リプで来たサーヴァントが二人一組で摸擬戦するSS 作:warlus
荒涼とした大地に、2騎のサーヴァントが距離を置いて佇んでいる。
一人はインドの愛の女神カーマ。少女の体にその力と心を宿した女神。
もう一人は暗殺教団の党首『山の翁』。おおよそ人とは思えぬ骸骨の身をした長身の剣士である。
「…やれ、と言われてここに放りこまれましたけど」
自分の身丈の倍はあろうかという体躯の山の翁に、カーマは臆することなく話しかける。
「わたし、正直やる気がおきないんですよねえ…だって貴方、見るからに人間っぽくないですし?人を愛するための女神としては、少し標的として的が外れているというかなんというか…翁さんもそうじゃありませんか?」
つまるところ、早々にこの戦いを放棄しないかという、カーマからの提案であった。
両者は本来、教義も違えば、信条として相対する存在でもない。
ならばこのような不毛な争いはさっさと切り上げてしまおうと、カーマは山の翁にそう提案したのだった。
『否、』
だが、山の翁はそのがらんどうのような頭骨を響かせて、彼女の提案を拒否する。
『貴様の様な者の存在を、我は決して許容せぬ。インドに住まう愛の女神よ。
我は山の翁の教えに背くものを処断する者、天明に従うものなり。別の教えを享受したからと言って、そのものは裁くに値しせず。
だが、愛の女神よ。貴様の愛は破滅の愛。多くの人の営みを破壊し、堕落させる毒である』
山の翁は言いながら、たたずむ姿勢からゆっくりと身を動かし、大振りの剣を構える。
『ならば、我は今一度山の翁の意思として剣を振るおう。この場において貴様の引導を渡すことは叶わぬ。だが、2度とその悪意を振るえぬように恐怖を刻み込むことならば、叶うやもしれぬ』
一歩山の翁が前に足を出す。その瞬間、お互いの距離は零になった。
「……っ!!」
やばい、とカーマが本能的に察知するのと、山の翁が剣を振り終えるのは同時であった。
カーマの顔がひきっつた表情のまま、ごろりと首の上から転がり落ちる。
地面に落ちた顔がそのまま転がったところで、ようやく斬られたことに気付いた首が、その切断面から血しぶきを上げた。
瞬きの予備動作さえ許されぬ刹那の狭間。山の翁の目の前にあるカーマの肉体は、一つの息を上げる間もなく絶命していた。
「…っ…はぁっ!」
首を断たれたカーマの肉体の背後。「本来のカーマ」は、四つん這いでえづくようにして呼吸をしていた。
シミュレーションルームでは魔力は無限に扱うことができる。カーマはその特性を利用して、大奥の特異点と同じように自分のコピーをつくりだすことに成功していた。
そもそも、他者を魅了することを武器とするカーマと、他者からの誘惑や干渉を一切受け付けない山の翁では、あまりにも相性が悪い。
事前情報としてそのことを知っていたカーマは、ならば大量の自分を作ることで物量で押しつぶそうという作戦を立てていたのだ。
最初に対話を試みたのは、そのための時間稼ぎ。事実、カーマは話し合いの最中にもう一人のカーマを作り出し、そのコピーとオリジナルの自分をすり替えることに成功していた。
だが、対面するのは死の象徴ともいえる存在である。
山の翁がコピーの首を刎ねたとき、その強烈な死の印象、圧倒的な恐怖はコピーを伝播して本来のカーマにまで波及していたのだ。
「…な、なんで!」
指の震えが止まらない。さっきまでは思いのままだった魔力の操作が、今はほんの僅かでさえ行うことができない。
山の翁はカーマに一指とて触れることなく、彼女に恐怖を刻み込んだのだった。