戦姫絶唱シンフォギア Evolution's Symphony 作:セグウェイノイズ
今回は「絶刀・天羽々斬」の歌演出しましたけど出来は微妙です
そういえば天羽々斬の「羽々」って大蛇の事らしいですね
あっ……ふーん(察し)
黄昏の森、とある洋館。
フィーネと銀髪の少女以外誰も立ちよらないその洋館に、珍しく客人がいる。
ブラッドスタークとナイトローグだ。
ナイトローグは普段洋館の地下に籠もらせているのだが、つい先日ローグに「お仕置き」と称して手持ちのフルボトルの全てを取り上げた。
珍しくフィーネから招集がかかったため、こうして赴いた訳だが。
『わざわざお前から俺を呼びつけるなんて、一体どういう風の吹き回しだ?』
「クリスには融合症例第一号の回収を命じている。貴方にはその助勢をして貰うわ」
今回もフィーネはちゃんとした服を着ている。
銀髪の少女はすでにネフシュタンの鎧を纏って出撃したようだ。フィーネの口ぶりからすると、彼女にはあまり期待を寄せていない、ということだろうか。
初対面のときから勘付いてはいたが、それに気づいていないのは銀髪の少女だけだろう。
フィーネは米国に「ソロモンの杖の起動にてこずっている」と言い訳をしているが、それも向こうには嘘だとバレているとスタークは知っている。
嘲笑を表に出さず、気安く了承する。
『クライアントからの依頼だ。そいつは構わねェが……俺としても、立花響に試したいことがある。
掻っ攫うのはその後でも問題ないだろ?』
しっかりと自分の意向を主張して、だ。
やはりフィーネはどこか、自分以外の人間を軽く見ているきらいがある。だからつけ入る隙がある。
「……今私が拒否しても聞かないでしょう」
『よく分かってるじゃないか。より良い信頼関係を築くには、まずお互いの事を知るのが大事だからな。俺の事を分かって貰えたようで嬉しい限りだよ』
大きなため息。分かりやすい反応だ。
「無駄口を叩いている暇があるのなら疾く向かいなさい」
『はいはい』
以前までローグに持たせていた『テレビフルボトル』を使い、ノイズ発生現場周辺の防犯カメラの映像を覗き見る。
リディアンの近くの広場のようだ。ちょうど銀髪の少女が二人と接触している。
間もなくネフシュタンの所在を知った弦十郎たちもやってくるはず、それより前にやることを済ませておきたい。
フィーネですらここの会話は聞く事のできない地下室に入り、
『さて……ローグ。次は命令に背くような事はしてくれるなよ』
『英雄とは何物にも縛られないもの。貴方と契約を結んでいるのも、偶然私の目的の一部と合致しただけの事。
全てを聞く訳ではないというのを、そちらこそ覚えていてもらいたいものですねェ。
『お前こそ、そのトランスチームガンとロストボトルは、プレラーティが俺の物を複製しただけのものだという事を忘れてもらっちゃあ困る。
俺が一つ信号を出せば、お前の使うトランスチームシステムは全て消滅する事になってるからなァ』
ローグに引き続き研究室に籠もるよう指示した後、青緑色のコブラを召喚、現場へ向かう。
「ネフシュタンの、鎧ッ……!?」
「へぇ……てことはお前、この鎧の出自を知ってんだ?」
「二年前、私の不始末で奪われたものを忘れるものか。なにより……。
私の不手際で奪われた命を忘れるものかッ!」
月が大きく見える夜。今その月は、立ち込めた暗雲でかき消えようとしていた。
目の前には、突如現れたネフシュタンの鎧を纏った少女が。
自らの後ろには、奏が遺したガングニールのシンフォギアを纏った少女が。
二年前、奏を失った事件の原因と、一か月前に遭遇したガングニールのシンフォギア装者。その二つが時を経て、再び翼の前に現れるという巡り合わせ。
なんたる残酷なのか。
────だがこの残酷は、私にとって心地いいッ!
