戦姫絶唱シンフォギア Evolution's Symphony   作:セグウェイノイズ

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前回と合わせて1話の予定だったってマ?
1話の文量の姿か?これが……



EPISODE13「歪鏡・シェンショウジン」

 特異災害対策機動部二課仮設本部に設けられた、研究室の一角にて。堆く、それでいて整然と積み上げられた資料の山群の中に、彼女のデスクは置かれていた。

 椅子に腰掛け、整頓された机上に肘をつきながらフィーネは思考する。

 

 半日前、東京スカイタワーにて発生した大規模なノイズ災害。死傷者の数こそ多くはなかったものの、その被害は甚大だった。

 タブレットの画面に、被害状況が映し出される。日本一の全長を誇るスカイタワーは半ばから倒壊し、至る所で黒煙が噴出している。見る影もないとはこのことだろう。

 

 

 

────わたしにとって一番あたたかいものは、もう……

 

「…………」

 

 

 

 脳裏に浮かぶは、絶望し、憔悴しきった少女の顔。親友の生死が不明なのだ、立花響の性格を鑑みればああなるのも無理はない。

 見るに堪えない、不愉快極まる虚仮の笑みを張り付けていた数日前。対して今の彼女はそんな余裕もないようで、その顔から虚飾は全て剥がれ落ちていた。

 そんな彼女を見て、フィーネの裡に少しだけ溜飲が下がるものがあった。

 

 彼女を戦力として数えられない今、最早彼女に構う必要など在りはしない。だがここに、彼女の言動が頭から離れてくれないという事実があることに辟易する。

 

 

 

「変わったのか、変えられたのか……」

 

 

 

 以前独りごちた言葉を、もう一度呟く。

 フィーネと響の間にそう長い付き合いはない。付き合いの長さだけで言うのなら、弦十郎やクリスの方が遥かに上だ。

 

 立花響。ガングニールのシンフォギア装者であり、融合症例第一号。

 確かに彼女は、永遠の刹那を生きてきたフィーネにとっても、あまり出逢うことのなかった人間だ。何処までも真っ直ぐで、それでいてこの上なく歪。

 

 ”超先史文明期の巫女”という自らの正体を明かしたまま、打算なく誰かに協力するという経験は今まであったろうか。記憶の限りではないと言える。少なくとも、フィーネにとってこの状況がイレギュラー極まるものであることは確かだ。

 二課の連中にとって自分は”敵”。風鳴翼の様子を見れば解る。しかし────と、そこで当初の感情に行き当たった。

 

 正体を知って尚、手を取り合おうとする少女。やはり彼女がこの奇妙な感情の元凶であることは確かなようだ。

 思えば、以前同じような感情を誰かに抱いた記憶がある。あれは誰だったか。記憶の大海から情報をかき分ける。

 それはすぐに見つかった。忘れようにも忘れ難いあの屈辱と()は不可分のものだ。

 

 

 

「風鳴弦十郎……」

 

 

 

 彼に対しての感情と、響に対してのそれは似ている。それどころか同じものであるという結論に至った。

 これは”苛立ち”そのものではない。”不快感”でもない。その結論と照らし合わせるなら、この奇妙な感情の正体は────戸惑い。

 

 

 

────戸惑っている? この私が? 只の小娘相手に?

 

 

 

 俄には信じがたい。弦十郎に対してはまだ解らないでもない、彼はその埒外の武力を以ってフィーネを制したのだ。

 だが響はどうだ。確かにあの少女は「人と人は手を取り合える」と信じて止まない。だが、それを除けば単なる路傍の石でしかないだろう。

 それでも、フィーネが響に戸惑いを覚えていたという事実は消えない。

 

 それはつまり、"響に戸惑いを覚えている自分に苛立っていた"ということで────。

 

 強制的に思考を打ち切る。

 これ以上をフィーネは望まず、認めない。思考を続けたことを僅かに後悔し、紛らわすようにかぶりを振った。

 作業に集中しようと、フィーネは手元のタブレットに目を落とす。目下の課題は響とガングニールの融合を遅延させる手立ての模索だ。

 

 仮想キーボードを叩き始めてすぐ、()()に気づき嘆息した。

 また立花響だ。嫌な偶然だと舌を打ち、無心にキーボードを叩く。

 

 そんな状態にあっても、フィーネは自室に侵入してくる存在を感知していた。歩幅からそれが誰であるかにも見当がつく。

 無視を決め込むにも聴覚を無駄に使ってしまうことになる。どうやら、直接追い返すしかないようだ。

 

 

 

「人の私室に無断で入る様な教育をした覚えは無いわよ、クリス?」

 

「別にいいだろ。あたしだって無関係な訳じゃねえんだから」

 

「無関係よ。この場に、貴女に関わるモノなど何一つ無い」

 

「居るじゃねえか、そこにでっかいのが一人」

 

「…………。随分生意気になったものね」

 

 

 

 全く誰に似たのか。地面を軽く蹴り、慣性のままに椅子が回転する。

 そこでようやく厄介者を視認した。予想通り、現れたのは銀髪の小柄な少女、雪音クリス。どういう因果か、未だに彼女との縁は繋がっている。

 クリスは腕を組み、強気な態度を示そうとしているものの、その目は揺れているようだ。口から出る言葉とは正反対だとフィーネは僅かに口角を上げた。

 

