プリズマ☆エルヴァ 第一部 邂逅篇   作:炭団

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30.5、待ちわびる人々

 冬木の駅に着き、それぞれが別れて行く。楽しかった。イリヤ達はどうしているだろう。

 ルヴィアさんと駅前のターミナルに出れば、ウチのクルマが待っていた。帰りはタクシーで帰るって言ったのになぁ。

 

「シェロ?」

「ああ、親父だな……」

「違いますわよ。良く見て下さいまし。セラさんですわよ」

「え? あ、本当だ」

 

 荷物を載せて出発したら、セラが話してくれた。親父の仕事が急に入ってお袋と急遽出て行った事、そして今回は会社から近い簡単な仕事だったので、イリヤ達が着いて行った事を。

 

「イリヤ達まで……。今までそんな事は無かったのに」

「ですが、ご両親の働く姿を見せるには良い機会かも知れません」

「そうだな。俺も見たかったけど仕方ないよな。それでエルヴァさんは?」

「旦那様や奥様とあちらで合流したそうです。それで一緒に帰るそうですよ」

「ああ……イリヤとクロエが引き止めたんだな? 学校があるのに」

「それはイリヤさんもクロエさんも同じですよ。けれどイリヤさんには初めての海外旅行ですし、クロエさんを交えた家族旅行でもあります。少し寂しい気もするでしょうけれど、こういうのはエルヴァさんみたいな女の子に任せた方が」

「そうだよな。クロエもその方が安心だろうし。何より俺だと英語もドイツ語も話せないもんな」

 

 そして家の前でルヴィアさんと別れた。

 

「ただいま戻りましたわ」

「お帰りなさいませ、お嬢様。楽しまれましたかな?」

「ええ、とても。それで?」

「はい。倫敦からメールが何通も届いております。結果だけ先にお知らせしますと無事解決致しました」

「ホゥ~~。良かった……」

「それで、どなたもお怪我なく無事なのですが……」

「何ですの?」

「あちらでイリヤ様やクロエ様の妹様と会ったらしく。現在はスイスですな」

「それでだったのですか? つまりその子はこの世界のエルヴァさん?」

「左様です」

「気にはなりますが、そちらは家族の事。まずはメールや報告書を」

「お部屋の机に置いてあります。それより先に美遊様へ。待ちわびておいででしたぞ」

「そうでしたわね。私とした事が」

 

 そして私はミユの部屋へ参りましたのよ。

 

「ミユ、戻りましたわ」

「ルヴィアさん! おかえりなさい!」

「ええ、ただいま。寂しい思いをさせましたわね」

「ルヴィアさん、イリヤ達が……」

「長年あちらは家族旅行が無かったそうですわね。また、小父様のお仕事も間近で見ていなかったそうですわ。今回の旅はそれを見学できる家族旅行と伺っています。それが急遽決まっただけですわよ」

「そうですね」

「ええ。あなたへのお土産は忘れていませんわよ。はい」

 

 それはネズミーで買い求めたステーショナリーでした。

 思ったより充実していましたので、メカニカルペンシル、単色ボールペン、多色ボールペン、鉛筆、色鉛筆、付箋、メモ、消しゴム、リングノート、ノート等々の学用品を数種類ずつ組み合わせましたの。

 学校に持って行ってはいけないものもあるかも知れませんが、そこは自分で判断なさい。勉強、頑張って下さいね。

 

 そして自室に戻りますと、机の上にはメールや報告書の山。

 制服のリボンを解いて首元を緩めてから、最終報告の順に目を通しましたら、見事宝石翁と直談判され今回の事件を一任するとのお言葉を翁やロード達から頂いたとか。さすがですわね。

 あら。父からのメールもありますわね。内容は、『なんとしてもあの者達の友人となり、エーデルフェルトへ』。

 お父様、先方は元の世界では当家より名門ですわよ。それにもう友人です。私はあの方達とともに歩むと決めたのです。

 

「ルヴィア様、お茶をお持ちしました」

「ありがとうございます」

「それでルヴィア様、これはお耳に入れておくべきと思いますので……」

「何ですの?」

「凛様が、どうやら凜様の弟子になられたそうです」

「魔法使いの彼女の?」

「左様です」

 

 抜け駆け? いいえ、千載一遇のチャンスがあったのでしょうね。そこは察しますわ。ですがミス・トオサカ。戻りましたら問い詰めさせて頂きますわよ? 

