戦姫絶唱シンフォギア Evolution's Symphony   作:セグウェイノイズ

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マリアさんが動かしやすすぎてどんどん出番が増えていきます
味方になってからは結構アクティブに動き回る人なんですが、そういう人が一人いるのは大きいです
3期編では後1回メイン回があります。本当に悪役以外なんでもできますね……


EPISODE07「降臨、世界救済のアーク」

 碇泊中のS.O.N.G.本部、その通路沿いに設けられた談話スペース。

 無機質さの押し出された室内に満ちるのは、どこか落ち着かない静寂だ。

 空調の音が微かに響くばかりで、行き交う職員の姿は誰一人としていない。

 

 今、この空間には小日向未来だけが取り残されていた。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 ソファに浅く腰掛け、足元を見つめる未来。

 硬質な床が証明を反射し、白い光が彼女の瞳に飛び込んでくる。

 その眩しさが思い出させるのはたった数時間前の出来事だ。あの驟雨の中でのやりとりが泡沫のように浮かび上がっていき、やがて再生を始めた。

 

 

 

 

 

********

 

 

 

 

 

 視界を覆った黒煙が晴れたとき、未来の目に飛び込んできたのは見渡す限りの灰色だった。

 灰色の壁。つまり室内?

 天井の一部は無残に崩落し、露出した鉄筋を伝って床面に水たまりを作り出している。どうやら廃ビルの一角に連れてこられたようだ。

 

 湿気が籠った廃ビル内を見回した後、未来は()の姿を見上げる。

 幾度となく響たちに対峙する謎の存在、ブラッドスターク。彼は未来の視線など意に介さず、片脇に抱えていた響を湿った瓦礫にもたれかからせるように降ろしていた。

 

 

 

「響ッ!」

 

 

 

 煤と泥に汚れた響の姿を見た途端、未来の頭から彼の存在が消し飛んだ。

 今はただ、一刻も早く彼女を介抱しなくては。埃と雨水でぬかるむ地面に構わず響の元に駆け寄る未来。

 

 響が目を覚ます気配はない。光と共にシンフォギアが消失したかと思えば、生身に戻った彼女の身体が沈んでいく。

 横に崩れ落ちた響に声を上げようとした途端、背後から温度のない男の声が届いた。

 

 

 

『そう騒ぐな。ダメージは大きいが重体じゃない』

 

「ほ、本当ですかッ!?」

 

『尤も、信じるかはお前次第だ。じきに連中も救助に来るだろうからな』

 

 

 

 淡々と響の状態を検分するスタークの佇まいには、一切の力みがない。

 首元のパイプに首を埋め、片足に重心を乗せて立つその姿は、戦いから縁遠い未来でも理解できるほどに洗練され、自然体を保っていた。

 

 言い終わると同時、用は済んだとばかりに背を向けるスターク。

 結局戦場に介入してから向こう、その仮面に彼女の姿が反射することは終ぞなかった。

 このまま彼を見送り救助を待つ。それが安全、かつ正しい選択だ。

 だが、未来には言わねばならないことがある。

 

 気づいたときには、その後ろ姿を呼び止めてしまっていた。

 

 

 

「あの!」

 

『どうした』

 

「響を助けてくれて、ありがとうございますッ!」

 

 

 

 一息にまくし立てた未来は、勢いよく頭を下げた。

 喉元までせり上がる錯覚を覚えるほどに高鳴る心臓。少しでも躊躇えば、恐怖で言葉を継げない気がした。

 僅かな沈黙、雨音と心音だけが耳に響く。

 

 彼の鎧が擦れる音がそれを破るまで、やけに長く感じられた。

 

 

 

『俺はお前たちの味方じゃない、そう連中から聞いてるだろ。ただ俺の目的のため助けたに過ぎない』

 

「それでもです。わたし一人じゃ、どうにもできなかったから」

 

『……それでも、かァ。なかなかどうして似るものだ』

 

 

 

 このやりとりのどこが彼の琴線に触れたのか、スタークは肩を揺らして笑っている。

 その首はいつしかこちらに向けられ、そのバイザーがようやく未来の姿を映した。彼の意識がこちらに向けられたことに思わず身体を強張らせる。が────。

 

 

 

『礼ならこいつに言ってやれ。響の成長がなきゃ、俺も助けてないかもしれないからな』

 

 

 

 それだけ言い残したスターク、ひらひらと手を振りながらゆっくりと歩みを再開した。

 瓦礫を軽々と飛び越えて、小さくなっていく赤い背中。未来が黒煙に包まれていく彼の後ろ姿を見つめていると、最後に一度、その仮面がこちらを向いた────気がした。

 

 

 

『じゃあな。ただの人間が礼を言うためだけに呼び止めるなんて、面白いものを見せてもらったよ』

 

 

 

 その言葉を残して、陽炎のように彼の姿は消失した。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「これは……」

 

「お預かりしていたアガートラームです。無事修復が完了しました」

 

