戦姫絶唱シンフォギア Evolution's Symphony   作:セグウェイノイズ

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1万文字かくのに1年近くかかったマヌケは……見つかったようだな……

鎌とツインテール丸鋸の戦闘シーンが難しいを超えた難しいので、きりしらの戦闘を書く方はお気をつけください
下書きには戦闘シーンのところに「戦闘」とだけ書かれていてぶん殴りたくなりました


EPISODE16「双刃織り成すエッジ・ワークス」

 仮設本部司令室。調と切歌の出撃を確認し、即座に情報支援に取り掛かる二課職員一同。

 目的地をナビゲートするべく、地形情報の提供を始めた彼らだったが、モニターに映る()()()()の姿が、彼らの指を止めさせた。

 

 立花響────戦う術を失ったはずの少女が出撃しているではないか。

 一瞬の沈黙、その後騒然とする司令室。制止の声を上げるのは道理だった。

 

 

 

「何をやってるッ!? 響くんを戦わせるつもりはないと言ったはずだッ!」

 

〈戦いじゃありません! 人助けですッ!〉

 

「減らず口の上手い映画など見せた覚えはないぞッ!」

 

「行かせてあげてください」「行かせてやりなさい」

 

 

 

 丸腰で戦場へ出撃するなど、言うまでもない自殺行為。当然認可できるはずがない。だがそんな中、二つの静かな声が荒ぶる弦十郎を遮った。

 片眉を上げつつ振り返る。弦十郎が捉えたのは、顔を見合わせる未来とフィーネの姿。

 

 戸惑うように瞳を揺らす未来。その視線を受け止めながらも、フィーネは口を開かない。

 無言のやり取りが数秒、未来は弦十郎へと向き直った。

 

 

 

「……だって、人助けは一番響らしいことですから」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……何?」

 

 

 

 沈黙が落ちる。周囲の視線が、ただ一人────フィーネに注がれた。見るからに不快げだ。髪を耳にかける仕草も苛立ちを隠しきれていない。

 だが。彼女の今までを鑑みれば注目を集めるの(それ)も当然というものだろう。

 やがて観念したのか、彼女はようやく口を開いた。

 

 

 

「……あの子の行く末を見届けることにした、ただそれだけよ」

 

「そうか。……了子くん」

 

「言っておくけど、下らない口を挟むようなら────」

 

「少し見ない内に、随分と良い顔になった。それだけだ」

 

「────下らないわね」

 

 

 

 鼻を鳴らし、苦虫を噛み潰したような顔を見せるフィーネ。そんな彼女の様子に肩を揺らして笑う弦十郎は、背後からの突き刺さるような視線を軽く受け流しながら、次の指令を職員へ飛ばした。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 フロンティア中心部を目指し進む響、調、切歌。目指す先を覆っていた霞は晴れ、その輪郭がくっきりと浮かび上がってくる。

 ここまで妨害らしい妨害はなかった────まるで、誘われているかのように。

 

 司令室のバックアップ通り、このまま直進すれば中心部へ繋がる大階段に辿り着かんとする、その矢先だった。

 突如前方、小高い岩場に立ち込める黒煙、その中から姿を表す赤き影。

 

 

 

『よォ、お二人さん! それに響も。元気そうで何よりだ』

 

「スタークッ!」

 

 

 

 切歌が叫ぶ。その名を聞いた瞬間、空気が変わった。

 現れたのは赤き刺客、ブラッドスターク。

 予想はしていた。だが、外れてほしかったというのが本音だ。目的地まであと一歩というのに、よりにもよってここで足止めを食らうとは────歯噛みする響。

 そんな心情を知ってか知らずか、スタークはいつもの調子を崩さない。

 

 

 

『響まで出撃してたとは驚きだ。ガングニールを持たないお前に何ができる? ここから先、命の保証はないってのに』

 

「だとしても、やらなきゃいけないことが……伝えたいことがあるんです」

 

 

 

