プリズマ☆エルヴァ 第一部 邂逅篇   作:炭団

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09、私達と彼と彼女達

翌朝、登校するためにクルマに乗り込もうとしたしたら、ルヴィアがボ~ッと門の向かいを見ていた。

 

「あの家かぁ。全然気付かなかったわね?」

「シェロ……」

「は?」

「ミス・トオサカ。シェロのファミリーネームは何ですの?」

「え、衛宮君? 衛宮……Emiya……Emia…? そういう事なの!? 綴りが違うじゃないの?! タイプミス?」

「いえ。エミヤが発音しづらくエミアに変化したのではありませんこと?」

「ああ……」

 

確かに普通はエミヤでなくエィミアかエミィアとなる。或いは『y』を飛ばしちゃったか。それがエミアになったんだ。

そうなると最初にエミヤの名を知った人からオーギュストさんまで、偶発的に伝言ゲームが続いていた可能性が考えられる。

だけど彼からは魔力を何も感じないし、朴訥なところはあるけれど、自分をしっかり持った芯のある、言ってみれば普通の男の子だ。

魔術師とはとても考えられない。では、何がルヴィアの目に止まったのだ?

 

「たった今、朝練があるとかで挨拶を交わした後に自転車で。ハァ……ご近所だったとは。これは運命ですわね」

「何がよ?!」

「それで私の運命の人、シェロに尋ねましたのよ。その家とどういう関係なのかと」

「んと。視力強化。ああ! 表札がアインツベルン? それでか……」

 

表札が衛宮でなくアインツベルンなんだ。それもアルファベットでなくカタカナ。

これだとオーギュストさんや、フィンランドから来ているメイドの人達にはわからないかも知れない。こういう事の積み重ねだろう。見事だ。本当に盲点だ。

しかも後でわかった事だが、ルヴィアの家も町内会に会費を払っていたりする。これはゴミ出しの関係だけでなく、世間と波風を立てないためでもあった。

現に私だって町会費は支払っている。そして当然回覧板も回って来るのだ。

そしてそれはルヴィアの家も同じだ。だけど、向いの判子は『亜院津辺流』だった。ンが無いでしょ!?

いやそうではなく、これまたそんなおかしな当て字はオーギュストさんの目には止まらないのだった。本当の本当に盲点だ。

大掛かりな術は要らない。自然と出来上がる結界こそが最上級とはエルメロイⅡ先生の言葉だったか。

 

「ええ。そうしますと養子なのだと爽やかな笑顔で。義妹がイリヤスフィールなのは間違いなく、エルヴァはそのイリヤスフィールの従姉妹で間違いないそうですわ。どうも彼は何も知らない様子。ここも気を付けませんとね」

「なるほど、養子……だからか」

「ええ。シェロを魔道には近づけてはなりませんわ。明かすのは我が家に婿に入ってからで良いでしょう」

「さり気に凄い事を言うなよ?!」

 

ホント、ストレートな奴だ。

魔道に限らず神秘の一端を知る者は、己の異常さを自覚している。なので自ずと実社会での指標となる、人畜無害な普通の人を傍に置きたがる。ルヴィアはそういう視点からも衛宮君を視ているのだろう。

 

「で、K.EmiaのKは?」

「お父様の名はケリィトゥグとか何とか。発音の難しいお名前でしたわね」

「それ、海外ではケリィで通ってる?」

「かも知れませんわね。日本人とシェロは話していましたわ」

「日本人!?」

 

情報の結界……か。もう、声も出ない。

そういえば美遊の姿が見えない。どうしたのだろう?

 

「ミユにはこの後、イリヤスフィールを誘って登校しなさいと伝えてありますわ。先方へも電話で許可を得ています」

 

早いな、コイツも。

 

「高等部の方が始業は早いんだから、そろそろ出ましょうか」

「ええ。オーギュストを待たせ過ぎましたわね」

 

そして私達はクルマで出発したのだった。

 

 

「お見送りは嬉しけれど。どうして学校に通ってないお姉ちゃんが制服なの?」

「ジャパニーズ・スクール・ユニフォームはオタクなヨーロッパ人には憧れなのですよ」

 

わかる気もするけど。私は声を小さくして聞いた。

 

「でも、お姉ちゃんは元の世界で穂群原に通ってるんだよね?」

「ええ。姉と違い事業があるので出席日数はカツカツですが」

 

だからって昨日のとも違うセーラー服はないと思うんだよ。似合うけど、なにかヘンだ。そもそもこれってどこで手に入れたの?

 

「同じ街ですと怪しいので、隣の市まで出向いてそこの学生服店で求めました。私は本物志向なので」

 

だろうね。これってどこかの学校の本物だよね?