 

 

「要件は? 手短に済ませなさい」

 

「話がある。場所はここでいい」

 

「……貴女もこのタイミングで? 示し合わせた訳でもないでしょうに」

 

 

 

 上がった口角はすぐに下がり、フィーネは思わず天を仰ぐ。まさかクリスも弦十郎と共謀しているのかと訝しむも、即座にその考えは切って捨てた。

 話がある。彼女は確かにそう言い、そう聞こえた。仮に弦十郎の手引きであるとすれば、こうも短期間に連続してぶつけてはこないだろう。ならばこれはクリスの独断。

 どちらにせよ、何とも面倒極まりないことだ。悪役をやっていた以上、それを言えたことではないという程度には自覚しているが。

 

 

 

「あの人の、アンタへの雰囲気が変わってた。だったらあたしも……そろそろアンタと折って合わせるべきだと思った」

 

「まあ、私がどうこう言えるものでは無い事は理解しているわ。

 立花響と聖遺物の融合を遅延させる手立ての発見が遅れてもいいのなら、寛いで行きなさい」

 

「分かってんだよそんな事! ……だから、順番に話してく」

 

 

 

 順番に話すと言って数分。クリスの口から紡がれたその言は、見事フィーネの眉を顰めさせることに成功した。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 二課からの招集命令に応じ、仮設本部の指令室にやってきた響。

 重い足取りで引きずるように入室する。僅かに視線を上に上げると、どうやら響が最後のようだった。

 目を伏せるまでの一瞬、視線をこちらに向ける翼とクリスが視界に入った。響を心配してくれているらしい。尋常であればそんな二人に礼の一つや二つ送るものだが、生憎と今の響にそんな発想など思いつくべくもない。

 

 揃ったか、と弦十郎の声。

 一体何用なのか。未だに、なぜ自分がこの場に立っていられるのかが分からない。どうやって来たのかも憶えていない。

 最早これ以上の戦闘は実質不可能だ。何より陽だまりを護れなかった自分に何ができるというのか。

 

 そんな響の様子を知ってか知らずか、弦十郎が響に何かを手渡してきた。

 無骨なデザインの四角形の物体だ。所々が拉げ、削れてしまっているが、これが二課の通信機であることにはすぐに思い至った。響も所持しているこの通信機、聞けばこの時代の先端技術の随を集めた代物らしい。

 だが、これがどうかしたのか。正直何も考えたくない気分だが、あの弦十郎(師匠)が無意味なことをするはずがない。

 

思わず通信機を受け取ってしまった響だが、どんな反応を見せればいいのか分からない。少しは気が紛れるかと、響は手元の物体について尋ねた。

 

 

 

「これは……?」

 

「スカイタワーより少し離れた地点で発見された、未来くんの通信機だ」

 

「……え」

 

 

 

 息が詰まる。息の仕方を身体が忘れてしまったようだ。

 今、弦十郎は何と言ったのか。響がとうとうおかしくなったのでなければ、この手元の物体の正体は”未来の通信機”だと彼は言った。

 つまりこれは未来の形見ということになり────違う。

 重要なのはそこではない。その前だ。

 

 

 

「発信記録を追跡した結果、破損されるまでの数分間、ほぼ一定の速度で移動していたことが判明した」

 

 

 

 発見されたのはスカイタワーではない。破損されるまで、一定の速度で移動していた。これらから導き出されるたった一つの事実。

 声帯を震わせかけて、思わず口を噤む。()()を口にする勇気が出ない。もし違っていれば、自分はどうなってしまうのか。響には検討もつかなかった。

 

 弦十郎と目が合う。その真っ直ぐな視線を見つめてほんの数瞬、彼が僅かに笑った……気がする。

 揺れる響の瞳から感情を察知したのか、弦十郎は一歩足を踏み出し、その事実を口にした。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()。何者かによって連れ出され、拉致されていると見るのが妥当な所だが」

 

「師匠、それってつまり……!」

 

「こんな所で呆けてる場合じゃないって事だろうよ!」

 

 

 

 頭に硬く、温かい感触。弦十郎の手だ。その鍛え抜かれた腕から伝わってくるのは、大樹のような彼の優しさ。

 勇気が出なかった響の背を押してくれたのだ。彼の顔は、今度こそ力強い笑みを湛えていた。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 二日後。弦十郎の厳しい特訓(英雄故事)を乗り越えた響は、nascitaへと足を運んでいた。

 未来についての迷いは晴れた。信頼する銃後の調査を待ち、翼とクリスによる救出を待つだけだ。響自身が向かえないのは残念極まることであるが、未来と再会するためならば憂いはない。

 

 だというのに、響の表情はいま一つ冴えていない。

 なぜか。それは響の抱える()()()()の問題に起因するものだ。

 スカイタワーでシンフォギアを着装して以来、胸のガングニールの融合が加速している。これまでは戦闘を開始して漸く感じる程度のものでしかなかった。しかし今は違う。

 

 胸の奥のざらつく感触。身体の中で”何か”が蠢き、造り替えられていく感覚。それは断続的な痛みを伴って、響の日常にまで浸食してしまった。

 こうして足を動かしている今も例外ではない。漠然とした不安が暗雲となり、一度は晴れた空を覆ってくる。

 

