キャンプファイヤーの炎も消され、後夜祭も終盤に差し掛かる。
この後は締めの打ち上げ花火が行われる予定で皆、花火がよく見える場所へゾロゾロと向かっている。
私もその流れに乗ろうとした時、ふとスマホから通知音が鳴る。私は流れから抜けて、スマホを確認する。
LINEの通知があって、相手は果南ちゃんとダイヤさんからだった。
そして、二人とも全く同じ時間に送ってきて、その内容は全く同じだった。
「これから屋上に来て欲しい」とそれだけ。
「これは告白だねぇ。いやぁモテる女の子は違いますなぁ」
「曜ちゃん!?」
後ろからぬるっとニヤッとした笑みを浮かる曜ちゃんが現れ、私のスマホを覗き込む。
驚いた私は慌てて、スマホをスカートのポケットにしまう。
「こら。千歌ちゃんを驚かさないの」
隣にいた梨子ちゃんは曜ちゃんに注意するけど、当の本人は「ごめんごめん」と笑いながら謝っている。
「梨子ちゃん……」
私は梨子ちゃんから視線を逸らす。
気まずい。だって、梨子ちゃんは果南ちゃんのことが好きなのに私は今から果南ちゃんに告白されるんだから。
なんか梨子ちゃんに申し訳なく思ってしまった。
「どうしたの?」
「その……」
おどおどしている私を見て、梨子ちゃんが優しく声をかけてくる。
「私のことは気にしないでよ! 千歌ちゃん」
「……うん!」
そんな梨子ちゃんを見て、もうナヨナヨしていられないと思った。
それに果南ちゃんもダイヤさんと覚悟を決めているんだ。
私だって、覚悟を決めないと二人に失礼だ。
「二人共……行ってくるね!」
私はしっかり前を向く。
そして、曜ちゃんと梨子ちゃんに見守られながら、私は屋上へと向かった。
♢ ♢ ♢
薄暗い廊下には俺と右隣のダイヤの足音が響いている。非常灯しかついていないが、月明かりとキャンプファイヤーの炎のおかげでそこまで暗くはなかったおかげで問題なく歩くことができる。
今から告白するって時に暗がりに怯えてたら情けないったらありゃしない。そんな姿をダイヤに見られたら俺のプライドがズタズタになる。
「いよいよ……ですね」
「あ、あぁ」
ふと、ダイヤがらしくもない、小さな声で呟く。
いつもは堂々としてクールな様子だが、今は緊張しているのか少し顔が強張っていて、如何にも余裕がないといった様子だ。
あいつもそんな顔をするのかと内心驚いた。
逆にそんな様子だとこっちの調子が狂う。それに緊張して、上手く告白できなかったなんてことがあったら、後味が悪い。だから、少し冗談を言ってみた。
「しかし、いいのか。私用で校内に入るなんて。職権乱用で怒られんじゃないのか?」
「バレたらですよ。バレなければ問題ありません」
「先生にチクってやろうか?」
「一緒に怒られるだけですよ」
「ダイヤが無理矢理連れてきたって言うよ」
「優等生と不良の言葉、どっちを信用すると思います?」
「……ぐぬぬぬ!」
悔しがる俺を見て、ダイヤは緊張が解れたのか安心したように笑う。
すると、ダイヤは真剣な表情を浮かべ、口を開く。
「そうだ。松浦果南。一つ言いたいことがあるんですが」
きっと、これから真面目な話でもするんだろう。
その前に俺にも言いたいことがあるから申し訳ないが、話を遮らせてもらう。
「ちょっと待った。その前に言いたいことがある」
「なんです?」
「そのフルネーム呼び、そろそろ止めてくれないか? すげぇ、嫌な感じがするんだよ」
ダイヤが俺のことを嫌っていて、皮肉や嫌味を込めてフルネームで呼んでいるのはわかっている。
でも、いい加減、いいんじゃないかって思っている。
あんなにお互いの情けない部分をぶつけ合ったんだ。憎み合うのも今更な気がする。
それにこれから千歌に選ばれる奴と選ばれない奴がでてくる。選ばれないのは当然、ダイヤなんだが……仮に俺だとしても憎み合ったままじゃ後味が悪い。
それはきっと千歌にとっても同じだ。
だから、ここで一旦水に流して、まっさらな状態で千歌と……ダイヤに向き合いたいんだ。
「なるほど。まぁ、あなたのことが大嫌いでしたから、わざとこういう呼び方をしていたんですが」
「改めて言われると腹立つな」
すると、ダイヤは少しだけ笑みを浮かべる。
「でも、今はそれなりに認めてるんでいいですよ。果南で」
ダイヤも同じ気持ちだったんだろう。
俺の言う事を聞いて、受けていれた。
その様子を見て、俺はこう思った。
「なんか気持ち悪いな」
「面倒くさいな」
俺の率直な反応にダイヤは溜息を吐いて、呆れる。
仕方ないだろ!?
こっちが提案しているとは言え、堅物な人間が急にデレたり、物腰が柔らかくなったら、そのギャップで違和感を感じるもんだろう。
そうして、俺の言いたいことを言い終えると、ようやくダイヤの番になった。
その時には俺達は廊下ではなく、屋上に続く階段を上っていた。
「果南。選ばれなくても恨みはなしでいきましょう」
「当たり前だ。千歌の選択を否定したくはないし、情けないしな。選ばれなかったら、それだけ魅力も甲斐性もなかったことだ」
「まぁ、僕が千歌さんの彼氏になるのは確定していますが……」
ダイヤも負けず嫌いだ。
いや、今この瞬間、負けると思う奴なんかいない。そんなのはプライドが許さない。
だけど、俺達にあるのはプライドだけじゃない。
「前にも言いましたが。果南なら安心して任せられます。だから、僕が恨むことは絶対ありえない」
「俺もだよ。どこの馬の骨なんかよりもお前のほうが断然マシだ。まっ、俺があいつの隣に立つんだけどな」
千歌の幸せを願う心。
当然、ダイヤも持っていたから、俺は安心した。
お互いの想いを確認した時、俺達は笑い出した。
あんなに啀み合っていたのにお互いを認めていたんだ。面白おかしくて笑っちまうに決まっている。
本当、今まで俺達は同族嫌悪だったんだな。
そうして、俺達は階段を上りきり、屋上に入るために扉の前に立つ。
すると、ダイヤが徐ろに左手を横に上げる。
「なんだこの手?」
「一度、やってみたいと思っていました」
ダイヤは照れ臭そうにしていた。
全く、あんな堅物なのに意外と子供っぽいんだな。
「あぁ! お互い、悔いのないようにな!」
俺は堂々と右手を上げ、ダイヤの拳とぶつける。
さぁ、これから俺達の一世一代の大勝負が始まるんだ。