 

「三本平線だとコスプレ感が強いので、三本ジャバラ線を選んだのです。軽快感も欲しかったですし、これからのシーズンを考えて合服にしたのですが、やっぱり浮きますか? シャツにタイやリボンだと似合う自信がありますけど、セーラー服は難しいですね。中等部時代もセーラーでしたが、3年間似合わないなぁとズッと思っていましたから」

「いや、そこまで言わないよ? 今日のも似合うと思う。けど、昨日のチェックのスカートの方が可愛かったな。でも、なんとなく浮くっていうのもわかる」

「留学生が無理して着ている感が強いでしょう?」

 

それだ。お姉ちゃんは私の目から見ても外人さんにしか見えない。年をとるとますますママっぽくなるんだなぁ。

 

「自覚はありますよ。ですが、今の年齢でしか着れないでしょう?」

 

ああ、なるほど。と同時に、私も中等部の制服はあまりしっくりこないんだなってわかってしまった。

 

「コスプレが好きなの?」

 

聞いて驚いた。

確かにコスプレ好きではあるけれど、こうやって周りの人に、あの外人のお姉さんはオタクだなと思わせてもいるんだって。

 

「どうして?」

「おチビちゃんや美遊ちゃんの転身姿を見られても、私に合わせているだけだで済むでしょう?」

 

そんな事を考えてくれていたんだ。

お姉ちゃんは洋裁も得意だそうで、小学部――あっちでは初等部というらしい――から、セーラー戦士の衣装を作り、中等部時代は妹の美遊ちゃんのためにと、あのカードを集めるアニメに出て来た衣装を全部作ったのだという。

今は妹のイリヤ――つまりそこの私の誕生日に向けて、マジカル・ブシドームサシのコスチュームを縫っている最中だったと言うのだ。なにそれ! 私も欲しい!

 

「良いなぁ……。お姉ちゃん。ずっとここにはいられないの?」

「居ても良いですか?」

「うん。いてよ、お願い」

「なら、方法を考えますね。あ、美遊ちゃんが来ましたよ」

 

そうして、仲良く行ってらっしゃいと手を振りながら見送ってくれた。

 

「どうしたの美遊?」

「あの人、戦う時は怖いけど普段は優しいみたいだね」

「うん、優しいんだよ。勉強もわかるまで教えてくれるし」

 

お姉ちゃんは教え方が上手だ。国語でも算数でもとても丁寧でわかりやすい。どうしてそう考えるのか、どうしてそうなるのか、それがとても良くわかる。

 

「美遊が転入してきて反省したんだ。それで今は簡単なお料理も教わってるの」

「そう。それはとても良い事だと思う」

「うん。やっと一緒に学校に行けるから良かったよ」

「黙っているのがつらかった?」

「うん。だって真向かいなのに美遊にも言えないし。私、すっごく悪い子になった気がしたもん」

「だろうね。ルヴィアさんも言ってた。そこは責めちゃダメだって」

「ルヴィアさんって人も良い人なんだね?」

「うん」

 

 

お昼休みの食堂。

ルヴィアと一緒に昼食を頂く仲になったのはここ最近なのだが。私が食堂派なので、ランチ持参派のルヴィアが付き合ってくれているのだ。

しかしこの状況も、色々思い付いた事を即座に相談できるのでありがたい。怪我の功名なのかな?

 

とは言え、今日のルヴィアは食券を買っていた。

彼女は一見当たりがキツそうだが、自らの従僕には優しかった。メイドや庭師、厨房のコック……etc、etc。

彼女の家では大勢の人が働いているが、月に八~十日は、必ず休みがあるそうだ。これが欧州人であり、北欧人なのだった。そして今日は専属のコックが休みの日だった。

 

「もう少しマシな料理はありませんの?」

「学食だからね。この値段でこれは頑張ってる方よ」

「原価率と人件費、それはわかりますのよ。スオミでの学校給食よりはマシですもの」

 

だろうな。EUに入るまでのフィンランドは寒過ぎて、食材も儘ならない国だったと聞いている。

ベリーとキノコだけは簡単に手に入るが、野菜がとにかく手に入らない。毎日、魚とパンだったとルヴィアが話していた。

 

「アンタ、箸の使い方に慣れてるわね?」

「ヘルシンキには、スシ・バーもラーメンハウスもありますのよ?」

 

なるほど。しかしアジフライを美味しそうに食べるなぁ。

けど、掛けるのは醤油やソースでなくマヨネーズなんだ?

それも持参したマヨネーズだ。何かこだわりのブランドがあるのかも知れない。それでもってお漬物にまで掛けている。思ったよりマヨラーなのかしら?

でも学食のお漬物って、業務スーパーの冷蔵庫でキロ単位で並んでいそうな、安っぽい千切りたくあんにごまを和えたものだから味が薄いのよね。

 

そこへ男子の声が耳に届いた。

 

「あの二人、仲良いよなぁ」

「衛宮もそう思う? いつも一緒だもんな」

「ああ。見ていて気持ち良いよ。言い争いしても直ぐにああだろ? 親友なんだろうな」

 

何ですと? 私とルヴィアが親友? どういう事よ衛宮君?

私とミス・トオサカが親友? どういう事ですの? それよりもなぜシェロが食堂へ?

