シスコンでブラコンなお姉さま セリーヌたん物語   作:uyr yama

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18話目

 

 

不意に目元を厳しく細める。

何だか、『彼女』に呼ばれた気がした。

 

≪どうかしたのかの?≫

「……いや、なんでもない」

 

言葉少なに返すと、疲れた身体に活を入れ、何度『殺した』か分からなくなってきた死霊に視線を戻した。

そして……ハッ! 気合一閃。剣が閃光の様に走り、死霊の首を刎ね飛ばす。

断末魔の叫びもなく首を落とされた死霊の身体は、一瞬の間をおいて地上に倒れ伏した。

セリカはそれを感情ない瞳で見ながら、ゴロゴロと転がっていった首を追いかけ……グシャリと踏みつぶす。

残った身体は雷の魔法で焼き尽くし、フゥっと疲れた溜息をこぼした。

 

≪これで終わってくれると助かるんじゃが。まあ、最悪復活までの時間が長くなれば良しとするかの≫

 

そう言いつつ緊張を解かないハイシェラは、奥先で佇む、神の如く存在感な女を視る。

 

エクリア・テシュオス。

 

姫将軍と呼ばれ、セリカのターゲットでも『あった』女だ。

今は、違う。それどころではない。

彼女はどうしてか操られ……まあ、どうしてなのかは、彼女を解放出来たら聞けばいい。

 

ともかく、彼女を操る悪意の塊とも言っていい存在を滅する。

それが今のセリカの目的だ。

ただ、すでにかなりの長い時間を戦闘に費やしているセリカは、流石に体力の限界が近い。

 

恐らく……いや、これが最後となるだろう。

 

セリカは、姿勢をやや斜めに前のめり、前傾体勢をとる。

そして弓のように全身を引き搾り、闘気の全てを剣先に集めた。

これこそセリカの奥義、飛燕剣身妖舞の構えである。

 

もちろん、奥義といってもエクリアを殺すつもりは、『今のところ』ない。

セリーヌを悲しませたくはないからだ。

セリカにとって、最も大切な存在がセリーヌである。

ここでこうして戦っているのも、全ては彼女のためなのだから。

 

だから……

 

セリカは瘴気に腐る床を、ダンッ、と蹴った。

神殺しとまで呼ばれ、真なる女神の身体を持つ破格の剣士が勢い放たれる。

エクリアに、ではなく、その背後の存在へと。

 

エクリアを何とかしてから、なんて贅沢はもう考えない。

彼女から放たれる魔法の嵐をその身に浴びつつ、セリカはそう考える。

レスペレントに名高い姫将軍エクリア……いや、姫神フェミリンス。

彼女の圧倒的な存在感は、ハイシェラに言わせれば、セリカの永い放浪の旅においても中々いないそうだ。

例えば自分、魔神ハイシェラ。そして堕ちた女神アイドスなどと比べると、流石に少しは落ちるが、遜色ないと言っても違和感はない。

 

それ程の圧力。それ程の魔力。それ程の、神気。

 

しかし明らかに彼女は『力を引きずり出されて』いる。

だからこの数日、そんな彼女を救いだそうとしてたセリカとハイシェラだったのだが……

 

何度殺しても復活する死霊騎士。もう少しという所で出てくる悪意の塊。

この2体をどうにかしない限りは、エクリアを助け出すことはおろか、『殺す』ことさえ困難だ。

身体に疲労は溜まってる。だが、セリーヌのおかげか、魔力と気は充実しているセリカである。

 

姫神化したエクリアの攻撃を無防備で受けても、しばらくは何とかなるだろう。

 

 

  だが……これで、決めるっ!!

