戦姫絶唱シンフォギア Evolution's Symphony 作:セグウェイノイズ
XV7話が衝撃的すぎてダウルダブラヘビロテしながら終盤のプロット全部書き直してました
『ようクリス。調子はどうだ?』
「あたしの名を気安く呼ぶんじゃねえ」
『そうだったそうだった。悪い悪い』
その場所はどこにあるのか。ただ分かるのはそれがどこかの森の中、ということだけだ。
周囲には小さな湖があり、のどかな雰囲気を感じさせる。
しかしその洋館のみ禍々しい雰囲気を纏っており、通りがかった人間を決して近づかせない。
そんな場所に軽々と踏みこんでいく人影が一つ。
彼——ブラッドスタークは洋館の扉を開け、偶然ロビーにいた小柄な銀髪の少女に挨拶をするが、邪険に扱われる。
それを気にも留めず、奥の巨大なリビングルームに足を運ぶ。
長大なテーブルで食事をするものはほとんどいない。
リビングルームの最奥、窓からの光も当たらないそこには多数の配線で繋がれたコンピューターの数々。
中央に置かれた椅子に腰掛けているのは、一糸纏わぬ女性。
スタークの来訪を感じ取ったらしく、手早く近くにあった衣服と白衣を羽織る。身を翻しスタークに近づくと、その腰まで届く髪が日光で黄金色に輝いた。
「……お前か、ブラッドスターク」
『元気そうで安心したよ、フィーネ』
テーブルの椅子を引き深く身を沈める。足を組み片手を上げるスタークを無感情に見つめながら、彼女、『フィーネ』は彼に近づく。
ブラッドスターク────地球外生命体『エボルト』にとって異性の裸などには何の興味も示さない。何の欲情も湧かない。
彼女と初めて対面した際にはさすがに面食らったが、それも”元の世界”において、フィーネのようなタイプの人物と相対したことは一度もなかったからだ。
初対面以降は服を着ているようだが。
少し遅れて銀髪の少女もリビングルームに入る。
前方にはフィーネが、後方には銀髪の少女が。逃げられないように挟み込まれた状況だ。それに対してスタークはどうとも思わないし、二人も捕らえた所で困るのはこちらの方だ、とは向こうも思っているはず。あくまで形だけの警戒、といった所だろうか。
それを分かっているからこうして椅子に深く腰掛けている訳だ。
「それで、今回は何の用かしら」
『理由がなきゃ、来ちゃあいけないのか?』
「……早く要件を伝えろ。こちらも暇ではないの」
『そう怒るなって。場を和ませようとしただけじゃねェか』
表情は変わらないが、口調にかすかな苛立ちを乗せてきた。
最近分かったことだが、この女は少々感情的になりすぎるきらいがある。かつてのクライアントであった難波重三郎よりは自分の意にそわない状況に対応できそうな気もするが、果たして。
『今日はアイツの様子を見に来ただけだ』
「……奴は今も地下施設でソロモンの杖の解析を行っているわ。引き取ってくれると助かるのだけど」
『奴をここに住まわせる代わりに俺はアレを渡し、お互いに協力要請があればそれに応じる。そういう契約だったはずだろ?』
「それでも、よ。時折何処かへ消えるのをどうにかしてくれないかしら」
これは予想できていた。スターク自身としては”奴”のような人間は見ていて面白みがあるが、フィーネのようなタイプからすれば不愉快極まりないはずだ。
それほど”奴”のことが気に障ったのか、無表情を通せずに微かに眉をひそめていた。
「なあ。アイツ何者なんだ? お前もアイツも妙な鎧着込みやがって、夜見づれえんだよ」
『それは企業秘密って奴だな、クリスちゃん』
「何度も言わせんじゃねえッ!」
「止めなさいクリス。貴女がこの男と言い合った所で時間の無駄になるだけよ」
この少女はフィーネよりも感情をむき出しにしている。
扱いは難しいが、使いこなせれば絶好の手駒になってくれるはずだ。現に彼女の名前を強調して言っただけで反応した。
それほど自分のことが気に食わないのか。
「大人」という存在を信用していないようだから、そこには細心の注意を払わなければならない。
しかし彼女から見れば明らかに大人であるはずのフィーネに対しては信頼を寄せているようだ。フィーネに窘められるとすぐに牙を引っ込め、部屋に戻るよう指示されてもそれに従った。
後は”奴”が行っている仕事の進捗を確かめて帰るだけだが、一つフィーネに伝えておきたいことがある。
「用が済んだらさっさと消えて頂戴」
『もう一つ。お前は甘く見ているようだが、"サム"には気をつけておいた方がいい』
