周りから異様な程の注目を浴びる。
ただ、廊下を歩いているだけで校内、校外の生徒問わず。
別に注目を浴びるのは慣れている。
自分で言うのもナルシストみたいで気持ち悪いがそれなりに女子達から言い寄られることはあるし、何より厳つい見た目のおかげで横を通り過ぎるだけで大抵の人から怯えられている。
それだけ目立つ見た目と雰囲気があるんだろう。だから、いつもは注目されていると気づいても気にしないようにしている。
だけど、今日は一味違う。
俺は後ろを一瞥する。背中にピッタリと張り付き、顔を隠している千歌がいた。
「なぁ、歩き辛くないか?」
「い、いいから!」
千歌の声は震えていた。
きっと恥ずかしいのだろう。
それもそのはず。今の千歌の格好はメイド服。ただ、出し物の一環で装うならまだしもわざわざ同じ格好のまま文化祭を巡るとなると話は変わる。
「あの女の子……滅茶苦茶可愛い!」
「メイド服かぁ……いいなぁ」
「ほら、千歌。みんな可愛いってさ」
「か、からかわないでよ!」
特に今はすれ違う人達に全員に注目されてなおさら恥ずかしい。
そして、
「あ、あの!」
後ろの千歌に気を取られていると前から二人組の女子中学生に声をかけられる。
「どうしたんだい?」
「その……一緒に写真を撮りたいんですが……」
「おう! 俺は構わないが……」
すると、千歌はゆっくりと俺から離れる。
俺がこうやって女性から声をかけられるところを何度も見ているからか、お邪魔にならないようにと千歌は気を利かせてくれる。
「ありがとうございます!」
すると、女子中学生は満面の笑みを浮かべる。
それじゃあ、少しでも写真の写りを良く見せようと髪の毛を弄り始めた時だ。
一人の女子中学生がスマホを渡してくる。
そして、俺を素通りして後ろに千歌の元に向かう。
「一緒に写真を撮ってください!」
「えっ……えぇぇぇぇ!?」
予想外の展開に千歌は驚きを隠せない。
隠すどころかどこぞの六つ子が活躍する有名な漫画に登場する嫌味ったらしい出っ歯のキャラがやるようなポーズをし、体で表現する。
「あの……滅茶苦茶可愛いです!」
「か、可愛い!?」
「はい! とても似合っています! アイドルみたいで!」
「ア、アイドル!?」
女子中学生の一等星のような輝きを放つ純粋な眼差しに千歌の顔は真っ赤に染まっていく。
絶対自分ではわかってないけど千歌は可愛いんだ。別の世界があるならきっとアイドルなんかやっていてもおかしくないくらい。
だから、自信を持って欲しい。
昔から千歌はネガティブだから、きっとこんな荒療治でもしないと周りからどう評価されているのか知る由もない。
「それじゃあ、撮るよ」
手渡されたスマホを構える。
照れる千歌の隣に女子中学生二人が立ち、満面の笑みでピースをする。
「はい、チーズ!」
シャッターボタンを押す瞬間、千歌もピースをする。
満面の笑みとは言い難い、照れの混じった笑顔。その表情は何だか妙な魅力があって、鼓動が早くなる。
そして、その魅力ある姿が一枚なデータになる。
「ありがとうございます!」
「あぁ。どうぞ」
二人の女子中学生にスマホを返す。
俺にもこの画像を送ってくれないかと頼みたかったが、流石に気持ちが悪いだろうとグッと堪える。
「あの……お二人はどういう関係ですか?」
「俺達の関係か……」
女子中学生達の質問に千歌は言い淀む。
明確なのは幼馴染みだ。これには嘘偽りがない。
だけど、俺は千歌が好きだ。本音を言うならただの幼馴染みで終わらせたくはない。
「幼馴染だな……今は」
さり気なく千歌の肩を抱き、引き寄せる。
「今は!?」
「それはどういう意味ですか!?」
「さぁ? どういう意味なんだろうね」
含みのある言い方をすると女子中学生達はお互いに目を合わせる。
