戦姫絶唱シンフォギア Evolution's Symphony   作:セグウェイノイズ

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この辺にぃ、内容の原作通りさに対して更新速度が貧弱すぎる投稿者来てるらしいっすよ

今回の展開が同じすぎて筆が進まなかったので水増し考察パートを挟みました
それに伴い、辻褄が合わなくなった部分を変更しました(1期編7話のクリスの発言など)


EPISODE09「エチュードの三重奏(トリオ)

 ”りんごは 浮かんだ お空に”

 

 

 

 ガタガタ、ギシギシ。およそ分厚い鉄扉が出してはいけない音を出す。

 向こう側の衝撃は、彼らの予測からは遠くかけ離れたものだった。あと数分もすれば、ネフィリムはこの研究所をマリアたちごと地図から消し去るだろう。

 研究者たちの言うところによれば、今のネフィリムはこれで幼体らしい。

 

 

 

「ネフィリムの出力は未だ不安定……。やはり歌を介さずの強制起動では、完全聖遺物を制御できるものではなかったのですね」

 

 

 

 ナスターシャが呟く。強化ガラス越しに暴れるネフィリムを見つめるその顔から、感情は読み取れない。

 セレナの手を握る。てっきり震えているものとばかり思っていたその手は、しかし予想と反していた。周囲の喧騒とは反対に、セレナは静かに目を閉じている。

 恐怖のあまり口がきけないからではない。何かを思い返すような、そんな様子だった。

 

 

 

 ”りんごは 落っこちた 地べたに”

 

 

 

「わたし、歌うよ」 

 

 

 

 目を開けるなり、そんなことを言ってくる。それが何を意味するか、理解できないマリアではなかった。

 

 

 

「でもあの歌はッ!」

 

「わたしの絶唱で、ネフィリムを起動する前の状態にリセットできるかもしれないの」

 

「そんな賭けみたいな……もしそれでもネフィリムを抑えられなかったらッ!」

 

「その時はマリア姉さんがなんとかしてくれる。FISの人たちもいる。わたしだけじゃない」

 

 

 

 ”星が 生まれて 歌が 生まれて”

 

 

 

 だから何とかなる。

 花の咲くような笑顔で、セレナは言った。

 

 

 

「ギアを纏う力は、わたしが望んだものじゃないけど……。この力でみんなを守りたいと望んだのは、わたしなんだから」

 

 

 

 ”ルルアメルは 笑った 常しえと”

 

 

 

 地獄のような様相となった実験場へと駆け降りていくセレナ。

 当然引き止めようと追いかけるマリアだが、ナスターシャに止められる。当然だ。戦う力のない者にネフィリムは止められない。

 それでも、あの寂しい笑顔を見てしまったからには止めねばならなかった。望まぬ力を手にした妹を止める術がなくとも。

 ナスターシャを振り払いセレナの後を追う。崩落していく通路を駆けて、駆けて────そして。

 

 

 

 ”星が キスして 歌が 眠って”

 

 

 

 赤熱する扉をなんとか開け放った時、全ては終わっていた。

 

 

 

 ”かえるとこは どこでしょう?”

 

 

 

 瓦礫の上に佇み、その両手は祈るように胸の前で握っている。その中には、淡く光る物体────ネフィリムの幼体が。

 

 

 

────貴重な実験サンプルが自滅したか……

 

────実験はタダじゃないんだ

 

「どうしてそんなことを言うのッ!? あなたたちを守るために血を流したのはわたしの妹なのよッ!?」

 

 

 

 心無い侮言に憤り、上階の研究者たちに首を向けたそのとき。

 

 

 

「よかった……。マリア姉────」

 

 

 

 白い頬が、血涙によって赤く染まった。見開かれた瞳は焦点が合わず、それでもなんとか笑顔であろうとしている。

 年端のいかない妹の無惨な姿が、幼いマリアの目に焼きついた。

 

 

 

「セレナッ! セレナァァァァァッ!!!!」

 

 

 

 燃える瓦礫が墜ちてくる。

 燃えて、墜ちて、尽きて────そして。

 

 総てが終わった。

 

 

 