 

 

 空港にはオレとメイド達が運転した。

 1、オレ、父上、父上、アーチャー。

 2、生意気そうなメイド、白いエルヴァ、黒いエルヴァ、ランスロット。

 3、マアエモ、魔法使いの凜、紛らわしい凛、両親。

 4、優しそうなメイド、ガキども四人にマスター。

 

 ガキどもと両親のクルマは、前と同じででかい。

 オレ達とエルヴァ達のクルマは普通の大きさだ。まぁ、この方が運転しやすいけどな。でもよ。何で父上二人がオレのクルマなんだ? 特に横の父上がヤバい。空中で手と手を重ねている。それ、見えねぇけど聖剣だろ? 

 

「貴公は現代の乗り物にも詳しく、乗りこなせないものなど何一つ無いとか。存分に拝見させて頂きましょう」

 

 あの魔法使いか! つまんねぇ事を……。

 

「それはそうと。マスター次第だと思いますが、夏になり学校が休める時に日本に来れたら良いですね」

 

 そうだよな。

 

「けど、あの両親は頑張ってるよ。チビども同士で話させていたのも良かった」

 

 今朝なんてあの女、何度料理を失敗したんだ? それでも諦めず……しつこい女だ。お陰で腹がパンパンだ。

 最後までできなかったのは残念だったが、後の方のは形が悪いだけで美味かった。あれならいずれできるようになるはずだ。

 

「ですね。我がマスターも過去に色々抱えていました。その時、傍に居られたならと今も思います。あなたはそこに居る訳です。尽力を忘れず」

「ああ。父上、あいつは何を悩んでいたんだ?」

「両親の存在を知らず、薄暗い地下の工房で巨大な容器に入って育った。周りには似たような仲間が居て、時々連れ出され、戻れば病を発する者、死にゆく者も居た」

「それは……」

「私はあなたがモルガンに拠って、どのように生み出されたのかは知らない。マスターのエルはとても寝相が悪い。それは容器の中で事故があり、酸素が送られなくなったからだそうです。無意識で容器を蹴破ろうとするのですね」

「オレのマスターもそうなのか?」

「おそらくは。だから円卓の中からあなたが来た。いや、あなたでなければあの子を救えない。あの子はあの子なりに両親を思い、姉妹を思い、マアエモやノイント老を大切に考えている。しかしヒトである要素が魔術師殺しと呼ばれる男の血だった。確かに彼は私の知る彼とは違い、子供や妻の事を考える良き父親になっていた。けれどエルヴァは、まだ10歳でしょう? 我がマスターのように割り切れるには時間が必要だ」

「そうだな、潔癖そうだもんな」

「そうです。戦争はあれど現代は短期の局地戦がほとんどで、何年も殺し殺されるような物騒な場所は滅多にありません。特にこの国は平和な国として有名です」

「みたいだな。外の景色が長閑だ」

「夢のような景色でしょう?」

「うん?」

「これらが今も容器の中で見ている夢なのだとしたら?」

「あいつは現実と夢の区別が付かないのか?」

「付かないのでは無く、そうも考えられると直ぐ様考えられるほど、頭が良いのです。それとアインツベルンに於けるホムンクルスの血を引く者は、性差認識や自己確立が弱いらしいです。それらが相まって、自分は生きているのか? 人工的な脳髄か何かが見ている夢なのか? と、考えてしまうようです。ましてや神秘に携わる家に産まれ、我々のような稀人を召喚するような才能がある」

