コンプレックス・ラブ   作:シママシタ

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第45話

「あぁ……いや……その……なんだろ……」

 

 廊下を歩きながら果南ちゃんは目を不自然に泳がす。

 いつもは真っ直ぐでハキハキとした果南ちゃんが眉毛をへの字にし、モゴモゴと思い切りのない様子だ。

 

「……ごめんなさい」

 

「なんで謝るの?」

 

「そりゃあだって……嫌じゃないのか? その……俺の趣味が……さ」

 

 もう言えることがなかったこと。そして、果南ちゃんの性格的に言い訳をしたくなかったんだろう。

 突然謝り出す。

 善子ちゃんと花丸ちゃんの占いの時、果南ちゃんが幼い顔立でありながら、胸の大きな女の子が好きというのが暴露された。

 あの時の果南ちゃんは愕然としていた。あんな絶望に満ちた表情は生まれて初めて見た。 

 好きな人にそういう趣味なんて知られたくないのは当然だ。

 ましてや、そのまんま、趣味が重なっているのなら尚更。

 自分で言うのもなんだけど、確かに私は梨子ちゃんや曜ちゃんに比べれば顔立ちは子供っぽい。胸に関しては……梨子ちゃんよりは大きいけれど、そこはよくわからない。

 果南ちゃんの趣味に関しては正直、「そうだよね」と納得した。ずっと前から果南ちゃんがムッツリスケベなのはよくわかっている。

 出掛ける時、胸が大きかったり、谷間が見える女性に釘付けになることが多いし、内容は知らなかったけどベッドの下にいやらしい本があるのも知っていた。

 別に男の子だからそういう気質があるのはわかる。女の子だって筋肉がすごい男の人がいたら見てしまう。

 

「別に。果南ちゃんがスケベなのは知ってたもん」

 

「……え? マジ?」

 

「女の子ってそういう視線にはすぐ気づくんだよ」

 

「……死にてぇなぁ……」

 

 事実を告げると果南ちゃんはその場で立ち止まって、壁に項垂れる。

 そうだ。街中で歩いているとたまに男の人が私の胸をじっと見てくる時があるけど、そういう視線はすぐに気づく。

 だからこそだ。今まで果南ちゃんが私にそういう視線を向けられていなかったことだって気づいている。なのに、他の女にはそういう視線を向けていたから、私は大人の色気や魅力がないとか結局は幼馴染でしかないんだと思ったこともある。

 じゃあ、たくさん見て欲しいというのはなんか違うし……。

 

「果南ちゃんは私の体が好きだから……私を好きになったの?」

 

「馬鹿野郎! そんなわけないだろ!? 俺は千歌が心に

惚れたから好きになったんだ!」

 

 果南ちゃんは私の問いに全力で否定する。

 全力過ぎては声はとてつもなく大きく、廊下に響いてしまい、道行く人達に凝視されてしまう。

 ここじゃあ目立つと私達はすぐに人気のない校舎裏に移動する。

 

「そう……なの?」

 

「当たり前だろ? 俺だってそんな……節操ないわけじゃないし……。その……なんつーか……そういうのってちゃんとした関係にならないとダメだし……」

 

 一見、女性にはだらしなそうに見える果南ちゃん。だけど、本当は真面目で純情。そういうのところにも私は惹かれたんだ。

 

「……スケベすぎるのは嫌だよ。でも、少しくらいなら……」

 

「えっ!? 千歌……」

 

 上目遣いでそういうと果南ちゃんは頬を赤らめながら、視線を逸らす。

 だけど、時々チラリと視線が私に向く。その視線の先は胸だ。

 見てもいいと言われて見たいんだろう。でも、やっぱり見るのは申し訳ないと視線が外れる。

 葛藤が見てわかる。

 

「ごほん」

 

 そんな子供っぽい果南ちゃんを可愛いと思っていると横から咳払いが聞こえてくる。

 こんなところに人が来るなんてと驚きながら、その方向に顔を向ける。

 そこにいたのは……

 

「ダッ、ダイヤ!?」

 

「ダイヤさん!?」

 

「あなた達……こんな人気のないところで何をしているんでしょうか?」

 

 呆れたように溜息を吐くダイヤさんがいた。

 果南ちゃんとは比べ物にならないくらい真面目なダイヤさんだ。私達の不埒なやり取りは見るに耐えないかもしれない。

 

「べ、別に何にもねぇよ! ……何にもさ!」

 

 すると、ダイヤさんは本当かと疑いの眼差しでじっと果南ちゃんの顔を凝視する。

 

「……まぁいいです。それより、果南。野球部の方々があなたを探してましたよ。どうやら、あなた如きの手を借りたいそうで」

 

「如きってなんだ。俺だから頼りたいんだろ? てか、それ本当の話か? 千歌の二人きりになりたいからって嘘をついてるんじゃ……」

 

 今度は果南ちゃんがダイヤさんを疑い返した時、タイミングよく果南ちゃんのスマートフォンが鳴る。スマホの画面を見て、「まじか」と呟く。

 

「つまらない冗談はいいですから。早く行ってあげなさい」

 

 ダイヤさんの言葉に果南ちゃんは「へぇ~い」と間の抜けた返事をする。

 傍から見ると母親の言いつけを渋々聞く反抗期の子供というよくある親子に見える。

 すると、果南ちゃんは名残惜しそうに私の顔を見つめる。

 

「悪い、千歌。マジで楽しかった。また、時間があったら、巡ろうぜ!」

 

 すると、大きくて暖かい手で私の頭を撫でる。

 この手が好きな私は多分子犬みたいに目を細めて、喜ぶ。

 

「ありがとう! 私も楽しかった!」

 

 私は笑顔で答えると果南ちゃんも笑顔で返してくれた。

 そして、大きく手を振ってこの場から去って行ってしまった。

 

「本当、嫌な人ですね。松浦果南は。真っ直ぐ過ぎて妬ましいですよ」

 

 果南ちゃんが去った後、ダイヤさんは口を開く。

 嫌な人と言いながらその声色は柔らかくて、表情もどこか嬉しそうだ。

 

「ダイヤさんは果南ちゃんのこと、好きなんじゃないですか?」

 

「……そうですね。だから嫌いなんですよ」

 

「……なんか難しい話」

 

「男のプライドの話ですから」

 

 そう言ってダイヤさんは優しく笑う。そして、懐かしそうに周りを見回す。

 

「ここなんですよ」

 

「何が?」

 

「ここで僕は松浦果南と出会って……嫌いになったんです」

 

 楽しそうに笑うとダイヤさんは過去を語り始めた。

 

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