 ”りんごは 落っこちた 地べたに… りんごは 浮かんだ お空に…”

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 無機質な天井が視界に入る。ここは何処だ、ナスターシャ(自分)は何をしていたのか。逡巡すること数秒。

 ここは医療室だ。マリアに連れ添われここまで来たのを覚えている。手すりの力も借りながら上体を起こすと、隣の椅子にマリアが座っているのに気がついた。

 ナスターシャの様子にマリアが気づく様子はない。夜通し看病をしてくれていたのか、その目は閉ざされている。

 小さく歌を歌い始めるマリア。故郷に伝わっていたらしいその歌は、F.I.Sの施設にいた頃よりセレナと口ずさんでいるのをよく耳にした。

 

 柄にもなくセレナがいた頃の記憶を回想していると、突然壁面に取り付けられたモニターが音を出し始めた。音声通信が入ったようだ。

 マリアはまだ起きないが、現状を鑑みると彼女には少しでも休んでもらいたい。代わりにナスターシャが通信に出ることにした。

 

 

 

「私です」

 

〈えッ! もしかして、もしかするとマムデスか!?〉

 

 

 

 声の主は切歌だった。驚き様を見るに、マリアが出るものとでも思っていたのだろう。かすかに「あッ!」という声が聞こえたので、調も隣にいるはずだ。

 

 

 

〈具合はもういいの?〉

 

「マリアの処置で急場は凌げました」

 

〈よかった……〉

 

〈で、でね、マム。待機しているはずのアタシたちが出歩いているのはデスね……〉

 

 

 

 思い出したかのように焦りだす切歌。待機を命じられていたはずの二人が外にいることについて咎められるとでも思ったのか、やけに早口だ。

 そんな様子に微かに頬を緩めながら、しかし平時と変わらぬ声色で悟られぬよう口を開く。

 

 

 

「理解っています。マリアの指示ですね」

 

〈マムの容体を診られるのはドクターだけ。でも連絡がとれなくて……〉

 

〈スタークの奴もアタシたちと別の場所で探してるんデスけど……〉

 

「二人ともありがとう。では、ドクターと合流次第連絡を。ランデヴーポイントを通達します」

 

〈了解デスッ!〉

 

 

 

 通信を終える。何よりもまず自身の身を案じてくれていた。本当に優しい子たちだ。それはマリアとて例外ではない。

 そんな彼女たちに背負わせようとしているのは、血に塗れた十字架。年端も行かぬ少女らの手を汚そうと動いている。

 それを思う度、ナスターシャの胸の内に浮かんではいけないものが現れるのだ。

 

 

 

「…………私が、間違っているのかもしれない」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 意識が浮上する。とても嫌な夢を見た。

 喉の渇きを覚えながら響は周囲を見渡した。なるほど、自分は眠っていたらしい。最後に覚えているのはカ・ディンギル趾地にてネフィリムと相対し、そして────。

 

 

 

「────────」

 

 

 

 両手を握り、筋力が落ちていないかを確かめる。

 何日眠っていたのか。その内やってくるであろう二課の職員にでも聞いてみよう。

 枕元のテーブルにガラスポットが置かれているのに気づく。中には水がたっぷりと入っていて、喉の渇きを覚えていた響にはとてもありがたい。花は挿さっていないため飲料水のはずだ。

 ポットの下に二枚の紙が挟まっていた。紙とはいうが、二枚目は何かのカードのような形だ。

 

 

 

『早く元気になってね』

 

 

 

 未来の字だった。二枚目は響のよく知る喫茶店のカードだった。裏にはボールペンで『nascita自慢のブレンドコーヒー飲み放題券』とあった。端の方に『Chao』と書かれている。筆記体を書こうとして失敗したのか、隣に黒く塗りつぶされた文字が見えた。

 ドリンクメニューの中でもわざわざnascitaのコーヒー限定で飲み放題にしているため、惣一も分かってやっているのだろう。

 

 二人の存在に少し頬を緩ませ、すぐに今見た夢のことを思い出した。

 最近は思い出すことのなかった記憶だ。急激に気持ちが萎んでいくのが分かる。

 

 

 

