執務室を後にしたわたし達は一時の休息を取るために一つの大部屋に向かいました。
大部屋に向かっている最中にブルーノ君が外の様子を見にいくと言ってドアドアの実の能力を使って行ってしまいました。
やはりルフィ君が侵入して来たことが気になっているんでしょう。わたしもすごく気になります……。ついて行けば良かったです。しょうがないですね、ここはブルーノ君に任せましょう。
なんだか今更ですけどブルーノ君って寡黙な仕事屋さんって感じで、そばにいるだけで頼りになるような気がします。気がするだけなんですけどね?
わたし達が大部屋に着きソファに座り飲み物を手にする中、カク君とカリファちゃんは自分たちの目の前にある机の上に置いた悪魔の実をジッと見つめています。
この悪魔の実は先程、執務室を全員が退室しようとした時に長官がわたし達を呼び止め、今回の任務の報酬という名目でカク君とカリファちゃんに渡したものです。
ルッチ君とブルーノ君は既に能力者なので二人に悪魔の実が渡るのは当然の流れでした。
「そんなに見つめてどうしたんです?食べないのですか?」
そんな二人はずっと悪魔の実を見つめ続けていたため、痺れを切らしてついつい聞いてしまいました。
「図鑑にも乗っておらん、どんな能力が手にはいるのかも分からんときた。」
「図鑑に乗っていないのが普通らしいわ。でもだからってコレは迷うわね。食べればカナヅチは確実、けれど変な能力が手に入るかもしれないなんて。」
「どんな能力だろうと使い方次第だ。十中八九弱くはならん。カナヅチになったとしても不自由はないしな。その実一つを探し求め、ままならず死んで行く船乗りは五万といるんだぞ。食ってみろよ、おもしろい。」
ニヤリ、と悪人顏を歪めて笑ったルッチ君がそう言いました。
ルッチ君は今、お酒を片手にソファにその身を沈めていますが、なぜかその肩に止まっているハト君もルッチ君と同じように片手にお酒の入ったグラスを持って、そのグラスを口へと運んでいます。
いや、なんでハト君がお酒を飲んでるんですか。っていうか嘴なのに飲めるんですか?それ以前にその翼でどうやってグラスを掴んでるんですか!?
なんだかこのことを考えていると泥沼にハマったかの様な錯覚に陥ってしまいます。だって、この疑問解けそうにないですもん。
意識を切り替えるためにも、ふと思ったことを言いました。
「その実を食べて得た能力がもし自然系なら、CP9の中で最強、ほぼ敵無しですね。」
わたしのこの言葉に真っ先に反応したのはジャブラ君でした。分かりやすいぐらいに耳がピクピク動き過ぎです。
「おいおいおいおい!カリファ、やめとけって!いいことねぇぞ!クソみたいな味するぞ、クソ!!」
「ジャブラはカク達にパワーアップされたくないのだ。ルークの言葉にも反応しまくりだ、チャパパ〜。」
ですよね。過剰反応しすぎですよね。めちゃくちゃ必死すぎて……
「ぷぷっ!」
「ルーク!テメェ今笑ったな!?道力が俺より上だからって調子にのんじゃねぇぞ!俺は動物系の能力者!だがお前は超人系の能力者!俺がお前に負ける道理はねぇぞ!」
確かに。ジャブラ君は動物系の能力者、それに加えて全身【鉄塊】を維持したまま自由に動ける鉄塊拳法の使い手ですからね、その体術のレベルはかなりのものです。
しかし動物系だとしてもおそらく、わたしの道力には及びません。人獣形態になっても3000道力ぐらいじゃないですかね。
それに超人系だからと言って馬鹿にしてはいけません。コレはわたしの個人的な考えなのですが、超人系の持ち味はトリッキーなところだと思っています。
悪魔の実の能力自体使いこなすのにかなりの年数を要するのですが、その中でも特に時間がかかってしまうのが超人系です。自然系や動物系は既に能力者がいるため、自身の能力の形を簡単に把握することが出来ます。こんな風に使えばいいのか、こういう使い方があるのか、という具合にね。
しかし超人系はトリッキーな能力が多いため使いこなすのには苦労します。その分、使いこなした時の能力の強さは攻撃力に限り自然系にだって負けないという自負があります。
