「次は落ち着いたところにしようよ」
「そうだな。お化け屋敷でかなり疲れたしな」
お化け屋敷の後、驚きで疲れ切った俺達はゆっくりと歩きながら次の出し物を探す。
落ち着ける場所か。それなら食べ物を扱っているところがいいかと考えていたが、どうやら皆考えることが同じらしく食べ物系はどこも混雑していた。
万が一、入れたとしても後の人が気になってゆっくりできない。
じゃあ、どこにしようかと探している。
「ねぇ……占いだって」
「占い……って、趣味の悪い看板だ」
すると、千歌がある出し物を恐る恐る指差す。
俺はあまりの出来の悪い看板に思わず顔を引きつらせる。
黒い羽や赤い血糊という怪しい装飾で飾られ、既視感のあるピラミッドと瞳のマークや魔法陣がか描かれた看板が立てられている。正直、占いよりお化け屋敷の看板の方が似合うと思う。
だが、お化け屋敷とは真逆に列がなく、全く盛り上がっていない。
看板の出来からして人を寄せ付けない雰囲気を出しているがそれ以外にも扉に備え付けられた窓ガラスを黒い斜光カーテンが覆っていて、中が見えないのも入るのを躊躇わせる原因の一つだ。
すると、千歌が看板に顔を近づけると『占い』と書かれた文字の横に書かれた名前を見つける。
「黒魔術研究会? 聞いたことないね」
「……あいつらか」
黒魔術研究会。これが一番、人を遠ざけている原因だと俺は確信した。
名前からして怪しいそれもある。しかし、千歌の言う通り、この部活は知名度はかなり低い。俺はこの部活に所属する奴らに面識があるから知っているがこの学校内でも片手で数えるくらいしか、知っている人はいない。
「やぁん!」
「えっ!? 何!? 今の声は!?」
「あのアホ共が……」
突如、教室からいかがわしい声が聞こえてくる。
千歌は身構えてなかったこともあって、その声の意味に気づくことができていない。
だけど、あの二人の関係性を嫌という程知る俺にとっては勘付いてしまった。
こんな声が聞こえてきたら誰も入ってこないに決まっている。
俺は深く溜息を吐きながら乱雑に扉を開ける。
「ちょっと……ズラ丸! 人来たら……!」
「大丈夫だって。こんなところに来る人なんていないズラ。それにスリルがあって興奮するでしょ?」
教室は部屋の隅に置かれた蝋燭を模したランプで薄暗い。備え付けられた窓も黒い斜光カーテンで日光が遮られている。
真ん中には黒いパーテーションで囲われた小さな部屋ができていて、そこから聞き馴染みのある男女二人組の声が聞こえてくる。
二人は人が来ないことと暗くて見えにくいのをいいことにやましいことをしようとしている。
あいつららしいと思えばそれだけなんだが、外部から人が来ているこの文化祭を肴にするのは不良の俺でも無視できない。ダイヤなら絶対にキレて、退学なんて選択肢を突きつけてきそだ。
「おい花丸と善子の馬鹿野郎共! 客が来てやったぞ」
俺は馬鹿二人組の名前を呼ぶとパーテーションの裏から驚きの悲鳴が上がる。
盛り上がり過ぎて、人が入ってきたことにすら気づいていなかったのか。
「あ、果南ちゃん。どうしたの?」
ガラリとパーテーションそのものを動かし、花丸がカチャカチャとベルトを弄りながら出てきた。妙な生々しい行動にただただ、不愉快でしかなかった。
「お前ら……文化祭で何やってんだよ……」
「そりゃあ、ナニだよ」
「……住職の孫が煩悩に塗れすぎだ」
「お坊さんなんて色欲の塊だよ。古来からあの手この手使って盛り合ってたんだよ。今更そんなこと言われてもどうしようもないずら」
「だからって時と場所を弁えろよ!」
「それは……正論だね」
「……なんで俺が説教してんだよ……」
「本当ずら」
「お前が言うな!」
俺は花丸の頭に結構強めのチョップする。
やはり効いたのか頭を抑えて、その場で蹲る。
「それで客ってどういう……」
花丸は顔を上げると廊下から中の様子を確認する千歌を見た。
「おやおや、意中の人とねぇ」
すると、「やるじゃん」といやらしい笑みを浮かべる。
こいつ、自分の方が先に恋人が出来たからってマウント取りやがって。
滅茶苦茶腹立つ。
「そう。気になるから入ってみようとしたが、空気が淀んでいて入れないらしい」
「そ、そういうわけじゃないよ! なんか、すぐに入ったら気まずいかなって……」
千歌は顔を赤ら、そっぽを向く。
「そういうことね。それは素直に謝るよ。それじゃあ……早速やろうか」
さっきまでのことなんてもう忘れたかのように平然と振る舞う花丸。いくらなんでも切り替えが早すぎる。
このマイペースさがあいつの良さなんだが、もう少し遠慮を知って欲しい。
「善子ちゃん? 準備大丈夫?」
「ちょっと……フ、フックがかからないの!」
花丸がパーテーションの中を除くものの、占いを行うであろう善子の準備が全くできていなかった。何のフックがかからないか敢えて考えないでおく。
「もう……仕方ないねぇ」
それを知ってからだ。花丸がニヤリと笑った。まるで獲物を見つけたような肉食動物のようなそんな表情。
すると、花丸はゆっくりとパーテーションの中に入っていく。普通なら手間取っているフックかけを手伝うんだろうが煩悩の塊である花丸がそれだけで終わるわけがない。
「やぁん♡」
「善子ちゃん……大きくなったんじゃない?」
「な、何言って!」
「だって、この前よりも触り心地がいいし……」
花丸が中に入ってからものの数秒後に善子の喘ぎ声が聞こえてきた。
「はわわわ!」
これには千歌は顔をりんごのように真っ赤にし、耳を塞いだ背を向けた。
当然だろ。こんなハプニングに遭遇して、喜ぶやつなんているはずがない。誰だって、目を背けたくなるに決まっている。
「もう……どうしようもねぇなぁ」