 

 

 

姫神の純粋な魔力の塊がセリカの頬を撃つ。肩を撃つ。腹を撃つ。そして、額を撃った。

撃たれた場所から血が滲み、流れ、瞳を濡らし、視界を赤く染めていく。

だがセリカはまばたきひとつしない。

視線は常に姫神の背後にいる瘴気……悪意の塊としか言いようのない、圧倒的な負の存在へ。

そして遂に姫神の放つ魔法の群れから抜け出し、セリカは彼女の横を疾風の如く駆け抜け───

 

この時、一瞬だけ視線を横に。エクリアに向けた。

 

やはり彼女の目は濁っている。

だが同時に、支配から抜け出そうとしているのだと、セリカは感じた。

 

 

───あと少しだ。堪えろッ!

 

 

心中で……ハイシェラと語らう時のように言葉をかけるセリカ。

もちろん、答えは期待していない。

しかし、流石はレスペレントに名高い姫将軍とでも言うべきか。

それとも、セリーヌが言う世界の、セリカの第一使徒となるべき存在だから、とでも言うべきか。

 

 

長くは待てんぞ神殺し! これで決めろッ───

 

 

返された念話に、セリカは表情ひとつ変えずに、だが確かに苦笑する。

そして、先の念話が確かに彼女の物である証拠に、姫神の動きがが完全に止まった。

外からの力に抵抗するように、ガクガクする身体を両腕で抱きしめ、唇をきつく噛みしめる。

そこから流れ落ちる血の一筋は、確かに彼女の誇りからくるもの。

セリカはそんな彼女を横目に、一気に悪意の塊との距離を縮めた。

 

ヤツは顔色を驚愕に染め──────嗤う。

 

そして何事かを囀ろうとするよりも速く、セリカの引き絞られた身体が完全に解き放たれ、空間すらも断絶する凄まじい攻撃! 

幾百年の業に乗ったセリカの剣───ハイシェラソードが、音速の壁をぶち抜き。

瞬きをする間もない、その高速一撃は、狙い違わず幽鬼の如く存在感……しかし圧倒的なまでの威圧を放つ悪意の塊の眉間に吸い込まれた。

 

「ガァァァァアアアアアアアッッッ!!!」

 

苦悶の叫びを上げる悪意。ユラリと存在を明滅させる。

だが、セリカの剣は止まらない。

一閃、身妖舞から続くセリカ最大奥義、枢孔紅燐剣。

 

「ハァァッ!!」

 

魔力の質・量、共に膨大な悪意の塊の巨体全てを切り刻む9つの閃光。

そのひとつひとつが、必殺の一撃!

巨体に吸い込まれる必殺の剣閃は、確実に悪意の塊の存在感を削っていく。

そして最後の一撃! 虚ろな表情を浮かべる悪意の喉元に突き刺さった。

が、セリカはそれでも止まらない。

ハイシェラソードが風を纏い、目映いまでの稲光を放つ。

セリカはハイシェラソードをきつく握ったまま、手首を返した。

グリッ! と喉元に突き刺さった剣先が、90度横に……水平になる。

血は……噴き出さない。しかし、代わりに瘴気が噴き出した。

 

これがヤツの命か……?

 

しかしセリカは疑問を解明するつもりなどなく、そのまま───

 

「落ちろッ! 轟雷ッ!!」

 

セリカを、そしてハイシェラを中心に、強大な魔力……いや、神気が世界を塗り替える。

これこそが神の力。これこそが、神殺しセリカが狙われ続ける意味。

大地が、大気が、セリカの強大な力に応えるが如く、激しく震動し。

耳をつんざく様な轟音。同時に、セリカは水平にした剣をそのまま横に薙いだ。

 

悪意の塊の首は、半ばから引き裂かれ、そして──────「消え失せろっ、化け物ッ!!」返す刃で悪意の塊を斬り裂いた。

 

 

静まり返る世界。塗り替えられた世界が、自然なままの世界へと還っていく。

それを見届け気が抜けたのか、一拍の間を置き、崩れ落ちるエクリア。

そして、消え去った瘴気。

 

セリカは疲れた様な溜息をひとつこぼし……ハイシェラソードを鞘に収めた。

 

 

このまま寝転んでしまいたい。

 

 

そんな誘惑を跳ね除けながら、疲れた足を引きずるようにエクリアの傍へと足を進める。

そうして僅かながら意識の残っているせいか、やたらと抵抗するエクリアを抱き上げた、その時! 

