「想定はしていましたが、予想外です」
「ですね。私は別のアルさんかと思いましたのに」
「私は『バルムンク』を持った、済まなさそうなお兄さんと思っていましたよ」
「あれって、おたまじゃくしですよね?」
「ギャーギャー騒ぐならオタ○トーンです」
「セイバー。子守の時間ですよ」
「オムツの交換をしてあげて下さい」
「アルトリア姉さんは、美遊の交換を体験していますよ?」
「なんと!」
鎧の騎士は兜で顔こそ見えないが、先輩達のセリフに憤慨していた。
「煩せぇな! マスター、いい加減頭に来たぞ!」
いよいよ剣を振り回し初めた。
「あれ、中身が空だったりして」
「持ってかれた弟さんですか? ここは舌足らずな声でお父さんと言わないと」
「それで落ちるのはウチのお父さんだけです。あのジゴロは手当たり次第……」
「だから並行世界で騎士長ならぬ騎士王を」
「ドン・ジョバンニですか。けれど、エッチなのはいけないんじゃ?」
意味不明だが、先輩方は無駄に度胸がある。
「そちらの私。マスター達は一体何を?」
「さぁ? 考えない方が良いですよ。それよりあの騎士は……?」
「それこそ今更ですが……あなたの?」
「いや、あなたでは……?」
ここに来て認知拒否か。いやそれよりも、あのマスターと呼ばれた子は……。
「あの子、イリヤちゃんじゃなくて先輩? 髪がストレートですけれど」
先輩は日本に来てから、イリヤ会長と区別するために緩いパーマを当てていた。モナコに行きつけのお店があるのだ。
私達魔術師の女の子は髪にも魔力を帯びる。また会長のように礼装として使える人まで居る。なのでカットもパーマも、ここと決めたお店以外に通わない。
会長と私は地元で腕の良いと評判のお店に通っていた。そこの店長はヴィダルサスーン・アカデミーのディプロマ(修了書)を持っているのだ。そしてロード・バリュエレータと出会ったのは、正にそのサスーン・アカデミーの直ぐ近くだった。
「みたいですね。しかもあの英霊を召喚して来るとは。ここは私とセイバーの迷宮でしたか」
「クンタ・キンテ?」
「古ッ! ルーツじゃねぇよ」
「しかしこのタイミングで。絶妙ですね」
「我ながら天才です。あの子は全部調べてあるのでしょうね。セイバー、戦う敵はその鎧の英霊ではなく、空の上です」
「はい?」
そこで少女が懐かしい、少し甲高い声で叫んだ。
「モードレッド! 上です!」
「よしッ来いッ! 『我が麗しき父への叛逆~~~~ッ!!!!』」
甲冑の騎士は上空に光る何かに向かって宝具を放った。
「おお、いきなり。しかしなんて宝具名ですか……。クラレントが……」
「む、躱した。空間転移? モードレッド! あの敵は魔術師だ!」
「正面です! 避けなさい!」
モードレッドが放った光をさらりと躱した何かは、突如正面に現れ紫電を纏い英霊達にぶつかって行く。
セイバーさんの助言で、モードレッドはゴロゴロと地面を転がって躱した。そのセイバーさん二人は左右に飛び退いて躱していた。
アーチャーさんは私達の前で双剣を構え、通り過ぎた紫電を睨んでいる。何もしていない訳ではない。五感も六感も研ぎ澄まされ、不測の事態に全対応で備えているのが私でもわかる。
他方、先輩はアサルト・ライフルを構えていて、マガジンを交換していた。今の交錯で撃ち切ったらしい。たぶん全弾命中だろう。全然効果が無いと思うけれど。
そして褐色の先輩は礼装姿で弓を握っていた。残心の姿がカッコいい。こちらは刺さったと思う。うわ、良く見ればクロちゃんと同じで、髪型がアップに変わるんだ? 可愛いし凛々しくてセクシー……。先輩……格好良い……。
「『神威の車輪』? 何だか小汚かったですね?」
「結び目がこんがらがっているのか、引っ張ってるのはホネホネでしたよ。気味悪ゥ~」
「あれは虚仮威しですね。セイバーの敵ではありませんよ」
「ですね。グッバイ」
褐色の先輩はセイバーさんを空間転移させた。セイバーさんはそれに応え御者の英霊を袈裟に斬った。素早く立ち去った彼女に入れ替わって、先輩のセイバーさんが出現し矢の刺さった首を一刀のもとに刎ねた。
この二段攻撃は躱せない。いや、褐色の先輩の矢も含めれば三段攻撃だ。
「凜、矢だけでは無い。エルの弾丸が相手の目に中っている。風の魔術で眼球へのルートを構築していたのだ。それで矢を躱せなかったのだよ」
なるほど。その道に弾を乗せたのか。相変わらず訳のわからない事を平然とこなす。そしてたぶんだけど、宝具から察するに相手はライダーに適正のある英霊だったのだと思う。おそらくキャスターにも。
きっと先輩は向こうの空間転移を視て、敢えて宝具合戦でなく魔術合戦に持ち込んだのだ。それも弾道のルートを確保とか相手の想定外な魔術で。
目を、英霊には何の効果もない現代の武器で撃たれる。なんて嫌な魔術だろう。その一瞬の隙きを突いて、もう一人の先輩が矢を喉に中て、そこからセイバーさん達の二段攻撃だったのだ。これは堪らない。
消えゆく名もなき英霊に手を叩いて喜ぶ幼い先輩。凛さんが危ないと引っ攫って、ともどもに私の張った結界に入っていたのだ。まぁ、良いけど。
「そこの甲冑の君」
「ああ!? オレか?」
「ああ、君だ。どうだ? 奢るから一杯付き合わんか?」
「え? ああ、けど……」
「良いですよ。行って来なさい、モードレッド。その代り、これを」
「な、何だ?」
それはピコピコハンマーだった。元祖・増○屋謹製KOハンマーだと先輩が看破した。ここが日本なら、その浸透度と信仰で宝具の域に達しただろうとも……。
嘘つけ! この先輩は真顔でしれっと嘘を言う。それも息を吐くように自然に。何千何万もの人がこれで叩かれた経験があったとしても、戦争で使われた武器の方が実績は上ですよ、先輩。
「それでお父さん達と語り合いなさい」
「ま、待ってくれ。暴力無しでってマスターの真意もわかるし、気を遣ってくれてんのもわかる。けどよ、どっちが父上だ?」
セイバーさん達は揃って吹き出した。そして小さくても先輩は先輩だった。きっとモードレッドに何かを言い含めたか悟らせたかしたのだろう。私はもっと荒々しい人物だと思っていたのだ。
「どちらも乳上には程遠いです」
「こうなると成長が望めなくなる鞘は呪いですね」
「親の因果が子に報い……」
「ああ……鎧で見えませんが、バストはピッタリ73cmでしょうね」
「リリィのスリーサイズは?」
「それが解明できれば召喚可能ですか?」
「歴史の裏から引っ張り上げられる触媒って何でしょうね?」
「わかりませんが、もし召喚できれば妹要素プンプンですよね」
「ね? 帰ったらおチビちゃんに頼みましょう」
相変わらず先輩方の話は見えない。
「私の息子の名は確かモードレッドです」
「私の息子はマーマレードでしたかね?」
「では、レモネードで」
「こんな癇癪持ちはグレネードですよ」
「上手い!」
兜を脱いだモードレッドの目が点になる。あ、可愛い。
「あの……父上?」
「モードレッド。言いたい事もありますが、まずは聞きますよ。そこからです」
「ええ、そこからです。何でも話して下さい、モードレッド」
「父上……」
そこを空気を読まぬ漢が。
「貴公の話しを聞こう、なんてな」
「アーチャー、あなたにはガッカリだ」
「ええ、失望しました」
「コイツ、使えねぇ!」
「何故、初対面の君にそこまで言われねばならんのかね?」
「当たり前ぇだろう!? こんな空気が読めねぇヤツ、キャメロットにも居なかったぜ?」
「居ただろう? ガレスとか」
「お前ぇ、何で姉ちゃんを知ってんだ!?」
ガレス卿って女性だったの? キャメロットって随分女性率が高くないですか?