 ”あと三回”とフィーネは言った。

 たった一回、それも数秒の着装でこの状態だ。本当にあと二回も猶予はあるのか。フィーネを信頼しているが、響の身体が警鐘を鳴らしている。

 一つの懸念が拭われたことで、もう一つの問題が勢力を増してきた。だからもう一人の大切な人、石動惣一の顔を見に来た訳だが────。

 

 

 

 

 

「ボンジョールノッ! 響ちゃん!」

 

「わあああッ!?」

 

 

 

 

 

 惣一は何時にも増して笑顔だった。

 それがカエルのようにひっくり返った響を見てのものでなければ、響も肩の力が抜けたのだが。

 

 

 

「何かあったか? そんな辛気臭い顔しちまって」

 

「え……そんな顔してたかな、わたし?」

 

「どれだけ見てくれを誤魔化したつもりでも、内面ってのは外に出てくるモンなんだよ。これ豆な~? コーヒー豆だけに!」

 

 

 

 閑話休題。

 突然カウンターから飛び出してきた惣一に対して口を膨らせていた響だが、目ざとく響の様子に感づいた彼に目が丸くなった。

 普段はお調子者を装っている────実際そうなのは間違いない────が、その実他人をよく見ている。それが石動惣一という人間だ。

 自分で良いことを言ったと認識しているのか、はたまた自分で自分のギャグを気に入ったのか、得意げな風な惣一に苦笑いを返す響。

 

 それはそうと、そんなに自分は分かりやすいのか。腹芸が門外漢であることは自覚しているが、ここまでとは思わなかった。これでは未来を救出したとしても心配させてしまう。

 どうしたものかと唸っていると、再び惣一が仕掛けてきた。

 

 

 

「とにかく、こんな時にはコーヒーでも飲んでリフレッシュするのが一番だ!」

 

 

 

 ああ、始まった。いつもの流れだ。

 コーヒーを飲んでリフレッシュというのには異論を挟む余地などないが、彼が言うと異論しか出てこないのはなぜだろう。

 

 

 

「この前飲んでくれた子の感想を取り入れて、さらに改良させてみた逸品ッ! それがこいつだ」

 

「え、えーっと……。前に見たときよりも黒くなってない?」

 

「なーに当たり前のこと言ってんだよ。黒いほど抜け出せない深みがあるって言うでしょうが」

 

 

 

 当たり前のように差し出された黒い液体。確かに黒さという一点においては突出し、他の追随を許さない逸品と言える。

 当然、味については言うまでもないことだ。響は”この前飲んでくれた子(実験体)”に心の中で合掌した。

 

 さて、この場面。普段なら惣一のコーヒーを峻拒し、代わりにジュースでも強請るところだ。惣一も口ではああ言いながら、冷蔵庫から紙パックのジュースを取り出している。

 助かる道が示されている状況。垂らされた蜘蛛の糸を掴まない道理はない。

 ないのだが。

 

 

 

「まあ? 響ちゃんは舌がお子様だからなァ。どうしてもってんなら……」

 

「……いただきます!」

 

「こいつと交換してやってもやぶさかじゃ……って飲んだァ!?」

 

 

 

 覚悟は決まった。決意を固め、不安を握りつぶした響は、一気呵成にカップを傾け物体Xを口の中に注ぎ込んだ。

 

 まず響を襲ったのは違和感。響が飲んだのは液体のはず。というのに、なんだこれは! 液体のようでもあり、固体のようでもあり、どういう訳か気体のような気すらしてきた。

 続き、物体が喉に近づくにつれ激しい刺激が口内を蹂躙する。いが栗やウニを丸飲みしたかと思い込むほどの刺激。ここまできて、響はまだ自分が”飲み込む”という動作をしていないことを悟り、背筋に嫌な感覚が奔った。

 押し寄せる絶望の二文字に屈さず、けたたましく脳内で鳴り渡る警報を無視しながら物体を嚥下する。

 結果。

 

 

 

「わたしの口……取れてない……?」

 

「まさかこんな日が来るなんてな……。可愛い我が子よ、ありがとうッ!」

 

 

 

 カウンターに頭を預け、涙を溢れさせながら後悔と闘う響。涙を拭いながら手を組み、空へ向かって祈り始める惣一。

 混沌と化した現場が生まれていた。

 

 混沌が収まり、未だ舌に残る不快感と闘いながらも、徐に響は立ち上がった。

 あのコーヒーの惨状を思い出し、手を握る。

 

 

 

「……うん、ちゃんとマズイ」

 

「ちゃんとマズイ!?」

 

 

 

 その発言がよほどの衝撃だったのか、惣一の目から一気に涙が引いていった。

 夜な夜な感じる、自分が人間でなくなっていく感覚。形容しがたい不安を抱いていた響だったが、どうやら惣一のコーヒーを不味いと評価できる程度には、まだまだ人の身であったようだ。

 不安が消え去ったとはとても言えない。現実、響を蝕むガングニールの問題は解決からは程遠い状況だ。だが、気持ちを持ち直すことができた。

 

 活力は充填された。まさか惣一のコーヒーが響を助けてくれるとは、少し前の自分に言っても絶対に信じてくれないだろう。

 彼自身は知る由もないが、惣一の存在がどれだけ響の支えとなっているか。何かお返しをしたいと常日頃考えているが、そのためにはまず未来の救出を急ぐ必要がある。

 手を固く握り締め、響は惣一の元を後にした。

 