 

 

 突然司令室へと招集されたマリア。他の装者たちはそうではないようで、彼女は一人司令室の扉を潜った。

 入室間もなく、エルフナインが差し出した掌。その上にあるのは傷一つない、アガートラームのペンダントだ。破損していたことを感じさせない輝きを放っている。

 

 

 

「試験的に、対アルカ・ノイズのバリアコーティングは実装している。

 けれど件の【イグナイトモジュール】は未搭載よ」

 

「すみませんマリアさん……。作業工程の関係上、まずはギア本体の修復が最優先と判断しました。

 天羽々斬とイチイバルの改修が完了次第、すぐにこちらにもモジュールを組み込みます!」

 

 

 

 温度のない瞳でこちらを流し見るフィーネに、眉を下げて頭を下げるエルフナイン。

 フィーネだけならこちらも委縮してしまっていただろうが、縮こまる彼女の献身を無言で受け止める訳にはいかない。

 マリアは身を屈めてエルフナインと視線を合わせると、彼女を安心させるように微笑んだ。

 

 

 

「ありがとう。今はこれだけで十分よ」

 

 

 

 その言葉にエルフナインはますます身を小さくさせる。あまりに謙虚な態度に苦笑するマリアだが、頭上からかけられた弦十郎の言葉が彼女の口を引き結ばせた。

 

 

 

「とはいえあくまで暫定措置だ。LiNKER完成の目途がつくまで、実戦は原則許可できん」

 

「そうも言っていられないとは思うけれど、ね」

 

「うむ……。だが了子くんらによれば、状況が変わったとのことらしい。俺もまだ詳しい報告は受けていないが」

 

 

 

 彼の言葉にマリアは思わず首を傾げる。

 つい先日までLiNKERの完成は程遠かったはず。だが、それが変わったということは。

 引き継ぐように、フィーネとエルフナインが前に出た。

 

 

 

「情報の精査次第になるけれど」

 

「足掛かりが、掴めたかもしれません」

 

 

 

 思わずペンダントを握る手に力が籠る。

 その報告は一筋の光明だ。LiNKERが完成すれば、マリアたちは大手を振って戦える。そうすれば、きっと。

 マリアは手元のそれを見つめて────やがて、力を抜いた。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 行き交う人々。照り付ける夏の太陽。

 車窓の向こう側で、平和を謳歌する日常が絵巻物のように流れていく。

 マリアは車外の光にペンダントをかざしながら、後部座席に身を沈めていた。

 

 

 

(ガングニールもアガートラームも、いつだって窮地を切り抜けるのは借り物の力)

 

 

 

 垣間見えた戦線復帰の目途。その朗報はマリアの心を滾らせたが、同時に翳らせてもいた。

 危機に陥った響を救ったガングニール。あれはすでに彼女のものだ。

 ネフィリムを打倒するため、最後の輝きを放ったアガートラーム。あれはセレナの忘れ形見だ。

 どちらも、マリア自身が掴んだ力ではない。

 

 

 

(この白銀の輝きは……わたしが継ぐに相応しいのか?)

 

 

 

 脳裏に浮かぶは、最愛の妹の優しい笑顔。

 あの白銀の輝きは、すべてを包み込むような慈愛に満ちた彼女にこそ相応しい。

 対してマリアはこの力を振るうに相応しいのか。状況に流されるまま、偶像を演じ続けた自分が。

 

 そんなとりとめのない思考は、運転席からかけられた静かな声で遮られた。

 

 

 

「お待たせしました」

 

 

 

 慎次の声から数秒後、僅かな制動とともに車が停車する。

 扉を開け、アスファルトに足をつける。容赦ない灼熱の日差しがマリアを照り付ける中、手で陽光を遮りながら彼女はその看板を見上げた。

 

 赤いオーニングに、出窓から覗く観葉植物。

 ウッドデッキに人の姿はなく、室内からも気配がない。

 夏の喧噪とは無縁のような、静かな佇まいの店がそこにあった。

 

 

 

「ここが、nascita」

 

 

 

 確かに“内緒話”をするにはうってつけの場所だ。以前切歌が口にしていた言葉に内心で同意する。

 ドアベルを鳴らしながら店内に入れば、快適な冷気がマリアを出迎えた。

 暖色を基調とした内装は洗練されており、欧風の雰囲気を醸し出している。そして店内中央、キッチンスペースに立つ男が視界に入った。

 

 男はマリアの姿を認めた途端、朗らかな笑みと共に両腕を広げてマリアの元に歩み寄ってきた。

 

 

 

「いらっしゃい。待ってたぜ~歌姫様!」

 

「ミスター石動ね。知っているようだけど、改めて。マリア・カデンツァヴナ・イヴよ」

 

「石動惣一、このイケてる喫茶店を経営してる。気軽にマスターって呼んでくれ」

 

「マスター、ね。承知したわ」

 

 

 