「湯浴みを覗こうとする騎士達をガウェインとアグラヴェインが追い払っていた事も知っているぞ」
「マジか!? お前も円卓に居たのか?」
「フッ……知らんのも無理はない。私はかつてアーサー王の飯使いだったのだ」
これにはセイバーさん達も吹いた。
「悪ぃが知らねぇ……。宮廷料理人だったのか?」
「まぁ、そんなところだ」
へぇ~、ブリテンに宮廷料理……。
「そっか。じゃ、ガウェインの配下? あ、ケイ卿か。姉ちゃんもケイ卿のせいで最初は厨房で働いてたって話してたよ」
「ハハハ……残念だが向こうは私を知らんよ。名も憶えて貰えぬ下働きさ」
「けどよ、英霊にまでなったって、凄ぇじゃねぇか。名は何だ?」
「弓使いなのでアーチャーで通っているが、真名はな」
「ああ……そうだよな。スマン、悪かった」
「構わんさ。では、行くか」
「ああ!」
「この子は……」
「固い事言うなよ父上。さぁ、行こうぜ」
ワイワイガヤガヤと四人はパブを求めて消えて行った。
「お兄ちゃん、おっパブ状態ですね」
「ですね。けれど上手く行きそうです。それよりあの子は、こちらのお父さんと同じ英霊を?」
「結果論でしょう? 相性は良さそうですけれど」
「で、凜。何ですか?」
「あ、済みません」
私は無意識に褐色の先輩にくっついていた。だって、格好良いんだもの。
クロちゃんみたいな破れた感じじゃなく、もっとしっかりしたイメージ。胸元のプロテクターもクロちゃんの革ブラジャーとは違う。
けれど下半身のセクシーさは高校生の先輩の方が上だ。私は腰に巻いている布を捲った。
「ちょっ、凜。捲らないで下さい!」
うん。ピチピチの短パンは、お尻がハミ出るくらいピッチピチだ。横から見るとスパッツなのに、正面と後ろはピチピチ。
何でクロちゃんのも先輩のも、こうなるんだろう? きっとカードの英霊がむっつりスケベだからだ。
「しまった……ここにルビーがあれば……。私も転身しましたのに」
先輩の呟きに凛さんがツッコんだ。
「いい歳こいて、イリヤと同じ格好に転身する気?」
「絵になるでしょう?」
「恥ずかしくないの?」
「そんな板場の若い見習いが、長靴や前掛けを恥ずかしがるような情けない根性だから任務に失敗するのです」
「そうですよ。礼装姿や転身姿はプロの証です。何を言っていますか?」
「しかも耐魔力や耐熱、耐冷とどこを見ても性能は申し分なしなのに」
「その通り。ユニフォームを嫌がる消防士さんは居ませんよ」
「服装が少々格好悪くとも行動で示せば良いのです。むしろあなたの姿に憧れを抱かせる気概を持たねば」
「ですよ。そうやって次の世代に希望を繋ぐ。正しい魔術師の姿ですよ」
凛さんは涙目で黙ってしまった。先輩に口で勝てる訳が無い。しかも口撃は二倍だ。
これがルヴィアなら、この程度着こなせて当然ですわと胸を張って言い返すのだろう。そうすると凛さんも反論できるのだが、先輩は職場のユニフォームを嫌がる者は素人だと言い切ったのだ。
こういう話し方に日本人は弱い。これは私でも涙目になる。それに私だってルビーを握りたくない。
そして先輩は、シャツにネクタイをキリッと締めた小さな先輩に向かって話し掛けた。また随分とトラッドな英国女子小学生っぽいスタイルだ。しかも似合っている。
私や桜に先輩も中1の終わり頃まで、こういう服装が多かった。先輩はお祖父様の好みに合わせていたら好きになったらしく、今もトラッドにキメたりする事がある。
コスプレもその延長らしく、制服コスでも余りだらしなく着崩さない。この辺が育ちなんだろうなぁ。
「このネクタイだとグリフィンドールでなくスリザリンですかね」
「スリザリンはグリーンですよ。ブルーなのでレイブンクローですね」
ああ、あれを意識しての服装だったんだ? 暗いからわかりづらいが、確かにネクタイはブルーのストライプだ。それに先輩ならレイブンクローだと私も思う。私はハッフルパフだろうなぁ。
「見事なお膳立てでした。あのモードレッドは記憶こそ無くとも、お兄ちゃんと面識がありますね?」
「はい、たぶん。触媒も獅子劫さんに用立てて貰いましたから」
「……なるほど。獅子劫さんとは面識が?」
「はい。お祖父様の紹介で」
「そうでしたか。あの人は優秀な人です。そのコネクションは大切にして下さい。それと47番?」
「はい。日本に帰ったら獅子劫さんの刻印を作りましょう」
「ええ。あなたは視たのでしょう? 獅子劫さんとモードレッドの関係を?」
「視ました。並行世界ではマスターとサーヴァントの関係でした」
吃驚した。私も夢見はする方だが、それは予感に近い程度のものだ。それを先輩達と変わらぬ並行世界の夢を視るなんて。幼くても先輩だなぁ。
「あなたの夢見も大概ですね?」
「同じでは?」
「そうですね。今回は私達と逢うために?」
「はい。先に夢で視て、準備をしていました」
ああ、先輩がこの世界に来る事も、ここで逢える事も夢で予測していたんだ? 凄いなぁ。
「幾つか質問しても良いですか?」
「どうぞ。その前にどこかで腰を落ち着けませんか?」
それはそうだとホテルの部屋に戻り、ルームサービスでお茶を頼んだのだった。
褐色の先輩がホテル前で転身を解く時、私は思わず舌打ちしてしまった。許して欲しい。
そして本当だ。明るいところで見る小さな先輩は、魔法魔術学校の生徒そのものだった。胡座をかいて薬を調合して欲しいところだ。けれど10歳だと1年早いですよ?
「それで、あなたの目的が私達だとはわかりましたが、過去両親に逢わなかったのは?」
「その頃はまだ調整槽に浸った存在でしたので……」
「調整期間が長かった……?」
「はい。培養槽は5~6歳までで、調整槽は7~8歳頃まででした。学校に通い始めたのは2年ほど前からです」
「そうでしたか……」
身体が弱かったのだろうか?
