01、目覚め
こめかみの痛みとともに、突然目が覚めた。
魔力残滓を確認。間違いなく横に立っている人物の、人差し指が放った魔術攻撃だろう。若干、呪術の要素も入っているようだ。
隙かさず呪いの質を解析し中和、即座に両腕を強化した。既に思考は自動反撃モードだ。左手で残滓の濃い相手の左腕を掴んだ──そこには、やはり刻印。
危険回避並びに戦闘特化に全自動で頭が切り替えられていたが、それでも掴んだ瞬間にどこかで見憶えのある刻印だと頭の隅で感じた。
もしかしたら知っている人かもと、一瞬頭によぎったのだ。そうとなると刻印壊死はとても気の毒だと思えたし、確認するべきだと脳の一部はパワーセーブモードを訴えていた。
けれど、それはパーセンテージとして2パーセントに満たない。身体は危険回避モードから、とっくに攻撃モードに移行していた。
取り敢えず倒してから誰何すれば良いと思考も切り替わりつつある中で、私の良心は若干弱めろとオーダーしている。間に合うのか?
左腕は既に相手の刻印を強制停止状態にしている。いつもならここから刻印を書き換えて完全破壊するするところだが、それは何とか間に合った。
対する右腕は、肘から軽く魔力放出していて、ジェット気流のような空気の渦が目の端に写っている。これは駄目だ……。
案の定、強化した右拳が相手の脇腹をコークスクリューで抉った。なんとか殺さない程度のボディブローに落ち着いてくれたと思う。
肋骨は何本か折れただろうが、臓器に損傷は無い……だろう。
さて質問しようか……ダメだ! 別のオーダーが通っていた! 全身強化が始まった。
呻きながら顔を下げた相手の顔面に、膝蹴りをかましてしまった。おまけに相手が蹲る瞬間の後頭部へ、エルボードロップまで。あ~、やり過ぎた……。
完全に意識を失い、グデンとなった相手の髪を引っ張りあげ、ごめんなさいと心の中で詫びつつ顔を見た。
げっ!
よく知った顔だった───これはやってしまったか?
いやいやいやいやいやいやいやいや、ここは私の知る世界では無い。きっと並行世界だ。そうに違いない。むしろそうであって欲しい。でなきゃ本当に困る。
「凜……?!」
思わず呟いた声が妙に甲高い。と、同時に自分がスッポンポンである事に気付いた。
「は、裸?」
更には一般家屋の狭い敷地内に居る事にも気付いた。ふと見やれば、隣の家との距離がやたら近い。その壁はモルタル塗りだった。
深呼吸して身体を見直す。胸は残念な程に小さく、記憶より身長差が著しい。20センチは目線が低いだろうか?
これは一体……。だけど、混乱する頭が弾き出した答えは、ここが見知らぬ場所であるという事だけだった。
家屋の構造や夜空に見える電信柱から引き込まれる電線や電話線。それらから察するにここは日本だろう。では、日本のどこだ?
いや、わかっている。直感はここが知っている街だと訴えている。そして並行世界に間違いない。漂流したのだろうか? そして漂着した結果がこの状態なのだろうか?
けれど正直ホッとした。このノシてしまった人物が親友の凜ではなく、どこかの遠坂凛だと確信できたから。あの呪いとは程遠いガンドで気付くべきだった。
私は視界の隅でふよふよと漂う、羽の生えたピンクの五芒星に声を掛けた。
「そこの魔杖、こちらに来なさい。逃げればガチガチに強化した、おろし金で摩りおろしますよ」
『な、な、何ですか、あなたは?』
自分の出した声は、やはり甲高い。はぁ~……。大体掴めて来た。
もう一度、落ち着いて裸の身体を見下ろせば、どう見ても初等部時代の身体と同じだ。上を見れば湯気が漂う開かれた窓。なるほどね。
「魔杖、来なさい」
『私にはルビーちゃんという名前ガハッ……!』
「無駄口を叩かない。サファイアともども超酸に浸けますよ? ともかく依代のこの子が風邪を引いてはお気の毒です」
そうして窓を乗り越え、風呂場に入った。
すると浴室のドアが大きく開き、高校生くらいの男の子が脱衣所を跨ぐようにぶっ倒れていた。この顔も見覚えがある。腰に巻いたタオルがはだけていたが、気にしていられない。
私は彼に活を入れ、意識を取り戻したところへ暗示を掛けた。男の子はくるりと裸のまま脱衣所から出て行った。キャーとかヒャーとか声が届いたが、知った事ではない。乙女の裸体はそう簡単には見せられないのだ。
身体が冷えたので、もう一度浴室に戻りドアを閉めた。湯船に肩まで浸かり……。
「い~ち、にぃ~、さ~ん、し~ぃ、ごぅ~、ろ~く……」
キチンと100まで数えた。髪は洗った後みたいだが、念のためもう一度洗っておこう。リンスは使っているようだけど、トリートメントが甘いなぁ。随分とパサパサだ。
誰かのコンディショナーが浴室にあったので、それを使わせて頂いた。某真空管アンプのブランド名と同じ。姉がいつも使っているブランドと同じだが、こんな子供が使うとは思えない。一体、誰のだろう?
