【祝・完結】 月姫 弓塚さつきルート MELTY BLOOD ~memory of Rhododendron~   作:風海草一郎

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 エタったと思いましたか? 大丈夫! 完結させる気はバリバリありますよ!!


二十一章 白騎士VS黒騎士

「あ…………」

 

 志貴の振るう銀光がさつきの四肢を切り飛ばす光景を瞳に映した瞬間、シオンは膝から崩れ落ちた。

 ぼちょり、と不格好な肉塊と化した手足が地面に落ちる。中央で血だまりに沈むさつきは柱頭で、手足は花弁であり、歪な花に見えた。

 シオンの口から息がひゅう、と情けなく抜けていく。先程まで怒り一色に染まっていた紅蓮の思考は冷水を浴びせられたように凍り付いた。

 放心状態となったシオンへ、黒リーズは自身と同じく黒色のガマリエルを大上段から脳天目がけて振り下ろした。すかさずリーズはシオンの前へ滑り込むと、聖楯で迎え撃つ。

 

「戦場でぼさっとするなシオン! 気持ちは分かるが今は目の前の敵に集中しろ!!」

 

 超重量の攻撃を聖楯で受け止めると、端正な顔を力ませながらリーズバイフェは叫ぶ。

 しかし、リーズバイフェの呼びかけにもシオンは反応せず、慟哭する志貴をただ呆、と眺めている。

 黒リーズはシオンの都合など一切構わず、攻撃の手を緩めない。聖楯を前方に構えた姿勢からタックルをかまし、リーズバイフェがそれを受け止めれば、力を僅かに横へ逸らしながら側面に滑り込む。

 

「させるか……っ!」

 

 それを予測していたリーズバイフェは、黒リーズと同じ方角へさらに素早く体を回転。逆に黒リーズの脇へ入り込む事に成功したリーズバイフェは顔面へ右ストレートを放つ。

 

「くらえっ!」

 流れるように美しい軌道を描いた拳は、的確に黒リーズの頬骨を捉え――そしてすり抜けた。力んだ態勢の勢いをすかされ、リーズは前方につんのめる。

 

「首抜け!?」

 

 黒リーズはパンチを受けながらさらに全身を回転――その勢いのままバックブローを放つ。

 ガアン! と手甲同士がぶつかり合う金属音と共に火花が散る。リーズバイフェは辛うじてバックブローを手甲でガードすると、たまらずバックステップで距離を取った。

 

「うえひひ、おしい、おしい」

 

 敵を飲み込む瀑布の如き力強さで押しつつ、清流の柔らかさで受け流す。寸分の狂いもなく、自分が血道を上げて築き上げた戦闘術と同じだ。

 リーズバイフェは歯噛みする。今のところ、自分とあの黒ずくめの紛い物は全くの互角。互いに手の内を知り尽くした同士で、同じ技術を使って戦うのだから千日手となるのは必然。

 

 否、正確には互角では無かった。こちらが対等な勝負をしていたところで、シオンとワラキアでは勝負にならない。

シオンがいくら優秀とはいえ、相手は二十七祖の一角まで上り詰めた死徒の最高峰。ならば、自分が手早く偽物を打倒し、シオンへ加勢する手はずだったのだ。

 幸い、出力向上のために妙なアレンジを加えられたせいか、黒リーズの思考は単純化している。それならば早急にカタがつくと考えていた。それなのに。

 

「ひいいいっ! はっはあ! あははははははははhahahahahahahaha!!」

 

 奇怪な叫びと共に、黒リーズは聖楯を構えて再び突進、それを予見していたリーズは攻撃を受け止めず、横に逃げる。その際、ぼうっと佇んでいるシオンの腰を掴むと、背中を見せぬよう後ろ走りで距離をとった。

 シオンの身体はだらりと力なく、抱えられても声一つあげない。

 

「シオン! しっかりしろシオン!!」

 

 リーズバイフェはシオンを下ろすと、肩を揺するが反応は無い。生気の無い瞳は虚ろで何も映していない。

 

「~~~~このお、いい加減にしろっ!!」

 

 パアン! と乾いた破裂音と頬に走る鋭い痛みでようやくシオンは我に返った。瞼を何度かしばたたかせる。半ば脊髄反射のように開かれた瞳は、ようやく現実を映し出した。

リーズバイフェはシオンの肩をがしりと掴むと、息が触れそうな距離に顔を近づけ叱咤する。

 