 

 

「ありがとう、惣一おじさん! おかげでちょっと元気出た気がする!」

 

「ちゃんとマズイ……」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 メディカルチェックが終わった。ベッドに横になり、そのままじっとしているだけで済む作業なのだが、何もしないというのが響には少し退屈に思える。

 これからは数日おきに検査を行う必要があるという。検査中は退屈この上ないが、ガングニールの浸食速度を測定するためには必要なことだ。

 検査はフィーネが主導となり進められているとのことだった。聖遺物の第一人者としてだけでなく、彼女本人のことを信頼している響にとっては渡りに船だ。これを機に、フィーネとも親交を深めていきたい。

 

 入院着から制服に着替えた響。その足で指令室に向かおうとしたそのとき、自動扉の傍にて誰かが佇んでいるのが目に入った。

 照明を反射し、透き通るような美しい輝きを放つブロンドの長髪。視線を手元のタブレットに落としていたフィーネを見つめていた響だが、ふと彼女と視線が交錯する。

 

 

 

「…………」

 

「……あっ! ちょっと待ってください了子さーん!」

 

 

 

 フィーネと目が合ったかと思えば、突然彼女は白衣を翻しその場を離れた。あの方向には指令室がある。メディカルチェックの結果の報告に向かったようだ。

 などと呆けている場合ではない。響も向かわなくてはと、慌てて彼女の後を追った。

 

 

 

「お待たせしました!」

 

「了子くん、首尾はどうだ?」

 

「まだ精密な結果は出ていない。ただ、浸食が進行しているのは相違ないわ。先の着装が後を引いているようね」

 

「そうか……」

 

 

 

 フィーネと共に指令室に入室する。移動中、彼女の横に並んでも速度を落とされたりすることはなかったが、同時に会話が弾むことも一切なかった。少なくとも並んで歩くことを許される程度には気を許してくれているのかもしれないと、響はそう判断することにした。

 フィーネの診断結果を聞いた翼が、響に険しい目を向けてくる。

 

 

 

「立花……本当に、五体に不調は見られないのか?」

 

「大丈夫です。変な感じもあんまりありませんし……」

 

「馬鹿、ちっとはあるんじゃねえか」

 

「痛いッ!? ……えーっと、これはですね、その~、言葉の綾と言いますか何と言いますか~……」

 

 

 

 響の頭を叩いた後、もごもごと語尾が霧散していく様子にため息をつくクリス。

 クリスは呆れつつも、その目からは心配の色が見て取れる。口ではああ言いつつも響を気遣ってくれているようだ。翼も言葉には出さないまでも、険しい視線をより強く感じる。

 何とか彼女たちを安心させようと頭を捻らせる中、響は突然、慮外の方角からの声を耳にした。

 

 

 

「生き足掻く腹積もりなら、私への嘘偽りは無用と覚えなさい。報告を怠る空っぽ闇にくれてやる薬などある訳がないでしょう。

 何より、不確実なデータの蓄積ほど無価値な物もない」

 

「はっ、はい! わかりました……?」

 

 

 

 フィーネからのものだ。いつものように厳しい言葉を投げかけられる。思わず響は背筋を伸ばし、二つ返事で了解して────ふと、違和感に首を捻った。

 それは身体的なものではなく、感覚的なもの。言葉だけで見れば特に変哲のないものだったが、何かが引っかかる。響は違和感の正体を確かめるべく、意を決してフィーネへ問いかけを試みた。

 

 

 

「あの、了子さん────」

 

 

 

 瞬間、室内を駆け巡るサイレン音。室内照明の消灯により管制に必要な情報のみに電力が回され、デバイスによる薄明りが響たちを包む。

 フィーネと話すタイミングを失ってしまった。とはいえ、今はそんなことよりもサイレンの事由に耳を傾けるべきだ。

 

 

 

「ノイズのパターンを検知ッ!」

 

「米国所属艦艇より、応援の要請ッ!」

 

 

 

 あおいの報告と同時に、中央モニターに映像が表示される。

 米国の哨戒艦艇の様子を中継していると思しきその映像が映し出しているのは、有り体に言えば地獄そのものだった。

 銃撃音。破砕音。爆発音。悲鳴。聴覚情報としてはこのあたりが九割を占めている。追い打ちをかけるように視覚に訴えかけてくるは、善戦空しく米軍の兵士たちの尽くが灰燼と化す地獄変。

 弦十郎の判断は短く、果断だった。

 

 

 

「この海域から遠くない! 急行するぞッ!」

 

「応援の準備に当たります!」

 

「わたしも……」

 

「死ぬ気かお前ッ!?」

 

 

 

 誰よりも早く駆けだした翼に続こうとするも、突然の首への圧迫感に面食らい立ち止まった。一体何者かと思わず振り向くと、そこにはあるのはクリスの姿。眉は吊り上がり、真っ直ぐに響を睨みつけている。

 気づけば、ネクタイを掴まれていた。これでは出撃できない。何をするのかと発声しかけ、そこでようやく響は自らの現状を思い出した。

 

 

 

「クリスちゃん……」

 

「ここに居ろって。お前はここから……いなくなっちゃいけないんだからよ」

 

 

 

 切実な言葉。その手から、その目からクリスの想いが伝わる。だが、今の彼女の雰囲気は何だろう。死地に向かうときのようとでも言うべきか、いや、戦場が死地でなかったことなどない。

