戦姫絶唱シンフォギア Evolution's Symphony   作:セグウェイノイズ

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半年失踪したので初投稿です。
原作と同じ展開を文字にするとなると頭がおかしくなるので失踪するんですが、2期編は後々のために片付けないといけない問題が多すぎるんだよなあ



EPISODE14「喪失までのカウントダウン」

「使い時に使ったまでの事ですよ」

 

 

 

 コクピット内に反響する男の声。

 眼下の黒煙立ち込める戦場には目もくれず、ウェルは説き始めた。彼の演説を静かに傾聴するマリア。

 彼女にウェルを糾弾する資格はない。彼に賛同すると宣言した今、マリア・カデンツァヴナ・イヴには過去を振り返ることなど許されないのだから。

 

 

 

「マリアが連れてきたあの娘は、融合症例第一号の旧友らしいじゃないですか」

 

「リディアンの生徒は、シンフォギアの適合が見込まれた装者候補達。つまり貴方のLiNKERによって、あの子は無理矢理に……」

 

「ン・ン・ン~。ちょォ~っと違うかなァ~」

 

 

 

 ナスターシャの言葉を遮るウェル。

 大袈裟に指を振って見せる彼は、指の動きに合わせて舌を鳴らした。調子づくその姿から滲み出るのは喜悦の念だ。

 

 

 

「LiNKER使ってホイホイシンフォギアに適合出来れば、誰も苦労しませんよ」

 

「ならば何故────」

 

 

 

 瞬間、大きく見開かれたウェルの双眸。

 同時にその問いを待っていたかの如く、彼の様子が変化する。"よくぞ聞いてくれた"とでも言いたげだ。

 言外に行われた再度の遮り。目を眇めたナスターシャは口を閉じ、ウェルの演説を聞いてやることにした。

 

 ナスターシャの態度に満足でもしたのか。彼の口角は深い弧を描き、これ以上開かないと思われた両の眼がさらに大きくなる。

 

 呼吸すること一瞬。ウェルは口を開いた。

 

 

 

「━━━━愛、ですよッ!」

 

「何故そこで愛ッ!?」

 

 

 

 愛。

 なんて単純な答え。今この瞬間も続いている血戦には凡そ似つかわしくないその一文字を、彼は俄に発した。

 声を荒げたナスターシャから鸚鵡のように言葉が溢れる。この答えは、彼女にとっても完全に想定外のものだったということか。

 

 

 

「LiNKERが"これ以上旧友を戦わせたくない"という願いを、神獣鏡に繋げてくれたのですよォ~ッ!

 ヤッバいくらいに麗しいじゃありませんかッ!!」

 

 

 

 ガチリ、と。その時マリアは確かに耳にした。

 何かが壊れた音。はたまたそれは加速への証左か。

 自分の選択は果たして────そんな雑念が、彼女の胸を横切った。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 突如戦場に降臨した乱入者。

 爆風により飛んでくる破片群。それから目を守りながら、翼は次の行動の選択に入った。

 この状況での乱入、まず間違いなく味方ではない。向こうに動く気配を感じない以上、まずは乱入者の確認が第一だろう。

 風が弱まる。

 ようやく乱入者の姿を捕捉できると、翼は眼前の光景に目を凝らした。

 

 ────瞬間、絶句する。

 

 ()()こそ、この数日二課が血眼になり捜索していた少女その人。

 何故此処に居るのか。最早()()の生存を喜ぶなどという余裕は彼方に消し飛んだ。

 それでも、どうしても叫ばずにはいられない。彼女は、乱入者の正体は────。

 

 

 

()()()()()()ッ!?」

 

「何でそんな格好してやがるんだよッ!?

 ……スタークッ! お前らの仕業だなッ!!」

 

『半分正解だ。奴の謀を聞いた時はどうなると思ったが……こいつは嬉しい誤算だよ』

 

 

 

 翼が叫ぶ。クリスが猛る。スタークが嗤う。

 紫色のギアインナーに、四肢に鎧う装甲。扇状のアームドギアを握るその姿は正しくシンフォギア装者そのもの。

 7人目のシンフォギア装者、その正体は────小日向未来。

 

 

 

『全く、LiNKERってのはよく出来た発明だ。詳しい作用は知った事じゃないが、たった数日で装者を増やしちまうんだから』

 

「あの装者は、わたしたち以上に急ごしらえな存在。……その分、壊れやすい」

 

「ふざけやがってッ!」

 

 

 

 力の限り甲板を踏みつけるクリス。

 彼女の怒りも最もだ。翼とて平常ではいられない。仲間を拐かされた挙句、敵の尖兵に仕立て上げられたのだ。

 分水嶺はとうに通り越している。憤怒を覚えるには十分過ぎるほどに。

 F.I.S.の悪辣にも、自らの不甲斐無さにも。

 

 とは言え、一先ずは彼女の無事を報告せねばならない。

 彼女の現状を、果たして"無事"だと言えるのかについては、首を捻る他ないのだが。

 

 そんな時。

 沈黙を破り、渦中の少女がついに動いた。

 未来の頭部に装着された上下のバイザーが、獣の(あぎと)の如く閉じられ、噛み合う。

 それが開戦の合図であることは、誰もが理解できた。

 