当然だが、身体も洗い直した。耳の後ろやデリケート・ゾーンも綺麗に洗う事を忘れない。だけど椅子に座って見下ろせば、こんなにアソコって見えたっけ?
子供の頃は前側にあり、歳とともに後退するのは知っているが、改めて見て驚いた。おまけに、手にとったボディ・ソープが予想外にピリピリする。仕様がない……。そういう年代の身体なのだ。
そしてもう一度、浴槽に肩まで浸かって、100を数えた後にお風呂から出た。脱衣所に用意してあった、替えの下着とパジャマを身に着け、ドライヤーで髪を念入りに乾かす。
この時に私は、着替えをひっくり返してブラを探してしまった。はぁ……この子はまだなのか……。
次いで、鏡に写った顔を見た。色素の薄い、誰しもが銀髪と言う金髪。そして紅い瞳が映える大きな目と長いまつ毛。
「やはりですか……」
私は今の状況を、ここに至って真実理解した。並行世界は並行世界でも知っているパターンの世界では無い。ここは……。
『何がですか? あなたは一体? それよりイリヤさんは?』
「説明するので場所を替えましょう」
脱衣所から出た私は風呂場前の表札を裏返し、リビングで寛ぐ人達へ、この人物が話しそうな口調で「お風呂、空いたよ」と声を掛けてから階段を登った。
背が低いから階段の段が高く感じる。目的の部屋はすぐにわかった。扉の前の表札の名には馴染みがあるからだ。
ドアを開けて電灯のスイッチを入れれば、真っ先に目に入ったのはサイドボードに置かれた少女らしいぬいぐるみ。次に年を経ても使い続けられそうな、落ち着いたカントリー調のベッドやチェストが目に映った。
ふむ。眼を細めて解析すれば、集積材にプリントや突板を貼った安物でなく本物だ。備え付けのクローゼットの扉までが天然木だ。
壁の構造もしっかりしている。天井の断熱材にも良いものが使われていて、想像していたよりも質の良い住宅だと思った。築10年として4千500万ってところだろう。
ベッド横の丸テーブルには、懐かしい茶色い制帽が無造作に置かれている。
クローゼットの扉にはハンガーでこの少女の制服が掛けられていた。だけど、上着のボタンを外したまま掛けているので、肩のラインがハンガーとズレている。あ~あ……。
ポケットにはくしゃくしゃのハンカチが入ったままだ。スカートも折り目を気にせず適当に掛けてあった。なので、変なシワが残らぬように伸ばしてハンガーに掛け直し、クローゼットの中に吊り直してあげた。
折り畳んだハンカチをテーブルの上に置いて溜息をつく。困ったものだ……。と、そんな事を考えつつも、自分も小学生時代はそんなものだったかなと思い直した。
仕舞う時に気付いたのだが、上着の白い襟はボタン留めになっていた。替え襟もクローゼットの棚に2~3枚あった。やがて衣替えなのだろう、白い夏服も掛かっている。
なるほどね。この制服は、自分が3年生から6年生まで着ていた制服と外見だけは同じデザインだ。
私立穂群原学園初等部──クローゼットの夏服は左脇ファスナーの被り型。これはたぶん同じだろう。けれど冬服は、見た目こそ同じデザインだけれど、構造が全く違っていた。
私達のは、中に着たブラウスの襟を上着の外に出すタイプだったのだ。
となるとここは、あの子達の枝に近い並行世界に間違いない。以前、記憶を見たし、話も聞いていた。きっとルビーと契約した、まさにその日だったのだろう。
辺りを見渡せば掃除がしっかりと行き届いている。思い返せば、お風呂場も脱衣場も、ここに来るまでの廊下や階段にも、塵一つ無かった。
感心、感心。ただし、その賛辞は家政婦のセラに。何故なら、この部屋の入り口側にある本棚はマンガばかりなのだから。
内容は恋愛モノが皆無で、ファンタジーモノがやたら多い。そこは小学生だなぁ。
系統としては「なか○し」系だ。それは姉の初等部時代と好みが同じだった。この子も中学生になれば「花と○め」に転向するのだろうか?
対する私が「ち○お」や「り○ん」をすっ飛ばして、「マー○レット」や「別冊マー○レット」に「少女コミ○ク」や「別冊少女コミ○ク」を読む、おしゃまな子だった。
並行して「プチフ○ワー」も購読していたのだから、姉妹でも好みが随分と違っていた。中3の終わりに「プチフ○ワー」が「月刊フ○ワーズ」となったが、これは高3になった今でも購読していた。
同じ高3の姉はファンタジー小説から一般小説と好みが変わり、マンガはたまに私の部屋で読む程度になっていた。早熟ほど、保守的かつ懐古趣味的とは最近の私の見解だ。
その裏付けとなるのが私であり、姉妹の中で私の部屋の滞在時間が一番多い妹のクロちゃんだった。長時間に渡って居座るのは、マンガのためだけでなく、魔術や学校の勉強のためでもあるのだけど。
でも、あの子の好奇心やチャレンジ精神は、幼かった頃の私と似ていて好きだった。そっと小さな胸に手を当てて、早く出してあげたいなと思った。
次に勉強机を見た。教科書の学年はどれもこれも5年生用だ。
パラパラとノートを見ると、この頃から書道を学んでいた姉と違って文字がのた打ち回っていた。けれどまだ5年生。この子も姉と同じく、これからどんどん変化して行くだろう。
姉とは厳密には別人だが、マンガの好みから察するに、似たところも多い。案外と食べ物系の消しゴムを集めていたりするのだろうか?