「やめてください翼さん! 相手は人です! 同じ人間です!」
「「
後ろで響がそんなことを言ってきた。
馬鹿馬鹿しい。一度その戦場に立った以上、勝つか負けるかしかない。
人々を防人るという使命があるシンフォギア装者ならば、立ち止まってはならないというのに。
そう言った点で言えば、突如現れた銀髪の少女との方が気が楽で済むかもしれない。
「寧ろ、貴女と気が合いそうね」
「だったら仲良くじゃれあうかい!?」
言葉と共に装備している茨の鞭を伸ばし、翼に向かって振り下ろしてくる。
流石は完全聖遺物というべきか、凄まじい速度で迫ってくる。恐らくアレに当たれば痛い程度では済まないだろう。
足に力を込め、全力で跳躍。
シンフォギアを纏うことで飛躍的に強化された跳躍力もあって、一秒とかからず20メートルほどの高さにまで到着した。
地面を一瞥すると、数瞬前まで翼が立っていたところから一直線、数十メートルに抉れている。
やはり回避という選択は正しかった。
攻撃跡の近くで響が地面に尻餅をついてこちらを見上げている。命に関わるような負傷はないようだ。
続いて銀髪の少女を見る。
未だ鞭を回収しきれていないようだ。
もう片方の鞭こそ構えているが、今ならこちらから攻めることも可能かもしれない。
そうと決まれば話は早い。
自らが奏を失ったように、この世の中に永遠に同じであり続けられるようなものは存在しない。
ならば今すべきは、目と鼻の先にある青銅の蛇を、奏を失った原因となった完全聖遺物を取り戻すために全霊にて彼女を葬ること。
この胸中の戸惑いを断ち斬る術など、翼にはその覚悟を牙として銀髪の少女に向けることしか知らないのだから。
青い斬撃が少女に直撃、否。
即座に左手に持っていたもう一つの鞭を薙ぎ、斬撃を弾き飛ばした。
この攻撃が有効打を得られないのは承知の上だった。
しかし、こうも簡単に弾かれるものなのか。
一人で戦うことになってからというもの、慎次にいくつか忍術を学び独学でも剣術や技の種類を特訓にて物としたつもりだった。
それでも完全聖遺物には届かない。
動揺を押し殺し、急降下。
時に大剣で、時に脚部ブレードで彼女を切り裂かんとするも全て最小限の動きで避けられてしまう。
そして、ついにその剣筋が彼女を捉えた。
即瞬にて大剣を袈裟懸けに振り抜く。
「ッ!?」
火花が散る。
刀身が、茨の鞭の節に食い込み、絡みとられていた。
このままでは少女の思う壺だ。
回収が完了していたもう片方の鞭を振るう少女。
しかし動作がやけに大振りだ。
その程度の攻撃など簡単に屈むことで回避する。
それこそが、銀髪の少女の狙いだった。
腹部────水月に鋭い痛みが。
体がくの字に曲がる。
腹部を見なくとも彼女の脚が突き刺さっているのが分かった。
鞭は陽動、この蹴りこそが本命だったのだ。
届かない。
まだ届かない。
常時100%の力を誇る完全聖遺物のポテンシャル、低く見ていたつもりはなかった。
だが、これほどまでとは。
「ネフシュタンの力だなんて思わないでくれよなぁ?
あたしのてっぺんはまだまだこんなもんじゃねえぞォッ!」
距離を離されてしまった。
追撃とばかりに鞭が何度も翼を狙い叩きつけられるも、一瞬早く体勢を立て直した。
樹木を盾とし追撃をいなしていく翼。今はまだ攻撃を全て避けることができているが、このままではいずれ追いつかれる。
この状態では蒼ノ一閃や天ノ逆鱗などの大技も放つことができない。
「翼さん!」
鞭を避け続ける翼の身を案じてか、横から響の声が聞こえる。
馬鹿な事を……! と独りごつ。
当然、目立つことをした響を銀髪の少女が見逃すはずもなかった。
「お呼びじゃあないんだよ! こいつ等でも相手してな」
少女が取り出したのはネフシュタンの鎧と似た色をした、杖のようなものだった。
それが響に向けられる。