 

 

「小日向ッ!」

 

 

 

 彼女に声は届かない。アームドギアから放たれる光線が返答とでも言うのか。

 上体を右に逸らし、間一髪光線の直撃を避ける翼。しかし未来は既に第二射の射出体勢に入っている。

 

 避けることは不可能ではない。むしろ攻撃を回避しつつ痛烈な一太刀を与えることこそ、天羽々斬の得意とするところ。

 こと高速機動において翼に比肩し得る者はそう多くないのは事実だが、同時にそう単純な話でないことにはとうの昔に気付いていた。

 

 

 

「こういうのはあたしの仕事だッ……!」

 

 

 

 そう吐き捨て飛び出したのはクリスだ。

 両手のクロスボウに番えられた無数の光矢。緋色に輝くそれを一息に発射するも、矢が未来本人に着弾することはなかった。

 

 今の彼女の行動が、翼たちの知る小日向未来と一致しない。つまり、F.I.S.は彼女を何らかの要因で縛り、糸を引いているということ。

 ならばクリスの行動も理解できる。この想定が正しければ、自ずと彼女が取る行動も予想ができるというものだ。

 攻撃を仕掛けられた未来は標的を変更した。光線の照準が翼から離れ、クリスへと向けられる。それが意味するのは、翼が存分にスタークと打ち合えるという事実。

 

 

 

━━━━━━━QUEEN'S INFERNO━━━━━━━

 

 

 

 緋色の弓矢を降らせながら距離を取るクリス。身軽に艦艇を飛び移っていくその姿は、さながら八艘跳びだ。

 射撃から逃れるべく、未来は甲板から飛び降りる。海に飛び込む気かと思われたが、彼女は器用にギアを用いてホバリングを敢行した。

 舞台は艦艇だけには収まらない。遠距離攻撃を得意とするクリス相手にその場に留まるのは不利だと未来────を縛っている何か────は判断したのだろう。

 

 甲板に残ったのは四人。風鳴翼、月読調、暁切歌、そしてブラッドスターク。

 左手に握る銃剣を回しながら、スタークは翼に顔を向ける。脱力したように見えるその体勢はしかし、一途の隙すら窺えない。

 

 

 

『これで仕切り直し……いや、お荷物を抱えてる分そっちが不利か。ここからが腕の見せ所って奴だな』

 

「守護るべきモノを守護り通す事こそ、人類守護の命を担う防人の本懐。風鳴る剣を甘く見ないで貰おうかッ!」

 

『その意気だ。精々励んでくれよ、特機部二諸君ッ!』

 

 

 

 踏み込みは同時。

 太刀と銃剣が火花を散らし、激突する。

 織り交ぜられる銃撃を躱し、弾く。身体は熱く、心は冷静に────滾る熱情を握り締め、翼は剣戟の最中に飛び込んだ。

 

 

 

(……済まない、雪音)

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 海上の戦いの趨勢は、クリスの方に傾いていた。

 

 

 

「━━━━イ・イ・子・はッ! ネンネしていなァッ!!」

 

 

 

 アームドギアから発射される無数の弾丸。当初こそそれらを巧みに避けていた未来だったが、彼女の動きはパターン化された偽りの意志だ。

 急拵えの装者が雪音クリスに通用する道理はない。

 それも必然だろう。未来は本来、戦場に身を置いた者ではないのだから。

 

 未来には銃弾、クリスには薬莢が雨霰のように殺到するも、実際未来に着弾したのはほんの数発だ。

 吹き飛ばされた未来は、そのまま甲板へと落ちていく。

 

 

 

(やり辛え……! 助けるためとはいえ、あの子はあたしの恩人だッ!)

 

 

 

 硝煙の薫る甲板に降り立つクリス。

 甲板に倒れ伏し動かない未来を見下ろしながら、そう独り言つ。

 一先ず制圧は完了した。

 これが最善の方法だったのか、知る由もない。

 だが"万が一"が存在するのならば。それはきっと、クリスの役割だ。"白"の中にいる翼にこんな汚れ仕事をさせる訳にはいかない。

 

 なんて、御託はいい。

 クリスは未来と戦い、制圧した。ただそれだけのことなのだから。

 苦い、粘ついた感情を無理矢理に嚥下する。

 

 飛び回っている内に、いつしか元の艦艇へと戻っていたようだ。近くから鋭い剣戟の音が聞こえる。

 少し後ろには、月読調と暁切歌の姿。なんとも言えない表情でクリスを見上げている。締め上げて未来を助ける方法を吐かせたいものだが、彼女たちの現状を鑑みれば、知るはずもないのだろう。

 さて、未来をどうしたものか。クリスは未来に向けて歩みを進め、

 

 

 

〈女の子は優しく扱ってくださいね〉

 

 

 

 突然の横槍により足を止めた。

 

 

 

「ウェルッ!?」

 

〈乱暴にギアを外せば、接続された端末が脳を傷つけかねませんよ〉

 

「ちょせえ事言ってんじゃねえッ! だったらどうすりゃ────」

 

〈だから、こうするのは如何でしょう?〉

 

 

 

 ウェル博士。この男が口を開くと、十中八九碌なことにならない。

 一体次は何を仕掛けてくるのか。ただでさえ最悪な情報を齎してくれた訳だが、これ以上の最悪など────、

 

 その刹那、クリスは理解した。

 成程、確かに最悪だ。

 視界に飛び込む、起き上がった未来の姿。耳朶に響く、歪曲した音楽。つまり、フォニックゲイン。

 彼女の纏うそれがシンフォギアである以上、この現象は道理。クリスとて想定していなかった訳ではない。

 

 だが。

 

 

 

「……クソッ!!」

 

 

 

 ここはあまりにも()()()()────!

