シスコンでブラコンなお姉さま セリーヌたん物語 作:uyr yama
「戦場からここまでの距離。それに時間稼ぎに徹している我が軍のこともあります。そんな彼らに報いるためにも、メンフィル王めがこの地に救援に来る頃には趨勢が決していなければなりません。ならばここは多少犠牲が出ようとも我攻めで一息に城を攻め落とし、その戦果を持ってメンフィル王に城下の盟を誓わせましょうぞ」
何をするにも、一刻も早く城を落とした方が良い。
オイゲンはそう判断し、セリーヌに進言する。
セリーヌは、確かにその方が良いかもしれないと思った。
ただ気になるのは将兵の損耗と疲労である。
リウイが降伏せずに戦闘となった場合、我が軍は疲れ切った状態で、少数と言えどもリウイ率いる精鋭と果たして戦い勝ち得るか?
「疲労や損耗を気にしておいでなら問題はありますまい。第一に、我らはメンフィル王と破門騎士シルフィアの持つ兵の百倍します。最も疲労が少ない部隊でまずは当たり、順繰り交代して戦えばいいのです」
「兵力の逐次投入になりませんか……?」
やや疑わしげに眉を潜めるセリーヌに、オイゲンはここまで信頼を失っていたかと苦笑を浮かべそうなる。
もっとも、そんな失礼な真似はできないのだが、
「……うまくいくのですか?」
とあまりに直球な問いかけに、思わず口元が皮肉気に上がってしまった。
むろん、この皮肉は自身に向けた物である。
とは言え、それは自分だけが分かる物。
万が一にでも見られたら、どんな誤解を受けるか分からない。
いや、それ以前に失礼すぎる行為であろう。
オイゲンは慌てて口元を隠す様に頭を下げると、
「うまくいかせます。また、私にもそれを成せるだけの能力があると自負しております」
その言葉には力があった。
自分らの献策により危機に陥り、それに恥じた男としての意地である。
この時、セリーヌは最初は軍を引かせようと思っていた。
勝利を目の前にした興奮の熱は、負けフラグといういささかバカバカしい理由ですっかり冷めたからだ。
撤退するのに反対しそうな将達は、負け戦寸前まで追い詰められたのを助けられたことで、これ以降はセリーヌの考えに早々反しはしないだろう。
だったら、この戦況下で撤退などという承伏しがたいだろう命令も有効に違いない。
「オイゲンの能力は信用しています。ですが、ここは颯爽と軍を引いた方が良いのではないでしょうか?」
と小さく独り言を漏らす。無論、オイゲンの耳にも届いている。
オイゲンは思わず反論しそうになるが、セリーヌがまだ迷っているように見え、グッと言葉を我慢した。
メンフィル軍の城兵は、散々に痛めつけられて、撤退するセリーヌ達カルッシャ軍を追い掛けはしないだろう。
……ううん、来るかな?
でも、ミルスを落とす過程でリウイに襲撃されるよりも、リウイを潰す過程でファーミシルス率いる敗残兵と戦う方が勝率が高そうだ。故に、然程脅威ではないだろうとセリーヌは考えた。
ならば、現在野戦陣地にてリウイと相対しているだろう部隊と合流し、大軍を持って一気呵成に踏みつぶす。
例えリウイ・マーシルンを中心とした精鋭といえども、一軍に満たない少数である。
カルッシャの万を優に超える大軍は、精々が百にしか満たないメンフィル軍を踏みつぶすのには十分な数な筈だ。
必勝を期すなら、この王都ミルスには一部の兵を残して反転。
救援に駆け付けるリウイ・マーシルンの部隊を徹底的に叩く!