「学校はどちらですか?」
「Le Rosey?」
「Institut auf dem Rosenberg」
「ザンクトガレンの? 紺のブレザーに紺のネクタイで、完全寄宿制でしたよね?」
「そうです。同じでは?」
「いいえ。私は迷った末に地元の公立小学校に行きました」
「どうしてですか?」
「幼稚園からのお友達が居たからですよ。ですが結局2年生の秋に日本へ渡り、3年生から日本の私立小学校へ転校しました。今はその学校の高校3年生です」
何だろう。逢いたいのに逢いたくないとまで思っていた、並行世界の幼い自分はとても素直で可愛い子だった。
自分とは異なる学校……それは異なる人生を歩んでいるという事だ。そしてこの子の話す話しは幼い頃の自分を思い出せた。
地元の学校に通った理由……確かに友人と離れたくなかったのも事実だが、ローゼンベルクは最初から選択肢に無かった。制服のネクタイが子供向けのワンタッチ式だったという理由もあったなぁ。
私は小学校に上がる頃に事業を立ち上げたので、それまではお祖父様からのお仕着せだったトラッドな衣類を見直したのだ。子供が大人に相対する時、これ程便利な服装はないからね。
なのでネクタイのノットもダブルノット、ウインザーノット、セミウィンザーノット、クロスノット、ノンノット、エルドリッジノット、トリニティーノット、ケープノットと大抵結べる。
ブラインドフォールドノットやメロヴィングノットも結べるが、遊びが過ぎると思えるのでパーティでも滅多にしない。またプレーンノットや、その変形のスモールノットも絶対にしない。
あれは従業員や使用人がするものだと、お祖父様に厳しく言い付けられていたからだ。
ボウタイやリボンタイも何種類も持っていた。また乗馬も仕込まれていたので、胸元のゴージャスなシャツやタイも持っていた。
その時々の気分や仕事内容でシャツやタイを替えるのが好きだった。こんな風に私はネックウェアーに結構煩い。
なので制服コスでも、コスでない学園の制服にでも、手結びに拘るのだ。
ちらっと見れば47番も同じように感じているようだ。
「ではお友達と離れ離れに……。ああ! 日本に行ったのはお姉さんと出逢ったからですね?」
「そうです。それにお友達とは今も文通していますよ」
「その、お友達が私には……」
そうだった。先輩には長年文通している相手が居て、その人は幼稚園時代のお友達だと伺っていた。だけどこの幼い先輩は幼稚園に通っていないのだ。
となると寄宿舎に入るまでは、ノインのお祖父様のお館から出た事はないのだろう。旅の経験はあるだろうが、ここは大きな差だと凜は思った。
「良いですよ。私は私、あなたはあなたです。ですが……あなた『ラインの黄金』は?」
「正直に話します。持っていません。それを得る資格があるかどうか、あなた方に判断して貰えとお祖父様が」
これには先輩達も私達も驚いた。
「審判者エルヴァ、これより審判を開始する!」
「は、はい! やっぱりそういう役目が……。お祖父様はいつあなたにそれを頼まれたのですか?」
「カルチャー・ギャップなのかジェネレーション・ギャップなのか判断に迷いますが、今のは日本のアニメのセリフですよ」
「え?」
いやぁ、先輩。幾ら何でもスイスでは放送されていないでしょう?
「こちらのお祖父様には、まだお会いしていません。この件が終わればバーゼルにお伺いしようとは考えていましたが」
「そうなのですか?」
「ええ。そしてお祖父様はあなたとは別口の何らかの方法で私達を知っており、あなたをここに寄越した訳ですね?」
これはお祖父様の情報網からだろう。つまり日本の衛宮家とここのお祖父様は繋がりがあるのだ。
「だと、思います。あなた方は英霊を従えているから、お前も召喚してから行って来いと言われて」
「危なければ助けろと?」
「はい」
先輩は小さな先輩の頭を撫でた。西欧の人はこういうのを嫌がるのに、彼女は少しはにかんでいた。これはたぶん接触パスで相手の考えを読んでいるのだ。きっとお祖父様からのメッセージなどがあるのだろう。
「あなたはそんなに『ラインの黄金』が欲しいのですか?」
「はい」
なるほど。先輩と同じなら、『ラインの黄金』という宝具の存在を知れば自分なりに調べるだろう。そして堪らなく欲しくなってお祖父様におねだりしたんだ。
そこへ並行世界から現れた年上の同位体。しかも『ラインの黄金』を持っている。あのお祖父様ならそのくらいは直ぐに察知し調べるだろう。だから会って来いとこの子に話したのだ。
「覚悟は?」
「あります」
「なら、まずは両親に逢い、姉達に逢って和解した上で、こういう道を生きるのだと話しなさい」
「え?」
「説明を受けているでしょう? あの宝具を取り入れれば子孫は望めません。その事をキチンと話した上でなら、お祖父様も納得されますよ」
「で、ですが、今更です!」
「そうですね。あなたにとっては今更です。もしかしなくてもあなたの姉には、あなたの存在が寝耳に水でしょうし」
「なら何故? どうしてですか? このまま知らない同士で良いではありませんか。私が自分で決心したのですよ?」
「お祖父様はあなたが大好きなのです。戸籍上は養女でも、お祖父様にとっては可愛い孫か曾孫なのですよ。あなたもマアエモが乳母ですか?」
「はい。同じなのですね?」
「ええ、私にとっても大切なママです。彼女の魂の事は?」
「魂? いえ……何が?」
凛さんが困った顔をしている。それはそうだろう。けれど褐色の先輩が手を握って離さない。ここに居てくれという意思表示だ。私も手を握って欲しいなぁ……。
「では、第三次聖杯戦争の頃に大聖杯が盗まれ掛かりました。それを阻止したアルトゥル様のお話は?」
「伺っています。お祖父様の本当の息子、ご長男ですね。その時の怪我が元で亡くなられたと聞いています」
「その通りです。では、アルトゥル様のお子さんの話は?」
「いえ……。お子さんが居たのですか?」
「ええ、アルトゥル様は奥様と冬木に渡られ、そこで亡くなられましたが、お子さんはスイスに残っていたのです。ですが、この子は難病に冒されており、両親を待ち続けながら亡くなりました。そのお子さんは私達の先輩です。現代魔術史上初の人類とホムンクルスとのハーフだったのですよ」
「では、奥様がホムンクルス?」
「そうです。5歳だったそうですよ。お祖父様は大いに嘆かれ、その魂を保管機に入れました。そして何十年か後に、その魂が活かせる最上の素体であるリズライヒ型の中に納めました。それがマアエモだったのです」
「ママが!?」
「そうです。彼女こそがお祖父様の本当の孫なのです。そして実験用の受精卵から育てられた私達に、この子は実験動物では無い、私の娘だと『ラインの黄金』移植を反対していたのもマアエモです。彼女は自分がお祖父様の孫だとは知りません。ただ、私達を心から愛していたから、廃棄処分覚悟で反対してくれたのですよ」
「そんな……。では、どうしてあなたは……?」
「5歳の時に、『ラインの黄金』を受ける覚悟があると証明するために、自分の左腕を右腕に握った斧で斬り落としたのです」
「え……? あなたはそこまでして……?」