「わたしが頑張っても、誰かを傷つけて悲しませることしかできないのかな……」

 

 

 

 胸元の傷に触れる。

 響の()()である人助け。それを《偽善》と蔑まれ、返す言葉が響には見つけられなかった。次に調と出会ったとき、響は答えを見つけられているのか────。

 

 

 ────かさり。

 

 

 何かが落ちる音がした。

 下に目を向けると、ベッドに黒っぽい何かが落ちている。

 

 

 

「…………かさぶた?」

 

 

 

 そう言ってみたものの、響の身体には目立った傷もかさぶたが剥がれた痕もない。

 思い当たるもののない響は、それをゴミ箱に捨てることにした。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 弦十郎に呼び出され、一人仮設本部の通路を歩む翼。

 今しがた見かけたクリスはうろうろと休憩スペースを歩いていたため、クリスは呼び出されていないのだろう。

 指定場所に到着する。すでに弦十郎の姿があったことには驚かなかったが、隣の机にフィーネが腰かけているのには少々面食らった。彼女の手は忙しなく仮想キーボードを叩いており、翼を一瞥した後すぐに視線をタブレットに落とした。

 

 

 

「来たか」

 

 

 

 あの”決闘”まがいの混沌から数日。響は昏睡中だ。未だ回復の兆しは見せない。

 弦十郎が翼を呼び出した理由は理解している。先の戦闘にて、欠損したはずの響の左腕が再生した件だろう。あの出来事をクリスは見ていないことから、翼のみがここに呼び出されたのだろうと納得した。

 弦十郎に名前を呼ばれたフィーネが不機嫌そうに何かを取り出す。「了子」呼びが気に入らないのかもしれない。

 取り出されたシャーレが彼女の指を離れてテーブルを滑り、その縁でぴたりと止まった。弦十郎の確認を取った後、シャーレを手に取り内容物を確認するが、内容物がよく解らない。

 

 

 

「これは?」

 

 

 

 鉱物だろうか。所々金色に光る結晶がシャーレには入っていた。

 視線を上げると同時に、壁面にレントゲン写真が映し出される。写真に写る異常な光景と目の前の結晶の関連性が結びつかない。そもそもこのレントゲン写真は一体誰のものなのか。心臓を中心に、渦巻くように歪な影が全身に奔っているが────。

 

 

 

────調査の結果、この影は第三号聖遺物”ガングニール”の砕けた破片であることが判明しました。

 

 

 

 稲妻のように、かつてフィーネ(了子)の告げた言葉が脳裏を走り抜ける。

 表情の変化を察したのか、弦十郎は淡々と結晶の正体を告げた。

 

 

 

「メディカルチェックの際に採取された、響くんの対組織の一部だ」

 

「……胸のガングニール……ッ!」

 

 

 

 よく考えれば当然のことだった。

 一撃一撃が絶唱級の攻撃や、アームドギア生成のエネルギーを腕の形に固定するなど、翼やクリスには到底できない芸当だ。融合症例であるからこそのあの力、腕を再生することができたのだろう。

 

 

 

「シンフォギアとしてエネルギー化と再構成を繰り返してきた結果、体内の浸食深度が進んでいたのだ」

 

 

 

 生体と聖遺物が一つになる。正真正銘の融合だ。

 爆発的な力の源がそこにあるということなら納得がいく。ただ────

 

 

 

「この融合が、立花の命に与える影響は?」

 

 

 

 翼が知りたいのはその一点だ。響の胸のガングニールは、心臓付近に深く食い込んでいるため摘出が非常に困難であるという。つまり、融合が回復────回復というのも妙な話だが────することはまず不可能であるといえる。

 響とガングニールの融合が、響に何ら影響を与えないのであればそれでいい。今後も戦友として、先輩として彼女と共に人類を守護するだけの話だ。だが問題は()()()()の場合。

 

 

 

「────遠からず、死に至るだろう」

 

「立花が……死ぬ? 馬鹿な……」

 

 

 