 

「珍しいわね。彼が食堂なんて」

「ですわね。いつもはランチを持参して生徒会室に向かいますのに」

 

衛宮君は目立つ子では無いが、友人は多い。それは彼の人当たりの良さと、暖かな人柄に拠るのだろう。

けれど彼自身は、親友である生徒会長の柳洞君以外とは食事をともにしない人だった。それは柳洞君が衛宮君との距離感をわかっているからだ。そう、意外と彼は人見知りするタイプだった。

だからこの光景はとても珍しかった。最悪ルヴィアと助けに入ろうかと考えていたら、杞憂だった。思った以上に仲が良い。C組の事なんて知らないから、もしかしたら部活の仲間かも知れない。

 

「足りるのか? うどん一杯で?」

「正直厳しいな……」

「いつも弁当を作ってくれる家政婦さんはどうしたんだ?」

「いや……妹のさ、従姉妹が日本に来ていて。その人に料理勝負で負けてしまってさ。落ち込んでるんだよ」

「おいおい。あの美人の家政婦さんだろ? 料理が上手だって自慢してたじゃないか」

「ああ。中等部時代までは遠い存在だったさ。ここんとこは俺も腕を上げて、お互い良い勝負だと思ってたんだ。ところがなぁ」

「なるほど。そこへ圧倒的な第三者が現れたと?」

 

ふん。西欧料理はともかく中華なら負けないわよ。

 

「そう。それで本日は弁当なしのお小遣いなしだ。部活まで持つのか自信がないよ」

「素うどんだけって悲惨だな。ご飯少し食うか? 俺、大盛りだし」

「ああ、ありがとう」

「衛宮、梅干しやるよ。婆ちゃんが漬けたんだ。美味いぞ?」

「悪い、正直助かる」

「で、何の料理で負けたんだ?」

「全部」

「全部~!?」

「ああ、本格的なドイツ料理も上手ければ、和食も上手いんだ。煮物・焼き物・酢の物・和え物、何でもござれだぞ?」

「何でもか?」

「うん、本当に何でもだ。薄焼き卵のオムライス、オムレツ・タイプのオムライス、トロトロのオムライス……オムライスだけで百種類は作れるって話してたぞ?」

「はぁ?」

「いや、本当だって。実際に妹や俺達に作ってくれてさ。それが家族一人一人全部違うんだ。あれは驚いたよ。あの腕なら洋食全般、万遍無く上手だと思うぞ? けど、俺としては和食だなぁ。特に煮物は勉強になった。春キャベツと油揚げの煮物とか。キャベツって甘いんだなって再確認したよ。しかもその時のダシは煮干しだぞ? 昆布や鰹節も良いけど、野菜中心の煮物だと煮干しも合うんだな? それと昨夜出た旬のメバルの煮付け。それを付きっ切りで教えて貰ったんだけど、あれは見事だった……。やっぱり『さしすせそ』の順番と品質は大切だ。その前に出たカツオのカルパッチョも凄かったぞ。ハーブが効いていて、タタキよりウケてたもんな。やっぱりドイツの人にはそういう工夫がいるんだな。本当、勉強になるよ。あの人が来てからウチでは一気に魚料理が増えたよ」

「シチューとかの煮物じゃなくて煮付け? なんか凄ぇな」

「凄いんだよ。それなのに一番の得意料理は中華料理だって言うんだ。その昔、香港の名店で長年料理長をしていた人から、直接教わったそうだ。俺も何度かアドヴァイスを貰ってさ。中華はかなりスキルアップしたよ。まだまだ遠いけどな」

「言っても素人だろ?」

「それがさ。ドイツの家には中華の業務用コンロがあって、40センチ以上の鍋を振るうんだとさ」

「そりゃまた……本格的だな?」

「ああ。料理研究家になるのが夢だって話してた。家は家政婦さんも妹も、元がドイツの人だろう? だから四川料理や、貴州料理みたいな山間部の辛い料理に馴染みが無いんだ。それで俺なりに麻辣味を抑えるように代替品をあれこれ使ってるんだけど、その考え方ってのかな? それが上手いんだよ。麻婆豆腐は凄かったぞ? 妹も美味しいって言うし、俺も食べてこれは違うな、こう考えるから女性にも受けるのかってショックだったんだ。とにかく何でも上手いよ」

 

何ですと!? そこまで本格的に……?

 

「和食も料亭で板長をしていた、割烹料理の店長に教わったそうでな。今、家にはあの人が持ち込んだ和包丁と砥石があるよ。こないだも刺身包丁?」

「柳刃か?」

「そう、それだ。それでキュウリをササッと飾り切りしていてさ。ああいうのを覚えると親父が喜ぶかなぁって」

「ドイツの人が飾り切り……?」

「刺し身、駄目なんだっけ?」

「それはお袋。と、言っても進んで生魚を食べないだけで、寿司とかは結構平気なんだよ。だから和食はだいたい大丈夫だな。イリヤは日本育ちだから何でも食べるけどな。小さい頃はピーマンや骨の多い魚が苦手だったけど、今は大丈夫だ」

「こいつ、ピーマンが苦手なイリヤちゃんのためにって、チンジャオロースーを覚えたんだよ。それが中華にハマった切っ掛けなんだよな?」

「お前はホント、シスコンだな?」

「言うなって、自覚あるんだから。けど、両親が海外で共働きだろう? 年に数回しか帰って来ないからさ」

「そりゃ、寂しいだろうな。兄貴としては心配にもなるか。じゃ、従姉妹の人は良い刺激なんだ?」

「ああ。学校から帰ればお姉ちゃん、お姉ちゃんとべったりだよ。ずっと居てくれると嬉しいんだけど。俺ももっと料理を教わりたいし。何より自転車や弓道に意外と詳しいのが驚きだ」

