【祝・完結】 月姫 弓塚さつきルート MELTY BLOOD ~memory of Rhododendron~   作:風海草一郎

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物語も佳境に入ってまいりました。みなさん、どうか最後までお付き合いください。


第二十二章 マリオネット

 ギィン! と金属をはじかれる音が大気に跳ね、それを手繰るシオンの表情に焦りが浮かぶ。

 高速思考と並列思考が生み出す数多の未来を先読みし、シミュレートを行いながらズェピアの急所目掛けてエーテライトをシオンは躍らせる。

 

 錬金術師の戦闘は詰将棋に似ると誰かが言った。事前に予測し、勝ち筋を戦う前から読み切り後は未来に存在する勝利を正確に掴み取るだけ。錬金術師は勝負の前に勝利を確定させて、それを必然的に享受する生き物だ。

 しかし、眼前の男もまた錬金術師。シオンが右足を狙ってエーテライトを薙げば、その出足を挫くように右腕が弾かれて勢いを殺される。

 シオンの高速思考を常に一歩上回る精密さでズェピアは動きを封じてくる。

 

 それはさながら刻一刻と変化する詰将棋。シオンが読み切ったと駒を動かせば、ズェピアはその奮闘を嘲るように盤上の配置を変えてしまう。さらにシオンの不利となる配置にしてくるのだからたまらない。

 

「痛!」

 

 シオンは右手に走った激痛に顔をしかめ、視線のみを痛みの発生源に向けると、人差し指と中指がへし折られ骨が剥き出しになっていた。

 

 ――その瞬間、シオンの中に蠢く霧が入り込んでくるような錯覚に襲われた。

 

 乾き切った血を連想させる黒い靄は視覚だけでなく、脳ごと知覚を殴りつける。それは深い怨嗟の声であり、嘆きと悲愴をないまぜにした悪性情報。

 

 ――乗っ取られる!!

 

「――四番停止! 七番停止! エーテライト切断!!」

 

 シオンは即座に汚染された思考を切り離し、高速思考から切り離す。それはウイルスに侵入されたファイルを、これ以上被害が広がらないように一時的に隔離させる行為にも似ていた。

 残った左手で振るったエーテライトが右腕に絡まったエーテライトを切断する。そしてシオンは折れた指を掴むと、

 

「――――――――っ!」

 

 ゴキリ、と強制的に元の位置にはめ直した。脳内は発痛物質を大量生産し、ショックで気を失わないために多量分泌される脳内麻薬がせめぎあい、痛覚の陣取り合戦を始める。

 事の趨勢はシオンの意思により脳内麻薬に軍配が上がった。

 

「……再起動。動作確認開始……全て異常なし」

 

 激痛のあまり舌を噛みそうになった口元を必死に抑え、痛みを怒りに変えてズェピアを睨みつける。一方、ズェピアは余裕綽々。顎に手を当てて、こちらを値踏みするように語り掛ける。

それは舞台のオーディションに来た女優の卵へアドバイスを投げかける役者にも思えた。

 

「不利と判断するや否や、思考を切断したその判断や良し。攻撃にもハックにも使用できる汎用性の高さゆえ、エルトナムの人間は皆、これに頼りすぎる嫌いがあるからな。そして――」

 

 ズェピアが言い切るより速くシオンは回復した右腕で拳を握ると、疑似神経へ指令を送る。瞬きよりも早く、音を遥か後方へ置き去りにするほどの斬撃が四方八方からズェピアへ襲い掛かった。

 視覚と意識の虚を突いた完璧なまでの不意打ち。それはズェピアの四肢を切断し、挽肉にする未来をシオンは視た。

 

「――そして、予測したという事は予測されるという事なのだよシオン」

 

 迫りくる殺意を持ったミクロンフィラメントを同じくエーテライトで受け止めた。

 

「な……っ!」

「見え透いているよ娘。エーテライトを使用した吸血鬼用の多重結界か……。先ほどの小競り合いでこれを仕込んでいた周到さは愛らしいくらいだ。しかしだ、そのような実にアトラスの錬金術師らしい生真面目な賢しさではとてもとても、私を倒す事など出来ないぞ」

