せていた。何か引っかかることでもあったのか。
その後もフィーネによる説明は続いた。
曰く、F.I.Sというのは、フィーネの米国通謀により発足した聖遺物研究機関である。そのため、シンフォギアの情報開示よりも先に存在していた。
曰く、現F.I.Sの中核メンバーであるナスターシャ博士とウェル博士は元々そこに所属していた研究者である。
曰く、マリアと調、切歌の3名は《レセプターチルドレン》と呼ばれる観測対象であった。
曰く、レセプターチルドレンとは、フィーネの魂を受け止める器の候補として集められた子供たちである。
「……こんな所かしら」
「もっと早くやる気出してくださいよ……。一気に情報が集まったじゃないですか」
「ネフィリムに関しては、資料に纏めてあるからそれを見ておきなさい」
朔也のボヤきを華麗に無視し、タブレット端末を操作するフィーネ。ネフィリムに関しては教えてくれないのかという疑問を、代表してクリスが代弁してくれた。
「何でここで言わないんだよ?」
「貴女達程度が異端技術の深奥、
「お前なぁ……!」
「まあまあクリスちゃん!」
一言尋ねただけで十の嘲りが帰ってきた。
「……米国政府はフィーネの研究を狙ってた。F.I.Sなんて機関があって、シンフォギアまで所有しているのなら、その必要は無いはずだろ?」
「政府の管理から離れ、暴走しているという現状から察するに……。
件の連中は、聖遺物に関する技術や情報を独占し、独自判断で動いていると見て間違いないはずだが……」
「F.I.Sは、自国の政府まで敵に回して何をしようと企んでいるのだ?」
苛立ちをなんとか抑え、考察を始めるクリス。
フィーネに尋ねる弦十郎だが、そこまでは預かり知らぬと突っぱねられた。
「そういえば、どうしてマリアさんは自分のことをフィーネだなんて言ったんでしょう?」
「大方、ウェルキンゲトリクスを釣り上げる餌にでも使っていたのでしょう。あの男なら喜んで釣られるはず」
「フィーネのことを抜きにしても、英雄願望の強いウェル博士が協力しているということは……案外、F.I.Sの行動理由も"世界を救う"ためなのかもしれませんね」
世界を救う、と。
何気なく呟かれたあおいの一言が、妙に耳に残った。
◆◆◆
「楽しいデスなぁ~ッ、どれを食べてもおいしいデスよ!」
先の戦いより数日後。「秋桜祭」当日。
潜入美人捜査官メガネを着用し、完璧に一般客に紛れ込んだ切歌たち。今は「たこ焼き」なる丸い食べ物を頬張っているところだ。
最後の1つを口に放り込もうとした途端、隣から視線を感じる。横を向くと、調がじっとこちらを見つめている。
即座に視線の意図を理解した切歌。そういえばたこ焼きに夢中になるあまり、調の分を残しておくのを忘れていた。その抗議の視線に違いない。慌ててたこ焼きを刺した爪楊枝を調に渡すも、調が切歌から視線を外すことはなかった。
「わたしたちの任務は『学祭を全力で満喫すること』じゃないよ、切ちゃん」
「わ、分かってるデス! これもまた、捜査の一環なのデスッ!」
「捜査?」
胡乱げな視線を送ってくる調に弁明すべく、勢いよくポケットから一冊の冊子を取り出す。
「人間誰しもおいしいものに引き寄せられるものデス。学院内のうまいもんマップを歓声させることが、捜査対象の絞り込みには有効なのデス!」
《うまいもんMAP》と書かれた学祭のパンフレットを見せても、調の視線は外れない。
「……心配しなくても大丈夫デス。この身に課せられた使命は、一秒だって忘れていないデス」
そう、何も二人は本当に学祭巡りをしているのではない。重要な使命を帯びて今ここにいる。
アジトを抑えられ急遽脱出したことにより、ネフィリムに与える聖遺物の欠片が残り僅かとなってしまった。その後二課の装者たちのギアペンダントを餌としようとなり、フィーネに魂を塗り潰されかねないマリアの代わりに二人が任務に向かうこととなったのだ。
「とは言ったものの……どうしたものかデス……」
マリアを守るため絶対に失敗できないこの任務。学祭の賑わいに紛れペンダントを掠め取ろうと意気込んだはいいものの。
予想以上に人が多く、この中から特定の人物を探し当てるのは骨が折れる。
腕を組み唸っていると、突如調が肩を叩いてきた。
「きッ、切ちゃんカモネギ!」
調の指差す方に目を向けると、ずっと探し求めていたシンフォギア装者の姿があった。
風鳴翼だ。なんの警戒もなしに通路を歩いている。絶好のチャンスといえばそうだが、先の二度の戦いで翼の戦闘力を嫌というほど思い知らされた身だ。
マリアと互角以上に渡り合う装者相手に、不意打ちとはいえペンダントを奪えるだろうか。