 翼の耳に届いたのは、考えうる限り最悪のケースだった。

 奏から受け継ぎ、受け取った意志が今や響の生命を脅かすことになろうとは誰が考えただろう。

 死ぬことはなくとも、これ以上融合が進行した場合────彼女は、人として生きていると言えるのか。

 弦十郎とて何も思うことがない訳ではないのだろう。腕には血管が浮かび、その拳は固く握りしめられている。

 

 

 

「皮肉な事にも、先の暴走時に観測されたデータによって我々にも知り得なかった危険が明るみに出たという事だ」

 

「……ですが、聖遺物との融合症例ならフィーネも該当する筈です。彼女が今こうして我々に協力しているという事は……」

 

 

 

 フィーネはネフシュタンの鎧と融合し、ほぼ無限の再生能力を手にしているはずだ。最も、今は能力が機能していないようだが。

 だのに彼女には響のような異常は見られない。それを指摘すると、フィーネは翼を見て鼻を鳴らした。わざわざ仮想キーボードを叩く手を止めてまでの行動は、ただでさえ余裕のない今の翼を瞬時に激昂させた。

 

 

 

「貴様ッ……」

 

「高々十数年しか生きていない小娘と、永久(とこしえ)にリインカーネーションの輪に存在する私とでは精神の強度が違う。

 例え融合した聖遺物が逆だったとしても、結果は変わらないわ」

 

「ッ、だが」

 

「これは聖遺物研究の第一人者である櫻井了子の考えでもある。どう足掻こうが、遠からず()()()()()()()()()()()()。これが現実よ」

 

 

 

 地面が崩壊したかと錯覚するほどに、平衡感覚が働かない。テーブルに手を付き何とか倒れるのを防ぐ。

 立花響。翼の後輩であり、戦友。亡き片翼(天羽奏)から受け継いだガングニールをその身に纏うシンフォギア装者。彼女を喪うということは、二度も戦友を救えなかったということだ。

 その様なこと────

 

 

 

「F.I.Sはその実ノイズを操り、進んで人命を奪うような輩だ。このまま放っていく訳にもいくまい。

 だが……響くんを欠いた状態で、我々は何処まで対抗できるのか」

 

「だからとて……立花をこれ以上戦わせる訳にはいきません」

 

 

 

 ────他の誰が許しても、風鳴翼が許せる筈もない。

 

 

 

「────掛かる危難は、総て防人の剣が払って見せます」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 弦十郎とフィーネが司令室に戻ると、朔也たちオペレーターが先日の戦闘記録を再生していた。ウェルの行方を捜索しているようだ。

 二人が戻ったのを確認し軽く会釈をする朔也とあおい。すぐに作業に戻るも、少しして朔也が口を開いた。

 

 

 

「……藪から棒ですけど、"ハザードレベル"って何なんですかね」

 

 

 

 戦闘記録は響が暴走したところまで進んでいた。響に吹き飛ばされたスタークが狂喜しながら発した言葉だ。だが、何もその時に初めて出た単語ではない。

 

 

 

「直訳すれば"危険値"になるけど……」

 

「思えば、仕切りに口にしている単語だな。何らかの意図があると見るべきだろう」

 

 

 

 ここである程度ハザードレベルなる物について考察を行うのも悪くないだろう。情報を纏め、彼の行動の意図を掴むためにも必要と判断した。

 早速あおいが推測を始めた。

 

 

 

「単純にスタークにとっての危険度を表しているのか、それとも別の意味があるのか……」

 

「あいつ、数字が上がるごとに喜んでますよね? ただ単に自分にとっての危険度ってだけなら、焦ることはあっても喜ぶなんてあり得ますか?」

 

 

 

 朔也の言う通りだ。ハザードレベルがスタークにとっての危険度を表しているのならば、自らが撃破される可能性が高まると言うのにわざわざ成長させるような真似はしないはずだ。以前と比べ、響も翼もクリスもその刃がスタークに届きつつあるというのに彼女たちの成長を促すことを止めていない。

 これはハザードレベルの上昇には何か別の意味があるという証左なのではないか。

 ただ、現時点ではそれを確定することはできない。そもそも情報が少なすぎるためだ。弦十郎はスタークと連んでいたフィーネに尋ねる。

 

 

 

「……了子くん、君は何かスタークから聞いている事はないのか?」

 