そこは能力に依る部分が大きいですけどね。攻撃寄りの能力じゃなかったりすることもあるでしょうし、流石に防御面や攻撃の範囲の広さでは自然系に勝てませんし。
わたしが思う超人系の一番の強みは、自身の持つ能力と覇気、特に武装色の覇気とが合わさった時だと考えています。
超人系のトリッキーな攻撃と、自然系でさえ捉えることを可能とする覇気の攻撃は、同格の相手ならば間違いなく初見で見切られることは無いでしょう。格上の相手とさえやり合えると、そうわたしは思っています。
まあ、最終的に何が言いたいのかと言いますと、
「ジャブラ君に負けるとか、まずあり得ません。」
「んだとゴラァ!!!」
叫んだジャブラ君の体はどんどん大きくなっていきます。その姿は人の背丈を大きく超えていき、3メートルに届くのではと思う程に巨大化した体格、腹部から鼻下にかけては白色でそれ以外は黒色といった見た目フサフサの全身毛並み、顏は鼻と口が出っ張っていき、その頭部には一対のトンがった耳が存在しています。
狼、何処からどう見ても百人が百人そういうでしょう。事実、彼はイヌイヌの実【モデル・ウルフ】を食べた悪魔の実の能力者です。
「第一テメェは生意気なんだよ。俺より年下のくせして道力が3200だと?一体どんな手を使いやがった!?」
「たゆまぬ努力の結晶です。」
あと才能。
「それにジャブラ君修行そっちのけで給仕職のギャサリンさんにずっとかまけてたじゃないですか。」
「………う」
「う?」
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!ギャサリン!何故俺じゃダメなんだぁ!?やっぱり顔か?だからルッチがいいのか!?くそぉぉおおお!!」
「ジャブラが思い出してしまった〜。せっかく忘れていたのに思い出してしまった〜チャパパ〜。そういえばルークのこともミステリアスなところが素敵って言ってたぞ、ついでに思い出してしまった〜チャパパ〜。」
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!ルーク!!テメェこの野郎ォォォオオ!!」
「でもやっぱりルッチが一番だって言ってたぞ、チャパパ〜。」
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!ルッチ!!テメェこの野郎ォォォオオ!!!!!」
「ジャブラ君、あなたはわたしのことを生意気なくそ餓鬼って思ってるのかもしれません。けれど、わたしはあなたの事を尊敬してるんですよ?暗殺者としての心構え、その一途な性格、とても素晴らしい先輩です。ギャサリンさんはあなたのいいところに気づく事はなく、いや気付こうとすらしませんでした。でもわたしは知っています。知っているわたしが言います。ジャブラ君にはいつか素晴らしい出会いがあると。ジャブラ君の素晴らしさに気付く人がいると!!だから自分に自信を持ってください!!」
「………う」
「う?」
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!ルーク!テメェこの野郎ォォォオオ!!今まで生意気なくそ餓鬼だと思ってたが、オメェ!おれのことをそんな風に思ってくれてたのか!!今まではすまなかったな……これからは態度を改めるぜ。」
おーい、ちょっとー?本当に生意気なくそ餓鬼だと思ってたんですか?泣きますよ?
「失礼します!」
こんなやり取りをしている中、突然そう言って一人の役人が入ってきました。その役人君は入ってくるなり、誰かが促す隙も与えぬ程の勢いで話し始めました。
「スパンダム長官よりCP9の方々へ、只今すぐに執務室に集まるようにとのことです!」
「何があった?」
突然の伝令にクールな反応を示したのはルッチ君です。
「そ、それがつい先程、裁判所の屋上にて海賊麦わらのルフィと思わしき人物を確認いたしました!同じく裁判所の屋上では驚くべき事に……」
何やらすごく言いづらそうにしていますね。目が泳ぎすぎです。ルッチ君も同じ事を思ったんでしょう。すぐに言葉を発しました。
「何を言い淀んでいる。貴様は自分の仕事もこなせんのか。」
「す、すみません!裁判所の屋上では驚くべき事に……CP9ブルーノ殿が!