「僅か5歳で、何も知らないバカだったからですよ。亡くなられたお孫さんと同じ年齢だったのは偶然でしたけれど。ですがそれで知りました。お祖父様はとっくに私を実験動物でなく、娘として愛してくれていたのだと。今だにバカ娘やアホ娘と言われています」
「え~……」
「友人とはいえ、他家の凜達が居るので『ラインの黄金』が何なのかは話せませんが、人があれを受け入れるには覚悟だけでなく、精神のあり方も重要な要素となります。私もあなたと同じで、7歳までは血族を知らぬ一人きりの存在だと信じていました。それが8歳を迎え、第四次聖杯戦争に望む前の両親と出逢い、姉と出逢い……彼女達を護ろうと思えたから今の私があるのです。その護るという気持ちが、私達の起源とも合致し、より強固な『ラインの黄金』を制御する精神に結び付くのですね。だから家族に逢いなさいと話したのですよ」
「では、反対では無いと?」
「私は先駆者としてあなたにメリットとデメリットを話すだけです。決断を下すのはあなたです。後悔しないように、トコトン納得するまで調べ尽くしてから決めなさい。私はそのお手伝いをするだけですよ」
「わかりました、ありがとうございます。……時間が必要ですね」
「そうですね。私が去った後は彼女に相談して下さい」
そうして先輩は褐色の先輩を見た。褐色の先輩は大きく頷いた。
「あの……私はあなたをなんと呼べば?」
「お姉ちゃんでもお姉様でも。私はあなたをエルちゃんとでも呼びましょうか?」
「わかりました。エル姉様……。少し恥ずかしいですね」
「あかん……鼻血が出そう……」
イリヤ会長に初めて出逢った先輩は、そこで萌えたそうだ。
犬や猫が大好きな先輩だが、モフモフでないプニッとした手で自分の手を握られた時、鼻血が出たとか。
双子で同じ顔。それは変だという人も居るだろうが、先輩は少し複雑な育ち方をしたので、幼い頃は御自分を大量生産品だと思い込んでいたのだ。
ヒトの血が流れているとは露程も考えていなかったらしい。
そして信じられない事だが、先輩は笑わない人だったのだと言う。厳しい英才教育や魔術調整や、色々あったとは思うのだけれど。
そんな中で出逢った双子の姉は天真爛漫な笑顔の似合う女の子だった。だから笑顔を教えてくれたイリヤ会長を先輩は大好きなのだ。
そして初等部時代のお二人は正に天使だった。やばいよこの人と思う気持ちと、仕方ないと思う気持ちの両方が私にはある。確かに幼い頃の先輩は本当に可愛いのだ。
あの日────
友人からの緊急電話で禅城の家から抜け出した私は、冬木駅近くの繁華街で目的の友人達を発見した。
親から与えられたばかりの携帯電話に掛かって来た内容は、『救けて、凜ちゃん』の一言だった。窓から飛び出た私は、夜中まで友人を探した。やがてやっとこさ目的の友人と、その友人と塾が同じ子の二人を発見した。
しかし、発見したは良いが、連れ込まれた先が悪かった。地下にある廃業したバーか何かの跡で、逃げ場が降りて行った階段しか無かったのだ。
こっそりと猿ぐつわを取れば、事情を理解していない友人の友人が騒いだ。それで友人達を拐った男性に見付かり、私はお腹を刺されたのだ。
想像以上の痛さと流れ出る血で意識が朦朧とする中、私達の前に飛び込んで来たのが先輩とアルトリア先生だった。間の悪い事に、父のアサシンは私を見失っていたらしい。
更に後で知ったのだが、慎一さんもバーサーカーを引き連れて朝まで私を探していたそうだ。本当に申し訳ない。悪いのは、禅城を抜け出した私なのだから。
そして、この時先輩は男性に『魂の改竄』を行い、その場で『世界』と契約させた。わかるだろうか? 犯人は私の見ている前で「自分から」、死後を「永遠に扱き使って下さい」と世界に捧げたのだ。
先輩曰く、『守護者はシリアル・キラーにもって来いの天職です。適材適所ですよ』だ。『自由は剥奪されますが、人類のためという大義名分を与えられて堂々と人を殺せるのですから』とも。
後にこの事を知ったアーチャーさんはかなりショックを受けていた。
その後、男性と友人達は連絡を受けた小父様が警察に引き渡し、私は先輩に治癒の魔術を受けホテルへ連れられた。
するとホテルには先客が居て、それがなんと桜だった。抜け出た私の後を追って迷子になり、泣いているところを先輩達に救けられたのだという。
桜の場合は私よりもっと間が悪かったらしく、アサシンさんが発見した目の前で先輩が空間転移を行ったので、間に合わなかったのだ。
これは先輩が、桜がサーヴァントに襲われると勘違いしたからだった。アサシンさんにしてもセイバーを引き連れるアインツベルンの少女は港で見ていたので知っていた。
弁解も言い訳も何も無理だと一目散に逃げたらしい。状況とタイミングが悪過ぎたのだ。
父や慎一さんは大変だったと思う。けれどそんな事を知らない私は、少し私より背が低い銀髪の女の子に憧れた。そう。あの日からだ。あの救けられた日から先輩は私にとってのヒロインであり、正義の味方だった。第四次聖杯戦争さなかの話である。
そしてこの小さな先輩は、見た目こそイリヤちゃんだが、あり方というか雰囲気がその頃の先輩を彷彿とさせるのだ。だから私の胸がキュンキュンするのは仕方ないと思う。
実はこの子は先程からドイツ語の単語を交えた英語で話していた。なので私はドイツ語で尋ねた。
「ホテルはどちらですか?」
「ここです。二つ隣の部屋です。あなたは魔法使いですね?」
「そうです。エルヴァさんとともにここに来ました」
「感謝します。あなたが居たからこうしてエル姉様と逢えました」
そう言ってペコリと頭を下げた。可愛い……。持って帰りたい……。
「そして、あなたがエル姉様から別れたもう一人のエル姉様。宝具はお持ちじゃ無いようですが、英霊のチカラを?」
「はい。カードを触媒にして受肉しました」
「そうでしたか。今後も残られると聞いています。こんな子供ですが、よろしくお願いします」
「宝具の知識はありますから、何でも相談して下さい。こちらこそ、お願いしますね」
「ありがとうございます」
「それでエルちゃん。付き添いは?」
「部屋にママが……」
そして先輩方はマアエモさんを部屋に呼んだ。
「お初にお目に掛かります。並行世界のお嬢様方ですね。ご立派になられて……」
「私の乳母もマアエモですから、堅苦しい挨拶は抜きで結構ですよ。一番喜んでいるのは彼女でしょうし」
「はい。あなたにここで逢えるとは……感無量です」
「お嬢様……」
先輩もそうだが、褐色の先輩は本当に嬉しそうだった。
勝手に決められないが、このまま日本に連れ帰っても良いのではないかと思えた。
「先輩、この子をこのまま」
「日本にですか? 1年もあれば日本語は覚えるでしょうけど、せっかく良い学校に通っていますのに」
「そうなんですか?」
「この子が寄宿している学校はスイスの名門校ですよ。何れにせよ、まずはお祖父様とお会いしてからです。そもそも自分達の世界へ、やがて帰る私達が勝手に決めて良いものではありません」
「そうですね。それが筋ですよね」
インスティテュート・アウフ・デム・ローゼンベルク。
