さ、て。
どうしたものかなぁ、と正直思う。
不法侵入したのは俺であるのだし、謝って解放されることを期待して正直に話すべきかも知れないが、殺気立った兵士なんだか騎士なんだかの甲冑姿の皆様には話が通用しないと思われた。
それ以前に、俺の事情が他人に話せなさ過ぎる。
死んだと思ったら転生神のお姉さんにトリップ喰らいました、とかって正直に話すのも恐らく理解されないか頭のおかしい奴だと判断されるのが関の山であろう。
というわけでカバーストーリーを考えた。
見たことの無い遺跡に触れたら転移して、此処に投げ出された。
技術自体は山奥の魔導師に教わった。
うし、これで行こう。
「そんなわけで、俺は怪しい人じゃないんですよ。わかってくれますか?」
「「「「――はい、なんか申し訳ありませんでした」」」」
良かった、分かってもらえたみたいだ。
やはり人間話し合うことが大事だね。
事態の好転は会話から。
人間、コミュニケーション能力はやはり大事だ。
――まあ話を聞いてもらうためには先ず無力化するのが第一、だというのが少々残念ではあるのだけど。
甲冑を大体ボロボロに崩し、土下座で謝るお姉さんたちを眺めつつ、扇情的とかいう感想を浮かべる以前に残念な人たちだなぁ、と思いつつ胸を撫で下ろす。
己の胸だよ。お姉さんらのじゃないからね。
というか、このお姉さんたち普通の人と違う気がするのだけど。
耳といい、尻尾といい、……獣人?
そもそも襲われる前にメガロがどーのとか、ぼそっと聞こえた気がするのだが。
メガロって、メガロメセンブリアとか?
ネギま世界で間違いないってことなのかな。
転生神も少しは詳しく教えてくれよ……。
× × × × ×
「エリ・エリ・レマ・サバクタニ、天空支えし巨神の袂、空転する矛を我に授けよ。廻す切っ先は地を傾けよ、下す柄よ天より崩落せよ。世界を呑み込む大いなる蛇よ、我が声に揃えよ。――帝釈廻天」
よし、出てきた。
術式覚えていて助かった。
ケータイすら失ってしまったからショートカットはもう出来ないからなー。
高位呪文を再現しようとしたら魔法陣用意して詠唱してー、と面倒くさい手順を踏まないと再現も難しい。
まあ呪文ストックくらいなら圧縮凍結して7つまではできるから、準備時間さえあればどんな状況でもなんとかできそうだけれども。
というか始動キー久方振りに口にしたわ。
もう何年振り?
自己体感時間で15年振りかなぁ。
エヴァ姉に師事したのって小学生の頃が初めてだから計算合わないけど。
色々とお姉さん方の説明を聞いて、今から戦闘に行きます。
俺です。
お姉さんのうちの1人から戦闘中に奪った杖、杖というか刀剣っぽいのだけど、それを使用しての術式再現。
いくら俺が相応に理論と知識を溜め込んでいても魔法媒体が無くっちゃ扱えないからねー。
スタンドは失っていないようだけど、下手すると相手の命まで奪ってしまうような攻撃を興したくないわけで。
慎重に慎重を重ねることは、いくら回り道でも不必要なことでは無いと思います。
「ほ、本当に手を貸してくれるのか?」
「まあこちらとしても己の素性が怪しいものではないと判断してもらえる材料になれば幸いですから」
なんかねー、このお姉さんたちは今から辺境の村を取り返しに行くらしいわ。
メガロが砦を作るために帝国領の村を襲って、其処から逃げ延びた人らが援軍を呼び応えたのが彼女らの正体。
そんな彼女らは中立国アリアドネーの連兵団なのだそうだが、戦争被害者とでも言うべき者たちからの要請であるので『援軍』ではなく『救助』ならば手を貸すのも吝かではないとか。
だから彼女らは女性だけで現場へと向かっている最中であったのだね。
あくまで救助だから、村から逃げ延びた人らが戦力になるかもしれなくとも共に向かうわけには行かなかったと。
ナルホドナー。
政治って難しいなー。
そんな政治的問題に発展しそうな状況に首を突っ込むのは正直やりたくない俺であるけれども、今の自分が一際怪しいのは事実。
中立に身を寄せるつもりはなくとも、後顧の憂いを彼女らの中に残したまま立ち去るというのも村を見捨てたみたいで後味が悪い。
あとついでに言うと彼女らの装備を駄目にしてしまったので、せめてもの罪滅ぼしに露払いだけでもやらせてください、と進言したわけである。
村奪還の暁には食料とわずかな給金、若しくはお仕事を要求しようとか、そんな下心は一切無いのである。
あるのは正義の心だよ!ホントダヨ!