その杖に響は心当たりがない様子で首を傾げている。
当然だ、響よりも長く戦っている翼でさえ見たことのないものなのだから。
杖の中央にはめ込まれた緑色の宝玉から光が放たれた。
光は背を向けて直撃を逃れようとする響の目前で、響を囲うように四つに分裂した。
地面に着弾するとどうじにたちまち形を変え、響の周りを眩い光が包む。
光が晴れると。
「ノイズッ!?」
数メートルの全高を持つノイズが四体、そこに出現していた。
あの杖にはノイズを召喚する力があるというのか。ということは、あれがただの杖の訳がない。
間違いなく聖遺物、それも完全な形を保った
くちばしだろうか、ノイズの頭部のような部分から光が飛び出す。翼がノイズを斬ろうにも、おそらく間に合わない。囲まれて回避することができない響はノイズにとって格好の的だった。
光が響に直撃した瞬間、光は薄黄色の粘性を持った液体のようなものに変化。両腕、両脚を絡め取られ、響は身動きがとれない。
遠方にいる翼が見ても、拘束されていると分かった。
しかし、それ以降何をするでもなく四体のノイズは沈黙を続けている。しばらくは響が殺される、といったこともないだろう。
少女は響を見ている。今が好機だ。
「その子に
大剣を振り下ろす。やはり防がれてしまう。
しかし狙いは斬撃ではない。
悟られないように腕に力を込め、下半身への注意を散漫にさせる。
一瞬の隙を見逃さず、素早く少女の足をかけ体勢を崩させる。
狙い通り、一歩後ろに後ずさった少女の首目がけて高速の蹴撃。
一撃目。
かわされるも、鞭を伸ばしての反撃を未然に防ぐ。
二撃目。
脚部ブレードは吸い込まれるように、まっすぐに少女の首に迫り────。
「お高くとまるなッ!」
鞭から手を放し、翼の脚を受け止める。
次の瞬間、翼の身体は宙に浮いていた。
銀髪の少女は片手で翼を投げ飛ばす。ボールを投げるかのような軽やかな動き、それに加えて完全聖遺物の凄まじいパワー。
またも距離を離されてしまった。
急ぎ体勢を立て直し、再び機を狙おうとするも。
頭になにかが乗せられる。
その正体────少女の足。
それに気付いたと同時に力が込められ、翼の頭は踏みつけられた。
「のぼせ上がるな人気者! 誰も彼もがかまってくれると思うんじゃねえッ!
この場の主役と勘違いしてるなら教えてやるよ。あたしの狙いは
親指で未だ拘束されている響を指差す。
なぜ響が狙われているのか、それは分からない。
翼は気安く「奏の代わりになる」などとほざいた響を、どうあっても受け入れられない。
それでも人類守護の剣として、防人として。
決して彼女を死なせる訳にはいかない。
「鎧も仲間も、アンタにゃ過ぎてんじゃないのか?」
「……繰り返すものかと、私は誓った!」
それも翼が強く、強く、強く在れば一刀のもとに両断出来たのだろうか。
それを確かめるべくもないが、彼女の鎧を取り戻すまでは。
人々をノイズの脅威から守護するまでは。
涙など
あの悲劇を繰り返さないために、今ここで決着をつける。
踏みつけられているのは頭だ、四肢は動く。
下にいる翼を見ている銀髪の少女。戦闘力ではこちらの方が上、と高をくくっている。
刀を掲げる。
すぐにそれは落ちてきた。
範囲を狭めての千ノ落涙が降り注ぐ。
やはり直前で気付かれ、鞭を旋回させて光の剣を防いでいる。
少女の足下への意識が緩んだ。
即座に反応し、くぐり抜けるように千ノ落涙の範囲から離脱する。
翼の危機だというのに、身動きが取れない。
ノイズの吐き出した液体は非常に粘性が強く、動こうとしてもすぐに絡みとられてしまった。
こんなとき、翼の刀や奏の槍、銀髪の少女が使っている鞭といった武装、アームドギアがあれば、このような拘束など容易く断ち切れるはずなのに。
「……そうだ、アームドギア! 奏さんの代わりになるには、アームドギアが必要なんだ!