その学校は、先輩がチューリッヒのお祖父様の家を出た後に、幼稚園に通うために移り住んだザンクトガレン州にある私立のボーディングスクールだそうで、ヨーロッパでも上から数えた方が早い名門校なのだそうだ。
年間に掛かる費用は最低で8万4千スイスフランから。つまり日本円で約1千万からだ。この他に寄付金や野外活動に課外活動の費用も掛かる。
海外からの参加者も募っている、サマースクールやウインターキャンプに参加すれば、更にその費用も。
英国の名門校と変わらないではないかと聞けば、スイスのボーディングスクールは世界各国の王侯貴族や外交官、芸能人の子弟が寄宿先に選ぶ学校なのだとか。
そして私を真っ直ぐ見ながら、日本人も何人か居ますよと小さな先輩は教えてくれた。
1年生から12年生までで、今彼女は5年生。この秋から6年生だそうだ。全校生徒は300人も居ないらしい。小じんまりとした学校で一クラスの平均は、なんと8人だとか。
その少数教育はスイス、ドイツ、イタリア、米国、英国といった各国の教育制度と語学を取り入れている。それは本国に戻ってもスムースに上の機関へ進めるようにしているからだという。
なので、10年生辺りから起業家向けのコースなどもあるそうだ。母国語はスイス・ドイツ語だろうに、英語や身振り手振りも交えて一所懸命に説明してくれる。
年末のダンス・パーティが好きだ。上級生のお姉さんみたいにいつかはドレスの似合う女の人になりたい。アクティビティは乗馬とフェンシングとダンスをやっていると、キラキラした瞳で話してくれた。
学校が本当に好きなのだろう。安直に日本へと考えた自分を恥じた。
凛さんが私に尋ねた。
「寄宿舎生活でしょう? 工房ってどうするの?」
「この子も先輩なら術式は頭の中です。工房要らずなタイプなんですよ。一週間に一回か一ヶ月に一回かは知りませんけれど、家に帰った時に一気に実験と検証をするんでしょう」
「そんなタイプって居るの?」
「居ますよ。トイレやお風呂に入っている時や、お料理をしている時に新しい術式が浮かんで来るそうです。モーツァルトみたいなタイプでなければ、あの論文は浮かんで来ないですよ」
「う~ん……なるほどねぇ」
凛さんが驚くのも無理はない。先輩はキチンとした社会生活を営めるよう、お祖父様にそう教えられて来ている。勉強机とノートがあれば魔術が組める人なのだ。
会長も先輩を見習って、今や工房要らずになっている。私も以前ほどは工房に入らなくなった。
もし先輩がこの子と同じ学校だったら、聖杯戦争後に欧州へ帰っていたろう。そうなると今みたいな関係は無く、私は魔法に至らなかったかも知れない。人の縁とは本当に不思議だ。
「それで、あなたはどこで召喚を?」
「サマセットの古戦場です」
「カムランの丘ですか?」
「正確にはわかりません。ですが狙い通り、父親と和解したがっているモードレッドは来てくれました」
「それは私達のセイバーが誰かを知っていたから?」
「はい、培養槽に居た頃から。お姉さまがアーサー王に出会ったのは8歳頃ですよね?」
やっぱり、この子も先輩だ。並行世界の予知夢を正確に視るのだ。
「フフ……それが私の長姉です。あのセイバーを召喚したのは、実は今年の1月ですよ」
「そうだったのですか? もっと早いと思っていました」
「可能ではあったでしょう。けれど同じ喚ぶなら、生涯の友人であって欲しいでしょう? あなたは今後の生活に支障を来たさず、モードレッドを支えられますか?」
「礼装次第です。けれどそうですよね。その後も考えてあげなければ駄目だったのですね」
「そうです。それが起業家ですよ。会社は?」
「魔術の特許を扱う小さな事務所を経営しています。エルお姉様は?」
「私も最初は魔術の特許関連でした。今は霊脈や霊地のレンタルに売買、その仲介と紹介、マナが溶け込む温泉の掘削や浴場経営、そこでのホテル経営、そして呪体や貴石などの採掘に採石、通信事業、食材の生産と加工、食料品の卸売り、冷蔵冷凍倉庫の運営、食料を運ぶ物流業、鉱石や石油の採掘に光ファイバーの施設と通信事業も行っています。6歳から始めて、17歳の現在は300社以上あります。従業員はグループ全体で50万人以上ですね。表向きの売上は年間200億ユーロから260億ユーロ。経常利益は30億ユーロといったところですか」
「ええっ!?」
「まだ話していませんでしたが、私は7歳から第11代アインツベルン総裁で、高校卒業と同時に総裁を12代目に譲り、ハーウェイの総裁に就任予定です」
「そんな頃から……」
「あなたは私より純粋に魔術師寄りですね。公園の結界は見事でした。なら、魔導師を目指せば良いと思いますよ」
「私はそっち向きですか?」
「ええ。まだ10歳でしょう? その歳で大聖杯のような助けなしの英霊召喚はあり得ないです。それも自ら望んだ英霊を、そうであって欲しい状態で召喚……。ハッキリ言って今の私でも難しいです。あなたは私より根源に近い」
根源に近い。とてもデリケートな言葉だ。勿論褒め言葉なのだが、転じて小馬鹿にしたニュアンスを含んだ使い方も往々にしてされる。
ただ、今のは時計塔内でのそれでは無く、正しい方の用法だった。小さな先輩が顔を紅潮させている。とても嬉しかったのだろう。
「彼女、そんなに成功しているの?」
「先程の? そうです。それに挙げた事業の売上はともかく、収入と資産が一致していません。当然ながら霊地の管理や開発事業での売上や神秘関連の特許、それに伴う油田や宝石に呪体の鉱床分は含んでいないんですよ。含めたらえらい事になりますからね」
「じゃ、アインツベルンは……?」
「ノインのお祖父様を筆頭に、一族全体で京の単位ではないかと」
「け、京?」
「ハーウェイ全体だと垓は行かなくとも、京の4桁目に行くかも知れません。例えば冬木の規模の霊脈で1兆程度です。そんな規模の霊地を三桁はお持ちなんですよ」
「さ、三桁? あり得ないわ!」
「インターネットですよ。海底で大陸を繋ぐケーブルにガスや原油を流すパイプ。それに海底油田やシェールガス。こういう通信網や資源の開発もされています。使い魔を海に沈めるケーブルに繋げば?」
「海底の霊脈!? そっか! それを含めての三桁なのね!?」
「そうです。ただ、冬木の霊脈は英霊召喚の実績があるので50兆とも言われています。この情報も今後に活かして下さい。たぶん、店子も私のところの方が多いと思いますよ」
「でしょうね。1兆が50兆か……。それより海底の霊脈って?」
「そうですよ。今まで誰も開発していません。先輩が初めてなんですよ」
「待って、一族で三桁じゃないの?」
「一族全体なら四桁近いと思いますよ?」
「何それ……」
凛さんの驚きとは裏腹に、私は小さな先輩が余り成功しているとは言い難い事に驚いた。だって先輩がこの子の年頃には、とっくに時計塔の理事だったのだから。
この子は本当に魔術に偏っている。そういう偏りは、今後『決断』や『覚悟』を迫られた時に、重さや深さの理解度に影響を与えるだろう。その最初の出来事に、今直面して居るのだと私は考えた。