「奴は自らの事を何一つ語らなかった。ただ────」

 

「どうした?」

 

「気がかりがないとも言い切れないわ」

 

 

 

 珍しく始めから乗り気の様子のフィーネに少し驚くも納得する。彼女はスタークに出し抜かれカ・ディンギルの制御権を奪われてしまったのだ。

 とにかく、科学者としての見地からも意見を聞くべく続きを促す。

 

 

 

「些細な事でも何でもいい。頼めるか、了子くん」

 

「風鳴翼が絶唱を発動した際と、米軍の男が装者と戦闘を展開した際の奴の行動が引っかかる。行動と結果が一致していない」

 

「行動と結果……? 何かありましたっけ?」

 

「尋ねる暇があるのなら、記録の再生でもしてなさい」

 

「分かりましたよ……」

 

 

 

 朔也に指示し、二つの戦闘記録を再生させるフィーネ。二つの戦闘に共通点があっただろうか。

 

 

 

「後者については、私が直接この目で視認した訳ではないけれど」

 

「それで、了子くん。気がかりとは?」

 

「まず前者。クリスと風鳴翼の戦闘と並行して、立花響もブラッドスタークとノイズを相手取っていた。

 その際あの娘はスタークに毒ガス()()()()()()を浴びせられ、戦闘不能に追い込まれた」

 

「毒ガスの……ようなもの?」

 

 

 

 毒ガスのようなもの、と聞き訝しむあおい。フィーネは彼女を一瞥した後、説明を始めた。

 あの際響は黒い蒸気を浴びせられ、戦闘不能に追い込まれた。戦闘後メディカルチェックを行い何ら異常がなかったことから、即効性の麻痺毒の類だろうと判断したのだと言う。あの際メディカルチェックの結果は弦十郎も確認しているため、異常がないというのには同意する。

 

 

 

「そして後者。記録によれば、スタークが米軍の男に黒い蒸気を浴びせ、男は半身を異形へと変貌させた」

 

 

 

 そこで、弦十郎もフィーネが何を言わんとしているかを理解した。それを目敏く感じ取ったのか、フィーネは"後は任せた"とでも言いたげな様子だ。だがもう少し彼女には付き合ってもらう。

 

 

 

「……その二つの事例で使用された霧状の物質が同じもの(、、、、)だと?」

 

「まさか! 現に響ちゃんは何ともなかったじゃないですか」

 

 

 

 問いかける形で彼女に続きを促す。

 

 

 

「先の事例に於いて、"短剣から放出された蒸気が同じ物体"だと仮定した上でだけれど……」

 

「あの男は異形へ変貌し、響ちゃんに異変はなかった……」

 

「この結果の違いに何ら意味が無いとは考え難い。思えば、スタークが我々に対しハザードレベルなるものを測り始めたのもその頃からか」

 

「……もしかして、けっこういい線行ってるんじゃないですか? 了子さんの推理」

 

 

 

 思わずと言った様子で朔也が呟く。確かに、自身の何気ない一言からは想像もつかないほど現実味のある推測ができたのだから驚くのも無理はないだろう。

 そうなると次に上がる議題は"例の霧状の物質の正体は何なのか"、"なぜ響に何ら異常が見られないのか"、そして"翼やクリスにも当てはまるのか"である。

 しかしそれだけに人員を割けるほど現在の状況は芳しくない。月軌道の再計算が最優先事項であるからだ。その上、それを理解っていて黙していた各国首脳陣への詰問もある。

 数秒熟考し、方針を決定した弦十郎はあおいとフィーネに指示を出した。

 

 

 

「了子くんは直ちにスタークの行動を過去に遡り探ってくれ。友里、月軌道の件が片付き次第、了子くんに合流だ」

 

「了解」

 

 

 

 フィーネは返事こそしなかったものの、作業に取りかかってくれている。よほどスタークが気に食わないのだろう。

 

 

 

「さて……目下の課題は、失踪したウェル博士の捜索だが……」

 

「捜索範囲を広げてますけど、なかなか見つかりませんね。F.I.Sに動きがない以上、向こうもウェル博士を探してるんでしょうけど」

 

 

 