気になって机の引き出しを覗かせて貰えば、プ~ンと香り付きの消しゴムだらけだった。友達と交換したりもするのかな?
数がやたらに多い。一部は溶けて引き出しの底とくっついていた。無駄にこうやって何かを溜め込むのは、アインツベルンの習性だ。
余りの強烈な匂いに、頭がクラクラして来た。思わず私は引き出しを閉めた。ペン立てには絹○語。流行ったよねぇ。けれど時代だろう。さすがにたま○っちは育てていないようだった。
あ……。かえってきたた○ごっちプラスが……。そうだ。この子はこっちの世代だ。実年齢で7歳違い。色々違うよね。
そうだ! 今度、本棚にモ○ルガン戦隊やSDガン○ムのコミックでも置いて、引き出しにはバトエンでも忍ばせておこう。どんな顔をするだろうか。
私はニヤリとしつつ、念のため魔術で屋内を解析・探査しておいた。メイドが二人居た。ホムンクルスなのは直ぐにわかったが、寿命設定が外されている。
魔力の波長は……案の定、セラとリーゼリットだ。六畳の洋室に二人押し込められているのか。その横は和室だ。きっとお風呂場で倒れていた男の子の部屋だろう。
一本気で真っ直ぐで、可愛い馬鹿な弟。ん? ここではお兄ちゃんになるのか。へぇ~。
そして両親の寝室とここ。2階にはこれだけしか部屋がない。後はトイレと洗面所だ。
1階はリビングダイニングとキッチンにサニタリーだけ。地下室も天井裏の隠し部屋も、魔術を感じさせる何も無かった。六人家族でこれは正直狭いと思ったが、何とも暖かさに満ちた家だ────。
「もう良いですよ、ルビー」
ふわふわと浮かびながら待機していた魔杖に話し掛けた。
『あなたは何者ですか?』
「悪霊でも悪魔でもありませんよ。とある並行世界から並行世界への移動中に、座の風に流された分割思考中だった意識の一部です。その剥がれた意識が肉体と魂を求めて、相性の良さそうなこの子に惹かれて入ったのでしょう。私の名はエルヴァ・フォン・アインツベルン。自分の世界では17歳の女の子です」
『あなたもアインツベルンですか?』
「はい。そして私には双子の姉がいます。その姉の名前がイリヤスフィール・フォン・アインツベルンです」
『え? 双子のお姉さんがイリヤさんと同じ名前?』
「依代となったこの子の並行世界存在とも言えますね。そこのカレンダーの西暦から察すれば年齢が異なりますので別人とも言えますが。それと安心なさい。今は主導権を奪った状態になっていますが、先程のガンドで意識を失ったこの子に代わって行動しているだけです。たぶん、昨日か一昨日頃に無意識でこの子に入ったのでしょうね。何しろ年齢は異なってもDNAや血液型も同じのようですから。また、私の意識は半年程でこの子に吸収されて消えると思われます」
『それを信じろと?』
「お前の知らない情報をいくつか話しましょう。この子の家族構成です。そこのチェストの上の写真をご覧なさい」
『家族写真ですね。それが何か?』
「初等部入学の時の記念写真でしょうね。後ろの良く似た女性が、母親であるアイリスフィール・フォン・アインツベルン。東洋人の男性が、父親である衛宮切嗣です。これは私の両親も同じです。そしてこの子、極太の魔術回路が100本近くバッチリあり、平時の魔力量も先程放置した女性の4~5倍はゆうにあります。ストックしている魔力まで含めると、彼女の切り札である10年モノの宝石の5~6コ分はあるでしょう。なのにそれ等が全部封印されていました。これの意味するところは?」
『イリヤさんって魔術師だったんですか?』
「アインツベルンは欧州で何千年も続く魔術師の家系ですよ」
『え?』
「ここは日本でしょう? 娘には魔道に関わらず普通に育って欲しい。それが両親の願いだったのでしょうね。それはこの家の作りやこの部屋を見ればわかります」
『はい。工房も感知できません。それで私は普通の子だと思ったのですが』
「きっと両親は、余りにも凄惨で穢らわしい魔道の側面を見せたくなかったのでしょうね。魔術はそれだけではありませんのに」
『その……勝手な想像ですが。もしや実家を出奔した?』
「おそらくは。私は結合した卵細胞の段階で、技術供与の等価交換として9代目アインツベルンに引き取られました。根っからの錬金術師であり魔術師です。姉と再会、いや姉や両親が居ると知ったのは、お互いが8歳になったばかりの頃です。その姉も家は違えど、魔術師として育てらていました。この子とは随分違いますね」
『では、ご両親も?』
「ええ、両親も魔術師ですよ。それに母は、8代目アインツベルンが鋳造したホムンクルスです」
『え!?』
「そう、私と姉はホムンクルスの血を引くハーフです。そして、解析結果を検討するまでもない、この馴染み方。この子も間違いありません。むしろ、それだからこそお前はマスターに選んだのでしょう。見事な嗅覚です」
『そこはルビーちゃんのカンですね~!』
「お前は見事な礼装ですね。人体の構造とは掛け離れているにも関わらず、胸を張っているのがわかるのですから」
『いやぁ~』