 戦えない。そんなことは分かりきっている。あるのはただ、響の裡で燃え盛る胸の覚悟。信じるのは、確かに灯る胸の歌。できるのは、ただ前に進むこと。

 歌がある限り────立花響は、進む。

 響の言葉にスタークは肩をすくめ、左の親指で背後を指し示した。

 

 

 

『いい心掛けだとは褒めてやる。心配しなくても、これ以上ハザードレベルが上がらないお前にはもう興味が無い。

 行くならさっさと行ってくれ』

 

「ハザードレベル……それって一体」

 

『それに、そっちの方が()()()()()。……そう言う意味じゃ、まだお前に期待してるのかもなァ』

 

「スタークさん……」

 

 

 

 半年に及ぶ彼との因縁。幾度となく相対しているというのに、彼についての一切は霧の中だ。

 "響は通す"。

 その言葉に裏はあるのか、それともただの善意なのか。

 

 

 

『どうした? まさかとは思うが、ここに残るつもりか? オススメはしないが……それがお望みなら尊重はしてやる』

 

 

 

 ここで彼に牙を剥かれれば、今の響に抗う術はない。だが、背中を狙われる可能性もある以上下手には動けない。

 

 初めて彼と出会った際、抱いた微かな違和感。

 それは、響にとってほとんど未知の感覚だった。敵意ではなく、恐れでもなかった。けれどあの時、響の心はざわめいて────。

 

 つまるところ、彼の言葉を額面通りに受け取るには、彼と分かりあうには、彼について何も知らない。いつだって状況が対話を許してくれないのだ。

 

 

 

 ()()()

 

 

 

「先に行って」

 

 

 

 思考を断ち切る少女の声。

 月読調はそう呟き、響の前に立ち塞がった。視線はスタークを見据えたまま。しかしその言葉は、確かに響へと向けられていた。

 

 

 

「スタークが卑怯な真似をしても、防いでみせるから」

 

「先にマリアを止めてて欲しいのデス」

 

「二人とも……」

 

 

 

 切歌も、調の言葉に迷いなく続く。彼女たちの背中には、有無を言わせぬ決意があった。

 

 

 

「わたしは偽善者が嫌い。あなたも嫌い。……そう思ってた」

 

 

 

 胸に手を置き、調は俯く。静かながらも揺らぐ声。翳りを孕んだその言葉は、どこか吐き捨てるような嫌悪が感じられた。

 いつかと同じ言葉。だが今はそれだけで終わらなかった。

 

 

 

「でも分かった。あなたは自分を偽って動いてない。そんなあなたが眩しくて、羨ましくて……少しだけ、信じてみたい」

 

 

 

 小さく、しかし力強い本音。

 僅かに融けた彼女の心に、ようやく触れることができた気がした。

 

 

 

「それと、"首洗って待ってて"って……マリアに伝えておいてほしいのデス」

 

「切歌ちゃん」

 

 

 

 ふと振り返った切歌に伝言を頼まれた。“首を洗う“……なぜこの言葉なのか? ほんの一瞬、響の脳内を疑問が駆け巡る。

 苦笑いを浮かべ頬をかく切歌。どうやら伝言の内容は本気らしい。

 

 

 

「アタシたちがいきなり向かっちゃ、また取り繕われちゃうから」

「だから行って。時間はあまりない」

 

 

 

 調は顔を上げる。上方からこちらを見下ろすブラッドスタークを鋭く睨みつけ、簡潔に託した。

 二人の意思は同じ。ならば答えは決まっている。

 

 

 

「……うん。伝えるよ、絶対ッ!」

 

 

 

 力強く頷く響。その瞳が、まっすぐ前を見据える。

 そして、二人の背を追い越して────走り出した。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

『さて、蒔いた種が無駄にならなきゃいいんだが……』

 

 

 

 崖の上で得物を弄りながら、スタークは二人を見下ろしている。

 あからさまな隙。だが、無暗に突っ込み痛い目を見るのは経験済みだ。

 

 

 

『まさか、二人揃ってそっちに着くとはな。”叱ってやる”なんて言いながら寝返るなんて、マムとマリアを泣かせるだけだとは思わなかったのかねェ』

 

「これ以上泣かせないために来たんデスッ!」

 