滅ぼした筈の瘴気が、悪意が、再び周囲の空間を支配した。

 

「流石は神殺しセリカだね。いやー、まいった、まいった」

 

瘴気はそのままに。

しかし幽鬼の如く存在感は消え失せ。

はっきり脅威と感じる、圧倒的な力。

 

「僕の一つが完全にやられちゃったよ。こんなの、姫神フェミリンスと戦(や)りあって以来じゃないかな?」

 

声は幼児の如く甲高く。

外見も少年のようにしか見えない。

だが、膨大な魔力と、子供にしか見えないはずなのに、内から湧き出る神と呼んでも相応しいその威容と立ち振る舞い。

セリカの身体が、緊張に強張った。

腕の中のエクリアも同じく、抵抗をやめ、呆然とそれを見た。

セリカはそんなエクリアを無言で床に降ろすと、再びハイシェラソードを鞘から抜き、剣を構える。

すると、目の前の見掛けだけは少年である存在が、ウンザリした口調で語りかけてきた。

 

「ああ、いいよもう。どうも上手くいかないみたいだしさぁ。まったく、流石は神殺し。物語の主人公。『マガイモノ』である僕なんかじゃあ、君が関わった途端、タダの道化だよ……って感じかな?」

「……俺には、キサマが何を言っているのか分からん」

「本当に? おねーちゃんから聞いてない? ねぇ、ねぇ、ねぇっ!」

 

目を悦びの形にカッと大きく見開く。

禍々しい漆紅色に澱む唇は、言葉を発する度に瘴気を醸し出し、大気を腐らせた。

 

「楽しみだなぁ。幻燐が終われば、もうおねーちゃんの出番はないんだ。精々が一行か二行の死亡報告。ただ、それだけのモブ。だからさ、キチンと予定通りに終わって、そして僕の下に来て欲しいのに。なのに、おねーちゃん、自分の役割解っているのかな?」

 

手を伸ばす先に宝玉が現れ、その宝玉から映し出されるのは、肌もあらわな戦装束に身を包んだ、セリーヌ・テシュオス。

なにがあったのだろうか? 顔を絶望に強張らせたセリーヌの姿は、それだけでセリカの心を強く乱す。と言うか、他のヤツに肌を見せるな!

そして、倒れ伏し、様子を覗っていたエクリアもまた、死んだ筈の妹の姿に、身を起こして目を見開いた。

 

「セ……セリーヌ……?」

 

そうだ。彼女は、滅ぼした筈のケルヴァン・ソリードの口から発せられた『セリーヌ』という言葉に、僅かな驚愕と、大きな隙を作ってしまった。

そこを少年の姿を取る化け物に襲われ、心を操られる結果となってしまった。

何故エクリア程の者が容易く? そう思うかもしれない。

だが、『彼』ほど姫神フェミリンスを知る存在はなく、だからこそ、エクリアは容易く囚われ、操られてしまったのだ。

 

かつて姫神の力に嫉妬し、彼女の全てを奪おうとした大魔術師ブレアード。

その殻を被り、その役割を淡々とこなす目の前の存在だからこそ……

 

もちろん、エクリアは知らない。

知らないからこそ屈辱は凄まじい。

だが、その屈辱を忘れる程の衝撃を受けた。

そう、エクリアは、目の前に映し出される光景に驚愕したのだ。

 

 

駆けつけなければ……

今度こそ、あの愛おしい妹を……いや、『妹達』を守るために。

エクリア・テシュオスとしてではなく、一人の姉として、ただのエクリアとして、あの子達の下へと駆けつけたい。

 

抱きしめたい。愛しているのだと言ってしまいたい。

そうして、やり直したい。姉妹として、家族として……

 