「そして父、衛宮切嗣は8代目アインツベルンの家に傭兵として入ったフリーランスの魔術使いです。二つ名は『魔術師殺し』。お前、契約した相手が悪過ぎです」
『え、え~っ?!』
「現況はそこのカレンダーを見、机の教科書を見、この子の身体を解析した上で推測してみました。魔道から遠避けたのに強引に契約させた──。父は礼装破壊も得意ですから、覚悟しなさい」
『ま、待って下さい!』
「お前の命運などに興味ありません」
『バッサリです……』
「そして心臓が小聖杯、これも間違いありません」
『小聖杯?』
「5代目と6代目のアインツベルンがその昔に作った『願望器』ですよ。そして7代目が礎となり、ある街で大掛かりな降霊術が、60年毎に4回にも渡って執り行われました。その降霊術が『ヘヴンズ・フィール』。別名『聖杯戦争』です」
『ああ……。私の造物主が術式のチェックに立ち会ったとか、どうとか聞いた憶えがありますねぇ』
「宝石翁ですね。当家にとっても大師父ですよ。それよりも小聖杯です。これが『聖杯戦争』に於いては英霊の魂を収める器となります。『聖杯戦争』とは七人の魔術師が集い、各々が召喚した七騎の英霊をサーヴァントとして使役し、蠱毒宜しく殺し合う儀式です。そして必要なのは人の死でなく、召喚されたサーヴァントの魂です。これを収めて炭熾し器として機能するのが小聖杯なのですね。そしてその魂が持つ膨大な魔力は大聖杯の術式を起動させ、天の盃を出現させます。一見孔にも見えるその先に繋がるのが根源の渦とされています。お前は遠坂家が秘蔵する礼装でしょう? なぜ、マスターであるあの女の子を護ろうとしなかったのですか? それとも単なる覗き?」
『覗きじゃありませんよ。それに私は時計塔からあなたが倒した元マスターに貸与されていたのです。あれは契約直後で、イリヤさんと出会ったのも窓の開いていたお風呂場だったのです。それを元マスターが探しに来ていたんですよ』
「なるほど。つまり取り返しに来ていたと。どうして元マスターから逃げたのですか?」
『それは……妹のマスターと私の元マスターが……』
「大体わかります。推測ですが第四次聖杯戦争がここでもあり、第何次かは不明ですが事後処理の追徴金が足らず、没収された礼装の中にお前があったと。それが流れ流れて時計塔に渡り、そこでリセットされた訳ですね? 事情も飲み込めました。大方、マスター同士で小競り合いをして、あなた達が愛想を尽かしたと?」
『実にその通りです! 本当にあの人達は!』
「それで、お前の当初の目的は?」
『ハァ……隠しても無駄ですよね? あなたには特殊な能力がおありのようですから』
「確かに並行世界を視る眼を持っています。ですが、依代のこの子が幼過ぎて上手く働きませんね。いや、私と違って元からその能力が無いのかな……?」
『なら、他言無用でお願いします。私達の目的は出自不明なカードの回収にあります』
「なるほど。それも聖杯戦争の七騎と同じ7枚だとか、ダブつき無しだとか?」
『確かに7枚です。これってそういう事ですか?』
「さぁ? 情報を提示しているだけですよ。ですから7枚と決め付けるのも良くないでしょう。時にルビー、あなたはエーテル出力ができますか?」
『できなくはありませんが、一体何を?』
「いえ、どの道あなたは元マスターとの契約が嫌なのでしょう?」
『はい。あの人達では、カードの回収は不可能だと思います』
「包み隠さず話しなさい。そこらに落ちているカードを拾って集めるのではありませんよね?」
『はい……。カードは鏡面界という独特な世界で実体を持ちます。そのままそこに留まってくれるのなら良いのですが、その鏡面界は時間とともに消失し……』
「現実世界へ顕現し、悪影響を及ぼすと?」
『そうです。ですからなんとしても回収しなければなりません』
「ふむ……。そんな危険な任務を何故このような少女に? 返答いかんではお前を真っ二つに折ります」
『え、えっと……あの……』
「答えられませんか。少女なので誤魔化しやすい。良いように使えると考えた?」
『い、いえ! 私を扱うには魔法少女である必要が!』
「…………」
『こ、この子は正義感が強いと思いました! この子ならこの街を守ってくれると!』
「本当に?」
『ほ、本当です!』
「ま、今は騙されてあげましょう。どのみち危険なカードである事は事実でしょうから」
『…………』
「カードが危険な存在である事は間違いないのでしょう?」
『……はい』
「となればこの子が動くしかありません。先程のエーテル云々は、それを私もお手伝いできたらと考えたからですよ。その時に身体があればなと」
『なるほどですね。その……元マスターを倒した事から考えますと、体術はかなりのものとお見受けしますが魔術は?』
「幼いとは言え、双子の姉の回路です。11代目アインツベルンの力量を見せてあげましょう」
『あなたは当主だったのですか?』
「6歳で独立、7歳でアインツベルン一門各家と眷属門派数百家を率いる総裁に就任しました。今年で10年目ですよ」