「……なぜ? 今の段階で下劣なサム如きに警戒する道理は無いわ」
『今はな。まあ、俺としても契約相手に死なれちゃ困るんでね。ただの忠告と思ってくれ』
「忠告痛み入るわね。貴方に言われると戯言に聞こえてしまうけれど」
やはり聞き入れないらしい。
それだけ自分の信用がないということなのかもしれないが、それにしてもフィーネはアンクルサム──米国を少々侮りすぎてはいないかと、そう思わざるを得ない。
忠告はした。それを受けてどうするかは彼女次第だ。恐らく、今まで通り米国を騙し通すつもりなのだろうが。
『嫌われてるねェ。まあいい。せいぜい"カ・ディンギル"建立まで気をつけてくれよ』
「ッ……!」
分かりやすい女だ。
すでに彼女の計画が変更せざるを得ないことになっているのは承知している。ならば、揺さぶりをかけるのは早い方がいい。
思えば最初に彼女と会ったときにも契約成立の決め手となったのは「カ・ディンギル」という単語だった。知らないとでも思っていたのだろうか。その後はこちらを警戒するような態度を隠そうともしていない。
得体の知れない相手が計画の要となるキーワードを知っていたのだから無理のないことかもしれないが。
早く帰れとでも言いたげな瞳でこちらを睨んできたので、リビングルームの扉を開けながら、
『アイツの様子を見てからな』
この後は地下に行って”奴”の様子を見るつもりだったが、途中でやめた。さすがにあの態度でも、まだ二課の前に姿を現すほど状況が見えていないはずはないと思っているからだ。
地下への階段を下る直前、そう思い直し素直にロビーへ戻る。
二階への階段から銀髪の少女がこちらを覗き見ていることは分かっていた。少し驚かせてやろうと振り返らずに手をひらひらと振ると舌打ちが聞こえてきた。
見ていて飽きない連中だ。どちらも憐れに思うほど素直な反応をしてくれる。
「……なあフィーネ。なんであんな奴らと手なんて組んだんだよ?」
ブラッドスタークが去ったのを確認した後、椅子に腰かけて息をついていたフィーネ。
数秒後降りてきたクリスが訊いてきたが、心からその通りだと思う。
本当は彼のような人間とは決して関わらない彼女であるが、彼と協力関係を結ばざるを得ない状況だったのが心底恨めしい。
なぜ奴が”アレ”を所持していたのか、聞き出すのにも一筋縄ではいかない。
目を伏せ、無感情を装いながら、
「あの蛇が、私達の悲願に不可欠な物を持っていたからよ。それ以外の理由など無いわ」
そう嘯いた。
櫻井了子と名乗った女性にメディカルチェックを受けさせられて、その日は帰らされた。
未来が待つ寮に戻って来たのは午後11時を過ぎていて、部屋に入る直前、放課後未来に「CDを買って来る」と言って別れたことを思いだした。
どう考えてもCDを買って帰ってくる時間ではないが、そんなことを気にしていられる余裕もない。
ただ単に疲れた。
部屋に入ると未来が出迎えてくれた。口調から察するに、響を本気で心配してくれていたらしい。
了子から返された鞄を床に置くと倒れるようにソファに身を投げ出し、眠りにつく……直前、未来に「お風呂に入ってから!」と言われ半ば強引に脱衣所に連れていかれた。
汗を流した後はすぐいつものように一緒にベッドで就寝。
翌日、リディアンの授業が全て終わり、ホームルームも終了した頃。
まだ昨日の疲れが取れていない。体が重い気がする。
机に突っ伏していると、未来と共に創世、詩織、弓美の三人がやってきた。
「ねえビッキー、これからふらわーに行ってみない?」
「ふらわー?」
初めて聞く名前だ。
まだこの街に住み始めて間もない響。昨日少女と逃げている時に使おうとしたT字路を知っていたのも偶然によるものだったので、その他に何があるかよく分かっていない。
そんな響の疑問を感じ取ったのか、詩織がふらわーの情報を付け加えてくれた。
「駅前にあるお好み焼き屋さんです。おいしいと評判ですよ」
とても魅力的な提案だった。
しかし、今日はすでに先約が入ってしまっている。それも、今から断れないような。
「ごめん、今日は別の用事が入ってるんだ」
「また呼び出し? ホント、アニメみたいな生き様してるわねー」
「アハハ……」
「仕方ない、じゃあまた今度誘うね」
「それでは」
三人とも、響の「別の用事」といえば先生からの呼び出しと考えているらしい。やはり自分は呪われているかもしれない。
