【祝・完結】 月姫 弓塚さつきルート MELTY BLOOD ~memory of Rhododendron~   作:風海草一郎

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 文字数が多すぎるとの事で前後編に分けました。


第十章 前半 真祖の姫君

 嫌な夜だった。

 満月と呼ぶにはやや欠けた、貝殻のようにほの白い月を見上げながら志貴はぶるりと肩を震わせた。月には様々な思い入れがあるだけに、事あるごとに夜空へ目を凝らすクセがついてしまった。

 それもこれもあの気まぐれなお姫様のせいだ。と志貴はどこか愉快気に笑う。

 ここ最近、めっきり会う機会の減ってしまった彼女の事を想うと、志貴も自然と歩調が速くなる。結局、今日も噂の吸血鬼も見つからなかった。ならばせめてアルクェイドと、と思うも世の中はそう都合よく出来ていないらしい。志貴、シオン、さつきの三人は休憩するために公園へ向かう途中だった。

「……」

「どうしました志貴?」

「何だか元気が無いみたいだけど、何かあったの?」

 シオンとさつきが心配そうに覗きこんでくる。

「ん、なんでもない。気のせいかもしれないが、ちょっと嫌な予感がしただけだ」

「嫌な予感? 志貴、あなたは特に良くないものをイメージするのは避けていただきたい。本当に危険ですから。真祖と会うのにナーバスになるのも分かりますが、嘘でもいいのであなたは楽観論で行動してくれると助かります」

「いや、アルクェイドに会うのに気を遣う必要なんて全く無いんだけど、まあ、虫の居所が悪いとやば――ていうか、シオン。今のは何かおかし――」

 志貴は公園の入り口で立ち止まり、シオンに聞き返そうととすると違和感に気付く。

 ――この、におい、は。

 嗅覚を殴りつけるような暴力的な香りが、夜気を孕んだ風に乗って流れてきていた。風向きを志貴は確かめると、間違いなく公園の中央から流れてきているものだと確信した。

 気付けば走り出していた。背後から自分の名を呼ぶ声がするが、志貴は構わず足を動かす。

 公園中に漂う以上な感覚。

 肌にまとわりつくむせかえるほどの血の匂い。

 びしゃり、と水溜まりを踏んだような音がして足元へ意識を向けると、水溜まりではなく血溜まりなのだと気付いた。

 恐る恐る顔を上げて公園中央を睨む。

 

 ――そこで佇むのは血濡れの姫君だった。

 

 肉片と化した骸に尊厳は無く、血と糞尿が漏れだす革袋。それが幾重にも折り重なった無数の死体の山で、血濡れの姫は優雅に立つ。

 その様は白く純潔でありながら毒々しい白百合を連想させて、紅に染まる地面に咲く一輪の薔薇のようでもあった。

 藤紫のスカートに白のハイネックとシンプルな出で立ちは、余分な装飾など己が美貌を落とすとでも言わんばかりの秀麗さを備えた女性。

 ブロンドの髪から覗く顔のはっきりとした目鼻立ちは芸術品のように均整がとれていて、蠱惑的な瞳は一目で雄の心を奪い去る。

 ――あれは間違いなくアルクェイドだ。

 人外じみた美しさを決して見紛うはずがない。ないが、その雰囲気はどこか違った。

 白い月下、月明かりに照らされ金色の髪の吸血鬼は笑う。

 ――あははははははははは!

