カツカツカツカツ。
響き渡るのは石畳の廊下を歩く音です。
えっ?なんです?あんなに息巻いてやる気満々だったのに何をしているのかって?
歩いてます。そりゃあもう延々と歩いてます。
わたしだってね、戦えると思ってました。そう、あの時は一時の感情に流されてね。まさか、こんなことになるとは全く思いもしませんでしたよ。
こんな………こんな………
全然誰とも会わないなんて!!
もうホントに恥ずかしいです。あんな堂々とメンチを切っちゃった分、余計に身悶えちゃいます。
振り返るのはあの時。スパンダム長官に
『ふん、馬鹿め!おいルーク、奴等を攻撃しろ!こっから滝底に落としちまえばどんな野郎でもお陀仏確実!お前の能力なら出来るだろう?ダーッハッハッハ!残念だったなニコ・ロビン!!あいつ等がこの司法の島に来ることは不可能だ!!』
って言われたので能力をつかって攻撃したのですが、なんと彼等は滝底目掛けて自ら飛び込んだのです。わたしの攻撃を避けるためにそこ迄するのかと眼を剥いていると、どうやら違ったようで、むしろわたしの攻撃に全く気づいてない様子です。そして何故か現れた海列車が、彼等をこの司法の島エニエス・ロビーに送り届けてしまったのです。
ヒビってしまったスパンダム長官は、
『ギャーーー!!!来やがったーーー!!!!!』
と騒いだ後にルッチ君とロビンちゃんを連れて、海軍本部へと続く扉《正義の門》へと早足に向かって行きました。ここに残る者へ麦わらの一味の排除を言い残して。
この時、護衛の名目でわたしも連れていかれそうになったのですが、爽やかニッコリ笑顔で『素早く危険を排除しておきます』と言うと何故か引き気味で納得されました。っていうかルッチ君……じゃなかった、ボッチ君一人で護衛なんて十分でしょうに、おそらくわたしを連れていきたかったのは、もしもの時の保険といったところですね。
ただ、長官に着いて行かなくてもよくなった代わりなんでしょうか。
『麦わらのルフィの抹殺をお前に言い渡す。』
と、長官から言われてしまいました。
その時のボッチ君の顔といったら、自分の獲物が取られたとでも思ったんでしょう。ものすごい悪人顏でギロリ、と効果音が出そうな程睨まれました。
あっ、ボッチ君の悪人顏は元々でした。
しかしコレは勘弁して貰いたいですね。長官のこの指令はわたしの能力を知っているからこそ出た言葉でしょうから。わたしの
こんな回想をしていると、廊下の先から反響してくる叫び声が一つ。
「どこだ〜〜〜!?ロビーーーン!!!」
思わずニヤリと紳士らしくない、それでも見る人を魅了してしまうであろう不敵な笑みが出てしまいました。ダメですね。この場にいるのは目の前から、こちらに向かって猛スピードで走ってくる麦わらのルフィ君とわたしだけです。敵でしかも男のルフィ君を魅了してはいけませんからね。
危ない危ない、わたしはなんとか顔を元に戻しました。
「やあ、こんにちは。麦わらのルフィ君ですね?」
あちらもわたしの存在に気付いたようで、わたしの10メートル程前で止まり言葉を返してくれました。
「お前……さっきハトの奴等と一緒いた奴だな。ロビンを何処にやった!?居場所を教えろ!!」
「地下にある大きな鉄の扉を通って真っ直ぐ行けば会えると思いますよ。」
その先には正義の門へと続く一本の橋があるので、どんな方向音痴でも迷うことはないでしょう。
何故こんなことを教えるのか?簡単なことです。それは相手の反応を見るため。
わたしは諜報部員です。相手の少しの反応や動作、言動などから性格を読み取り、その為人を把握することは造作もありません。そして、そこから相手の弱点や癖などを把握することもまた造作もないのです。
勿論、突飛な戦闘が起こった場合などは今のように情報収集のための行動は出来ませんが、この場においてはいきなり戦闘になる空気でもないので情報収集を優先しました。
政府の諜報機関(笑)とか名乗っときながら、強い者と出会えば即戦闘に持ち込む脳筋で単細胞な暗殺者集団と、全てにおいて天才的なわたしでは、生物としての出来が違うのですよ、出来が。
さて、ルフィ君の反応から全てをしっかり分析させて貰いましょう。
「おい!お前!」
おや、この反応はいきなり突っかかってくるパターンですかね?