『にわかには信じられませんねぇ。と、話しながら何をしているんです?』
それまで壁にもたれていた私は、おもむろに体を入れ替え壁に手を付いた。傍から見れば反省のポーズだろう。目を瞑り外壁のモルタルを通り、地面に潜っていく。
ああ、あったあった。地脈だ。地脈とは地中を循環する幾つものチカラが流れる筋の事だ。余りにも多種多様なチカラがあるので、誰しもが全部を利用できる訳ではない。
必要なカタチをしたものを、必要な分と必要な量を取り入れて自分のものとする。その自分にとって最適な流れを指して、龍脈と言うのかなと私は思っている。
何故、そんな曖昧な表し方をするのかと言えば、それは国や土地、人や風習、宗派や教義に拠って言葉が変わるからだ。またコンピューター言語と同じで、魔術系統や流派でも変わって来るのだ。
この流れに同調して潜って行くと、時に火山のようにもっと大きなチカラが、地中深くから湧き出しているところがある。それが私の知る霊脈だ。こちらを龍脈という場合もあれば、地脈やレイラインという場合もある。
要は大いなるチカラの芽吹く場所、湧き出る場所から、還る場所、潜る場所までの筋を言う。そこを潜り、もっと意識を広げると他の霊脈と繋がる。
それはこの星を蜘蛛の巣のように覆う葉脈の一部だ。マスクメロンの筋と思えば良い。この霊脈の筋から、大気にマナが浸透、或いは拡散して行くのだ。
霊脈は私達魔術師だけでなく神秘を紐解く者にとって重要な意味を持つ。星のエネルギーが直に湧き還る場所だ。それは格子状や網目状、放射状や螺旋状と様々な様相を見せながら、私達に大いなるチカラを与えてくれるのだ。
大気中のマナを身体に取り込み、オドに変換し魔術を行使するのが魔術師と呼ばれる人達だ。私はその中のアインツベルンという名の一族を率いる総裁だった。
そして、そのマナの取り込み方法は幾つかある。例えば霊脈から直接マナを取り込んだり、海水に含まれるマナから取り込んだり。これも系統や流派で異なってくる。
それらマナを取り出し、術を行使する方法──アプローチの違い、理論構築の違い、出力の仕方の違い、それらでも考え方が変わるので、それぞれがそれを別の名で呼んでいる。
大方は基盤と呼んでいるようだが、これは魔術協会だけだろう。
更にここは、さすがに遠坂の地だった。西欧魔術師以外は読み取り難いように手を入れてあったのだ。当然それを更に推し進め、聖堂教会が簡単には秘蹟を使えないようにしておいた。
「地脈をたどって霊脈と繋げました。それと円蔵山の大聖杯らしき痕跡? いや、陰をキャッチしました。やはりここも冬木でしたね」
『え~っ! 壁伝いに地脈をキャッチして霊脈まで?』
「驚く事ですか? 地系の魔術師なら誰でもできるでしょう?」
『いやいやいや、普通は無理です。できたとしてもこの短時間にあり得ませんよ!?』
「あり得ないって……。そんな事は無いでしょうに。とは言え……む? 何度接続を試みても、断層があって大聖杯には上手く繋がりませんね。ここでは円蔵山が還るポイントなのに、途中でチカラが消えています。これは……。それと各カードの位置も把握しましたが、7枚? 1枚回収済みですか?」
『カードの位置まで? いえ、回収済みは2枚です。ランサーとアーチャーですよ』
「となると8枚目があるという事ですね。ふ~ん。となるとカードも渡って来た可能性がありますね」
『え? 並行世界からですか?』
「ええ。お前が自由だという事は、今現在こちらに宝石翁が居らっしゃるのでしょう? 知っていますか? 世界と世界を隔てる膜ってとても固いのですよ」
『ああ、そう聞いた憶えがあります』
「でしょう? それが大師父が開通した事で」
『なるほどですね』
「そうです。世界のヴァージンを奪えば後はズコズコです。このトラブルの大本の元はあの方ですよ。座の風がこの領域に多いのはそういう事なのかも……? ともあれこの先カード回収を終えても、並行世界に纏わるトラブルが起きると考えたほうが良さそうですね。それで回収済みのカードは?」
『元マスターが……』
「まだ気絶しているでしょうから回収して来なさい。窓を開けますので」
『はい!』
そしてふよふよと杖部分を消した魔杖が窓から出て行き、程無くカードを拾って戻った。そのカードには『Archer』と書かれてあった。
カードの表面に触れ、構造解析を掛けた。元から知っていたカードだったが、実物には初めて触れた。随分と乱暴で洗練さの欠片もない術式……。
「ふむ……。これならエーテルを操作して貰わなくとも済みそうですね。もう1枚のランサーは?」
『妹の方のマスターが』
「なるほど」
『それでイリヤさんは?』
「ぼちぼち身体の主導権を返してあげましょう。この子のわかる範囲で情報を渡しましたが、どこまで理解できたのやら。ほとんど夢の中の出来事だと思っている事でしょうね。朝、目覚めて話す機会があれば、守護霊が護ったとでも伝えて下さい。ふぁ~…………ではお休みなさい……」
