戦姫絶唱シンフォギア Evolution's Symphony   作:セグウェイノイズ

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お久しぶりです
本当は次回分と合わせて1話のつもりだったんですがなんか前半部分だけでこんなことになりました。あんまり納得はいってないですがとりあえず投稿します。

気分転換がてら1期1話からの文章を書き直してたので、順次更新していく予定です。それで遅れた訳ではないです、信じてくだ……ちょっと何するんですか! やめてください!!(データを吸われる音)



EPISODE15「剣と弓のララバイ」

 メディカルルームの扉が開く。すり抜けるように扉をくぐり、響は視界に映った彼女に駆け寄った。

 

 

 

「未来ーッ!!」

 

「わあっ!」

 

 

 

 飛び込むように近づき、抱きつく。戸惑った声を上げた未来だが、響の身体に腕を回し返しているあたり、彼女もそれを受け入れたらしい。

 LiNKERの洗浄は完了し、ギアの強制装着による後遺症も見られない────そう告げるあおいの声をバックに、未来と目を合わせる。

 

 

 

「ホントに良かったー!」

 

「もうッ、響」

 

「立花。小日向が戸惑っているぞ」

 

 

 

 そう苦笑気味に言う翼。

 渋々未来から離れた響は、隣の丸椅子に腰掛けた。

 

 場が落ち着いたのを見計らったあおいにより、モニターに一枚の写真が投射される。

 何の変哲もないただのレントゲン写真。だがそれこそが肝要だ。

 

 

 

「これって……」

 

「ついさっき撮影した響ちゃんのものよ。

 神獣鏡の光は二人のギアのみならず、響ちゃんの身体を蝕んでいた()()()()()()()()()()()()()したの」

 

「小日向の強い想いが、死に向かって疾走するばかりの立花を救ったという事だ」

 

「わたしが本当に困ったとき、やっぱり未来は助けてくれた! ありがとう!」

 

「わたしが、響を……」

 

 

 

 とどのつまり、凶を祓うという神獣鏡の触れ込みは曲がりなりにも正しかったということ。そして、この結果をもたらしたのは響の隣の陽だまり────小日向未来その人に他ならない。

 

 しかし、これでめでたくハッピーエンド……という訳にもいかないのが現状だ。

 

 

 

「現状は芳しくない。海底より突如顕現した弩級の建造物……F.I.S.(彼奴ら)が【フロンティア】と呼称していたものの正体なのだろうが」

 

 

 

 神獣鏡の強制解除に成功した直後、突如海底から”大陸”が浮上した。これまでのF.I.S.の発言と行動、フィーネの証言から二課はあれこそが”フロンティア”であると断定。現在司令部にて作戦が練られている。

 

 ()()()()()()()()、戦えるのは翼一人。それでも響は指令室へ向かう。何か、できることがきっとあるはずだから。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「サヨナラだ……風鳴先輩」

 

「雪音ッ……!?」

 

 

 

 乾いた銃声。意識を手放した翼を、クリスはただ見つめる。その右手には、硝煙の香る拳銃が握られていた。

 

 

 

『日本の誇るシンフォギア装者様が突然のご乱心かァ! 一体どういう風の吹き回しだ?』

 

「こいつが証明書代わりだ」

 

『致命傷は見当たらない、か。まあ……その方が都合がいい』

 

 

 

 スタークが楽し気に話しかけてくる。彼と口を利く気など更々ないが、今回に限ってはむしろ好都合だ。

 

 

 

「力を叩き潰せるのは、更に大きな力だけ。あたしの望みはこれ以上戦火を広げないこと。

 ……無駄に散る命は、これ以上少なくしたい」

 

『ハッハッハッ! 俺相手にそいつを言うかね?

 ……いいだろう。楽しませてくれた礼だ、ウェルへの橋架けくらいはやってやるよ』

 

 

 

 スタークはくつくつと笑い、肩を揺らした。仮面越しの彼の瞳には何が見えているのか、興味はないが知る必要はあるだろう。

 いつしか彼はクリスの隣へと歩みを進めていた。強まる風に目を細め、頭上に佇むF.I.S.の拠点────エアキャリアから投下された梯子に手をかける。

 

 離れていく地面。未だ黒煙立ち込める戦場跡を見下ろしていると、ふと声がかかった。

 

 

 

()()()()()()()()()。しっかり見極めてくれよ、クリスちゃん?』

 

「……チッ」

 

 

 

 舌打ちが漏れる。

 今この瞬間撃ち落とされないのは、ただ単にスタークの気まぐれに肖っているだけ────クリスはそう理解した。

 

 

 

「もう間に合ってんだよ……その呼び方は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして現在、フロンティア内部通路。

 延々と続く仄暗い道を歩きながら、クリスはここまでの経緯を回想した。

 

 

 

「本当に私達につくことが、戦火の拡大を防げると信じているの?」

 

 

 

 向けられる固い声。声の主に目を向けるも、マリアはこちらを見ようとしていない。ならばと、クリスもそれに倣うことにした。

 

 

 

「気に入らないのなら、鉄火場の最前線で戦うあたしを後ろから撃てばいい」

 

「勿論、そのつもりですよ」

 

 

 

 マリアの先を歩むウェル博士が顔をこちらに向けてきた。この陣営の実質的なトップである彼の言葉に、クリスは口を一文字に結ぶ。

 

 まあ、いくら「F.I.S.に共鳴した」と主張しても、それで即仲間というのは虫の良すぎる話だ。

 そんなことをするのは、余程の馬鹿かお人好しくらいだろう。

 

 

 

『俺としちゃ賛成だがね。調と切歌が抜けちまった以上戦力の補充は必要だ。その点、こいつなら練度も十分だろ』

 

「ええ。僕も彼女を同志と扱いたいとは思っています。しかし、信頼の獲得という儀式もまた必要ですから」

 

 

 

 後ろから飛ぶスタークの援護。最もらしい理屈を並べてはいるが、その本心は言葉通りでは決してない。

 真意が十重二十重に塗り固められていることは向こうも理解しているのだろう。返ってくるウェルの言葉も、いつにも増して表面的だ。

 

 

 

「……着きました。此処がジェネレータールームです」

 

 

 

 長い通路の終着点。ナスターシャの言葉と共に視界が開け、その姿が露わとなる。

 

 中央に鎮座する巨大な球体が嫌でも目につく、石造りの大部屋。神殿と言い換えても見劣りはしない。

 一切の温度を感じないが、此処がジェネレータールームであると彼女は言った。動力を通す手立てはあるのか……そう訝しんだクリスの前で、突如球体が光を発し始めた。

 

 

 

「こいつは……!」

 

「心臓だけとなっても聖遺物を食らい取り込む性質はそのままだなんて。

 いやらしいですねェ……ウヒヒヒヒ……」

 

 

 

 けたけた笑うウェルの手は、球体に押し当てられていた。いや違う。彼我の間にあるのは、赤黒く拍動を続ける完全聖遺物────ネフィリムの心臓。

 クリスは光に目を細め、ウェルの横顔を睨みつけた。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 フロンティア上層、管制室。

 船体の制御を担当する手筈のナスターシャと別れた今、マリアはウェルと二人きりだ。

 

 左手を握って開いてを繰り返しながら悦に入る姿がなんとも不気味に見える。そんな彼の左腕は異形────()()()()()()()へと変貌していた。

 マリアたちの使用するものとは異なる特別製のLiNKERを自らに投与したウェルは、今やフロンティアの実質的な主の座に座っている。

 

 

 

「早く動かしたいなァァ~~ッ。ちょっとくらい動かしてもいいと思いませんか? ねッ、マリア」

 

「…………」

 

 

 

 ()()()()()()()()()

 幾度も自らに問うた後悔の是非を反芻する。

 

 

 

────ドクターのやり方じゃ、弱い人たちを救えないッ!