確かに今日も授業中に居眠りをしてしまい、呼び出しを食らうところだった。なんとか頼み込んで呼び出しは明日にしてもらったが、先生の温情がなければ危ないところだった。
なにせ今日はメディカルチェックの結果を知るために再び地下に潜らなければならないからだ。
それに、二課にまでの案内役はあの翼が担当してくれるという。憧れの人と会うのに「呼び出されて怒られていました」などと言えるはずがない。
……まあ、確かに呼び出しと言われれば呼び出しなのだが。
粗相のないように身だしなみを整えていると、突然響の周りだけが暗くなる。人影だ。
振り向くと立っていたのは当の風鳴翼であった。
翼とは衝撃的な出会いしかしていない気がする。
「重要参考人として、再度本部まで同行してもらいます」
こちらを一切見ずに、淡々と伝える翼。
思えばこの二日間で三度会っているが、翼は食堂での出会い以外で響と顔を合わせようとしていない。
ただの気のせいだろうか。
また手錠をかけられた。やはりいい気分はしない。
エレベーターに乗るとすぐに急降下を始める。ジェットコースターの浮遊感は嫌いではないが、やはりこのエレベーターの浮遊感は慣れるものではない。
二課本部に到着すると、昨日とは別の道を辿り突き当たりにある自動ドアを開ける。
部屋に入りまず目に付いたのは、前方の壁一面に広がった巨大なモニター。昨日響を歓迎するのに使われた多目的ルームの3倍はあろうかというその部屋。
了子と共に出迎えてくれた赤髪の大男、風鳴弦十郎に尋ねるとここは二課本部の司令室らしい。
道理で大きい訳だ。
「それでは! メディカルチェックの結果発表〜!」
指揮棒を持った了子が司令室端の休憩室のような場所に先導する。
壁に取り付けられているホワイトボードには響の顔写真と折れ線グラフのようなものがいくつか投影されていた。
彼女からは「疲労は残っているがそれ以外に異常はほぼ見られなかった」と伝えられた。
その"ほぼ"というのに響はそこはかとない不安を覚えるが、それよりも聞きたいことがある。
「まあそうよね。アナタが訊きたいのはこんな事じゃないわよね」
「教えてください! あの力は一体なんなんですか!?」
やはりメディカルチェックの結果が本命ではなかった。了子も弦十郎もそれは織り込み済みのようで、弦十郎が後ろの壁に背中を預けていた翼に目配せすると、ジャケットの中に入れていたピンクのペンダントを取り出し響に見せた。
それから数分、翼の持っているペンダントはアメノハバキリという刀の欠片だということ、トクテイシンプクノハドウ、歌の力で昨日の鎧を纏うことなどを解説された。
思えば、昨日も胸の内より浮かび上がってくる何か、意味の分からない歌を突き動かされるように口ずさんだことで鎧を纏っていた。
「だからとてッ! 誰の歌、どんな歌にも、聖遺物を起動させられるだけの力が備わっている訳ではないッ!」
了子がよくわからないことを解説し、弦十郎が《適合者》という単語について説明し出したとき。
突然翼が叫んだ。どこか悲痛な響きを見せたその言葉、周囲を沈黙させるのには十分だった。
弦十郎も了子も、周りに居たオペレーターたちも全員目を伏せている。今の叫びの意味をよく分かっていないのは自分のみのようだ。
しかしその沈黙も数秒、場の空気を変えようと思ったのか、了子が先ほどまでより明るい口調で今までの解説で質問したいことがないか聞いてきた。
それなら言いたい事がある。元気よく手を上げると了子もそれに乗った。
「あの!」
「はァい響ちゃん!」
「全然分かりません!」
歌の力が関係することしか分からなかった。
「……いきなりは難しすぎちゃいましたね。
だとしたら、聖遺物からシンフォギアを作り出せることができる唯一の技術、櫻井理論の提唱者がこの私であることだ・け・は! 覚えてちょうだいね?」
めげずにウィンクで返してくる了子。
しかしまだ疑問は残る。響は翼のようなペンダントを持っていない。だというのになぜシンフォギアを纏うことができたのか。
それを尋ねると、再び指揮棒のスイッチを押しホワイトボードにメディカルチェックの結果とは別の画像を投影した。
レントゲン写真だ。心臓の辺りに何かの影が無数に映っているのが見て取れた。
この写真は過去何百回も見た画像と酷似している。
これがなんなのか分かるはず、という弦十郎の言葉にうなずき、二年前のライブ会場の事を話した。