「へぇ~。自転車はわからなくもないけど、弓道は珍しいな?」

「なぁ? どうして自転車だとわからなくもないってなるんだ?」

「ヨーロッパじゃ自転車は文化なんだよ。レースも盛んだし。乗ってる人が多いんだよ」

「ああ、なるほど。ツールなんとかってあるもんな?」

「ツール・ド・フランス。ドイツの隣のフランスのレースだ」

「あ、そっか」

「ま、そんなで詳しいんだよ。それで俺のクロスの乗り方や変速機を見てくれて。今朝の変速機はカラカラ言わないで完璧だし、あの学園坂を今までより重いギアで登れたんだ。サドルの高さが合っていなかったとは、全然思わなかったよ」

「高かったのか?」

「いや、低いんだと」

「え? 衛宮のって高いじゃん?」

「それがさ、まだ低かったみたいで。陸上のクラウチングスタートってあるじゃないか。あれで地面を蹴る部分、そこがペダルの位置にならないとチカラを無駄にするんだってさ」

「言われてみればなるほどだな。ママチャリは買い物用で足付き性優先だろ? それってレースとかのスポーツ用の考え方なんだろうな」

「ああ、そんな事を言ってたよ」

「うわ、それを知ってて変速機を弄れる女の子か。カッコいいな」

「だろ?」

「で、弓道に詳しいってのは?」

「うん。自慢とかは無いけど、たぶん洋弓が得意なんだと思うぞ。コンパウンドボウを持ってるとチラッと言ってたから」

「コンパウンド?」

「ランボーのあれだ」

「それもカッコいいな?」

「美人か?」

「お前らな……。確かに美人だけどな。けど、さすがは従姉妹だ。お袋や妹にそっくりだよ。だから俺としても姉のような感覚があるなぁ」

「となると、チャンスあり?」

「辞めてくれって。妹の勉強を見てくれたり、家の掃除を手伝ってくれたり。とても良い人なんだから」

 

どんだけだ……。

けど、弓が上手いというのは本当の事だろう。あんな宝具みたいな矢を射るんだから……。

私はあちらの話題に耳を傾けるのを辞めた。

 

「もう兆候の段階は越えてるわよね?」

「ええ。今日には出現して明日一杯まで現界するでしょう」

「電話を入れたんでしょう? なんて?」

「明日だそうですわ。今日は予備調査だとか」

「予備調査?」

「驚きなさい、ミス・トオサカ。ルビーを握り羽根側だけを鏡面界に押し込めば、内部の映像が頭に浮かぶのだそうです」

「は?」

「そうやってキャスターを調べ、ミユみたいに魔力の足場を作り、魔方陣の上から入ったそうですわ」

「あ……」

「バカにされて当然ですわね。まして私みたいに黒化英霊と勘違いして横から襲えば」

「あ~あ……」

 

そう。あの時私は待ちなさいと言ったのだ。なのにコイツは……。

確かに黒化英霊っぽかったけど、彼女とイリヤの二人がソックリだと気付いた時は遅かった。美遊が槍で突っ込んだ後だったのだ。だから殴られたのだと思う。

そりゃ私でも怒るわ。罷り間違えば殺されていたんだもの。だけどアレを避けるとは……。避けてくれて助かったとも言えるけど。

 

「そしてキャスターのカードには多少の知性があったようで、同時に顕界していたセイバーのカードを切り札として制御していたそうですわ。連戦だったそうですわよ」

 

それに勝ったのか。改めて彼女は凄いと思う。それに今の話だと料理まで……。

 

「で、彼女の魔術は何か見当は付いた?」

「私と同じ地属性なのは間違いありませんが、火との二重属性のような気も致しますわね」

「私も同じ見解。そしてあの礼装の数々。時計塔で学んだ常識を棄てて考えたんだけど」

「笑いませんわ。投影でしょう?」

 

そうだ……あれは数分持てば良い方の投影魔術にしか思えないのだ。

世界に存在を割り込ますには膨大な魔力が必要となる。それだけの魔力を用意しても数分が限度なのだ。まさに魔力の無駄遣い。

それが戦闘にも耐えられる、いや宝具にも匹敵する程の存在感を得ているところが、こちらの目を曇らせている。

 

「さすがね。常識外れ過ぎて信じられないけど」

「しかし、神秘とはそういうものですわ。私はまだその先があると思いますわよ」

「私もそう思う」

 

お互い口には出さないが、精神世界とリンクした何らかの結界からの零れモノ……。

何故、こう考えたかと言うと、単なる投影だと本当にあり得ないからだ。もしそうなら常識を覆す化け物だ。

 

「空間転移を行う相手よ。私はアリだと思うわ」

「ハァ……。状況から判断すればそうなりますわね?」

 

もう敵対する意思は無いけれど、探究心は棄てられない。ルヴィアも私もそこは優等生だ。と、そう考えてから思った。

 