「君は一体、何のためにここへ来た!? ワラキアを打倒し、自分と彼女の吸血鬼化を治すためにじゃないのか!? その君がボケっとしてどうする!!」

「ですが私は……」

「『ですが』が多すぎるんだ君は! 言い訳なんて聞きたくないぞシオン! 君はいつだって合理的で理屈っぽくて悲観的だったけれど……。それでも確立を超えた何かを信じて立ち上がれる人間だっただろう!?」

 

 よく見ろ! とリーズバイフェはシオンの顔を両手で挟み、さつきが倒れた方向へ無理矢理顔を向かせる。そこには芋虫も同然の姿となったさつきが倒れ伏しており、シオンはたまらず目を瞑ろうとする。

 しかし、リーズバイフェの言葉がそれを許さなかった。

 

「彼女はまだ死んではいない! 微かにだが息がある!!」

「え……っ?」

 

 シオンは驚愕に目を見開き、吸血鬼の視力を持ってさつきの胸部分を凝視する。そこは微かに上下しており、弱弱しくも自発呼吸しているのが見て取れた。

 生きて、いる。

 彼女は生きている。

 そこで彼女は先程の志貴の行動を思い起こす。志貴が放ったのはあくまで四肢に対しての斬撃。志貴の言う『死の点』へ攻撃するのならば刺突で行くべきだ。それの意味する事は。

 

「志貴! 彼女は……! さつきは生きているのですか!?」

「……………………ああ」

 

 志貴は俯いたまま消え入りそうな声で呟いた。それはどこか安堵したようにも、自分の甘さに嘆くようにも聞こえた。

 

「お優しい事だな少年。そう何度も殺すのはさすがに滅入るか? 私としては薄幸の美女は儚く散るのが好みなのだがね?」

「――――黙れ。その汚い口で彼女の事を知った風な口を利くな死徒」

 

 殺気の籠った志貴な視線を受け、ワラキアは大仰に肩を竦める。その安いアメリカのホームドラマにでも出てきそうなアクションがひどく志貴の癇に障る。

 志貴はリーズの隣に並び立つと、横目で視線を交し合う。魔を狩る鋭い眼光にリーズは心臓が一瞬跳ねるが、それと同時に頼もしさも感じていた。

 

 リーズ、シオン、志貴の三人の前に立ちはだかるのは、演劇狂いの死徒を背にした漆黒の聖楯騎士。

 夜の帳に星々が煌びやかな穴を開け、そこに照らされる黒い鎧は背徳的な美しさがある。歪な高貴さの鎧から出した顔に白痴のような笑みを浮かべている。

 志貴は油断せぬようナイフを右手に構え、シオンとリーズも戦闘態勢をとる。

 つう、と黒リーズの口の端から一筋の光が月明かりに照らされる。それが頬を伝い、コンクリートへ一点の黒を生み出す。

 それが合図だった。

 

「あはははあはは! あはっ、あっはっはっはははははははははは!!!!」

 

 地面を砕くほどの踏み込みにより、黒リーズは弾丸のように飛び出し――大上段に構えた聖楯を勢いそのままに振り下ろす!

 リーズはその勢いが軌道に乗りきる前に一歩踏み出すと、掌底で顎を突き上げる。

 

「がっ!!」

 

 歯と歯が強制的に噛み合わされる音と共に黒リーズの視界に星が瞬く。脳が揺らされた感覚に初めて表情に苦痛が浮かぶ。

 

「まだまだあ!」

 

 リーズは打った掌底のまま、黒リーズの顎を掴むと右足を相手の左足にかけて大外刈り。

 ゴン! という鈍い音と共に黒リーズの後頭部がコンクリートに叩きつけられる。実に実戦的な喧嘩殺法だ。

 リーズバイフェは膝で相手の腹を制し、馬乗りになる。手甲をつけた拳を顔面に叩き込もうとすると、黒リーズが勢いよくブリッジ。リーズバイフェの腰が上がり、揺さぶられるがロデオのようにリーズバイフェは踏ん張り持ち堪える。

 

「せいっ!」

 

 掛け声と共に振りぬかれた右フックが黒いリーズの左頬を打ち抜いた。殴った反動が鈍く拳に反響し、手応えを感じた。

しかし、黒リーズもさるもの、リーズのみぞおちと脇腹を無茶苦茶に殴りつける。

ガンガン! と力任せに叩きつけられた拳が内蔵をかき回し、リーズが股で腹を挟む力が緩むと、黒リーズは地面を蹴ってマウントポジションから脱出した。

 