「調査の結果、この影はかつて奏ちゃんが身に纏っていた第三号聖遺物、ガングニールの砕けた破片であることが判明しました。
……奏ちゃんの置き土産ね」
端の方で音が聞こえた。
横を向くと、翼がよろよろと部屋を退出していくのが見えた。
それを見送りながら響は考える。
響に宿ったこの力、シンフォギア。何よりも気になるのは、このことを未来に話してはいけないのか、ということだ。
昨日の夜も少女の母親が二課の職員に機密の保護だとかなんとか言っていた。今日の昼休みに弓美もスパイ系のアニメを見たのか似たようなことを言っていた。
他人に話してもこっぴどく叱られる程度なら未来に話しても……。とそれを尋ねると、弦十郎から返って来たのは予想を遥かに超えた返答だった。
もし響の力が響の知らない何者か、第三者に知られた場合、家族、友人、周りの人間に危害が及びかねないという。
命に関わるかもしれない、とそう返って来た。
「命に関わる……!?」
「俺達が護りたいのは機密などではない。人の命だ。そのためにもこの力のことは隠し通してもらえないだろうか」
「あなたに秘められた力が、それほど大きなものだということを分かってほしいの」
未来の命は絶対に守らなければならない。大切な親友、陽だまりだからだ。それにこの学院で知り合った新たな友達。
その命を脅かすほどの力だというのか。
「……人類はノイズに打ち勝てない。人の身でノイズに触れることは、即ち炭となって崩れることを意味する。そしてまた、ダメージを与えることは不可能だ。
たった一つの例外があるとすれば、それは────シンフォギアを身に纏った装者のみ」
その通りだ。人間がノイズに触れれば炭化する、常識だ。
例外は昨日の出来事の通り、シンフォギアという鎧。それを纏っていればノイズに触れても一方的に倒すことができるらしい。
「日本政府特異災害対策機動部二課として、改めて協力を要請したい。
立花響くん。君が宿したシンフォギアの力を、対ノイズ戦のために役立ててはもらえないだろうか」
「……わたしの力で、誰かを助けられるんですよね?」
力強く頷く弦十郎。
不安はある。恐怖はある。しかし、響の趣味の「人助け」────人々を、友達を、陽だまりを護るためなら。
「分かりましたッ!」
突如警報が鳴り響いた。
退出していた翼も司令室に駆け込み、状況を確認する。
「ノイズの発生を確認!」
「本件は我々が受け持つ事を一課に通達!」
「出現地特定! 座標出ます! リディアンより距離200!」
「かなり近いな……」
「迎え撃ちます」
目まぐるしく職員たちの声が飛び交う。流れるように対応する弦十郎たちを見て、分かるのはリディアンのすぐそばでノイズが発生したということだけだ。
翼は即座に出撃を選択。弦十郎はあおいに最短距離のガイドを指示し、避難誘導の伝達を始める。
響も翼の後を追い出撃しようとすると、すぐに弦十郎に引き留められた。
まだ戦い方も知らない響は出せない、ということなのだろう。だが。
「わたしの力が誰かの助けになるんですよね!? シンフォギアの力がないと、ノイズと戦うことはできないんですよね!?
だったら行きますッ!」
制止を振り切り現場へ駆け出す響。翼はバイクで向かったらしいが、響はバイクを持っていない。しかしここから200メートルの距離ということは走ってもすぐにたどり着くはずだ。
戦闘自体はすぐに終了した。
響が到着したころには残るノイズは大型一体となっており、響なりにノイズの殲滅を手助けしたつもりだ。
蒼ノ一閃を放ち、ノイズは爆発、炭へと還る。
地面に着地した翼に駆け寄る。これから共に戦うこととなった相手だ。挨拶はきちんとやっておかなければならない、そう思っての行動だった。
そして、ここから改めて関係を始めていければいい、と。
「わたし、今は足手まといかもしれないけれど、一生懸命頑張ります! だから、私といっしょに戦ってください!」
「────そうね。貴女と私、戦いましょうか」
────相手が、刀の切っ先をこちらに向けてくるまでは。
今翼は何と言ったのか。
「へっ?」
「何をやってるんだあいつ等はッ!?」
「青春真っ盛りって感じね」
「ったく……」
翼の突然の行動に驚いたのは響だけではない。
特異災害対策機動部二課の職員全ても同じ反応を示していた。
仕方なく弦十郎がエレベーターに乗り込む。どこへ行くのか尋ねられ、
「誰かがあの馬鹿共を止めなきゃならんだろうよ!」