「彼女、魔術協会に入っていないのかしら?」

 

これも前から考えていた。

所属している組織が時計塔とは別だから、時計塔の陰謀というか動きが客観的にわかったのかとも捉えられるからだ。

 

「そうですわね。プラハかトゥーレかシュポンハイムか……。それはわかりませんが、ミス・トオサカ? あれ程の人物の噂を私達が耳にしないなんて事があり得ますの?」

 

そこだ。封印指定を喰らっても驚かない程の異様な魔術を使うのだ。

確かにアインツベルンなんて名は今まで聞いた事もない。知っても、長い歴史の中ではそんな家もあるだろうと、次に思考を切り替えるのが今までの私だったけれど。

 

「隠者、いや賢者の末裔?」

「それも極めに極めた家だったのかと思えますわね。魔術協会には入っていなかったのかも。それに、オーギュストの報告にも第三魔法に届いていたとありますし」

 

正確には再現だったのだが、再現という限りは届いていた時期があったと解釈するのは自然だ。

今後、時計塔とどうなるのか。一抹の不安がよぎる。

 

「なるようにしかなりませんわよ。私どもがここで焦っても結果は変わりませんわ」

「開き直り?」

「いいえ。幼い頃からの経験則ですわ。とは言え、諦めている訳ではありませんのよ? 私は近いうちに家督を継ぐでしょう。それでも時計塔の理事には早い。そういう事ですわよ」

「なるほど。人には段階があるわよね」

 

時計塔の理事か。父はエーデルフェルトの事を知らなかったのだろうか?

 

「あなたの唇は美味しいんですの?」

 

は? 違う、無意識に噛んでいたのか。

 

『実は妹もこの学園に居るのよ』

 

言えない。あの子が中等部の1年に入学してきたから――同じ学校だったから――――。

私は高校進学を棄て、魔術の勉強を言い訳にして倫敦へ逃げたのだ。だから中等部の2年から3年の間は辛かった。廊下ですれ違う度になんとも言えない気分になった。

 

「衛宮~、頼むから、その従姉妹を紹介してくれよ?」

「何を言ってんるんだ。絶対に釣り合わないぞ?」

「何でだよ?」

「貴族の末裔だってさ。見て少し話せば一発で分る。物腰は柔らかいし気品があって、とても頭が良い人なんだ。世の中の、何ていうんだろう? 情勢とか仕組みとか、そういうのにやたら詳しいんだ。そう、大人なんだよ。話していて、こっちが物知らずの馬鹿だと思うばかりだぞ?」

「そんなにか?」

「なんとか引き止めろよ~」

「年齢は? 高校生?」

「お前ら、一度に聞くなよ。高校生だよ」

「なら、こっちに編入して貰えよ」

「俺もそうなったら嬉しいなと思ってる。ただ年齢的に3年なんだよな」

「ああ……一コ上かぁ。それで姉感覚なのか?」

「そうだ」

「確か学園は3年からの編入って無理だったよな?」

「たぶんな。留学生ならイケたかもしれないけど、詳しい事は会長の柳洞辺りに聞かないとわからないな」

「残念だなぁ」

「まったくだ」

 

盛り上がるなぁ、男子は。実物を見たら腰が抜けるわよ?

 

「由々しき問題ですわね。気品では負けない自信がありますのに」

「由々しきって……普段使わない難しい日本語を知ってるわね。言ってみれば才色兼備な人でしょう? 衛宮君にしても憧れているだけでしょうよ」

「まぁ、そうでしょうね。しかし本当にイリヤスフィールの従姉妹だったとは」

「アインツベルンか。とんでもないわね」

「ですわね。それとシェロの女性への好みが見えて来ましたわ」

「そうね。家庭的な人が好みみたいね。で、裏返せばあなた並みのお嬢様なのに庶民的な部分もあると。掃除や洗濯もそうだけど、和食を作れんの、アンタは?」

「必要とあらば覚えますわよ」

「言っとくけど、何千年も前から貝塚とかあった国よ? そこらの本屋で和食の本を買えばわかると思うけど、結構奥が深いから」

「でしょうね。この国の良さは世界の最先端を行くテクノロジーと、歴史と伝統が混在するところですわ。問題はミソとショーユの味に慣れないところですわね」

「そんだけ学食の定食を食べておいて」

 

アジフライも付け合せの野菜や味噌汁も、もう無いじゃない。残りのご飯はどうするの?

確かにヨーロッパ人に三角食べは難しいと思うけど……。って、ふりかけかよ! マヨネーズみたいに持参してるの?!

なんとルヴィアは、テーブルの上に5~6パックもふりかけを並べたのだ。それも定番とは程遠い……BBQソース味やテリヤキソース味って何だ?

