コンプレックス・ラブ   作:シママシタ

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第19話

 八月三日。今日も真夏の太陽が内浦をギラギラと睨む。

 この暑さのおかげで体中から汗がだらり流れる。折角、お洒落な洋服用意して、慣れないお化粧もしたのに汗で落ちそうで怖い。

 それに……汗臭くなりそう。でも、志万姉から借りた香水を付けているから、多分大丈夫かな?

 

「凄く……緊張する」

 

 昨晩から私の鼓動はずっと激しく脈打っていた。

 それもそのはず。これから、私はあの大人気の黒澤先輩とデートをするのだ。

 まさか、黒澤先輩に告白されるなんて思いもしなかった。

 だって、生徒会長を任されて、勉強も運動もできる。人格者であって、ルックスもカッコよくてみんなの憧れの的。

 そんな人が何も私を好いてくれた。

 それもちゃんと理由をつけてくれた。

 何回か告白されたことはあった。その度に思った。どうして普通の私を好きになったのだろうと。でも、好きになった理由を聞いても答えてくれない。多分、言えないやましい理由があったのかな。顔だけが好きとか……罰ゲームで仕方なくしたとか。

 でも、黒澤先輩は違った。容姿、内面とかを含めて好きと正直に言ってくれた。

 それがとても嬉しかった、私の気持ち――果南ちゃんのことが好きだということを知って、そのうえで応援してくれるよ言ってくれた。

 だから、今日、黒澤先輩とのデートを受けた。

 本当に好きになってくれたのに、私はその思いを受け取ることができない、私の恋を応援してくれる。そんな誠実な先輩に対して、何もしないというのが私は嫌だった。

 

「おや、千歌さん」

 

「先輩……?」

 

 待ち合わせ場所――三津シーパラダイス前の停留所に着くと、既に黒澤先輩がいた。

 いつもの見慣れた学ランではなくて、お洒落な私服。スリムタイプのパンツはただでさえ長い黒澤先輩の脚をより一層長く見せる。

 私は慌てて、スマートフォンで時間を確認すら。今の時間は八時四十五分手前。一応、九時に待ち合わせると話していたのだけど……。

 流石に今日は遅刻するわけにもいかなくて、余裕をもって家を出たけど、先輩は

 

「お互い早く着いてしまいましたね」

 

「先輩……一体いつからいたんですか?」

 

「そうですね……もう十分以上前には待ってましたね。流石に女性を待たせるのは良くないことですし。それに恥ずかしながら……今日のデートが楽しみで張り切ってしまって……」

 

 黒澤先輩は恥ずかしそう笑いながら、打ち明ける。

 真面目な人だから大人びていた先輩のほんの僅かに垣間見えた子供っぽいところに所謂ギャップ萌えというのを感じた。

 

「でも、この炎天下の中でずっと待ってたら熱中症になっちゃいますよ?」

 

 すると、先輩はにこりと笑う。

 

「そういう当たり前に気遣いができることがあなたの良さなんですよ」

 

 恥ずかしくなって、私の顔は太陽みたいに熱くなる。

 

◇◇◇

 

 それから私達はバスで沼津駅まで出て、そこから電車を乗り継いで、目的地である御殿場のショッピングモールに着いた。

 

「やっぱり、広いですね」

 

 私はぐるりと全体を見回す。ショッピングモールだけど、まるで北米のような街並みでまるで海外旅行に来たみたい。でも、異国情緒溢れる中で富士山が綺麗に見えるのが、面白い異質さがあった。

 さらに子供が遊べる遊具や温泉もあり、ショッピングモールというより公園みたい。

 そして、夏休みということで家族連れ、そしてカップルらしき男女が楽しそうにショッピングを楽しんでいた。

 目を引くのがカップルらしき男女はみんな手を繋いでいたことだ。

 私は先輩の手を一瞥する。一応は今日はデートだから手を繋いだ方がいいのだろうか。でも、実際に付き合っているわけではないし、そもそも私は果南ちゃんに思いを寄せている。

 

「千歌さんはここに来たことがありますか」

 

「は、はい。家族と洋服とか買いに何回か」

 

「そうですか。僕は初めてなんです」

 

 私の悩みなど知る由もない先輩は笑みを向けてくる。

 でも、その笑みはどこか強張っていた。

 

「意外ですね。先輩ってお洒落だから、よく来てるのかと思ってました」

 

「習い事や勉強、家の用事で忙しくて買い物には行けないですね。基本的に買い物はネットで済ませてしまいますね」

 

 流石、由緒正しい家の長男。でも、自由な時間が少ないのは少し可哀そうだ。   

 

「それならオススメのお店、紹介しますよ!」

 

 折角のデートだ。互いに辛気臭くなるのは嫌だ。楽しんで幸せな思い出を作りたい。

 私は先輩の手を引いて、先輩に似合いそうな服が置いてあるオススメのお店へと連れて行く。

 

「……えぇ。連れていってください」

 

 先輩は憑き物が取れたような笑みを浮かべた。


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