 

 

 

「閃光、始マル世界……漆黒、終ワル世界」

 

 

 

 再び展開されるアームドギア。フォニックゲインによって増幅されたその出力は、先刻までのそれとは段違いだ。

 飛び退くにしろ迎え撃つにしろ、この距離ではまともな反撃は期待できない。

 

 眼前に広がる、輝きの奔流。

 何処までも透き通り、歪み切ったその鏡。回避は不可能、クリスは本能的にそう判断した。

 

 

 

 

「だったらァッ!」

 

 

 

 元より、攻撃を察知した瞬間からクリスの行動は決まっていた。

 翼はスタークを抑えている。つまり背後の二人、調と切歌を守る盾は存在しないということだ。

 攻撃の余波に曝される危険下にあってなお動かない。鑑みるに、スタークの投与した薬品による効果が大きいと思われるが、これ以上考えている余裕はない。

 

 アーマーからリフレクターを無数に展開するクリス。リフレクター群がネットワークを構築し、光の膜を作り出していく。

 

 

 

〈……クリス!〉

 

 

 

 耳元で声が聞こえるも、もう遅い。

 

 

 

━━━━━━━━━━━流星━━━━━━━━━━━

 

 

 

 瞬間、砲撃。

 放たれた極光の波濤(【流星】)は、只管にクリスに向かって空を裂いていく。

 一秒と経たず、白く塗り潰される視界。

 直撃。否、それは違う。

 

 

 

「指をすり抜ける、キミの左手……」

 

 

 

 胸の覚悟を綴り上げる未来。例えそれが偽りの意志であれど、その切掛は本物だ。

 クリスを呑み込む光の奔流。即座に消し飛び、反応が消失したと思われたイチイバルの反応はしかし、未だ途絶していない。

 紙一重にも満たぬ僅かな差で、【流星】の直撃よりもリフレクターの展開の方が早かった。彼女は両腕を交差させ、確かに神獣鏡の光を分散しながら持ち堪えている。

 

 イチイバルの展開するリフレクターは、月を穿つ一撃をも偏光できる代物だ。放たれたそれが光子であるのならば、その効果はとっくに墨が付いている。

 神獣鏡の砲撃は確かに強力。しかしそれが人の身から放たれたものである限り、カ・ディンギルのそれとは比べるべくもない。絶唱を口にするまでもなく、此方の被害を最小限に抑えられる目測で────。

 

 

 

「だってのに……! なんで押されてんだッ!?」

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()

 威力そのものは予測の通り。慢心などせず、リフレクターも最大数展開した。

 だのに何だ、この結果は。

 

 一つ、また一つと砕けていくリフレクター。

 いや、そもそもこれは砕けているのか。破壊ではなく、もっと根源的な────。

 その答えは、耳元に響く声によって齎された。

 

 

 

〈神獣鏡の"在るべきカタチ"を映し出す凶祓いの特性を以ってすれば、シンフォギアの分解も不可能ではない〉

 

「ギアがッ……()()()()()()()ッ!?」

 

〈凡ゆる不浄、遍く魔を退ける輝く力の奔流。これこそが────神獣鏡のシンフォギア〉

 

 

 

 破壊ではなく、分解。

 フィーネによるその情報は、見事にクリスの認識と現状との擦り合わせに成功した。それが一切状況の好転に繋がらないのが辛いところだ。

 

 撤退。その二文字が脳を過る。

 砲撃の余波によるものか、軋み始める両腕のギア。溶解するかのように砕けていくその様子は、判断の猶予は十秒とないことを物語っている。

 

 

 

〈クリスくんッ! F.I.S.装者を連れて離脱するんだッ!〉

 

「そいつが出来りゃとっくにやってんだよッ……!」

 

 

 

 弦十郎から飛んできた檄にそう吐き捨てるクリス。

 加速的に消し飛んでいくリフレクター。そろそろ限界、ここが分水嶺だ。

 背後に目を向ける。当然、そこに居るのは生身の少女二人。

 調を引っ張りながら流星の直線状から逃れようと試みている切歌だが、その切歌本人も、息も絶え絶えといった様子だ。

 確実に強まってくる【流星】の圧力。クリスは一か八かの賭けに出た。

 

 

 

「……クソッ!」

 

 

 

 踵を返し、二人の少女を脇に抱える。諸共お陀仏よりも僅かに生還できる可能性のある方法、これしかない。

 しかし。

 ただそれだけの動作が、クリスを一手遅らせた。

 偶然は二度も続かない。辛うじて保たれていた均衡が崩れた途端、残った全てのリフレクターが同時に消失した。

 