 

────アタシたちの知ってるマリアは、そんなのを受け入れないのデスッ!

 

 

 

 脳裏に反響するは、二課の連中に捕捉された二人の叫び。

 真っ直ぐにマリアに向けられたその言葉たちは、固く揺るがせぬと律した彼女の決断を揺らすには十分だった。

 

 間違えている。二人はそう言う。

 目を背けたものを見せてくる。

 そんなことは分かっている。差し伸べされた二つの手、取るのは今でも遅くないのかもしれない。

 

 

 

 

────何を躊躇ってるッ!!

 

 

 

 踏み留まる。

 そうだ、この道を選んだのはマリア・カデンツァヴナ・イヴ自身に他ならない。今更戻れるものか。振り返れるものか。

 

 進まなければ。そうでなければ、あの日塗れた真っ赤な血に見合わない。

 

 

 

────大人だって間違える、そう言ってくれた人がいるのデス。

 

────だからアタシたちが! マリアたちにガツンと言ってやらなきゃいけないんデスッ!!

 

「調……切歌……」

 

 

 

 何を為そうとしていたのか。無論、災厄からの人類の救済だ。

 大義のはず。五年前の炎の日にも、スタークとの問答でも。大義の為に犠牲を強いる荊の道を踏み歩くと、そう決めた。

 

 

 

────成すべき正義があるんじゃないのか!? それとも全部嘘だったのかッ!!

 

────ドクターに賛同するッ!

 

 

 

 本当に?

 

 

 

「どうやらのっぴきならない状況のようですよ」

 

 

 

 堂々巡りの思考から、現実に引き戻される。

 ウェルの指さす先はモニターに映る海上の映像。青い海原をかき分ける鉄の塊────米軍の艦隊、その第二陣だ。

 

 

 

「フロンティアのエネルギー状況が伝わってくる。ヒヒヒヒ……」

 

 

 

 悪寒。モニターに釘付けになっていたマリアはしかし、勢いよく振り向いた。

 視線の先にはフロンティアの制御盤、そしてそれに異形の手を置く白衣の男。何をするつもりなのか────考えるより早く、マリアは声を発していた。

 

 

 

「待てッ!!」

 

〈早過ぎます、ドクター!〉

 

「どぉぉぉぉっこいしょぉぉぉぉぉッ!!」

 

 

 

 制止も空しく、それは為された。

 振動、重圧。しかしそれは一瞬、フロンティアの機能により相殺され、再び静寂が戻る。

 

 再びモニターに目を向けると、そこには複数の”球体”の姿が。

 それらが米国艦艇の成れの果てであることを理解し、マリアは歯を噛み締めた。

 

 

 

「楽しすぎてメガネがずり落ちてしまいそうだァァァ~~ッ」

 

 ────格好のデモンストレーションかもしれないわね。

 

「ッ……」

 

 

 

 ウェルの働きかけによって、艦隊は紙くずのように丸められ棄てられたのだ。搭乗していたはずの人々も、全て爆炎の中に呑まれてしまった。

 

 

 

「手に入れたぞッ! 蹂躙する力をッ!」

 

 

 

 喜び狂い小踊りを始めるウェル。眼鏡が弾け飛ぶのも構わず、彼は踊り続ける。

 しかし、今の振動と重圧は何だ。星間航行船であるフロンティアが、重力波を放った程度でこうも揺らぎはしないはず。

 

 その答えは、回り続ける彼によってもたらされた。

 突然動きを止め、顔を手で覆うウェル。口元が隠れるも、指の間から見える目に宿る狂気は隠しきれていない。

 

 

 

「月にアンカーを打ち込む事で、()()()()()()()()()()()()()()

 

「なッ……!?」

 

「行きがけの駄賃に、月を引き寄せちゃいましたよ」

 

 

 

 何でもないように告げられたその言葉に、息が止まる。

 一瞬の沈黙の後、マリアは彼に詰め寄った。

 

 

 

「月の落下を早めたのかッ!? 救済の準備は何も出来ていない! これでは本当に人類は絶滅してしまうッ!」

 

 

 

 月が落下する前に、フロンティアに可能な限りの人類を避難させ地球を脱出する。これがナスターシャの提唱したフロンティア計画の全貌。

 

 実現不可能ではない計画。しかしそれは全て、「月の落下までにそれなりの猶予がある」ことが前提だった。

 月の落下が早まった今、最早計画は────。

 

 

 

「止めようとしても無駄無駄! LiNKERが作用している限り、制御兼は僕にあるのです。

 人類は絶滅なんてしませんよ。()()()()()()()()()はね」

 

 

 

 いつしか、感情のまま白衣の裾に掴み掛かっていた。、

 

 

 

「そんなことのために私は悪を背負った訳じゃないッ!」 

 

「パァン!」

 

 

 

 あえなく引き剥がされ、地面に倒れ伏すマリア。熱を帯び、痛む頬。握り締めた拳から血が流れる。

 

 

 

「フィーネを気取ってた頃でも思い出してェ、そこで恥ずかしさに悶えてなッ」

 

「…………」

 

()()()()()の予定がこうもそうこうしてしまうとは……。もはや契約も意味を成さないというもの。どうやって無茶苦茶(反故)にしてやろっかなァァ~~! ウヒヒヒ……」

 

 

 

 手を振りながら管制室を去るウェル。

 

 この結末を引き起こしたのは誰だ。ウェル博士、それは間違いない。だがウェル一人によるものなのか。

 違う。あの夜、彼に賛同した者がいるではないか。

 誰だ。

 

 

 

 ────ドクターに賛同するッ!

 

 

 

 他ならぬそれはマリア自身。

 

 

 

 ────お前がやるしかないんだよ。

 

 

 

 そうだ。この破滅はウェルとマリアによるものだ。……ならばせめて、その()()()はつけなければ。

 

 

 

 ────ドクターに賛同するッ!

