シスコンでブラコンなお姉さま セリーヌたん物語   作:uyr yama

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1話目

 

あれから幾年月……

 

自分はこの間、どれだけ考えても、どうすれば愛しい家族が幸せに過ごせる様になるのか分からないでいた。

やったのなんざ、精々がよちよち歩きだったレオニードを愛で尽くした事ぐらいか?

ゲーム中の彼は、気位高く顔色悪い、どちらかと言えば嫌われ役ではあったが、あんなんでもルートによって男をみせるナイスガイなのである。

そんな彼にもっとも酷い目に遭わされる可能性があるのが、自分こと、セリーヌ・テシュオスだった。

いくら命が短いだろう自分でも、ごろつき風情に輪姦された末の死は御免被りたい。

それにだ、弟萌えの妹萌えである自分でも、あんな顔色悪い茸カットな弟に酷い目に遭わされるのは本気で嫌だった。

だから、どんなに邪険にされても、せめてそんな扱いは受けない程度に好感度を上げとこう。

邪な想いから始まったこの行為。ステーシア様の嫌がらせを何とかかんとか受け流しつつ始めたのだけども……

ああ、自分は自分のブラコン魂(スピリッツ)を甘く見ていました。

もんの凄い勢いで絆されましたよ。

 

 

「ねー」「ねぇね」「ねえちゃま」「あねしゃま」「姉さま」

 

そして、「姉上」

 

慣れてくると、あんな茸で顔色悪いのも、とても愛らしく見えるから不思議だ。

呼ばれる度に、背筋が歓喜にゾクゾクする。

 

そうしている内に、自分の溢れんばかりの

 

     弟愛(ラブラブラザー)

 

が分かってくれたのか、ステーシア様との関係も良好になった。

人懐っこく、愛され属性のイリーナも、気づけばお義母様(ステーシア)と普通の親娘みたいに仲良く笑い合っている。

ゲーム中では、レオニード以外には本当に嫌な奴だと思っていた彼女も、こうなってみたら母性溢るる良い人にしか見えないから不思議だ。

何がどうなってこうなったのかさっぱりだけど、本当に、本当に幸せな光景。

愛らしいイリーナが声を上げてきゃらきゃら笑うと、それに続いてお義母様までもがお声を上げて笑っている。

それに釣られて周囲の侍女達まで楽しそうに微笑み、護衛騎士ギルティンだけがしかめっ面だけど、よーく見れば彼も相好を崩していた。

 

本当に、幸せ……

 

前世の最後で、おとうとくんを身をもって守ったご褒美なのだろうか?

 

 

 

 

 

 

「姉上、風も冷たくなってきました。そろそろ寝台へとお戻りなさい」

 

急ぎ足でやって来た茸カットの愛しい弟が、キツイ口調でそう言ってくるけれど、自分には彼の優しい心遣いが良く解る。

 

「ねえ、レオニードくん。もう少しこうしていたいの? ダメ……?」

 

上目遣いで可愛くおねだり。

今自分が居るのは王宮中庭の中央。

今度メンフィルへ嫁ぐことが決まったイリーナと、そしてお義母さまとのお茶会。

これを逃したら、もうこんな機会は訪れないかもしれない。

 

自分は知っている。

この先、目の前で愛らしく笑うイリーナの試練が。

 

半魔人に浚われ、そして……

ゲームのハッピーエンドみたいに、上手い具合に話が進みさえすれば、初めは辛くても、きっとこの娘は幸せになれる。

半魔人リウイ・マーシルンは、イリーナの運命の相手だから。

でも、その後に始まる幻燐戦争のことを思えば、決して、決して安心は出来ない。出来るはずもない。

 

「姉上。貴女がここで体調を崩し、命を短くしても、むしろ我がカルッシャにとっては厄介払いが出来るというもの」

 

「レオニードッ!」「レオニード様ッ!!」

 

お義母さまとイリーナが怒声を上げた。

でも、レオニードくんは何処吹く風と、余裕綽々。

 

そう、そうなのだ。

 

身体が弱く、政略結婚の駒に使う事も出来なければ、臣下の貴族へと降嫁させることも出来ない。

ただ居るだけの無駄飯喰らい。いいや、生きるのに高価な薬を必要とする分、本当に厄介なお荷物なのだ。

なんせ、10日の内、9日はベッドで臥せっているような自分……

本当に役立たずで、邪魔な存在。

 

「ですが、貴女が身体を損なえば、こうして悲しむ者が居るのだと知りなさい」

 

機嫌悪そうに唇を尖らせ、明後日の方を見ながら、自らの豪奢なマントで姉である自分を包み込む。

 

ああ、なんてツンデレ!

 

可愛い! 可愛い! 可愛い!!

 

見れば色の悪い顔も、どことなく赤く染まり、イリーナも、お義母さまも、それに気づいてクスクス笑う。

この弟は、どれだけ自分を萌えさせれば気がすむのだろう?

前世のおとうとくんも大概可愛かったモノだが、今生のレオニードくんも負けてないよ!

