俺と雪ノ下の最初のポケモンがユキワラシなのはまちがっている。 作:リコルト
トキワの森ーーそこはマサラタウン、トキワシティ出身のポケモントレーナーにとって最初の試練と呼ばれている。
何故なら、そこに生息するポケモンの種類、その数が多く、そしてレベルが初心者にとって高い。初心者が何も対策を取らずに突撃すれば、手持ちのポケモンが倒れ、逆戻り。最悪、そのままトキワの森をさまよう場合もある。
また、かつてカントー地方で大きく勢力を広げていたロケット団により、今は大きく改善されたものの、他の生息地のポケモンが迷いこみ、トキワの森の生態系に影響を与えていたらしい。
そのため、トキワの森に生息しないポケモンが現れ、トレーナーにも多大な影響を与えていた……
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「「スピッ!スピッ!!」」
くそッ!?何でトキワの森にこいつがいるんだよ!?最初の試練とはよく言ったものだな!?
俺達は今、後ろを振り返ることが出来ない程必死に逃げていた。
何故かって?そりゃ、スピアーの群れに襲われてるからだよ!ゲームじゃ、ビードルとコクーンはいたけど、スピアーはいなかっただろ!?そこはやっぱ、進化の生態系の現実補正かかってるのか!?
それに、もしトキワの森のポケモンにも現実補正がかかっているのなら、スピアーはマジヤバイ!
だって……
〇スピアー
・集団で現れることもある。猛スピードで飛び回りお尻の 毒針で刺しまくる。
毒針ってやばいじゃん。ポケモン図鑑の説明は地方によって変化するのは知ってるよ。でも、そんなに変化はないじゃん。毒を持ってるとか、集団で襲うとか。というか、今その状況だよ。
「……仕方ない。このまま逃げてても連鎖的に他のスピアーを増やすだけだ。今、片付ける」
「は、八幡!?」
戸塚は驚いた様子で急停止する俺を止めようとするが、俺はすでにボールを構えていた。
「いけっ!カマクラ!!」
「ユキッ!!」
ボールを草むらに投げると、中からカマクラが戦闘準備と言うが如くスピアーに向かい合っていた。
「……成る程、あの技ね」
雪ノ下はどうやら、気付いたようだな。さすがは歩くポケモン攻略本だ。言ったら、怒られそうだから本人の前では絶対に言えないけど。
「カマクラ、こごえるかぜ!!」
「ユッキー!!!」
そう言うと、カマクラは口から冷たい冷気をスピアー達の群れに対して包み込むように吐き出す。すると、前の方にいたスピアー達は凍ったように草むらに落ちていき、それを見た後ろ側のスピアー達は撤退していく。さすがは全体攻撃のこおり技。効果は抜群だ。
「ふぅ……危ねぇ」
周りの安全を確保出来た俺達は逃げるのをやめ、一旦はぐれないように集合する。
「た、助かったよ、八幡。それにしても八幡のユキワラシは強いね。僕なんか全然だよ」
「いや、戸塚のフシギダネはくさタイプだからな。むしタイプとどくタイプが多いから、あまり無理はしなくて良い。こおりタイプを持つ俺と雪ノ下を遠慮なく頼ってくれ」
そう言って、俺はポケモン図鑑でユキワラシのレベルを確認する。見てみると、ユキワラシのレベルは14から15に上がっていた。
まぁ、トキワの森に入ってからは率先して野生のポケモン達と戦っていたからなぁ。ちなみに雪ノ下のユキヒメは俺達の中で二番目にレベルが高く、14レベルだと雪ノ下本人が話していた。
「それにしても川崎の言う通りトキワの森はかなり複雑だな。道らしい道も無いし、ニビシティに行くのに方角しか頼れないとか」
「ええ、ひとまずはニビシティがある北に向かって歩きましょう。先程のスピアーの大群で、道から逸れたわけだし、軌道を修正するわよ」
雪ノ下の提案に俺、戸塚、川崎はこくこくと頷く。今はまだ昼前だから、何としてでも夕方には着いて向こうでゆっくりしたいものだ。
…………………
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「ねぇ、何か聞こえないかい?」
ニビシティの方角に向かって草むら歩く最中、川崎が俺達にそう訊ねてきた。
「いや、俺には何も……」
俺には全く聞こえないため、戸塚と雪ノ下にも確認するが、首を横に振っていた。
「ちなみに、何が聞こえたんだ?」
「ポケモンのなき声だよ。数からして二体…だね。何か争っているような……。こっちだよ!」