そして、小さく黄色の歓声をあげる。
千歌もそんなこと言うのかと驚きの表情を浮かべている。
「そ、その邪魔してすみません! お写真ありがとうございました!」
「す、末永くお幸せに!」
「いや、謝らなくていいし、だから、まだって……」
俺と千歌の関係性を察した……というより誤解した二人は慌てて礼を言って、そのまま走り去ってしまった。
「もう……果南ちゃんは……」
「す、すまねぇ……」
恐る恐る、千歌に視線を移す。
千歌はまるでふぐのように頬を膨らませている。
でも、不機嫌そうな様子はない。どちらかと言えば笑い吹き出しそうになるのを堪えている感じだ。
「……私ってそんなに可愛い?」
「可愛いって……」
「だって、あんなに可愛いって言われたら……嫌でも気になるよ……」
写真をせがまれてようやく千歌は自分の魅力に気付けたようだ。
ほっとした。やっと一歩、前に進めたと思ったから。
「あぁ、滅茶苦茶可愛い」
「め、滅茶苦茶!?」
「だって、中学校の頃から男子の中じゃ曜とツートップで人気だったぜ。なんなら、告白しようとした奴なんてたくさんいたし」
「え!? でも、告白されたことなんて一度も……」
「……全部、俺が阻止した」
「……本当に?」
黙って首を縦に振る。
「いや、千歌が他の男に取られたくないと思ってさ……」
「ふ〜ん」
「もしかして、怒ってる?」
「怒ってはないけど……そんな前から私のことが……好きだったの?」
「まぁ、相当前から……」
気まずい。千歌の視線が痛い。
なら、早く言えば良かったのにと目で訴えていた。
「果南ちゃんって結構、意気地なし?」
「はうっ!?」
言葉が鋭い針になって、心に突き刺さる。
ごもっともだ。ずっと、ずっと千歌への思いを伝えられなかったことで千歌自身を傷つけてしまった。
これに関しては深く悔い改めないといけない。
「じょ、冗談だよ! でも、こう考えると果南ちゃんも変わったなって」
「まぁ、確かに……変わったな。……癪だがそれに関してはダイヤにケツを叩かれたからかな」
「私達、ダイヤさんに助けられたんだなぁ」
「あぁ、気に食わないけど」
本当に気に食わない。
あいつがいるからどちらが千歌の手を取るか争いが生まれてしまった。
だけど、あいつがいなければそもそも俺は千歌に告白することもできなかった。
いなければよかったのに思いつつ、いなければ今の俺がいないという背中合わせの感情を抱かされ、本当に嫌いになる。
でも、そういう負の感情ばかりじゃない。
「……千歌。お前がダイヤを選んだら、ちゃんと身を引くから」
「果南ちゃん……」
「あいつはバカ真面目だけど……何だかんだいい奴だし……信頼はできる。どこぞの男にくれてやるくらいならダイヤに任せたいと思っているしな」
ダイヤのことは気に食わないし、嫌いだが憎いわけじゃない。
千歌がダイヤを選んでも納得だってできる。
あいつは頭も良くて、俺以外には礼儀正しいし、優しい。
何より俺と同じくらい千歌を愛している。だから、一人の男として、あいつを認めざるを得ない。
そういうカリスマ性もまた、あいつの気に食わない部分の一つでもあるが。
「羨ましいなぁ」
「羨ましい?」
ダイヤのことを話す俺を見て、千歌が微笑む。
「なんか、男の友情って感じで羨ましいなって」
「あいつとの友情なんて……反吐が出そうだ」
ダイヤとの友情なんてありえない。
だって、生徒会長と不良という正反対の存在が交わるわけなんてない。
いや、でも交わっている。
千歌を唯一の共通点として、俺とダイヤは交わった。
そう考えると俺とダイヤは似ていないようで実は似た者同士なのかと思ってしまう。
「本当……気に食わない奴だ」
口角が少しだけ上がった気がした。