無理矢理力を引き出され、バラバラになってしまいそうなほど痛む身体に活を入れる。

ガクガク震える膝に拳を叩き込み、どうにかこうにか身体を起こした。

そして神殺しの隣に立ち、姫神としてでなく、エクリアとしての魔力の力を高めていく。

目の前の、これ以上ないほどの屈辱を与えてくれた存在に、残された力の全てを叩き込まんがために。

だが、

 

「でもま、終わりよければ全て良し。最後が一緒ならさ、途中が違っても何とかなるよね? ねぇ、神殺し。君はそう思わない?」

 

言葉の意味は解らない。

だが、不吉な意味としか思えない。

 

なのに……ッ!

 

セリカとエクリアは───目の前の少年の姿をした化け物が、

 

「ああ、そうそう。自己紹介がまだだったね、神殺しセリカと姫将軍エクリア。人は僕を大魔術師と呼ぶ。大魔術師ブレアードとね? そうっ! 僕は君の! 君達の! 敵さッ!!」

 

そう言って姿を消すのを、ただ、ただ。

見ているだけしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、セリーヌの張った絶対情報封鎖圏。

その死の網に掛った女騎士がいた。

セリーヌが陥落させた元ミレティア保護領の領主にして竜騎士。

彼女の名はティファーナ。ティファーナ・ルクセンベール。

 

 

その彼女は、どこかボウッとした面持ちで遠く眺め見ていた。

 

ああ、死ぬのだな。そう思う。

相手は自分と同じ竜騎士。

ティファーナは、このレスペレントで最高位の竜騎士だと自負していた。

 

 

1対1ならば決して負けはない。

いいや、相手が10騎だろうとそう簡単にやられはしない。

だけども、先のサラン街道を巡る戦いで傷ついた身体が……言い訳はよそう。

例え十全な状態だったとしても、勝利はむろん、逃げ出すことすら……

 

 

敵の竜騎士、その数優に百を超え、しかも騎士達が騎乗する竜の多くに、ティファーナは見覚えがあった。

いかなる戦場でも臆せず戦い抜けれるようにと、自分達が丹精込めて育て上げた竜だ。

 

 

あはは……

 

こぼれる笑いは諦念の笑い。

 

 

個を群れが襲い、騎乗する竜の質とて大差ない。

その上で、編成が未知でもあった。

通常の竜騎士───竜に跨り、ランスで持ってチャージ───に加え、武装しない竜騎士の背に弓騎士や魔術師がいる。

鞍でしっかりと固定された彼らは、身を乗り出して矢を放ち、魔法を放つ。

正直、騎士として汚いやり方だと反感がもたげる。

 

それでも誇りある天空の騎士かと!

 

しかしだ、酷くソレが効果的であるのが良く分かる。

それこそ、こうしてどうにも出来ずに首を獲られそうな自分の状況が良く物語っていた。

だが死ぬ訳にはいかない。

でも、どうにも出来そうにない……

 

「陛下……」

 

小さくこぼれた呟き。

ティファーナの、想い人である。

 

 

 

初めて会ったのは夜。闇の中、クラナの盗賊団の根城跡で彼と出会った。

素性を知らなくはあったけど、敵対する国の騎士だろうとは思っていた。

太陽の下で再び出会った時には、その姿から魔族の血を継いでいるのだと一目で分かった。

だからいつかは剣を交わすのだろうと、悲しく思った。

その時よ、永遠にこないでくれと願う程に…… 

会えば会うほど想いは募る。

だから会うのをやめ、そして相対し、だけども敗れ、結果ミレティアの統治を任せ、何の憂いもなく彼の傍にいる今の自分。

 

 

彼の寂しげで冷たい眼。なのに、声は染み入る様に暖かく。

 

愛したい───愛されたい。

そして、彼を、守ってあげたい。

 

目蓋の裏に、強烈に焼き付いている彼の笑みを浮かべた顔。

 

けれど、ここで死ねば笑みは曇るのだろう。

彼は、一度懐に入れた者には優しい人だから……

そうさせることに、いけないと思いつつも仄かな悦びがある。

 

でも、でもだ!