「確かに……二重三重に現実感が無いよな。けど!」

「そう、けれどです。私はあなたこそがあの子に相応しいと思います」

「わかったぜ、父上。オレはあいつを護る。そして一人前にしてみせる」

「頼みましたよ、モードレッド」

「私からもお願いします」

 

 父上二人に頭を下げられた……。生前には考えられなかった事だ。

 そしてアーチャーがミラー越しに頷いているのが見えた。そうかよ。お前も知ってたのか。ならオレも気張るだけだ。

 お袋さんのオムライスを喰いに行こうぜ、マスター。

 

「でもよ。日本に行けても、こっちの父上は元の世界に帰ってるんだよな?」

「う~む……そこですよね。私もあなたや彼女と再び逢いたい。一人3千万か……」

「何だそれ?」

「魔法使いのリンへ支払う対価ですよ。受肉してなければ霊体化できますので、エル一人分で済みます。しかし受肉すると運賃が二人分となる。正直痛い……」

「ちっこいな父上? それくらいエルヴァかそっちのマスターが持つだろ?」

「大金持ちでもこの手の計算は必要ですよ。それに仕事ならまだしも遊びでしょう?」

「遊びだったら出してくれねぇのか?」

「正直、厳しいですね」

「第8のカードは英雄王と聞いています。あいつの財宝を奪いましょう」

「それをモードレッドに言わせようとしていましたのに。仮にも私やあなたは騎士王ですよ?」

「ああ! オレは反逆の騎士だよッ! 父上、思ったより汚いな?」

「それが王という立場です。私個人でなく。わかりますか?」

 

 遠回しに何だってんだ? 

 

「エルヴァもそうだってのか?」

「企業を率いるとは一国の王も同然です。ですから表の顔も裏の顔もあって当然です。しかしあなたのエルヴァがどうなるかは私にもわかりません。ですが……」

「ああ、子供のままじゃいられないよな。そっかそういうのも見てやらなきゃな」

「そうです。あなたは単なる従者では無い。あなたは姉であり、彼女を導く年長者の一人なのです。そこを自覚して下さい」

 

 ノイントの爺にマアエモ。彼奴等は確かに良い奴だ。そこにオレが加わる訳か。

 今朝、手渡された受肉の薬。一気飲みしてやったが、これは責任重大だな。

 

 

 私と師匠は後席に座っているのだけど、その真ん前にイリヤのご両親が座っている。何か撃たれそうで怖い。

 運転はエルヴァの乳母のマアエモさんだ。操縦がやたら上手い。静かでゆったりして、ブレーキでつんのめる事もない。私が思った通りの、パーフェクトな人だ。

 リムジンって言うんだっけ? 間延びしたダックスフンドみたいなクルマに私達は乗っている。

 それが2台だ。来しなはダックスフンドが3台だったのに、帰りはその間延びした2台を含む4台だった。

 

「乗り心地良いわね、このクルマ」

「そりゃそうですよ。これSクラスですよ?」

「それも去年出たS65L AMGだ。しかも全部特注のロング。さすがはノイント老だね」

 

 小父様、正確には後席が対面で六人乗りとなった、W220のプルマン・バージョンです。

 それをAMGでS65Lと同じ仕様に改造してあるんです。S65L AMGは先輩方やセイバーさん達が乗っている方ですよ。

 

「ですがお祖父様はマイバッハの62を数台お持ちですよね? この人数ならそちらの方が」

「そっちでもかい? そう、けれどそれは社用だね。このSは来賓の送迎用らしい。来た時と違うクルマなのは、子供達同士が仲良くなれたからだろうね。ありがたい事だ」

「本当に……良かった」

「アイリ……」

 

 本当に良かった。小父様も小母様も幸せそうだ。先はまだまだあるけれど、取り敢えず道は見えたと言えるだろう。

 

「ね、凜さん?」

「はい?」

「エルヴァちゃんは18歳になったら免許を取るのよね?」

「クルマという意味なら取ると思いますよ。私の知る先輩と同じなら、クルマは好きなはずですから」

「でしょうね。あの子ならどういうクルマが似合うかしら?」

「そうですねぇ。その……プレゼントを?」

「フフ……」

 