『健気なことだ。涙ぐましいじゃねェか』

 

 

 

 バイザーに手を添え、泣き真似をするその仕草に刹那、切歌の翠刃が閃く。しかし、スタークは軽く上体を反らすだけでそれを躱した。

 

 

 

 "手出しはしない"────彼は響にそう言った。

 だが、その舌がどれだけ信じられるだろうか。訓練中や米軍艦艇での件で見せた悪辣な立ち回りを思い出せば、信じるに値しないのは火を見るよりも明らかだった。

 どうせ”言葉の綾”とでも言って煙に巻くつもりだろう。

 だからこそ。

 

 

 

「いよいよ年賀の納めどきデスッ!」

 

「もう……負けないからッ!」

 

『その気概は変わってないようで安心したよ』

 

 

 

 今ここで、決着をつける────!

 

 

 

『いいだろう────餞別代わりだ、かかって来いッ!』

 

 

 

 銃口がこちらに向くのと、切歌が獄鎌を振り上げたのは()()同時だった。

 ほぼ同時────つまり、どちらかが先んじたということ。

 ほんの一呼吸早く動いたのは、

 

 

 

「警告メロディー、死神を呼ぶ……絶望の夢、Death13!」

 

 

 

━━━━━━━━切・呪リeッTぉ━━━━━━━━

 

 

 

 振りぬいた翠刃が三つに分かたれ、スタークに殺到する。

 一手遅れた事実を認識するスターク、即座に狙いをジュリエットへと変更。スチームガンから三発の光弾を放った。

 

 一切のズレなく直撃し、スタークに迫ったジュリエットを貫く弾丸。切り裂かれたフォニックゲインが弾け飛び、爆炎が辺りを包みこむ。

 

 

 

『ハッハッハッ! レクイエムには派手すぎちゃいないかッ!?』

 

「恐怖へようこそッ!!」

 

 

 

 爆炎を割って躍る、緑の影。

 バーニアを点火した切歌が、振りかぶった大鎌と共に飛び出した。

 豪快な一撃。

 衝撃が腕を振るわせる。だが、手ごたえは薄い。

 すぐさま二撃、三撃────繰り出す斬撃は、ことごとく弾かれる。

 

 

 

【ライフルモード!】

 

 

 

 スタークの右手が逆手に握るは無骨な銃剣。

 先端の刃が、切歌の鎌に逆らい、軌道を逸らし、押し戻してくる。

 

 

 

「……!」

 

 

 

 切り込んでいるというのに崩せない。

 思わず心が乱れかける……が、それでは向こうの思う壺。

 ここはぐっと堪える。

 

 

 

「このッ! ちょっと足が長いからってッ!」

 

 

 

 それでもいちいち足をかけてくるのは────いきり立っても仕方がないだろう!

 

 武装のリーチ差を鑑みれば、奴の足など届くはずはない、というのに。

 絶妙な間合いを保ち、錯覚させてくるスターク。

 完全に子供扱いだ。遊ばれているかのような余裕を見せるスタークに声を荒げる。

 

 奴の狙いは明々白々。こちらの平静を奪うことだ。

 けれど。

 今の切歌は、その程度では翠刃の軌道を歪めさせない。 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

『怒りながらも攻撃はブレないか。随分と成長したようだ……っと!』

 

 

 

 言い終わらぬうちに、スタークは地面を転がり、その場から離脱する。

 空から飛来する無限軌道────その全てが、彼を両断すべく殺到していたからだ。

 

 

 

━━━━━━━━━α式 百輪廻━━━━━━━━━

 

 

 

 即座に体勢を立て直し、スタークは周囲を警戒する。数秒前、彼が切歌と得物を交えたその場所は、今や完全に百輪廻によって埋め尽くされていた。

 切歌の姿もすでに見えない。見事にスイッチを成功させられた訳だ。

 そして、

 

 

 

『結界のつもりかッ!』

 

「人形のようにお辞儀するだけ、モノクロの牢獄ッ」

 

 

 

