戦姫絶唱シンフォギア Evolution's Symphony   作:セグウェイノイズ

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ブリテンの終わりを見届けたりアイドルプロデュースしてたら文の書き方を忘れましたが、まあいいでしょう
短い上にほとんど内容同じですが、変えた所さんはちょっと重要な部分です


EPISODE07「血飛沫のセレナーデ」

「チャンピオンに」

 

「挑戦デスッ!」

 

 

 

 潜入任務をしていたはずの調と切歌。

 今彼女らの立つ場はステージの上。先のクリスの歌唱にでも当てられたのだろう。「生徒会権限の範疇で何でも願いが叶えられる」というのを勘違いした、というのが惣一の中で最有力説だ。

 例えクリスに勝ったとしても、ギアペンダントが向こうに渡ることはない。椅子にもたれかかり事の成り行きを見守る惣一とは対照に、響と翼は大慌て。未来は状況が呑み込めていないようだ。

 

 

 

「翼さん、あの子たちはッ!?」

 

「ああ。だが何のつもりで……」

 

「響、あの子たちを知ってるの?」

 

「世界に向けて宣戦布告し、私達と敵対するシンフォギア装者だ」

 

「じゃあ……マリアさんの仲間なの? ライブ会場でノイズを操ってみせた……」

 

「そう……なんだけど」

 

「理由は何であれ、歌くらい聴いてやりゃあいいじゃないの」

 

「そう……なんだけどぉ!」

 

 

 

 二人はクリスとなにやら話している様子だ。クリスが暴れだしたので、何か挑発でもしたのか。そうこうしているうちに司会が二人の紹介を始めた。

 

 

 

「それでは歌っていただきましょう! えーっと……」

 

「月読調と」

 

「暁切歌デス!」

 

「OK!」

 

 

 

 本名を晒してもいいのか。面白いので惣一としては一向に構わないが。

 

 

 

「二人が歌うのは『ORBITAL BEAT』! もちろんツヴァイウィングのナンバーだ!」

 

 

 

 スピーカーからイントロが流れ始める。この世界の音楽をあまり知らない惣一だが、この曲は聞き覚えがある。アーティストがツヴァイウィングだから錯覚しているだけかもしれない。

 

 

 

「この曲どっかで聴いたことあるな……」

 

「この歌ッ!?」

 

「翼さんと奏さんの……」

 

「何のつもりの当て擦りッ!?」

 

 

 

 思い出した。響に目を付けるきっかけとなったライブ会場の一件にて、惣一がノイズを召喚する直前に流れていた曲だ。今思えば、あれは申し訳ないことをしたと自省する。ネフシュタンの暴走タイミングは操作できないとはいえ、イントロで爆破はよろしくなかった気がする。

 反省終わり。後は二人の動向を見守ろう。

 

 

 

「へえ、随分楽しそうに歌うじゃないの。こりゃあクリスちゃんも危ねェかもな」

 

「……歌を歌う者同士が、戦わねばいけないのか?」

 

 

 

 戦闘時とは異なり、二人はなかなかどうして歌が好きなのかもしれない。

 惣一自身はどうでもいいが、まだ高校生にもなっていないような少女たちにテロ活動をさせるナスターシャは大した胆力だとは思う。

 あの隻眼の教授が何を考えているのかは筒抜けだ。三国の首相ほどではないにしろ、バレないとでも思っているのだろうか。事態が事態なので、そこに思考を割いている暇などないということかもしれないが。

 あれこれ考えている内に二人の歌唱が終わったようだ。クリスのときと同じく、万雷の拍手が二人に捧げられた。

 

 

 

「チャンピオンもうかうかしていられない見事な歌声でした~! 気になる点数の発表です!」

 

「ブラボーッ! よかったぜェ!!」

 

 

 

 適当に周囲に合わせておく。二人の表情は楽し気だ。任務のことは覚えているのかいないのか、実行委員の採点をそわそわと待ちわびている。

 突然、二人の顔色が変わった。つい数瞬前までの雰囲気は消え去り、険し気なそれへと変化した。耳に手を当てていることから、ナスターシャからの連絡だろう。

 惣一からすれば興味が湧くのは当然だ。地球外生命体である惣一の能力を以ってすれば、数十メートル離れた相手の話し声程度は容易に聴きとれる。

 

 

 

────アジトが特定されました。襲撃者を退ける事はできましたが、場所を知られた以上長居はできません。

 私達も移動しますので、こちらの指示するポイントで落ち合いましょう

 

────そんな! あと少しでペンダントが手に入るかもしれないんデスよ!?