 固く握手を交わすマリアと男、石動惣一。

 おどけた歓迎とは裏腹に、その佇まいには一分の隙もない。捉えどころのない雰囲気と底知れない余裕に、思わず“奴”を幻視するマリア。

 即座に首を振ってその姿を振り払うと、彼女は案内されたカウンター席に腰を下ろした。

 

 

 

「調と切歌から、世話になったと聞いている。もう受け取っているでしょうけど……わたしからも礼を言わせて」

 

 

 

 彼の臙脂の目を見据える。

 対面するからには、必ず言わねばならないと決めていたことだ。突然の感謝を受け目を丸くする惣一に、マリアはさらに言葉を重ねた。

 

 

 

「アナタに感謝を。おかげで、わたしは最後の最後で道を外れなかった」

 

「大げさだよ。詳しいことは聞かねェけど、その分だとしっかり叱られたってとこか?」

 

「ええ……随分滅茶苦茶だったけど」

 

「ハハ! そりゃ何よりだ。いい妹分じゃないの」

 

 

 

 ハットの縁を指で弾きながらにやりと笑う惣一に、マリアも思わず笑みが零れる。

 ナスターシャや弦十郎とは違うタイプの大人だ。調や切歌が新鮮に思うのも無理はないと、今更ながら納得した。

 

 これで目的の一つは達成できた。

 だが、ただ感謝を告げるためだけにここまで足を運んだ訳ではない。それは惣一も分かっていたのか、シンクの食器を洗いながらマリアの横に控える慎次に問いを投げていた。

 

 

 

「で、なんだってマリア()()()連れてウチに来たんだ? まさか礼だけ言いにきたって訳じゃねェだろ」

 

「マリア、ちゃん……!?」

 

 

 

 それは当然の疑問。

 その中に埋め込まれた衝撃的な言葉に閉口しているうちに、慎次が本題を切り出した。

 

 一週間前、立て続けに響を狙ったオートスコアラー。

 あの自動人形たちは周囲の民間人────未来やその学友たちの巻き添えも厭わず、白昼堂々と襲撃を仕掛けていた。

 つまり、響に近い惣一にも魔の手が及ぶ可能性が浮上したのだ。

 

 

 

「なるほど、マリア()()()はさしずめ護衛の騎士(ナイト)ってとこか」

 

「そうなります。……マリアさん?」

 

「えッ!? ……ああ。いえ、大丈夫。慣れない呼ばれ方に驚いていただけ」

 

「気にいらなかったか? じゃあそうだなァ……イヴちゃんとか?」

 

「マリアで結構よッ」

 

 

 

 そんなやりとりも挟みつつ、注意喚起は滞りなく進んでいった。

 

 

 

「支給の通信機は肌身離さぬようお願いします。僅かでも異常を感じた場合は、すぐに本部まで連絡を」

 

「オーケイだ。バイトがなけりゃ大体ここだし、そう警戒することもねェような気もするけど」

 

「用心しすぎるに越したことはありませんから」

 

「金言だな」

 

 

 

 錬金術という超常が飛び交っているというのに、彼はそこに一切の驚きを見せなかった。

 響から事前に聞き及んでいるのだろうが、それでもこの落ち着き様はおよそ尋常ではない。弦十郎の知人というだけあって、なかなかどうして一筋縄ではいかない男だ。

 

 慎次の話が一区切りつくと、徐に惣一はキャビネットから二つのコーヒーカップを取り出した。

 隣を見れば、珍しく彼の顔が引きつっている。大抵のことには動じない現代忍法の使い手をこうも乱すとは、一体何をしようというのか。

 

 

 

「せっかく来てくれたんだ。話すだけってのも何だし、二人にも一杯サービスしてやろうじゃないの」

 

「えッ!? い、いえ。お構いなく」

 

「遠慮すんなって。昨日新しい豆仕入れたんだよ。

 特別にそいつで淹れてやるから、しっかり味わいなさいよ~?」

 

 

 

 慌てた様子で惣一の提案を断る慎次。だが、彼はどこ吹く風でサイフォンに水を注いでいる。

 とうとう観念したとばかりに慎次が肩を落とした、その時。

 

 

 

 

 

 

 

『━━━━ッ! ━━━━ッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 静かな店内に、耳を突き刺すような電子音が鳴り響いた。

 発生源はS.O.N.G.支給の通信機。外部協力者である惣一の分まで反応しているということは、()()()()で事態が発生しているという証左。

 

 瞬時にエージェントとしての仮面に切り替えた慎次が、代表して本部へ応答する。

 

 

 

「緒川です。マリアさんもこちらに」

 

〈アルカ・ノイズの反応を検知したッ! それも()()()()()! 両現場ともにオートスコアラーの姿を確認しているッ!〉

 

「同時ですってッ!? 場所は!?」

 

 

 

 弦十郎の伝達に、思わず椅子を蹴立てるマリア。

 襲撃地点の片割れは、現在本部が碇泊中の発電所。ギアの修復には多大な電力が必要であり、そこを突かれたのは急所を狙われたに等しい。

 そしてもう一か所は、

 