 

 受け止めたシオンのエーテライトを掌で弄びながらズェピアはシオンを採点する。

 

「ましてや同じエルトナム! その先達である私に既知の技能で挑む愚を悟るべし!!」

 

 ズェピアは口角を吊り上げ、エーテライトを天高く突き上げる。漆黒の爪を模した疑似神経が伸びると同時に、シオンの態勢がガクンと崩れた。

 関節が外れるのではないかと思うほどの衝撃と共に、シオンは一本釣りで夜空に釣り上げられる。美しいほどの放物線を描くと、束の間、重力を忘れた。

 一瞬の浮遊感の後にシオンを襲ったのは全身を粉砕するほどの衝撃。コンクリートをやすやすと砕く勢いで地に叩きつけられ、シオンの視界は明滅し、思考は寸断される。

 ごぼり、と口から洩れる鮮血が唇を伝い、頬を流れていく事から自分は仰向けに倒れているという事だけは辛うじて理解できた。

 

 ……二番停止。

 ……さんば、ん。てい……し……。

 

 力が全身から抜け落ちていく。酸欠の金魚のようにパクパクと開閉する口元は、ズェピアへの罵倒か、それとも仲間への助けを呼ぶ声か。

 

「少々高い授業料だったかな? このままでは及第点以下……落第だよシオン」

 

 血だまりに沈んでいくシオンを一瞥すると、落第と言いつつズェピアは満足げにうなずく。

 

「シオ――――ン!!」

 

 行動不能となったシオンへ志貴が声を上げるが、彼女の耳には届いていないようだった。

 志貴は彼女の元へ駆けつけようとするも、黒い楯の突進に行く手を阻まれる。

 

「どけえ!!」

「いひいははははははははあああぁぁぁっっ!!」

 

 志貴は怒号と共に死の線目掛けてナイフを振るい、黒リーズを排除せんと荒れ狂う。しかし、理性を失えどそこは聖楯騎士。志貴のナイフを冷静にはじき返し、少しでも甘い打ち込みと見れば、痛烈なカウンターを放ってくる。

 リーズはそのカウンターを聖楯で弾き返し、スイッチする形で入れ替わった志貴がナイフで攻撃する。攻防を振り分けたシンプルな戦法で二人は戦っていた。

 

「このままじゃラチが明かない! 少年! 何か手はないのか!?」

「…………!!」

 

 再び振るわれた黒いガマリエルをリーズは受け止めながら、志貴へ声を張り上げる。その表情には焦りと疲労が色濃く浮かび、徐々にだが押されつつあるのを感じた。

 じりじりと、徐々に志貴の手足が沈むような錯覚に陥る。長時間、死を視続ける事による負荷が脳の神経を焼き始めているのが、目の端から流れ出した血液が物語っていた。

 

 ――一か八かやるしかない。

 

 攻撃を受け止めたリーズが、押し返すかたちで黒リーズを前方へ弾くと、

 

「しゃあらあああああああああああああっっっ!!」

 

 ナイフを右手に構えた志貴が飛び出し、怪鳥のような咆哮と共に黒リーズの『死』目掛けてナイフを躍らせた。

 

「馬鹿! 何を考えている!?」

 

 飛び上がり、勢いのままに切りかかるなど愚の骨頂。身動きの取れない空中では格好の的となるのに、志貴は夜空を背に飛び掛かる。

 

「はっはあ!」

 

 黒リーズは唾液を飛ばしながら、無知な獲物を狩るようにガマリエルを突き出す。その切っ先は貧弱な人間など、紙より易々と突き破る代物だ。黒リーズは半歩、右斜め前へ乗り出し、ナイフの射程範囲から逃れた位置へ移動する。

 学生服目掛けて鋭利な聖楯が迫る。

 リーズは走るが間に合わない。

 勝利を確信した黒リーズは聖楯にありったけの殺意を込めて突き出す!!