 飛び込んできた調の一撃、それを銃剣で受け止めるスターク。”受け止める”というよりは”弾く”というのが正確だ。

 絶えず高速回転する丸鋸の斬撃は、スタークのスタイルと相性が悪い。流すことも、絡めとることも難しい。

 

 周囲には無数の百輪廻が舞い、逃げ場を塞ぐかのように降り注ぎ続けている。

 先陣を切歌に任せたのはこの布石────時間稼ぎのためだったのか? 大量の丸鋸を用意するには、それだけの時間が必要だったのだろう。

 

 それを会話やアイコンタクトなしでやり遂げるとは。鷲尾兄弟を思い出し、若干の郷愁の念がスタークに広がった。

 

 

 

━━━━━━━━裏γ式 滅多卍切━━━━━━━━

 

 

 

 四本に増えたアームから繰り出される、怒涛の連撃。一撃の重さこそ切歌のそれに及ばないが、単純に手数は四倍だ。

 

 12時から斬撃────弾く。

 続いて8時────弾く。

 今度は2時、9時から同時────弾く。

 弾く。弾く。弾く。弾く。弾く弾く弾く弾く────!

 

 初めて対峙した頃とはまるで別人。スタークの行動を読み、自身の強みを最大限生かした戦闘の構築。有望株の成長ぶりに、思わず感嘆がこぼれるスターク。

 

 

 

『面白い! お前たちも、なかなかどうして強くなってるじゃねェか!』

 

「言ったでしょ。あなたに褒められても嬉しくなんか、ないッ!」

 

 

 

 溜めが長い。大技の予兆。

 直観がそう告げる。振りかぶられたアームは二本、カウンターに移るにも、残る二本が邪魔をする。未だ百輪廻が降り注がれる以上、スタークは後退という選択肢を潰されているも同然だ。

 

 ならば取る手は限られてくる。

 最小限の動きで回避し、至近距離から銃撃を叩き込む。それで調を沈め、平常心を失った切歌も芋づる式に仕留められる。

 

 

 

「だからそんな世界は────」

 

「今すぐにjust saw now 痛む間もなく────」

 

 

 

 故に。ギリギリまで引きつける。

 スタークは刹那で勝利の法則を導き出す。

 

 

 

 「「────()り刻んであげましょうッ!!」」

 

 

 

━━━━━━━━双斬・死nデRぇラ━━━━━━━━

 

 

 

『ぐああァァッ!!?』

 

 

 

 地面と平行に吹き飛びながら、スタークは自身の失策を悟った。

 

 自らへ向けて振り下ろされるはずの緋刃はその()()────地面を割った。そして、突如視界を覆った黒鉄色の壁。

 そこから導き出される、調の動きは(ブラフ)だったという事実。

 

 ほんの一瞬、動きを止めたスターク、その隙を突かれ、四方に丸鋸を突き立てられたのだ。

 “壁“というには些か頼りない卍火車はしかし、()()を確実に直撃させるためには十分すぎる囮だった。

 

 そして、丸鋸をぶち破りながら突進してきたイガリマの一撃────スタークにはそれを防ぐ術なく。

 甘んじて受ける他なかった。

 

 錐揉みに回転する中、あわや岸壁に激突するという所で地面を叩く。地面を削りながら辛うじて着地し体勢を立て直したスターク、そのカメラアイに映るのは、疾風の如く迫る二振りの刃。

 

 

 

『ハザードレベル2.5に2.6! 二人のレベルが爆発的に上昇している……。

 こいつが噂に聞くフォニックゲインの共鳴かッ!』

 

 

 

 駆ける無限軌道の丸鋸に、魂を切り裂く大鎌。二振りの刃は確かに彼を射程圏内へ捉えている。

 窮地。

 だというのに、彼の胸の裡より込み上げ、満ちていくのは────歓喜。

 

 "ブラッドスターク"を初めてここまで追い詰めた相手が、まさかこの二人だとは。響を欠いたことによる計画の変更は必要ないかもしれない。

 となれば、沸き立たずにいられない。

 

 さて、思案を巡らす内に刃は目前だ。

 スパイダーボトルで足止めか。否、今の二人には意味を為さない。何より、ボトルを装填する余裕などない。

 