 

 

()()()()()()()()ッ!?」

 

 

 

 東京スカイタワー。全長634メートル、日本一の全高を誇るその電波塔が、錬金術師によって三度戦火に包まれようとしていた。

 マリアにとっても因縁深いそのタワーへの、アルカ・ノイズの出現。

 

 問題は二つ。

 二つの現場が互いに引き離されていること。タワーはここからそう離れておらず、対して発電所は急行しても1時間はかかる。

 そして何より、動ける正規の装者が一人としていないことが最大の問題だった。

 

 響は未だ治療中。翼とクリスはギアの修復を待つ身だ。残るマリア、調、切歌の三人はLiNKERなしでの出撃を禁じられている。

 だが、そうも言っていられない。マリアは手を胸元に当て、通信機越しに弦十郎へと進言した。

 

 

 

「わたしが出撃()るッ! まずはスカイタワー、その後すぐに発電所へッ」

 

〈だが君はッ……〉

 

「言ってる場合じゃないでしょうッ! この盤面で長考すれば待つのは惨事! どれだけ計を案じても、ここが札の切りどころよッ!」

 

 

 

 弦十郎の制止を、マリアの凛烈な叫びが覆う。

 借り物の力、相応しくない自分。その迷いは今は捨て置く。マリアはもう、自分を偽り流されるままでは居られない。

 息を呑む音。少しの間を置いて、弦十郎の重厚な声が店内を震わせた。

 

 

 

〈……無茶をするなとは言わん! 五体満足で切り抜けろッ!〉

 

「言われずともッ! マスターはここに籠っていて」

 

「これからバイトだってのに……命には代えられねェか。気張って行けよ!」

 

 

 

 惣一の声を背に、マリアはnascitaを飛び出す。

 すでに表では慎次が車を回していた。飛び込むように乗車すると、タイヤに悲鳴を上げさせながら急発進させた。

 

 逃げ惑う人々から逆流するように走行する車両。緊迫した車内では、通信機の震えがやけに大きく感じられる。

 何事かと耳を傾ければ、あおいからもたらされた情報は驚愕に値するものだった。

 

 

 

〈スカイタワーに()()()()()()()()ッ!〉

 

「ドクターがッ!?」

 

〈スマッシュと思しき兵隊を指揮し、アルカ・ノイズと交戦していますッ!〉

 

「この騒ぎが狂言でなければ、やはりファウストと錬金術師は敵対している……?」

 

 

 

 ドクターウェル────エボルトの忠実な僕であり、マリアにとっても因縁深い狂気の男。

 彼が、戦場に出ているというのか? フロンティア事変依頼姿を見せなかった彼が、この混乱に乗じて表舞台に現れたというならば。

 

 逸る心を宥めながらも、ひしひしと感じる再会の予感。

 マリアはペンダントを握り締めて、車窓に映ったタワーを見上げた。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 東京スカイタワーの麓。二回のノイズ災害を乗り越えた市街地は、またも戦場に変貌していた。

 主の命に従い、無差別に破壊活動を行うアルカ・ノイズの群れ。対峙するは、統制された隊列で迎撃する異形、スマッシュの軍勢。

 地獄の舞台を演出する敵将の姿を建物の屋上から見下ろし、レイアは目を眇めた。

 

 

 

「いつかの米軍隊長の戦法をリサイクルッ! さあスマッシュよ……僕の(ランウェイ)を切り拓くンだッ!」

 

 

 

 眼下では敵将────マッドローグが両腕を広げ、陶酔したように叫んでいた。

 指揮者のつもりか、全身のパイプから蒸気を発しながら手元の短剣を指揮棒のように取り回している。その狂気に染まった姿は、余人であれば気圧されるものを感じさせる。

 

 もっとも、レイアにそれは届かない。ただ冷徹に戦況を分析するのみだ。

 マッドローグの抹殺を命じても、その寸前でスマッシュが壁となって割って入る。万物を分解する解剖器官が鉄の身体を分解するが、その隙を逃さず他の個体、あるいは奴自身がアルカ・ノイズを撃破していく。

 消耗戦を強いているはずだが、敵兵の数は減る気配がない。

 

 

 

(戦術としては三流だが、あの継戦能力。決め手がなければ地味な膠着が続くだけ)

 

 

 

 レイアが戦場に降り立てば、この不毛な戦況など一瞬で傾く。だがレイアに与えられた役割はそこにはない。

 主の命の遂行に万一があってはならないのだ。

 故に、今彼女が取れる行動は奴を牽制することだけだった。

 

 

 

「やはりあの時、妹に始末させておくべきだった」

 

「ハンッ! 首領の慈悲を棒に振った分際でッ!」

 

 

 