――さて。
回想を語っている間に目標の村が見えてきた。
『正義の魔法使い』の実情でも拝見させてもらおうかね。
× × × × ×
うわー、これはないわー。
薄々、魔法世界分裂戦争の初期か中期くらいかなー、少なくとも終了間際じゃなさそうだなー、と覚悟はしていたけれど、戦争中であるという現状にぶち当たるのも元平和な日本人であった俺からしてみると受け容れ難い現状だ。
辺境の村を奪還したのはまあいいとしても、内情は中々に惨状。
男は殺され女は慰み者にされ、男であれば子供も容赦なく、女であっても慰み者にされた後は適当に殺されていたり、と生存者がとてつもなく少ない被害状況。
捕虜として纏められていた簡素な牢屋(というよりは籠)にはぎりぎり暴行を受けて居なさそうな女児らが捕らえられていて、恐らくだが女性らを一通り楽しむために人質として捕らえたか、纏めて売り払うつもりだったか。
最悪はニッチな需要を満たすことも考慮して『保険』の意味合いでストックされていた可能性もあるけれど……、想像するのは止めよう。
さすがに人間不審になりそう。
ともかく、そりゃこんな惨状を目撃したら仙水さんだって人間を嫌いになるよな、ってくらいの状況。
襲撃噛ましたときに相手側に山賊みたいな気配を感じ、帝釈廻天の『壊れた幻想もどき』を投擲して一掃したわけだけど、その判断は間違っていなかったらしい。
捕縛し損ねた奴らは結局鏖(皆殺し)にしてしまったわけだけれどもゆるしてにゃん★
「――見なかったことにします。さすがに彼らの行いは目に余りますから、仕方のなかった結果だと……」
「そうしてもらえると助かります」
生真面目そうないいんちょタイプのお姉さんが村の惨状を悔しそうに眺めつつ俯く。
けど俺はそっちには気付かない振りして視線を合わせない。
現実を受け止めるのはそれぞれ個人の仕事だもんね。
俺でも受け止められない領分くらいはあるってものさ。
そんな彼女と他数人に戦後処理をあらかた任せ、最初に俺に突っかかってきた女騎士みたいな男勝りな性格のお姉さんのそばへと近寄る。
メンタルがある程度は強そうであったお姉さんだけれども、あのままの戦力でこの村に突っ込んでいれば『オーク×女騎士』みたいな展開に晒されていたのかもしれないのは真っ先に彼女であるのがビビッと脳裏に浮かんだわけで、どんな気持ちかを聞いてみたくなった。
多分ただの妄想ではなくて、見果てることのなかった世界線から来た何某かのリーディングシュタイナーであったのではないかと妄想する俺。
戯言だけど。
「それにしても、私たちの鎧を溶かした術式も恐ろしかったが、凄まじいのだな旧世界の魔法も……」
適当に作ったサクセスストーリーをきっちり信じてくれたらしい。
彼女はブロークンファンタズムもどきで圧縮されたメガロの兵士らの人間団子を眺めつつ呟いた。
帝釈廻天は着弾すると中心に向かって周囲の存在を吸い込む極小のブラックホールを作成できるから、人間団子というよりは完全に肉団子にしか見えないのが玉に瑕だが。
しかし、どうしようか。
こんな惨状の村では仕事なんて有り付けない。
暫く無職しかないのか……?
「こんな子供が此処まで強大な魔法を扱う……。これは、帝国には勝ち目は無いんじゃないのか? このままでは帝国は滅ぼし尽くされる。帝国領の者たちには人権などなくなってしまうぞ……!」
戦慄したまま続けますけれどもお姉さん、誰が子供ですか。
いやすげぇ年を食っているとも自称はしないけれども、体外的には15なのだからせめて青年若しくは少年とお呼びくださいませんかね。
「いやいや、キミはどう見ても15には見えないよ? 精々6つか7つ程度じゃないかなぁ」
お姉さんを見くびってもらっちゃ困るぜー、とこんな惨状を見ても陽気そうなキャラクターの別のお姉さんにデコツンで窘められる俺。
……そういえば最初から思っていたけれども、この人らの年齢が身長を見るからに年上だと思っていたのだが、正面から顔立ちを見るとやたらと若々しい。
失礼ですがおいくつですか……?
「あたしらはみんな14だよー。あ、アネットちゃんは15だったかな。あの騎士みたいなしゃべり方のお姉さんね? なになに? キミってばアネットちゃんのことが気になっちゃってる感じ? おませさんだなー、あ! だから15さいです、だなんてすぐわかるような嘘をついちゃった?」
やだ、このお姉さん普通にうざい。
というか待て、待って、いろいろ待って。
――え、お姉さん方が年上なんじゃなくって俺が年下?