 遅れた一手を挽回する暇はなく。

 凡ゆる不浄を清める光の流星が、一切の感慨なくクリスを消し飛ばし────。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「雪音ッ……!」

 

『余所見してる場合かァ!?』

 

 

 

 付かず離れず。翼と打ち合うスタークからは、未だ底が見えてこない。

 スタークから調と切歌を切り離すため立ち回っていた翼だが、ここに来て自らの失策を悟った。未来の警戒も怠ってはならなかったのだ。

 

 この場所をも眩く照らす紫の輝き。何より、通信機越しに伝わるクリスの危機。逸る心を抑えながら、翼はスタークに向き直った。

 

 

 

『あれが神獣鏡の輝きか。聖遺物としての格は低いと聞いてたが……小日向未来が神獣鏡の力を底上げしてるのかもな』

 

「随分と余裕だなッ!」

 

『おっと! これでも結構頑張ってるんだが……まあいい』

 

 

 

 剣戟を繰り返すこと幾度。スタークが動きを止めた。

 すぐにでもクリスの救援に向かいたい翼だが、彼からはそれを許す気配を感じられない。

 この問答は無用のものだ。そう切り捨てた翼は一歩踏み出し、太刀を振りかぶろうとして、

 

 

 

『神獣鏡の能力はしっかり確認できた。クリスを助けたいんだろ? 今は見逃してやるよ』

 

「……どう言う腹積りだ?」

 

 

 

 スタークの全身から敵意、いや、悪意が消え去ったのを肌で感じた。

 思わず疑念が口を衝く。直前まで鎬を削っていたとは思えないその変わり様に、翼は思わず戦闘中には致命的な隙を晒していた。

 だのに彼が動く気配はない。

 

 

 

「言葉通りさ。あの砲撃で俺の知りたい事は大体知れた。俺としても、ここで装者が三人も減っちまうのは都合が悪いんでね。

 尤も、事が済めばまた相手になって貰うが』

 

 

 

 嘘は感じられない。真実であるとも限らないのだが────事は一刻を争う。

 後ろか、前か。どちらに進むかだけの選択。

 翼の決断は一瞬だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前ッ……!?」

 

「呆けないッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 果たして雪音クリスは光の直撃を免れた。間一髪、この言葉が今ほど似合う場面はそうないだろう。

 襟を掴まれたクリスの両脇には二人の少女。計四人、少々定員オーバーだがそうも言っていられない。翼はスラスターの出力を最大まで上げ、全力の加速を敢行する。

 

 後ろから聞こえる悲鳴。F.I.S.の二人は【流星】に最も近いのだ、仕方がないだろう。

 どうしたものか。疾走の中翼は思案する。彼方が出力を高めれば、此方の全滅は必至。

 横に躱す────無理だ、減速は免れない。その瞬間に飲み込まれる。

 

 

 

(……ならば)

 

 

 

 天ノ逆鱗を盾の如く彼我の間に幾重にも召喚しているが、焼け石に水。逆鱗は瞬く間に分解され、砲撃に減衰の様子は見られない。

 ならばと、翼は天ノ逆鱗を前方、()()()()()()()()()

 

 

 

「どん詰まりッ!?」

 

「喋っていると────」

 

 

 

 叫ぶクリスを尻目に、翼は迷わず猛進する。

 

 

 

「────舌を噛むッ!!」

 

 

 

 そして、()()()()()

 逆鱗を鋭角に突き刺すことで、翼は擬似的なジャンプ台を作り出した。

 切り裂かれた風が全身を叩く。【流星】で融解した逆鱗により熱風と化したそれは、目下に広がる惨状を物語るには十分過ぎる程だ。

 

 

 

『ブラボーッ』

 

 

 

 パチパチパチ。着地と同時に乾いた音。

 音の主は両手を叩き、翼に喝采を送っていた。

 

 

 

『いやァ、恐れ入った。まさか二課がサーカス一座だったとはなァ!』

 

「見逃すのでは無かったのか?」

 

『言ったろ、"今は"ってな。もう"今"は過ぎただろ?』

 

「無粋だな」

 

『そう言ってくれるなよ。マリアはキャリアの操縦、そこの二人は敵さんにお縄と来た。

 生憎と零細勤めなんでね、こうして使い走らされてる訳だ』

 

 

 

 そう言って肩を竦めるスターク。そんな彼に噛み付いたのは────案の定と言うべきか────、調と切歌だった。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ふざけんじゃないデスよッ! そっちがアンチリンカーなんてもの打ってきたから……」

 

『マリアは特に反対しなかったぜ。大人の仲間が決めたコトなんだ、今は素直に従っておくのが賢明だと思うがね』

 

 

 

 堪忍袋の緒が切れたとばかりにスタークに食ってかかる切歌だが、難なく躱される。

 当然さらにヒートアップ。返す刀でスターク、そしてウェルに声を上げようとして、

 

 

 

────最後に一つ、大人らしくアドバイスだ。

 

 

 

 あの言葉を思い出した。

 "大人が決めたこと"────皮肉にも何気ない彼の一言が切歌に思い出させてくれたのだ。

 今叫ぶべきはそこではなかった。今こそ、彼のアドバイスを実践するときだ。

 