それさえあればッ……出ろ、出てこいアームドギア!」
アームドギアの発現、その可能性に賭け腕に力を込める。
頭の中に槍をイメージする。
そもそもアームドギアの発現方法が全く分からない響にとってはただ必死に念じることしかできなかった。
それでも、アームドギアが現れる気配は一向に訪れない。
奏と同じガングニールのシンフォギアを纏っているというのなら、響にだって槍が発現するはずだ。
だというのに、なぜ。
【スチームアタック! フルボトル! 消防車!】
電子音声の後、背後に熱を感じる。
響を拘束していたノイズを見ると、瞬く間に炎上、炭となって崩壊した。
翼や銀髪の少女は未だ戦っている。となれば、こんな芸当ができるのは限られてくる。
『よう響。全く、何捕まってやがんだよ。俺の楽しみが減っちまうだろ?』
「スタークさん!」
やはり、ノイズを倒したのはブラッドスタークだった。
ナイトローグのことはよく分からないので今まで忘れてしまっていたが。
思わぬ遭遇に面食らうも、スタークが助けに来たという事実にただ喜ぶ響。
感謝の言葉を紡ごうと、口を開いた瞬間、
『今日はお前に用があってなァ。今のお前の実力を測ってやるよ』
「えっ? どういう……」
【スチームブレード!】
自然な動作で響に向かって短剣を振り下ろしてきた。
なんとか両腕を体の前で交差させる。
甲高い音。偶然刃が腕の鎧に当たったことで攻撃の威力は減衰されたようだった。
衝撃は伝わって来たが、なんとか防御は成功したといえるだろう。
しかし、それ以上の衝撃が響を襲っていた。
「ちょっと待ってください! どうしてスタークさんがわたしを!?」
『クライアントからの依頼だ。依頼だとお前を掻っ攫わなきゃならないんだが……俺の目的は少し違ってね』
「も、目的?」
『そいつを達成するにはお前達の成長が不可欠なんだよ。覚醒からひと月たった今、どれだけ成長しているのか確かめたくなったのさ』
「お前達」という言葉から、成長を期待しているのは響だけではないらしい。翼、さらに銀髪の少女の成長も彼のいう「目的」に入っているのだろうか。
当たり前のように響に銃口を突き付けてくるスターク。
しかし、響にはスタークと戦う理由はない。
「でも……」
『どうした? 来ないなら俺から行くぞッ!』
這い寄る蛇のように地面を滑り響に接近してくるスターク、すでに右手に持つトランスチームガンの銃口は響を捉えている。
身を屈め、その場から転がり出るように離れ、体勢を立て直そうとするも。
後ろの何かにぶつかる。
ここは森林に繋がっている広場の端とはいえ、まだそこまで追い込まれてはいないはずだ。
なのにどうして……。
その思考は、背中に感じた熱さで中断された。
「ああっ!?」
『おいおい、しっかりしてくれよ。お前はこんなもんじゃないだろ?』
幸いというべきか、シンフォギアを纏っている今だからこの攻撃にも耐えられたのだろう。
しかし、痛いものは痛い。
右肩から左腰にかけて一直線に、焼けるような熱さを感じる。
スタークは痛みに耐える響に対しても普段と変わらない調子で話しかけ、頭に手を置く。
『そうだな。気長に鍛えていくつもりだが……多少手助けしてやってもいいか』
「手助け……!?」
顔を上げると。
『あいつらが成功したんだ、大丈夫だとは思うが……。
期待を裏切ってくれるなよ?』
スチームブレードの切っ先が、目と鼻の先に置かれていた。
【デビルスチーム!】
女性の悲鳴のような音声の後、スチームブレードの先端から煙が噴き出る。
攻撃してくるかと思っていたので意表を突かれ、避けるのが間に合わなかった。
今までスタークは煙を逃走用に使っていた。その煙に似ているならば、この煙はただの目くらましで殺傷能力はないはずだ。
そう、思っていた。
煙を吸い込んでしまう。
一瞬の違和感。
そして、それはすぐに。
「あれ……」
脱力感へと変わる。
身体が上手く動かない。
膝立ちすら保てなくなり、その場に倒れた。
「今、なにを……?」
〈ガングニール、バイタル急激に低下!〉
〈響ちゃん聞こえるッ!?〉
「聞こえてますけど、急に力が……」
通信機越しの朔也たちの声は明瞭に聞き取れる。
意識もはっきりしているし、舌も回る。返答も正確にできていたと思うが、力が入らない。
当のスタークは両手を広げ、高らかに叫んでいた。
『ブラボーッ!! 成功だッ! やはり適合係数がレベルに関係してるのか?
