_____ああ、存在が、存在が不安定だ。
固定せねば、何か、何か器を。器を探さねば。
「おや……これはこれは。神に連ならん御方がどうしてこんな所に。」
む………この老人、老いてこそ居るが、強い。
何より人型に化けたとはいえ我を知覚しながら狂わぬとは。
丁度良い、器とするには充分なり。
ククク、適当な甘言にて取り込んでくれようか。
愚かな人間なぞを騙くらかすなど容易い。
『そこな者よ、我を知覚せども狂気に囚われぬ強き者よ。
我を受け入れるが良い。さすれば貴様は更なる力を手に入れられるだろう!』
「そうか…悪ぃ、興味ねぇな。他を当たってくれや。」
なっ!?そこまでの力を手にしながら更なる高みを目指さぬと言うのか!?
「おうとも。俺がが望むは友人や家族だけを守れる程度の力。
カミサマから賜る力になんざ興味はねぇなぁ。
時に、外なる神とまでされるお方が何用でこの世界に?」
それを貴様なぞに語ると思うたか!……という言葉を繋げようとして、何故か気付けば経緯を話していた。
何故だ!?何故!?
答えが出ぬまま気が付けば語り終えていた。
すると老人は少し考えると、即座に此方に手を伸ばした。
「成程…アンタにも事情があんだな……ほら、良いぞ。」
なっ………
存在しない筈の心が、少しだけ動いた気がした。
良心の呵責?馬鹿らしい、そんな物が我にある筈もない。
好都合だ___僅かな隙を見せた老人の心の中に入り込む。
そこには角や尾が生えた醜い化け物が居た。
成程、これが貴様の力の根幹か。
ならば、これを始末すればこの身体は我の物よ。
化け物に動く隙も与えず転移、再生が間に合わぬ迅さにて引き裂く。
固い……がこの程度ならば問題にならない。
そう思い、トドメを刺そうとして止められる。
「スマンが、コイツは俺の半身の様なものでな、どうか御遠慮下さいませ、カミサマ。」
………何なのだコイツは。
喧しい、邪魔立てするなら貴様も喰ろうてやろうか。
そう告げると老人は何も言わず武器を構える。
…仕方ないか。
少しは見所のある器だったので、精神的にだけは生かしてやろうかと考えたが。
ああ__残念だ。
何故そんな事を思ったのか?下賎な人間如きに。
分からぬ、分からぬ、が。
そのような思考を巡らすのでは無かった。
「……俺の勝ち、だな。」
信じられぬ。
力のみを持って神に並んだこの我が敗北するなど。
それも情けをかけられて。
不快なり、不快なり。
早く殺すが良い。我を野放しにすればこの世の生命を滅ぼすぞ。
殺せ。
「………ハハッ!!!面白い!アンタはまるで人のような神だな!」
なんだと?我が、人と同一と?
「負ければ悔しく、存在を固定したいと欲をかき、驚けば困惑する。あまりにも人間の様だ、違うか?」
…………
「だがまぁ、面白いと思うぜ?…気に入ったよ、アンタ。」
……は?
「言葉の通りだ。此方としては存在を固定するための
アンタは代わりに俺に力を貸す。対等だろ?」
対等だと!?貴様良く考えろ!今、我は貴様に敗北して……それ……で……
そこまで言って気が付く。
今我は、この男に押さえつけられ、生殺与奪を握られている。
その上情けをかけられ、屈辱を味わっている。
なのにだ。
何故か下腹部に熱が篭ってくる。
はぁ!?!?!?!?
何故何故何故だ!?
人に化けているとはいえ、こんな感情を抱くなど!
そもそも強い雄に踏みにじられて発情するなど、まるで……まるで………
『………雌犬みてぇだな。』
倒れ伏した化け物が言った。
ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
黙れェェエエ!!!
即座に転移し、化け物の頭部を叩きのめす。
さっさとトドメを刺しておくんだった!畜生が!
このッ!このッ!
「ちょ!冷静になれ!どうどう、どうどう!」
落ち着けるか!!!
外なる神とまで言われたこの我が!
神の紛い物の様な化け物に!
雌犬と呼ばれたのだぞ!
「落ち着け!………ああもう!落ち着けっての!!!」
老人もこの渾沌とした状況に思わず口調が若かりし頃にまで戻る。
「雌犬とかは兎も角、少なくとも今のお前は美人なんだから黙ってろっての!」
ああああああああぁぁぁ!!!
『お前さぁ………また嫁さんらに怒られても知らんぞ……』
「落ち着いたか?」
……………すまぬ。
「ならいい。で___どうするよ?答えを聞かせて欲しいんだが?」
ぐっ……命は惜しい……だが、この手を取れば誇り高き我が雌犬同然だと認める事に……
………仕方ない!仕方ないのだ!
ヨグ=ソトースに復讐する為にも!
命を繋ぐ為にも!
甘んじて恥を受けようではないか!
『いや、もう素直に惚れたって言ったらどうよ?』
黙れェェェェェェェェイ!!!!!!!!!
「そう言えば、名前も言ってなかったな。俺は
『宜しくね✩』
………ああ、我が名はミゼーア。
旧き支配者に叛逆せし外なる神の一柱。
天然ジゴロが極まる老長政君。
リアルで殴り合いしたら外なる神に勝てるワケ無い。
精神世界ならイカれたSAN値(既に0)の長政くんなら必勝だよなぁ?
因みにハッピーエンドルートの『夜叉』は色々あって大分陽キャです。
(イメージ…デッドプール)
浅井長政(オールド)
本来とは違った世界線における浅井長政の姿。
老境に差し掛かって尚その技に衰えは見られず、
研鑽を続けたその技に一切の隙無し。
自らの領地に幕府を開き、国を平定した偉人として知られる。
幾千もの死線を超えた英傑であり、
無数に存在する浅井長政という男の可能性。
それが辿り着いた一つの極地。