 

 

『なら────』

 

 

 

 求められるのは、全てを圧する単純な力。

 

 

 

 

 

『────仕方ない』

 

 

 

 

 

 その瞬間、踵を返し全力で後退する調と切歌。

 

 

 

「なにごとデスかッ!?」

 

「あの夜と、同じ……!」

 

 

 

 彼本来の────地球外生命体としての────力の解放。

 スタークの全身から放たれる赤いエネルギーは大気中の物質と反応し、起爆。拡散された熱量は大気を燃やし、周囲一帯を更地へと変えた。

 その様子に慄く二人。多少煤けてこそいるが、あの爆発に対応できただけでも十分合格点をくれてやれる。

 

 

 

『まさか、お前達相手に本気を出すことになるとはなッ!』

 

 

 

 左手を突き出し、空を叩くスターク。

 瞬間、揺らめく空間。掌から放たれた赤い波動が、地面を抉り前進する。

 空気を切り裂きながら進む波動、まともに当たればただでは済まない。

 だが、それで終わる二人ではないだろう。

 

 

 

「「誰かを守るために、(信じ合って、繋がる)真の強さをッ!!」」

 

 

 

 揺るがない。怯まない。

 破壊の奔流を二人は回避し、即座に切り返しに転じる。

 

 

 

『いいぞォ……! せっかく本気を出したんだ、あれくらいは対応してもらわないとなッ!』

 

 

 

 放った波動はあくまで牽制。だがこの威力、この速度。全てがこの戦闘中で随一の一撃だった。

 にもかかわらず、それを容易く対応してみせた調と切歌に、スタークは心躍り、胸が弾む。

 

 翠刃と緋刃、無数の刃が四方八方から迫る。

 その連携は完璧だった。一対の歯車のように、寸分違わぬ連撃を繰り出す調と切歌。しかしスタークは倍加した速度で、精度で、それら全てを受け、弾き、払い、流す。

 

 そして、奔る予感。

 

 

 

━━━━━━━━切・呪リeッTぉ━━━━━━━━

 

 

 

 刹那、スタークの視界が土煙で覆われる。ネフィリムといい今といい、やけにスーツが土で汚れる一日だ。ざらつく粉塵がアーマーに纏わりつき、エネルギーで燃え尽きる。

 

 

 

『目眩しのつもりか?』

 

 

 

 センサーで索敵しながらも、次の一手を予測する。あの二人が距離を取る、そんなことがあるはずがない。決着を着けるつもりだ。

 つまり、来るのは大技。

 

 

 

【扇風機!】

 

 

 

 扇風機ボトルを振る。この程度の煙幕、吹き飛ばすのは容易い。

 だが、それでは向こうの手を見ることはできない。まだ歌が聴こえる。こちらを見ている。

 これ見よがしにボトルをトランスチームガンへと近づけていく。

 さて、どう出るのか────。

 

 

 

『そういう魂胆か!』

 

 

 

 瞬間、スタークの身体の自由が奪われた。

 拘束。イガリマのワイヤーだ。

 地面にアンカーを打ち込むことで、容易く振り解けぬほどには拘束力が強まっている。

 

 回避はできた。

 だが、それでは意味がない。

 その目的は勝利ではないのだから。

 

 

 

『いいだろう────乗ってやるッ!』

 

 

 

【ネビュラスチームガン!】

 

 

 

 黒煙に包まれた左手が、紫色の銃を握る。

 ワイヤーはすでに千切れ、スタークは自由を取り戻していた。自由になった両腕で素早くボトルを装填し、両手に銃を構える。

 迎撃。彼が取るのはそれ一択だ。

 

 

 

『────来たかッ!』

 

 

 

 スタークを拘束したイガリマのワイヤー、土煙の中その数本が彼を素通りしたのを見逃してはいない。

 音が、空気が、告げている。

 これは────挟撃。

 

 

 

【スチームアタック! フルボトル! ダイヤモンド!】

 

【ファンキーアタック! フルボトル! タートル!】

 

 

 