子供はバランスよく育てたい。けれど本人の持つ指向性はまた別だ。きっとお祖父様はそこも期待して、先輩と逢う事を勧めたのだと思う。この子が大きくなったらどんな魔術を使うのだろうか。私はとても気になった。
褐色の先輩が別の質問をした。
「エルちゃんは魔術以外で身を護る手段がありますか?」
「余り褒められた事ではありませんが、ピストルを持っています」
空手をやってないんだ? 思わず聞くと先程話してくれたフェンシングとダンス、そして後は嗜みとしての乗馬だった。意外だ。
「射撃はお祖父様に教わって?」
「はい、そうです。手が小さいのでいつもこれです」
そう言って肩に掛けたポーチから拳銃を取り出した。
「おお。Beretta 21A Bobcat、懐かしい。私達も小学生時代はこれでした。22LR? .25ACP?」
「.22LRです。予備がWalther TPHで、ライフルはANSCHUTZとRugerの10/22を使っているので、弾を揃えました」
あ、10/22は私と同じライフルだ。フロリダにある先輩の別荘に預けてある、先輩から贈られたライフルだ。
特売品で150ドルだったとか。日本円で1万5千円ですよ? 信じられません。
ちなみにアンシュッツは.22LRを使用する競技用ライフルで有名なメーカーだ。という事は、この子も射撃競技をしているという事だ。随分早いけれど。
アメリカ南部ではプリンキングと言って、裏庭で空き缶などを標的に、気軽に射撃を楽しむ習慣がある。22口径のセミオートマチック・ライフルは害獣駆除の用途もあって、一家に1挺はあるだろう。
Marlin Model60、Savage Model 64F、Mossberg 702 Plinkster、Remington Model 597……これらはRuger 10/22と並ぶ定番中の定番で、銃砲店を探さずとも、南部ならホームセンターでも売られている。
この他にハンドガンの弾を使うライフルやカービンも、女の子や子供が使うのに向いているのでそこそこ人気が高い。例えばRuger Police CarbineのPC9やKel-Tec SUB-2000と言ったピストル・カービンだ。
このKel-Tecの会社は先輩の別荘に近く、SUB-2000も早い時期から導入されていた。ダブル・アクション・オンリーのピストルで、9mmパラベラムのP-11から始まったPシリーズも別荘にゴロゴロある。
.32ACPのP-32や.380ACPのP-3ATは私も何度か借りて撃っているが、とても軽くて扱いやすい銃だ。
けれど先輩はもう少し重みのある方が良いと言う。その重みが自制に繋がるとは先輩の持論だ。先輩がPPK/SやBeretta Cheetahを使うのもそれがあるからだ。
またチューリッヒにあるノインのお祖父様の自宅には地上と地下に射撃場がある。先輩もそこで様々な事を学んで来たそうだ。
「私もスモールボアをやっていましたよ。今は.308 Winchester系列の.243 Winchesterに6.5-08 A-Squareや7mm-08 Remington、それとワイルドキャットの.22-243が多いですが」
「.22-243? ヴァーミンターですか? それなら.22-250 Remingtonでもよろしいのでは?」
詳しい。こんなに幼いのに。やっぱり先輩だ。
「魔弾ですよ。弾頭サイズはありきたりでも、薬莢がどのライフルにも装填できません。そういう工夫です」
「ああ、誤射を避けて……」
「ええ。実はあなたの指摘通り、22-243のパウダー(火薬)の処方はノスラーが発表している.22-250 Remingtonのレシピを参考にしています。弾頭が50grでパウダーがIMR 4895の場合、22-250なら32grが標準とすると.22-243なら42gr辺りまで入れても撃ち味が変わりません。それなのに初速は3500ft/sから3900ft/sに上がります」
「マグナムは大袈裟ですが、軽い+Pみたいな感じですね?」
「そうです。元々の発想が5.56×45のNATOのマグナムだったのです」
「あれ? 確か5.56×45mm NATOのマンストッピングパワーがどうとかで……」
「そうですね。今後は各社からファクトリーロードが出て来るでしょう。私の発想にはそれもありました。そして弾速を上げるために弾頭を69grから50grに落としていますので、223 Winchester Super Short Magnumのデータとほぼ同じです」
「それなら?」
「実戦投入が10年前の世界でしたので。223 Winchester Super Short Magnumがマーケットに出たのは昨年からですよ」
「ああ! 存在しないからですか?」
「そうです。そんな薬莢を万一置いてきてしまえば。ね?」
「過去の改変でタブー……いや、観測点はエル姉様視点の並行世界だから、同時存在していると見做されて抑止が動かないのか……。けれど念には念を入れてってところですね?」
凛さん、聞きましたか? 凄いヒントですよ? さすがはミニ・先輩です。本当に10歳?
ちなみにgrというのはグレインと読み、アメリカでの粉、或いは顆粒状の薬品や火薬を表わす単位です。
「それと同じ魔弾用として、一発ごと弾を替えられるリボルバーやショットガンも愛用しています」
「ああ、魔弾ならその方が使い勝手が良いでしょうね。ショットガンは12ゲージですか?」
「まさか。20ゲージと28ゲージですよ。今回は20ゲージばかりですが」
「ですよね。12ゲージだと銃が後ろに跳んで行きます」
「フフフ……ライフル射撃をしているのなら、お祖父様から7.92×57mm Mauserや7.5×55mm Swissを使えと言われませんか?」
「はい、大きくなったら使えと言われています。それで私のSIG Sauer SSG 2000が……」
「そこで私は.308 Winchesterが良いと駄々をこねたのです。それはもう子供らしく泣きわめいて」
「演技派だったのですね? それで.308 Winchester系列と。なるほど」
「お酒に酔うと9.3×62mm Mauserを熱く語ったりね? .375 H&H Magnumや.375 Weatherby Magnumで象牙を手に入れたとか。お前、喰わないならゾウさん撃つなよ。ねぇ?」
「アフリカでの狩猟は私も反対です。けれどお祖父様の時代は合法でしたし……」
「その通りです。私もそこは否定しません。けれど、やれ.460 Weatherby Magnumじゃ、700 Nitro Express撃ってみろと父を煽るのが難点でして」
「ああ、そちらは仲がよろしいのですね。魔術師殺しと」
とても冷たい目だった。先輩も姉と母という存在が無ければ、相容れなかったと言う。
無知・無教養・思い込み・視野狭窄。野に放ってはいけない狂人だとまで言い切っていた時期もあった。だからだろう。先輩は悲観的な顔をしなかった。それはこの子の冷たさにある。
興味が無ければ無視で良いのだ。それがあんな顔をしたのは、否定的感情はあっても気にはなっているからだ。親の所業が許せないだけで、嫌っているのでは無いと思う。甘いかな?