 

────緊急事態です。命令に従いなさい

 

 

 

 やはり通信の相手はナスタ―シャだったようだ。採点の発表を待つ間もなくホールを退出していく調と切歌。騒然とする観客たちを後目に、響と翼は立ち上がった。

 

 

 

「追うぞ、立花」

 

「はい! 二人はここにいて。……もしかすると、戦うことになるかもしれない」

 

 

 

 ここは素直に従っておこう。本当にここで戦うこととなっても、正面からの戦闘で手塩にかけて育てた響たちが負けるはずがない。

 万一響たちが負けるようなことがあっても、そのときはブラッドスタークとして乱入すればいいだけだ。そうならない自信はあるが。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 二人の前には天羽々斬のシンフォギア装者、風鳴翼が待ち構えていた。背後にはイチイバルのシンフォギア装者雪音クリスに、ガングニールのシンフォギア装者立花響が。

 完全に挟撃された。よく考えればここは彼女らの見知った土地だ。逃げ道を先回りされるのも道理なのだろう。

 そんなことを考えている余裕が今の切歌にあるはずもなく、ただ彼女らを睨みつけることで抵抗を表すことしかできない。最後の手段としてギアを着装し離脱することもできなくはないが、それは本当に追い詰められたときにすることだ。

 

 

 

「切歌ちゃんと調ちゃん、だよね」

 

 

 

 じわじわと近づいてくる二課の装者たち。突破口があるとすれば立花響だろうか。調の嫌いな偽善者である彼女なら、なんとかならなくもないかもしれない。

 

 

 

「……3対2。数の上ではそっちに分がある。だけど、ここで戦うことであなたたちが失うもののことを考えて」

 

「お前、そんな汚い事言うのかよ!? さっき、あんなに楽しそうに歌ったばかりでッ!」

 

 

 

 調のファインプレーにより、これ以上包囲網が狭まることはなくなった。もちろん調も周りの人間に危害を及ぼすことなど望んでいない。ただ、今ここで戦いなくないだけなのだ。

 と、そこで切歌の脳内で天才的なアイデアを思いついた。

 

 

 

「そうデス! 決闘デスッ! しかるべき決闘を申し込むのデス!」

 

「どうして!? 会えば戦わなくちゃいけない訳でも……ない訳でしょ?」 

 

「どっちなんだよッ!?」「どっちなんデスッ!?」

 

 

 

 図らずもクリスと台詞が被った。一瞬顔を見合わせるも、すぐにお互い横を向く。二人は戦うべき敵同士であるからだ。何かと甘いところがあるクリスは違うかもしれないが。

 

 

 

「決闘の時はこちらが告げる。だから」

 

 

 

 調はいつもの調子を崩さない。言うことを言った後、切歌の手を引いてその場を離脱した。たまにこういうことをしてくれる所も、調のいい所だ。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「…………セレナ」

 

 

 

 あの日、確かにマリアは決断した。

 した、はずだ。

 だのに何故こうも心が揺さぶられるのか。理由は明白だ。それに気づかないふりをしているだけ。

 いずれ()()()()というのはとうの昔に覚悟していたはずなのに────。

 

 

 

 

 

 

 数時間前のことだ。

 浜崎病院に代わる新たな拠点で切歌たちの帰還を待っていたマリアとナスターシャ。機械の駆動音のみが反響するその中心部に、突如けたたましい警報が鳴り響いた。

 ナスターシャは即座に指を走らせ監視カメラの映像を表示させる。マリアもモニターを確認すると、そこに映し出されていたのは武装した十数人の集団だった。

 

 

 

「今度は本国からの追手……」

 

 

 

 本国────即ち、F.I.Sを組織した米国。いくらマリアたちが異端技術を手にしているとはいえ、所詮は素人が数人集まっただけの集団だ。

 訓練されたプロ相手に立ち回れるというのはただの驕りだろう。

 ならば、どうするか。

 