 まるで今生の別れのようなクリスの様子に、何も言うことができなかった。

 

 

 

「……()()()()()()

 

 

 

 それだけ言い残し、クリスは翼の後を追っていった。

 ここまでで抱いた数多の違和感。そのどれも解消することなく、開戦の刻は近づいていく。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 これ以上は見るに堪えない。調は眼下に広がる惨状から目を離し、エアキャリアの操縦席へと急いだ。

 

 近海に現れた米国の哨戒艦艇にウェルは今、ノイズを無制限に放っている。確かに、今の我々は傍から見ればテロリストの集団だ。

 ノイズを操る権能(ソロモンの杖)を有している以上、各国から攻撃を仕掛けられても仕方のないこと。それは解る。そうなる以上、こちらも計画遂行のために反撃に出ねばならないことも、理解はできる。

 

 だが、これはまるで違う。これはただの蹂躙だ。そこに理念や信念などは存在しない。

 ”世間の目を此方に集めるため”。そうウェルは嘯いた。実際、この一件が報道されれば武装組織フィーネの名は世間に轟くだろう。ただしそれは冷酷無慈悲なテロリストとしての悪名だ。

 これでは人類が纏まることなど夢のまた夢。いたずらに人名を奪うやり方を調は許容できない。何より、この惨状に対してマリアが静観しているという事実が認められない。

 

 

 

「こんなことがマリアの望んでいることなの? 弱い人たちを守るために、本当に必要なことなの?」

 

 

 

 マリアの元へ駆け寄り、説得を試みる。だが反応はない。あのマリアがこんな選択をしたという事実が調の胸を抉ってくる。彼女の隣の座席のナスターシャも、マリアに何の働きかけも見せてくれない。

 

 説得を諦めかけた調だが、瞬間、巻き起こった暴風が暗い思考を吹き飛ばしてくれた。

 いつだって頼れる調の半身、暁切歌。彼女がいつも通りの、太陽のような笑顔で調を見つめてくれる。切歌がエアキャリアのハッチを開け放ったことにより、全員の視線がそこに集まった。

 

 切歌の横に並び立ち、海上の光景を見下ろす。無尽蔵に溢れるノイズが人間を炭素の山へと変えていく地獄に、これから二人は飛び込もうとしているのだ。

 

 

 

「調! 切歌! 待ちなさいッ!」

 

 

 

 それに気づいたらしいマリアが、制止の動きを見せてくる。冷や汗を伝わせるその様子を見て、心の何処かで安堵する自分がいた。

 やはりマリアはマリアのままだ。優しい彼女がこのような選択を取らされていることを確信し────調は、”ガツンと言ってやる”決意を固めた。

 

 

 

「ううん、待たない。マリアが苦しんでいるのなら、わたしたちが助けてあげるんだ」

 

「アタシたちのやりたいことは……昨日も今日も、明日からも変わらないのデスッ!」

 

 

 

 その言葉を最後に、調はエアキャリアを後にする。LiNKERの持続時間は十分。その上、今の調は一人ではない。横には、自信満々といった表情でギアペンダントを握り締める切歌の姿があった。

 刻一刻と迫る海上。それに対して調は何ら焦ることなく、歌を歌った。

 

 

 

「Various shul shagana tron」

 

 

 

 

 

『元気な奴らだ。さて……俺はお前の指示に従うだけだが。どうする?』

 

「どうします、マリア・カデンツァヴナ・イヴ?」

 

「……私は」

 

「連れ戻したいのなら、いい方法がありますよ」

 

『なるほどコイツの出番か。了解了解! 俺としても、最近暴れ足りないと思ってた所だ』 

 

 

 

 

 

「首をかしげて、指からするり……落ちてく愛をみたの」

 

 

 

 甲板が近づくにつれ、鮮明な戦場の状況が明らかになっていく。とても一息に仕留め切れる数ではない。ならば、まずは人間に襲いかからんとする個体から倒していかなければ。

 

 

 

━━━━━━━━α式 百輪廻━━━━━━━━

 

 

 

 アームドギアから射出される無数の回転鋸。降り注ぐ百輪廻がノイズの群れを両断し、道を作った。この一撃で自力で撤退できるものはそうするだろう。

 彼らの行く手を阻むノイズも、切歌により露払いは済んでいる。この戦闘での最優先は被害者の数を押し留めること。延いては、マリアの重荷を軽減させることだ。これ以上マリアに十字架を背負わせる訳にはいかない。

 

 調や切歌がマリアに向ける親愛は生半可なものではない。それをマリアが受け止めてくれているという自覚も、自信もあった。ただ、今はそれが指からすり抜けてしまっている。

 それを黙って見過ごせる調たちではない。すり抜けていった愛情を拾い集めて、積み上げて。

 空に浮かぶ”お月さま”に届けることが、今の二人の闘う動機だ。

 

 

 

「だからそんな世界は……伐り刻んであげましょうッ!」

 

 

 

 逃げ遅れた兵士に迫るノイズの魔の手。その間に割って入った調は、展開した円盤状の鋸を盾代わりとして突貫を受け止めた。もう一本の鋸でノイズを仕留めた後、後ろの兵士の撤退を確認する。これで粗方の人命は救助できたはずだ。

 

