俺は机に頬杖をついて、メイド服姿で給仕する千歌を目で追う。
普通に可愛いと思った。やっぱりコスプレ感は歪めないが千歌の幼い顔つきが逆にマッチしていて、アイドルのような可愛さがあった。
「あらあら。中々hotな眼差しを向けるじゃない」
隣から鞠莉が肩を小突いてくる。
「いや、千歌のあんな姿は見なきゃ損だろ」
「それは好きな人だから?」
「加えて面白いから」
無論、好きな人の可愛らしい姿は見ていたい。
だけど、人によっては恥ずかしい姿をからかってやりたいという悪戯心があるのは否定しない。
すると、鞠莉は「わかるわ」と同意するかのように首を縦に振る。
「ねぇ、千歌っちと同棲して、メイド服姿で出迎えくれたらどうする?」
「メイド服でか……」
家に帰り、玄関を開けるとそこにはメイド服姿の千歌が出迎えてくれるのを想像した。
いや、いくら何でも非日常すぎる。低クオリティのAVか。
「いや、ありえないな。何か違和感しかない」
「そう? 普通だと思うけど」
「一般庶民と金持ちを一緒にしないでもらいたい」
鞠莉と住む世界が違うことを改めて実感し、呆れていた時だ。
「こんな格好……破廉恥だ!」
ダイヤが頬を真っ赤にしながら体をプルプルと震わせている。
そして、机を軽く叩く。
「Oh! ダイヤの台パン!」
「お前、さっきから同じことしか言ってないけどどうした?」
「どうしたもないでしょう! あんな不健全な格好を……あろうことか学園祭でやろうなんて!」
「不健全って……お前さぁ……これくらいはいいだろう」
「これくらい!? 神聖な学舎においてこんな不埒な格好は到底看過できない!」
大きな溜息を吐く。
確かに真面目……というか融通が利かないレベルのクソ真面目なダイヤにとってはメイド服のコスプレはかなり刺激が強いのだろう。つーか、こいつはマイクロビキニだったり、童貞を殺すセーターを見たらどうなんだ。特に校舎なんか文字通り、憤死しそうだな。
「そう? メイド服ってそんなSexyかしら?」
「確かに鞠莉の言う通りだ。別に胸元を開けて、谷間を見せつけているわけではないしな」
「何を!? あんなに脚を出して、その……スカートの中が……」
「いや、制服だってミニスカートだし。まぁ、ニーハイは人によってはそそるだろうがそんな制服だって同じことを言えるだろうが。下着なんて見ようとしなければ見えないだろう。それにああいう際どい衣装は見えてもいいパンツなんだぜ。だから気にする奴なんて殆どいないんだがなぁ?」
「あっ……いや、その……」
「あらあら。もしかして、ダイヤぁ?」
俺の反論を聞いて、ダイヤは顔を引きつらせ、大量の汗を流す。
俺と鞠莉は顔を合わせてニヤニヤと笑う。
あんなお堅いダイヤが隙を見せたんだ。この隙を見逃すほど俺達は出来た子供じゃない。
「もしかして、千歌っちのパンツが気になっていたのね
?」
「いやいや。鞠莉君。あんな皆から慕われる生徒会長で成績優秀で才色兼備な絵に描いた優等生で真面目なダイヤ君がそんなムッツリスケベなはずないでしょうねぇ?」
「Sorry! 果南君。そうよねあの真面目で硬派と人気なダイヤ君がそんな変態なわけないわよねぇ? そんなニーハイで少し太ももを出しているだけでドギマギして、そもそもメイドを破廉恥な存在として認識しているわけないわよねぇ?」
「そうそう。メイドが破廉恥な存在なんてエロ本やAVじゃないんだから。鞠莉は実際にメイドさんがいるからそんなことよくわかってるもんなぁ?」
「Of course! 最近、聞いたけど真面目な人程変態らしいわ。まぁ、あんなのは嘘よ」
「それはどうしてだい?」
「ダイヤを見ればわかるでしょう?」
「確かに! そりゃあ、納得だ! ダイヤは変態でもムッッッツリスケベでもないもんなぁ!」
俺と鞠莉は悪魔のような笑みを浮かべながら、ダイヤを煽る。時々、ダイヤを一瞥して、反応を確かめる。
ダイヤは机に伏して、小刻みに震えている。
あぁ、最高だ。笑いが止まらない。あのダイヤがボコボコにやられ、恥辱と屈辱に押し潰されて、赤っ恥を書いている。それも自分が撒いた種で。
その様子を見ているのが今まで生きていた中で上位に入り込むくらい愉快で愉悦だ。
「もう……殺してくれ……」
「えぇ? ダイヤ君? なんて言ったのかい? 聞こえないなぁ?」
「好きなように……やれぇ!」
まるでエロ漫画の女騎士みたいなことを言い出し、俺は吹き出しそうになる。
男のくっ殺なんてそそらないと思ったが、認識が変わった。
堪らねぇなぁ。
でも、少し安心も覚えた。
ダイヤも男なんだって。ちゃんと年相応の女性の興味や欲望、下心を持っていること。
そして、他人が思っているような完璧超人なんかじゃなくて、ちゃんと欠点も人間性もある血の通った人間なんだって思った。