 

 ――ギイン!

 

 その瞬間、鋭い金属音が闇夜に響いた。リーズは当惑し、感情の死んだ黒リーズでさえも眉根を寄せる。本来であらば、血袋を破裂させたような鈍い水音が奏でられるはずだったのに。

 リーズたちの疑問はガマリエルの粉砕される音と共に氷解する。

 志貴の右手に握られたナイフは鈍く光りを反射し、夜空に瞬く星のよう。

 そして、志貴の袖口には対となる瞬きが一つ。

 

「ぜあああああああああああああああっっっ!!!!」

 

 志貴は呆けた敵の隙を見逃さず、裂帛の気合と共に落下するエネルギーを左手に乗せ、黒リーズの右腕を肩から三分割した。

 掌、前腕、上腕と分かたれた肉塊がアスファルトに落ちると、同時に黒リーズの肩口からどす黒い血液が噴水のようにあふれ出す。

 

「――仕込みナイフさ。俺の数少ない趣味……まさかこんなところで役に立つとは思わなかったよ。こんなのものまでネットで買えるなんて通販様様だ」

 

 スプリングの鋭い音と共に、左の袖口から銀光を放つナイフを掲げた。

 そこでようやく黒リーズも自身の読みの浅さに失望する。

 なぜ武器が一本だけだと思っていた?

 天性の暗殺者じみた体技を駆使する彼がなぜあんな大げさな動きを?

 解に至ると同時に黒リーズはぎり、と奥歯を噛み締める。体中を疾走する血液が勢いを増し、逆流しそうになるほどの熱を持ったこの感情は怒り。押さえつけられていた感情を爆発させると同時に、リーズは地面を蹴りだす。

 

「があああああああああっっ!!」

 

 怒りに身を任せた右ストレート。ダンプカーの衝突にも匹敵する威力を持った一撃は、憎き相手の頭蓋骨を爆散せんと放たれる。

 

「――もういい、お疲れ様。後はゆっくり休んでいてくれ」

 

 雑な打ち込みを志貴は首を横に傾けるだけで回避し、左右のナイフでリーズに繋がれたエーテライトを切断する。

 文字通り、糸の切れた操り人形のように黒リーズは地面に倒れ伏す。肩口からあふれ出す血が地面に奇怪な模様を描いていく。それは彼女の仮初の命が流れ出しているようにも見えた。

 志貴は口を開きかけたが、きゅっと引き締める。

 リーズは物言わぬ骸と化した己の分身を複雑な表情で見下ろしながら、やがて右手で十字を切った。

 

「…………アーメン」

 

 自身に向けてリーズは冥福を祈る。何に向けて捧げるかも分からない空虚な祈り。

憑き物が落ちたように安らかに眠る彼女は、最後に何を思ったのだろうか。

 しばし、静謐な時間が流れる。

 しかし、その静寂はズェピアの拍手によってかき消される。

 パチパチと掌から発せられる破裂音は、静謐な思いに水を差すには十分過ぎた。

 

「ズェピア……ッ!」

「おっとっと。そう邪険にしないでくれたまえ」

 

 ズェピアはむしろ二人を讃えるように近づいてくると、倒れたリーズへ視線を向ける。

 

「お見事だ。直死の魔眼に聖楯騎士団長。木偶は木偶なりに役立つかと思ったが情けない」

「自分で勝手に殺して、そのうえ操り人形みたいに扱っておいてそれか。本当にいちいち癇に障るなお前。言いたい事はそれだけか?」

 志貴が殺気をみなぎらせながら左右のナイフを構えると、ズェピアはくつくつと笑う。

「私の事を冷たいと言うのならば、それは君たちも同じだろう? わが娘がそこで瀕死の重体だというのに感傷に浸っている場合かね?」

 

 ズェピアは後方を振り向くと、そこで驚愕する。

 息も絶え絶えだったシオンの体が徐々に色を失い――やがて無数のナノフィラメントに分解された。

 