 場違いな嘲笑と共にアルクェイドは死体を踏みつけ、首を捩じ切り、頭部を蹴り転がす。

 冒涜的な凌辱は留まるところを知らず、彼女はけたたましい哄笑と共に足元の肉塊を踏み荒らす。

「――やめろアルクェイド!」

 志貴がさけぶと、アルクェイドはのっぺりとした動作で鎌首をもたげると。爛々と輝く双眸は妖しく光り、狂気に濡れていた。

「あー……。やっと来たんだ志貴ィ」

 ――何かがおかしかった。

「まったく、あんな手紙で人を呼びつけておいて時間を守らないんだもの」

 ――その雰囲気。仄かな狂気。

「しかも知らない女を二人もつれて……」

 ――漂う威圧感は異常だった。

「なあんか頭にきちゃったなァ」

 ――自制を失ったかのような。

「アルクェイド……。これは……?」

 ――その姿は何かに酔ったかのごとく。

「ああ、これ? 志貴ったらあんまり遅いからちょっとね……」

 ――街を荒らす噂の吸血鬼をイメージさせた。

「まさか……。お前が……?」

「ふん……? まさか、何よ志貴?」

 噂の吸血鬼なのか? と言おうとして志貴は喉元まで出かかっていた言葉を飲み込む。

 そんなはずがない。そんなわけがない。

アルクェイドが――……。

アルクェイドがそんな事するはずが――

 志貴は微かな緊張を持って、アルクェイドに問いかける。

「――お前。本当にアルクェイドか……?」

 志貴の言葉に、アルクェイドは口角を吊り上げ不敵に笑う。

「そう言う志貴こそ――」

 彼女は右手を振り上げ、アンダースローで地面をすくい上げるように振るう。

「本物かしら!?」

 アルクェイドが叫ぶと同時に、振るわれた腕が衝撃波を放ち、地面が抉れる。威嚇のためだったのか、衝撃波は足元で勢いが死んだが、直撃すれば人間の身体などひとたまりもないだろう。

 飛び散るつぶてを志貴たちは、顔の前で腕をクロスして庇う。アルクェイドは三人の警戒など意に介さないように悠然と歩み寄り、シオンに顔をずいと近づけた。

「まあ、それはすぐに分かるとして……。――私になにか用かしら魔術師と死徒?」

 じぃ、と値踏みをするようにアルクェイドはシオンとさつきを交互に見比べ、二人の言葉を待つ。さつきは圧倒的な存在を前に竦んでいる。シオンはさすがの豪胆さで、優雅に拝礼した。それは騎士が王妃に謁見を請うような、最高位の礼だった。

「申し遅れました。私の名はシオン・エルトナム・アトラシア。錬金術師として真祖の姫君の協力を仰ぎたく参上しました」

「錬金術師が……私に?」

「はい。真祖との話し合いの機会を得るべく、志貴に依頼したのです」

「私に協力しろ? 珍しいわね。教会の人間以外でそんな事言ってくるなんて」

 少しだけ興味を引かれたように、アルクェイドは態度を軟化した。

「……いいわ。言ってみなさい、面白ければ聞いてあげる」

 シオンは希望を見出したように、伝えるべき事柄を並列思考を駆使して熟考する。ここが正念場だ、何としても真祖の協力を取りつけねば自分とさつきに未来はない。

 シオンは唾を飲み込んで喉を湿らすと、己の目的を話し出した。

「お気づきだと思いますが、私と隣の彼女……弓塚さつきは死徒です。私は人間の吸血鬼化について研究しています。真祖に血を吸われ死徒と成った者。その死徒により吸血鬼と化した者……この一方通行に手を加えるために!」

「ふうん、つまり」

「はい。吸血鬼化の治療に他なりません。人間は貴女方の血によって異なる生物へと変化へと変貌した。ならばまた人間へと変化させうる事も道理の内でしょう。その為には大元たる真祖の血を……」

 

「――なあーんだ。そんな事?」

 

 嘲りをたっぷりと籠めた侮蔑の視線に、シオンの全身が跳ねた。

 それで一切の興味を失ったように、アルクェイドは話は終わりとでも言うかのように背を向けた。

「ダメダメ。つまらないから話はここまでよ」

「な……!? つまらないとは聞き捨てなりません!」

「そうです! 遠野くんから聞きました。吸血鬼の大元はあなたたち真祖で、真祖に血を吸われた人たちがまた人間の血を吸っているんだって……。元はと言えばあなたたちが蒔いた種じゃないですか! そのせいでわたしは学校にだって行けなくなって、家族とだって……」

