「もう何やってるの?」
ダイヤへのからかいに満足していると曜が不満そうに割って入ってくる。
曜もまた千歌と同じでメイド服姿だ。
ただ一つ違う点があるなら雰囲気か。というのも千歌はかなりの恥ずかしさと照れが見えていたが曜はそんなものは一切感じられない。逆に私を見ろと堂々とさえしている。
確かメイド喫茶を提案したのは曜だと千歌と梨子から聞いていた。元々、制服が好きで時よりコスプレをしているのは知っていた。曜にとってはメイド服も制服扱いなんだろうか。だから、提案したんだろうが、どう考えても個人的趣向が強すぎる。
とツッコミはするが曜のおかげで千歌のメイド服姿を見れたんだから、頭が全く上がらない。
今度、何かプレゼントとでもするべきか。
「いやぁ、ダイヤが想像以上に生真面目でさ。イジるのが楽しくなっちまった」
「もう! 一応、メイド喫茶なんだから私達との会話を楽しんでよ!」
曜の言うことを最もだ。
メイド喫茶でメイドの女の子と話さずに男をからかうなんて本当に何しに来たと思う。だったらホストクラブに行けとなる。
だが、曜には一つ反論することがある。
「確かにそうだな。だけど、全然そのメイドが来ないもんだからさ」
「あぁ……それは……」
すると、曜は笑いながら視線を教室の隅に向ける。
俺もその視線の先を見る。
教室の隅はパーテーションを囲むように並べた控室が作られていた。その控室の出入り口では千歌と曜が隠れて、コソコソとこっちを見ていた。
「Oh! 初々しくて可愛いわ!」
「ほら、千歌ちゃん! こっちに来ないとダメだよ!」
「よ、曜ちゃんが代わりにやってよ!」
「なるほどねぇ」
本来、給仕しないといけない千歌があまりの恥ずかしさに表に出れないのだ。
いや、気持ちはわかる。俺もメイド服みたいな格好で人前に出るなんて嫌だ。
特に知り合いや好きな人の前になんて絶対ごめんだ。
「私じゃ面白くないよ! やっぱり二人がやらないと!」
「でも……」
「わかった! それじゃあ、梨子ちゃんと二人ならできる?」
「え!? なんで!?」
別の人達に接客していた梨子は思わず素っ頓狂な声をあげて、こっちに振り返った。
それは梨子にとっては悪魔の一言だろう。
というか犠牲者を増やしてどうすんだ。
「もうメイド喫茶なら当然でしょ?」
「そうだけど……」
すると、梨子も顔を赤らめ、千歌と同じでその場から動こうとしない。
「全く、果南はGuiltyな男ね」
「お前に言われると何も言い返せない……」
鞠莉が肘で小突いて、こっちを見てくる。
口角は上がっていたけど、目は明らかに笑っていなかった。
なんだか昼ドラに登場する男の気持ちと罪深さが分かった気がする。
「マリーは二人のServiceを体験したいわ!」
まるで仮面を被ったかのように笑顔を浮かべる鞠莉はそのまま我儘を言い始める。
「だけど……」
「しないなら留年させちゃうかも」
「職権乱用じゃねぇか!?」
笑顔でとんでもないことを言い放ち、教室にいる誰もが一斉に鞠莉を凝視する。
たかが文化祭。それも客に給仕するだけで勉学に関係ないこと。それなのにしないのなら留年って不細工な冗談だ。
問題はその冗談をあろうことか理事長である鞠莉が言ったことだ。理事長ならそんな権限……は流石にないだろうが、正直な話だが、鞠莉ならやりかねない。
「ほら、鞠莉ちゃんもそう言っているんだし。ねっ!」
またしても恐ろしいのが鞠莉の我儘に乗っかる曜だ。
どんだけやらしたいんだ……。
すると、千歌と梨子は視線を合わせる。
もう逃げられないと悟ったのだろう。大きな溜息を吐いて、二人で控室に戻る。
次に出てきた時にはパンケーキが乗ったお皿を三枚持ってきた。
「パンケーキか……って何にも乗ってないが」
「まぁまぁ、果南ちゃん。焦らないで待ってて」
「こ、コホン! ご主人様! このパンケーキはこのままでも美味しいのですが、もっとも〜っと美味しくする為におまじないをかけますね!」
「それでは千歌達のた〜っぷり愛情がこもった魔法のペンでパンケーキに絵を描きますね」
振り切ったような笑みを浮かべながら、千歌と梨子は精一杯のサービスを提供する。
その後ろでは鬼教官のように腰に手を当て、ジーッと見守っている曜。甘さと辛さのギャップが凄まじい。
そして、千歌と梨子はパンケーキにハートを描く。
「それでは最後にと〜っておきのおまじないをかけるのでご主人様達! 両手でハートを作ってください!」
「おう! ほら、ダイヤもやれって」
露骨に視線を逸らすダイヤの肩を叩く。
唇を尖らせながら、不満そうにしながらも何だかんだでハートを作る。
「「それでは美味しくなるおまじないをかけま〜す! せ〜の! お……美味しくなぁ〜れ! 萌え☆萌え☆きゅん♡」」
美女二人による可愛らしい仕草をし、恥らいながらおまじないをかける。
顔、衣装、表情、仕草、言葉の全てが噛み合い、魅力が限界突破。
まるで世界が一転した気がした。
「Wao! Very pretty!」
鞠莉はあまりの可愛さに大絶賛し、後ろで見守っていた曜と満足そうに頷いている。
確かにこれはいい。メイド喫茶激戦区の秋葉原でも十分戦っていけると思った。
本場のメイド喫茶に行ったことはないから詳しいことはわからないが。
すると、隣でバタンと誰が倒れる音がする。
「ダ、ダイヤさん!?」
「は、ハレン……」
視線を横に移す。
案の定、ダイヤだった。
俺ははぁと溜息を吐いて、ダイヤの首に手を当てる。
「果南……脈は……」
今にも吹き出しそうな鞠莉は俺も笑いを堪えながら首を横に振る。
「そんな……ダイヤが死んだ!」
「原因は尊死。死亡時刻は午前……」
「二人ともふざけてないで、早く保健室に連れて行かない
と!」
最早コントとも言える絡みをしていると真面目に千歌から叱られる
俺と鞠莉は「ごめんなさい」と謝る。そして、俺は気絶するダイヤを背負う。
「何かしょうもない理由だけど保健室に連れて行くぞ。千歌も来るか?」
「なんで?」
「だって心配だろ?」
見ればわかる。千歌の顔には明らかに不安と心配の色が塗りたくられている。
まぁ、自分を好いてくれている相手が急に倒れたんだ。無理もないだろう。
正直、心配なんて呆れてしまうくらいどうしようもない理由で倒れたんだけど。
「確かに果南ちゃんとダイヤさんを二人きりにしたら大変なことになりそうだしね。千歌ちゃんも付いていってもいいよ」
「うん……わかった!」
「いや、寝込みを襲うほどの外道じゃないが……」
曜の台詞が腑に落ちないと思った時だ。曜が目配せをしてくる。
まるでお膳立てはしたよと言わんばかりに。
「……悪いな」
「果南ちゃん? 何か言った?」
「いいや。取り敢えず、この頑固男を保健室に連れて行くぞ」
そして、俺達は保険室へと向かった。
この前もダイヤが倒れて、保健室に連れて行ったことを思い出す。
だけど、あの時とは違って、今はわだかまりなんて一切なく、清々しい関係であった。