 

 

「……違うのデス」

 

『ん?』

 

「”大人だって間違えるときがある”、そう教えてくれた人がいるのデス」

 

 

 

 実感が湧かなかったその言葉。だが既に状況は変わってしまったのだ。

 マリアはフィーネではない、ならば尚更。

 あの優しいマリアがこの選択を強いられているのなら、その元凶を叩く。自らの意志で行っているのなら────。

 

 

 

「だからアタシたちが! マリアたちにガツンと言ってやらなきゃいけないんデスッ!!」

 

『ハッハッハッ! そう来たかァ! 大人も間違える、ね。一体誰に吹き込まれたのやら』

 

 

 

 腹を抱えて笑うスターク。どうやら誰にそれを言われたのか気になっているようだが、教えてやらない。

 

 

 

〈ふむ。興味深い議論ですが、一先ず捨て置くとして……。ブラッドスターク、貴方に一つ問いましょう〉

 

『俺にかよ』

 

 

 

 この戦場における元凶の、愉しげな低音が耳朶に響く。一人安全な場所で切歌たちを見下ろしている彼の面を思い浮かべ、すぐに後悔した。

 

 

 

〈貴方は口にしました、"大人の仲間"と。しかし私にはどうにもそう思えないのですよ。いえ、もちろんマリアは我らの同志です。

 しかし……仲間と言い切れますか? 僕達を裏切り、敵に利する彼女たちを! 仲間と言い切れるのですかッ!?〉

 

『手厳しいねェ。どこかの偶像様とは大違いだ。俺としちゃどっちでもいいんだが……お前に合わせるならノー、だな』

 

〈そうッ! 最早これは裏切り者に対する懲罰……いえ、誅罰なのですよッ!」

 

 

 

 高らかに宣言するウェル。彼の中では整然たる論理が出来上がっているようだが、そんなことは知ったことではない。

 重要なのは、向こうと通信が繋がっているという事実だ。

 

 

 

「マリアッ!」

 

 

 

 先に動いたのは調だった。

 声を張り上げ、ウェルの向こうにいる彼女に呼びかける。

 

 

 

「ドクターのやり方じゃ、弱い人たちを救えないッ!」

 

「アタシたちの知ってるマリアは、そんなのを受け入れないのデスッ!」

 

〈調、切歌────〉

 

〈困るなァ!〉

 

 

 

 邪魔だ。

 空を睨む。雲一つない快晴(ピーカン)の青空が、却って切歌の裡を騒つかせた。

 安地で支配者(英雄)を気取るあの男、やはり地の果てまで気に入らない。

 

 

 

〈覚悟を決めた者に横槍を入れることは許されない行為です。……しかし、貴女がたにも一理あるというもの。何せ我々は、掛かる災厄に対して余りに無力ですからね。

 シンフォギアと聖遺物に関する研究データは、此方だけの占有物ではありませんから〉

 

 

 

 しかし、問題は。

 彼が何の力も持たぬ木偶などでは決してないことだ。

 

 

 

〈アドバンテージが在るとすれば……。せいぜいこの()()()()()()ッ!〉

 

 

 

 瞬間、翠光。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 天より差した一条の光、その緑色がもたらすものは破滅だ。

 光が収まり、一瞬の静寂。間も無くそれは訪れた。

 

 

 

「ノイズを放ったかッ!?」

 

「クソッタレがッ!」

 

 

 

 悲鳴。絶叫。末魔の声。

 遠目でも視える、空の青色を塗り潰す灰燼の如き黒い霧。下手人たる彼が何をしたかは明々白々だ。

 ウェルへの怨嗟を吐き捨てながらも、クリスは即座にギアを展開。ノイズの掃討に向かった。迷う間などない、翼もそれに続くべく一歩足を踏み出し────瞬間、後ろに太刀を振り抜いた。

 

 半ば反射でなぞったその斬撃。空を切ると思われたそれはしかし、軌跡の途中で止められた。

 耳を劈く金属音。眩い火花の先にあるその得物に、翼は酷く見覚えがあった。

 

 

 

『よく受けたなァ! 俺達も第二ラウンドと行こうぜ』

 

「くッ……スタークッ!」

 

 

 

 銃剣の刃を迫り合わせながら、スタークが嗤う。

 何処かで仕掛けてくる────そう踏んではいたが、タイミングが悪すぎる。殺意は感じられない。ただひたすらに底知れぬ悪意が、翼の五体をぬるりと舐めつけて止まない。

 

 

 

『心配するな、今度はちゃんと(たけなわ)まで付き合ってやる』

 

〈そうそう、そのままじっとしていてください〉

 

 

 

 翼とクリスが分断されるこの状況。つい先程と同じだ。しかし、今回は二つ、致命的な違いが存在する。

 ノイズによる生存者の蹂躙。そして、

 

 

 

〈後は彼女の仕上げを御覧じろッ!〉

 

 

 

 完全にノーマークとなった小日向未来だ。

 

 

 

(振り切る事は不可能ではない。だがそうする為には……)

 

 

 