フラフラと翼に近づいていく調を引き止める。建物の角に身を隠し、とりあえず様子を伺うことにした。
「心の準備もできてないのにカモもネギもないデスよ!」
尾行を開始する二人だが、相手が悪かったのかなかなかうまくいかない。しきりに振り返り不審な視線を送ってくる翼に何度も冷や汗をかかされた。
結論としては、こっそりペンダントを奪うなど無理な話だった。
調が痺れを切らして「こうなったら力づくで」と言い出しなんとか宥めている内に事態は悪化した。
イチイバルのシンフォギア装者、雪音クリス。
彼女と翼が合流してしまった。ついでに一般の生徒数人も。しばらく話した後に、二人と生徒たちが集まりどこかへ向かった。
尾行を続けるも、なかなか離れる気配を見せない。何やら焦っている様子のクリスを残りが説得しているらしい。
「なかなか離れないね。流石にあの二人相手の尾行は……」
「悩みどころデス……」
「なァ嬢ちゃん達、陰に隠れて何やってんの?」
「決まってるデス! あの二人を尾行しているのデス! 何せアタシたちは……」
流石の調も装者二人を相手にペンダントを奪えるとは思っていないようだ。調が「わたしたち何やってるんだろう」などと言い出したので彼女を励ますため、もう一度自らの使命を伝えようとしたその時、激しく肩を揺すられた。
「もう! 何するデスか!」
「切ちゃん! 切ちゃん! わたしじゃないよ!」
「えっ?」
「よっ」
「…………」
しらない ひとが いる。
中折のハットに、黒いジャケットとパンツを着用した壮年の男性だった。
「ああいや、怪しいモンじゃねェよ?」
怪しい。
世間に疎い二人でも、これは怪しい人が使う常套句だと分かる。
「実は俺、あの二人と知り合いだからさ。何か用があるなら紹介してやろうと思ったんだよ」
怪しい。
数年前、マリアに「自分を誰かの知り合いだと言う人には付いていっちゃいけません」と言われている。
「えッ、えーっと……ちょっと待って欲しいデス!」
とりあえず調と身を寄せ、この男をどうするか決めることにした。
「切ちゃん、このおじさん見たことある」
「……そういえば! 二課の外部協力者デスよ! 報告されちゃうデスか!?」
「でもこの人、もしかしてわたしたちのこと知らないんじゃ……」
「どうしてそう思うデスか?」
「だって、わたしたちの顔は向こうに知られてる。この人にまで情報が共有されてたら、わたしたちを見つけた途端に装者に伝えるはず」
「???」
「だから、わたしたちの顔までは教えられてないんじゃないかな」
「なッ、なるほどッ! 調は天才デスッ!」
確かに、この男────ソーイチとかいう名前だったはずだ────はこちらの顔を知らないかもしれない。ならばいくらでもやり用はある。
「あの二人どっか行っちまったけど……」
「大丈夫デスッ! 実はアタシたち、風鳴翼の大ファンなのデス! ねッ!」
「う、うん。大ファン」
必死に調に向けて目配せする。幸いなことに念が届いたようで、調もぎこちないながらも芝居に乗ってきた。
男はすっかりそれを信じた様子だ。
「翼ちゃんのファンか……。俺はあんまりテレビ見ねェけど、やっぱ人気なんだなァ。今度コラボカフェでもするか……?」
「風鳴翼を生で見れただけで満足デス! ねッ!」
「畏れ多い」
「お、畏れ多い?」
「お気づかいありがとうデス! じゃあアタシたちはこれでッ!」
調の手を引き駆け出す。どこからどうみても完璧な風鳴翼のファンを装えたと自負している。案外演技の才能があるのかもしれない。
しかし、無茶苦茶に走ったおかげで装者を見失ってしまった。目の前にはホールと思しきいちょう型の建造物がそびえ立っている。
調と顔を見合わせる。とりあえず入ってみようと、二人はホールへ入場した。
手を離すのを忘れていたが、調が何も言わないので黙っておくことにした。
◆◆◆
「あれで聖遺物の回収なんて出来るのかねェ……」
走り去っていく調と切歌の背を眺めながら呟く
まあ、本当に二課のペンダントを回収されれば困るので、もし二人が任務をやり遂げたときはそれとなく妨害するつもりだ。
いずれにせよ、今日あたりに事が動くはずだ。目的のためにあらゆる状況を鑑みて、最適な謀略を張り巡らせなければならない以上、石橋を叩けるなら叩いておきたい。
人通りの少ない建物の角に背を預け、携帯端末を操作する。もちろん、通信傍受阻害のためにマイクボトルを活性化させるのを忘れない。
〈わたしです。ご命令でしょうか?〉
「俺だ。今夜あたりに連中が動く。多分出番はねェが、一応いつでも動けるようにしておいてくれ」