説明をしていた途端、川崎が突如道から外れて、急ぐように走っていく。俺、雪ノ下、戸塚もそれを見て、彼女を追うようについていった。
「どうしたんだ!?川崎!」
「ポケモンのなき声が一つ急に聞こえなくなった!まさかだとは思うけど!」
俺達三人は川崎の聴覚を頼りに、その現場へと向かった。やがて、草むらが少なくなり、ひらけた場所に出る。そこにいたのは……
「ニ、ニドッ……」
「シャーッボック!!」
「あれは……ニドリーノとアーボックだよ!でも、あのニドリーノ怪我をしてる!」
戸塚の言う通り、そこにいたのは紫色のツノが特徴のニドリーノと人の顔のような模様の腹が特徴のアーボックだった。
ただ、ニドリーノの方は全身に大きな怪我をしており、アーボックはそれに追い打ちをかけるようにとどめを刺そうとしていた。
雪ノ下は「ニドリーノはニドランの進化形だから、近くの22番道路から来たのは分かるけど、アーボック以前にアーボはこの辺には生息しない……」とボソボソと考察していて、俺もその意見には賛成したいが、今はあのニドリーノを助けないとな。
「いけっ!カマクラ!」
俺はニドリーノとアーボックの間にカマクラを繰り出し、アーボックの注意をカマクラに引き寄せようと試みる。
「三人はニドリーノの方を頼む。俺はこっちのアーボックをやる!」
「「「分かった(わ)!!」」」
そう言って三人は協力して、俺のバトルに影響しない場所に連れて行き、治療を行う。
「さてと………」
(ああ言ったが、このアーボック、俺のカマクラの倍以上のレベルはあるぞ……。最低でも25レベルぐらいか。こんな奴がトキワの森にいるのは、雪ノ下の言う通り変だが、今はこいつを何とかしないと。雪ノ下のユキヒメは三人を守る最後の防衛線だし、バトルの協力は望めないな)
「カマクラ!こおりのつぶて!」
「ユキッキー!!」
俺がそう命令すると、カマクラは複数の氷の粒を具現化させ、アーボックに命中させる。
「シャーッ!!!」
けれども、アーボックには攻撃が効いたような気配は無く、むしろ八幡達に怒りの矛先を向けるだけの結果だった。だが、それが八幡の狙いだった。
(やはり、カマクラの攻撃じゃ効果は薄いか。だったら、ひたすらこっちに注意を向かせ、雪ノ下達から出来るだけ遠ざかって時間を稼ぐまでだ)
「カマクラ、こっちだ!」
「ユキッ!!」
俺とカマクラは雪ノ下達とは別の方向に走り、アーボックを切り離す。後ろを見てみると、アーボックが俺達を狙うように追いかけていた。よし、狙い通りだ。
「シャボッ!」
「ッ!?カマクラ、かわせ!」
すると、アーボックは口から毒々しい液体を俺達に向けて吐き出した。俺達は何とかかわしたが、その液体の正体はすぐに分かった。
「成る程……ようかいえきか」
ポケモンは分からないが、人間にモロに当たったら、確実に即死だな。ポケモンの技って現実になったら、こうも恐ろしいとは。
「カマクラ!撹乱させて、あいつに少しずつ攻撃を与えていくぞ!まずはかげぶんしんだ!」
「ユキッ!ユキキッ!」
すると、カマクラの小柄な姿がアーボックを囲うように何体も現れる。
「いけっ!こごえるかぜ!」
「ユッキー!!」
分身したカマクラ達はアーボックに冷たい冷気を覆うように吹きかける。
だが……
「シャーッ!!ボック!!」
アーボックはそれをびくともせず、長いしっぽをカマクラ達に振り回す。
「ユッキー!?」
「カマクラっ!」
やがて、アーボックの長いしっぽによる攻撃が分身に紛れ込んでいた本体に当たり、カマクラは吹き飛ばされるように俺の胸元に帰って来た。
「くそっ!」
これ以上、カマクラには無謀なバトルはしてもらいたくない。そう思いながら、俺は怒り大爆発のアーボックに目を合わせながらジリジリと後ろに下がる。
「シャーッ!!!」
ちっ!ここまでか………
そう思った瞬間……
「オムすけ!ハイドロポンプ!!」
突如、俺とアーボックの間に割り込むように草むらからオムスターが飛び出して来る。最初は新手かと思ったが、オムすけと呼ばれたオムスターはアーボックに向けてハイドロポンプを浴びせた。
「シャーッ!?シャ、シャー!!」
それを受けたアーボックはオムスターを見ると、戦意喪失したのか、逃げるように草むらへと帰って行った。あれほど好戦的だったアーボックがこうも簡単に逃げるとは。俺はすかさず、ポケモン図鑑を使ってオムスターのレベルを確認する。
「えっ…強くね?」