 

 

「踏み込まれる前に、攻めの枕を押さえに掛かりましょう。マリア、排撃をお願いします」

 

 

 

 排撃。つまり、侵入者を一人残らず排除しろということだ。

 だが、それは────。

 

 

 

「そうしなさいと言っているのです。……ライブ会場占拠の際もそうでした。

 その手を血に染める事を恐れているのですか」

 

 

 

 鋭い眼光がマリアを射抜く。これは、マリアに灯った信念の火が翳っている証左だ。

 覚悟を決めろ。そうナスターシャは訴えてくる。

 それでも、足が動かない。ただペンダントを握る力のみが強まる。

 

 間もなく、轟音が建物内を揺らす。これは爆発が起こした振動だ。ついに米国の攻撃が始まってしまった。

 

 

 

「始まりましたね。さあ、マリアッ!」

 

 

 

 今すぐにでも耳を塞ぎたい。それでも状況はマリアにそれを許してくれない。

 第一防壁────倉庫の最奥部、つまりこの場へ通じる扉だ────が突破された。

 もう時間はない。せめて戦闘不能程度に止めようと、固く閉じた両目を開くと────。

 

 

 

 

 

()()()()……だとッ……!?」

 

 

 

 

 

 その後はシンプルだ。

 待機していたウェルがソロモンの杖を用いてノイズを召喚。ノイズと戦う術を持たない人間は尽く塵に還った。

 爆発音を聞きつけて近づいてきた地元の野球少年を口封じのためにノイズで殺害。これで目撃者は誰一人いなくなった。仮に発見されたとしても、あくまで事故死と判断される。

 

 その様から目を背けることしか、マリアには出来なかった。

 

 

 

 

 

「セレナ……。あなたと違って、私の歌では誰も守ることは出来ないのかもしれない」

 

 

 

 妹の形見のギアペンダントを握る。

 自らと引き換えに、研究所にいる多くの命を救ったセレナ()。その意志を引き継ぐ覚悟を決めたというのに、マリア(自分)は。

 通路に取り付けられたスピーカーからナスターシャの声が響く。

 

 

 

〈まもなくランデブーポイントに到着します。いいですね?〉

 

 

 

 調と切歌が戻ってきたのだ。

 もうそんな時間になってしまっていた。誰に聞かせるでもなく、これが正しいのだと言い聞かせるように、

 

 

 

「……OK、マム」

 

 

 

 消え入る声で呟いた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

「ノイズの発生パターンを検知ッ!」

 

「古風な真似を……決闘の合図に狼煙とはッ!」

 

 

 

 数時間前に切歌の言い放った”決闘”という言葉から考えるに、今回のノイズの発生が災害でないことは明白だ。

 となると、ノイズが召喚された場に彼女らがいるということだろう。

 即座にノイズ発生地点の座標を特定する朔也。だが、座標を確認した途端彼の目が大きく見開かれた。

 

 

 

「……ここはッ!?」

 

「…………」

 

「どうしたッ!?」

 

 

 朔也だけでなく、同じ画面を共有していたフィーネもまた小さく眉を動かす。

 表情は変わらず、それでいて苛立ちを隠そうともせず、彼女は呟く。

 

 

 

 

「東京番外地、特別指定封鎖区域────」

 

「────カ・ディンギル址地(あとち)だとォッ!?」

 

 

 

 決闘の火蓋は、今切られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 高濃度のフォニックゲインによる大地の汚染により、荒野と化したカ・ディンギル趾地────即ち、私立リディアン音楽院趾地。響たち装者が現着したその時、緑光と共にノイズが召喚された。

 それらを見下ろすように聳える反り立った陸地に、彼は待ち構えていた。

 

 

 

「おや、想定よりもお早い到着ですね」

 

「野郎ッ!」

 

「ウェル博士ッ!? 調ちゃんと切歌ちゃんはッ!?」

 

 

 

 待ち構えていたのは調と切歌ではなく、ウェル博士だった。

 二人は謹慎中だと彼は言う。どんな理由での謹慎なのかは知らないが、それでも響の眼前にノイズは召喚されている。決闘の相手はウェルということになったのだろう。調たちともう少し話をしたかったが────致し方ない。