 即座に放たれる二挺の銃。

 青く輝くダイヤモンド、緑に輝く亀甲。スタークを囲むように展開された二つのシールド、そこに地球外のパワーを上乗せする。

 赤く燃えるシールド。発動した地球外パワーが煙を吹き飛ばし、最後の攻防が始まった。

 

 

 

「「忘れかけた笑顔だけど(きっと、きっと、まだ)……大丈夫、まだ飛べるッ!!」」

 

 

 

 前方────断頭刃(ギロチン)に乗り、バーニアを噴かして猛進するイガリマ(切歌)

 後方────月輪の刃を駆り、接続したワイヤーによって無尽の加速を得たシュルシャガナ(調)

 

 二人の姿を認めた瞬間、多大なる負荷を覚えるスタークの両腕。展開されたダイヤモンドと亀甲の盾を、正面から打ち破らんとする一撃。

 軋む装甲。舞い散る盾の破片。びしびしと甲高い音を響かせながら、ダイヤモンドと亀甲には亀裂が走る。

 

 そして────激突の衝撃が、戦場に轟く。

 

 

 

『グ、お、おおおおお────ッ!!』

 

「「絆ッ、抱きしめッ!(さあッ! 空に!) 調べ、歌おう────ッ!!!」」

 

 

 

 

 

━━━━禁殺邪輪 Zあ破刃エクLィプssSS━━━━

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 幾度目かの爆発が空気を灼く。

 爆風にその身を晒され、宙を舞う切歌の身体。焦げた自慢の髪先が鼻をくすぐるが、そんなことは二の次だ。

 

 

 

「調ッ!」

 

 

 

 切歌よりも高く打ちあげられた調の姿が目に飛び込む。ローラー装備の脚では踏ん張りなど利かず、空中制御などもっての外だ。こうなるのも必然だった。

 調の姿を認めた瞬間、ワイヤーを射出し調の身体を捉えた切歌。強引に手繰り寄せ、そのまま抱き留めた。

 

 重力のまま地面を転がる。体勢は崩れ、着地とはとても言えない角度での飛び込みだったが、五体投地によるむち打ちよりは遥かにマシだ。

 何より調を守れた。それだけで僥倖だ。

 

 土に塗れた顔を向け合い、どちらともなく破顔する。土と煤でお互い酷い顔だ。

 煤けた頬に笑みを浮かべながら、手を取り合って立ち上がった。

 前方からの熱気に目を細める。爆心地からなお立ち上る炎と黒煙が地面を赤く照らしていた。

 その様子を眺める内、勝利の兆しが切歌の裡に湧き上がってきた。

 

 

 

「どんなもんデスッ!」

 

「手ごたえはあった、けど……」

 

「あいつがこれでくたばるとは思えないのデス」

 

 

 

 ガッツポーズを取り全身で喜びを表現するも、期待はすぐに穴の空いた風船のように萎んでいく。

 手応えは過去一番。シールドを貫通し、直撃させられたとはいえど、奴があの一撃で倒せる相手ならばこうも苦労はしていない。

 

 ────案の定。

 黒煙の奥で揺らめく人影。徐に立ち上がったそれは、熱が引くと共にその輪郭を露わにさせていく。

 

 それに向かって指を突き出し、二人は揃って叫んだ。

 

 

 

「「やっぱり!」」

 

『いいものを見せてもらった! 二人揃ってハナマルをくれてやる』

 

 

 

 全身からはスパークが奔り、煙を噴き出している。見た目だけは満身創痍、だが仕草からその色は見えない。

 手を叩きながら、ブラッドスタークが炎から現れた。

 

 あまりにしぶとい。あまりにも。

 

 戦闘中怒りに任せぬよう努めていた切歌だが、ついに堪忍袋の緒が切れた。

 

 

 

「ああもうッ! まだやるつもりデスか!?」

 

「ドクターよりもねちっこいッ!」

 

『手厳しいねェ! まァ心配するな、この辺りでお開きにしようじゃねェか。

 これ以上の戦闘は流石に厳しいしな』

 

 

 