 行方を眩ませたウェルについては、慎次たち二課のエージェントが捜索に当たっている。ナイトローグに変身するためのデバイスを破壊されたのだ、そう簡単に遠くへ逃げ仰せられないはずだが……。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 カ・ディンギル趾地よりそう遠く離れていない荒野。趾地ではないものの、この場所も数ヶ月前のルナアタックにより、生命の芽生えぬ土地となっている。

 そんな荒野の真っ只中、奇跡的にあらゆる捜索網に引っかからず完全聖遺物を杖代わりによろよろと彷徨う男が一人。

 ウェル博士だ。つい数日前まで野心に燃え見開かれていたその双眸は、乾燥により見開いたまま閉じることが困難となっている。

 

 

 

「へェッ……ヘェッ……なッ、ぬォわアアアアッ!?」

 

 

 

 支えにしていたソロモンの杖を先行して地面につかせる。しかし何故か杖は空を切り、そのままウェルの五体は回転しながら空中に投げ出された。

 なんとか立ち上がり、ソロモンの杖を回収する。斜面の奥には洞穴が空いており、風化しかかっているのかパラパラと小さな土塊が降ってきた。そして何をするでもなく洞穴を進む彼の前に、それ(、、)は現れた。

 

 

 

「あれはッ!?」

 

 

 

 それまでの疲労が嘘のように吹き飛び、俊敏な動きでそれに飛びかかるウェル。

 赤く拍動する人間の頭部ほどの大きさのそれを確認すると、ウェルはそれを強く抱きしめいつもの調子を取り戻した。心なしか、その顔も20歳ほど若返ったように思える。

 

 

 

「ウヒ、ウヒヒッヒヒヒ……こんなところにあったのかァァァ~~~ッ」

 

 

 

 洞穴から這い出、朗らか(狂気的)な笑みを浮かべながらそれを────ネフィリムの心臓(、、、、、、、、)を天に向けて掲げる。

 酷く窪み濁っていた眼は爛々とした輝きを取り戻し、生命力に満ち溢れたように小躍りをするウェル。石につまづき顔から地面に激突するも、彼はもう止まらない。

 

 

 

「これさえあれば英雄だァァ~」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「……しっかしまあ、うら若きJKが粉もの食べすぎなんじゃないですかねぇ~」

 

 

 

────手強い相手を前にして、一々暴走している様な半人前をまともな戦力として数えるなと言われたのだ。

 

 

 

 そう告げられたのは今朝のこと。

 

 

 

────戦場に立つなと云っている。足手纏いが、二度とギアを身に纏うなッ!

 

 

 

 その言葉の真偽はともあれ、響が未だ半人前なのは周知の事実だ。翼に固い口調で一方的にまくし立てられ、響は何も言い返すことができなかった。

 何かがきっかけでまた暴走してしまい、三度翼とクリスを危険に晒してしまったのは変えようがない。そんな自分に弦十郎や翼が愛想を尽かしても仕方のないことだろう。

 

 

 

────たかが知れている立花の助力など……無用だ。

 

 

 

「……ねえったら!」

 

「えっ!?」

 

 

 

 突然、視界いっぱいに弓美の顔が写り込んだ。

 奇声を上げ、危うく階段を踏み外してしまうところだった。そういえば、今はふらわーでお好み焼きを食べて帰宅している途中だったと思い出す。つい数秒前まで弓美たちと会話していたことを忘れていた。

 

 

 

「あっ、ああーっ! うまさ完全トップだからね! おばちゃんのお好み焼きは」

 

 

 

 その言葉に弓美は額に手を当てため息をつく。上の空だったのはとっくにバレていたようだ。

 

 

 

「お誘いした甲斐がありました」

 

「でもビッキー、これで少しは元気出たんじゃない?」

 

「へっ?」

 

 

 

 一体何のことだろう。そんな感情が顔に出ていたのか、弓美に頭を叩かれた。

 

 

 

「アンタってハーレムアニメの主人公ばりに鈍感よねー……。どこかの誰かが、最近響が元気ないって心配しまくってたからこうしてお好みパーティを催した訳ですよ」

 

 

 