 

 

 

 脳内で無限に旋回する自らの罪。

 管制室を去る彼を見つめて、マリアは涙を拭った。

 

 

 

「私がやらねば……私が……わたし、が……!」

 

 

 

 そして、私も。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 緒川というスーツ姿の男性により、調と切歌は手枷を外された。

 

 

 

「久々のシャバの空気なのデス……」

 

 

 

 身体を伸ばしながらしみじみと切歌が言う。ここが二課の本部、それも司令室でなければ調も概ね同意だ。

 確かに調は言った。「マリアたちを止めてほしい」と。

 だが()()を見越した発言ではなかった。

 

 

 

「捕虜に出撃要請って……どこまで本気なの?」

 

「もちろん全部!」

 

 

 

 そう笑顔で言い放つのは立花響。

 現在、フロンティアのもたらす災厄に対処するため風鳴翼が出撃している。既にノイズと交戦を開始したらしいが、流石に多勢に無勢。立ち回りも限定されてしまう。

 そこで抜擢されたのが調たち……ということのようだ。

 

 訳が分からないが、()()の発案であることには”らしい”と納得する。しかし、その納得が調の胸中を穏やかにすることはなかった。

 

 

 

「あなたのそう言う所……好きじゃない。正しさを振りかざす偽善者のあなたは」

 

 

 

 捕虜という立場も忘れ、感情のまま吐き捨てる。

 それはいつかの夜のように響を攻撃するためのもの。マリアを止めてほしいと頼んでおきながらこの始末。

 最後まで言い切った後、調の裡にほんの少しの後悔が滲む。

 

 響の反応を伺った調は瞠目する。あの日のように言葉に詰まり怯むものと思われた響はしかし、驚くほどに穏やかだった。

 どうして? 怯んだ調を見て、彼女は胸に手を置き話し始めた。

 

 

 

「わたし、自分のやってることが正しいだなんて思ってないよ」

 

 

 

 響の口から語られたのは、人間の悪意に当てられた彼女自身のこと。

 家族の喜びを信じた響に待っていたのは、当の家族の暗い顔。それは、つまり────。

 

 

 

「それでもわたしは、自分の気持ちだけは偽りたくない。偽ってしまったら、誰とも手を繋げなくなる」

 

「手を繋ぐ……そんなこと本気で?」

 

「だから調ちゃんたちにもやりたいことをやり遂げてほしい。

 もしそれがわたしたちと同じ目的なら、少しだけ力を貸してほしいんだ」

 

 

 

 調の手を取り目を合わせてくる響。どこまでも真っ直ぐなその瞳、直視するのが難しかった。

 

 調のやりたいこと。そんなこと決まっている。だがしかし、

 

 

 

「調」

 

「切ちゃん……」

 

 

 

 声がかかる。隣に顔を向けると、切歌が笑っていた。その顔に笑みを湛える彼女は、ゆっくりと首を縦に振った。

 

 このやり取りに口を挟まなかった切歌だが、心はとうに決まっていたようだ。いや、それは調とて同じこと。立花響へのつまらない意地で蓋をしていただけ。

 右手を見る。響の両手に包まれたその手に、温もりが伝ってくる。

 

 

 

「……みんなを助けるためなら、手伝ってもいい」

 

 

 

 ようやく絞り出したその答え。ぶんぶんと握る手を振ってくる響に苛立ちはもう感じない。その事実に、調本人が最も驚いていた。

 動揺を誤魔化すように、調は二人を見つめていた弦十郎に目を向けた。

 

 

 

「……だけど信じるの? 敵だったのに」

 

「子供のやりたい事を支えてやれない大人なんて、恰好悪くて敵わないんだよ」

 

 

 

 突き出される彼の腕。その手に握られた二つのペンダントが何よりの答えだ。

 

 

 

()()()は……可能性だ」

 

 

 

 ハッチまで案内する、と朗々とした響に引っ張られる。

 強引なその行動。調は何故か────悪い気はしなかった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「自分も出撃なんて……」

 

「正気なの?」

 

「もちろん! 正気も正気だよ」

 

 

 

 出撃用ハッチにて、信じられないものを見る目で見られる響。

 まあ、確かにそうだ。()()()()()()()()()()()()()()()など、弦十郎に知られれば大目玉どころでは済まないだろう。

 

 調と切歌は顔を見合わせ、揃ってため息をついていた。見事な息の合いようだなあと感心する。

 

 

 

「アタシたちは何も言えないデスけど……どうなっても知らないデスよ」

 

「へいき、へっちゃらだよ。……やらなきゃいけないことができたから」

 

「アナタの"趣味"も、そこまで行くと笑えないわね」

 

「えーッ、酷いなあ了子さん」

 

 

 

 後ろに立つフィーネに苦言を呈される。酷い言われようだが、響に反駁できる材料はなかった。

 頭を掻きながら振り返る。冷たい瞳を見せるフィーネを視界に捉え────響は仰天した。

 

 

 

「りょ、了子さんッ!? なんでいるんですかッ!?」

 

「この人が、本物の……」

 

「…………」

 

「えっと……」

 

「……何でもないわ」

 

 

 

 文字通り飛び上がった響には目もくれず、フィーネの視線の先は響の奥にあった。フィーネは調を見つめ、微かに片眉を上げた……ように思える。

 

 とにかく。この状況は非常にマズイ。

 この事実を弦十郎に知られれば最後、すっ飛んできた彼によって響はほんの数秒でお縄にかかってしまうだろう。

 予定外のミッションが発生した。なんとか上手く誤魔化さなければ────!

 

 

 

「えーっと、そのですね、了子さん。できればこのことは黙ってていただけるとありがたいなあ~なんて……」

 

「…………」

 

「あはは……」

 

 

 

 言いながら、響は内心で自分を罵った。誤魔化さねばならないのに、なぜ「黙っていてくれ」などほざいたのか。自分は。

 響のミッションはあえなく失敗した。

 

 いつしか響に目を向けていたフィーネは、その金色の瞳を眇めるばかり。

 永遠の刹那を生きる彼女を出し抜く。そんなこと、高々16年生きただけの響には土台無理な話だったのだ。

 

 下手に策を巡らすだけ無駄だ。やることはいつも通り、響は正面からぶつかることにした。

 

 

 

「……わたし、マリアさんを助けに行きます。手を繋いで、分かり合うために。

 戦いに行く訳じゃありません。生きて帰ってきますッ! だから……」

 

「────何故だ」

 

 

 

 瞬間、ハッチ内に暴風が吹き荒れた。

 いや、風など吹いていない。彼女を中心に放たれたプレッシャーがそう認識させたのか────響は無意識に口を噤み、頬に伝う冷汗を拭った。

 

 凄まじい、そんな言葉では片づけられないほどの威圧。その発生源から目を離すことを身体が拒絶している。それほどまでに、目の前に立つ存在は圧倒的だった。

 

 

 

「人間が分かり合う事など不可能だ。今尚お前達の前に立ち塞がる特異災害ノイズ────アレを生み出したのは他でもない、先史文明期の人間なのだから。

 統一言語を失った我々は、手を繋ぐ事よりも相手を殺す事を考えた。そんな人間が分かり合えるものか」

 

 

 

 能面のような表情で、彼女は喋々と喉を震わせ続ける。

 その顔に色は読み取れず、その声からもそれは同様。なのに、どうしてか響はそう感じなかった。

 

 

 

「だのに、お前は何故繋がろうとする? 人間の愚焔に焼かれたのは立花響、他ならぬお前だというのに」

 

 

 

 今もなお暴圧は止まらず。

 恐怖もある、身体も竦む。だが、今の響にはそれ以上に、冷えた身体を奮わせる燈火が灯っている。

 

 

 

「人が言葉よりも強く繋がれること、分からないわたしじゃありません。

 だってほら、調ちゃんも切歌ちゃんも、了子さんだって! 今ここに集まって、同じところを見てるんですから」

 

「詭弁だな」

 

 

 

 両手を広げフィーネに向かう響。

 鼻を鳴らす彼女に負けず、響は続けた。

 