「なっ…………!」

 

 エーテライトで編み上げられた体が完全に崩れ、姿を消す。流された血も汗も、苦悶の表情すらもナノフィラメントで構築されたものだった。

 

「ハハハハハハ! 素晴らしい!! エルトナムも漫然と時を重ねてきただけではないようだな!! 本物と見紛う出来! いやはやお見事お見事!!」

 

 ズェピアは高らかに哄笑し、シオンへの賛辞を贈ると――

 自分の首へ腕を回され、拘束された。

 

「――――なに?」

 

 ズェピアは動かせぬ首の代わりに眼球だけ下へ向けると、そこには漆黒の騎士の左腕が絡みついていた。それは獲物を締め上げる蛇ようにギチギチと食い込み、ズェピアの動きを封じる。

 

「貴様! くたばり損ないの分際で……!!」

「お前、生きていたのか!?」

「言って、くれる、な……。白い……わた、し……」

 

 憎々しげにズェピアは吐き捨て、リーズは目を見開く。ズェピアは黒リーズを引きはがさんともがくが、その腕にエーテライトが絡みついた。

 

「今だシオン! 私ごとやれ!」

 

 黒き聖楯騎士が叫ぶと、ズェピアの視界に揺らぎが生じ、明滅する。

 それはSF映画に出てくる光学迷彩のように、同化していた背景から自身の色彩を取り戻す。

 闇夜でも映える藤色の服とベレー帽。譲れぬものを奥に湛えた静かに燃える瞳。

 シオン・エルトナム・アトラシアが現れた。

 

「私の視覚情報を……? いつのまに!?」

 

 ズェピアは突如姿を現したシオンを凝視する。

 

「他者に介入出来るという事は他者からも介入されるという事! それを先達である貴様が忘れるとは何たる傲慢! 何という油断! 私たち弱者を……! 人間たちを嘗めるなズェピア!!」

 

 金色の腕輪がより一層輝きを増し、多重展開されたエーテライトが黒リーズとズェピアを巻き取っていく。蜘蛛の巣に絡めとられた羽虫のように、徐々に二人の自由を奪う。

 ならばこちらもとズェピアはエーテライトを伸ばそうとするも、心の臓を聖楯の破片で串刺しにされた。

 

「がっ!?」

「おとなしくしていろ……!」

 

 苦悶の表情を浮かべるズェピアを、黒リーズは血を吐きながら縫い留める。ズェピアの心臓を貫通した聖楯の切っ先は自身の胸にも突き刺さっていた。

 痛苦に顔を歪める黒リーズに、シオンの腕に迷いが生まれると黒き聖楯騎士は叫ぶ。

 

「私の事を気にしている余裕などないだろうシオン! 君の優しさは救いの無い私ではなく、もっと希望のある人々に捧げるべきだ! もう私は助からない!! 君は何のためにここまで来たか思い出せ!!」

「リーズ、あなたはそんな姿になってまで……」

 

 例え吸血鬼の手駒に墜とされようと、決して失われぬ光を見たシオンは覚悟を決める。

 懐から取り出したのはリーズバイフェの形見である聖楯加工弾。

 

「ガンバレル・フルオープン!」

 

 天寿の概念武装に装填しズェピアの首へ、頭と心臓を同時に消し飛ばせるよう照準を合わせる。

 突きつけられた銃口にズェピアは何事か喚き、リーズは、

 ――花が咲くように微笑んだ。

 シオンもそれにつられて一瞬、微笑を浮かべた後、引き金に力を籠めて、

 

「ガンバレル・フルトランス――――ッ!!!!」

 

 友と怨敵を打ち砕く弾丸を発射した。

 放たれる聖なる光弾は万物を清め、悪しきものを断罪する主の威光。圧倒的な破壊力を誇りながらも、包み込む慈愛の手。

 それらがズェピアに襲い掛かり、凄まじい光量を伴った破壊音が響き渡る。

 世界が漂白されゼロに還る。瞼を閉じようと、眼球の裏側まで侵す圧倒的な光量。

 