 小母様と師匠の会話に小父様がビクッとした。

 

「何かないかしら? 向こうのエルヴァちゃんが好きなのとか」

「情報ですね。それなら、先輩の社用車がSL55 AMGとCL65 AMGです。SLは65が出れば買い換えると話されていましたけれど」

「待って、SL55 AMGってあの子はそんなのに? あちらのお母様がマクラーレンなんでしょう?」

「ええ!? マクラーレンって欧州で出たばかりじゃないか。それを日本で乗ってるの? 向こうのアイリは?」

 

 何かとんでもない事らしい。

 

「日本円で幾らくらいだろうか?」

「先輩が6千万近いと話していました。結婚20周年記念の前祝いで小父様がプレゼントされて」

「まぁ!」

「勘弁してくれ……。けど、結婚して20年か……」

 

 師匠は凶悪な情報を流すなぁ。これは勘弁して欲しいだろう。

 小母様にしても、女の子向けの可愛いのを想定していたんだろうな。

 

「あちらのお父様と比べちゃキリツグが可哀想ね。それより、エルヴァちゃんはそんな贅沢を?」

「贅沢って事はないと思いますよ。先輩も会社創立10周年記念パーティーを去年本部で開かれて。その時にお祖父様や幹部の人達から来年免許を取るなら、そろそろ良いクルマに乗れと薦められたからだそうです」

「ああ、対面的な意味もあったのね。じゃ、今までは?」

「今まではパサートB5やシュコダ・スペルブの二代目などですね」

「それなら普通のセダンだね?」

「はい。その前からVWが多くて。大衆車とか働くクルマとか、そういうワードが好きなんですよ。7歳からずっと、バンや改造したダブルキャビンのトラックの後席でユーラシア大陸を営業周りでしたから」

「ロシアと取り引きがあると話していたね。とんでもないな……。それは会社の人の運転でかな?」

「そうです。5年生頃からはアーチャーさんですけれど」

 

 って事は、アーチャーを7~8年前には召喚してたって事よね? つまり、10歳頃じゃない。

 やっぱエルヴァはエルヴァね。

 

「そうか、彼が……」

「じゃ、自分で運転するクルマは何が良いって話していたか知ってる?」

「ええ。もう手に入れられていますよ」

「え? 何かしら?」

「ラン○ルギーニ・ガヤルドですね」

「まぁ……」

「す、凄いねぇ……」

 

 やっぱ桁外れだ。ラン○ルギーニ……なんつうのを持ってるんだ? 

 

「あ、でもそれはセイバーさんに差し上げて……」

「どうして?」

「元々はドイツで乗るために買われたそうですが、間違って日本に届いたからだそうです。日本で乗るクルマは他にご注文済みなんですよ」

「ああ……なるほど。それは?」

「ええと。先程のマクラーレンっぽいSLKです。3500ccの6速の変速機で。何かエンジンの改造を依頼していて、それでまだ日本に届いていないと話されていました」

「へぇ~。あ、まさかお姉さんも?」

「イリヤ会長でしょう? あの方のはSLK55 AMGとCLK55 AMGの改造車でDTM仕様の2台ですね」

「まぁ……」

「何でそんなに良いのにばっかり……」

「と言われましても、会長も先輩もご自分で買われていますから」

 

 思わず私も参戦した。

 

「そうなんだ? じゃ、セイバーだけが貰いっぱなし?」

「それが心苦しいからとも言えませんが、日本で先輩が経営するビルの中のテナントで働いていますよ」

「騎士王が働く……それもなんとも不思議ね?」

「そうですね。けれど働かざるもの喰うべからずと先輩が。それに税金が掛からない程度のアルバイトでも良いんですよ。そこからコツコツと幾ばくかを食費ですと収めてくれるのなら。そうすれば5倍にも10倍にもして食べさせてあげるからと」

 

