コンプレックス・ラブ   作:シママシタ

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第44話

 善子は机の隅に置かれたタロットカードのデッキの上に手を置く。まるで運命の車輪を回すかのようにデッキを崩して、タロットカードをぐしゃぐしゃに広げる。タロットカードの裏面は表のイラストの位置がわからないように上下がシンメトリーになっているため、表がどうなっているかまったくわからない。

ぐしゃぐしゃに広がったタロットカードを善子は再び集め、デッキを築く。

 

「それじゃあ……過去を占うわ」

 

「過去を占う? それって意味あるのか?」

 

「人生は前にしか進めないけれど、後ろにだって歩いてきた道があるからね。猪突猛進で後ろを振り返らない水ゴリラの果南ちゃんには必要ないのはわかるけど、人は過去の失敗や過ちを糧に成功を生み出すからね。占いはその手伝いをするんだよ」

 

「俺だって反省はするんだがなぁ!」

 

 俺を人間ではなく、ゴリラを扱いする花丸にはかなり頭にきたが言ってることは至極当然だ。失敗は成功の基だって言うし、かの有名な人は過ちを気に病むことはなく、次の糧にすればいい。それが大人の特権という名言を残した。

 まぁ、俺達は大人じゃないが子供でも当てはまることでもう二度と同じ失敗や過ちを犯さないように試行錯誤を繰り返して、成功に繋げるのが大切なことだ。

 俺達は固唾を飲んで見守る。

 描かれていたイラストは台車のような乗り物に乗った男性。しかし、カードの向きは逆さになっている。

 

「まず……過去を占う……逆位置の戦車ね」

 

「それはどういう意味なの?」

 

「そうね……簡単に言えば上手くいってなかったってことだけど……」

 

「イメージとして正に泥沼にハマってしまって思うように動かなくなった戦車ずら」

 

 善子がさらりと放った言葉と花丸の簡単な解説に俺と千歌の顔が青ざめる。

 過去のこととはいえ、いくらなんでも幸先が悪すぎる。

 

「逆位置の戦車を読み解くと二人はお互いにやりたいことや伝えたい思いがあったけれど全然伝えられなかったこということね」

 

「おっ……マジか……」

 

「あ……当たってるね」

 

「そう!? ま、まぁ……自覚が思い当たる節があるならいいわ。気をつければいいんだから」

 

 悔しいが善子の占いはど真ん中ストライク。

 何も言えず、行動を起こせなかったからお互いすれ違ってしまっていた。

 でも、今はちゃんと思いを伝えることができて、一歩進めることができた。

 だけど、そこで安心しちゃいけない。それこそ同じミスを犯すかもしれないんだから、ずっと気をつけていかないといけない。

 

「次は今を見せるカード。それは……逆位置の悪魔」

 

「あ、悪魔って悪い意味じゃないの!?」

 

 またしても逆位置。さらにはどう考えても不吉な意味合いを持っていそうな悪魔だ。

 やはりアンラッキーガールである善子の占いは自分の不幸を相手に伝染るのかと疑ってしまう。

 

「悪いって一言で片付けてはダメよ。タロットはあくまで戒めよ。良いことだって高を括って努力を怠れば悪い結果に流れるから良し悪しで判断しては良くないわよ。ただ、悪魔の逆位置は言うほど怖いことはないわ。寧ろ、悪魔のような苦しみから開放されて、いい方向に進むことを示すわ」

 

「それじゃあ……」

 

「さっき善子ちゃんが言ってたように過信は禁物だよ」

 

 すると、千歌は安心したのか大きく息を吐く。

 その様子を見て、俺も安心した。

 俺との関係を終わらせたくないというのがわかったからだ。それはあくまで幼馴染としてや今までの関係を壊したくないだけかもしれないけど、それでも俺はいいと思った。

 そんなことを考えてると徐に花丸が近づき、耳打ちをしてくる。

 

「果南ちゃん……脈ありじゃない?」

 

「ブーメランじゃないか? 油断はダメなんだろう」

 

 千歌を一瞥する。

 俺の視線に気づいたのか千歌も俺の方を向いて、視線が合う。俺の顔を見るや千歌は顔を真っ赤にして逸らす。

 そんな純粋な反応をされるとこっちまで恥ずかしくなってきて、俺も視線を逸らしてしまう。

 ムズムズした空気が流れると花丸「羨ましいね」と笑いながら、善子の隣に戻っていく。

 

「それじゃあ……善子。次を占ってくれ」

 

「いいわよ。次に占うの……未来だけど……」

 

 俺達は固唾を飲んで見守る。

 過去と現在も大事だけど所詮は過ぎ去って取り返しのつかないもの。

 だけど、未来は今から変わればそれだけ変わっていくもの。道標があればそれだけ歩きやすい。

 何より、占いって単純な話、未来の話ってのが一番盛り上がるメインイベントだ。

 二人の将来は幸せですって言われれば、それはもう滅茶苦茶嬉しいし、大袈裟かもしれないがそれだけで生きる希望になると言っても過言ではない。

 逆に不幸になったり、上手くいかないと言われればそれはもうご愁傷様にしかならないがまぁ、ジェットコースターみたいなアトラクションと思えば楽しめなくはないか。

 色々考えてしまうのも緊張しているからだ。

 自分で言うのもおかしいがこんなに考えてしまうのはらしくない。何も考えず、毅然と構えるのが俺だと思っているけれど、やっぱり千歌のことになると変わっちまう。

 善子はカードを引く。全ての挙動がスローモーションに見えて、まるで俺が見ているものは映像作品か何かで現実なんかじゃないかと思ってしまう。

 たかが占いにここまで緊張するとは本当に思わなかった。

 そして、善子は引いたカードの裏返す。

 

