二日間開催された文化祭は生徒も外部の人達からも見事大盛況で幕を閉じた。
そして、最終日の夜。今度は校庭で生徒達だけが楽しむ後夜祭が始まった。
最初は軽音楽部のライブからスタートし、その後は有志の生徒によるコントやかくし芸大会を行い、大盛り上がり。そして、校庭の中心に設置されたキャンプファイヤーに火を灯し、明るいダンスが始まった。
友人同士で肩を組んで踊る人や恋人同士で仲睦まじく手を繋いでゆっくり踊る人。勇気を出して気になる相手にダンスに誘い、手を取ってくれる人もいれば、残念ながら頭を下げられる人もいる。
甘酸っぱくもあって、ほろ苦い光景はまさに青春だ。
そんな青春から視線を外し、一度、スマートフォンの画面を見る。時間は19時30分ぴったし。
俺はダイヤと話し合って、この時間になったら昇降口で一回落ち合おうという話をしている。
俺達はこれから千歌へと告白する。抜け駆けなんてしないように二人同時にする。
千歌には少し荷が重いかもしれないが、こうでもしないと俺とダイヤの間に公平性がなくなり、よくないものを残しちまう。
そして、男同士のプライドでもあるから。
「さてと、そろそろだな」
俺はゆっくりと立ち上がり、後ろを振り返る。
「あら、一世一と代の大勝負?」
すると、そこには鞠莉がいた。
「あぁ。そうだな」
すると鞠莉は「そう」と短く言葉を返す。
何やら鞠莉らしくない浮ついた様子だった。
どうしたんだ思っていると、鞠莉はゆっくりと手を差し出す。
「ねぇ、一緒にdanceしてくれる人いないんだよ」
「あぁ、そういうことか」
「一緒に踊ってくれる人、どこかにいないかしら?」
いつもの陽気な鞠莉からは想像できないくらい憂いを帯びた表情で妙な色気があって思わずドキッとしてしまった。
おとぎ話の王子様ならきっとその手を取って夢を見せるんだろう。
でも、俺は王子様なんかじゃない。夢は見せられない。だって、不器用な人間だから。
それにきっと鞠莉はこの手を取って欲しいと思っているけど、同時に取ったらそれは俺らしくはないって幻滅するんだろう。
「おいおい、浮気か? 婚約者がいるんだろ?」
だから、俺は俺らしく軽口を叩く。
すると、一瞬悲しそうな顔をした後、安心したように笑みを浮かべた。
「その話は相手からお断りされたわ」
「まじか。お前を振るって相当な奴だろ」
「本当よ。好きな人がいるからお断りしますって」
「そいつは俺に似て一途じゃねぇか」
「そうよ。軟派な果南と正反対の硬派なのよ。それなのに一緒で一途だし……好きな人も同じとか……」
「まじかよ……その相手って……」
「そうよ。ダイヤよ」
俺は流石にどう反応したらいいかわからなくなった。
鞠莉の婚約者がダイヤだったなんて。
確かにダイヤの家もまぁまぁ大きいし、この内浦で事を構えるんだったら繋がりがあった方がやりやすい。
「私、ちかっちのこと嫉妬Fireになりすぎて、嫌いになりそう」
「俺の前でよく言えるよ」
「だって、好きな人も婚約者も取られたのよ?」
「何も……言えないな……」
「……こんなに美人であなた思いの人がいるのに別の女の子に振り向くのね」
「あぁ。俺もずっと好きだったから」
「……後悔しても、置いてっちゃうからね」
「あぁ。後悔するよ。自分の置かれた幸せさにさ」
もう、覚悟はできている。
例え、どんな結果が待ち構えていようとも俺は俺の気持ちをもう偽ったりしない。
そんな俺の覚悟を汲んでくれたんだろう。
鞠莉は鞠莉らしい笑みを浮かべながら俺の胸に拳を当てる。
「頑張りなさい!!」
「サンキューな!!」
俺は大親友の激励を受け、歩き出した。
♢ ♢ ♢
フォークダンスを終わると生徒はパチパチ燃えるキャンプファイヤーを眺めている。
すると、一人の男子生徒が前に出てきて
青春だなとまるでおじいさんみたいなことを思いながらその様子を眺めていた。
僕も最初はキャンプファイヤーの前で松浦果南と一緒に千歌さんへ告白しようと考えていましたが、鞠莉さんから全力で止められた。
鞠莉さん曰く、女子達から人気のある僕達が大衆の前で告白なんてすればそのままキャンプファイヤーに身投げする女子や告白される千歌さんへの妬みが集中して事件になるとのこと。
そんな昼ドラみたいな展開はないだろうとは思いつつ、でも、僕達がそんな目立つところで告白ってのもなんか違う。それに皆に注目されながら二人のどちらかを選ばないといけないのは千歌さんにとってはかなりのプレッシャーだろうから、人が入ってこない屋上にすると決めた。
一応、後夜祭の間は校内に入ることはできない。だけど、僕は屋上から後夜祭の様子を写真に収めるという名目で入る許可を貰った。
職権乱用になるけど、少しだけ今は不良にならせてほしい。
ふと、スマホの画面を見る。
時間は約束していた19時30分ぴったりだった。
僕は立ち上がり、校舎に向け歩き出す。
「お兄ちゃん!」
歩き出した先にはルビィがいた。
ルビィは真剣な眼差しで僕の見つめていた。
「どうしたんだ?」
「今から千歌ちゃんに告白するの?」
ルビィの問いに僕は黙って首を縦に振る。
「ごめん。ルビィには僕の我儘で大変なことを押し付けられるかもしれない」
申し訳ない気持ちはあった。
僕は大事な婚約を破棄して、千歌さんを追いかけることを決めた。家にとってはこれは大問題であの父さんのことだから勘当されてもおかしくない。そしたら、必然的にルビィが黒澤家を背負うことになる。
まだ、頼りないところがあるから心配しかない。以前の僕なら自分の幸せなんかよりも家とかルビィの幸せを優先しただろう。
でも、恋を知ってしまったから。自分だけしか得られない幸せと全てを投げうってでも手に入れたいものを見つけて、僕は本当の男になってしまったんだ。
だから、千歌さんがどうしても欲しい。千歌さんと一緒に歩める未来が欲しい。
もう、この覚悟は決して揺らぐことはない。
すると、ルビィは首を横に振る。
「ううん! ルビィは大丈夫だから! それにパパからお兄ちゃんに伝えて欲しいことがあるんだって!」
「伝えたい……こと?」
「今まで理想を押し付けてごめんなさい。あと、黒澤の男なら惚れた女を振り向かせなさいって!」
ルビィの口から伝えられる父さんの言葉。
この処理するのは少し難しかった。だって、こんなことを言われると思っていなかったかれあ。
「それは父さんの口から聞きたかったな」
僕は思わず笑みをこぼしてしまった。あの不気味な父さんらしいやり方と初めての激励に答えないわけにはいかなかった。