 眼鏡のずれを直すような仕草で、マッドローグが仮面のシグナルを指でなぞる。

 敵意を隠そうともせず、唾を飛ばして罵る様はさながら喜劇の主人公だ。ともすれば誰よりも人形らしい彼の姿を、ただ冷徹に見下ろすレイア。

 

 彼の周囲には護衛のようにスマッシュが陣取っている。あのような言動だが、思考だけは絶えず回っているということか。

 徒にアルカ・ノイズを消費するのも得策ではない。そろそろ()()が現着してもおかしくない頃合いかと次なる一手を思案しかけて、それに気づく。

 

 

 

「ようやくの登場か」

 

 

 

 レイアの聴覚センサーが捕捉したのは、遠方より迫る猛烈なエンジン音とタイヤの摩擦音。

 マッドローグもまた、その音の主へと視線を向けている。この状況で向かってくる手合いなど一つしかない。

 

 音を捕捉し数秒後、視界の奥から現れたのは一台の車両だった。

 曲芸のような急旋回を見せ、アスファルトに轍を残しながら強引に停車。間もなく、後部扉が蹴り開けられる。

 

 

 

「派手に現れてくれる」

 

 

 

 さて、()()()か。

 車両から身を躍らせた装者は────。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 弾き出たマリアが真っ先に見据えたのは、異形の怪物に囲まれた白い鎧の怪人だった。

 仮面の下の素顔を彼女は嫌というほど知っている。動きを止めた戦場を切り裂くように、マリアは大きくその名を叫んだ。

 

 

 

「ドクターッ!」

 

「これはこれは! 不遜にも僕に狼藉を働いたマリアじゃあないですか」

 

 

 

 マッドローグはマリアの姿を認めるやいなや、けたけたと鎧を揺らして笑った。

 仮面を指でなぞり、スマッシュを押しのけながら正面へ躍り出た彼。突如鎧から蒸気が噴き出たと思えば、右手に握るスチームブレードの切っ先がマリアの喉元を指し示した。

 

 

 

「僕は受けた恩を忘れない主義。思えば、僕を手にかけようとした礼をまだしてませんでしたねェ!」

 

 

 

 左手に現れたのは紫色の拳銃武装、ネビュラスチームガン。

 右腕を下げ、代わりに左手の銃弾を撃ち放ったマッドローグは同時、大きく飛び退く。

 その銃声は、まさに混沌を再開させる号砲だった。

 

 

 

「さあッ、地獄の淵で僕とダンスだッ!」

 

 

 

 スマッシュの群れが一斉にマリアに向かって雪崩れ込む。

 迫る銃弾。迫る鉄塊。

 マリアは身を屈め、間一髪でその銃撃を回避。

 そのまま低く地面を駆けて、左手に握る()()を突き出し────歌った。

 

 

 

 

 

「Seilien coffin airget-lamh tron」

 

 

 

 

 

 光がマリアを包むと同時、荘厳な音楽が戦場に鳴り響く。

 まず襲い掛かったのは、上半身が肥大化したスマッシュの剛拳。触れるもの皆粉砕せしめる鉄の拳が視界に広がる。

 

 

 

「はああぁぁァッ!!」

 

 

 

 だが、そんなものでマリアの足は止められない。

 光から抜け出した彼女はスマッシュの拳を避け、お返しとばかりに踏み込んだ懐から腕を突き出す。

 それは銀の左腕。白銀の輝きを放つ拳が金属音を響かせながら胴体にめり込み、巨体を軽々と殴り飛ばした。

 

 

 

(いけるッ!)

 

 

 

 確かな手応え、これなら。

 頷き、マリアは左腕の鎧から銀色のダガーを引き抜く。

 逆手に握ったこの得物、指先になじむ冷たい感触。彼女は眼前の敵に向き直り、その声を鳴り渡らせた。

 

 

 

「真の強さとは何か? 探し彷徨う」

 

 

 

 一条の閃光と化したマリアは、すれ違いざまにスマッシュへと斬撃を叩きこんでいく。

 誇ればいいのか、契ればいいのか。この力の証明には、未だ至らない。セレナは何を思いこの輝きを纏っていたのか。想い出の中の微笑みに問いかけるが、彼女は何も答えてくれない。

 それでも。

 

 

 

「まだ残る手の熱を……忘れはしないッ!」

 

 

 

 銀腕を振るうと、マリアの背後に無数のダガーが出現。標的は、傷を負いながらもこちらに押し寄せるスマッシュの群れだ。

 彼女の意思で切っ先を定めたダガーが、一斉に射出された。

 

 

 

━━━━━━━INFINITE†CRIME━━━━━━━

 

 

 

 降り注ぐは邪を祓う銀色の雨。

 無数の斬撃が、スマッシュの強固な装甲を容易く穿っていく。瞬く間に機能を停止した異形の群れは残らず爆散。

 こちらに飛来した残骸を切り裂きながら、マリアは頭上の錬金術師に思索を巡らす。

 

 温度のない瞳でこちらを見下ろすレイア。

 戦闘開始から今まで、彼女による妨害は皆無。アルカ・ノイズをこちらに向かわせれば、それだけでも十分な脅威になり得るはず。

 だというのにあちらに動きはなく、それどころか戦場からアルカ・ノイズの姿が消え失せている。

 

 

 

(目的は装者の分断、本当にそれだけ?)

