それから私達は保健室に到着し、ダイヤさんをベッドに寝かせた。
悪夢に魘されているかのように眉を顰めていたから目覚めるまで付き添っていようと思っていたけど、養護教諭の先生からは「見ておくから楽しんできなさい」と言われた。
それに果南ちゃんからも自業自得だから放って置いたほうがいいのと、折角の文化祭なのに自分のせいで楽しむ時間が減ったらそれこそダイヤが一番望まないことだと念を押された。
確かに優しくて真面目なダイヤさんが文化祭をそっちのけで看病していたと聞いたらきっと時間を奪ってしまったと罪悪感を感じるはず。
だから、心苦しいけれどダイヤさんの為にも傍から離れた方がいいと思い、私は果南ちゃんと一緒に保健室に後にした。
「余程、千歌のおまじないが効いたようだな」
「なんか、申し訳ないよ……」
「別に千歌が落ち込むことはないって。こいつに馬鹿にするほど耐性がなかっただけだ。まぁ、いい毒になっただろう」
「それを言うなら毒じゃなくて薬だよ」
そう指摘すると果南ちゃんは「そうだっけ」とケラケラと笑い出す。
「なんか、思い出すな。あの時のこと」
「うん。ダイヤさんが倒れた時があったよね」
「あの時さ。ダイヤが倒れる直前、俺に恨み節を吐いていたんだ」
「そ、そうなの!?」
「あぁ。嫌われているのはわかっていたけど流石にあの時は堪えたよ。だけど、今はこんな間抜けなことで倒れてさ。本当に馬鹿になったよ。こいつも……俺も」
「二人とも……すごい変わったよね」
今の果南ちゃんは本当に楽しそうだ。今までダイヤさんと一緒にいる時は嫌そうな顔をしていたり、露骨に敵意を剥き出しにしていたから本当に正反対だ。
なんか、親友って感じがした。ただ仲良いだけじゃなくて、お互いに嫌いなところやダメなところを知っていて、指摘しあえる。
助け合う仲間でもあり、競い合うライバルでもある関係性は何だか男の子らしくて、性別の違う私には少し羨ましく思えた。
「あぁ、変わったよ。だけど、変えてくれたのは千歌なんだぜ」
「わ、私!?」
「きっと千歌にいなければ俺達は変わろうとしなくて、つまらない男として終わっていた。ありがとう、千歌」
「そんなこと……ないよ……私は……」
「千歌はさ。自分が思っているよりも滅茶苦茶魅力的なんだぜ。だから、認めてもいいじゃないか? 自分をさ」
果南ちゃんの言葉を聞いてダイヤさんの言葉を思い出した。
ダイヤさんにとって私は特別な存在。その言葉の意味がようやく理解できた。
特別な存在だからこそ、見ていてほしい。傍にいてほしい。そのために自分を磨き、変わる必要がある。自分本位なんだけど、それがきっと恋なんだと思う。
私も同じにならなくちゃいけない。
私も二人と同じように変わらなくちゃいけない。
そうじゃないと私を好いてくれた二人に合わせる顔がない。
下を向いてばかりじゃなくて、ちゃんと前を向かなくちゃ。
「……わかったよ。果南ちゃん。私はもう……自分を普通だと思わない」
「そうか!」
果南ちゃんは満面の笑みを浮かべる。
「んじゃあ、ダイヤも安心で千歌にも自信が付いたということで」
すると、果南ちゃんは私に手を差し伸べる。
「これから一緒に文化祭を楽しもうか!」
「こ、これから!?」
「おう! そうだ!」
「いいけど、着替えてからでも……」
「そのままで良くないか?」
「それは恥ずかしいよ!」
確かに果南ちゃんと一緒に文化祭を楽しみたい。だけど、メイド姿で巡るのはかなり恥ずかしい。
何だって、保健室に行くまでの道中、色んな人の視線を感じて、とても恥ずかしかった。
そんな私の気持ちとは真逆に果南ちゃんは不満そうな顔を浮かべていた。
「折角そんな格好してんだからさ。制服ディズニーみたいな感じで楽しみたいんだよ」
「で、でも!?」
「なに。その姿で校内を歩いていればそれだけで宣伝になるだろ? 一石二鳥ってやつだよ!」
「私にはなんにもいいことがないよぉ!」
私の必死の叫びが校内に響いた。