 やれやれと被りを振り、肩を竦めながらそんなことを嘯くスターク。調の視線が睨み殺せそうなほどに鋭さを増していくも、そんなことはどこ吹く風といった様子だ。

 

 

 

『とはいえだ。実を言うと、まだ野暮用が残っててな。そいつを終わらせてから退散するよ』

 

「なにが野暮用デスかッ! どうせロクでもない用なくせにッ」

 

『正解!』

 

 

 

 両手の人差し指を切歌に向けるスターク。だが、そんなことを言われて通す道理はどこにもない。

 

 

 

「行かせないッ!」

 

 

 

 

━━━━━━━━━α式 百輪廻━━━━━━━━━

 

 

 

 アームドギアを展開し飛び出した調が、百輪廻を射出する。速度、密度こそ先の戦闘には及ばないが、今の消耗しているスターク相手であれば十分な脅威を保っていた。

 

 だが、スタークに目立った動きはない。ただ頭を掻くような仕草を見せるのみだ。あと一秒と待たず百輪廻が飛来するというのに、この落ち着き様は何だ?

 

 およそ三秒。ようやく切歌は異変を悟るも、時はすでに遅かった。

 彼が取った行動はたった一つ。

 ただ、指を鳴らした。

 

 

 

【ファンキーアタック! フルボトル! 忍者!】

 

 

 

 それだけで、百輪廻は()()()()()()()()()()によって撃ち落とされた。

 紫の残光を引きながら飛来する何か。どこかで見たことがある、あれは────手裏剣か?

 

 

 

「横槍ッ!? 一体どこから……」

 

 

 

 動揺を隠せない調。ここに来て第三者が介入するなどありえない。今の横槍は、間違いなくスターク側の何者かによるものだ。

 

 切歌は考えるよりも早く動いていた。砕け散ったアームドギアを再生成し、地面を蹴る。

 疾走の中思考が追いつく。

 司令塔を先に崩せばこちらのものと、大鎌を振りかぶる切歌。届かない距離ではない。

 横槍が入るより疾く得物を振り切れば────。

 

 

 

『ファウストはお前たちみたいに零細じゃない。腹心の1人や2人、その辺りに待機させておけるって訳だ』

 

「おかわりがなんぼのもんデスッ! 10人だって100人だって……」

 

『一足先に行ってるぞ。止めたきゃ追ってくることだ。じゃあな!』

 

 

 

 力の限りに振り抜いた大鎌が裂いたのは黒煙。

 奴の姿は────見えない。

 不気味なほどの静寂を取り戻した戦場に残っていたのは、反響するスタークの嘲るような声だけだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 閃光が画面を白く染める。

 モニター越しにも伝わる轟音がフロンティア内部を揺るがし、戦闘の終了を告げた。

 爆発から飛び出した調と切歌の姿を確認し、マリアは胸を撫で下ろそうとして────手を止める。

 

 

 

「調も切歌も、迷うことなく意志を貫いている……」

 

 

 

 自分は何だ?

 あれほど覚悟を口にして、荊の道を歩むと決めたというのに、何をしている? 最早、マリアの行動その全てが人類滅亡への銃爪となってしまった。

 違うことなき大悪党。それが今のマリア・カデンツァヴナ・イヴ、だというのに。

 今更迷い、揺れ、縋ろうとしている。

 

 悪党の末路は決まっている。ならばその時が来るまでに、自らを止めにきた二人のため、マリアにできることはあるのか?

 

 

 

「せめて……二人が進む未来()くらいは、私が切り開かねば」

 

 

 

 ひび割れたペンダントを握る手に力が籠る。

 事ここに至って妹に────セレナに縋り付く。その行為すら唾棄すべきものと感じながら、それでもマリアは言い聞かせた。

 

 

 

 ────ただのやさしいマリアなのですから。

 

 

 

 途端、脳裏を過ぎるその言葉。

 ナスターシャはマリアにそう告げ、後ろの道を示してくれた。

 