 スタークの攻撃が時折翼の背後────F.I.S.の装者二人────に向かっている。業腹だが、二人を回収しながらスタークを振り切ることは至難の業だ。

 直ぐにでも未来の捕捉に向かいたいが、そうは問屋が卸さないということか。

 

 戦いの趨勢は彼方に傾いている。一石を投じて五分五分、二投で或いはといった所。どちらにせよ、ここでスタークに打ち勝たねば話にならない。

 このまま手をを(こまね)くしかないのか。逸る心を必死に抑え、打開策を講じる翼。そうすぐに思いつくのならこうして苦労はしていない。

 考え、考え、考えて────。

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 

 ()()()()()()()()が、凡ゆる視線を釘付けにする。

 ついに投じられたその一石、柱が弾け現れたのは、

 

 

 

()()()()ッ!!」

 

『何だとォッ!?』

 

 

 

 緒川慎次。

 翼のマネージャーであり、同時に飛騨忍軍の流れを汲む忍である彼が、水遁と共に鳴り物入りで参戦した。

 

 

 

「人命救助は僕達にッ!」

 

「お願いしますッ!」

 

 

 

 音も無く降り立ったと思えば、既にそれは残像。本物の慎次は調と切歌を回収しとうに離脱している。派手な登場も陽動の内だったとは感服だ。

 姿を表し約5秒。水上を疾走するその仕事ぶりに、味方ながらに思わず舌を巻く。

 

 

 

『ハッハッハッ! アレが噂に名高い現代忍法か! なかなかどうしてやってくれるッ!』

 

 

 

 動いた戦況、これ以上ここに留まっている理由などあるものか。慎次の登場により生まれた僅かな隙。それを見逃すほど翼の目は曇っていない。

 即座にスラスターを展開、未来へ向かって加速を始める。これで奴を振り切れれば御の字。

 しかし。そう単純な相手ならば二年以上も手を焼いていないという事実がここにある。

 

 

 

 

『いい判断だ。だが……』

 

【スチームアタック! フルボトル! ジェット!】

 

 

 

 肉薄するスタークの()。薄皮一枚、あと数ミリ身体を逸らしていなければ為すすべなく食い破られていた。

 トランスチームライフルをエンジン代わりに、ジェット機よろしく驚異的な速度で翼を猛追するスターク。まだこんな隠し玉を持っていたのか────未だ底の見えない彼の実力に苛立ちが募る。

 

 

 

『そう簡単に抜かせると思ったかァ!? こんな調子じゃ、人類守護なんて大言壮語のままだぞッ!』

 

「言うに事欠いてッ!」

 

 

 

 艦上、そして海上。スタークの宣言通り第二ラウンドは始まった。デッドヒートは続いていく。それは同時に、指が掛かりかけていた未来への距離が再び遠のいたということでもあり。

 

 

 

(小日向ッ……!)

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 泡が浮かび、記憶が朧に再生される。

 

 慎次に連れられ入った二課の司令室。

 出迎えた弦十郎との挨拶も早々に、未来はこれは何か、と尋ねた。

 モニターに映された誰かのレントゲン写真。だがそこには凡そ常人にはあり得ない、荊のような────禍々しいナニカが人体を覆っている。

 

 

 

「胸に埋まった聖遺物の欠片が響くんの身体を蝕んでいる。これ以上の進行は、彼女を彼女でなくしてしまうだろう」

 

 

 

 息を呑む。明言はされていない。ただ、今の彼の言葉が"この写真は響を写したものである"ということを暗に物語っている。

 このままでは響が響でなくなる。なんて信じ難い事実。しかし此処で嘘を吐くような人間はここにはいない。

 

 未来は必死に考え、思い至る。ギアを纏()わずにいればこれ以上の進行を食い止められるのではないか、と。

 そう伝えると、重々しく弦十郎は頷いた。

 

 

 

「響くんにとって、親友の君こそが最も大切な日常。

 君の側で穏やかな時間を過ごす事だけが、ガングニールの浸食を抑制できると考えている」

 

 

 

 彼の力強い眼が向けられる。

 響にとっての陽だまり────未来自身。陽だまる場所を、帰る場所を。未来なら守れるのだと彼は言う。

 

 

 

「響くんを……守ってほしい」

 

 

 

 泡が弾ける。

 目が覚めると、そこは暗い檻の中。眼前にて微笑みを湛える白衣の男、その手に乗せられたモノに未来は目が離せなかった。

 

 力が手に入る、と甘言。私に力、と思わず鸚鵡のように返してしまう。男はそれを意にも介さず、力強く頷いた。

 

 

 

「そう。貴方の求むものを手に入れる力です」

 

 

 

 思い返す。

 指をすり抜けた、彼女(キミ)の左手。

 

 

 

────わたしだって……守りたいのに……!

