コンプレックス・ラブ   作:シママシタ

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第15話

 窓の外では晴天の下、夏の風物詩である蝉達がひっきりなしに声を上げている。

 そんな蝉達の歌声を聞きながら、私は家庭科室で梨子ちゃんと曜ちゃんと一緒に学園祭で出す料理の研究をしている。

 私達のクラスはメイド喫茶をやる。今のところはコーラやオレンジジュースなどのソフトドリンク以外に曜ちゃんの特製の「ヨキそば」や手作りのクッキーを販売しようとしている。学園祭の出し物であるため元は取ることを許されても利益は出してはいけない。さらに限られた費用の中で中学生でも負担にならないくらい安価で、料理が下手な男子でも簡単に作れて、ある程度美味しい料理を考えるのが私たちの仕事。

 でも、今の私にとって学園祭の準備どころじゃない。

 この前、果南ちゃんと約束したお出掛け……私にとってデートのことで頭が一杯になっている。

 幼い頃は一緒に近場で遊んだことはあったけど、遠くまでどこかに出かけたことはなかった。思春期の私たちにとっては男女二人きりで出かけるということは恥ずかしく、ハードルが高い。ましてや片思いしているなら尚更だ。

 でも、やっと壁を壊し、次の段階に進めた。

 そして、恋人岬に行くということで私は少なからず、期待してしまう。果南ちゃんからの告白を。

 だって、公園でも遊園地でもなくて、わざわざデートスポットに行くと約束すれば、勘違いするに決まっている。

 

「千歌ちゃん、どうしたの? さっきからにやけてるけど」

 

「ふぇ!?」

 

 色々と果南ちゃんへの思いを巡らせていると、梨子ちゃんは私の顔を覗き込んでくる。

 しまった。思わず顔に出てしまった。私は慌てて、顔を表情を引き締めるように頬を両手で叩く。

 

「何々? そんな私の料理が楽しみなの? それとも明後日の誕生日が待ち遠しい?」

 

 すると、曜ちゃんは料理する手とコンロの火を止めて、ニヤニヤと笑う。

 確かに曜ちゃんの作る料理は絶品だ。特にヨキそばなんてお店を出せるくらい美味しい。それに明後日は私の誕生日である八月一日ということで二人と果南ちゃんが誕生日パーティーを開いてくれるのだ。

 無論、その二つも果南ちゃんとのデートと同じくらい楽しみだ。

 

「それもあるけど!」

 

「「けど?」」

 

 梨子ちゃんと曜ちゃんの声が重なる。そして、神妙な面持ちで私の顔を凝視する。

 まるで私の顔に何か浮かび上がっているかのように。

 

「千歌ちゃん! 何か隠してない?」

 

「何も隠してないよ!」

 

「嘘だぁ。この曜ちゃんの目は簡単に欺けないよ」

 

「あ……何か喉が渇いたなぁ。そ、そうだ! の、飲み物買ってこよう!」

 

「あっ! 千歌ちゃん!」

 

 私はあからさまな嘘を吐いて、二人の前から逃げるように去る。

 このままだとどこかでボロが出て、果南ちゃんとのお出掛けのことを二人に知られてしまうかもしれない。

 正直、曜ちゃんに関してはいいけど、問題は梨子ちゃんだ。私と同じで果南ちゃんに思いを寄せる梨子ちゃんにこのことを知られたら……すごい気まずい。

 そんなことを考えながら、私はそそくさと階段を降り、一階にある自動販売機のある場所に向かう。

 自動販売機の前に着き、財布を取り出し、百円玉一枚を入れる。そして、緑色に光るボタンを押し、ペットボトルのみかんジュースを買う。

 

「おや、千歌さん。奇遇ですね」

 

 蓋を開けて、みかんジュースを飲もうとしたその時、聞き馴染みのある声が耳に入ってきて、私は振り返る。

 

「黒澤先輩!」

 

 そこには屈託のない笑みを浮かべた黒澤先輩がいた。

 ズボンはいつも通りの制服だけど、上はワイシャツ姿で細身でありながら、引き締まった体がよくわかる。

 

「学園祭の準備ですか?」

 

 先輩は自動販売機でブラックコーヒーを買いながら世間話を始める。

 ブラックコーヒーなんて先輩は大人なんだなぁ。果南ちゃんだったら「苦いだけの何がいいんだ」ってたくさん砂糖をいれるんだろうな。

 

「はい! 先輩はどうして学校に?」

 

「いつもの通り、勉強しに来ました」

 

「わざわざ学校まで!? 坂とか大変じゃないですか?」

 

「僕はバイク通学なので特に関係ないですね」

 

 意外だった。まさか黒澤先輩がバイクを持っているなんて。

 確かに田舎でバスの本数も少なく、沼津とは距離があるからバイクがあると何かと便利なのだろう。果南ちゃんも沼津に買い出しに行くのにバイクがあると結構便利と言っていた。

 それにしても、先輩のバイクに跨る姿。きっと格好になるんだろうな。

 

「やっぱり先輩は真面目ですね。そんな毎日勉強なんて、千歌にはできないです」

 

「まぁ、受験生ですから。でも、千歌さんは2年生ですので来年は……」

 

「あ……そうですね……」

 

 私は苦笑いを浮かべる。

 ほんの一年前まで大人になっても旅館を手伝うつもりでいるから、大学には進学するつもりはなかった。でも、両親には将来何が起こるか、どんな道を進むかわからない。だから、選択肢を広げるためにも大学には行くべきと言われ、そもそも旅館を手伝いにしても教養が必要だからと耳に胼胝ができるくらい説明された。

 両親の話を聞いて、それならと一応は進学を考えているけれど、あんまり好きじゃない勉強を毎日しなくてはならないと思うと憂鬱で仕方がない。

 

「高海さん。今の内に勉強を習慣にしておくと、後に楽になります。夏休みなんか宿題があるので習慣付けにもってこいですが……ちゃんと宿題に手を付けていますか?」

 

「あはは……」

 

 私の愛想笑いで察した黒澤先輩は「全く」と呆れる。

 

「高海さん。宿題は持って来ていますか?」

 

「えっと……。少しだけ」

 

「よろしければ、用が済んだら図書室に来てください。少しなら宿題、見ますよ」

 

「そんな! 悪いですよ!」

 

 大事な受験勉強を時間を割いて、私の面倒を見てもらうなんておこがましいことを頼めるわけがない。

 だから断るものの、

 

「お気になさらず。却って復習にもなりますし、それに教えながらの方が頭に入りやすいので」

 

 と笑顔をで押し切られてしまう。

 

「そう……なんですか?」

 

 すると、先輩は短くと「えぇ」と言う。

 そう言われると何となく断りづらくなる。

 でも、迷惑じゃない。寧ろ、力になれるうえに宿題も片付くのなら、曜ちゃんが言う「うぃんうぃん」の関係なら、いいのかな。

 

「そ、それじゃあ、お言葉に甘えて……」

 

「ありがとうございます。では、図書館にいますので用が終わったら来てください」

 

 先輩はまるで子供みたいなあどけない笑みを浮かべる。そして、軽い足取りで図書室に繋がる廊下を歩いていく。

 凄い偶然というか何だろう。まさか、こんなタイミングで先輩と会うなんて、運命的なものを感じてしまう。

 それにしても、先輩はどうしてこんなに私を気に掛けてくれるのだろう。いや、親切にしてくれるのは嬉しい。

 でも、所詮は同じ学校の先輩と後輩。さらに生徒会や同じ部活に所属してもなく、接点なんて大してないないのに……。

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