全員スマッシュにならなかったな。だがあいつらはLiNKERを……』
途中から小声になり、何やら考え込んでいる様子だ。
しばらくその姿を見つめているとその視線に気付き、急に優し気な、愉し気な声で耳元で囁く。
『安心しろ。しばらくは脱力感に襲われるだろうが、長くて半日ってところだ。
明日の昼には全快してるはずだから、休養に勤しんでくれ』
先程スタークは「響を連れ去る依頼を受けた」と口にしていた。
しかし、明日の昼まで休養に勤しめと言うとは、彼には響を連れ去るつもりがないのだろうか。
と、機嫌もよさげにトランスチームガンをくるくると回しているスタークを見上げることしか出来ない響だったが、いきなりどこかから怒号が飛んできた。
「おいスタークッ! 何しに来やがった!」
『クライアントからの依頼だよ。響を連れてこいって命令されてな』
「手助けなんていらねえんだよ……ってお前! なんだってソイツの拘束を解いてやがる!?」
『初めて会った時にも言っただろ? 俺には俺のやり方ってのがあるんだよ』
翼と競り合っていたはずの銀髪の少女が近づきスタークと口論を始める。
口論といっても、スタークが銀髪の少女の怒声を聞き流しているだけのようだが。
それどころかやれやれとでも言いたげに肩をすくめ、少女を煽るような素振りまで見せた。
「だったらあたしにもあたしのやり方ってモンがある。
先にソイツを捕らえてたのはあたしだ! 邪魔すんじゃ……」
「私を忘れるなと言ったはずだッ!」
少女の真横へ飛んできたのは青い斬撃。
「チッ……お前も邪魔すんじゃねえよ!」
鞭を振り回し蒼ノ一閃を吹き飛ばす。
爆発に乗じて大剣を携え突進してきた翼の一太刀を銀髪の少女は鞭で迎え撃つ。
一合。
二合。
幾度となく打ち合う鞭と刀。
次第に自らの方に分があると勘づき、先ほどまでのスタークに対する怒りは消え失せた。
むしろ歓喜さえ覚えたその剛撃は、翼を焦らせるのには十分だった。
「鎧に振り回されている訳ではない、この強さは本物ッ……!?」
鍔迫り合いで翼に競り勝った少女。
翼は大きく後ろに跳びのき、着地と同時に大腿部の鎧から数本のなにかを取り出す。
暗雲が流れ、再び露わになった月光を反射する。
短剣……小太刀と言った方が正しいかもしれない。
それをけん制のためだろうか、素早く投擲してきた。
「ちょせえッ!」
無論、そんな小技では自らを怯ませることなどできない。
鞭で容易く小太刀を弾き飛ばし、それは空高く飛んでいく。
少女は跳躍、鞭を振り回す。
今度は翼に叩きつけるためではない。
下でこちらを見上げている翼の目が見開かれる。
視線は少女の顔より上。
少女の頭上には。
「コイツでも食ってなッ!!」
頭上には、白き閃光。
黒いスパークを奔らせた白い球体が、そこに鎮座していた。
鞭を振り下ろすと連動して、光球────《NIRVANA GEDON》も放たれる。
翼は大剣で光球を受け止め、防御を試みようとしているが、無駄なことだ。
ほんの数秒で光に呑まれていった。
やはり欠片では完全聖遺物には通用しないということだ。
周囲数メートルの地面を抉りながら大爆発を起こす。
「ハッ、まるで出来損ない」
地面に伏せっている翼にかけた挑発、侮蔑の言葉。
殺しはしない。だが、向かってきた彼女を完膚なきまでに叩きのめし、再起不能にでもなってもらうつもりだった。
「……確かに、私は出来損ないだ」
「あ?」
だが翼の反応は、少女の予想とは異なるもの。
「この身を一振りの剣と鍛えてきたはずなのに、あの日、無様に生き残ってしまったッ……。
出来損ないの剣として恥を晒してきた」
刀を地面に突き刺し、立つのもやっとといった様子で、しかし揺るぎのない目で少女を見据える翼。
「だが、それも今日までの事。奪われたネフシュタンを取り戻すことで……。
この身の汚名を雪がせてもらうッ!」
顔は空を仰ぎ、視線のみ少女に向けられている。
図らずも少女を見下すような形になった。
それに多少の苛立ちを覚えるも、最早勝負は決したようなものだ。
彼女のギアをダメージで強制解除させ、響をフィーネのもとまで持って来れば任務は終了。
どういう訳かスタークの隣で倒れている響は、癪だが彼に任せ帰投するのだ。
もう一度NIRVANA GEDONを放つために距離を取ろうと足に力を込める。
「……?」
足が動かない。
それどころか——全身が棒になったかのように動かない。
