時間は十二時少し手前。ショッピングモールに来てから早二時間経った。
私達はレストランで昼食を摂ることにした。
入り口の扉を開け、店内をぐるりと見回す。シックなお昼前ということで店内はお客さんでそれなりに賑わっていた。
案内された席は窓際。まるで映画のスクリーンのような窓から望めるショッピングモールと富士山の景色は中々、風情がある。
「いい席ですね」
「そうですね」
黒澤先輩はテーブルの傍らに立て掛けられていたメニューを手に取り、私に差し出す。
「そ、そんな! 先輩から先でいいですよ!」
「いえ、僕は少しゆっくりしたいので」
「ありがとうございます!」
私は先輩の好意を受け取るとメニューを目で追う。
目についたのはふわふわの黄金と錯覚するほど綺麗な黄色の卵にビーフシチューがかけられたオムライス。
「私、これにします」
「あぁ。美味しそうですね。なら、僕も同じのにします」
そう言うと、先輩はテーブルに置かれた呼び出しボタンを押し、店員さんを呼び。
フリフリとしたメイド服のような制服のかわいいウェイトレスさんがオーダーを取りに来る。
黒澤先輩は「オムライスを二つ」と注文する。
ウェイトレスさんは黒澤先輩の整った顔立ちから発せられ笑顔を浴びせられ、頬を赤らめながら「かしこまりました」とキッチン裏へと戻っていく。
イケメンって、時には罪なんだなって初めて痛感した。
オムライスが来るまで私達は色んな話をした。
私の趣味や黒澤先輩についての話。
話の中で驚いたのが黒澤先輩がハンバーグが嫌いだということ。
理由を聞いた時、私は思わず笑ってしまった。
幼い頃にとある師匠と呼ばれる人に大量にハンバーグを食べさせられて、それがトラウマになったのだと。
そんな他愛もない話を交えているといよいよ、お待ちかねのオムライスがやってきた。
私と黒澤先輩は同時にスプーンを持ち、「いただきます」と言って、オムライスを口にする。
「うん! 美味しい!」
「ケチャップの酸味も程よくて……本当に美味しいです」
先輩は半熟でトロトロの卵を被り、ビーフシチューがかかったオムライスに舌鼓を打つ。
何というか、同じ物を共有するのってなんかいいなと私は思った。
「千歌さん。頬にご飯粒、付いてますよ」
オムライスに夢中になっていると黒澤先輩は身を乗り出し、私の頬についたケチャップライスの粒を人差し指でそっと取ると、躊躇することなく、口に運ぶ。
「せ、先輩!?」
「……あっ」
私の慌てようにやっと自分が行ったことに気づく先輩。
「し、失礼しました! よくルビィにこういうことしてて、つい……」
黒澤先輩は視線を逸し、慌てふためく。
いつもはクールで真面目な先輩の珍しい姿を見れて、得した気分になる。
「先輩ってルビィちゃんと本当に仲がいいですね」
「高海さんだって、お姉さんがいるじゃないですか」
「そんなことないです。だって、美澄姉はいつも怒るし、馬鹿チカとか言ってくるですよ! 酷くないですか!」
確かに志摩姉は優しくて好きだ。
でも、美澄姉は私のことを小馬鹿にしてくるし、ちょっかいだってかけてくる。
そのことについて、あんまりいい言い方ではないけれど愚痴を零すと、
「いいお姉さんですね」
黒澤先輩はニコニコと笑っている。
「羨ましいです。高海さん達が。僕とルビィはそんなこと一切しませんからね」
「そうですか?」
黒澤先輩がルビィちゃんに「馬鹿ルビィ」と言う姿やちょっかいをかける様子を浮かべる。
全く想像つかない。真面目な黒澤先輩がそんな子供じみた事はしないし、ルビィちゃんもそんなこと言われたら何か泣いちゃいそうなイメージ。
悪くはない。私にとってはしっかりした兄とちょっと抜けた妹というのは理想の兄妹像だ。
でも、実際に私がルビィちゃんの代わりに先輩の妹として当てはめることを想像すると何か物足りなさを感じる。
「でも、黒澤先輩みたいな人がお兄ちゃんだったらなぁ」
「厳しいですよ。宿題やらなかったら、おやつ没収ですから」
「……やっぱり遠慮しておきます」
私がそう言うと黒澤先輩は楽しそうに笑った。