『ベッドに入ったらサクッと眠っちゃいましたが、今の地脈との接続……。これはかなりの魔術師ですね。そしてご家族に知られる事は絶対に回避しませんと。ルビーちゃん、今回は本気で行かないとマズイみたいです』
二度目の目覚めは最悪だった。
自己判断だが、あばら骨が3本骨折していて頬骨も骨折、鼻も折れていた。この工房に入ればなんとか明日までには治ると思うが、手痛い反撃を受けたものだ。まさかあんな子供が。油断はしていなかったはずなのに。完敗だった……。
一度目の目覚めは何をどうしたのか、まったく記憶に無い。目を開ければ自宅近くの公園のベンチだったのだ。
しかもスカートを穿いてない。腕時計を見れば午前4時だった。朝刊の配達員と出会わないように大慌てでコソコソと家にまで帰り、ベッドに潜り込んだのだった。
しかし、再び目覚めれば脇は痛いわ、顔は痛いわ、後頭部はズキズキするわ──そこで怪我に気付いて、工房に籠もったのだった。
だから思い至らなかった────。
ルビーどころかポケットの宝石から財布といった貴重品が全部失くなっていた事に。時計が残っていたのが不思議なくらいだ。
それはそうだろう。スカートごと失くなっていたのだから。追い剥ぎにでも遭った? 乙女のピンチ? 興奮して鼻血が止まらなくなった。思い出さずともムカつく。
それであばらはまだだったが、鼻の位置が戻ったので、シャワーを浴びて、遅い朝食兼昼食を摂った時刻が午後の2時だった。
ルヴィアとサファイアはどうなったのだろう? 鏡面界の場所は大体わかる。ルヴィアが選びそうな出動時刻もわかる。なら、行ってみるか……。
そうして宝石箱から新たに宝石を取り出そうとすれば、昨夜宝石を入れていた巾着袋と一通の手紙が───―。
『諸々は慰謝料として頂戴しておく。君の任務の邪魔はしない。だが、一般人を巻き込むな。もし禁を破れば君も、君の妹の安全も保証しない』
───巾着袋には銃か何かの弾が入っていた。
大慌てで他の箇所を調べてみた。宝石箱とは別に仕舞ってある秘蔵の宝石は無事だった。だけど通帳から500万が下ろされていた。
大慌てで銀行に電話を入れた。電話に出た行員が言うには委任状を持った人が、印鑑と通帳を持って引き出して行ったらしい。
やられた……。犯人は私が眠っていた間の時間か、工房に降りていた時間に、自室へ侵入し通帳と印鑑を盗んだのだ。しかも、私に気取られず通帳を返しに来ている……。
私は一体どこでこんな、遠坂家の結界や私自身を物ともしない大物にケンカを売ったというのだ。もう恥も外聞もない。急いでルヴィアに電話を入れたのだった。
朝起きると、とてもスッキリした目覚めだった。
あんにな楽しくて、ワクワクする夢は今まで一度も見たおぼえがない。
お父さんがいて、ママがいて、セラやリーゼリットがいて、お姉ちゃんやお兄ちゃんもいて、妹までいた。数えたら十人兄妹で、皆んな魔術師だった。
魔術師────。
それは奇術や手品じゃないのに不思議な事ができる人達。そんな、人には奇跡としか思えない事をズッと追い求めて、研究している人達が魔術師なんだって。
そしてお父さんもママもその魔術師だったのだ。なにそれ?
けど、魔術は難しい事をいっぱい組み合わせて不思議な事ができる代わり、暗い事やイヤな事もしなければダメなんだって。だからお父さんとママは魔術とサヨナラしたんじゃないかなって、お姉ちゃんが教えてくれた。
それから、魔法とはわずか数人しか使えない、魔術のもっともっと上の特別なチカラらしい。って事は……ステッキを握って魔法を使えたら、私も特別?
そう思ったけれど、ステッキのチカラで私の中に眠っている魔力をブーストした状態になるだけなんだって。私の中にそんなのがあったんだ?
そっか、あの知らない人にコノヤローと放った何かは魔術なんだ。お姉ちゃんが言うには、本当は覚えなきゃいけない、ややこしいジュツシキとか計算とかを、ルビーというステッキが代わりにしてくれているだけなんだって。
つまり私がルビーでできる事は全部魔術で、あのちょっと恥ずかしい服こそが魔法だとお姉ちゃんはいう。だけど服だけが魔法ってなんだか嫌だなぁ。
なんて言うの? そうだ、夢も希望もない。そんな感じ。でも、練習してもっともっとステッキが使えるようになれば、服の種類も増えるし、他の事もたくさんできるようになるんだって。ホントかなぁ。
そして制約がやたら多い。手を離して、30秒が過ぎてもダメなら、50メートル離れてもダメ。離れると転身が解けて、魔力が足りなくなっちゃうんだとか。なんかカンジンな時に使えないって気がするよね?
そしてそして。魔術は絶対にかくさなきゃダメらしい。まぁ、それはわかるよ? 言われなくてもあんなカッコウ、お家の人や友達に見せられないしさぁ。
色々きびしいオキテもあるんだって。マンイチそういうヒミツがばれたら、キビシイおしおきが待っていて、コスプレしたまま三人乗りの自転車で帰るハメになるよって怖い顔で言われた。
どうしてそんな自転車で帰らなきゃならないんだろう?