 

 

「了子さんなら、生まれ変わろうと思えばいつでもできたはずです。いくら師匠に睨まれてるからって、名前を使われて怒ったからって、そうしない理由にはならなかったと思うんです」

 

「知ったような口を利く。ならば、今この場でお前達を鏖殺し次の器に移って見せようか」

 

「それは困るなあ」

 

 

 

 ()()()()()()、その美貌を()()に歪ませながらフィーネは響を睨みつける。

 細められたその瞳から虚偽の類は見られない。返答次第では本当に実行するつもりなのだろうが、響が怯むことはもうなかった。

 

 胸元の傷に手を当てる。すでにガングニールは消滅している。それでも、そこから確かな”熱”が伝わってくる。

 胸の覚悟を示す時が来た、そういうことなのだ。

 

 

 

「……だったら、見ててもらわないとですね」

 

「何?」

 

「いつかの場所、どこかの時代で。蘇る度に何度でも、わたしの代わりに伝えてください。

 世界を一つにするのに力なんて必要ないってこと。

 言葉を越えて、わたしたちは一つになれるってこと!」

 

 

 

 人間の一生は高々100年。超先史より悠久に続く宿痾を、その程度の時間でどうこうできるというのは夢想に過ぎる。

 

 だとしても、それを伝えられる人が居るのなら。

 繋ぐ手と手が創る輪を広げていけるのならば、それはきっと分かり合うのに大きな一歩なのだろう。

 その中に彼女がいることを、響は諦めていない。

 

 

 

「だから、見ててください。繋がるところを、分かり合うところを。

 そのために────ちょっと、行ってきますねッ!」

 

 

 

 笑顔で言い切り、踵を返す。

 

 

 

「お待たせ、二人とも! それじゃあ行こう!」

 

「やっぱり、変」

 

「でも本気デス」

 

「……うん」

 

 

 

 大鎌を抱きしめ引きつった笑顔を見せる切歌に、息を吐き胸を撫で下ろす調。考えてみれば、マリアを助ける前に鏖殺されかかったのだ。申し訳ないことをしたと自省する。

 

 丁度いいタイミングでハッチが開放された。

 意気込み、手を握る響。禁月輪を展開した調に掴まろうとした、その時のこと。

 

 

 

「……ホントにもう。放っておけない子なんだから」

 

 

 

 聞こえた声は、響の後ろから。

 呆れたような、それでいて絹のように柔らかいような声色。少し前までとは結び付かないそれを聞き、響は思わず三度振り返った。

 

 

 

「了子さん……?」

 

 

 

 視界に映ったのは他でもないフィーネその人。

 腰に手を当て、困ったような笑みを湛える彼女からは、威圧など当然感じるはずもなく。

 

 身を屈め、その貌を響の目先にまで近づけるフィーネ。

 何をするかと思えば、彼女はその指先で、響の胸元の傷をつんと小突いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────胸の歌を、信じなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 告げられたのは、ただの一言。

 短く、優しく紡がれたそれは、響の裡に容易く沁み渡った。

 

 

 

「征きなさい。私相手にあそこまで啖呵を切ったのよ? 死んで帰って来れば……分かってるわね」

 

「あははっ」

 

 

 

 思わず笑みが零れる響。

 ここまで念を押されたのなら、やってやれない訳がない。

 

 彼女に向けて手を動かして数瞬、やめた。それは全てが終わった後にこそ意味があると直感したためだ。

 故に響もただ一言、万感の想いを込めて声高く謳った。

 

 

 

 

 

「────はいッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「立花とあの装者が一緒に?」

 

 

 

 事の顛末を通信越しに伝えられ、苦笑する翼。

 相変わらず想像の斜め上を行く後輩だが、それでこそ立花響というものだろう。

 

 行く手を阻むノイズは粗方斬り伏せた。愛馬の機動力もあれば、敵の本丸へ向かうのもそう時間はかからないだろう。

 中心へ向かうべくハンドルに手を伸ばし、翼は通信機が再び起動する音を聞いた。

 

 

 

〈そのまま11時の方向に直進なさい〉

 

「フィーネ? 一体何を企てて……」

 

〈アナタの求めるものはそこにある〉

 

「……成程。そういう寸法だったか」

 

 

 

 聞こえてきたのは、因縁深いフィーネの声。

 彼女の指示する方向は目的地から少し外れた場所だ。迂回どころの話ではないが、翼は迷わずバイクを走らせた。

 ようやく得心がいった。向こうが()()()()()()()なのなら、それに乗ってやるまで。

 

 

 

〈承知の上でしょうけど、ここからは私の関知するところではないわ。精々励みなさい〉

 

 

 

 それきり沈黙する通信機。

 指定された場所には到着した。高低差が激しいが、遮蔽物はそれほど多くない。確かにここならお誂え向きだろうと、周囲に意識を向ける翼。

 

 だからこそ。

 

 

 

「そろそろだと思っていたぞ────」

 

 

 

 飛来した深紅の弾丸を、寸前で斬り落とすことができたのだ。

 

 

 

「────雪音ッ!」

 

 

 

 バイクを停車させ、岩山の上に声を上げる。

 視線の先には、こちらに向けて得物を構える人影一つ。

 本来なら、この場面で相対するはずのない彼女の────突如として味方に牙を剥いた二課所属の装者、雪音クリスの姿に翼は目を細めた。

 

 

 

「先輩として、お前には言いたい事が山ほどある」

 

「ハッ……新天地に先輩も後輩もあるものかよッ!」

 

 

 

 それ以上の言葉は不要とばかりに、クリスは再び銃爪を引いた。

 現在、彼女が携えるアームドギアは二挺の拳銃。どれだけ連射しようが、十億発には遠く及ばない。ならば翼の取る行動は、

 

 

 

「相変わらず滅茶苦茶をッ!」

 

 

 

 前進一択。

 飛来した弾丸全てを両断し、肉薄。

 クリスのアームドギアを切断すべく、翼は太刀を横薙ぎに振るった。

 

 成果は五分。

 破壊できた武装は一挺、しかしすぐに再生成される。

 芳しくない結果に翼は歯噛みし、即座に次善の行動を実行。

 それは、偏に彼女が斬撃後の隙を見逃すはずがないという信頼故。

 当然のように再び銃弾が発射された。

 

 互いの挙措進退を予測した攻撃。

 知らない相手でないからこそ、お互いがそれを継続できる。

 幾度となく接近し、距離を取る。

 弓と剣の軌跡が飛び交う中、翼はクリスに刃を向けた。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 一進一退。実力伯仲。風鳴翼と雪音クリスの戦闘を形容するのなら、そんな言葉が相応しいだろう。

 だが双眼鏡越しに戦いを眺めるジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス博士にとって、その見世物は”退屈”以外の何物でもなかった。

 

 

 

「何を拱いているのですか? 素っ首のギアスが爆ぜるまで、後もう少しですよ」

 

 

 

 クリスに取り付けた狗の首輪────ギアス。万一の際の保険であり、無用となった彼女を処理するための装置。

 有り体に言えば爆弾である。

 

 爆弾が首に巻かれているというのに、どうにも動きが緩慢に思える。

 彼女を始末すればそれだけで此方の勝利は確定するのだから、もっと必死になってほしいものだ。

 