 思わず未来の方に顔を向ける。

 未来は笑顔を浮かべていたが、どこかその表情は心配そうだ。どうやら自分が思っていた以上に顔に出てしまっていたらしい。

 今でこそ今朝のことを思い出していたが、確かにふらわーにいた最中はそんなことを忘れて一心不乱に食べていた。

 気分転換にはちょうどいい具合の寄り道だった。

 目の前で車が通ったので足を止める。未来たちに礼を言おうと振り返ったそのとき、

 

 

 

 直後、耳をつんざく爆発音。爆風から未来たちを守るため、咄嗟に腕を伸ばし彼女たちに覆いかぶさる。ここまで被害が及ぶとは思えないが、念のためだ。

 爆発したのが今前を通った車であるならば、中に乗り込んでいた人たちが危険だ。もし生きているのならば二次爆発から逃がすためにも助けなければならない。爆発が起きた場所へと急ぐ響たち。

 

 結論として生存者はいなかった。車は原型が分からないほどに拉げ、炎上している。それだけならば逃げおおせた者もいるかもしれないと普段の響ならば思うところだが────。

 

 

 

「ヘッヘッヘッヘッ……誰が追いかけてきたって、こいつを渡す訳には……」

 

「ウェル、博士……ッ!」

 

「なッ!? なんでお前がここにッ!?」

 

 

 

 彼の前には炭素の山がいくつも。

 右手には完全聖遺物”ソロモンの杖”。左手には包帯で覆われた赤子ほどの大きさの何かを抱えて、息を荒げながらどろりとした笑みを浮かべていた。

 

 ウェル博士。現在二課が血眼になって捜索している対象が、ノイズを率いてそこに立っていた。

 百面相のように、数秒で表情を目まぐるしく変化させるウェル。先ほどの爆発は、彼の持つソロモンの杖を見る限りそういうことなのだろう。今にして思えば、あの黒塗りの車には見覚えがあった。

 彼の足元に積もる炭素の山の数は、車のシートの数とは釣り合わない。一般人にも幾何からの犠牲が出てしまったのだ。気づけば、響は音がするほど歯を食いしばっていた。

 

 半狂乱になりながらウェルは杖を掲げる。緑の閃光が弾け、響たちの前に中型のノイズが召喚される。後ろには戦う術を持たない友人たち。やることは一つだ。

 翼からは”足手まとい”だと言われたことを思い出す。それがどうした。今ノイズを倒せる者が他にいるのか。

 

 

 

「Balwisyall nescell gungnir tron────」

 

「響ッ!?」

 

 

 

 大きく右腕を振りかぶる。目標は、未来たちの命を刈り取らんとその全体を広げこちらに向かってくるノイズ。

 未来の悲鳴のような声を耳に、響は────その拳を、流星の如くノイズに突き刺した。

 

 

 

()()()()()()()()()()()……ッ!?」

 

 

 

 深くめり込む右拳。正中を捉えたその一撃が与えた衝撃が、波紋のようにノイズの体表に広がる。内なる剄を解放し、装着されたハンマーパーツが稼働すると同時にノイズは灰燼へと還った。

 

 

 

「この拳も────」

 

 

 

 この手は、誰かと手を取り合うためのもの。

 

 

 

「命もッ!」

 

 

 

 この手で誰かを護っても、それはただの偽善だと。そう言われたとき、響は何を返せるだろう。

 何も返せないかもしれない。だから翼やクリスの足を引っ張り、挙句の果てに暴走し二人を危険に晒した。

 本当は今すぐにでも皆と逃げだした方がよかったのかもしれない。そうすれば、今抱えている問題を一先ず棚上げにできるはずだ。逃げ切れたときに考えればいいことなのだ。

 それでも今は。表情が伺い知れない、護るべき背後の友人たちと、陽だまりを感じて。

 

 

 

「シンフォギアだッ!!」

 

 

 

 震える拳を握って、解放全開で。

 目の前の人助けに、懸命に手を伸ばすだけだ。

 




次回「君でいられなくなるキミに」


補足
1期編2話で惣一が監視カメラのジャミングを依頼してた相手はウェルじゃなくてカイザーです

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