 ここからは後片付けの時間。どういう訳か、ウェルによるノイズの増援は止んでいる。

 一応同じ屋根の下に集う者同士として遠慮でもしてくれているのだろうか。いやない。一瞬でもそんな想像をしてしまった調は軽く身震いをした後、再び攻勢に躍り出た。

 

 

 

━━━━━━━━γ式 卍火車━━━━━━━━

 

 

 

 アームを伸ばし射程距離を延長する。脚部のホイールを回転させ、卍火車を縦横無尽に振り回す調。視界が一周する度に周囲のノイズは炭素と化していき、ついにはゼロ体になった。

 数は多いが、キリがないほどでもない。

 このまま引き続き残りのノイズを伐り刻もうとした、その時のこと。

 

 

 

「忘れかけた笑顔だけど、大丈夫、まだ跳べる……あッ!?」

 

 

 

 背後に感じた迫る死線。

 撃ち漏らし。新規出現。可能性を模索するも、すぐにかぶりを振った。理由などどうでもいい、どう考察しようと、ノイズに背後から飛びかかられているという事実が消えることはないのだから。

 完全に懐に潜り込まれている。この距離からの反撃は不可能だ。

 

 

 

 

━━━━━━断殺・邪刃ウォttKKK━━━━━━

 

 

 

 しかしそんな時、いつも照らしてくれる太陽がいることを、調は忘れていない。

 

 

 

「切ちゃん! ありがとう」

 

「いいってことデス! それより一気にやらかすデスよッ! 調!」

 

「うんッ!」

 

 

 

 

 イガリマの肩部鎧から飛び出た幾本ものワイヤーが、調に向かっていたノイズに巻き付く。バーニアを点火させ、ワイヤーを巻き取りながら切歌は拘束されたノイズに向かって猛進。

 ギロチン状に形成されたアームドギアによる致死の一撃《断殺(だんさつ)邪刃ウォttKKK(ジャバウォック)》が、ノイズを容赦なく断頭した。

 

 捨て身と見紛うほど凄まじい速度での突進だ。当然、ノイズを仕留めて急に停止できるものではない。そのまま海上へと突っ込んでしまうと思われた切歌だったが、大鎌状に戻したアームドギアとバーニアの逆噴射を巧みに使い、うまく減速と着地に成功したようだ。

 

 切歌が合流した今、二人の前に敵はいない。

 

 

 

「絆抱きしめッ! 調べ歌おう────!」

 

 

 

 二人に憚る有象無象を、ザババの双刃で()り刻む。

 

 

 

「アタシたちなら、こんな数朝ごはん前なのデス!」

 

 

 

 明らかにノイズの数が目減りしてきた。ウェルが追加のノイズを召喚するなどという暴挙に出なければ、ほんの数分で戦闘は終了するはずだ。

 切歌と頷き合い、高まるフォニックゲインのままに刃を抜き身にして────二人は地面の鉄板を蹴り、その場から全力で飛び退いた。

 

 

 

【スチームアタック! フルボトル! ガトリング!】

 

 

 

 聞き覚えのある電子音声。出所は、空だ。

 僅かな間を置き発射された無数の弾丸が、残存するノイズの全てを撃ち抜いた。

 面の制圧、確かにそれはノイズ相手には有効となり得る。弾丸の波紋は広がり、炭素の粒子と硝煙が辺りに立ちこめていく。

 ウェルにこんな芸当ができるはずがない。下手人は明らかだ。

 

 

 

『数のばら撒き、雑魚散らしには案外便利なもんだな。シンフォギア装者諸君がよく使う理由も分かるよ』

 

「スターク……」

 

「危ないじゃないデスかッ!」

 

『悪かったよ。お二人があまりにも血気盛んなモンだから、連れ戻すよう仰せ付かったって訳だ。

 あれで少しは頭も冷えただろ?』

 

 

 

 着地と同時にそんなことをほざいてきた。相変わらずの戦闘能力だと、二人のいた場所ごとの攻撃でなければ、素直に感心もしようものだったのだが。

 ムカムカと激情が腹の裡より湧き出てくるのを感じる。それ以外に好感の持てる部分が皆無なのだ、どうして彼相手に素直になれるだろうか。

 

 

 

「わたしたちだけで十分。あなたの助けは要らなかった」

 

『そう言ってくれるなよ。今回に限らず、手は多いに越した事ないだろ』

 

 

 

 いつもスタークは冷静に正論────言い方が不愉快極まりないが────を口にする。それを見る度に、調は感情のままつっけんどんな態度を取る自分がどうしようもなく幼稚に思えてしまう。

 それを自覚していても、愉しげにそれを躱すスタークに対してヒートアップしていくのが止められない。

 本当にキライだ。

 

 

 

『それはそうと、二人とも随分動きが良くなってきたなァ。その調子だ』

 

 

 

 今度は素直に感心した風の声色だった。数ヶ月の付き合いで分かったことだが、こういう所でスタークは嘘やおべっかを使わない。

 どうやら、今回の戦闘は彼のお眼鏡に適ったようだ。少しは誇っていいことなのかもしれない。

 

 するりと蛇のように後ろに回りこんできた。そのまま調の肩に手を置こうとしてきたが、手の置き場にされる謂れはない。

 スタークの左手は空を切る結果となった。「久しぶりの感覚だ」などとしみじみした様子で呟いていたので、そういう趣味でもあるのかと調は瞠目し、勘付かれないように半歩下がる。切歌も呆れた様子を隠そうともしていない。

