「そのバスターコールが問題なんだ。」
その言葉を発したのは、ギィィィィィィィ、という不吉な音と共にやって来た、牛みてぇな頭をした野郎だった。
そいつは俺がロビンちゃんに、何故戻ってこないのか?バスターコールさえなんとかすりゃロビンちゃんが奴等に従うこともないはずだろう!?と、問いかけている最中に現れやがった。
しかも、現れたのは俺の真後ろ。どうやって現れたのかは一目見りゃ分かった。奴の後ろに空気で出来たドアのようなもんがあったからだ。
こいつは能力者だ。それも厄介なことに移動に特化した能力。これじゃあ奴等からロビンちゃんを引き離しても、ちょっとした隙にいとも容易く捕まえられるかもしれねえ。
だが問題はそれだけじゃねえ。牛野郎の後ろのドアからもう一人出て来たからだ。
「ああ、言い忘れてましたが、サンジ君とウソッパチ君には攻撃しないで下さいね、ブルーノ君。」
「うおーい!ウソッパチ君ってそりゃ俺のことか!?」
そげキングがなんか言ってるが無視だ。
牛野郎の後ろのドアから現れたそいつもCP9なんだろう。
見た感じは脇下まであるストレートの黒髪を首の後ろで結び、白いシャツに黒いネクタイとスーツを着た、これまでの車両にいた政府の役人どもと同じ格好だ。だがその身に纏う雰囲気は明らかに雑魚の雰囲気じゃねえ。
その顔つきも、他の奴等と比べると全く違うもんだ。他の奴等は無表情が主だったが、こいつは笑ってやがる。
その蒼い瞳は常に鋭い目付きを保ち、しかしその口元は弧を描く様に深く笑みを形作っている。だがその笑みは、不敵な笑みにも、嘲りの笑みにも、ニヤついた笑みにも見える、不気味なもんだ。
こんな野郎と能力者の牛野郎を相手に、この場を凌ぎ切ることが出来るか?車両は切り離され、周りは大荒れの海だ。ロビンちゃんは能力者だから海に飛び込むわけにもいかねえ。
その肝心のロビンちゃんは逃げる積もりは無く、戦うことが出来るのは俺とそげキングだけだ。だがそげキングをこの狭い海列車内で戦力には数えられねえ。理由は簡単。あいつは狙撃手で接近戦が得意じゃねえからだ。
そして敵は二人。ムカつくことに牛野郎は俺の蹴りをものともせず、その上能力者ときた。もう一人のニヤケ野郎も牛野郎と近い実力を持ってると見た方が無難だろう。
だが不幸中の幸いとでも言うべきか、ブルーノとか呼ばれた牛野郎は手を出す気がねえみてぇで、ニヤケ野郎の言葉を聞き入れたみてえだ。
そしてニヤケ野郎は続け様に言いやがった。
「彼等の相手はわたし一人でするので。」
そう言ったのとほぼ同時に後ろにあった空気のドアが消えていく。
「では行きますよ。【指銃・鞭】」
ッ!!まずいッ!!
奴は鞭の様にしならせた腕を俺の脳天目掛けて突き出してきた。それをすぐに後ろに下がることで回避する。
よく見れば、奴の突き出した腕の先、その手は人差し指一本だけを真っ直ぐに伸ばし、後の残りの指は全て握り込んだ形になっていた。
その攻撃は、フランキーが天井から現れた時に一緒に降ってきた野郎、CP9の新入りとか言われてたはずだ。そいつに向かって、ハトを肩に乗せた野郎が繰り出した攻撃と同じもんだった。
おそらく心臓や脳といった急所に向ける明らかな、文字通りの一撃必殺用の技なんだろう。
奴の攻撃はそれだけじゃ終わらねえ。
次に繰り出してきたのは右脚の鋭い蹴り。
それを更に後ろに下がることで回避する。
「中々やりますね。」
「舐めてんじゃねぇぞクソヤローが。おい、そげキング!ロビンちゃんを守ってろ!!」
「えっ!?あ、ああ!了解!」
「やめておけ。」
「「!!?」」
聞こえてきたのは牛野郎の声だった。あの野郎は今俺の目の前にいるニヤケ野郎の後ろで待機していた筈だ!クソッ!また能力で移動しやがったな。
「そろそろこっちに意識を戻して頂きたいのですが。」
「あぁ?テメェなんかにかまってる暇はねぇんだよ!さっさと失せろ、その顔ボコボコにされたくなきゃあな。」
「連れないですねえ。こっちは手加減して迄あなたと戦っているのに。【剃】」
奴はそう言ったのと同時に高速でこっちに向かってきた。その動きはかなり速いが、ギリギリ視認可能な速さだ。
奴が攻撃をしようとした瞬間を狙って顔面に強烈なのを叩き込んでやる。
「【指銃】」
今だッ!!狙うのは首!
「首肉フリットッ!!」
奴の右腕から放たれた攻撃を首を傾げる動作だけで避ける。
そして俺の右の蹴りは奴の首に吸い込まれる様に決まった。
ドゴォッ!!!という音と共に奴の体が右上に飛んでいく。
どうやら奴は牛野郎より弱そうだ。これならなんとかなる。
「【月歩】」
奴は海列車の天井にぶつかりそうになった時にそう呟き、あろうことか空気を蹴って帰ってきやがった。
俺が牛野郎に攻撃した時に、フランキーの野郎が奴等は妙な体技を使うと言ってたが……さっきのもその妙な体技とやらの一つみてぇだな。
奴はトンッと軽い音を立てて地面に降り立ち言いやがった。
「あれ?思ったよりも弱いですね。もしかして手加減してます?」
腹が立つぐらいに飄々と、俺の蹴りなんざ食らってないみてぇに……。
「ありえねぇ……完璧に決まった筈だぞ、クソッ!」
今度はこっちから仕掛ける!
勢いよく駆け出し、奴に蹴りを叩き込む!
「肩ロース・腰肉・後バラ肉・腹肉・上部もも肉・尾肉・もも肉・すね肉ッ」
今度は俺の蹴りを危なげなく片手で捌いていく奴に、焦燥感を募らせながら決めを放つ。
「仔牛肉ショットッ!!」
パンッ、と乾いた音が響く。それは決して俺の蹴りが決まった音なんかじゃねぇ。
奴は片手で弾いたんだ。俺の渾身の蹴りを。
奴に決まるでもなく、止められるでもない俺の蹴りは、俺からみて右に弾かれたことでその全く殺されていない自分自身の蹴りの勢いに俺の体が持っていかれ、そして……
「【鉄塊脚】」
身を裂く様な衝撃と共に気が遠くなった。
「あまり、強くないですね。」
そんなニヤケ野郎の声を最後に、駄目だ駄目だと、今気を失うなと自分に言い聞かせても言うことを聞かない俺の体は、地面に倒れ、視界を黒く染めていった。
俺が意識を取り戻した時には、この大荒れの海のど真ん中に漂う海列車の中で倒れ伏すウソップと、ロビンちゃんを取り返せずに無様にも意識を刈られた俺の二人しかいなかった。
「ッ!!クッソォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!」
待ってろよ、ロビンちゃん!!必ず助けに行くからよ!!ついでにあのニヤケ野郎も牛野郎も、他のクソヤロー共もぶっ倒して、必ず助けに行くから、だから待っててくれ!!ロビンちゃん!!!!!