「これは……正位置の太陽ね」

 

 タロットのイラストにその名前通りの太陽のイラストが描かれている。

 

「それは……どういう意味なの?」

 

「太陽はよく生命や希望の象徴として扱われるずら。だから、二人に明るくて希望に満ちた未来が待っているからもしれないね」

 

 花丸はニヤニヤと笑いながら解説をしてくる。

 再び、千歌を見ると同じようにこっちを見ていた。千歌の顔は太陽のように真っ赤になっていた。そして、俺の顔は太陽のように熱くなっていた。

 さっきは千歌が耐え切れずに顔をそらしたが今回はお互い同じタイミングで顔をそらした。

 そりゃあ、二人の未来は明るいなんて言われて意識しない奴なんていない。

 そんなんだから俺の心臓は今にも破裂しそうなくらい激しく動いている。もう意識がぶっ飛びそうだ。

 

「羨ましいね」

 

「だ、だろ?」

 

「調子に乗らないほうがいいずら。あくまでタロットは……」

 

「戒め、だろ。わかってるよ」

 

「初々しいずら」

 

 俺は一度深呼吸をして、心を落ち着かせる。

 あくまでこれは俺だけの気持ちだ。実際の千歌の気持ちはわからない。

 顔を赤らめているのもただ直接的に言われただけかもしれなくて、本当ダイヤのことが好きなのかもしれない。

 わかってる。あくまでこれは占いだ。本当でも現実でもない。

 だから、鵜呑みにしてはいけない。

 最終的に道を決めるのは……千歌だから。

 

「それじゃあ、これから二人に降り掛かる災難についてだけど……」

 

「災難って……いや、知りたくないんだが……」

 

「人生は山あり谷あり。いいこともあれば悪いところもある。現実から目を逸らしては駄目ずら」

 

 最高潮まで高まったテンションをゆっくりと落ち着いていく。

 ここまで来たのだから幸せの絶頂のまま終わりたい。だが、もし本当に付き合うことができて、更にその先の関係まで発展するのならきっと嫌なことがたくさんあるの確かだ。

 逃げるのは確かに駄目だ。

 

「それで……逆位置隠者ね」

 

「逆位置って……どう意味なの?」

 

「悪そう結果だから説明するのはもうやめるんだ!」

 

「トゥへァー! このバカヤローずら!」

 

「……果南ちゃんと花丸ちゃんは何をやっているの?」

 

「さぁ? わかる人にはわかるネタじゃない? それで逆位置の隠者は名前の通り、何かを隠しているとそれが悪い結果に繋がるということ」

 

「隠し事……思い当たる節があるなぁ……」

 

「でも、あれは私が勘違いしたから……」

 

 隠し事が良くない結果を招くか。

 実際、俺は千歌にサプライズしようとした結果、千歌を傷つけてしまっている。

 確かに気をつけなくてはいけないと心に誓った。

 

「果南ちゃんは特に気をつけたほうがいいずら」

 

「どういう意味だ花丸」

 

「だって、色々隠していることがあるもんね」

 

「いや、別にそんなことは……」

 

「本当に?」

 

 千歌がジト目で見つめてくる。

 その姿は普通に可愛くてクラっとしてくる。

 

「いや、本当に隠してない! 千歌に対してやましいことは本当に!」

 

「じゃあ、ベッドの下にあるものは?」

 

「おま!? それは駄目だろ!」

 

 全身から汗が噴き出る。

 いやいや! いくら隠し事が良くないからって、何でもかんでも晒していいわけがないだろ!? 

 

「いいや。付き合うのに性癖大事ずら! 夜の営みの相性も付き合っていくのは大事なことだよ」

 

「せ、性癖!? よ、夜!?」

 

 アダルトワードが花丸の口から出てくる度にピュアな千歌の頭の上から湯気が出てくる。

 

「なんか、無駄に生々しくて嫌だな!」

 

「残念ながらこれが現実だよ。ね、善子ちゃん」

 

「え、えぇ……否定はしないわ」

 

「同意をするな! 生々しさが増して嫌になるわ!」

 

「真面目なツッコミは求めてないよ。それで果南ちゃん、隠している性癖を吐き出すずら!」

 

「いーやーだ! 何だこれは!? お前の羞恥プレイに付き合いたくはない! つーか、それがお前の性癖か!?」

 

「よく気付いたわね……」

 

「……もう嫌だ……」

 

 占いから突然の性癖暴露大会の変化に俺はついてこれず、気が滅入ってしまう。

 それにしても俺の性癖は千歌に知られたくはない。特に千歌には絶対に知られたくない。

 好きな人だからっていうのもあるが、加えて千歌がどストライクっていうのもあり、知られるとマジで気まずい。

 だが、この流れで最悪なのが俺の性癖を花丸が知っていることだ。

 あいつのことだから、良かれと思って、軽々と吐き出してしまうことなんて安易に予想できる。

 だから、どうにか口封じをしようとしたその時だ。

 

「因みに果南ちゃんの性癖はロリ巨乳ずら」

 

「えっ……?」

 

 何と言えない空気が教室内を駆け巡った。

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