幼いとは言え、先輩だしなぁ。高校生の自分が驚かされるような事を考えていたりするかも。それと愛情に飢えている訳では無いだろうから、そこも要注意だと思う。
そしてさすがは先輩。先輩は表情一つ変えず、ニコニコと別の質問をした。
「10/22という事はアメリカですね。あなたもテキサスに?」
「はい。何度か伺っています」
ノインのお祖父様の次男は、もうお亡くなりになられているが、名をブルーノという。
この人は魔術回路に先天的異常があり、子供の頃に魔術を捨て起業家として再起した人だ。そして新天地アメリカで成功し、今は孫や曾孫の世代が活躍している。
この一族は全員魔術回路を持たないが、どの人も起業家としての才能が光っているのでお祖父様に可愛がられている。そんなご縁で先輩も子供の頃から交流があったのだ。
きっと小さな先輩も同じなのだろう。私も誘われて何度かテキサスへお邪魔していた。ちなみにフロリダにある別荘は、ブルーノさんの末娘さん御夫妻が住んでいた家を先輩が買い取ったものだ。
今はスイスのレマン湖近くで余生を送られていらっしゃるとか。
「なら、Ruger Bearcatも良いですよ」
「?」
「知りませんか? シングル・アクションのリボルバーです。Colt Single Action Armyのパテントが切れているので各社が似たようなのを出しているでしょう? RugerにもSingle-SixやBlackhawkがありますけれど、それがBisleyやVaqueroといった原点回帰的に展開されたリボルバーとは別に、もっと小型で撃ちやすいBearcatというブランドが1993年から復活したのです。ハーフコックで弾込めのゲートを開けば、ハンマーが落ちません。今時のは6発全部入れられるので便利ですよ」
「へぇ。南部に行くと小さなメーカーが多いでしょう? ごちゃごちゃしていて、見落としていました。ですから開拓時代のハンドガンやライフルは、もう少し大きくなってからと考えていました」
「まぁ、それも正解ですね。あなたの年齢ですと、ややこしいのは避けたくもなるのは当然です。私はColt S.A.A.やRemington Model 1858にModel 1875などをコレクションしていますが、第二次世界大戦中のWalther P-38にPPK、第一次世界大戦中のParabellumpistole(P-08)やMauser C96、Mauser HSc、FN Model 1911なども持っています。年齢差は歳の差だけでなく、取り巻く時代や環境でも変わりますよね」
「ああ、そうか……。私と同じ年頃でも、お祖父様が私の場合より少しお若いのもありそうですね?」
「そうですね。そういうのもあります」
「その、Model 1858はコンバージョン?」
「いえ。黒色火薬のままですよ。撃てば指が真っ黒になりますね」
「ああ、やっぱり。映画の銃撃戦なんてどうやって?」
「タバコの紙を利用して、弾と火薬をセットしておくのです。それをシリンダーに詰めて、銃身下のレバーでギュッと押して、雷管を付けてズドンです。面倒くさいですけどね。薬莢式のS.A.A.でも排莢が面倒くさいです」
「やっぱり、装填革命は嘘ですか?」
「面白い言葉を知っていますね? ええ、あれは映画やゲームの嘘ですよ。速撃ちは本当にありますけれど。右手で銃を持ち、左手の親指、中指、小指でリズムを取って、バババッバババッと撃てると、古いマカロニ・ウェスタンより速く撃てます。ですがホルスターから抜く速さやクルクル回すガン・アクションは、慣れと言うより、最早別の競技ですね。やはり私は標的に中てる正確さを競う方が向いていますし好きです」
「私もです。それでエル姉さま。今日撃たれていたのは5.56×45mm NATOですか?」
「ええ、ライフル弾をバラ撒くならこちらですから。身体強化してやっとこさなのが哀しいですね」
「何を仰って。風の魔術で弾道を確保。全弾、あの英霊の目に中てられたでしょう。あの魔術は他にも工夫がありますよね? それは何ですか?」
「フフ……昨夜、9と3/4プラットホームを見に行きましてね」
「映画の? それが?」
「あのキングス・クロス駅は女王ブーディカの最後の戦場の上に建っています。そこにセイバーを連れて行き、こちらが正義なのだと加護を戴きに詣でたのですよ」
「ああ、なるほど。同じケルトの王ですものね」
「そうです」
この地元の神様や英霊に、ご挨拶するという発想は日本人ならわかると思う。先輩は国内旅行なら旅先の神社にお参りする事を欠かさない人なのだ。
勿論これだけで決まる訳ではない。けれど神秘を通す上では欠かせない。地道だが、こういう積み重ねが大切なのだ。
「では、あの戦車の英霊は何者ですか?」
「わからないです。征服王に仕えた魔術師か何かだとしか」
「そうでしたか……。やはり征服王クラスですと大聖杯が無ければ無理ですか?」
「大聖杯に似せた霊脈調整をして、必要分の魔力と触媒があればとりあえずは可能でしょう。問題は座に繋がる術式ですね。カードが手に入らなかったので焦っていたみたいです」
そう、それがスラーで襲われた答えだろう。アトラスの息が掛かった者やハートレス達と、カードそのものを封印したい法政科辺りが結託したのだと考えられる。
民主主義派とは繋がりがあったのかどうかは不明だが、この段階で私は切れていたと思う。そして前日の夜、私とセイバーさんを誘い出したのは幻獣でなくキメラだった。
なので秘儀裁示局など、アルビオンに関わりある者は関係ないだろうと先輩は話していた。
「では、答えましょう。あなたに器がないと言った理由は、あなたの生活態度にある」
「せ、生活態度?」
「そうです。勇猛果敢で武具の取り扱いが上手くとも、手入れや整理整頓が儘ならぬ者に管理ができますか?」
「そんなの、人に任せりゃ良いじゃねぇか」
「少しは考えなさい。キャメロットには、数もまともに数えられないアホウしか居なかったのですよ? 全ての在庫は私やアグラヴェインがいつも数え直していたのです。これは武具だけではありません。食料も馬も、城の補修用工具や資材に軍資金まで。全部私が最終的に帳簿を付け直していたのです。ましてガウェインは料理下手で材料を無駄にするだけ、アグラヴェインは真面目でしたが、ケチが祟って食材を腐らせますし……ハッキリ言います。モルガンの子供はガレス以外は馬鹿ばかりです。あなたにも王気はあるでしょう。私の子なのですから。ですがモルガンの教育が悪い。数の数え方くらい覚えなさい。現代の小学生は10歳未満で掛け算や割り算、分数の計算まで覚えるのですよ」
「うわぁ~~! マジか……!?」
「マジもマジの話です。フッ……王は人の心がわからない? あなた方の尻拭いでこちらは毎晩徹夜です。眠くて一々細かい事を聞いていられません。そこに輪を掛けてメシは不味いわ、道理を説いても理解しないわ。人様に心をどうこう言う前に、一般的な教養を身に着けなさい! バカ者どもが!」
「は、はい! ごめんなさい!」
「そんな状態ですと夫婦円満とは行きません。そうなればランスロット卿みたいな者も出て来る訳です」
「そうだ! アイツは許せないよな?!」
「王位を簒奪しようとした者が間男を非難できる立場ですか? ほら、グラスが空ですよ。もっと呑みなさい」