 訊きたいことが山ほどあると翼。ノイズが動き出すのと、響たちが聖詠を歌い始めるのは、ほぼ同時だった。

 

 

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

「Imyuteus amenohabakiri tron」

「Killter ichaival tron」

 

 

 

 固く握った拳。稲妻の如き右腕を振り抜くと、少し遅れて爆風と灰塵が吹き荒れる。

 蒼雷を纏った一の太刀が、ノイズの尽くを両断する。

 挨拶代わりの鉛玉が、正面の敵をハチの巣にする。

 

 

 

「解放全開! 3、2、1ッ、ゼロッ!!」

 

 

 

 地面を砕き、一直線に突貫する。最速で最短で、調や切歌に胸の想いを伝えるために。

 殴り、斬り、撃ち抜く。

 数を物ともせず怒涛の勢いでノイズを倒していく装者たち。次第にウェルまでの距離も縮まっていくが、彼の表情は一向に焦りを見せない。

 

 

 

「何を企てる、FISッ!」

 

「企てるゥ? 人聞きの悪い。我々が望むのは人類の救済ッ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事ッ!!」

 

 

 

 叫びと共に、彼は天を────月を指差す。

 今、彼は何と言ったのか。

 月が、落ちる。そう聞こえた。だがそんな事があり得るのか。

 カ・ディンギルの一射により、月の一部分が損壊した。これを受けて、月の公転軌道は各国機関が三ヶ月前から継続中なのだ。

 しかし各国から「月が落ちる」などという見解が発表された試しはない。月の落下などという大言が真実だとすれば、それを黙ってなど、

 

 

 

「黙っているに決まっているじゃないですか。対処方法の見つからない極大災厄など、さらなる混乱を招くだけです。

 不都合な真実を隠蔽する理由など、いくらでもあるのですよッ!」

 

「まさか……この事実を知る連中ってのは、自分達だけが助かる算段をしている訳じゃ……」

 

 

 

 吐き捨てるように呟かれたクリスの言葉に、微笑みで返すウェル。「自分たちの行為はその真逆」とでも言いたげだ。

 

 

 

「どうします? 貴方達なら。対する私たちの答えが────ネフィリムッ!」

 

「なッ……がァッ!?」

 

 

 舞台の台詞のように仰々しく張り上げられたウェルの声が耳に届くのと、クリスの立つ地面が隆起し吹き飛ばされるのはほほ同時だった。

 

 

 

「クリスちゃんッ!?」

 

「雪音ッ!」

 

 

 

 受け身も取らず地面に激突するクリス。バイタルは危険値に達していることだろう。戦場の真っ只中でこの状態は危険だ。今すぐにでも救助に向かいたいが────。

 

 

 

「人を束ね、組織を編み、国を建てて命を守護する! ネフィリムはそのための力ッ! そしてッ!」

 

【バット!】

 

 

 

 ウェルは取り出したトランスチームガンにフルボトルを装填する。

 目を見開き、隠し切れない高揚を滲ませながら彼は叫ぶ。

 

 

 

「蒸血ッ!」

 

【ミストマッチ! バット……バ・バット……】

 

「そしてこれがァ、人類守護の英雄たる僕のための力ッ!」

 

【ファイヤー!】

 

 

 

 闇に溶け込む黒い外装。ナイトローグへとその身を変えたウェルがスチームガンを乱射する。

 狙いを一切つけずに放たれたその弾丸は脅威にはなり得ない。しかしそれにネフィリムが加わることで、想定以上に厄介だ。

 ローグを狙おうにもネフィリムがそれを阻んでくる。なら、先に対処するのがどちらかは明白だった。

 

 

 

「翼さん! ネフィリムはわたしがッ! クリスちゃんをお願いしますッ!」

 

「直ぐに戻るッ!」

 

 

 