つまりは俺の見た目が生前と違うということですかわかりかねます。
誰か手鏡とかお持ちの方はいらっしゃいませんでしょうかー?
無口系のお姉さまに見せてもらった手鏡にて己の姿を確認し、項垂れる。
白髪に黒い肌、そして小学校初等部の頃にしか見えない幼い容姿。
……思い起こせないが多分幼い頃の自分自身であろう。
思い起こしたくも無いが。
身体は子供、頭脳は大人、その名は――。
とかまあそんな現状に晒されるとかマジで勘弁。
何がしたかったのあの転生神様は。
――益々面倒くさい状況に追い込まれそうで自分の未来が嫌になる……。
× × × × ×
「本当に一緒に来るつもりはないのですか?」
「はあ、まあ。申し訳ないですけども」
「私たちは問題にする気はありませんが……」
それでいいのかアリアドネー。
よくもまあ強大な魔法を扱える人材を、えらく簡単に手放すことを許容できるものである。
俺としては有り難すぎるが。
このまま子供だけを半壊した村に放置するのも憚られるらしく、学術都市アリアドネーにて保護する方針を固めたお姉さま方。
方、であったが、俺はその一団に同行するのには拒否の意を示した。
戸籍とかのほうはまあ存在しなくとも仕方ないとしても、そもそも魔法世界に戸籍ってあるのかね?という疑問も浮かぶし。
そういう戸籍が必要な現実世界へと島流しにされることになったらなったで、生き延びる先行きがまったく見えない。
色々現実であればあるほど生存戦略が立てられそうに無いのは、己もファンタジーの住人だという証左になるのであろうか。
どうしたって世知辛い上に活動に不備と制限を強いられそうな現実世界に戻るよりは、こういう見てよくわかる混乱期の世界ならば生き汚くとも生存率が跳ね上がりそうな気がする。
という甘い考慮の元の結論である。
要するに大人の目の届かないところでバカな真似もしたい年頃なのだ。
察して欲しい。
さすがにそこまでぶっちゃけたわけでは無いけど、こちらの知り合いの伝手に頼ってみる、と言えば意外にもあっさりと別れを惜しむお姉さま方。
人を信じることの大切さを教えてくださったお姉さま方に免じて、もし仮に傭兵の仕事を請け負ったとしてもヘラス側を受けることにしよう。
そんなこんなで一人旅の始まりである。
一般であるような魔法の扱い方は正直詠唱も忘れてしまったのだが、自らが作成した術式はさすがにそうそう忘れない。
旅立つ前に種類別に7つほど作成し、圧縮凍結で左腕にストックすれば、肘から手の甲にかけて7つのバーコード状の呪紋が書き込まれる。
すげーちゅーに臭い。
でもなんだかわくわくするのは仕方が無いことだと思う。
それはともかく、戦利品として受け取ったメガロ兵士の鎧とか魔法媒体とか使えそうなアイテムを手に持てるだけ戴いたので、解体して何処かへ売り飛ばせば暫くは生きていけそうでもある。
村から用意してもらった大八車にて道を下り、そろそろ暗くなり始めたので夜営の準備をしつつ、『荷物へ』と声をかけた。
「そろそろ出てきたらどうだー」
「―――」
鎧の隙間に隠れるようにして潜んでいた少女が、無言のまま顔を出した。
人の気配は感じていたけど、この娘はこの子で己の意思でこの場に居るようにも思える。
なんだか物欲を満たす代わりに、不必要なものまで背負ってしまったような。
そんな感覚を覚えた。
~エリ・エリ・レマ・サバクタニ
ソラの始動キー。恐らくはこれが初登場
ネギマジでは欠片も出てこなかったのでこの場にて登場。意味は『神よ何故私を見捨てたのか』と意味深な意訳
幼少期のソラは何を考えてこの始動キーを決定したのか・・・
~村の惨状
普通に惨殺死体がごろごろ転がっている
村人の被害はメガロの兵士が。兵士の被害はソラが。兵士の被害の方が惨劇であったのはご愛嬌
~ソラの容姿
ぶっちゃけると「地を這う大蛇」のヨナ。ソラ本人の感情表現が豊か過ぎるために別人にしか見えないけれど
でも元居た世界線自体に問題があったためにそこまで思い至れなかった主人公
某武器商人さんとかが実在するとかね、もうね。なんなのあのピーキー過ぎる世界線は
本編が終わるまではチラシの裏