もともと、人と関わることが嫌いだった。
いや、それはきっと、今でも変わらないのだろう。
人の目を見るのが苦手だった。人と話すのが苦痛だった。人と共に行動する、という行為そのものが苦手で、嫌なことだった。
ーーーだって、俺は生まれるはずだった人の命を奪い、今ここにいるのだから。
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元純日本人で地球産の人間だった俺は、ある日異世界に勇者として転生していた。
生まれてくるはずだった子供の命を奪い、転生したのだ。
ーーー何故命を奪ったというのか? では、逆に問うが、どうして生まれたばかりの赤子に前世の記憶があるというのか? その分のメモリーは、経験は、一体何処から来たというのか? これからゆっくりと形成されていくはずだった性格は、一体どうなってしまったというのか?
疑問に思い、魔王と対峙し、答えを知った。
ーーー俺は、咎人だった。この世に生まれ落ちたその時に、泣き叫ぶ己が尊い命を摘み取っていた。
あぁ、俺にはきっと、泣く権利など何処にもありはしなかったというのに。
けれど俺は、生まれてしばらくは自らの出生について疑問など持ちもしていなかった。
転生した自分はトクベツなのだと勘違いして。生まれた故郷のことなど、片田舎程度にしか思うこともなく。早く出て行きたいと切望すらしていた。
だから、俺が勇者に選ばれた時も、特に疑問に思うこともなく、やってきた王国の使者に従って村を出た。
両親はこんな俺のことを心配してくれていたというのに、俺はあまりにも愚かで。
ーーーあぁ、鬱陶しいな。
なんて、あまりにも酷いことを思っていたのだから。
もし、あの頃に戻れたら。両親に謝って、家族のために生きていたいと今更ながらに思うのだ。懺悔して、許されたいなどと思うのだ。
ーーーだって、俺のせいで故郷は王国に焼かれてしまったのだから。
もう、地図にはない故郷を思い、後悔ばかりを口にする。
それが今の俺、希望の勇者ユリウス。
罪のない魔族を何人も虐殺し、けれど魔王に敗れ、地下深くに監禁されている。
希望など名前ばかりの駄目勇者。人々の希望をドブに捨てた男。
かつてと何も変わらない。
たった一つも成長していない。
一人では、何もできやしない。
ーーー泣き虫ユリウス。弱っぽっちの駄目ユリウス。
あんなにも嫌だった渾名が、あぁ、俺にはきっと、こんなにもお似合いであったのだ。
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ーーーカツカツ。
暗い地下牢に音が響く。地下深くに設置された勇者のいる地下牢は、通常のものと違い、まず出入り口から異なっている。
魔王の部屋からしか入れないのだ。
階段も長く、螺旋状の段差が実に数千も存在しており、所々にある魔法紋らしきものやトラップの数々が、絶対に地下牢の相手を逃さないという意思すら感じさせる。
ようやく底まで辿り着けば、そこにはいかにも頑丈そうな牢屋があり、けれどその中は見た目と裏腹にとても豪華な作りになっていた。
綺麗な白い大理石の床にふかふかの赤いカーペットが敷かれ、脇には大きな、キングサイズのベッドがある。天井につらされた豪華なシャンデリアからは、意外にも優しげな青白い光が溢れて、室内を薄く照らしている。
ーーーカツカツ、カツ。
そして、その中心には、赤い皮の首輪を嵌められた美しい少年がいた。濡れるような黒髪に、妖しげな黒の瞳。体は折れそうなほどに華奢で、身長は160センチほどだろうか。その身につけた服は白くひらひらした、古代ギリシャの人々が着ていたようなもの一枚だけであり、 それがまた一層彼の魅力を際立たせている。
あどけない顔立ちで、けれどその影のある表情が艶かしい。呼吸するたびに上下するその薄い胸が、今にも消えてしまいそうな雰囲気が、こちらを誘うようなその仕草が、言葉にできぬほどだ。
ーーーあぁ、ユリウス。悪い子め。こんなにも、妾を欲情させおってーー!
燃えるような赤髪に、こめかみから生えた二本の捩じくれた角。強い意思を感じさせる真っ赤な瞳を色欲に曇らせて凄惨に嗤う長身の美女。つまりは、魔王が牢の前に立っているのだった。
練習がてらに。