 昔の人だしね。こういう話し方の積み重ねが大事なんだわ。けれど高級外車を買える高校生か……呆れるわね。

 

「なんとも言えない関係だなぁ」

「けれどキリツグ。あれだけ信用を得るって、そういう事なのよ、きっと」

「そうだね。あの子も大食いだったなぁ」

「小父様はモードレッドさんとは話せました?」

「ホンの少しね。何だろうね? けど素直に言われたよ。気にはなるけど覚えていないって。今回のエルメロイⅡ先生が味わう気分を僕が知るとは思いもよらなかったな」

「けれど、イリヤちゃんの事はエルヴァちゃんとは違う意味で気になるそうです。何かありましたか?」

「うん。赤ん坊のイリヤを抱いてくれた事があってね。その時に子供を作れば父上も認めてくれるのかって」

「きっとそれですよ」

「何が?」

「父王と和解したいモードレッドが来た理由。あのモードレッドさんは小父様のサーヴァントで間違いありません」

「今度はもう一人の娘を護りに来たって? 都合が良すぎる解釈ね?」

「凛さん。こういうのはポジティブに考える方が良い方向に行くんですよ」

「そうだね。そうかも知れない」

「私もそう思うわ」

「あらら……味方なしか。けど、実は私もそう思う。誰の言葉? やっぱりエルヴァ?」

「いいえ。イリヤスフィール生徒会長の言葉です」

「あちらのイリヤの……」

「エルヴァちゃんのお姉さんなのよね? 生徒会長とは聞いていたけど、ウチのイリヤちゃんとは違い過ぎない?」

「昔は天真爛漫な人でしたよ。けれど中2の終わり頃から一皮剥けたと言うか、大人になったと言うか。ウチの学園は2学期制なんですね。ですから後期で生徒会長が交代です。あの人の後は嫌だなぁ……」

「どうしてあなたがそこまで言うの?」

「私が副会長だからですよ」

 

 驚いた。彼女が生徒会役員だったとは。

 

「師匠は副会長だったんだ?!」

「そうです。1年生の後期からです。ちなみに柳洞君は書記、会計は別の人ですよ」

「そうなんだ?」

「はい。それも、会長指名の引き抜きです。最初は中等部で。あの時もイリヤ先輩が会長で、私が翌年の会長でした」

「中等部でも? どうして引き抜き?」

「魔術師が学校に通うのは難しい面が多いからですよ。生徒会に入れば、普通のクラブより詮索が減るでしょう? それに言い訳を作りやすいと言うか」

 

 なるほど。これは倫敦に行く前、柳洞君をルヴィアとともに手伝って感じた事だ。それをあちらから誘ってくれたのね。

 

「まさかと思うけど、そのイリヤ……さんは小学部でも会長とか?」

 

 小母様は呼び方で迷ってらした。

 

「あちらは初等部と言いますが、その時の児童会長はエルヴァ先輩でした」

「え~!」

「あら」

「会社を持っている子供が児童会長?」

「それで中等部では立候補しなかったんですよ。思ったよりつまらなかったとかで」

「だろうねぇ。けれど二人とも、そういう運営に携わるのは好きなんだね?」

「そうですね。それは絶対にあります」

 

 お姉さんの方のイリヤさんもそういう人なのか。

 

「その……あちらのイリヤちゃん? イリヤさん? は、怖い人なのかしら?」

「そんな事はありませんよ。確かに怒らせると怖いですが、普段は優しい人です。何より人の失敗をあげつらったりしませんし、何故失敗したかを本人が自覚して反省を活かせるまで待って下さる人です。しかも遅れた分の仕事は一緒になって……。私、心の底から尊敬しています」

「魔法使いにそこまで言わせる娘か。エルヴァ君の影響なのかな?」

「それは仰ってますよ。エルに逢えたから私は変われたと。聖杯じゃない違う生き方を見付けられたと」

「そう……それを自分で見付けられたのね……」

「……親が与えたのでなく……自分で見付けられた……」

 