 

 

〈次で決める。今日まで組み立ててきた、あたしのコンビネーションだッ〉

 

〈ならば此方も真打をくれてやるッ!〉

 

 

 

 ようやくやる気になったらしい。

 赤と青、二つの光がぶつかる。直後、爆炎が両者を覆いつくした。

 

 相打ち。ギアスを起動するまでもなく、雪音クリスは自滅したということだ。

 

 

 

「ィヤッフゥゥゥ! 願ったり叶ったりィ~? してやったりィィィッ!!」

 

 

 

 飛び跳ね、踊り狂い、全身で喜びを表現するウェル。

 これで障害は取り除かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────と、そんなことを夢想していた数分前。今の彼はというと、

 

 

 

「クソッ、クソッ」

 

 

 

 白衣が土に塗れるのも構わず、足をもつれさせながらもウェルは走る。"這う"と形容した方が近しいかもしれない。

 虎の子の完全聖遺物は()()()()。雪音クリスと風鳴翼にしてやられた。

 所謂遁走だ。

 

 それでも、まだ左腕(コレ)フロンティア(アレ)が残っている。

 ウェルが統治する世界にシンフォギア装者は不要なのだ。既に本丸へ乗り込まれた以上、何としてもここで排除せねばならないと、息も絶え絶えに彼は顔を上に向ける。

 

 

 

『よっ。随分と派手にしてやられたみたいだな』

 

「エボルトッ!」

 

 

 

 視線の先、岩に腰掛ける人影が一つ。

 ブラッドスターク。ウェルと────一応の────契約関係にある地球外生命体だ。

 クリスの出撃と同時にナスターシャの監視を命じていたはずだが、何故ここに?

 そんな疑問は、今この状況と比べれば砂粒よりも小さなものだった。

 

 

 

『ソロモンの杖も奪られたか。こいつはいよいよもって後がないんじゃないか? なあウェル』

 

「まだAパートすら終わっていませんよッ! 管制室に戻り、フロンティアの機構をどうこうすればシンフォギア装者など些事! 大捕物は終わりですッ」

 

『そのことだが……調と切歌が正式に寝返ったようだ。二課の潜水艦から仲良く出撃してたのには、流石の俺も目を疑ったよ』

 

「チッ、まだLiNKERの効果が残っていましたか」

 

 

 

 何もかもが思い通りにならない現状に苛立ち、頭を掻きむしる。それでも、目の前にいる男がいればなんとかなるはずだ。

 ウェルは唾を飛ばしながらスタークに指示を飛ばした。

 

 

 

「ならばスターク、さっさと迎撃を……」

 

『おいおい! 冗談は止してくれよ。一体いつから、お前は俺に命令できる立場になったんだ?』

 

「はァ?」

 

 

 

 突然ウェルの言葉を制止し、そんなことを言い放ったスターク。

 この状況で冗談を言っている余裕などないというのに……思わず間抜けな声が漏れ出てしまう。

 口をパクパクと開閉させ声の出ないウェルを見て、彼はやれやれと肩をすくめた。

 

 

 

『その分だと……本当に分かってないらしい』

 

「わッ、分かっていないだとッ!? 僕が計算し損ねた要素など……」

 

『ご自慢の頭脳でよーく思い出してみるといい。お前と"仲直り"した時にはっきり言ったはずだ』

 

 

 

 仲直り────その言葉が耳朶を叩き、数秒。暗闇の中の火花のように鮮烈に、一気に記憶が蘇った。

 

 

 

「…………あッ!!」

 

 

 

 

 

********

 

 

 

 

 

 あれはそう、ネフィリムの心臓を確保しマリア達と合流した直後のことだった。

 

 勝利を確信したウェルは、鼻歌混じりにエアキャリア内の研究室へ足を踏み入れた。ネフィリムの心臓をデスクに置き、今後の計画に思考を巡らせた所で()はやってきた。

 

 

 

『よっ』

 

 

 

 親しげな声と同時、肩に角張った感触が。

 男の声、赤い手、毒針。瞬時に状況を理解したウェルは、置かれた手が示す意味を悟ってしまった。

 

 軽く置かれていたはずの手は、何時しかしっかりとウェルの肩を掴んでいた。悲鳴を上げ、その場から逃れようとするウェル。

 だが肩を掴まれている以上それは叶わない。

 

 

 

『そう怖がるなよ。何も取って食おうって訳じゃないんだぜ』

 

 

 

 なんとか首を回し、彼の姿を確認する。油の切れたブリキ人形のようなその動きは、彼から見ればさぞ滑稽だっただろう。

 この手と声は疲れが濃いウェルの恐怖心が見せた幻覚────そんな淡い期待は儚くも崩れ去った。

 

 青銅色のバイザーの中より覗く、蛇のように鋭い双眸。逆光により際立つそれが、ブラッドスターク(エボルト)の実在を確かなものにした。

 

 

 

『無理もねェが、少しは落ち着いてくれって。俺はお前と"仲直り"がしたくて来ただけだ。銃も剣も持ってないだろ?』

 

 

 

 仲直り。鸚鵡のように返してしまうが、ああも地球外の力を間近に受ければそうもなろう。

 

 

 

『そう。"仲直り"だよ、"仲直り"。この前は一方的に契約破棄しちまったからなァ……これでも悪いと思ってるんだぜ?

 だからこうして詫びと再契約に来たって訳だ』

 

 

 

 笑い混じりにそんなことを言い出すスターク。

 再契約、この男は何を言っている? 一方的に契約を破棄した挙句、この掌の返し様。

 誠意というものがまるで感じられない。

 

 所詮は地球外生命体、人間の模倣もこの程度か。段々と恐怖よりもムカっ腹が勝ってきたその時、置かれた手に力が込められた気がした。

 

 

 

『分かった分かった! 今度は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()命令は聞いてやるよ。どうだ?』

 

 

 

 自らへの不満でも感じ取ったのか、追加の条件を提案してきた。よほど【ロストボトル】に御執心らしい。

 

 

 

『担保に、そうだな……。俺の持ってるボトルをいくつかくれてやる』

 

 

 

 袖の下のつもりなのか、スタークはウェルに何かを握らせてきた。片手にはやや大きいその物体が、二つ。

 赤と紫、機械と生物の意匠が彫られたそれを、ウェルはまじまじと見つめ────。

 

 

 

 返答に気を良くしたスタークが接近、これで仲直りとばかりに腕を回してくる。

 彼の手は、最後までウェルの背中から離れなかった。

 

 

 

 

 

********

 

 

 

 

 

『思い出したようだな』

 

 

 

 なぜこのやり取りを忘れていた?

 ウェルともあろう者が、あまりの恐怖で記憶に蓋をしてしまっていたのか。あり得ない。ならば慢心によるもの? それこそあり得ないだろう。

 だがどうしてこのタイミングで? ウェルは別に契約の破棄など口にしていないはずだが────。

 

 

 

────これでは契約も意味をなさないというもの。どうやって無茶苦茶(反故)にしてやろっかなァァ~~!

 

 

 

 ……まさか、コレか?

