体育館に到着し、受付を済ませると早速迷路へと足を踏み入れる。
校内で一番広い施設を使っていることもあり、迷路はかなり広い。ただ、広いだけでなくしっかりと机や段ボールなどで壁を作って、しっかりと入り組んでいる。
よくここまで作ったと関心する反面、片付けがかなり大変そうだと野暮なことまで考えてしまう。
「大丈夫ですか? 千歌さん?」
「うん! 大丈夫です! ダイヤさんがその……手を繋いでくれているから!」
僕は右手に伝わる千歌さんの左手の感触に集中する。
千歌さんの小さな手は柔らかな暖かさがある。
僕の激しい鼓動が伝わってしまうのではないかと不安でさらに鼓動が強くなる。
迷路に入る前、逸れてしまうと危ないから……というのもありながら触れ合いたいという下心が殆どの心持でさり気なく手を繋いでみようと促した。
正直、かなり緊張した。あんまり、女性と触れ合ったことがない僕にはそれなりに高いハードルだ。
でも、千歌さんが恥ずかしそうにしながらも「いいですよ」と言ってくれたおかげで何とか手を繋ぐことができた。
嬉しかった。それはとても。
「あっ、何か文字がありますよ?」
千歌さんが文字を見つけ、読み上げる。
「えっと……問題? 江戸幕府の十一代目将軍の名前は……家斉なら右。家治なら左だそうです」
なるほど。ただ闇雲に進むだけでは本当に迷うから分岐のところでクイズを出して、正しい道を探させる。
ただ、進むだけでは飽きてしまうから、途中で味変を行い、飽きさせない作り。
文化祭の演し物とは思えない綿密な作りに最早何も口に出せない。
「全然わからない……家康さんと松平健さんしか知らない」
千歌さんの頭の上にハテナマークが沢山浮かんでいるようだ。
「吉宗公は役者さんのお名前ですか。せめて、家光公と慶喜公は覚えておきましょう……。因みにこれは右になりますね」
「わかるんですか!?」
「えぇ。一般常識として覚えました」
「一般……常識?」
千歌さんは困惑していた。
確かに徳川将軍全ての名前を覚えるのは大変かもしれない。特に田沼意次公などの老中が政治の実験を握っているような時代の将軍は授業では添え物でしかないですから仕方ないとは思う。
「千歌さんも来年は受験生ですよね?」
「……ちゃ、ちゃんと勉強します!」
「その時は僕がみっちり教えますから」
「ダイヤさんが教えてくれるなら……頑張れそう!」
「……だからって今をサボってはいけませんよ」
そう返答とすると千歌さんは悪戯っ子のような無邪気な笑みを浮かべながら「はーい」と返してくる。
そういうあざとさがズルすぎる。