「げほっげほっ……。逃げられたか。あのままマウントで顔を破壊してやれるかと思ったのに」

「……リーズ、仮にもあなたは女性ですし、自分と同じ顔の人を殴りつけるのは……」

「俺もそう思う。綺麗な顔に似合わずえぐいファイトスタイルしてるなあ」

「ええい、うるさい! そんな事を言っている場合ではないだろう!? まだ来るぞ!!」

 

 総合格闘技さながらの攻防にシオンと志貴が若干引き気味になるなか、リーズは腰を落とす。

 

「いひひ、イタイイタイ」

 

 見れば黒リーズは痛みを逃がすように、頭をぶんぶんと振りながら立ち上がる。シオンはその隙に発砲するが、リーズはそれを一瞥もせずに裏拳で叩き落とした。

 言語機能その他は著しく低下しているが、反射速度や戦闘技術は一切の衰えが無いのを検証できた。

 

「くっ、戦闘分野に関しては異常に鋭い……!」

 

 シオンはバレルレプリカに弾丸を再装填しながら、口惜しそうにバレルを構える。

 黒化したリーズは痛覚も鈍麻しているようで、脳震盪も起こした様子は無い。シオンは眼前の敵をどうするべきか、志貴のほうへ視線を投げかける。

 すると志貴は目を細め、食い入るように見つめていた。瞳は蒼く光り、極限の集中状態となっていた。

 シオンはエーテライトを使わずとも理解した。志貴の有する直死の魔眼が眼前の黒騎士の死を見ている。本能的に体が強張る中、シオンは志貴の視線が僅かに黒リーズ本体よりもずれている事に気が付いた。

 

「志貴、何か視えるのですか?」

「――ッ! ああ、悪いシオン。何か言ったか?」

 

 志貴はハッとした様子を見せるとシオンに問い返す。

 

「彼女本人ではなく、彼女の周囲を見ているようですが何かあなたにしか視えないものが視えているのではありませんか?」

「……視える、彼女の周囲に張り巡らされた黒い糸のようなものが」

 

 シオンの指摘に志貴は重々しく口を開いた。

 万物の死を視る直死の魔眼が、黒リーズを視界に収める。彼女の背後には禍々しい気配が立ち込めているだけでなく、マリオネットの糸に似た何かが全身に絡みついていた。

 それは仄かな燐光を放つ豊かな黒髪のように気品に溢れ、汚れ一つない。それが彼女を傀儡としている原因なのかもしれないと志貴は当たりをつけた。

 

「なるほど、貴様の目にはそう見えるのか。つくづく反則だなその目は。貴様も私が成る候補の一つであったがピーキー過ぎたのでな……。少し惜しい事をした」

「冗談じゃない。お前なんかに俺になられてたまるか」

「そーよズェピア。あんたみたいなのに志貴の魔眼が真似られるもんですか」

 

 志貴はズェピアを薄く睨みつけ、後方の石柱からは能天気な声が響いた。

 

「ハハハハハハハ! 確かに! 真祖の力を汲み取る事すらできなかった私に、直死の魔眼が真似られるかは甚だ疑問だ! それに万物に死をもたらす眼など、死徒の永遠の命題とは真逆だ! それもまた一興!」

 

 喜悦に満ち満ちた笑いをズェピアはまき散らし、自己矛盾すらも座興と言わんばかり。

 シオンは理知的な狂人である祖先を苦々しげに見つめ、重心のグリップをきつく握りしめる。

 握った指が白くなるほど力を込めていると、シオンの高速思考が一つの回にたどり着いた。

 なぜ、彼女の周囲に操り人形の糸のような物が張り巡らされている?

 彼女はレプリカントで生み出した意思のない存在とは異なり、生きた生体情報から再構成した本人の複製品とでもいうべきものだ。

 ゆえに、彼女は生前と何ら遜色ない価値観と行動理念、情動を持つ。

 本来であるならばシオンの生み出したリーズのように思い、考え、行動するはずである。

 街の絶景を一望出来る屋上で、壊れた人形のように笑う彼女に意思があるとは考えられない。

 

 瞬間、シオンの脳裏に一筋の光が走った。

 シオンの腕にはめられた金のブレスレッドが輝く。シオンの思考がエーテライトを伝い、志貴とリーズの脳へプランを伝える。二人はしばし沈黙するとやがて、頷いた。

 この推測が正しければあるいは。

 シオンがエーテライトを展開する。身体を包む結界のようにミクロン単位のフィラメントが意思を持ったようにうなり、夜気を切り裂くエーテライトが漆黒の騎士へ躍りかかった。

 

 

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