 

 

 

 その誓いを遂げられる、と彼は目を細める。未来は、彼の手を────。

 

 泡が弾ける。

 二人で流れ星を見たあの日は既に遠い、追憶の日々。懐かしさすら感じるその記憶(メモリア)を、返して、返して────そう誰かに訴えかける。

 キミの手の温もり、泡沫のようにその残響が消えていく。もう二度と手を離さない、もう遠くへは行かせない。

 そのために、未来は敵を殲滅する。

 

 目を開ける。そこには、

 

 

 

 

 

「響」

 

「一緒に帰ろう、未来」

 

 

 

 

 

 正面に立つ人影一つ。

 見紛うはずがない、それは手を離してしまった大切な親友の姿。

 

 

 

「帰れないよ。だって、わたしにはやらなきゃならないことがあるもの」

 

「やらなきゃいけないこと?」

 

「このギアが放つ輝きはね、新しい世界を照らし出すんだって。そこは争いもない、誰もが穏やかに笑って暮らせる世界なんだよ」

 

「争いのない世界……」

 

「わたしは響に戦ってほしくない。だから響が戦わなくてもいい世界を作るの」

 

 

 

 そのために殲滅する(照らし出す)のだ、頭に響く声に従い、立ち塞がる全てを。

 全ては響の手を取り、再び笑い合うため。

 

 

 

「だけど未来……こんなやり方で作った世界はあったかいのかな?」

 

「?」

 

「わたしが一番好きな世界は、未来が側にいてくれるあったかい陽だまりなんだ」

 

「でも、響が戦わなくていい世界だよ」

 

「例え未来と戦ってでも……そんなことさせないッ!」

 

「わたしは響を戦わせたくないの」

 

「……ありがとう」

 

 

 

 告げられる感謝。それはつまり、響と分かり合えたということ。これ以上はない。後は声の通りに世界を遍く照らすだけ、

 

 

 

「だけどわたし━━━━」

 

 

 

 なのに。

 

 

 

「━━━━戦うよ」

 

 

 

 どうして?

 

 

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「あのエネルギー波を利用して、未来くんのシンフォギアを解除する……だとッ!?」

 

 

 

 数刻前。司令室にて、弦十郎は瞠目する。響から告げられた作戦のあまりの突飛さ故だ。

 いや、理解はできる。戦闘記録を鑑みても十二分に試す価値はある作戦だと言えるだろう。言えるのだが。

 その前に大きな問題が屹立する。

 

 

 

「わたしがやります! やってみせますッ!」

 

「だが君の身体はッ!」

 

「翼さんもクリスちゃんも戦ってる今、動けるのはわたしだけです!」

 

 

 

 とても止められる様子ではない。しかし響を出撃させるということ、それは彼女を死出の山に向かわせることと同義。

 おいそれと許可を出せる訳がない。だが現在、この作戦を遂行できる可能性があるのはただ一人だけ。

 

 

 

「死んでも未来を連れて帰ります!」

 

「死ぬのは許さんッ!」

 

じゃあッ! 死んでも生きて帰ってきますッ!

 それはッ、()()()()()ですッ!!

 

 

 

 身を乗り出す響に思わず圧される弦十郎。一言で言うならそれは覚悟。尋常でない響の気迫が、一時弦十郎のオーラを上回ったというのか。

 

 今の響は誰にも止められない。弦十郎が御用牙の身分を去って爾来捨てた感情と同じものを、彼女は今発している。

 絶対に絶対────それは、漢の誓いの言葉だ。

 そこまで火焔を吐かれては此方も首を横には振れない。ただ、それで頷けるかと言われればそうではなく。

 

 

 

「過去のデータと現在の融合深度から計算すると、響ちゃんの活動限界は三分ジャストになりますッ!」

 

「例え微力でも、私達が響ちゃんを支えることが出来れば……きっとッ!」

 

「お前達……」

 

 

 

 進言する銃後の二人。そう、必要だったのは理屈。響を戦場に送り込んで生還できる確率が0%でないことは大前提、響の覚悟が乗るのはその上だ。

 

 

 

「……三分後に突然死する想定なら、その幻想は棄てておきなさい。時限を待たずにアナタの身体は聖遺物へと置換されていく」

 

 

 

 響の隣で無言を貫いていたフィーネ。彼女がついに口を開いた。

 

 

 

「先の誓いを忘れない事ね。私は徒を返される為にアナタを担当していた訳ではないのだから」

 

「はいッ!」

 

 

 

 響をじっと見据え、黄金の瞳が響を射抜く。

 それに怯むことなく応じる響。彼女の圧に負けないほどの胸の覚悟────観念した弦十郎は、最後の確認を問いかけた。

 

 

 

「……オーバーヒートまでの時間は(ごく)限られている。勝算はあるのかッ!」

 

 

「思い付きを数字で語れるものかよッ!!」

 

 

「なッ……」

 

 

 

 そして響は笑う。

 かつて弦十郎自身が放ったその言葉、まさか弟子に返される日が来ようとは。

 不敵、凄絶。その言葉が似合う笑みを向けられ、彼はとうとう閉口した。

 

 そして、現在。

 激突するガングニールと神獣鏡を画面越しに見つめながら、弦十郎は息を吐いた。

 

 

 

「我が弟子ながら痛い所を突いてくれる」

 

「けれど、勝算はゼロではない。魔を祓う神獣鏡の灼光を以てすれば、或いは」

 

「……胸に抱える時限爆弾は本物だッ! 作戦超過、その代償は確実な“死”である事を忘れるなッ!」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 神獣鏡のギアより展開された触手擬きのユニット。幾本ものそれを束ねた殴打は見かけよりずっと強力だ。

 衝撃で艦艇の壁に叩きつけられる響。

 鞭のように撓る追撃。両腕を交差し、響は反撃の機会を伺う。

 

 

 

作戦超過、その代償は確実な“死”である事を忘れるなッ!