 

「こんなの売ってるんだ?」

「あら、知りませんの?」

「知らない。普通の日本人は買わないと思う」

「そうですの? オーギュストが買って来てくれたのですが、結構気に入ってますのよ。ヨーロッパにはありませんから」

 

だろうね。ヨーロッパにふりかけは無いと私も思う。見た覚えも無いし。

 

「ライスを食べようと思えば意外と便利ですわよ?」

「まぁ、そう思うわ。私も家にの○たまと味○楽にゆ○りは常備しているし。そういうふりかけ以外にも、海苔の佃煮やなめたけとか、ご飯のおともってたくさんあるからねぇ。日本の料理だと他に何が好きなの?」

「そうですわね。カレーとラーメンは結構気に入りましたわ。それとセブンの水ようかん」

 

カレーはイギリスから入った、インド料理のアレンジ版だ。ラーメンは中華のアレンジだし。

 

「水ようかん? それはデザートよ。けど、意外と好みが安っぽい?」

「私もそう多くの経験がある訳ではありませんが、カレーとラーメンはここ日本に於いては、金銭との等価交換が黄金比の如く美しく感じられる食べ物だと思いますわよ? それに甘さを控えた水ようかんは、欧州では絶対に手に入らぬ神秘ですわ」

 

黄金比の如くって……。コイツも面白い奴だ。

 

「そこまで言うか。けど、そういう観点ね。言えてるかも。ヨーロッパの人は日本のカレーとラーメンが好きだもんね?」

「わかりやすい味ですし。バルト海を渡ればカレー味はどこにでもありますわ。それでも日本のカレーには敵いませんわね」

「作ってあげようか?」

「おぉ! ミス・トオサカ。是非にもお願い致します。自分で作ろうにも何を買えば良いのかサッパリで……」

「アンタ……料理人が居るのに、売り場で悩むって。それは市販のルーって事よね?」

「ええ、初心者ですし」

「わかったわ。辛めとか甘めとか教えてくれれば、オーソドックスなのを作ってあげる」

「お願いしますわ」

「しっかし、パクパク食べるわね? そんなにお米が気に入ったの?」

「スシと違って割り合い舌に合いましたわね。素朴なパンも好きですが、ご飯も美味しく思えますわ」

「それはありがとう。日本人として嬉しいわ。お寿司は苦手?」

「魚は食べ慣れていますけれど、生に対しては卵同様懐疑的にならざるを得ませんわね。それでも以前よりは抵抗感が減りました。ですが甘いビネガー味より、ライスそのままの甘さの方が私には好みです」

「へぇ~。リゾットやパエリアみたいな味付けでなくとも平気なのね?」

「先程も言いましたが、素朴な味の方が好みなのですわ。それにパンとライス、どちらが健康的とは申せませんが、アメリカナイズされたハンバーガーやホットドッグを買うより、ここ日本でならご飯は優れた食べ物です」

「うん、お腹に優しいしね。ああいう濃い味付けが苦手なんだ?」

「そうですわね。それと私は意外と素食ですわよ? 取り引き相手との食事はそれなりですが」

「そうね。そちらの国にある鮭のミルクスープや、焼いたロールキャベツはシンプルな味で美味しいわよね。シナモンロールも結構好きだわ」

「ロヒケイットにカーリカリュレートですわね。魚のスープは欧州各地で食べられていますから。普段はそういうスープかシチューに、簡素なパンだけですのよ」

「スープは飲み物でなく食べ物。これも倫敦で学んだ事だわ」

「気候風土の違いで手に入る食材は異なります。伝統と歴史を軽んじて優劣を語るのは愚の骨頂ですわ」

「大いに賛成」

「とは言え……シェロの手料理は食べてみたいものですわね」

「落ち着いたら、エルヴァを通して頼んでみましょうよ。案外、彼は乗りそうな気がするわ」

「そうですわね。そういうのも楽しい時間でしょうね」

 

 

今日はエルに誘われ買い物のエスコートです。懐かしい街並み、思い出深い建物。

ヴェルデなる建物の中で、店に入ったと思えば紙袋を下げて出て来るエル。それを異なる店で何度も繰り返しています。そんな忙しないエルを横目にアイスクリームを片手にベンチで待っている私ですが、本当に懐かしい。

あの窓際の店でシロウに獅子のぬいぐるみを買って貰ったのでした。そうするとエルが紙袋を私の横に。

ベンチに次々と積み上がる紙袋。一体どれだけ買うのでしょう?

 

「なぜこんなに?」

「私のもありますが、あなたの服や靴もあるからですよ」

 

ああ、こういうところが女の子なのか。記憶の中のリンを思い出します。シロウの足りない分を、いつも補ってくれていた若きメイガス。

彼女が居るから、私は安心して旅立てたのでした。こちらの世界にも彼女が居ますが、何か印象が異なって感じますね。それが世界の違いなのでしょう。

それからしばらく経って、ようやく買い物が終わったと思えば、お店の人に声を掛け台車なるものを借りてきました。それで1階まで降り、受付で何かを話し、紙に記入し、荷物を預けています。

 

「あれは持って帰らなくて良いのですか?」

「宅配便に頼みました。明日の午前中には届くでしょう」

 

ああ、なるほど。そういう業者に依頼したのですか。シロウの時代とは変わりましたね。

 

「あなたの記憶にある第五次が2002年か2004年かはわかりませんが、ここも2004年ですよ?」

 

なんとほぼ同年だったとは。そう言えばイリヤの兄はシロウと同い歳でしたね。そもそもリンも居ました。カード騒動が無ければ、ここでもあったのでしょうか……。

 