 あの発言を聞かれていたのか? であればこの凶行にも筋が通る────訳がない。拡大解釈にも程がある。

 相手は地球外生命体。地球人の物差しで彼を計るのが間違っていたとでもいうのか。

 

 だが、まだ()()があればリカバリは可能なはずと、ウェルはあからさまな焦燥を演じる。彼の頭脳は煙が噴くほどに回転していた。

 

 

 

「い、いや、あれは……そうッ、言葉の綾ッ! 素直じゃないお年頃なのですともッ!」

 

『それは難儀な年頃だ』

 

 

 

 洞窟内に反響する悲鳴。銃口を向けられ、演技どころではなくなったウェルが腰を抜かすと共に発した迫真の叫びだ。

 残響が消え、鬱陶しげに肩をすくめていたスタークは何事もなかったかのように続けた。

 

 

 

『俺の目的を知ってるんなら、俺が”お前のフロンティア計画”を良く思ってないことくらい察しがついてただろ?』

 

「地球だろうが他の惑星だろうが、星は星でしょうッ!? なぜそこまで地球に拘泥を……」

 

『そうだな……片付けに例えれば分かりやすいか。やり残しがあると気になっちまうだろ? それと似たようなモノだ。まあ、お前には関係のない話だよ』

 

 

 

 何とも親しみやすい例えだが、それが表しているのは地球の破壊。被害を受ける側としては堪ったものではない。

 万策尽きた、凡百の人間はそう結論づける場面だ。だがここにいるのは他でもない、英雄の卵ということをスタークは忘れているらしい。

 ならば、それを思い出させてやらなくては。

 

 

 

『そもそも俺は傭兵でもなんでもない。信用も何もあったものじゃ……』

 

「余所見をォ────しましたねェェ!!」

 

 

 

 途端。空気の流れを目敏く察知したのか、スタークは横に転がった。

 彼が立っていた地面が陥没したのはそれとほぼ同時。どれほどの力を込めればああなるのか、我ながら末恐ろしいものを感じる。

 

 

 

()()()()()だとォッ!?』

 

 

 

 叫ぶスターク。そのバイザーに反射するのは、核を残し消失したはずの自律型完全聖遺物(ネフィリム)の御姿。

 確かな動揺。声を荒げるスタークを目にしたウェルの脳内で、大量の快楽物質が分泌されるのを感じる。

 

 

 

「”木を隠すなら森の中”、いえッ! ”腕を隠すなら船の中”と革めるべきですかッ!」

 

 

 

 ソロモンの杖を失ったウェルの虎の子、それは二つの聖遺物を組み合わせた疑似生命の創造だ。

 フロンティアのジェネレーターと化したネフィリムの心臓。つまり、この船こそが新たなネフィリムと解釈できる。

 その心臓の細胞を取り込んだウェルを、フロンティアは自らと同存在という結論を出した。あらゆる動力の源である機関室からの命令に対し、拒否という判断を船体は持たない。

 

 要するに。

 ウェルがフロンティアの船体に手を置くと、ネフィリムの端末を顕現させられるのだ。

 

 

 

『流石に完全聖遺物か! こいつは想定以上だッ』

 

 

 

 ネフィリムの拳打を掻い潜りながら、スタークが独りごつ。時折反撃を試みているようだが、その威力はお粗末。立花響に及ばぬ膂力ではなんの憂いもない。

 

 

 

「異端技術において私はァ、アナタの遥か上で踏ん反り返っているのですよッ!!」

 

 

 

 形勢の逆転に成功したウェルのテンションは最高潮へ。忌々しい仮面を叩き割り、その素顔を拝ませてもらうとしよう。

 

 声が裏返るのもお構いなし。人差し指をスタークへ向けて伸ばしたウェルは、半ば絶叫と化した指令を与えた。

 

 

 

 

 

「蹂躙しろッ! ネフィリィィィィムッ!!」

 

 

 

 

 

 惜しむらくはただ一点。

 ブラッドスタークのことを信用していなかったにもかかわらず、あらゆる雑事を彼に任せていたことだ。

 

 

 

『なら……こいつはどうだッ!?』

 

「……………………えッ!?」

 

 

 

 ウェルは自分の目を疑った。頭に血が昇りすぎて幻覚でも見ているのか?そんなはずはない。

 ならばこの目に映る光景はどういう由によるものなのか。

 

 彼の顔面まで僅か数センチ。ネフィリムがあとわずかでも腕を動かすだけでスタークは殴り飛ばせるというのに。

 だというのに、なぜネフィリムは()()()()()()()()()

 

 こちらに来るのは、ネフィリムの拳により押し出された気流と土煙のみ。低く重い不気味な音が洞窟内を木霊する。

 

 

 

「どうしたネフィリムッ! なんで言う事聞かないッ!?」

 

 

 

 おかしい。心臓であるウェルの指令を受け付けない。そんなはずはないというのに、眼前に映る光景はその事実を何よりも物語っている。

 

 奴は何をした? 目の乾きも忘れたウェルは、目を血走らせながら周囲の様子を探る。

 何かあるはずだ、ネフィリムの異変の原因が。だがどれだけ見ようとも、土煙以外に変化はなかった。

 ならば何が────その時、煙の向こうから聞こえてきたのは奴の笑い声。

 

 

 

『ハッハッハッ! 複製体でも嗜好は同じかァ!』

 

 

 

【デビルスチーム!】

 

 

 

 視界がクリアになっていき、明らかとなった異変の正体。

 黒煙。正確には黒い蒸気がネフィリムを覆っていた。そしてその正体をウェルは知っている。

 

 名は【ネビュラガス】。地球に存在しない物質で形成されたものであり、投与すれば人体をたちまちスマッシュへと変貌させる地球外由来の気体。

 それがネフィリムの周囲に漂う意味を、ウェルは瞬時に理解させられた。

 

 

 

()()()()()()ッ!? ()()()()()()()()()()()()()ッ!!」

 

『正解!』

 

 

 

 火花とともに足元に放たれた銃弾はクラッカーのつもりなのか。今度こそ完全に腰が抜けてしまった。

 

 

 

「ネ……ネフィリムッ! お前の親はコイツじゃないッ! 反抗期には早すぎるぞッ!」

 

『お互い()()()が好きなお年頃って訳だな』

 

 

 

 虎の子が潰された以上、今度こそウェルに打つ手はない。

 だがなぜ? デビルスチームはネビュラガスを噴出させ、人間をスマッシュに変貌させる効果しかないはずだ。ネフィリムの外見に変化はない。

 

 

 

『お前も知らない訳じゃないだろ? ネビュラガスには、投与された対象の闘争本能を増幅させる能力がある』

 

「闘争本能……し、しかしッ! それは生物に投与した場合の話ッ! 聖遺物であるネフィリムに効果はないッ」

 

『奇遇だなァ、俺も同じことを思ってたんだぜ? だが……アレは自律型完全聖遺物だ。”自我”と呼べるかは疑問の余地があるが、ともかくだ。

 結果としてネフィリムに効果はあった。アレにとって闘争本能を高めてくれるネビュラガスはさぞ御馳走だったんだろう』

 

 

 

 つらつらと語るスタークを、ウェルはただ土気色の顔で見上げている。

 

 

 

『俺たちがナスターシャと合流した後、お前は何度も命令してただろ? ”ネフィリムを落ち着かせろ”ってな。お陰で、餌付けの機会には困らなかった』

 