 シオンとさつきは語調を強めるが、アルクェイドは依然としてつまらないものを見るような目で冷たく突き放す。

「それは私のせいじゃないし、どうでもいいわ。別に死徒がつまらないとは言っていないの。私はね、あなた達がつまらないと言っているの」

「どうでもいい……?」

「……それはどういう意味です?」

 さつきは信じられないという風に顔を青くし、シオンは苛立ちを懸命に押し殺す。

「自分でも分かっている事を聞くのは愚問よ。だってそんな事不可能だもの。あなただってとっくに分かっているんでしょ。吸血種になった人間はもう元には戻れない。時間は逆行しないのよシオン・エルトナム・アトラシア」

「――――ッ!」

「アナタの目的は別でしょう? 吸血鬼化の治療? 半分嘘よ、だってそんな事は無理だって出来っこないって事は本人が十分理解しているはずだもの。わたしはifの話も諦めの悪い子も好きだけど、あなたはてんでダメ」

 シオンは呼吸も忘れ、アルクェイドの言葉に刺し貫かれるまま。

 脳裏に浮かぶのは血の涙を流す死徒。紅い月の下で膝をつき屈服する自分。

 無抵抗のシオンへとどめをさすようにアルクェイドは嘲りを籠めて言い放つ。

「そうでしょう? だってあなたはもうとっくに――」

 

「黙りなさい――――――――――――!!!!」

 

 ドオオオオ! という轟音と共にシオンは怒声を張り散らした。ありったけの殺気と共にエーテライトを展開させ、そっ首を落とさんとエーテライトを振るう。

「貴女に助力を請おうとした私が愚かでした! 所詮、生まれ出でたる時より人ならざる生命体に、人の心を異形の身体に蝕まれる我々の嘆きなど理解できようはずもない!! もはや問答は無意味!! ならば力尽くで従わせるのみ!!!!」

 それは不可視の斬撃。風切り音すら置き去りにする必殺の一撃は、寸分違わずアルクェイドの喉元へ食らいつく。

 しかし、アルクェイドは動かない。

 迫りくる圧縮された殺意を、アルクェイドは、

「――児戯ね」

 ――指先でつまみ取った。

「なっ……!」

 シオンの表情が驚愕に歪み、エーテライトを引き戻そうとするが全く動かない。大木であろうと容易く切り裂くエーテライトを、まるでただの糸のように指先で転がす。

「それで終わり?」

「嘗ァめぇるぅなああああああああああああああああっ!!」

 シオンは激情のままに残った片腕を振るい、エーテライトで追撃を試みる。

 袈裟切り、切り上げ、切り払い、脛切り。

 合わせて四度。

 アルクェイドはそれらを必要最低限の動きで躱し、いなし、そして凶刃と化したエーテライトを、

「……もういいわあなた。つまらないにもほどがある」

 爪でぶつりと切断した。アルクェイドの命を刈り取らんと猛威を振るっていたエーテライトは張りを失い、力なく地面に落ちる。

 アルクェイドは指先に息を吹きかけ、爪先についた糸くずを飛ばす。いい加減終わりにしようとアルクェイドがシオンを睨んだ瞬間。

 ――パアン!