 直ちに響の言わんとする意図を理解し、ノイズを片付けた後倒れるクリスの元へと駆ける翼。

 クリスを一旦離脱させた後に翼がローグを担当。その間は突貫力の高い響がネフィリムを対処する。咄嗟に考えたにしてはよくできた作戦だと自分で思う。

 ────あくまでも、この場にいる敵が2体だけならば、の話であるが。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 クリスの元までほんの数秒もかからない。速やかに戦線に復帰するべく、最速のスピードで足を動かす翼。ノイズはあらかた片付けた。障害物は何もない。クリスまでの距離を詰め、彼女を抱え、

 

 ────そして、脳天に迫る赤い斬撃。

 身体を捻ることで、紙一重でそれを避ける。的確に人体の急所を狙った突きだった。ソロモンの杖で操られていたとしても、とてもノイズにできる芸当ではない。つまり。

 

 

 

『やるねェ! 今のを避けるか。この短期間でまた成長したかァ?』

 

「スタークッ!」

 

 

 

 避けられなくても攻撃は当てないつもりだったが、などとほざきながら右手に持つ短剣を弄るスターク。

 先ほどの攻撃、やろうと思えば一撃目の後追撃を加えることは十分可能だった。それをしないということは、奴にとってはあくまで遊戯。時間稼ぎのつもりなのだろう。

 

 

 

『お前までネフィリムに向かわれちゃ、計画が破綻しかねないから……なッ!」

 

 

 

 スチームブレードを振るうスタークに合わせ、こちらも太刀を打ち合わせる。こんなところでスタークにかかずらっている暇はない。

 巧みに短剣を動かし、こちらの動きを制限してくる。実にやりにくい。

 

 

 

『それに、ローグ(ウェル)の奴がお縄にかけられる訳にはいかねェだろ?』

 

「いつまで軽口を叩けるかッ……!」

 

 

 

 それでも、今の翼なら奴の喉元に剣が通る────そんな確信がある。翼以上に戦闘を繰り返してきたのだろう経験値の差こそあれ、ブラッドスタークの外装とシンフォギア。二つの鎧のスペック差は明々白々だ。

 それに加えて積み重なるは、少しずつだが確実に埋まってきている実力の差。

 ここで奴に勝つ必要はない。ただ追い払えばいいだけの話なのだ。

 柄を握る力を強め、スチームブレードを弾き返す。

 力を抜き、翼の追撃をいなすスターク。その左手がブレードのバルブに伸びる。電撃か冷気か毒ガスか、いずれにせよ厄介な攻撃が飛んでくる前触れだ。そうはさせまいとアームドギアを変形させ、蒼ノ一閃の構えに入る。

 

 

 

【エレキスチーム!】

 

━━━━蒼ノ一閃━━━━

 

 

 

 バルブが回り、大剣が蒼雷を纏う。ほぼ同時に腕が振り下ろされ────

 

 

 

「『何だとッ!?』」

 

 

 

 二人の間に突っ込んできた黒い巨体(ネフィリム)が、稲妻と斬撃を吹き飛ばした。

 耳元あたりまで裂けた大口から涎を垂らしながら、その首は敵である翼に────ではなく、()()()()()()()()()()

 身を屈め、飛び掛からんとする姿勢を見せた途端、

 

 

 

「翼さんッ!」

 

 

 

 響の右足が、今度はネフィリムを吹き飛ばす。

 

 

 

「ごめんなさい、ネフィリムが急に翼さんの方に……」

 

「いや……立花は引き続きネフィリムを頼む。これ以上スタークに時間は取らせない」

 

「はいッ!」

 

 

 

 短く言葉を交わし、背中を預ける。

 スタークから視線は外していない。肩をすくめ、両手を広げ呆れたような仕草をしながらも、すでに武装はライフルへと変化している。

 

 

 

『餌付けしすぎたかァ……? おいウェル! ちゃんと制御してくれよ!』

 

「……はて。聖遺物の欠片よりも、融合症例の方を優先すると踏んでいましたが……まあいいでしょう」

 

 

 

 未だ銃を乱射しているローグに文句をつけるスターク。それを気にも留めず、ローグは自分の世界に入っているようだ。

 再びスタークと相見える。二人は刃を交錯させ────

 

 ────惨劇の始まりまで、あと十数秒。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 図体こそ響の数倍あるネフィリムだが、その実攻撃の方法は数種類しかない。