麦わらのルフィに敗北した模様です!!!」
正に驚愕、そうとしか言い表せません。道力800を超えるブルーノ君が負けるとは……。
「それは確かな情報なのですか?」
思わず聞いてしまいました。役人君はすぐに答えを返してくれます。
「はっ!間違いなく!屋上にて倒れ伏すブルーノ殿を確認いたしました!その光景を眼にしたスパンダム長官からはCP9の方々へ麦わらの一味に対する完全抹殺指令が出されました!!」
「そうか……ククク、カク。カリファ。今のうちにテメェの能力ぐらい把握しておけよ。すぐにでも実践で試せるんだからな。行くぞテメェ等!!」
ルッチ君は顔を凶悪な笑みで彩りながら、そう言って窓に歩を進めました。いや、ルッチ君だけじゃありません。今この部屋にいるCP9のメンバーは誰もが顔に不敵な笑みを浮かべています。哀しいことに、皆さんが面白がるのも分かってしまいます。
当然でしょう。
司法の島エニエス・ロビーに攻め入ってくるだけではなく、超人であるCP9のメンバーが一人ブルーノ君を倒し、しかしそこまでする理由が仲間たった一人の奪還のためなのですから。
狂っています。麦わらのルフィは、狂っています。
そうでないとしたら、ただの馬鹿です。
ここ、司法の島エニエス・ロビーに攻め入ってくるという事は、世界を敵に回すという事なのです。これから先の人生、常に海軍の追ってを相手に生きていくことになるでしょう。
そんな者が現れたのです。初めてですよ。こんな常識をブチ破ったことをする人に会ったのはね。わたしもワクワクしてしまいます。ルフィ君が何をするのか、とても興味が出てきてしまいました。
窓に足をかけて、強く一歩を踏み出します。その場は空中。下を見れば底の見えない、何処までも深い闇に覆われています。そこに飲まれないように、一瞬にして十数回の蹴りを強靭な脚力をもって繰り出します。そうすればアラ不思議、わたしの体が上へと飛んで行くではありませんか。
これこそ六式の体技が一つ【月歩】です。この体技は空中を自由に飛び回るための技術です。
この体技を使い長官の執務室まで飛んでいきます。
他の皆さんも既に移動中です。わたしが執務室のベランダ部分に降り立ってすぐに、CP9のメンバー全員が集まりました。
しかし、それは麦わらの一味も同じようで、ルフィ君しかいなかった前方の裁判所の屋上に続々と麦わらの一味と思われる者達が集まり出しました。
ルフィ君だけでなく、他の者達もこの場所まで辿り着いたとは……正直言って驚いています。
本当に、楽しませてくれそうですね。
それはそうと、
「カク君、カリファちゃん、いつの間に悪魔の実を食べたんですか?」
こっち側のことにも驚きました。だっていつの間にか食べてるんですもん。
「あなた達が寸劇を繰り広げている間に食べ終わったわ。」
「あっ、そうですか……。」
「それにしてもあの味は不味かったのう。しかも能力が……。」
「どんな能力なんです?」
「いや、今はどうでもいい話じゃろ。なんせ目の前に麦わらの一味が来ておるんじゃからのぉ。」
確かにそれもそうですね。
見てみれば、そこにはスパンダム長官とロビンちゃんと麦わらの一味が長々とお喋りの真っ最中です。
驚いたのはあの長鼻君が"ファイヤーバードスター"なる火の鳥をかたどった攻撃で世界政府の旗を打ち抜いたたことです。
「生きたいと、言えェェェエエエ!!!!!」
そして叫ぶルフィ君。その言は正に上に立つ者の力を秘めていて、覇気にも似た力強さを感じられます。
「生ぎだいッ!私も一緒に、海へ連れでっで!!!!!」
返す叫びもまた、その言葉に様々な想いが込められているのでしょう。今までの、そしてこれから先へと馳せる想いを。
もうこれ以上の言葉はいらない筈です。
必要なのは心と心、体と体、魂と魂、意地と意地とのぶつかり合いだけです。
さあ、始めましょう。君たちが未だ誰も成し遂げたことのない、偉業とも言える悪業を犯してしまうのか。それとも、わたし達CP9が麦わらの一味の完全抹殺指令を遂行するのか。
これから始まるのは戦いではありません。正に戦争。そう呼ぶのがふさわしい、全てをかけた闘争の嵐です。
全身全霊をかけて向かって来なさい、麦わらの一味!!
でなければあなた達が味わうモノは、絶望すら生温い世界の闇、そのモノになるでしょう!!