 

 

 

萌え~萌え~萌え~萌え~萌え~萌え~萌え~萌え~

萌え~萌え~萌え~萌え~萌え~萌え~萌え~萌え~

萌え~萌え~萌え~萌え~萌え~萌え~萌え~萌え~

萌え~萌え~萌え~萌え~萌え~萌え~萌え~萌え~

萌え~萌え~萌え~萌え~萌え~萌え~萌え~萌え~

萌え~萌え~萌え~萌え~萌え~萌え~萌え~萌え~

 

 

 

「いい加減になさいっ!!」

 

……お義母さまに怒られました。

気づけばレオニードくんのお腹におでこを押しつけ、グリグリしまくってましたよ。

 

「ほんとう、セリーヌ姉様ったら相変わらずなんですから」

 

ああ、イリーナたんも本当に可愛い……!!

 

萌え~萌え~もえ……

 

「いい加減にしなさいっ!!」

 

イリーナの柔らかい胸に顔を埋め、グリグリした瞬間に、レオニードくんに首根っこひっ掴まれて、めっちゃ怒られる姉であるはずの自分。

 

お義母さまとレオニードくん、ホントそっくりな親子だよ。

怒り方が一緒だもん。

 

「姉上っ!」

 

しゅーん。

 

うなだれる自分。

そんな自分を見て、お茶会は終わりだと思ったんだろう。

テキパキと片付け出す侍女達。

そしてお義母さまとイリーナもまた、部屋へと戻るのだろう。

腰を上げて椅子から立ち上がった。

それを見て近づいて来るギルティンに、自分は立たせて貰おうと手を伸ばし……

 

「よい。下がれ、ギルティン」

 

「……はっ」

 

レオニードくんは姉である自分の背中に手を回し胸元に引き寄せると、そのままフワッと持ち上げた。

 

お姫様だっこ……だと!?

弟であるレオニードくんにお姫様だっこして貰えるなんて……

もう、思い残すことはない……ことはないけど、幸せだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然だけど、このカルッシャには3つの勢力がある。

 

一つは言うまでもない。姫将軍エクリアを支持する軍部勢力。

そして宰相サイモフが率いる官僚勢力。

最後に、皇太子レオニードと周囲に侍る王族・貴族に、レオニードの後見人である宮廷魔術師テネイラ・オストーフの連合勢力である。

 

変われば変わるモノだ。

自分は特に何もしていないと言うのに。

 

レオニードは原作とは違い、やる気のない王に代わり、国政にキチンとした態度で臨んでいる。

そんな彼に宰相サイモフも好意的であり、もしかしたら……と思ってしまう自分がいるのだ。

このまま自分が何も出来なくても、優秀な宰相と宮廷魔術師に補佐されたレオニードくんが、全てを守ってくれるんじゃないかと……

亜人種に寛容な宮廷魔術師を後見人としているせいなのか、ギルティンを初めとする亜人種の騎士達を国から追い出すこともなかった。

 

これには姉であるエクリアが、最後まで強硬に追い出しキャンペーンを張っていたが。

まあ、姫神フェミリンスに引きずられているんだろう。

そうじゃなきゃ、お姉様がギルティンを追い出そうとするなんて考えられないからだ。

 

だから大丈夫。お姉様は、きっと優しいままだ。

 

なんの根拠もなく、姉であるエクリアを信じる自分。

いいや、逃げていたのかもしれない。

お姉様を縛るフェミリンスの呪いから。

自分にはどうにも出来ない事だからと。

だからあれほど思い悩んでいた未来に、無責任にも、もう大丈夫かもと。

 

自分は、何もしていないと言うのに……

そう、この先の暗い未来から、目を、背けたのだ。

 

「レオニード。このような事をしている暇があったら、他にする事があるだろうに」

 

「そのようなこと、姫将軍殿に言われる筋合いはないな」

 

部屋まで送ってくれる途中に現れたお姉様と、レオニードくんの暗く濁った口論。

それを自分は、耳に入れようともせず。

 

大丈夫、きっと大丈夫……

現実から、目を、逸らす。

 

愛する姉が、病弱である自分に嫉妬の念を募らせているなど、露とも思わず。

少し考えれば解ったことなのに。

フェミリンスの呪いに苦しむお姉様は、幸せだったイリーナに対し、どのような感情を持っていたかなんてことを、知っていたはずの自分には。

だから、平気でこんなことを言ってしまったのだ。

 

「お姉さま、見逃してください。だって私、こんなに幸せなんだもの……」

 

愛する弟の胸の中、惚けるような笑みを浮かべる。

それがどんな意味をもたらすのかも解らずに。

だから、お姉さまの被る仮面の奥。

その目が、キツク自分を睨みつけているなんて、思いもよらず……

家族から孤立してしまったお姉さまの気持ちにも、気づかなかった。

 

「……そう。ならば好きにするといい、レオニード。そして、セリーヌ……」

 

 

 

 

 

 

 

 そして、この時をきっかけに、悲劇の幕が開く。

 

 

 

 

 

 

 


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