「おお、王から直々の下賜。ありがたき幸せ。けど、オレもそこまでバカじゃないぞ。こうやって胸の裡を話してくれてたなら……」
「そうですね。キャメロットでは全員が言葉足らずでした。私も甘えていたのですよ。モードレッド、あなたならわかってくれると……」
「父上……オレは……」
義妹の口の上手さに鍛えられ、アルトリアの体験談で学んだセイバーはひと味もふた味も違う。モードレッドの話しを、冷静に受け止めた後からの畳み掛け方が凄まじい。
感情論でなく、実務の、それも数の問題を突き付けたのだ。一騎士なら武勇で大目に見て貰えても、王となればそうは行かない。モードレッドは今、器でなく真に資格があるかどうかを問われているのだ。
武具の数が合わない、ストックの品々の数が合わない、穀物にカビを生やす、貴重な肉や魚を腐らせる。アルトリア曰く、これらは全部事実だそうだ。そしてセイバーも同じでしたと証言している。
この原因は全部、人に任せた結果だ。しかし任せねば組織は回らないし、国家は立ち行かない。結局、当時のブリテンは人材不足だったのだ。魏蜀呉の蜀みたいなものだろう。
そしてそこに孔明は居らず、ワケワカメなマーリンとか言う魔術師と、脳~足り~んな騎士ばかり。三国志を読んで、これが本当にブリテンより300年も昔の話なのかと戦慄したとまでアルトリアは話していた。
戦場でも、追い払った敵のカマドを数えたりしない。カマドをそっちのけで残り物を漁る。煙が上がれば火を着けたばかりなのだから、しばらく待って襲えば食料にありつけるし、腰を落ち着けた相手なら楽勝だろうと思うのは早計だ。
煙を見れば、メシだと誰かが叫び一斉に殺到するのだそうだ。軍規も統制もあったものでは無い。昔のブリテンは本当に野蛮だったのだ。そんな中で追い打ちを掛ける、不味い飯……。
未熟な頃の私の料理を、手が込んでいて美味だと言ってくれたセイバー……。
コクコクと噛み締め、幸せそうに味を確認していたセイバー……。
私は君を救えなかった。今ならもっと上手い話し方もできるだろうに……。
おっと、随分と神妙になってしまったな。しかし、モードレッドか──彼女にも美味いものを食わせてやりたいものだ。
「アーチャー、あなたも呑みなさい」
「ああ、すまん。頂こう」
一方、気まずい気持ちで着いて来ていた褐色のエルヴァのセイバーは、もう一人の自分の弁に驚いた。こんな風に話せば良かったのかと目からウロコだった。これは今夜中に和解するだろう。どちらの子なのかわからないので、実に複雑な心境だった。
10歳の先輩はオネムという事でマアエモさんと部屋に戻った。そこで私達は先程の戦いと次の動きを協議した。
「あの子も聞いていたけど、さっきのセイバー達が戦った相手は何なの? 正体という意味でなく」
「ほぼ間違いなくハートレスとアトラスが喚んだ英霊でしょう」
「先輩、誰かに覗かれていましたか? 私、全然感じなかったのですが」
「あの子の結界が完璧過ぎて、私もサッパリです。凜より上手いでしょう?」
「小さくても先輩ですね。あれじゃ誰も気付かないし、監視も不可能です。ハートレスもロストしたままでしょうね」
あの結界は凄かった。堅牢さは固有結界と変わらないだろう。きっとあの謎の英霊と召喚者のパスは一時的に切られていたと思う。小さな先輩もマジックドレインはできると思うので、自身の英霊の希望に沿って舞台だけを用意したのだろう。
「ね? お祖父様がこちらに寄越したのもわかります。かなり迷われていますね」
「はい。経済活動は二の次で、魔術師として大成して欲しいようです。私が親でも同じ事を期待しますね」
「凄いとは思ったけれど、そこまで?」
「ええ。あの子なら、何れ何らかの魔法に届くでしょう。下手に『ラインの黄金』を持たせない方が良いとお祖父様はお考えなのだと思いますよ」
これは私もそう感じた。ただそれだけに、バランスが悪いとも思った。
魔術師にと経済活動は切っても切れない関係だ。ノインのお祖父様が経済支援をなさり、お手元で育て続けるなら話は別だが。先輩方も私も、きっとそうなのだろうと考えるに至った。
「先輩、真面目な話。イリヤ会長の初潮はいつでした?」
「中等部に上がってからです。ですからリミットは後2年でしょう」
「ああ、意味がわかった。始まる前に移植しないと駄目なんだ?」
「そういう事です。最終的に本人が納得の上で決めたのなら反対する理由はありません。けれど、もっと視野を広げてあげないと勿体無いと思います」
「根源に近い存在か。確かにね。エルヴァ達もそうでしょう?」
「そういうのを得るのは晩年でも良いと考えるのが私です。普段の生活に必要ありませんから」
「身も蓋も無いわね」
「裏返せば、あの子と逢えた第二魔法以外、先輩は興味がないんですよ」
「それって有益かどうかで見てるんでしょう? それだと魔術使いになってしまうんじゃ?」
「魔法を使うなら魔法使いですよ?」
「あ、そうだ……。でも、あれ?」
魔術使い→魔術師なら、魔法使いの上は何ですか?
正解は魔導師ですよ、凛さん。そして私は、魔法使いでなく魔導師見習いなんですよ。
内なる根源から太乙には届きましたが、それは勝手口から入ったようなものです。堂々と玄関から、世界根源に至らねば駄目なんですよ。今の私も、その世界根源を目指しています。
ちなみに概ねの魔法は勝手口から入っても有効ですが、第五魔法は勝手口から入ると二度と玄関から入れなくなるそうです。しかも玄関から入らないと、第五魔法は使えないそうですよ。
蒼崎橙子さんは本当に天才ですよね。時計塔に渡る前の高校生時代に勝手口を見付けて入ってしまい、それで後継者から外されたのですから。
第五魔法は正面玄関の存在と入り方が継承されるのがウリなので、先代は口外もできず、それが娘二人の争いに繋がったそうです。この事を橙子さんに教えたのは師匠でした。
『少しは頭を使いなさい。それとも頭まで傷付いてるの?』
かなり辛辣。けれど師匠は橙子さんを天才だと認めています。若い頃は目標とする人で憧れていたとも。だから余計にキツくあたっちゃうんですね。
仮にケンカになってもシロウさんが居るのも強いです。ですから師匠の存在を知っている橙子さんなら、どんなに険悪になっても絶対にケンカを避けます。
だって、宝石剣で無限にシロウさんへ魔力を送れるんですから。そしてシロウさんの魔術回路は長時間の魔術行使にも悲鳴を上げません。
本人が弱くとも使い魔が強力なら問題ないとは橙子さんの言葉ですが、あの固有結界に取り込まれたら、泣いても喚いても出れないですもんね。
ず~っと自分を狙い続ける剣が地平線の彼方まで……。私も小学生の頃に放り込まれて……。今もトラウマです。
「ねぇ、私とあなたがパスを繋げば根源とは言わないけれど、何か得られる?」
気付いちゃったか、究極のカンニング方法を。はしたないけれど殺意がメラメラと湧く。我慢、我慢……。
「ちょっ!? 何で睨むの? 怖いんですけど!?」
「人様の根源を横取りすれば抑止が動きます。注意して下さい」
「ああ……。そ、それはそうよね……」
しかし長い一日だった。
「それでどうです?」
「トランベリオ辺りがアトラスと話しを付けて終わりですか?」
「そうですね。執行者を含めた追手が全員行方不明となれば、法政科は手を引くでしょうし。ハートレスも大人しくなるでしょう」
「後は大師父に会うだけですね」
何か忘れているような気もしますが、ほぼ終わりかな?