 今、二人は二課の協力者として戦場を駆けているはず。

 ウェル、そしてマリアの悪行を止めるために戦っているというのなら、その行動はある程度の減刑に繋がるだろう。

 自ら道を選び進んだ彼女らに、マリアが干渉する必要などない。────人類の滅亡が迫っていなければ。

 

 完全なる自縄自縛、それでも動かなければならない。

 揺れる疑念に無理やり蓋をし、マリアは歩き始めた。

 

 

 

〈マリア〉

 

「……マム?」

 

 

 

 その時、聞き慣れた、静かな声が耳朶を叩いた。

 制御室にてフロンティアの稼働を監視しているはずのナスターシャの声。

 月の落下が迫っているというのに、差し伸ばした手を払った相手というのに。普段と変わらぬ冷静さに、胸が苦しくなる。

 

 

 

〈ドクターと刺し違えようとしていますね。早まるのはお止めなさい〉

 

「…………」

 

〈伊達に生き永らえては……あなたと過ごしてはいませんよ〉

 

 

 

 何もかもお見通しという訳か。

 だが早まってなどいない。ウェルの暴走の一端となったのは他でもないマリア自身。

 つまりこれはただ、責任を取るだけのことだ。ウェルを締め上げ、月の落下を止めさせる。もしそれが成されなければ、その時は────。

 

 

 

「……いいえマム。私は私の意志で、この道を踏みしめると決めたの。

 その末路がこれだというなら、始末は私がつけなければ」

 

〈いいえ。手立てはまだ残っています〉

 

「手立て……?」

 

〈フロンティアを解析して、月の落下を止められるかもしれない手立てを見つけました〉

 

「えッ!?」

 

 

 

 無意識に、震えた声が喉から漏れた。

 滅亡を止められると言うのか?

 提言したのはあのナスターシャだ。マリアが最も信を置く人物が、この状況で気休めを言うとはとても思えない。

 ならば、本当なのか。

 信じたい。けれど、それはあまりに────。

 

 

 

〈最後に残された希望……それにはマリア、貴女の歌が必要です〉

 

 

 

 ────できるはずがない。

 それ以前に、あり得ない。

 ほんの僅かな沈黙の後、空言のように呟いた。

 

 

 

「私の、歌……?」

 

 

 

 そんなマリアの様子を知ってか知らずか、ナスターシャは自らの仮説を語り始めた。

 

 月はカストディアンが設置した監視装置。その目的は人類から統一言語を剥奪し、相互理解を阻むためだという。

 

 そこまで耳にしたところで、マリアは理解し息を呑む。

 そも、その仮説が正しければ衛星軌道からしてカストディアンの計算によるものなのだ。

 

 月がただの天体ではなく、人工物────人工というには議論の余地があるが────だというのなら。

 不全となったその機能の再起動さえできれば────。

 

 

 

〈ルナアタックで一部不全となった月機能を再起動できれば、公転軌道上に修正可能です……〉

 

 

 

 希望を語り終わらぬ内に言葉が途切れ、取って代わったのは激しい咳き込み。

 水が跳ねる音が僅かに聞こえる。

 彼女の身に芳しくないことが起きたのは明らかだ。

 

 

 

「マムッ!?」

 

 

 

 思わず叫んだその声への返答はない。ただ、荒く、掠れた吐息が聞こえるのみ。

 ナスターシャの身体は限界が近い。そのことは、彼女の応急処置も担当していたマリアがよくわかっている。

 

 まさか、フロンティアに乗り込んだことによる環境変化に耐えられなかったのか────。

 冷たいものが背筋を通る。

 しかし、

 

 

 

 

 

〈────貴女の歌で、世界を救いなさいッ!〉

 

 

 

 

 

 それは息も絶え絶えな、囁きのような叫び。

 だが、その声に一切の揺らぎなく。

 

 荒い息を吐くナスターシャ、しかしその言葉はマリアを確かに震わせた。

 炎が灯る。燃え尽き、灰と化したはずの心に、火が焼べられる。

 

 "世界を救う"。そんな青写真をここから描くことができるなら。

 

 

 

「私は────」




前回と今回と次回の内容を1話にまとめられると思ってた投稿者がいたそうです
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