 身を屈めての突進。噛みつき。薙ぎ払い。

 全身を使って行われるそれらの攻撃は一撃一撃の威力こそ大きいものの、逆を言えば隙が大きい。避けるのは容易いということだ。

 

 

 

「響け、響けェッ!」

 

 

 

 身を屈めたネフィリムの顎を蹴り上げる。攻撃が来るとは考えていなかったのか、上体ごと持ち上げられ無防備になっている。

 脚部ジャッキで加速した拳を腹部に突き刺す。反撃の暇は与えない。

 

 

 

「ルナアタックの英雄よ、その拳で何を守るッ!?」

 

 

 

 音楽がより熱く、高鳴っていく。

 ローグが何やら叫んでいるが、今はネフィリムに集中すべきだ。彼と話し合うのはそれからでも遅くはない。

 大切な人を守るという胸の覚悟を滾らせ、攻撃の手は休めない。

 

 くの字に折れ曲がり、差し出されたネフィリムの頭部をストンプで踏み叩く。

 流れるような後ろ回し蹴りで、開きかけた顎を横から閉じさせる。

 掌底による崩撃がネフィリムを大きく浮かび上がらせる。ハンマーパーツを展開させ、さらに追撃。爆発さえ伴う衝打が、巨体を岩壁まで吹き飛ばした。

 

 ネフィリムは蓄積したダメージによるものか、未だ岩壁から飛び出してはこない。ならばここが勝負所。

 ハンマーパーツからバーニアを点火させる。大地を蹴り込み、一瞬でネフィリムの眼前にまで接近。乱射してくる弾丸を躱しながらその勢いのまま左腕を振り抜こうとして、

 

 

 

「きっと花に、生まれると信じて────」

 

「そうやって君は誰かを護るための拳でッ! もっと多くの誰かをブッ殺してみせる訳だッ!!」

 

 

 

 動きが止まる。

 止まったのはほんの一瞬。それでも、響にとっては永遠に感じられた。脳内で無限に再生される過去の記憶。

 それは平時ではほんの些細な、辛い出来事で済むことだ。しかし惜しむらくはここが血風逆巻く戦場であることか。

 そして。

 

 

 

「────え?」

 

 

 

 ふと左腕に感じた違和感。それによって我に返り、違和感の正体を視認する。

 視界いっぱいに広がるのは、岩壁に叩きつけられていたはずのネフィリム。その口が、響の左腕を咥えこんでいた。

 ずぶり、と音を立てて肉に食い込む上下の牙。

 

 

 

『おいウェル────!』

 

 

 

 どこかから静止の声が聞こえる。

 続き、ぱきぱきと何かが砕ける。ネフィリムの顎が引かれる。道理、噛み付いていたモノは千切れ飛ぶ。

 千切れ飛んだ()()自律型完全聖遺物(ネフィリム)に咀嚼され、嚥下される。

 

 

 

「立花ァァァァッ!!」

 

 

 

 どこかから翼の声が聞こえる。

 おかしい。重心が傾いている気がする。

 正中にあったはずの軸が、右に傾いているような。

 左半身になにかあったか、と視線を向け────。

 

 

 

 迸る絶叫。

 噴き出す鮮血。

 赤い旋律が、夜空を血色に染め上げる。

 

 

 

『全く────』

 

 

 

 この惨劇は、さしもの彼にも予想できなかった。

 確かにネフィリムは聖遺物を捕食する。ただ、食わせるならせいぜいギアペンダントだろう、その時は自分がウェルを御せばいい。そう考えていた。

 この男の狂気が想定以上だったのは素直に落ち度だ。自らの括った高がそうさせた。そう認めよう。

 だが。

 

 この感情は本当に久しぶりだ。

 身体の内で何かが煮え滾る。彼は天を仰ぎ、

 

 

 

 

『────やってくれたなァァァァァァッ!!!』

 

 

 

 

 

 怒髪天を衝く。

 怒れる蛇は、その銃口の照準を定めた。




次回 スタークの地球外パワー発動!

今のスタークは万丈がエグゼイド世界に行っちゃったときくらい焦ってます。エニグマの時と違って解決手段が見当たらないので取り繕えないくらいウェルにガチギレしました

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