 

 

 ネフィリムを餌付けする。今、ウェルは発想のスケールでスタークに負けたことを理解した。

 そんなこと思いついてもできるものではないというのに、彼はそれをやってのけたのだ。

 

 

 

『……って訳で、話は終わりだな。冥途の土産に疑問も解消できただろ? よかったなァ』

 

 

 

 同時にウェルの額に伝わる、冷たい金属的な感触。

 

「まッ、まッ待てッ! 今僕を殺すのはBig Mistake(大間違い)だッ! いくらネフィリムを掌握できたとしても、フロンティアの制御権は僕にある!」

 

『ネフィリムはあくまでジェネレーター、制御はナスターシャのいる制御室からでも十分可能だろ。俺がその程度把握してないとでも思ったのか?』

 

 

 

 視界いっぱいに広がる、彼の指が銃爪にかかる光景。最早ウェルにできるのは息を呑むことだけだ。

 

 激しくなる身体の震え。耳障りなほど高らかに拍動を続ける左右の心房。どれだけ現状を否定する要素を探そうとしても、浮かんでくるのは痛罵の言葉のみ。

 銃爪が引き絞られていく。聡明なウェルの頭脳は、脳裏に1秒後の自身の惨状を鮮明に結んでしまった。

 

 こんな道半ばで、そこいらの烏合のように本懐果たせず果ててしまうのか。焦点が彼の人差し指から離れてくれない。1ミリ、また1ミリとその指が沈んでいき────。

 

 

 

『……とはいえ、だ』

 

 

 

 それは唐突だった。取るに足らない些事を思い出したかのように軽く、スタークは声を上げた。

 

 

 

『散々話しておいてなんだが、俺としても今装者4人が合流する状況は避けたい。()()()()の今の実力に興味もあるからな』

 

 

 

 結局響も使い物にならなくなっちまったし、とぼやくスターク。銃口が額から離れていることに気づいたのはそのすぐ後のことだった。

 

 

 

『突入組の迎撃、だったか? 一先ず命令は聞いておいてやる。

 次合うまでに、せいぜい俺を止める算段でも立てておいてくれよ』

 

 

 

 話すだけ話して、黒煙の中にスタークは消えた。残ったのは不気味に佇むネフィリムのみ。

 

 問答の中、明らかに突然風向きが変わったのをウェルは感じていた。途中まで完全にウェルの命はなかった。だのになぜ。

 

 抜けた腰が元に戻るまでもう少しかかりそうだ。今は頭を動かすことにしようと、ウェルは呆けた顔で、大荒れ模様の胸中を落ち着かせることに専念した。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「四の五の言わずに今……世の飛沫と果てよ────!」

 

 

 

 翼の前に群がる、戦場に残された幾許かのノイズ。それらを火遁を纏いし閃光の剣が、一体残らず斬り伏せた。

 

 

 

「……回収完了。これで一安心だな」

 

 ギアを解除、クリスの手に握られたソロモンの杖を視認した後、そう呟く。

 

 

 

「どうした、雪音?」

 

「いや、その……」

 

 

 

 あちこちに瞳を動かし、目を合わせようとしない彼女の姿に思わず苦笑してしまう。まあ、分からないでもないのだが。

 

 雪音クリスの離反は全て、ソロモンの杖を回収するために打たれた狂言。ウェルの油断を誘うために、先の戦闘でお互い相打ちを演じてみせたのだ。

 

 とはいえ、クリスの意図を確信したのは土壇場だった。艦艇での不意打ちを皮切りに、F.I.S.への寝返りや翼との戦闘。

 独断専行のオンパレードだ。褒められた行動ではないだろう。

 眉を下げる彼女に声をかけるべく口を開きかけた翼だが、

 

 

 

〈ここまでスクリューボールに育てた覚えはないのだけど……殆呆れさせてくれる〉

 

 

 

 同時に通信機からも声が流れてきた。秘匿通信越しに聞こえる、しばらく振りの女性の声。ため息一つ、翼は声の主に口を開いた。

 

 

 

「やはりお前も一枚噛んでいたのだな、フィーネ」

 

「あたしが黙ってろって頼んだんだ」

 

〈そうね〉

 

「私と雪音を鉢合わさせたのだろう?」

 

〈ええ。私の役目はそれだけだったもの、了承したわ〉

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

────フィーネッ!

 

────分かってんだよ。立場はこいつもあたしも同じだ、あたしがとやかく言える筋合いはねえ。

 分かってっけど……!

 

────あたしはあんたを認めないッ! こいつはあたしの……

 

────あたしの……

 

 

 

 雪音クリス(自分)にとって、フィーネとはどんな存在なのか。

 甘言で自身を騙し、あまつさえ月を穿とうとした憎むべき大悪党か。それとも10年以上にわたり面倒を見てくれた、第二の親にも等しい大恩人か。それとも────。

 

 

 

「F.I.S.に潜入してソロモンの杖を回収する?」

 

「ああ」

 

 

 

 仮設本部内、フィーネの研究室にて。椅子に深く腰掛けるフィーネの前で、クリスは自らの計画を打ち明けた。

 

 

 

「確かに、シンフォギア装者を除けば彼方の占有物はソロモンの杖のみ。戦術的にも有効な手段ではある」

 

 

 

 響に関する資料に目を走らせながらそんな評価をするフィーネ。それきり、話は終わったとばかりにクリスに背を向けた。

 沈黙。タブレットを叩く音が辛うじてこの場の空気を繋ぐ。

 

 数分にも数十分にも感じた数秒の後、先に沈黙を破ったのはクリスの方だった。

 

 

 

「……あたしは、ソロモンの杖でノイズどもをけしかけた。()()()()にも、迷惑かけた」

 

「そうね」

 

「あんたの命令だった。でも、それをやると決めたのはあたしだ。戦火を広げないためとか言い訳して、何度も」

 

 

 

 嘗てのスタークの言葉が脳裏を過る。力で力を叩き潰すことは、戦火を広げるだけのことだと。奴の言ったことは正しかった。

 

 

 

「見て分かるでしょうけど、ここは懺悔室じゃないわよ」

 

 

 

 幸か不幸か、フィーネにそんな思考を両断された。一瞬声を上げそうになるも、このままでは本当にただ罪の告解に来ただけになってしまう。ここはぐっと堪えた。

 

 普段ならこの時点でクリスを追い出しにかかるはずのフィーネだが、今はその様子を感じられない。クリスは懺悔の後に繋げるはずだった言葉を紡いだ。

 

 

 

「……半分だ」

 

「要件は端的に、かつ明瞭に話しなさい」

 

「杖の奪還、フィーネにも手伝ってもらう」

 

 

 

 ソロモンの杖に関連する全ては、クリスの背負うべき十字架。そして、フィーネにも背負うべきものがある。

 響や弦十郎と共に戦う。それはこの身を光の側に委ねるということ。

 ならばこそ。クリスもフィーネも、犯した罪を贖わねばならない────そんな考えの発露がこの提案だ。

 

 

 

自分(てめえ)責任(ケツ)自分(てめえ)で持たないといけないだろ。あたしもあんたも」

 

 

 