夢の中の5番目と6番目のお姉ちゃん達は双子だった。私に入っているのはこの内の6番目のお姉ちゃんだそうだ。
そして7番目のお兄ちゃんを挟んで、8番目と9番目も双子の女の子。その9番目がなんと私だ。つまり違う世界の私には双子のお姉ちゃんがいるのだ。
ここでは高等部に通うお兄ちゃんと小学部の私との二人だけの兄妹なのに。少しうらやましい。
夢で見た双子のお姉ちゃんを思い出す。同い歳と思えないくらいしっかりしていて、どこかカッコいい。
双子のお姉ちゃんは、毎朝美遊という名の2年生の妹と手をつないで1本早いバスで学園まで通っていた。私はどうしても起きられない。
だからクロエという同じ顔をした、やや地黒のお姉ちゃんにやれやれといった感じでため息をつかれるのだ。それを教室でゴメンと謝る私。双子で同じクラスなんだ。珍しいなぁ。
朝ごはんの時間はとてもにぎやか。
長女の色白なお姉ちゃんは高等部の英語の先生で、高3になる5番目と6番目のお姉ちゃん達の担任の先生だ。2番目と4番目のお姉ちゃんの名もイリヤスフィール。どういう名前のつけ方なのか、私や5番目のお姉ちゃんと同じなのだ。
ただ、この2番目のお姉ちゃんと、3番目のお兄ちゃん、そして見た目が私と変わらない4番目のお姉ちゃん達は従姉弟になるらしい。
目下のところ、最大の悩みは5番目と6番目のお姉ちゃん達だ。二人して成績優秀で、学年の1番2番をウバい合っている。賢いんだなぁ。
また5番目のイリヤお姉ちゃんは生徒会長でもある。お料理も得意で優しくてキレイなお姉ちゃん。いつか私もこんな風になりたい──憧れと尊敬の気持ちがあちらの私から伝わってくる。
そんなパーフェクトなお姉ちゃんが、あの子には負けるというのが6番目のエルヴァお姉ちゃんだ。なんとこのお姉ちゃんは11代目アインツベルン総裁なのだそうだ。って事は、総理大臣?
どうやら違うらしい。今まで会ったことは無いけれど、大勢の親戚が集まれば一番偉い人なのだそうだ。全然ピンとこないけど。
でも親戚の家は100以上もあって、その親戚にも弟子とか分家とかあって、全員だととてもたくさんの人が居るんだって。
だから普段はジョーク好きで活発なエルヴァお姉ちゃんだけど、何かが間違ってると感じたらとてもきびしいようだ。お父さんやママに、イリヤお姉ちゃんやクロエお姉ちゃんが叱られたりしている。私も何度か叱られているみたい。
そんな怖そうだけど、面白い人が今私の体の中にいる。
『ちょっぴり気持ち悪いと考えましたね?』
「考えてない、考えてないから。怖いという気持ちが伝わってきたの」
お姉ちゃんは壁に映像みたいに映っている。ルビーが映写しているのだ。こうでもしないと、幽霊みたいに見えないし、気付かれないらしい。
『ええ。とんだゴーストですよ。お風呂場付近で自分を取り戻したので入浴の幻ですね。しかし、授業が退屈なのかポヤ~ンとし過ぎです』
「どこで見てたの?」
『5年1組の教室で。こちらは精神体ですから、壁をすり抜けられますし窓の外にも浮かべます。今までの人生で最高に奇想天外な体験でした』
「良かったね?」
『この状況は、あんまり良くありませんよ。こういうボケた発言が姉さんそっくりですね。それはともかく、学校ではきちんと勉強しませんと』
「だって、考える事がたくさんあって……」
『ママは悪の魔術結社アインツベルンが造った究極の最終兵器ママで、お父さんはそれを起爆させた極悪人だからですか?』
「むちゃくちゃ言ってる! けど……ママは本当に人間じゃないの?」
『人の皮を被ったケダモノも闊歩する昨今です。人造ではありますが、下のまぶたを捲っても製造番号はありませんし、早く人間になりた~いとも言いません。ご飯をパクパク食べ、子供を産み育て、家庭を築いた。人とは違う機能もあるというだけです。優しくて時々厳しい、けれど間違っていない。それがママでしょう?』
「うん。そうだね」
『若くてキレイで、私の憧れでもあるのですよ』
ああ、私もそうだからわかる。
『ただ~しッ! バグだか何だか知りませんが、あのメシマズだけは許容し難いです。それで私と姉さんは、必死になってお料理を勉強したのですよ』
「メシマズって言った!?」
『4年生の時に病院送りにされたのですよ。酸っぱいハンバーグって……』
「あ~、私も。幼稚園の年中さんと、小学部の1年生と3年生の時に病院に行って学校を休んだよ」
『何ですか、その2年おきのイベントは。それですと、今年も食中毒は避けられないというフラグですよ?』
「あ~、言われてみれば……」
『なら、あなたが考えるべきは二つの点ですね』
「二つ?」
『ええ。一つはママはママなりに美味しいご飯を家族に食べて欲しかっただけ。その心だけはわかってあげないとダメな点です。もう一つはメシマズ対策としてお料理の勉強を、そろそろ始めなきゃダメって点ですね』
「え?」