 

 

 

 その時、マリアの視線に気づいたレイアが静かに口を開いた。

 

 

 

「お前の相手はワタシじゃない。ならば地味に撤退するだけ」

 

 

 

 その言葉が言い終わらぬうち、レイアの姿が消失した。

 釈然としない思いが掠めるが、そちらの考察は後回しだ。錬金術師こそ撤退したものの、第三勢力のファウストは未だ健在。

 

 このまま奴も撤退してくれれば御の字だが、そういう訳にもいかないだろう。

 振り下ろされたスチームブレードを受け止めながら、マリアは鋭く問いかける。

 

 

 

「何が目的なのッ! このままでは錬金術師に世界が蹂躙されてしまうッ!」

 

「錬金術師のデータ収集、首領の命令だッ! 疑問の介在する余地どこにッ」

 

「そこまで落ちぶれたかッ!」 

 

 

 

 火花を散らして交錯する剣と剣。

 傍から見れば互角の競り合い。だがこの結果にマリアは驚愕を隠せないでいた。

 癪だが、マッドローグ────ウェルの頭脳は一級品。対して肉体はひ弱な一般人の域を出ないはずだ。

 

 だというのに、奴はマリアの連撃をことごとく弾き返し、競り合っている。これがあの鎧のポテンシャルだとでもいうのか。

 

 息を呑むマリアだったが、射出した【INFINITE†CRIME】を撃ち落とされ初めて“そうではない”と悟る。

 

 

 

(目視、していない……?)

 

 

 

 背後の死角より飛来したダガー。しかし彼は一切振り返ることなく(・・・・・・・・)、そこに刃があることを知っていたかのような予備動作でそれを叩き落とした。

 

 絡繰の存在に気付いたマリアの様子を目敏く察知し、マッドローグは後ろに飛びのき距離を取る。

 そのまま笑い声を上げながら、彼は満点の回答用紙を見せつけるように胸を張って腰のドライバーを指さした。

 

 

 

「これこそが、僕がドライバーに組み込んだ英雄七つ道具が一つッ! 完全自動迎撃システム“オートコマンダー”ッ!」

 

「自動迎撃……厄介ね。でもッ」

 

 

 

 踏み込み、再び距離を詰める。

 左腕の一閃は、彼の得物に容易く弾かれる。だが、マリアに焦りはない。

 

 

 

「勇気を問え、決意を撃てッ!」

 

 

 

 マリアの意思に呼応して、ダガーは瞬時にその形状を変質させた。

 伸びた刃が節ごとに別れ、銀色の蛇腹剣となって戦場に踊る。彼女が腕を振り抜けば、意思を持ったかのように刃がマッドローグの周囲をうねり狂う。

 

 縦横無尽に行き交う刃、その切っ先が彼に向く。だが件のシステムはこの攻撃にも対応していた。迎撃を行うべく、最適な角度へスチームブレードを誘導する────直前。

 

 

 

「翳せぇぇッ!!」

 

「えェッ!?」

 

 

 

 マリアはその脚で、マッドローグの右腕を蹴り上げた。

 硬い衝撃に彼の腕が跳ね上がる。どれだけ予測しようと、その要となる腕自体を逸らされれば、刃がその鎧を切り刻むのも必然だ。

 

 

 

━━━━━━EMPRESS†REBELLION━━━━━━

 

 

 

 無数の刃が獲物を捕らえる顎の如く収縮し、マッドローグを雁字搦めに束縛。そのまま右腕を後ろに引けば、刃が鎧と激しくぶつかりながら、火花と共にマリアの元へと帰還した。

 

 激しい衝撃に回転しながら後方へ吹き飛ぶマッドローグは、地面を転がり大の字となって空を見上げている。

 だがその鎧には一点の瑕もない。

 傷一つない装甲に太陽の光を反射させながら、ゆらりと彼は立ち上がった。

 

 

 

「ふむ……やはりまだまだ試作段階。攻撃属性の診断と、対応角の精度には改良の余地がある」

 

 

 

 彼はうわ言のように何かを呟き続けている。今の単純な陽動が通った、それはつまり奴の迎撃システムが未完成ということだ。

 このまま畳みかける。そう腰を落としたその時、インカムから司令室の通信が飛び込んできた。

 

 

 

〈二人の適合係数、安定していますッ!〉

 

 

 

 その報せに、マリアの心臓が小さく跳ねた。

 発電所を襲う錬金術師に対し、防衛のため出撃した調と切歌。

 メディカルチェックの結果から戦闘行為を厳禁されていた彼女らだったが、あろうことか“天羽奏のLiNKER”を持ち出して強引に適合係数を安定させたというのだ。

 