 という音が夜に木魂した。

 硝煙の揺れる銃口から、アルクェイドはシオンが発砲したのだと理解した。

 ――くだらない。銃など私にとっては玩具と変わらない。

「最初から最後まで下らない女ね。あなたの相手するの飽きちゃった。もう終わりにしましょう」

 そこでアルクェイドは己の肩口に乗った毛束に目が行った。それが先程の発砲によって削り取られた自身の髪なのだと気が付いた時、アルクェイドの顔から表情が消えた。

 白く美しい肌はさらに血を失い、冷徹さを剥き出しにした。

 ゾクリ、とシオンは全身が粟立つの感じた。

 先程の獅子がじゃれつく鼠にしびれを切らしたのとは事なる、純粋な殺意。

「ちょっと本気で頭に来た。獅子の余裕で、鼠に一噛みくらいはさせてあげるつもりだったけど――。いいわ、血を吸う不快な蚊は叩き殺されるのがふさわしいわ」

 アルクェイドは脱力し、鷹揚に構える。シオンはバレル・レプリカの照準をアルクェイドの額に当て、一挙手一投足見逃さぬよう極限の集中で迎え撃つ。

 ――分割思考同時展開。

 右旋回から爪による攻撃。

 地面を滑空するように移動してから首の掻っ切り。

 上空を飛んで背後に移動し心臓を一突き。

 優に百を超えるアルクェイドの行動パターンを計算し、あらゆる攻撃に備える。

 ――来い。来い。来い。

 シオンは目を皿のようにしてアルクェイドを見据える。

 しかし、アルクェイドは動かない。

 変わらず不敵な笑みを崩さないアルクェイドにシオンが不審に思った瞬間。

 アルクェイドは眼前に移動していた。

 「――ばぁ」

 「なあっ……?」

 視界いっぱいに広がる真祖の手の平。

 掌底? それとも掴み技?

 反射的に後ろへ飛ぶため、脳が指令を送るより早く、シオンの後頭部は地面に叩きつけられていた。後頭部に鈍い衝撃と、遅れてやって来る酩酊感。

 地球が反転したのかと錯覚した。

 三半規管はお役御免とばかりに職務放棄し、ここが地面より水平なのかどうかも分からない。

 全身の力は抜け落ち、命令系統が狂いきった肉体は無意味な痙攣を繰り返すだけの肉塊となっていた。

「さようなら。どうせ何もかも諦めているなら、ここで消えるのも同じでしょう?」

「やめろ! 殺すなアルクェイド!」

 シオンの顔面をそのまま握りつぶそうとするアルクェイドを止めるために志貴は走り出す。

 志貴はアルクェイドを羽交い絞めにしようとすると、アルクェイドはシオンを鷲掴みにした腕を離すと、

「悪いけどちょっと眠ってて志貴」

 トン、と志貴のみぞおち付近を優しく押した。

 瞬間、志貴は両膝から崩れ落ちた。地面は溶け出し、足場から埋もれていくような感覚は志貴から全身の自由を奪う。

「アルク、エイ、ド。な、に、を……」

 地面のザラついた感触を頬に感じながら、僅かに動く首のみを動かしアルクェイドを見上げる。

 アルクェイドは右腕を掲げ、羽虫を踏み潰すかのような感慨の無さで、処刑の刃を振り下ろそうとする。シオンは口の端から涎を垂らし、憎々し気にアルクェイドを眼光鋭く睨み付けるが抵抗するまでの力は回復していなかった。

「わたしの友達に手を出すなあああああああああああっ!」

 アルクェイドが振り下ろすより早くさつきは飛び出す。友人と想い人を同時に傷つけられたさつきの視界は怒りで赤く染まり、勢いそのままにアルクェイドを打ち抜くべく拳を放った。

何の駆け引きも技術も無い、衝動に任せただけのテレフォンパンチ。しかし、不意打ちに驚いたのか、鬼気迫る表情に面食らったのか、アルクェイドはバックステップでそれを躱すと、僅かに表情に色を取り戻した。

「あなたまだいたの? 黙って立ち去るなら見逃してあげようと思っていたのに。あなたもそこの錬金術師も、レベルの違いが分からないような馬鹿には見えなかったのに」

「うるさい! 我慢に我慢を重ねてきたけどもう限界だよ!」

「……何に? まだ私はあなたに何もしてないじゃない」

「あなた達はいつもそう! そうやって強い力を振りかざしては、弱い人達を平気で傷つけて食い物にして! あなた方にとっては人間なんて家畜と同じなんだろうけど、わたしたちは生きているんだよ! 一人一人の人生があったんだよ! それを突然奪われた苦しみがあなたに分かる!? 分かるわけないでしょうよ!!」