 

窮地に立った国の現状を一刻も速く知らせねば、彼は……っ!!

 

死んでしまう……

 

 

 

 

そんなのは嫌だと、力が沸き立つ。

諦められない。諦めてはならない。

 

ここで私は死ぬ訳にはいかないっ!

 

両手に持つ双鎌を大きく旋回させ、

 

「あああああああああああああああああっ」

 

烈吼の気合を吐き、降り注ぐ矢や炎の魔術を弾く。

それでも防ぎ切れなかった矢が身を貫き、炎が肌を焼いた。

激しい痛みに頬が引き攣る。

だがティファーナの瞳から光は消えない。

ギリリと歯軋りを鳴らし痛みを堪え、天空高くに陣取る竜騎士達の急降下チャージに備えて双鎌を大きく構えた。

 

「ルクセンベールを! 竜騎士の家系を舐めるなァ───ッ!!」

 

すれ違い様に一人目の騎士の首を刎ねる。

鮮血が顔を濡らし、視界が真っ赤に染まった。

だけどもティファーナは、目をぬぐうことをせず、鎌振るう手を止めない。

2人目、3人目と、斬り捨て、薙ぎ払い、そして、殺す。

地上に落下していく竜騎士が両手の指の数ほどになった頃、遂に右の肩に矢が刺さる。

当たり所が悪かったのか、力が入らず、だらりと手が下がった。

続いて間髪開けずに迫りくる敵竜騎士達のチャージに、双鎌を弾かれ、腹を抉られ。

 

最早ここまでか……っ!

 

そう思った瞬間、迫りくる竜騎士の群れが『光』と『闇』、2つの絶大なる魔力により吹き飛ばされる。

それでもチャージしてくる竜騎士の一人は、その身体を連接剣により巻きつかれ。一拍の間をおいて、血飛沫と断末魔の悲鳴を残して無残な躯を地上に落とした。

 

ティファーナは目を見開く。

 

目の前には、真白い6枚の翼を髪の色と同じ敵騎の紅き血で汚し、欠片の油断無き厳しい視線で天高く舞う竜騎士を睨む美しき飛天魔の背中。

彼女はメンフィル王リウイ・マーシルンの傍近くに侍る光の飛天魔シュヴァルティア。

魔神や神格者と比べても遜色ないだろうその威容と実力は、無残な躯を晒した騎士の末路を見ても疑いようはない。

 

続いて、闇と光の魔術が放たれた地上を、高鳴る胸を抑えるようにしてティファーナは見る。

 

闇の魔術、暗黒槍を放ったのは、リウイに絶対の忠誠を誓うアーライナの僧侶、ペテレーネ・セラ。

いつもは控えめな彼女が、厳しい目線で空を見上げ、身体の中にある魔力を練り、両腕を天に向け、2段目の魔術の詠唱に入っていた。

 

その後ろには光の魔術、光霞を放ったメンフィル王妃、イリーナ・マーシルン。

優しげで柔らかい容姿の彼女は、ホッとした表情を浮かべている。

ティファーナの視線に気づいたのだろう。隣に立つ男に肘を入れて何かを促していた。

そしてティファーナはイリーナが肘を入れる男を見る。

油断なく突剣を腰から抜き放ち、空からの攻撃に備えていた彼は、ふと気づいたように彼女を見た。

彼の瞳は厳しく細く、冷たく。でも、とても優しく……

ああ……

 

「陛下……」

 

どうしてここに……?

切れ長の、どこか酷薄にして冷徹な所のある瞳が、とても心配そうだ。

 

 

私に……

この私に向けられた瞳が……

 

 

リウイ・マーシルン。私の、マイ・ロード……

 

 

 

 

 

 

 




今回は加筆なしです

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