 

 

「あの子たち……」

 

 

 

 あまりの無謀に、マリアの胸に焦燥が突き上げる。だが、その気持ちは痛いほど理解できた。

 答えを探しているのだ。調も切歌も、そしてマリアも。自分たちにできること、守るための力の振るう先を。

 ならば彼女に止められる理由はなかった。

 

 今はただ二人の無事を────祈りかけた刹那、マリアを襲ったのは剥き出しの狂気。

 

 

 

「余所見をするのは強者の特権ッ! 首領にしか許されないことだッ!」

 

 

 

 全力でその場から離脱する。

 直後、今の今までマリアの首があった空間が、奴の得物で無残に切り裂かれていた。

 着地を見計らったかのように振るわれる追撃を、ダガーで打ち返す。

 

 鎧によって強化されたその膂力に、織り交ぜられるスチームガンの銃撃。厄介この上ないが、その動きが洗練されていない以上戦えないほどではない。

 だが、あの装甲を突破する手立てを見つけなければジリ貧だ。

 一際大きな火花が弾け、彼我の距離が再び開く。

 

 

 

「データの収集は順調ゥ! 後は最大性能をテストするのみッ!」

 

「……いいわ、正面からッ!」

 

 

 

 笑いながら、マッドローグはドライバーのレバーを回転させはじめた。回転数に比例しスチームブレードが禍々しい紫の光で覆われていく。

 あれは必殺の一撃、ならば迎え撃つまで。

 

 

 

「定めも過去も嘆きも記憶も愛もッ、ぐっと握って……今ッ!」

 

 

 

 マリアの周囲に展開された十二本のダガーが、彼女を軸として旋回を始める。

 その軌跡は密度を増し、いつしか周囲の空気を巻き込んで白銀の竜巻を形成した。

 

 どちらも溜めの大きな一撃。奴の装甲を貫くには、こちらもリスクを負うしかない。二つの力が最高潮に達した瞬間、弾かれるように動き出した。

 

 

 

━━━━━━TORNADO†IMPACT━━━━━━

 

【Ready Go! エボルテックアタック!!】

 

 

 

 進撃するは白銀の嵐。旋回する十二本と中央の一本、十三本にも及ぶ牙が突撃する。

 対するは紫の狂気。ブレードから飛ばされた無数の斬撃が空間を埋め尽くす。

 正面からの激突は、もはや必然だった。

 

 

 

「此処にッ! 十字の歌を━━━━ッ!!」

 

 

 

 マリアの【TORNADO†IMPACT】がマッドローグの斬撃を打ち砕いていき、マッドローグのエボルテックアタックがマリアのダガーを破壊していく。

 拮抗、だが次第に嵐の勢いが増す。

 

 負けられない、そう心が歌っている。どれだけ弱く涙を流しても、足掻いて藻掻いて、そして立ち上がるのがマリアのらしさだ。

 裂帛の叫びで紫の刃を突破するマリア。その聖剣(輝き)はついに、ウェルの姿を捉えて────。

 

 

 

 

 

「……なッ!?」

 

 

 

 

 

 走る亀裂。その甲高い音に気がついたときには、すでに遅かった。

 発生源はマリアの鎧、アガートラームのシンフォギア。

 僅かな間を置き、ガラスが割れるような音を立てて砕ける鎧。竜巻の勢いは瞬時に霧散し、生身となったマリアの身体が放り出される。

 

 

 

「LiNKERなしではここまでなのッ……!?」

 

 

 

 悲鳴を上げる節々に、軋みを上げる肉と骨。まともな受け身など取れやしない。

 だが、もっと最悪だったのは。

 

 地上にて、ブレードを振り上げたマッドローグの姿にあった。

 

 斬撃の軌跡をなぞり、紫色のエネルギーが放出される。

 ギアを失い空中に投げ出された今のマリアに、回避の手段など存在しない。迫る斬撃、視界が紫色に染まっていく中、マリアは思わず目を閉じて、

 

 

 

「……?」

 

 

 

 何も、ない。

 恐る恐る目を開けたマリアが見たのは、無情にも自分を両断するはずの斬撃が彼方へと消えていく光景だった。

 薄皮一枚掠っただけ。マリアはほぼ無傷のまま、重力に従って地面に墜落した。

 

 

 

「どうして……攻撃を」

 

 

 

 落下と反動の痛みに耐えながら、膝立ちの体勢まで身体を持ち上げる。

 荒い呼吸を繰り返すマリアだったが、彼女の脳内は目の前の男への疑問で埋め尽くされていた。

 

 マッドローグは鼻歌交じりにドライバーから二本のフルボトルを引き抜く。彼の身体が光に包まれたかと思えば、鎧が赤と紫、二色の粒子となって消失。

 見覚えのあるドクターウェルの姿に戻った。

 

 やがて彼はマリアの視線に気づくと、舞台役者よろしく大げさに肩を竦めて見せた。

 