 さつきの怒りは留まる事を知らなかった。口からついて出る言葉は、吸血鬼への憎悪と理不尽に人としての正に幕を下ろされた理不尽な世への嚇怒。

 アルクェイドはとばっちりを受けたかのように不快そうに唇を尖らせる。

「何を勘違いしているのか知らないけれど、私は人の血は――」

「シオンを噛んだ吸血鬼だって! 私を殺したロアだって! その勝手な行動の責任を取った事が一度だってある!?」

「――あなた」

 アルクェイドの表情が一変する。きまりが悪いように顔を曇らすと、静かな憐憫を覗かせた。

 ふーっ、ふーっ、荒い息を吐き、自らの激情を叩き付けたさつきはアルクェイドの変化に気付かない。

「……そう。あなたはロアの。確かに、それなら私にも責任の一端はあるかもね」

 アルクェイドにしては非常に稀な事に己の非を認める旨を述べた。志貴が聞いたら仰天した事だろう。一方、さきは意外そうな表情を作るもすぐに引き締める。

「だったら……。少しでも私に悪いと思っているのらば、協力してください! それがせめてもの罪滅ぼしでしょう!?」

 さつきは再び協力を要請するが、アルクェイドは静かに首を左右に振り、さつきの要求を跳ね除ける。

「残念だけど不可能よ。あなたは特に。私が戻す方法を知らないんだもの。極小の可能性に賭けるのもありだけど、そうなる前にあなたがたは時間切れになる」

「そんな――。そんなのってないよ! 何か、何か方法があるはずだよ!! そんな簡単に諦められないよ! 私だって、シオンだって、何のためにここまで耐えてきたっていうの!?」

「…………」

 アルクェイドは目を閉じた。眼前の無力な少女に対し、ただやりきれない不条理を皮肉げに見つめるだけ。

「……あなたは本当に諦めないのね。皮肉だわ。本当に皮肉だわ。でも無理よ。私にはあなた達は救えない。あなたを救えるとしたら志貴ぐらいだけど――彼に殺されていいのは私だけ。なんなら私が代わりにやってもいいわよ。それともいままで通り、ネズミのようにこそこそ逃げ回って生きる? それもアリよ。それなら見逃してやってもいいわ」

 ブチリ、とさつきの中で何かが切れる音がした。

 それは燃え盛るような憤怒ではなく、薄い氷の刃にも似たひどく冷たい殺意。怒りの果ては反転した冷徹なのだとさつきは悟る。

 逃げ回れ?

 見逃してやってもいい?

 ――どこまで馬鹿にするつもりだ!!

 さつきの口から乾いた笑いが漏れる。この感情はもはや怒りという表現ですら生々しい。何たる理不尽、何たる不条理。

「――シオン。あれをわたしに使って」

「さつき!? ですがあれは……」

「いいの。わたしはコイツが許せない。散々好き放題玩具にされて、これだけ一方的な哀れみを向けられて黙っていられるほどわたしは平和主義者じゃないよ。――うん、窮鼠猫を嚙むって言葉を思い知らせてあげる」

 いくらか動けるまで回復していたシオンは、片膝立ちのまま瞠目する。シオンは躊躇いを見せるが、覚悟を決めたさつきを見て、エーテライトを操作する。

「いきますよさつき! リミッター解除!」

 シオンの腕輪が光を放ち、さつきの気配が膨れ上がる。

 全身の筋繊維が搾り上げられ、張り巡らされた神経は高速伝達を可能とする。

 ドクリ、ドクリと心臓は力強く確かな拡張と収縮を繰り返し、気血を全身に送り込む。

 ゆらり、とさつきは揺れた。

「私と一緒に、来い……!」

 精神を研ぎ澄まし、眼前の絶対的強者に牙を突き立てるべく、口を開く。

 

「――飢え渇け『枯渇庭園』」

 

 

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