「毎晩毎晩、霊体化させてしまって申し訳ないですね。そろそろガッツリご飯を食べましょうか?」

「おお!」

 

朝と夜は渡されたお金で牛丼特盛や大盛りラーメンばかりですし、朝食は抜きが多いので、この申し出は正直ありがたいです。

いや、何も食べられなかった第四次を思い返せば、とても贅沢なのですが。そこで案内されたお店はステーキハウスなるお店でした。

 

「予約していたアインツベルンです。チャレンジャーはこちらの子です」

 

そうしましたら奥のテーブルに案内されました。エルはその横のテーブルに座り、何かを注文しています。

 

「エル、同じテーブルで良いのではありませんか?」

「あなたの料理だけでテーブルが一杯になりますから」

 

なんと。そして彼女はおもむろに小さな時計をテーブルの上に置き、私の料理がテーブルいっぱいに来たらこう宣言したのです。

 

「30分以内に食べれば無料。かつ、三千円のお食事券が付きます。Go Fight!」

 

何ですかそれと思いつつも、このハンバーグなるものが肉汁たっぷりで美味な上に、ソースの小皿も四種類くらいあって一口ごとに違う味を楽しめます。

気付けばご飯をお代わりしていました。

 

「何だあのちっこい外人の姉ちゃんは! 3合あるご飯をお代わりだと?」

「あのハンバーグの五重塔は3kgあるんだぜ?」

「付け合せの野菜にサラダとスープも食べ切らないと完食にならないのに。信じらんねぇな」

 

外野が煩いですね。しかし料理人は良い腕です。二段目と四段目には、トロリとしたチーズが入っていました。

シロウのハンバーグも美味しかったが、これはこれで良い。やはり現代の食事は手が込んでいる上に美味です。残すところハンバーグ一つとなった時点で私はご飯のお代わりを所望しました。

 

「また3合食うのか? どんなフードファイターだよ」

「あれは後で吐くなぁ」

 

失礼な。それは作ってくれた人と食材への侮辱だ。断じて無いと言明しておこう。かちゃりとナイフとフォークを置けば22分でした。

 

「うわ! 食べ切ったぞ!」

「しかも、腹が膨らんでない?」

「どこに行ったんだよ?」

 

「次はデザートのお店に行きましょうか? それともまだ何か食べます?」

「そうですね。サッパリとした大盛りのうどんか蕎麦を頂きたいですね。その後にパフェでも」

「5キロのパフェとか行けそうですか?」

 

「可怪しいだろ、それ!」

「どんだけ食うんだ?」

「黒船襲来だ。俺達、新しいファイターの誕生を見ているのかも……」

「ああ……」

 

「煩い店ですね。私の知り合いの人は、1日で12店のチャレンジメニューをハシゴして全部完食しましたよ」

 

12……12……12……。何かが引っ掛かります。

 

「な!? まさか?」

「そのまさかです。2番目の姉の従者ですが、アメリカではネイサンズのホットドッグを10分間で200本食べていました。これはコンテストでなく、お店で食べたので非公式ですが」

「やはり彼は偉大だ……」

「ですね。水に浸けたりせず、ポテチを食べるみたいに5~6本ごと口に放り込んでいましたよ。あのペースはまさに神話の再現でした。では、お会計を済ませましょう」

 

ヘラクレス。彼が居残っているとは。

聞けば狂化が解けており、至って紳士なのだそうです。一度、語り合いたかった。きっと私の何倍も早く多く食べるのだろう。彼にだけは敗北を認めても良い。

そうしてお店が用意した厚紙にサインを書き、写真を撮った後にその場を去ったのでした。しかしサーヴァントが写るのは初めて知りました。

エルはこの写真で何度かサーヴァントを追い込んでいるのだとか。何がどうして追い込まれるのか謎ですが。

 

「はい、これ」

「これは?」

「次回からこのお店で使える、三千円分のお食事券です。ただ、これでチャレンジはできませんよ」

「まぁ、そうでしょうね」

 

そう、これはお店のサービスなのです。無料でそう何度も食べられるはずが無い。そして2回目のチャレンジは断られるとも聞きました。それは当然でしょう。

しかしこういうお店は、探せばこの冬木にも幾つかあるのでしょうか。1日で12の試練は無理だが、また挑戦するのも楽しいでしょうね。

 

 

午後からは約束してあった場所でルビーと合流した。次の鏡面界を調べるためだ。

 

「どうでした? おチビちゃんと美遊ちゃんは?」

『喜んでいましたよ。登校の時は手を繋いでいましたね』

「良い事です。あなただけで来させた事に何か言ってました?」

『いえ。エルヴァさんをちゃんと手伝えとだけ』

 

話しながらテクテク歩けば、やがて森の前まで来た。

 