 

 完全とまでは言わずとも、どこか弛緩した空気。

 それが計算されたものであることに気付けるほど、調はまだ謀略というものに明るくなかった。

 

 

 

『まァともかくだ。そろそろ仕事を終わらせるかね、っと』

 

「ッ!? なに、を……?」

 

「調ッ!?」

 

 

 

 瞬間、首元への違和感。

 それはどろりとした感覚を伴って全身に伝播し、その効用が発揮される。

 足に力が入らない。踏ん張りが利かないというレベルの話ではない。急激な虚脱感に襲われた調は、思わず倒れるような形で座り込んでしまった。

 

 突然行われたスタークの凶行。切歌も調の異変に動揺した隙を突かれ、()()を────麻酔銃を思わせる形状の注射器に入った薬液を、首元に投与されてしまった。

 装者が首元から接種する薬品と来れば、LiNKERしか思いつかない。まだ効果時間には十分な余裕がある。

 

 これではいつかの再演だ。となれば当然、オーバードーズによる副作用も然るべき。だがいつまで経っても力が出ない。これはどこか違うような────

 

 

 

「なにしやがるデスッ!? ノイズも二課もいないのに、追加投与なんて……」

 

〈LiNKERではありませんよ〉

 

 

 

 耳元にまとわりつく、粘着質な猫撫で声。

 

 

 

〈これはAnti_LiNKER。適合係数を引き下げるために用います。その効果は折り紙付きですよ〉

 

 

 

 適合係数を引き下げる。なるほど、確かにAnti(反転)と言って差し支えない性能だ。

 ギアが重い。つい今しがたまで、調と同体となってノイズ相手に無限軌道を唸らせていたシュルシャガナ。それが今はどうだ、シュルシャガナは全く応えてくれない。枷となってしまったかのようだ。

 あれこれとスタークとウェルがほざいている間にも、ギアはその軋みを刻一刻と増している。やがて決定的な喪失感と共にギアは解除されてしまった。

 

 強制解除と共に、甲板に迸った緑光。調はこの光をよく知っている。

 光と代替して現れたのは、既に殲滅したはずのノイズの群れだ。ウェルは虚空────ステルス機能を発動中のエアキャリアより、ソロモンの杖の権能を以ってノイズを召喚せしめたということ。

 それはつまり、闘う術を奪われた今の調たちにとって致命的ということでもあり。

 

 

 

〈これを機に、放埒な振る舞いは控えて貰いたいものです。

 僕としても、闘う術を持たぬ幼気(いたいけ)な少女達を鉄火場に置き去りというのはァ……痛む心があるというもの〉

 

『だとよ。相変わらず胡散臭い奴だ』

 

 

 

 鋸が無いなら四肢で。四肢が動かぬなら口で。目の前の男に喰らいつきたい衝動に支配される。

 どこまでも彼らは悪辣で、残酷だった。思えば、あの夜のウェルの蛮行を見た時点で後先考えず反旗を翻していたのなら、結果は違っていたかもしれない。マリアがウェルに賛同するなどという異常も未然に防げたのかもしれない。

 

 自分がもっと能動的に動けていれば────そんな偽善に襲われる。

 

 

 

「こんな奴らに……なんでマリアはッ……!?」

 

 

 

 歯を食いしばり、上を睨むしかできない自分が憎い。揚々と出撃しておいてこの体たらく。

 世界を救う所か、マリアを助けることさえできやしなかった。残ったのは果てしない無力感と、誰に向けてか分からない怒りのみ。

 

 ウェルの()笑が耳朶を叩き────そして、それを塗り潰すかのように。

 常在戦場の意志の体現。研ぎ澄まされた刃を思わせる戦歌が、鳴り渡った。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 諸行は無常なり。変わらぬものなどこの世にはなく、それは戦場(いくさば)の最中においても同じこと。

 それを鑑みても、翼の目にこの状況は少々異常に映った。

 

 仮設本部から射出されたロケットが、その場の視線を集める。

 ノイズに囲まれながらこちらを見上げる人影は三つ。内二人────月読調と暁切歌がギアを解除していることを除けば、そう不思議な話ではない。

 本部から中継された映像で、ここに至るまでの経緯はある程度把握済みだ。仲間割れ、もしくは此方を誘き出すための罠か。

 いずれにせよ、生滅滅已、寂滅為楽の境地には未だ程遠い身ではあれど、風鳴翼と天羽々斬が悪の跋扈を赦すはずがない。

 

 

 

「一つ目の太刀────」

 

 

 

 右手の太刀が駆動する。瞬時に一振りの大剣へと変じたアームドギアを両手に、翼は得物を振りかぶった。

 

 

 

「────稲光より、最速なる風の如くッ!」

 

 

 

━━━━━━━━━━蒼ノ一閃━━━━━━━━━━

 

 

 

 蒼雷を帯びた大剣を振り下ろすと同時、蒼き斬撃が放たれる。風を切り裂きながら突き進むその一閃は、直線上のノイズを寸分違わず斬り払った。

 スタークですら反応が一瞬遅れたことを見るに、どうやら意表を突くのには成功したらしい。ならば今は好機。アームドギアを太刀に戻し、翼は落下の勢いのまま彼に斬り掛かる。