セリーヌは、現状ではこれが一番勝率が高いと思っている。
が、しかし。オイゲンの献策にしばし迷った。
セリーヌにとって、こと軍事関係に関しては、自分の考えを然程信用してはいないのだ。
それに、直接戦ってリウイを討ち取るよりも、オイゲンが言う通りに降伏させた方が楽であるし、何より、先程浮かれた時に見た夢が、再び見えた気がした。
オイゲンの案に乗ろう。
そうセリーヌが判断を下し、
「オイゲン、あなたに……」
あなたに指揮を任せます────そう命じようとした瞬間であった。
紅に染まる夕日が僅かに陰った気がしたのは。
眩しいまでに瞳を差す赤が、一瞬だけ影を差したのだ。
セリーヌは命じようとした言葉を自然と止め、空を見る。
────ピューリィィィィイイイイ
美しい女騎士をのせた黒き竜が、戦場の血の匂いに興奮したのか、赤い空を引き裂きながら、まるで鳥のような甲高い鳴き声を上げた。
「あの竜騎士はティファーナ・ルクセンベール?」
目を凝らし、よく見る。
確かにサラン街道会戦で見た女竜騎士だ。
たった一騎の援軍か、もしくはリウイ来援を告げての士気高揚のためか。
恐らくは後者だろう。
たかが一騎で戦場に駆け付け大活躍し大逆転など、ヒロイックサーガでもあるまいし。
なのに……なに? この嫌な感じは……
心臓の鼓動が、まるで早鐘のよう。
じわりと嫌な汗がにじみ出る。
ハァ……ハァ……ハァ……と、息も何処となく荒くなってきた。
……ダメ。ティファーナをこのままにしてはダメっ!
それはセリーヌの、未熟とは言え戦士としての勘であった。
「集中一斉射っ! 目標、竜騎士、急ぎなさいっ!!」
「ハッ!」
僅かな間を置き、それでも素早く矢をつがえ放つ。
続いて魔術師による炎の魔法が、夕日に染まった赤い空を、爆炎によるさらなる赤へと変えていく。
レアイナ・キースを討った戦術だ。
人を超えかけてはいるものの、それでもティファーナは、しょせんどこまで行っても只の人である。
この千を超える矢と、千を超える魔法の衝撃に、人の身が耐えられる筈などない。
少なくても、騎乗する竜は討ち取ったはず。
ならば墜落する竜の下敷きに……そうでもなくても、高く天を飛ぶ竜騎士が墜落したならば、やはり生きてはいないだろう。
なのに、どうしてっ!?
────ウワァァァァァアアアアアアアッ!!
死に体のメンフィル軍から凄まじい歓声が上がったのだ!?
「この程度の攻撃とはいえ、陛下に傷一つ負わせるつもりなどないのでな」
そう言ったのは、血と焦げ目でボロボロになったファーミシルスだ。
彼女は自身を囲むカルッシャ竜騎士の群れを強引に突破し、ティファーナの盾となったのだ。
魔術師であるレアイナとは違い。純粋な戦士で、しかも魔神に近い力を得つつあるファーミシルスにとっては、致命的な攻撃にはなりえない。
それでも2射目、3射目と続けば、あるいは討ち取ることも出来ただろう。
だが、セリーヌは命を下せなかった。
ティファーナの背にいる一人の男に意識が飛んで。
ファーミシルスが『陛下』と呼んだ男に意識がいって。
ティファーナの駆る竜は、王都ミルスの城壁スレスレまで勢いよく急降下する。
そして、バッと金の縁がある白い豪奢なマントをなびかせ、その竜の背から一人の男が飛び降りた。
丁度、攻城兵器を使って城門を破壊しようとしていた兵士の真ん前に着地し、突然のことに驚きうろたえる兵と、彼らを指揮していた騎士を瞬く間に斬って捨てる。
血風が舞う。
なのに件の男には返り血ひとつかからない。
ただ血に濡れた突剣を、ビュンと勢いよく振って血を飛ばし、鋭い視線を『セリーヌ』に叩き込んだ。
喉がカラカラだ。
眼光の鋭さに怯んでしまいそう。
それでもセリーヌは負けじと睨み返し……
たった一人。
正確にいえば、ティファーナもいるけれど。
それでも2人だ。
そう、たったの2人。
万を超える軍勢がひきしめ合う戦場で、たった2人の援軍がどれほどのものか。
でも、それが脅威なのだと素直に認めよう。
「ウフフ……アハハハ……ハハハハハハハハ……」
思わず出てしまった笑いに呼応したのか、彼もまた同じように自分を睨んだまま口角を吊り上げ、「クッ」と笑い声を漏らす。
ああ、にしても、私が重視した竜騎士を、アナタもそうやって使いますか。
空という選択肢がある中で、この世界の戦場の基本は何故か二次元である。
そんな二次元の戦場に、三次元的思想をもたらしたのがセリーヌであった。
流石に、今の彼はそこまで考えてはいないだろう。
それでも彼は、空を使った兵や将の輸送を思いついたのかもしれない。
その戦略は、これからのセリーヌにとって、非常に迷惑かつ脅威であった。
例え、それを活かせるだけの竜を揃えれはしなかろうと。
だから憤る。
……本当に、アナタは……貴方、は……
憎たらしい……っ!!