そこに映っていたのはレベル50という数字。オムナイトがオムスターに進化しているため、そこそこレベルが高いと思っていたが、とんでもない。こりゃ、アーボックが逃げ出すわけた。
しかし、オムスターがトキワの森に野生でいるわけがない。オムスター以前にオムナイトはカセキから復元するポケモンだ。なら、このオムスターは何処からか来たのか、その答えは一つだ。
「あの、大丈夫ですか?」
オムスターが出てきた草むらから遅れるように黄色い髪の少女が現れる。やはり、あのオムスターはトレーナーのポケモンだったか。
「はい、大丈夫です。助けてもらってありがとうございます」
「いえ、お礼なんて。偶然、僕も近くで寝ていたら、ポケモンが騒いでいる予感がして見に行ったら、そこに貴方がいたんです」
寝ていただと……!?こんなヤバい森で昼寝をしていたのか、この少女!?ポケモンが強いなら、トレーナーもそのぐらいヤバいというのか!?人は見かけで騙されてはいけないという教訓が初めて身に染みたわ。
「申し遅れました。僕はイエロー・デ・トキワグローブ。年はまだ14才とそんなに変わらないので、気軽にイエローと呼んでください」
「ひ、比企谷八幡でしゅ」
噛んだ。そりゃ、目の前にいる女性が思った以上に強者だし、年上だもの。許してよ。
「八幡さんですね……あっ!そう言えば、八幡さんはあのアーボックに襲われたんですよね?でしたら、その前に襲われていたポケモンを知りませんか?」
イエローがはっとした様子で思い出した一言で、俺も雪ノ下達とニドリーノの事を思い出した。
「そうだ……実は」
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「なるほど、4人はニビシティを目指していたんですね。なら、ここを一直線で抜けたら、ニビシティに着く筈です。僕しか知らない近道なんですけど」
「すいません。ニドリーノと俺のカマクラの治療までしてくれた上に、案内までしてもらって」
「いえいえ、治療は戸塚君のお陰でほとんど終わっていたんです。戸塚君はきっと良いポケモンの医者になりますよ」
イエローさんにそう言われると、ニドリーノの治療に当たっていた戸塚が恥ずかしそうにする。
あの後、俺は事情を話したイエローさんと共にニドリーノの治療のために雪ノ下達と合流した。イエローさんはすぐにニドリーノの容態を確認すると、綺麗な応急処置をされており、もう大丈夫だとお墨付きをくれた。その代わりとして、アーボック戦で怪我をしたカマクラを治療して貰ったわけだ。
それに加えて、トキワの森に詳しいという事から、俺達にニビシティまでの近道を教えてくれたのだ。これで、もう複雑なトキワの森で迷う必要は無いだろう。
まじ、感謝でしかない。やっぱり、優れたトレーナーは器が全然違う。こんな人が世界中にいる世界になれば良いのに。
「それに君達は図鑑所有者ですから。先輩である僕が後輩を助けるのは当たり前ですよ」
「イエローさんも図鑑を持っているんですか?」
「はい、持ってますよ」
雪ノ下が訊ねると、イエローさんは懐から俺達と同じ型のポケモン図鑑を取り出す。
イエローさんに聞くと、彼女の知人の何人かもポケモン図鑑を持っている人達だとか。イエローさんはちょうどそんな知人達の同窓会みたいな集まりでバトルフロンティアから帰って来たらしい。詳しい事は聞けなかったが、バトルフロンティアで同窓会ってどういう状況だろう?
「そうだ、八幡君。君にはこれを」
別れ際、俺はイエローさんから一つのモンスターボールを俺に渡した。
「これって、さっきのニドリーノの……」
「さっきのアーボックとの戦いを見て、君についていきたくなったって。僕も君ならこのニドリーノと共にもっと成長できると思うんだ」
イエローさんがそう言うと、ニドリーノがそれに賛成するかのようにモンスターボールを中から揺らす。ニドリーノも異論は無いそうだ。
「そうか……よろしくな、ニドリーノ」
俺はニドリーノが入ったモンスターボールを手持ちへと加える。戸塚と川崎はそれを嬉しそうにしていたが、雪ノ下は若干妬んでいる様子だ。雪ノ下も二体目の手持ちが欲しいのが伺える。
「それじゃあ、イエローさん。またどこかで」
「うん。4人共頑張ってね」
こうして、一人の図鑑所有者に助けられ、新たなポケモンを手に入れた俺達はニビシティへの近道を進んで行った。ニビシティはすぐそこだ。
ちなみに、今日3月3日はイエローの誕生日です!!