いや、全力で動かそうとすれば辛うじてゆっくりと動くが。
だがこれは一体どういうことなのか。
いつの間にか翼の視線は少女の足元へと向けられていた。
それにつられるようにしてゆっくりと後ろの地面を見ると、
まさか攻撃以外の技も持っていたのか。
他人の影を縫い付けて動きを拘束する《影縫い》、本当に天羽々斬特有の技なのだろうか。
しかし、当の翼があの状態だ、まともに技など撃てるはずがない。
「月が覗いている内に、決着を着けましょう」
影縫いという名前の通り、恐らくあの技は影、つまり、光源がないと使えないということ。
ならば雲が月を再び覆うまでやり過ごせば、今度こそ終わりだ。
しかし翼に焦りは見えない。なにかこの状況を覆し得る手段でも持っているのか。
そこで。
銀髪の少女は、そこで一つの可能性に行き着いてしまう。
「……まさか、お前……。
シンフォギア最強の攻撃手段、絶唱。
それを食らえばいくら完全聖遺物を鎧っているといえど、ひとたまりもないかもしれない。
幸い全力で動かそうとすれば動かせる程度の拘束だ、急ぎ影を縫い付けている小太刀を払えばそれで終わる。
翼は地面から引き抜いた刀を響とスタークの方へ向け、
「防人の生き様、覚悟を見せてあげる! その胸に刻み込みなさいッ!」
その叫びから、間違いなくそのつもりであろう。
刀を上に掲げる翼。
好きに勝手にやらせる訳にはいかない。何とか身をよじるも、
直後。
歌が聞こえた。
それは先ほどまでの翼の心情を歌ったものではなく。
諸刃の剣、滅びの歌だった。
翼が一節歌い終えるごとに周囲の空気が変わる。
こちらに向かって歩いてくる。いつの間にか刀は持っていない。
このままではまずい。本当にまずい。
なんとか杖を前に突き出し、翼の周囲にノイズを召喚する。
ノイズの攻撃で絶唱を中断させてしまえば……。
「────el zizzl」
最後の一節を歌い終えた。
銀髪の少女の目の前で。
まさか、あの距離をほんの数瞬で詰めたとでもいうのか。
逃れようと試みるも、それすら翼に抱きつかれることで防がれてしまう。
瞬間。
翼を中心に高密度のエネルギーが拡散。ほぼゼロ距離でそれを食らってしまった少女は、絶叫を上げながら吹き飛ぶことしかできなかった。
戦場に裂き誇った刃鳴は、過剰とも思える威力で周囲のノイズ諸共消し飛ばし────。
『ハッハッハッハッハッ! いいぞ翼ァ! そいつがお前をまた強くしてくれるはずだァ!』
銀髪の少女が呼び出したノイズは全て消滅した。炭ひとつ残さず。
響はスタークの手助けで、トランスチームガンから展開された宝石のような盾でエネルギーから身を守ることができた。
スタークは腹を抱えながら笑い、響に手を振った後黒煙を噴き出しながら姿を消した。
改めて周囲を見る。地面からだが。
響の周囲と立ち尽くす翼の足元以外の地面は無くなった。
大きなクレーターができている。地表に生えていた草は燃え尽き、露出した土は焼けて黒くなっていた。
草をかき分ける音が聞こえる。
森林から白いなにかが飛び出す。
銀髪の少女だ。
こちらを一瞥した後、どこかへと飛んで行った。
と、次に聞こえてきたのは車のブレーキ音。
目をそちらに向けると、一台の黒塗りの車が目の前で停車した。
運転席と助手席から現れたのは二課の中心人物、風鳴弦十郎と櫻井了子の二人だ。
弦十郎と目配せした後、こちらに向かって了子が駆けてくる。
「怪我はない響ちゃん!?
途中であなたのバイタルが急激に上がったり下がったりしたから、みんな心配したんだから!」
「すみません……でも、今はわたしより翼さんを……」
「そうね。肩を貸すわ」
了子の肩に掴まり、翼の方へ向かっていく響。
「無事か、翼ッ!?」
弦十郎と合流する。
それでも振り向かない翼。
足元で何かが月光で反射している。少女との戦いで影縫いに使った小太刀だろうか。
いや、あれは液体だ。決して金属などではない。
それも、鮮血。
最早普通ではありえない量の血溜まりと化したそれは、今もなお範囲を拡大している。
「私とて、人類守護の務めを果たす防人」
ゆっくりと振り向く。
その顔は、笑っていた。
歪んだ口からはおびただしい量の血をこぼし。
両の目からは赤い涙、否、血涙を流し。
それでも、笑みを浮かべていた。
「────こんなところで折れる剣じゃありません」
月が隠れる。
翼の意識は、なお昏き深淵の底へ落ちていった。
次回「陰謀のセオリー」
見返したら10000文字超えててびっくりした