セリーヌは手綱を強く握り、馬を進めた。
男の居る城門に声が届く様にと。
前へ、前へ。
例え周囲の騎士やオイゲンが止めようとも。
前へ、前へ……
そして、数多の兵を挟んでだが、この時代の最後を彩る2人が、遂に対峙した。
「光と闇の狭間の王よ……」
美しい声が戦場に響き渡る。
リウイは目を細め、言葉の意味に眉尻を跳ねさせた。
水晶の刃を持っていったのは、やはりキサマか、と。
見れば、腰の左右にそれぞれ剣を差している。
そのどちらかが、『それ』なのだろう。
「自国の民を犠牲にしてまで行ったイオメルの樹塔探索、うまくいきまして?」
その意味を知る者にとってはどこまでも厭味ったらしく、でも知らぬ者が聞いたら胸にざわめく何かを感じる。
だってそうだろう?
本国が爆撃に晒されるなどという凶事の最中、我らが王は何をしていたのか?
「……知っていてそれを聞くのか、貴方は?」
だからこそ、彼にとっては苦々しい。
「ええ、だってそうでしょう? アナタがいない間に死んだ兵や民に教えてあげたいもの。 アナタの今回の行動が、どれだけ無意味だったかを……」
メンフィル兵の戦意を減失させるに十分な、そんな言葉の内容を、どこまでも悲しそうに言い放つ。
そう、2人の間に剣を使わない、言葉の刃を用いた戦いは、既に始まっているのだ。
名将と呼ばれ、遂には新たな姫将軍とまで詠われる。
セリーヌは名将や英雄と呼ばれるに相応しい能力など持ち合わせてはいなかった。
少なくても本人は固くそう信じ、だが周囲の人間はそうは思わなかったのだ。
大軍を整え、各部隊間の連絡を密にし、十分な補給を確保し連動させたセリーヌは、それだけで名将としての資格がある。
その多くを部下に任せていたとはいえ、『それ』が出来る。それこそが非常に恵まれた資質なのだ。
もっとも、彼女の上げた戦果が魅せる虚像であるというのも間違いではない。
その虚像は、この時も、そして未来に至るまでの全ての時で、セリーヌという存在を畏怖させ、結果的に彼女を大いに苦しませることになるのだが……
「そんなアナタがいるからレスペレントは血に染まるのですっ!!」
「例えそうだとしても、俺は消えるつもりなどない」
ええ、そうでしょうね。
アナタはこのレスペレントの未来を真剣に憂う人だから……
それに比べ、私にはアナタと違って大義はないのでしょう。
でも、でも……!
「アナタの存在は鬱陶しいのですっ! 害悪ですっ! プテテットさんなのですっ! ですから消えておしまいなさいっ! リウイ・マーシルン!!」
私の愛する家族のために、ここで、死ねっ!
「……プテテット……さん? 随分と可愛い……もとい酷い言いようだな。俺にとって邪魔という程でもないのだが……」
ああ、その水晶の剣で俺を貫き殺戮の魔女の呪いを解くつもりか。
だがな……
「我が征く道を塞ぐというなら、お前がここで消えろっ! セリーヌ・テシュオス!!」
だからと言って、ただで殺られてやるつもりなど、ないっ!