「良い奴だな!教えてくれてありがとう!じゃあなー。」
そう言ってペコっ、と首から上を下げて礼をするルフィ君。
……………あれ、おかしいですね。なんか、色々とおかしいです。
まず第一に、
「なんで普通に通り過ぎようとしてるんですか!?」
そう、彼はなんと敵である筈のわたしの横をスタスタと素通りしようとしているのです。その彼の肩をガシリと掴んで言ったわたしの言葉に返ってきたのは
「?まだなんか用か?おれ早くロビンとこに行きてぇからよ、なんかあんなら早くしてくれ。」
遠回しなガン無視発言でした。
「あっ、すいません。……じゃなくてッ!!わたし一応CP9の一員やらせてもらってるルークという者です。ここを簡単に通すわけにはいかないんですよ。」
「そっか。おれはモンキー・D・ルフィだ!じゃあなー。」
「あっ、コレはご丁寧にどうも。……でもなくてッ!!あなたは……また先に行こうとしてるッ!?」
何この子、フリーダムすぎません?ホントに海賊ですか?海賊は自由とよく言いますけど、流石にコレは度が過ぎてますよね?よね?
「全く、簡単に通すわけにはいかないとさっき言ったじゃないですかッ!【
わたしの強靭な足の蹴りから放たれたのは斬撃と言えるまで昇華された鎌鼬です。鎌鼬はわたしを無視して通り過ぎていったルフィ君の背後に迫り、当たるかと思った瞬間にルフィ君が膝を折って座り込んだことで避けられました。
「あ、あぶねぇ!いきなり何すんだお前!?」
「【
しかし、ルフィ君が振り返りながらしゃがんだ瞬間にわたしは瞬間移動かと見紛う程の超スピードでルフィ君に近付き、人体の急所の内の一つである鳩尾に必殺の右人差し指を繰り出しました。
「ぐえっ!?」
わたしの右人差し指は見事に寸分の狂いもなくルフィ君の鳩尾へと吸い込まれるように命中しました。が、当たると思った瞬間に後ろに飛んで避けようとしたようで、ルフィ君の息を一時的に止めるに留まりました。
「こいつ、牛の奴より全然はえぇ……。」
そうでしょうそうでしょう。わたし、強いんです。
それにしても彼の反応と身体能力は中々のものでした。ま、わたしには及ばないですがね!
「すいませんが、ここで引き返して貰いますよ。」
わたしがそう言うとルフィ君もやっとやる気になってくれたようで、両拳を握り、肩の位置まで上げ、腰を落とし、足を肩幅の約二倍まで広げました。簡単に言えばファイティングポーズです。
ですが、フム………。さっき迄の言動や今の構えを見る限り、頭が切れる参謀タイプでも無ければ、何か武器を持って戦うタイプでもなく、ましてや罠をかけたりして相手を出し抜くタイプでもないようです。
わたしが感じたことを正直に言うならば、良くも悪くも一直線の単純馬鹿、そして野生児の如く自由奔放な、近くにいるだけで絶対に苦労させられるタイプの人間です。
これが良いことなのか悪いことなのかは、まだ分かりません。
真正面から正々堂々と戦おうとしているルフィ君の態度は、わたしからすれば安心させられます。罠などを心配する必要がありませんからね。まあ、無いからと言って自分の周囲を警戒しないような愚かな真似はしませんが。
しかし不安にさせられる部分を言えば、こういう人種は純粋に怖い、そう思わせられるのも正直なところです。
こういう人種、馬鹿正直そうで難しいことを考えるのが苦手そうな、明らかな天然一直線野生児野郎は自身が追い込まれた時、凄まじい程の底力を発揮するものです。
だからわたしはこう考えます。こういうタイプとの勝負は一気に決めなければならないと。
そして文字通り一気に勝負を決することの出来る方法をわたしは持っています。
その方法は周りの人達からこう言われています。
ただ、ここじゃ使えないんですよね……。
いや別に能力が使えないワケじゃないんですよ?能力を封じるための手段が取れないだけで。
でもま、身体能力はわたしの方が上みたいなので頑張れば勝負を決めることは出来そうです。いざとなれば能力もしくは覇気を使えばいいですしね。
「さて、準備はいいですか?」
「ああ、いいぞ。お前をぶっ飛ばす準備ならもう出来てる。」
わたしは思わず苦笑してしまいました。そういう意味で返してくるとは、ボッチ君と同じでバトルジャンキーじゃないですよね?
「ま、冗談もほどほどにして下さいね。ルフィ君がわたしに勝てる確率は」
言って直ぐに【
「ゼロですから。」
言ったと同時に、風を切り裂く音が響きました。