「なかなか面白い……いえ、形容し難いものを見ましたね」
女装喫茶から出た後、僕は複雑な気持ちになった。
別に松浦果南は嫌いだが、認めてはいるなんて話をした瞬間、話題の人物が現れる。それはまあまああることかもしれない
でも、女装した姿で現れるなんて予想できるわけがない。
これで似合っていなければ笑い者にできたものの、異様な程似合っていたものだから反応にとても困った。
失望するべきなのか称賛するべきなのか、僕にはもう判断できなかった。
「そうですか? 似合っていて、可愛かったですよ! ぶっちゃけ千歌よりも……」
「それはないです。絶対ないです。あんな筋肉ゴリラの女装が千歌さん以上の美貌なら世も末ですよ」
恐らく冗談か……いや、千歌さんは自己肯定感が低いから本音もあり得るが、どちらにせよ真っ向から全否定する。
あんな筋肉ゴリラが千歌さん以上の美人なんて悪い冗談だ。
松浦果南が本当の女性ならまぁ……匹敵する程の美人だと思いますが、それでも僕にとっては千歌さんが世界で一番の美人であることに変わりはない。
「……そうですよね。ダイヤさん、言ってくれてましたよね。少しずつ自分を認めてほしいって」
すると、千歌さんは僕の瞳を真っすぐ見つめてくる。
そのルビー色の瞳には惑いや不安はなく、自信が浮かんでいるように見えた。
「うん! 千歌も女の子の格好した果南ちゃんと同じくらい可愛い! そう思うことにします!」
本当は松浦果南より可愛いと言って欲しかったですが、何という他人を貶めないのは千歌さんらしいとも思う。
それに少しだけでも成長できたのだからそれでいいんだ。
「そういえばさっきから話してばかりでしたね。何か他の催し物を探しましょう」
「それならお化け屋敷……あっ、でも……」
「なるほど。松浦果南と行ったのなら千歌さんがあまり楽しめないのでは?」
「でも、ダイヤさんの反応が見てみたいかなって」
「趣味が悪いですよ。流石に本物なら驚きますが人が制作したものとわかれば驚かないですよ」
正直、僕とお化け屋敷なんて尚更つまらないだろう。
別に暗いところが苦手でもないし、どうしても人が作ったものだからある程度驚かせるポイントだったりが予想できてしまい、純粋に楽しむことができない。
例え、意外なところから脅かしがあったところでそれすらも驚くことなんてない。それは昔、何回かルビィとお化け屋敷に入った時に驚くルビィの悲鳴の方が驚きは強く、耐性がついてしまった。
「……そういえば、さっき体育館で迷路をやっているってポスターがありましたよ!」
「迷路ですか……」
迷路。そう言えば生徒会として仕事をしていた時に一年生のどこかのクラスが企画書を提出していたのを思い出した。
一つのクラスで体育館を使用するなんてどんな規模なんだろうと疑問と驚愕が合わさっていた。
結局、あれ以降どんな形で完成したのか全く知らない。
そういった意味でも気になったし、何より迷路ならばどさくさに紛れて手を繋ぐなんてこともできる。
少し俗物地味た考えに自分自身に呆れてしまうものの、本当に千歌さんが好きなんだと改めて再確認した。
「それならその迷路に行ってみましょう」
「はい!」
そうして、僕達は体育館へと向かう。