 この提案を彼女が呑んだところで、過去の罪が消える訳ではない。だが、彼女を頷かせることに対して、雪音クリスは使命感にも似たものを感じていた。

 

 彼女へのこの感情は何なのか。

 クリスはまだその名前を知らない。

 

 ソロモンの杖さえ奪取できれば、向こうから"ノイズ"という手札が消滅する。フィーネの名を騙った F.I.S.が痛手を負う上に、上手くいけばウェルの身柄も拘束できる。

 つまり、彼女を出し抜いたスタークの鼻を明かせるということだ。

 悪い話ではないはずと、一息に伝えるクリス。

 だが、

 

 

 

「スタークの最終目的が不明瞭な以上、ソロモンの杖を掠奪したところで奴の意表を突けるとは限らない。ウェルキンゲトリクスの拿捕はあくまでアナタの"作戦"の成果が上振れした場合のみの恩恵。

 どちらも要素としては弱い。まあ……連中への後ろめたさを誤魔化すため、私に会いに来ている時点でそれ以前ね」

 

 

 

 歯に衣着せぬ批評をぶつけられ、押し黙ってしまう。

 自分でも感じていたことであった以上、反論のしようがない。何年も彼女と顔を突き合わせてきたというのに、未だ彼女の真意が測れないとはどういうことか。クリスは自身に雑言を浴びせた。

 

 ただ次の言葉を待つ。「時間を浪費したわね」だとか「相変わらず愚昧な子」だとかそういった類のものがかけられるだろうか。

 手に爪が食い込むほど、クリスの両手は強く握られていた。

 

 そんな彼女の姿を一瞥し、すぐにタブレットに視線を落とすフィーネ。

 すぐに最後の言葉が言い放たれた。

 

 

 

「ギリギリ及第点ね」

 

「は?」

 

 

 

 息を吸い、ただ一言。それがクリスの想定とは180度異なる内容だったことに、思わず声が漏れる。

 

 

 

「高下駄を履かせて、だけれど。その拙い計画に乗ってあげると云ったのよ。そもそも、必要性を感じられない私の助力という一点を除けば悪い話ではないもの」

 

「んなっ……分かりづれえんだよッ!」

 

「アナタと確実に会敵できるよう、風鳴翼を誘導する。私の役目はそれだけよ」

 

 

 

 この女は。分かっていてやっているのか?

 青筋を立てるクリスを涼しげな様子で受け流し、フィーネは淡々と告げていく。これでは一人相撲だ。

 目くじらを立てている自分が恥ずかしくなってきた。

 

 

 

「……礼は言わねえぞ。頼んだからな」

 

 

 

 怒りとも羞恥ともつかない感情を見抜かれる前に、足早にその場を後にしようと踵を返す。

 

 

 

「クリス」

 

 

 

 扉を潜ると同時に自らの名を呼ばれ、ぶっきらぼうに振り向くクリス。

 

 

 

「なんだよ……っ」

 

 

 

 彼女の黄金の瞳と目が合った。それは、フィーネが身体をこちらに向けたことを意味している。

 なぜ今になってそんなことを。真っ直ぐ向けられる瞳に吸い込まれる感覚に陥り、たじろぐクリス。

 

 

 

 

 

()()()()、もっとマシな作戦を立案なさい」

 

 

 

 

 

 慮外の発言に、今度こそ閉口する。もごもごと口を動かすも、適した言葉が出てこない。

 逡巡の後、どういう意味かと問おうと顔を上げるクリス。

 扉は既に閉じられていた。

 

 

 

 

 

********

 

 

 

 

 

────首根っこ引き摺ってでも連れ帰ってやる。お前の居場所……帰る場所に

 

────お前がどんなに拒絶しようと、私はお前のやりたい事に手を貸してやる

 

────それが私の……先輩の風を吹かせる者の果たすべき使命だ

 

 

 

「……一人で飛び出して、ごめんなさい」

 

 

 

 どんな考えがあろうとも、独断専行をしたのは事実。自分に目をかけてくれている────と思う────翼には、まず頭を下げるのが筋というものだ。

 予想外に(思った通り)、翼の反応は落ち着いたものだった。

 

 

 

「気に病むな。私も一人では何もできない事を思い出せた。それに……あの時の私であれば、寄る辺なく峻拒していただろうから。だから、お互い様というやつだ。

 ……何より! こんな殊勝な雪音を知ることができたのは僥倖だ」

 

 

 

 不意打ちのように付け加えられた言葉がクリスにストレートヒット。

 紅潮した顔を見せないように、動揺を悟られないように。話題を変えるべく、何事もない様子を装いながら、翼に一番の引っかかりを訊ねてみた。

 

 

 

「そッ、それにしたってよ。なんであたしの言葉を信じてくれたんだ?」

 

 

 

 ウェルの監視の中、自らの真意を端的に伝えるためにクリスは一計を案じた。

 翼のことを”先輩”と呼ぶ。実際のところ策にすら満たない、ひたすらに単純な一手。甲板で一度、そして先ほどの戦場で一度口にしたが、それだけで味方に刃を向けた者を信じられるのか。

 そんな疑問をぶつけると、翼は「そんなことか」とでも言いたげな顔をした。

 

 

 

「雪音が”先輩”と呼んでくれたのだ。信じぬ訳にも、斜めに聞き流す訳にもいかないだろう」

 

「……それだけか?」

 

「それだけだ。さあ、立花と合流するぞ」

 

 

 

 話は終わりとばかりに耳に手を当て、再びフィーネとの通信を再開させる翼。

 信じてくれるかどうかは賭けだった。だというのに、まさか本当にそれだけだというのか。それだけのために、彼女は一歩間違えば大怪我では済まない策に乗ってくれたのか。開いた口が塞がらない。

 

 

 

「全く……どうかしていやがる」

 

 

 

 ただ、それも一瞬のこと。気づけば口元は緩み、口角が上がっていく自分がいた。

 柔らかな陽光が雪を溶かしていくような、暖かいものが胸を満たしていく。

 

 

 

(だからこいつらの側はどうしようもなく)

 

 

 

 ”こちら側”に行って以来、モノクロだった世界が次々と色づいていった。久しく忘れていた居心地の良さがくすぐったくて、眩しくて。笑顔が隠せない。

 暖かくて、眩しいこの場所こそが────。

 

 

 

「……あたしの帰る場所なんだな」




エボルトくんDV彼氏みたいだね
切ちゃんが安定し過ぎてて死ぬほど書きづらいです。たすけて


いろいろ補足
・マリアさん
 マリアさんの状態はエボルトくんのせいで原作から変わってます。メンタルが豆腐じゃない代わりに形が変なオブジェみたいになってますが、そんなに関係はありません
・ウェル
 ウェルはエボルトが天羽奏に憑依していることは把握してますが、現在誰の姿に擬態しているのかは知りません。素顔を拝ませてもらうとか言ってたのは、常にブラッドスタークの状態でいるので誰の顔なのか分からなかったためです
・クリスとフィーネ
 クリス→フィーネは1期最終回で号泣してるので愛憎入り乱れた感じだと思うんですが、フィーネ→クリスはよく分からないので本作では「若干情がある」ということにしています。
 漫画版でフィーネはごめんなさいしてたので適量その成分も入ってることにしてます。
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