 私にはイマイチわからない話だけれど、ご両親には意味のある話だったみたい。

 

 

 ドライバー以外子供だけ。最初は良いなと思ったけれど、走り出してすぐに問題が発生した。

 

「空港までエルヴァが見送りに来てくれるのは嬉しいけれど、誰も通訳できないって何?」

 

 そう。パパかママかどっちかのお姉ちゃんが居ないと、誰もエルヴァの言葉がわからないのだった。

 

「うん、うん。もっとお話したいよね? 私もそうだよ? けど私、私、あなたの話している事が何一つわからないの。ごめん、バカなお姉ちゃん達で……」

「背中をさすってくれてるって事はある程度わかってるんじゃ?」

「どうかなぁ。ジェスチャーで、ただなんとなくそうなのかなって察してくれているだけだと思うわね」

 

 そこで最凶のステッキが。我が妹の方のルビーだ。

 

『イリヤさ~ん』

「で、出ちゃダメ!」

『いえ、通訳のお手伝いですよ』

「え? ルビー、できるの?」

『カレイドのチカラを舐めないで下さい。転身すればドイツ語のわかるイリヤさんになれます』

 

 めっちゃ嘘っぽい。

 

「嘘だぁ~」

「絶対に騙そうとしてるよね?」

「今更ルビーを信用しろって、ありえないわ」

『失礼ですね。転身とは並行世界に存在するかも知れない、契約者の可能性をダウンロードして行うんですよ? ドイツ語と日本語のわかるイリヤさんなんて、座標も明確な元の世界に三人もいらっしゃいます』

「あ、お姉ちゃん達……」

『そうです。その三人の内の誰かの能力をダウンロードすれば良いだけですよ?』

「そうだ」

「言われてみれば、そうよね」

『でしょう? ですからイリヤさん、転身しましょう?』

「ルビー、ごめん。私、この子の前だけでは綺麗なままでいたいの」

『どういう意味ですか!』

『まぁまぁ。それですと魔力を使い過ぎです。もっと簡単な方法がありますよ』

 

 そこで飛び出る、最狂で最恐なもう一本。

 

「ちょっ、もう一本のルビーが!」

「ああ! 危ない! エルヴァ、握っちゃダメ!」

 

 エルヴァが握ってしまった……最悪……。

 

『イリヤさん、お忘れですか? 私はエルヴァさんと仮契約をしていたんですよ?』

「そうだ、こっちのルビーは……」

『はい、仮契約完了! さ、エルヴァさん』

 

 そしておずおずとエルヴァが。

 

「あ……。皆さん、何か話してみて下さい」

「うっわ、日本語だ」

 

 そう、日本語を話し始めたのだ。こんな機能がルビーにあるとは。

 それに通訳するより、エルヴァが日本語を話す方が早い。

 

「私の話しているこれは日本語ですか?」

「そう、そうだよ。あれ? でもどうして服が変わらないの?」

『そこまでやれば私がエルヴァさんに折られます。もう空港に着きますよ。どんどん話しましょう!』

「うん」

「ありがとう。魔法のステッキさん」

 

 エルヴァはとても大切なもののようにルビーを撫でた。昔のお姉ちゃんってこんな風に素直だったのかな? 

 

『可愛い子ですねぇ~。私、スイスに残って良いですか……?』

 

 ルビーの感想は皆んなの思いと同じだった。だから空港でお別れの時、皆んなわんわん泣いた。

 

「クロ、夏休みになったら、こっちに来ようよ」

「凜が子供料金を適用してくれるかどうかよね。それと遊びならそれが丸々私らの借金よ?」

 

 現実は厳しいのだった。




次回から第七章で日常回です。
第八章は美遊世界。第九章は神秘を横取りしようとする者達との戦い。
そして第十章でフィナーレです。
以上の第一部は完全に書き上げていますので来週半ばまでにアップします。
第二部は並行世界と夏休みの物語です。
問題は第一章の第五次聖杯戦争篇がかなりグロいのでどうしたものかと悩んでいます。
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