そんな身の丈に余る存在となってしまったセリーヌと、真実英雄であったリウイ・マーシルン。
2人が始めて対峙したミルス攻防戦の最終幕が切って落とされる。
注! プテテットさん……原作世界におけるDQで言う所のスライム。1レベルの雑魚がいれば200レベルを超える種族までいたりする。経験値や金銭をたっぷり持った種まであったり、マジでスライムをインスパイアってうわなにするやめろくぁwせdrftgyふじこlp
キャラクター・データ(戦女神VERITA風味)
リウイ・マーシルン
LV.230
熟練度
中型武器 S(突剣)
必殺・演武 S
必殺・魔剣 B
魔術・招聘 -
魔術・招聘
ジール 影が薄すぎ土の精
ファラシス 存在意味が不明な火の精
マーリオン エロシーン無くて泣いたプレイヤー続出の可愛い水の精
スキル
貫通Ⅱ 攻撃時に確率で発動し、発動すると敵の防御力、防御回数を50%ダウン
戦闘指揮Ⅴ 戦闘開始時に確立で発動し、発動すると味方全員が『先手Ⅰ』発動&効果パラメータ『命中3』『回避3』付加
鼓舞Ⅴ 戦闘開始時、一定確率で発動し、味方全員が高揚する
達人の技力Ⅱ 消費TPが20%軽減される
オーバーキル 攻撃時に常に発動し、ダメージMAX桁が一桁上昇
即死無効 自身に対する効果パラメータ『即死』を無効化
魔法剣 必殺技『魔法剣』を使用することが出来る
称号
レスペレントを憂う者
姫神の呪縛からレスペレントを解放せんと志す気高き王の称号
所持アイテム
E:リュミルバキュラ 属性 神聖+2 命中28 攻撃245 攻回 -1 CT 8
E:ロイプレート 属性 万能 物防23 魔防15 肉速-1 精速-1
E:イリーナの首飾り 防御回数1 回避10
つづきます☆
(゜Д゜;≡;゜д゜)キョロキョロ
(゜Д゜;≡;゜д゜)キョロキョロ
(゜Д゜;≡;゜д゜)キョロキョロ
(´・ω・')……ヨシ、ダレモミテナイ
おまけ 舌戦の続き
(ボツ部分ともいうw話の流れにそぐわないのでカットしました)
「消えろって、なんて酷い……この下半身無節操男っ!」
「なっ!?」
「知ってるんですよ! 貴方の浮気癖にイリーナがどれだけ泣いているかっ!! このハゲ!」
「お、俺はハゲてなどないっ!」
「ふふーんだっ。暇があれば女を抱くか本を読むかのどっちかしかしないような苦労性のムッツリは頭が禿げてツルピカになるって相場が決まってるんですよーだっ! あっ、なんかおでこの辺りが……いいえ、なんでもありません」
「ちょっと待てーっ! おでこの辺りが何だというんだっ! オイ! おいぃぃぃいいいいいッ!?」
「種なしキウイの分際で口喧しい。それでも一国の王ですかっ! 恥を知りなさいっ!! あとデコ広いの隠したいからって前髪で覆うとか男としてプライドないんですか?」
「……グッ! く……あ……ああああああああああっ!!」
……最初の舌戦だけはセリーヌの圧勝だったと伝えられている。
注! 種なしキウイ
VERITA発表以前のリウイの蔑称。散々ヤリまくってる癖に全然当たらないリウイ=キウイに対する揶揄。
セリーヌはVERITAを知らないので、リウイに対してこう悪口を言い放った。
実際はこのSS内だけでもすでに一人孕ませているし、原作のVERITAでは孫娘まで出てくるので事実無根の名誉棄損である。
注! デコハゲ云々
別にそんな事実はない。
でもあの前髪の生え際を考えてみると、デコの広さが……