〈はい〉
「それと、いつも通りカメラの確認も頼むぜ」
〈了解しました。全てはファウストのために〉
通話を終える。ちょうどそのタイミングで、遠くに響と未来の姿が見えた。ナシタで学祭に誘われた際、「適当にうろついている」と言ったので探しているのだろう。
休憩していたかのようにベンチに腰掛け、二人に向かって手を上げる。
「よっ、二人とも。相変わらずお熱いこって」
「あーいたー! やっと見つけた! どこにいたの?」
「ずっと中庭にいたよ。いくつになっても、男ってのは露店に惹かれるんだ」
「楽しんでもらってるみたいで嬉しいです」
「学祭なんて初め……ああいや、久しぶりだからなァ。それなりに楽しませてもらってるぜ」
調と切歌の監視として響の誘いに乗った惣一だったが、学祭のいうのはなかなかどうして興味深いものだった。
元の世界では、「美空をファウストから匿う」ためにバイト以外であまり外出ができなかった。そのため人間の催す祭りという概念も知識としてしか知らなかったのだ。
こういった催しを創造するとは、やはり人間は面白い。
「それより! そろそろ弓美ちゃんたちのステージが始まるんだよッ! 早く行こう!」
そんな惣一の思いなどつゆ知らず、響が掴んだ腕を振り回しながら叫んだ。
「ステージ? ……ああ、何か言ってたな。優勝したら特典があるんだっけ?」
「生徒会権限の範疇で何でもしてくれるんです。それで、板場さんはアニソン同好会の設立に燃えてます」
「早く!」
あの二人の行方は分からなくなってしまったが、それならそれで響の方を監視していればいい。
そう結論づけ、惣一は引っ張ってくる響に対し抵抗をやめた。
「それでは熱唱していただきましょう! テレビアニメ”電光刑事バン”の主題歌で《現着ッ! 電光刑事バン》!」
無情にも甲高い音がホールに響き渡る。
舞台上でコスプレをした弓美が何やら騒いでいるのを響が笑っている。そんな響を無言で見つめる未来。
響には戦ってほしくない、だとか笑っていてほしい、だとか思っているのだろう。
ふと舞台に目を向けると、いつの間にか弓美たちの姿はなくなっていた。裏が騒がしくなっているあたり、生徒会にでも押し出されたのか。
「さて、次なる挑戦者の登場ですッ!」
「……んん?」
「響、あれって……」
「うそ~ッ!?」
続いて舞台上に現れたのは、惣一のよく知る顔だった。訳知り顔で隣に座ってきた翼に尋ねる響。
「ああ。私立リディアン音楽院二回生の、雪音クリスだ」
出だしこそどうなるものかと思ったが、程なくしてそれも杞憂に終わった────特に心配もしていないのだが────。
「歌が嫌い」などとほざいていた彼女はどこへやら、舞台上には楽しげに歌う、歌が好きな少女の姿がそこにはあった。
「勝ち抜きステージ、新チャンピオン誕生~ッ! さあ、次なる挑戦者はッ!? 飛び入りも大歓迎ですよー!」
万雷の喝采の中、新チャンピオンが誕生する。とはいえ、これは勝ち抜き戦だ。次の挑戦者がクリスよりも評価が高かった場合はその限りではない。
まあ、あの歌唱の後に優勝を狙う人間などそうはいないだろう────誰もが思っていた。無論、惣一もだ。
だからこそ。
ここで手を挙げた彼女たちの姿には、流石の惣一も本気で驚いた。
「やるデス!」
ばたばたと手を振るものが一人。スポットライトを当てられ、もう一人も立ち上がる。
「ッ!? あいつらッ!?」
「ああーッ!?」
「奴らはッ!?」
「響どうしたの!?」
「乱入かァ! 面白いじゃねェか! 頑張れよ!」
メガネを外し、その正体が明らかになる。彼女らを知る誰もがスポットライトを当てられた瞬間、正体に気づいていたが。
金髪と黒髪の小柄な少女の二人組だ。完全な予想外に、思わず笑ってしまう。つくづく楽しませてくれる。
「チャンピオンに」
「挑戦デスッ!」
月読調に、暁切歌。
二人の装者が、動乱のステージに上がった。
次回「血飛沫のセレナーデ」
・惣一についての補足(長い)
シンフォギア世界にも「石動惣一」という同姓同名の人物がいたという設定を捏造しました。それにあたって一部文章を変えました。
本物惣一にはツヴァイウィングファンの「美空」という娘がいました。
美空がライブ会場の惨劇でノイズの被害にあって死亡→その後偶然エボルト(奏)が本物惣一を見つける→成り代わる という経緯です
ナシタは本物惣一に支払われた補償金で建てました
適当に戸籍捏造した後で有力者を始末して金貰おうと思ってたエボルトにとってはカモネギだったみたいです
人間の屑(人間じゃない)がこの野郎……