『お料理を極めれば、アレンジャーで考えなしなママに、お手伝いと称して正しい手順をさり気なく教えられます。また、失敗作をなんとか食べられる味に変える事もできます。さすがに食材が傷んでいたのなら無理ですけれど』
「あ~、そっかぁ」
『幸いここには料理が得意な人が二人も居ます。セラやお兄ちゃんから教えて貰えば良いと思いますよ』
「そうだよねぇ。お姉ちゃんは何から学んだの?」
『包丁や砥石の手入れと、研ぎ方からですね』
「と、とぎ? え?」
『切れ味の悪い包丁ですと怪我の元になりますし、お料理が上達しません。ま、それはお兄ちゃんに押し付けて、市販のルーを使ったカレーやシチューから始めてみてはいかがです? 包丁の扱いならサラダ用の野菜や、和え物や酢の物の野菜です。ああいうのの切り方は初心者向けですよ。猫の手でキュウリを小口切りにするところから始めると良いですね』
「お姉ちゃんはできるの?」
『そりゃ、ネギでもキュウリでも何でも切れますよ。ははぁ~ん。昨夜見せた夢で双子の姉さんの方が上手だと思ったのでしょう? 同じ先生から学んだのですが、確かに和食はちょっぴり負けます。ですが洋食は同程度で、中華は私の勝ちですよ。穂群原の美人姉妹。天才のイリエルとは私と姉さんの事ですよ?』
「じゃ、そっちにいた私とクロエって子は?」
『バカで間抜けのイリクロはジョークですが、どちらの妹もまだ5年生です。ですが、今年から始まる調理実習で私達に負けない成績を残すと張り切っていますね。ちなみにあの子達は4年生からシチューやカレー程度は作っていましたよ?』
「え~、同い歳なのに~」
『そこが姉妹の面白いところですよ。私達を見て自分達も何か作れないかと考え、徐々に徐々にです。姉さんがリンゴの皮むきや飾り切りなどを教えて、包丁の扱いを学ばせていましたね。それにあの子達はお父さんと三人だけのキャンプにも行ってますよ。そこでカレーを作って褒めて貰ったそうです。クロちゃんに負けてられないとおチビちゃんも頑張っていますね』
「おチビちゃん?」
『ああ、あちらの妹のイリヤの事です。四人居るイリヤは、一番上が神社の巫女さんのアルバイトをしているので『巫女のイリヤ』、二番目が5年生のあなたと変わらないくらい小さいので『ちぃイリヤ』、双子の姉の三番目が『会長のイリヤ』もしくは『大イリヤ』、そして5年生のイリヤが『小イリヤ』もしくは『ミニイリヤ』と呼ばれています。この小イリヤがあなたと同じ存在ですね。姉妹間ではおチビちゃんで通ってます。クロちゃんは同い歳なのでイリヤとクロの愛称で呼び合っていますよ。これはお友達もそうですね。残念ながらおチビちゃんを、お姉ちゃんと呼んでくれるのは末っ子の美遊だけです」
「そっか。四人も同じ名前だと仕方ないよね。そっちも小さい方のお兄ちゃんは養子だよね?」
「ええ、B5ですね。国際標準はA4なだけに残念な規格の男の子です」
「は?」
『エルヴァさんは養子縁組の養子と、コピー用紙の用紙と引っ掛けたんですよ~』
「フフ……何それおかしいよ。じゃ養子なんだね?」
『ええ。どこの馬の骨ともわからない、頑固な男の子ですね』
「ひどいよ?!」
『良いところは説明しなくとも、あなたが知っているでしょう? こちらの士郎クンはあなたの中で拝見しましたが、トラックに突っ込んだり、駅のホームから飛び降りたりしていませんよね?』
「な、何をしてるの? そっちのお兄ちゃんは?」
『酷い中二病でしてね。困っている人や危険な目に遭いそうな人が居れば『待ってろ! 救けるぞ!』と直ぐに走って行くのです。そういう正義の人になりたいのなら、それっぽい全身をピッタリ覆うスーツを着て、身の安全も確保しろよと。そのために礼装をせっせと造ってあげたのに、そんなのを着るのは恥ずかしいとかワガママを言って。怪我をしないようにという姉の心を踏みにじる、お前のちっぽけさが恥ずかしいわ』
「仲悪いの?」
『いえ。私の事は苦手っぽいですが、結構素直にお話は聞いていますね。右から左へスッポ~ンですが』
「ウチのお兄ちゃんも、聞いてるようで聞いてない時があるなぁ」
『ま、男の子ってそういうところがありますよね』
「うん。それで美遊って子は?」
『素直で可愛い子ですよ。見た目がお父さん似なのですね。これだけ大勢兄妹が居る中で、唯一のお父さん似なのですよ』
「あと、1番上の先生のお姉さんも似てないね?」
『ええ、あちらも養子ですね。第四次聖杯戦争でお父さんが喚び出したセイバーですよ』
『まさか英霊の一分霊が姉妹だと……?』
『そうです。記録帯が受肉した姿が我が長姉です。変わった家でしょう?』
「でも面白そう」
『その気持ちですよ。私達のお父さんやお母様は子供を分け隔てしない方達です。ですから私達も素直に面白いと愉しめば良いのです。あなたもいきなり姉妹ができても仲良くしてあげて下さいね』
「うん」
第一部だけで40話以上あります。
誤字脱字は注意していますが、一部固有名詞はあえて表記を替えています。