 

 

「ンッン~。もう記憶をボッシュートしたのかいマリア? 僕の目的は錬金術師のデータ収集。お前の生死はどうでもいいのさ」

 

「言ってることが分からないッ……!」

 

「行間を読もうよォォ~。装者のお片付けはァ、首領の御意向に反するんだよッ!」

 

 

 

 にたにたと笑みを浮かべて、眼鏡のずれを直しながらウェルが嘯く。 

 その一挙手一投足が腹立たしいことこの上ないが、今のマリアに反撃の手立てはない。ただ膝をついたまま、こちらを見下ろす彼を睨み返すことしかできなかった。

 

 

 

「僕は首領の忠実な右腕……ついでにアガートラームのデータも収集するとは、なんてさりげない気遣いのできる英雄なんだッ」

 

 

 

 異形の腕でこちらを指さし、陶酔したように叫んでみせるウェル。狂気の中に身を置いても、自身への驕り高ぶりは欠片も衰えていないようだった。

 マリアは思わずため息を吐き、今後の行動を思考する。

 

 すでに錬金術師は撤退し、スマッシュも退けている。彼自身も変身を解除した以上、戦闘を続けるつもりもないのだろう。

 ならば、急ぎ発電所に向かわなければ。

 そう結論づけ、重い身体を引きずり動き出そうとした瞬間。

 

 突然笑いを止めたウェルが、地を這うような低い声で囁いた。

 

 

 

 

 

「そして何より……()()()が来たのでね」

 

 

 

 

 

 その言葉はどこか異様だった。

 顔を片手で覆いながらも、その隙間から覗く口角がこれ以上なく吊り上げさせていた。

 一体何が可笑しいのか。“お迎え”とは何のことか。

 

 その答えは、通信機越しに叫ぶ朔也の声によって示されることとなった。

 

 

 

〈マリアさんッ! スカイタワー上空に()()()()()()を検知! これは────!〉

 

「上空……? でも、空には何も……」

 

 

 

 何もない。そう否定しかけて、マリアは言葉を失った。

 

 ()()は、何だ?

 

 

 

「ウフフフ……」

 

 

 

 空が、蠢いている。

 

 何もないはずの空間にノイズが走ったかと思えば、太陽を遮り地上に影が落とされる。

 ウェルの笑い声が響く中、()()はとうとう空を覆い尽くした。

 

 

 

「この、サイズはッ……!?」

 

 

 

 ()()は、ただひたすらに大きかった。

 見上げる視界の端から端が、鈍色の岩肌によって埋め尽くされている。肉眼ではその先端すら霞んで見えず、降臨したその姿はもはや一つの“大陸”のようだ。

 

 だがこんなものが、どこに? 今この瞬間までその巨躯を隠し通していたというのか?

 駆け付けた慎次に支えられながら立ち上がるが、それどころではない。

 直後、司令室の報告が次々と重なる。

 

 

 

〈空中要塞だとォッ!?〉

 

〈計測結果出ました! 全長10km、主材質は岩石! 中心部の超高エネルギー反応、熱量計測不能ッ!〉

 

石造りの(・・・・)()()……。まさかッ!?〉

 

 

 

 空中要塞。岩石。全長10km。

 中心部。超高エネルギー。戦艦。

 

 舟。

 

 もたらされた断片的なキーワードが脳内を旋回し、やがて一つの結論に結び付く。

 

 

 

「まさか……()()()()()()ッ!?」

 

「フロンティアァ? 新天地など、そんなチンケな名前じゃありませェン」

 

 

 

 指を振り、舌を鳴らしながらウェルはマリアを否定する。

 戦慄に畏怖するマリアとは裏腹に、彼は今にも踊りだしそうなほどの高揚を見せていた。

 ()()を仰ぎ見開いた目で叫ぶ彼を前に、マリアは睨みつけることさえ忘れていた。

 

 

 

「天に聳えるあの威容!

 あれこそが、世界を救済に導く我らが聖域ッ! 僕という英雄を乗せた夢の方舟ェ!」

 

 

 

 石造りの戦艦がもたらす重圧の中、高らかに。

 その名が言い渡される。

 

 

 

「特別に許可しましょう、その名を口にすることを! 希望の方舟────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━【アーク・エルピス】とッ!!

 




次回「万象黙示のカノンが薫る」







〇アーク・エルピス
 ラスダンです。捏造設定全開の詳細は次回お送りする予定です。

〇マッドローグ
 七つ道具と言ってますがノリで書いただけなので残り六つが出るかは未定です。今回登場した自動迎撃は攻撃にも使われており、これを切ればウェルはただ硬いだけのサンドバッグと化します。


本当はエボルトと響を見逃したキャロルちゃんのシーンと、未来を励ます翼さんとクリスのシーンがありましたが尺の都合で消滅しました。
見逃した理由はワープを繰り返されると追跡が困難なためです(エルフナインがいないので状況が把握できない)
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