 

 

 

【スチームブレード!】

 

『お出ましかァ! ようやく楽しめそうだッ!』

 

「お前にかかずらっている時間は無い。即瞬に片を付けるッ!」

 

 

 

 一太刀浴びせられれば御の字。それでも避けられるつもりもなかった。

 その想定を、眼前の赤い蛇は悠々と飛び越えるのだから始末が悪い。彼は瞬時に取り出した短剣を振るい、翼の斬撃を迎え撃ったのだ。

 焦るどころか、どこか楽し気な様子さえ見せるスタークに、思わず柄を握る力が強まってしまう。

 

 

 

━━━━━━━━BILLION MAIDEN━━━━━━━━

 

 

 

 少し遅れて降り立ったクリスが、残るノイズを残らず撃ち抜く。十億発の弾丸の雨が晴れると、彼女は既に仕事を終えていた。

 クリスの目的はスタークではなく、他の二人。調を組み伏せ、手に持つボウガンは、その照準を切歌に定めている。

 

 

 

「切ちゃんッ!」 

 

「おいお前ッ! ウェルの野郎は何処に居やがるッ!?」

 

 

 

 足元の調に怒鳴りつけるクリス。

 少々乱暴なやり口だが、ウェルの居場所が定かではない現状、どうこう言っていられないのも確かだ。実際、クリスの人となりを知らない調にはなかなかどうして効果覿面だったらしい。

 

 言葉は発さず、上空に向けた視線を以て返答する調。スタークが虚空より現れた記録を鑑みるに、その可能性は高いと踏んでいたが────。同じくウェルの居場所を悟ったらしいクリスは、顔を渋め苛立ちを露わにした。

 

 

 

「また雲に隠れてやがるってのか……! 七面倒な真似をッ!」

 

 

 

 そう吐き捨てるクリスだが、奴の本丸がある程度割れたためか、少し落ち着いたようだ。

 得物の照準は一切のブレなく切歌に向けられている。生殺与奪の権を握られていると考えたのだろう、調の顔色は暗い。

 

 

 

「そもそも、一体全体どういう状況だ? お前ら仲間じゃなかったのか」

 

 

 

 もっともな疑問だ。監視カメラの映像からでは推察しかできない。実際現場の空気から罠という線は消えたと思われるが、ならばどういう理由で二人の装者は地に臥しているのか。

 クリスの問いに答えたのは、今この瞬間も翼と迫り合っているスタークだった。スチームブレードを器用に操りながら茶々を入れられるほどには余裕があるらしい。

 

 

 

『その通り! 俺とコイツらはれっきとした仲間さ。なァ? お二人とも』

 

「「誰がコイツなんかとッ!」」

 

 

 

 言っていることが正面から食い違っているのは、一先ず置いておくとして。

 

 

 

「……まだ噛み切れねえが」

 

 

 

 途端、目が合う。どうやら思うところは同じらしいと、思わず笑みが溢れた。

 太刀を振り抜き、スタークから距離を取る。その背には敵である少女たち。クリスも隣に並び立ち、二人でスタークと対峙する形だ。

 後ろから困惑が伝わってくる。至極当然の感情だろうし、翼があちら側であったのなら同じように感じただろう。

 だが現実、翼は()()()にいる。

 

 

 

「今ここでやり合うつもりが無いってんなら、そこから動くんじゃねえぞ」

 

「なんでアタシたちを……!?」

 

「敵同士と云えども、戦場(いくさば)の最中に丸腰の者を見捨てるほど、我々は落ちぶれていないという事だ」

 

 

 

 折を見て拘束はさせて貰うが、と付け加える。

 そう。あちらの困惑が当然のものなら、こちらの理由も至極単純のもの。二人を二課が確保することで、F.I.S.の戦力を削るという理由もなくはないが、それはあくまで副次的なものだ。

 戦場で闘う術を持たぬ者を助けない道理などない。それだけだ。

 

 奇襲による優位は既に失われている。

 だが、長期的に見ればこちらの有利。天秤はこちらに傾いたと言えるだろう。相手はどう出る。翼は愉快そうにバイザーに手を当てるスタークの動向に目を光らせる。

 対峙する敵はそう多くはない。だのにこの妙な感覚は何だ。違和感が纏わりついている。その正体が掴めぬまま、ただ時間だけが過ぎていく。

 

 その時は突然だった。

 

 

 

『泣けるねェ! お荷物を抱えた状態でどこまでやれるか、お手並み拝見って奴だ』

 

 

 

 蛇は嗤い、

 

 

 

「────ならば傾いた天秤を元に戻すとしましょうよ。出来るだけドラマティックに。出来るだけロマンティックにッ!」

 

 

 

 "英雄"は語った。

 そして────────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────Rei shen shou jing rei zizzl」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………未来?」

 

 





もうちょっと切ちゃんに喋らせたかったんですが、これ以上文が増えるのもあれなのでカットしました


フィーネの独白
 自分で生存させといて何ですが口調といい行動といいフィーネに関しては未だによく分かりません
 今回長々と語ってた独白部分は、画面外で響がフィーネと話すデイリークエストを繰り返した結果、響への好感度がちょっと高くなってることに気づいて困惑したみたいな感じです。


補足が増えてきて自分でも書いたか分からなくなってきたので、2期編が終わったら置き場を作ろうと思います
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