「アインツベルンの森ですか?」

「場所は近いですが、私のところではここは敷地外でしたね」

『エルヴァさん?』

「何ですか?」

『イリヤさんですけど、日に日に魔力の量が増えて』

「ああ、なるほど。どこかで発散させないと溢れそうだと?」

『そうです』

「考えておきます。さ、索敵ですよ」

『はい。おや? 樹々があるだけで視認できませんね』

「残ったカードから考えればアサシンですね」

「あの武士ですか?」

「いえ。ハサンの誰かでしょう。本儀はハサンしか喚べないはずですから。佐々木さんはキャスターの召喚でしょう?」

「そうでしたね。エル、気配は?」

「隠していても個人差はありますね。十人以上感じたので、まず間違いなく百貌のハサンですね」

「それは第四次の?」

「そうです。初代から19代続いた教団の第19代教主です。つまりは歴史上最後の教主なのですね。それで実はあちらでも何人か使っていましてね。ここでも喚べるなら喚びたいですよ」

「それは何故です?」

「超一流のスパイ活動ができるからです。専科百般も潜入工作向けですし、蔵知の司書で斜め読みした本や書類の内容も憶えていたりします。それに携帯電話にパソコン、バイクにクルマ。銃器に火薬や格闘技。教えれば何でも覚える、32種類もあるスキルは驚愕に値しますね」

「それは?」

「ざっと戦術、学術、隠密術、暗殺術、詐術、話術……その他諸々です」

「何故そんなに?」

「自分が無いからですよ。多重人格の英霊なので、誰が本当の自分なのかわからなくなっているのです。故に特技と組み合わせた二つ名で呼び合っています。確か……基底、怪腕、迅速、奸計、集積、縫合、鳶陰、音無、収貨、舌鋒、巻風、速尾、詐称、静寂、裁断、祈願、油針、祭煙、剣鬼、夜陰、地学、変梃、追補、遠見、業火、霹靂、蛇香、幾学、妖美、露塗、医食、貫指、馬攻、射陰、臨写、戒飭、風弓、説諭、汚泥、混成、筒闇、割譲、衣紋、星辰、美食、輪技、薬師、悪徳、月光、虫飼、解錠、忘却、無彩、計則、毒見、耕材、鉄縄、仮死、考古、摂理、抜骨、拝礼、軽脚、二忍、日輪、査定、衛生、千里、木偶、残響、伝歌、長刃、潜行、造形、継承、粧粉、奇芸、隣人、船舶、滅記、削離、草淋、研磨、診心、狭域、黄反、雨呑、白亜とか。これ以上は憶えていません。私自身は八十一人しか確認していませんが、彼等は八十八人だとか百人キッチリ居るとか、人数の認識もまちまちなのですよ。本当に訳がわからない状態らしいです」

「なるほど、それは気の毒だ」

「そうなのです。基底、怪腕、迅速、薬師、虫飼の五人は私も重宝しています。プロフェッショナルらしい良い人が多いのですが」

「アサシンが良い人ですか?」

「行為に対する善悪でなく、その行為にいかに真摯で真面目であるかを問えば。それに何百年も前の罪を問うても意味はありません。現代で罪を犯せば、その罪はマスターである私が責を負うべきでしょう。任用するのは私なのですから」

「あなたは善きマスターですね。覚悟がある」

 

そうなのだ。彼女自身は我々を道具とは見做していないのだろう。

しかし、例え知識が授けられても、現代に不慣れな我々だと要らぬミスを侵す場合がある。その場合は道具の不始末は自分にあると言い切ったのだ。

そういった事を全部受け止める覚悟をひしひしと感じる。思った以上に好ましい人物だ。

 

「それは当然です。それと彼等は、誰が本当の自分なのかを知るために聖杯戦争に参加したのだそうです」

「それが願いだったのですか?」

「そうです。結構まともでしょう? 時代の下った最後の教主なので、考え方も殺し屋のそれでなく、情報屋のそれです。依頼者のメリットとなるように動く賢さもありますし」

「随分と評価が高いが、それだけ彼らの能力が現代に即しているからですね?」

「そういう事です。ここに残るのなら、いずれ起業するにせよ当面の仕事が必要です。即お金になるのは情報ですよ」

「確かに……」

 

セイバーが少し昏い顔をする。この人は快活な反面、生真面目さが裏目に出て、些細な事で思い詰める時がある。

 

「セイバー、それも適材適所ですよ。強力な敵と一騎打ちで戦うならあなたでしょう。それは信じて疑いません。とは言え、その舞台を整えるためには彼らのようなチカラも必要なのですよ」

「ええ。それはわかるが、あなたの魔力は一体どうなっているのです?」

 

気を取り直した後は、こうやって直ぐにマスターの心配をする。本当に良い人だ。

 

『先日の夜にお話した通り、エルヴァさんは霊脈と繋がっているんですよ』

「そうでしたね」

「それに耐えられる魔術回路と、タンクとなる能力も必要です。とは言え、幾らでも抜け穴はありますよ」

「失礼だが、人を襲わせるとかでなく?」

「そう、そういう阿漕な事をせずにです。緊急時でなく平時であれば方法は幾つもあるものですよ」

「なるほど」

「それとルビー?」

『はいはい。何でしょう?』

「おチビちゃんの障壁です。耐毒性能も持たせなさい」

『ああ、そういう武器を?』

「ナイフの刃に塗っているのですよ。毒や麻薬を。何か可愛らしく全身を防護するデザインを考えなさい」

『わかりました』

 

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