 視覚と聴覚がようやく戻ってきた志貴が恐々、目を開けるとそこには巨人の一撃でえぐり取られたような跡を残すアスファルトが所在なさげに佇むだけだった。

 二人は志貴より先に回復したらしく、姿が見えない。志貴が二人の姿を目で追うと、すでにさつきの元へと駆け寄っていた。

 

「さつき! 無事ですかさつき!?」

「しっかりしろ、さつき!!」

 

 二人は懸命に呼びかけ、無事を確認するも、さつきの意識は戻らない。薄く上下する胸元だけが彼女の生存を示唆してくれているが、風前の灯であることは明白だった。

 志貴は唇を噛んだ。今まで忘れていたが、彼女は昨年の夏に死亡している。自分こそが、この手で彼女の命を終らせたのだ。彼女がタタリの一端である以上、ワラキアが完全に消滅した今、彼女はただ消えゆくのみ。燃え尽きる寸前のろうそくが、最後の命を燃やしているだけにすぎない。

 

「――いいえ! まだです! こんなところで諦める訳にはいかないんです志貴!!」

 

 志貴の諦念を吹き飛ばすように、シオンは腕輪を発光させるとエーテライトをさつきの全身に接続していく。

 シオンは目を閉じ、全神経を集中させる。

 側で見守る志貴の肌がひりつくほど集中で、神経線維一本も余すところなくさつきへと意識を傾ける。

 

 深く、より深く彼女の深淵へ。

 さつきという平凡ながらも一途な愛を貫いた少女を、吸血鬼にも錬金術師にもなりきれなかった半端な自分を友と呼んでくれた仲間の情報を、シオンはスキャンする。

 五体から細胞へ、さらに細緻な素粒子レベルから魂の構築具合まで、シオンはさつきという存在の全てを記録し保存する。

 分割思考と並列思考を総動員した弓塚さつきという『個』の情報を完全に読み取り終えた。

 ふう、とシオンは額の汗を拭う。綱渡りに次ぐ綱渡りであったが、無事に彼女の情報を手に入れられた。

 

「シオン、弓塚さんは……。これから一体、どうなるんだ……?」

「……ズェピアが死亡した今、彼女もじきに消えるでしょう」

 

 志貴は目を伏せた。分かっていたとはいえ、僅かでも都合のいい幻想に縋った自分の卑怯者ぶりに志貴は自己嫌悪を強くした。

 

「ですが安心して下さい。彼女を復活させる方法があります」

「ええッ!?」

 

 志貴は驚愕に目を見張り、シオンを凝視する。その表情に曇りは無く、エーテライトを収納しつつ静かに口を開く。

 

「彼女の生体情報は全て読み取りました。今すぐに肉体を復活させることは難しいですが、ひとまずは彼女を私の分割思考に住まわせます」

「そんな事が出来るのか?」

「可能です。志貴の目の前にいるリーズもそうですから。いつか肉体を完全に復元する方法を見つけ次第、二人には人間として復活してもらいます」

「…………っ!」

 

 志貴は唾を飲み込むと同時に、心の奥底で湧き上がる熱を確かに感じた。

 自分は彼女に何一つ救いなど与えてやれなかった。しかし、シオンならば彼女の人生をやり直させる事が出来るというのか。

 仰臥するさつきを志貴が希望を持って見つめていると、

 僅かに彼女の口が動いた。

 

「ッ! シオン! 弓塚さんの口が動いたぞ!」

「! さつき!! 聞こえますかさつき!?」

 

 ぎこちなく、張り付いたものを引き剥がすように、渇いた動きでさつきの唇が開閉する。それは友人の身を案じる言葉か、それとも別れの挨拶か。

 志貴とシオン、リーズの三人は地面に手をつき、聞き漏らさぬよう耳を近づける。

 その弱弱しい口から、確かに言の葉が紡ぎだされた。

 

 

 

「――――――――――――――――――――カット」

 

 




あと四話くらいで終わります。
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