弦十郎の出撃。辺りにノイズはいない。
即ち、戦闘の終了である。
「そういう意味じゃありません! わたしはただ翼さんと力を合わせて……」
「分かっているわそんな事」
「だったらどうして!?」
「私が貴女と戦いたいからよ。私は貴女を受け入れられない。力を合わせ共に戦う事など、風鳴翼が許せる筈がない」
突然刃の切っ先を向けられたからか、あからさまに慌てる響。
よく分かっていないようだ。
理由はもう口にした。彼女がガングニールのシンフォギアを纏うということは、奏の意思を受け継がなければならないということ。
しかし彼女はどうだ、剣を突き付けられている今でも隙を隠そうともせず、アームドギアも構えずにのこのこと戦場に立っている。
こんな人物にガングニールを纏ってほしい訳がない。
「アームドギアを構えなさい。それは、常在戦場の意思の体現。
貴女が何物をも貫き通す無双の一振り、”ガングニール”のシンフォギアを纏うのであれば、胸の覚悟を構えてご覧なさいッ!」
「覚悟とか、そんな……わたし、アームドギアとか分かりません。分かってないのに構えろだなんて、それこそ全然分かりません!」
そう言ってきた。
なるほど、よく分かった。彼女とはどうあっても相容れられない。
ならば、ここで彼女の戦う意思を折る他道はない。
後ろを向き、距離を取る。
諦めてくれたとでも思っているのだろう、息をつく音がここからでも聞こえてきた。
戦場ではその一瞬の油断が命取りだというのに。
「覚悟を持たずに、のこのこと遊び半分で戦場に立つ貴女が奏の────」
刀を上空へと投擲し。
「────奏の何を受け継いでいるというのッ!!」
投げた刀を追い抜かんという勢いで跳躍。追い抜いた瞬間、刀が唸りを上げながら巨大化。蒼ノ一閃を放つ際よりもさらに二回り、三回りと大きな諸刃と化したアームドギア。
柄のない諸刃の鍔に当たる部分からは六基のバーニアが点火、その中央を脚部スラスターのバーニアを点火させ、勢いをつけて蹴り込む。
合計八基のバーニアの推進力により、凄まじい速度で加速していく諸刃での一撃、『天ノ逆鱗』。
逆鱗に触れ、龍が天から落ちてきたかのようなその一撃、今の翼の心情を物語るには十分だった。
呆けている響は目と鼻の先にある。シンフォギアを纏っているのであればこの一撃を受けても死ぬことはない。
そして────。
「フンッ!!」
突如響と翼の間に割って入った赤い影が天ノ逆鱗を拳一発で霧散、余剰な力を発勁でかき消し。
【スチームブレイク!
紫のコウモリを模したエネルギー弾が、弦十郎の登場で茫然としていた翼を吹き飛ばした。
「あーあ、こんなにしちまって。この靴、高かったんだぞ?」
「ご、ごめんなさい……?」
超展開の連続で響の頭は状況を理解していない。
繰り出された翼の攻撃を、生身の人間が拳圧のみで吹き飛ばした。意味が分からない。
それに地面に流した衝撃で辺り一帯のコンクリートが吹き飛び、そこを通っていた水道管が破裂し雨のように降り注ぐ。
「一体何本の映画が借りられると思ってるんだ? ……さて」
少し残念そうに上半分が破れた靴を見ながら、そこを睨む。
それにつられて響も同じ方向を眺めると。
何かがいた。
「翼を不意打ちで吹っ飛ばしたのはお前だな? ……お前の所属、目的は? 外見からブラッドスタークの仲間、といった所か」
闇に紛れてよく見えないが、次第に慣れてきた。
確かにそこには人型の何かが。
一瞬、昨日遭遇したブラッドスタークか、と錯覚したが、そうではない。
まずスーツとアーマーの色が黒と銀だ。
スタークであればコブラがあしらわれていた青緑色であったクリアゴーグルとチェストアーマーの意匠は、コウモリだろうか。
色も黄色だ。
流線的な印象を与えていたスタークとは違い、どこか鋭角的な外見を持つその黒い影……コウモリ男。
弦十郎の問いかけに対し、コウモリ男はゴーグルの中央を中指でなぞり、眼鏡のズレを直すような仕草をした後、異常にくぐもり、エコーがかかった声で高らかに言い放った。
『私のコードネームは《ナイトローグ》────』
『やがて英雄となる者ッ! とでも! 言っておきましょうッッッ!!!!』
この小説では「剣」は「つるぎ」、「戦場」は「いくさば」と読んでください
アドリブで「それは常在戦場の意思の体現。何物をも貫き通す無双の一振り…」とか言える翼さんの防人感がすごい
防人語録はめんどくさい頃が一番輝いてましたね