 

 

 

 背を預けていた鉄の壁が白熱する。耳鳴りが酷い。蜃気楼のように歪む視界。喪失感と同時に感じる、はち切れん程に漲る力の矛盾。

 その中で明確に認識できた"死"の一文字。

 

 

 

死ぬ……わたしが死ぬ

 

 

 

 戦えば死ぬ、考えてみれば当たり前のこと。いつかと同じ自問を繰り返す。

 響が死ぬ、それはつまり先の誓いを破るということ。それはつまり未来と永遠に離れるということ。

 答えが出ず仕舞いだった葛藤、その事実だけで答えは固まった。

 自答する。響の答えはたった一つ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ねるかぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識が覚醒する。

 伸びたジャッキが壁を叩く。反動で前進した響は、鞭を押し切り膝を突き出す。

 衝撃で吹き飛んだ未来を追い、跳躍。死闘の舞台は空中へ移った。

 

 進んできた道を振り返れば、何度でも立ち上がれる。二人で流れ星を見たあの日。ここで響が果てればもう二度と見ることはできない。

 それでいいのか、いい訳がない。こんなにも輝く、積み上げてきた思い出(物語)たちを胸に、只管に突き進む。

 

 

 

━━━━━━━━━━━流星━━━━━━━━━━━

 

 

 

 迫るは魔を祓う凶ツの流れ星。二人で見たい流れ星はこんなものか、いや違う。

 嘘も欺瞞も存在しない思い出に残るその軌跡が、こんなものであるものか────!

 

 

 

「最速で最短で、一直線にッ!」

 

 

 

 響は()()()。パワージャッキで空気を押し出し、蹴り込むことによる擬似的な空中戦の実現。

 《インパクトハイク》────そう呼称されるガングニールの特殊運用だ。

 進行上に置かれた【流星】は空を切る。

 

 

 

━━━━━━━━━━━混沌━━━━━━━━━━━

 

 

 

「光った朝日をッ、君と共に見たいッ! 今ッ!!」

 

 

 

 続き放たれるは、展開されたミラーデバイスからのオールレンジ攻撃。【混沌】の波濤が縦横無尽に、しかしその全てが響を穿孔すべく殺到する。

 当たれば即死────とまではいかないが、結果は同じ。この好機を逃せば全てが終わる。

 

 この身砕けようと、否、この身砕けてなるものか。とうに覚悟は決めている。今、響はソラを見上げた。

 

 

 

「響けッ、伝えッ! 歌えッ!! 全開でッ!!」

 

 

 

 光線の雨を掻い潜る。空気を蹴り込み、目指すは一点。

 愛の挽歌が轟き渡る。陽だまりに響くように、伝うように、全力全開で歌い上げる。

 肉薄する光線。避ける。避ける。避けて、避けて────唐突にそれは訪れた。

 

 

 

「そして……ぐぁッ!?」

 

 

 

 琥珀色の鉱石。()()()()()()()()()それは、どうしようもなく響に"終わり"を感じさせた。

 灰色の空から放たれる光線は、漆黒の海へと落ちていく。

 胸から飛び出た鉱石はいつしか全身へ。

 音を立てて削れていく響の中のナニカ。

 

 知ったことか。

 勇気、決意、覚悟。何もかもを束ねた今の響に"後退"という文字はない。

 

 

 

(誰が未来の身体を好き勝手してるんだッ……!!)

 

 

 

 痛みを歌で塗り潰し、突貫する無双の一振り。

 ────そして、その身はソラへと届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「離してッ!!」

「離さないッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白磁のような白い肌。宝石のように深く、澄んだ翡翠の瞳。モノクロームが如き視界の中、ただ一つ色彩豊かに光る陽だまり。

 あの日離してしまった彼女の手、今度は全身で。

 未来を抱き留めた響は、その勢いのまま前進する。血液が沸騰するこの身よりも熱いその心臓の鼓動。今度こそは離さない。

 

 

 

「もう絶対に離さないッ!!」

 

 

 

 目に映るは未来の姿。耳に飛び込むのは未来の声。身体で感じる未来の鼓動。

 誓いはこの胸に。未来へ伝えるためになら、何度でも誓おう。何度でも、何度でも。

 

 

 

 

 

「絶対に━━━━絶対にぃぃぃぃぃぃッ!!!」 

 

 

 

 

 叫び、突撃。

 未来の声。制止の声。それも全て振り切って、響は未来ごと光の奔流へと飛び込んだ。

 解ける鎧。砕ける鉱石。そして────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

EPISODE14 喪失までのカウントダウン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────新天地が、その御身を表す。




この場面のきりしらは意味分からんくらい動かしづらかったです。ゆるして


今回『Rainbow Flower』を使うにあたって歌詞を見てたらなかなか重めの構成ミスを見つけました
2番のとある場所です
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