コンプレックス・ラブ   作:シママシタ

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第25話

 内浦から少し離れた大きな高級料亭。

 僕にとっては馴染みのある和室から望める日本庭園は流石と高級料亭と言ったところ。

 そんな場所で僕は許嫁の家族の方々と食事をすることになっている。

 

「ふむ。流石、ミシュランにも認められた料理だ。美味いな、鞠莉」

 

「そうね」

 

 黒いスーツ姿の僕の対面には紫色のドレスをを纏った鞠莉さんとタキシードの鞠莉さんの父がいる。

 そう、僕の許嫁というのは鞠莉さんだ。

 ドレス姿の鞠莉さんはとても美しい。

 いつもは少女らしい可憐さが振りまいているけど、今は少女というより、大人の女性のような気品と色気がある。

 ただ、その美しい姿には似合わない不満そうな表情なのが勿体ない。

 別に不愉快とは思わない。鞠莉さんの本心を知る僕にとって、寧ろ、そういう反応をするのは当然だと思う。

 

「それにしても、小原さんの娘さんは美しいですな。我が息子には勿体ない」

 

「当然ですとも。私の自慢の娘ですから。黒澤さんの息子さんも偉くイケメンでないですか」

 

 父と鞠莉さんはお酒を酌み交わしながら、笑い声をあげる。

 何も思いも籠もっていない、上辺だけの会話。

 こんなもののどこがいいのか。

 特に父は鞠莉さんの父に気に入られたいのか慎重に言葉を選んで、媚びを売る。

 この俗物が。僕はこんな大人には絶対になりたくないと心の奥で深く戒める。

 

「いやぁ、それにしてもダイヤ君が鞠莉の旦那さんなら安心だ」

 

「それは恐縮です」

 

「でも、いいのかい? 君はまだ若い。恋だってもっとしたい年頃だろう」

 

 鞠莉さんの父は顎に手を当て、僕を凝視する。

 まるで品定めをするかのように、本当に鞠莉さんを任せられるかどうか、判断したいのだろう。

 全身から嫌な汗が滲み出る。

 少しでも変な行動、間違った行動を取れば、即座に縁談は破棄され、黒澤家を繁栄を潰すことになるというプレッシャーと緊張はある。

 それ以上に僕の本心を見透かされている気がして、頭がおかしくなりそうだ。

 

「いえ、ダイヤは恋愛など……」

 

「あなたはダイヤ君ではないでしょう」

 

 余計な口を挟んだ父を鞠莉さんは睨みつける。

 父はまるで蛇に睨まれた蛙のように縮みこむ。

 情けない父だ。

 いっそ、本当のことを言って、全て終わらせても……いいや、僕の我儘でルビィに不自由を味わわせるわけにはいかない。

 僕の人生は僕だけの物ではないから。

 

「……もう恋は……しませんから」

 

「それは、今までしていたとでも?」

 

「はい。ですが、もういいんです。彼女には僕ではない他の好きな人がいるので」

 

「ほぉ。君のような素晴らしい人に好意を寄せられながらも、別の男を選ぶとは随分勿体ないと思うな」

 

「えぇ。全く、その通りです」

 

 僕は乾いた笑いをする。

 千歌さんと松浦果南は互いに思い合っている。それなら思い合っている者同士で結ばれた方が幸せに決まっている。

 だから、身を引いた。僕では千歌さんの心に付け入る隙はないのだから。

 男としていさぎよい最後を迎えるべきなんだ。

 

「ダイヤ……」

 

「君は優しすぎる男だ。気にいった」

 

 鞠莉さんの父は頬は緩み、初めて柔らかな笑みを見せる。

 何とか山場を越えたことを痛感した僕は気が緩む。

 その勢いで倒れそうになるけど、必死に耐える。

 

「いい男じゃないか。あんなファッキンウォーターコングよりも断然にな」

 

「えっと……小原さん?」

 

 すると、鞠莉さんの父は放送禁止用語を平然と話した後に拳を固く握り締める。

 

「ダイヤ君。鞠莉の近くにはね、悪影響を及ぼす害獣がいるんだよ。無茶苦茶で粗暴でそれはもう迷惑な奴がね」

 

「近く……あぁ」

 

 僕はすぐにその害獣の姿が思い浮かんだ。

 近く……淡島にいて、ゴリラと例えられる粗暴な生物なんて松浦果南一択だろう。

 不意に大嫌いな松浦果南の顔が思い浮かんでしまい、僕は顔を顰める。

 

「何度も鞠莉を外に連れ出したりするもんだから、私達は頭を悩ませたよ。隙があるなら、海に沈めようとも思ったさ。だがねぇ、鞠莉がそんな男を……」

 

「パパ! その話はしなくていいでしょ!」

 

「おお、Sorry」

 

 激しく、熱く語る鞠莉さんの父の話を鞠莉さんが遮る。

 鞠莉さんの白い頬は真っ赤に染まっている。

 いつもは余裕をかましているから、恥ずかしがる鞠莉さんはギャップがあって、可愛らしいと思った。

 

「もういい!」

 

 すると、鞠莉さんはスッと立ち上がり、僕に視線を向ける。

 少し、二人きりになりましょうと目で伝えているような気がした。

 

「すいません。お義父様。少し、席を外しても……」

 

「いいとも。ダイヤ君は一応、鞠莉の夫になるのだから付いてやってくれ」

 

 空気が読んだ鞠莉さんの父は快く、受け入れてくれた。

 僕は「ありがとうございます」と頭を軽く下げながら、立ち上がる。

 そして、鞠莉さんの元に向かおうとしその時、「少し耳を貸してくれ」と鞠莉さんの父に手招きをされる。

 一体、何だろうと恐る恐る、鞠莉さんの父の傍に行く。

 

「ダイヤ君の背負っているものは私は理解している。君は凄く立派だ。そこは誇っていい」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「だからこそアドバイスをさせてもらう。もう少し、貪欲な獣になるといい。少し、強引なくらいが男としての魅力は高い。例えば、私達が嫌いな松浦果南ようにな」

 

 

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