お化け屋敷の列に並んでから、約十分。ようやく私達の番が来た。
待っている間、いつもは私を楽しませようと喋り続ける果南ちゃんだけど、今回はずっと黙っていた。
きっと怖いんだろう。教室から悲鳴が聞こえた時なんかビクッと震えていたし、他の人が怯えながら教室から出てきた時はブルブル震えていた。
「く、暗いな……中々」
暗くて顔がよく見えないけれど、その震えた声色からわかる。
心の底から怖がっている。
それに足取りもいつもよりも遅い。
もしかしたら、他の人なら情けないと落胆するかもしれないけど、私は何かしら欠点がある方が何というか人間味があるから受け入れられる。
寧ろ、ギャップを感じられて好きだ。
でも、正直心配だ。こんなに怯えていたら、いざ幽霊役の人が脅かしにきたら、いよいよ心臓が止まってしまうと思ってしまうくらいだから。
「果南ちゃん? 大丈夫?」
「へへへ平気よ! どうせガキが作った子供騙しだ……」
本当に怖いにも関わらず、見栄を張ったその瞬間だ。
「心霊パワー注入!」
「ぎゃあああ!」
「果南ちゃん!?」
それはもう耳が痛くなるくらいの野太くて大きな悲鳴。
後ろから女子生徒に脅かされただけにも関わらず、とんでもない驚き様に思わず笑いそうになる。
だけど、笑ってしまうと果南ちゃんが本当に可愛そうになるから必死に堪える。
「……いやぁ……足元にゴキブリがいてビッグリし……」
「ピギィィィィ!」
「ぬおぉぉ!」
まるで小動物のような悲鳴を聞き、果南ちゃんは兎のように飛び上がる。
「リ、リタイアした方が……」
「こんなところで逃げるなんて男じゃ……!」
正直、これ以上怖い思いさせるのは可愛そうだとリタイアした方がいいかと思うけれど、果南ちゃんにとってはここで怯えるよりも逃げ出す方が恥なんだろく。
怯えながらも只管前に進む。
どんな苦手なことでも気合いで乗り切ろうとするのは流石の果南ちゃんだと思った。
どんな立場から言ってるんだと自嘲した瞬間。私の頬にぬめりと冷たい何かが当たる。
「きゃあ!」
思わず悲鳴を上げて、果南ちゃんに抱き着いてしまう。
「大丈夫か!?」
果南ちゃんは一瞬、ビクリと体を震わすものの、怯える私を見て、覚悟を決めたように表情を引き締める。
「怖かったら、俺の後ろにいな」
「う、うん」
果南ちゃんに甘えて、後ろに隠れる。
懐かしいと思った。
幼い頃、近所の男の子達と喧嘩して、殴られそうになった時、今のように果南ちゃんが私を後ろに隠して、守ってくれた。
あの時と変わらない大きな背中。
あぁ、やっぱり果南ちゃんの後ろ姿はかっこいいんだ。
それから果南ちゃんの制服を掴みながら歩いているとようやく光が見えてきた。出口だ。
でも、そう簡単に終わってはお化け屋敷での面白さはない。
出口の横にはダンボールで作った井戸があって、そこから背を向けた小柄な女の子が出てくる。
「罹亡ちゃんボード『この恨み、祓うべきか』」
幽霊役の女の子が振り返ると恐ろしい般若の顔が描かれたスケッチボードを顔を付けていた。
まるで本物のように描かれた顔は本当に怖くて、私は小さく悲鳴を出してしまった。
でも、果南ちゃんは悲鳴の一つも出さない。
あまりにも怖くて声が出ないんじゃない。
私が後ろにいて、守らなくちゃいけないという使命感から恐怖を感じてないんだ。
後ろから見ていてもわかる。恐怖で崩れていた顔つきがいつの間にか引き締まっていて、まるでファンタジーゲームに登場する勇者のように私は見えた。
「大丈夫だ。千歌は俺がいるから怖くない」
いつものかっこいい声色の果南ちゃんは本当に頼りになる。
もう怖さなんて何も感じない。お化け屋敷でそういう感情はお化け役の人に失礼かなと思いつつ、私は果南ちゃんと一緒にお化け屋敷を出た。
「ふわぁ〜〜。中々怖かった〜〜」
出た瞬間だ。
緊張の糸がぷつりと切れたんだろう。果南ちゃんは全体重をかけて、壁に寄りかかると大きな溜息を吐く。まるで魂までも一緒に漏れ出たかのような感じがした。
「うん。中々怖かったね」
「……不甲斐ないと思った?」
直前の果南ちゃんとは打って変わって子犬のような弱々しい眼差しを向けてくる。
「ううん! 果南ちゃんはすっごくかっこよかったよ!!」
私は笑って否定した。