鬼夜叉と呼ばれた男   作:CATARINA

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『死を恐れよ』


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立香は…否、その場に居た全員は言葉を失った。

 

先程まで空を駆っていたヘリが突如として爆散したのだから無理もない。

そして更に驚いたのはその下手人___かつて01と呼ばれた男が、ビーストに付き従っていたのだ。

 

件の男は手馴れた動きで排莢と装弾を済ませると突如として苦しみ出す。

 

『…俺は何を?…何故奴を……俺は………オレは何…だ……?』

「………大丈夫だよ、()()()()()。貴方がどんなに蔑まれ、尊厳を踏み躙られたって、()()()は貴方の味方だから……邪魔者は殺しちゃおう?私たちの世界に必要無いモノは………」

 

目を離した隙にパンドラは無銘の背中にしがみつき、頬を慈しむ様に撫ぜながら語り掛ける。それは兄が歳の離れた妹を愛しむ様にも、夫婦がお互いを愛し合う様にさえ見えた。

 

「『ネガ・ソリトゥス』……さぁ、殺しちゃおう。」

頭部装甲が破損し、素顔を晒していた男を更に醜悪な闇が包む。

黒く濁り、澱み、触れた者の正気を蝕む闇は光を遮断し、人としての輪郭すら淡く歪ませ、やがて二人の境界を朧気にし、一つの生命の様に蠢く。

 

「………そうだな。ヒトという生き物は醜過ぎる。お前らは、余りにも愚かで、救い難い。

泣き叫ぶ敵国の女を強姦し惨殺した奴。捕虜を嬲り殺しにして狂喜した奴。

殺戮の饗宴に浮かされ友軍までも手に掛けた奴に、民間人を好んで殺る奴も居た。

ハハハハッ、どうして気が付かなかったのだろうな?獣とは、お前らの方じゃ無ぇか。

獣は狩り殺す、その末裔も、遺した文明もだ。全て平等に滅びな。」

 

もはや顔は窺えない、しかし赫く輝くその眼光だけが彼の怒りを物語っていた。

 

「何を言うかッ……人がケダモノだと……?

違う!人が人を愛する故に未来を繋ぐのだ!そして…」

「口数が多いぜ、王様。射程内だ。」

 

瞬間、銃弾が…鉄の杭が飛来する。

すんでの所で回避したラーマは青ざめた。速度も威力も先程の比ではない。

 

『全アメリカ軍に告ぐ!数の違いを思い知らせてやれ!』

ダメだ、アレは数でどうにかなる相手ではない。

 

「駄目です!白兵戦であの人に勝てる訳が有りません!」

『数の力で(アメリカ)が負ける訳にはいかんのだ!』

 

………おっと、数が増えてきたな?

『んん……こんなのはどうかな?』

パンドラは男の持つ銃に触れると形を変化させて行く。

それは一つつの形を成した。

無骨ながら絶対の殺意と狂気を篭め。

根元に従ってギザついた刃は殺害よりも傷付ける事に特化した姿を取る。

 

「……刀ねぇ…銃よりも使い易いとも思えんが…」

 

銃を捨てた?ともかくこれは好機だ。

そう考えた機甲兵達はやや距離を取って射撃を開始する。しかし男は一瞥もくれずに回避した。

弾を避けられているレベルではない、それは素人が見れば弾が避けている様にも見えただろう。

 

瞬き一つの間に肉薄し、一閃。

機甲兵の装甲を容易く引き裂き、肩口から胴に7割程食い込ませながら命を奪った。

返す腕は正確にかつ迅速な軌道を描き僅かに露出した急所を穿つ。

そして、それは始まりに過ぎない。

鋸刃に傷付けられた兵士は苦痛に喘ぎ助けを乞う。

仲間を見捨てられぬ兵士が決死の覚悟で救出した時にその牙を向く。

 

もがき苦しむ兵士がそのまま息を引き取るとその屍はまるで気化する様に掻き消えてしまう。

そして付近の兵士からそれは起こった。

一人、また一人と同じ傷を負って兵士が倒れて行く。

その兵士の屍が新たな苗床となって何処までも死が連鎖していく。

 

「『人よ、死を忘るる事なかれ(メメント・モリ)』」

 

死が蔓延する。

そして死は恐怖と狂気を生み出す。

 

感染したある兵士は身を灼かれる激痛と共に苦しんだ。

助けを乞うが、それが新たな感染に繋がると気が付いた兵士らは彼を見捨てた。

……いや、それだけでは留まらない。

助けを求め、縋り付くかつての仲間を撃ち殺し始めたのだ。

近付かれたら死ぬ!嫌だ、死にたくない!来るな!死ね!

そして撃たれた方もタダでは済まない。

熱い、苦しい!助けてくれ!どうして撃つんだ!?

 

何故撃たれるのかも分からぬままに撃ち返す。

その弾丸はお互いの命を奪い、更に死は連鎖する。

 

「バカな!!!止めろ!何をしているんだ!!!」

エジソンは慟哭する。

先程まで共に戦った味方同士が殺しあっているなど、正気ではない。

 

 

 

狂気は留まる事を知らない。

死の恐怖は他者を殺す罪悪感を塗り潰し、

失われた秩序は人を獣に戻した。

 

 

 

成程、悪くない武器だ。

『……お兄ちゃん、笑ってるよ?』

………そうか?そっと右を仰ぎ見る。

 

『止めて!止めて下さいッ!!!』

『アハハハハハ!!!ギハハハハハ!?』

 

戦場の狂気に呑まれた兵士が女__恐らくは女性兵士を無理矢理犯している。

 

クハハハ、ハハハハ。

口角が吊り上がるのを感じる。

 

左を返り見る。

 

『待ってくれ!味方同士争ってる場合じゃ…グアッ!?』

『先に撃ってきたのはお前らだろう!?俺達が何をしたと言うんだ!!!』

 

死を義務づけられた者の嫉妬と健常者の迫害。

 

アハハハ、ハハハハハハ。

口が裂けんばかりの笑みを手で隠す。

 

そして、正面を見上げる。

 

『止めろ!止めるんだ!』『落ち着けよ皆!何をしてるんだよ!?』

「煩い!お前たちも俺達を殺す気なんだろう!?」

『そんな事……危ねぇ!』

 

英霊と呼ばれた奴らさえあのザマだ。

………これだよ、これこそが戦場(地獄)だ。

まるで地獄ではない、まさに地獄____

 

ハハッ、ハハハハ、ハハハハハハハハ

その空気を肌で感じる為か、男はバイザーを外していた。

そして両手を広げ、頭を抱える様に包むと恍惚とした瞳で狂った様に嗤う。

 

クハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!

 

最高(最悪)だ!!!

ああ、なんて愉しいのだろうか。

 

男は嗤う、地獄と呼ぶにも生温い惨劇を。

 

これこそが人の醜さ。

これこそが人の愚かさ。

 

人の過ちから生まれた男は嘲笑する。

これこそが人の本質なのだと。




タイトルが一番苦労するよね。

ビーストⅡRパンドラ
『ネガ・ソリトゥス』

■■の元に帰りたい___その願いが形を成した能力。
パンドラが指定した対象に()()することで融合する。
この際、融合した対象の意思や同意は必要無く、意思決定の優先権は彼女にある。
融合した対象の持つ能力やステータス、霊基の質を爆発的に向上させる他、自らの権能を身体越しに自由に行使する事もでき、対象が抵抗する場合はその個体が有する悪しき記憶を呼び覚まし、精神を蝕む事さえ可能。

彼女がこの力を使うのはただ一度、一度で事足りる。
もう二度と、孤独では無いのだから。

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